(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

37 / 70
結婚

「で、いつ結婚?」

「次の連載決まったら?」

 

 シュージンは遠くを見ながら口にした。

 あ、そこは逃げ腰なんだ。

 

「いや、さっさとした方がいいんじゃ」

「俺まだ18じゃん」

「するって決めたのなら、早い方がいいって。連載決まったら忙しくなるし」

「そうなんだよなー。でも、急に結婚ってのもな」

「俺だったら夢が叶ったらすぐにしたい。いつになるのか分からないけど」

「サイコー……」

 

 18までにアニメ化。

 最初に決めた目標は、守れなかった。

 亜豆は『30歳までにしたい』とか言ってくれたけど、早い方がいいはず。

 亜豆との子供なら、ラグビーチームが作れるくらいに欲しいし。

 

 ──ごめん、適当に言った。ラグビーって何人だっけ。

 

「あと真面目な話、連載抱えてる状態で家選んだり、家具とか家電とか選んだりとかできるって言うなら反対しないけど……きつくね?」

「う……」

「見吉は優しいから『仕事優先しなさい』って言ってくれるだろうけど、本当は一緒にそういうことしたいと思うよ」

「うう……」

「シュージンもこだわりがないようで、意外と好き嫌い多いし。見吉のセンスで仕上がった生活空間で暮らすってたぶんきついよ。見吉ってたまに変なとこあるじゃん」

「確かに……」

 

 そのちょっとズレてるところもカワイイって思ってしまうあたり、僕もかなり見吉が好きだと思う。

 ただ、一緒に暮らすとしんどそうだ。だから、シュージンに託す。

 

「天蓋付きのベッドで毎日寝起きするシュージンとか笑えるからいいけど」

「いや、笑えねえよ」

「見吉に任せたら、たぶんそうなるんじゃね? 見吉は見吉で、夢見がちというか、結構乙女なところあるし」

「……言われてみれば」

「二人とも結婚する気なのに、先延ばしする必要ないって」

「俺、結婚するわ」

「しとけしとけ」

 

 シュージンが覚悟を決めたら、超特急で話は進んだ。

 と言っても、昨日の今日で結婚ってほどじゃない。

 

 赤マルの読切と並行して、親への挨拶を済ませたりと外堀を埋めていった。

 熊は、おじさんの無念さを知っているから反対しなかった。

 シュージンの方は、放任されているので問題はなかった。

 

 あとは、きっかけとして赤マルで3位以内に入れば、結婚ということで決まった。

 1位を取ることが期待されている巻頭カラーだ。

 3位以内は、取って当然とまではいわないけど、取れないとまずい。

 タイミングを計るための条件みたいなもので、実質あってないようなものだ。

 

 絶対に、結婚できるように原稿を頑張ろう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「真城さん、ギラついてません?」

「シュージンと見吉の結婚が決まったから」

「それで手を出してないんですか? 結婚しようが関係ないじゃないですか」

「いや、そういうわけには……さすがに」

 

 僕も鬼畜には成りきれなかったらしい。

 あれから見吉とバクマンするチャンスはあったけど、手は出さなかった。

 

 おかげで、ギンギンだ。いや、ビンビンだ。

 スケジュールには余裕があったのに、思わず加藤さんを日雇いアシで読んだくらいにムラムラしていた。

 

 ネームを仕上げたシュージンは、見吉と結婚準備中で不在だ。

 冗談で言った天蓋付きベッドを買う買わないで揉めたらしい。

 見吉、恐るべし。

 

「加藤さん。めちゃくちゃ上手くなってませんか?」

「中井さんからずっと教わってますので」

 

 マンガの話だから、変な想像はしないように。

 

 上手くあしらいつつも、中井さんから教わりまくっているらしい。

 仕上げ技術が格段と上がっている。これなら、背景を任せてもいいかも。

 今回は、自分で背景を描くつもりだけど、次手伝ってもらうことがあれば、加藤さんも主力になりそうだ。

 

 小河さん、中井さんと凄腕の下で続けて鍛え上げられたら、ここまで伸びるのか。

 

「見吉さんに振られてかわいそうな真城さんは、私が相手してあげますよ」

「ふ、振られてないし」

「でも、見吉さんは高木さんを選んだんですよね」

「さ、最初から、見吉はシュージンの彼女だから」

「でも、好きだったんですよね」

「……うるさい」

「真城さん、かわいい」

「うるさい」

 

 二人の関係を応援していたはずなのに、思ったよりもショックを受けている自分がいる。

 見吉が結婚するから手を出さなかったって言ったけど、半分は嘘だ。

 見吉に手を出すと、見吉がシュージンのものだって強く実感するのが怖かった。

 たぶん泣いてしまったと思う。

 そんな姿は見吉には、見せられないし、シュージンに任せる決心が鈍りかねない。

 

「はい、終わりました」

「お疲れ様です。ありがとうございます」

 

 話しながらも、原稿は順調に進んだ。

 このペースなら余裕で締切に間に合う。あとは、どこまでクオリティーアップできるのかどうかだ。

 蒼樹さんも今頃、頑張っているんだろうか。

 

「かわいそうな真城さんは、いっぱい甘やかせてあげますね」

「……お世話になります」

 

 少しイラっとしたけど、素直に甘えよう。

 加藤さんは、女神だ。

 

「加藤さん」

「真城さん」

 

「「バクマン(バクマン)!!!!」」

 

 この時の僕は知らなかった。

 中井さん(おっさん)の相手に疲れて、むしろ加藤さん側が年下の僕を利用して癒されていたことを。

 

 女神だと思って損した。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 7月中旬

 

「あちい……夏は、厳しい……」

 

 順調に原稿を仕上げて、締切を守って港浦さんに提出した。

 これで結果待ちだけど、赤マルの場合は締切から結果が出るまでが長いので、動物園通いを再開した。

 

 けど、暑くてやっていられない。

 ずっと冷房の効いた仕事場にいたのもあって、苦しさ倍増だ。

 

「……もうすぐ夏休みだし、無理か」

 

 野外展示は諦めて、室内展示の動物を選ぶ。

 外に比べたら、まだ何とかなりそうだった。

 

 ただ問題があった。

 室内展示は、野外ほど客のスペースが用意されていない。

 平日だから邪魔になっていないけど、これが週末とか夏休みに入ったら、動物園に迷惑になってしまう。

 小中学生が夏休みに入るのっていつだっけ。

 

 それまでにできるだけ、室内展示の動物を終わらせていこう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「見つけました……こんにちは」

「蒼樹さん、こんにちは」

「赤マルの締切が昨日でしたので、今日は真城さんに会えるって思ってました」

 

 久しぶりの蒼樹さんだった。

 今日は会えると思ってたとかカワイイことを言ってくれる。

 そしてやっぱり、声がカワイイ*1

 最後に会ったのは、赤マルで忙しくなる前なので、1ヵ月ぶりくらいか。

 互いに頑張りましょうって励ましあって、しばらく動物園には行かないことを伝えて以来だ。

 その後、シュージンと岩瀬のドタバタがあったんだっけ。

 

「はっ」

 

 というのに、思い至って僕は周囲を見回した。

 

「……どうしました?」

「いえ、蒼樹さんが一人かどうかを確認しないと」

 

 岩瀬アウトが居たらめんどくさい。

 

「私と岩瀬さんは、そんなに親しくないですよ」

 

 じゃあ、なんでシュージンと会う橋渡しなんてしたんだろう。

 蒼樹さんは、人がいいんだろうな。

 

「大変だったんですよ。あのせいで、シュージンと見吉が結婚する事になりましたし」

「結婚ですか? おめでとうございます」

「ありがとうございます?」

 

 愚痴ったつもりが、祝われてしまった。

 結果だけみたら、確かにハッピーエンドじゃん。

 蒼樹さんはまだしも、岩瀬が恋のキューピットとか、シュージンも見吉も嫌がりそう。

 

「高木さんも真城さんと同級生ですよね」

「早生まれだからまだ18」

「18歳で結婚。いいと思います。素敵です」

 

 カワイイ。蒼樹さんも見吉に負けじと乙女な部分あると思う。

 思わず『じゃあ、蒼樹さんは僕と結婚してください』って言いたくなったけど、言葉を飲み込んだ。

 亜豆に殴られてしまう。

 

「聞いてませんでしたけど、岩瀬との関係は?」

「大学の後輩です。あと、彼女の作品のファンですね」

「あの小説ですか? 軽く読んでみましたけど、よく分かりませんでした」

「素敵な作品ですよ。情緒溢れていて、感性が優れているんだと思います」

 

 うーん。情緒に溢れているというより、何が言いたいのか分からなかったけど。

 僕とかシュージンの想像力が足りてないんだろうか。

 

「大人だから大丈夫だと思ったんですけど、まさか高木さんの前であそこまで子供になるなんて」

「あー……そんな感じでしたか」

「どうしても高木さんに認めて欲しいみたいでした」

「……シュージンは、岩瀬を相手してなかったからなぁ」

 

 岩瀬からしたら、シュージンは勝ち負けを意識した相手。

 シュージンからしたら、勉強をすれば、1位は取って当たり前で興味なし。

 マンガを描き始めて順位が落ちても、気にする素振りはなかったし、岩瀬との勝ち負けとかどうでもよかったんだろう。

 

 おまけで、高木の家で行われた岩瀬よりもマンガや見吉を選んだ事件。

 そこで終わっていれば、岩瀬も楽だっただろうに。

 そこから私を見てってこじらせ続けていたとしたら、なかなかのモンスターが誕生だ。4年の執着は怖い。

 

「たぶん、岩瀬をすごいとは思ってるんですよ。ただ、同じフィールドに居ないだけで。運動部が大会で優勝したらすごいって思っても、僕達とは全然違うじゃないですか。そんな感じです」

 

 うーん、例えるのが難しい。

 上手く伝わっただろうか。

 

 結局、僕もシュージンも中3の夏から自分達の主軸にマンガを置いている。

 勝ち負けの勝負が生じるのは、マンガの世界だけだ。

 勉強で負けてもスポーツで負けても、極端な話どうでもいい。

 でも、マンガで負けることだけは、絶対に嫌だ。

 

「……だからあんなことを」

「何かあったんですか?」

「彼女もマンガの原作を描くって、高木さんに宣言を」

「へー、岩瀬が原作をって、ぇええええええーーー」

 

 岩瀬、どこまで対抗意識燃やしてるんだよ。

 それに、シュージンもそんな面白そうなめんどくさそうなことが起きてるなら、言えよ。

 見吉との結婚が決まって、それどころじゃなくなったんだろうけど。

 

「彼女ならできると思いますよ」

「そんな厄介な……」

「私も負けてられません」

 

 やるぞって感じで小さくガッツポーズを作ってるのがカワイイ。

 蒼樹さんがやる気になっているのなら、いいのかもしれない。

 

 まあ、仮に岩瀬が原作をやったとしても、勝ち負けを競うのはシュージンか。

 僕が競うのは、岩瀬の原作を担当するマンガ家だ。

 

 中井さんとかが担当したら怖いことになりそうだ。

 

『この原稿なに? 私の情緒が台無しじゃない?』

『ぶひぃぶひぃ』

 

 いや、どんなコンビだ。

 中井さんを豚扱いはひどい。

 

 豚で思い出したけど、動物園通いをやめることを蒼樹さんに伝えとかないとだ。

 

「そういえば、動物園通いをそろそろ終わろうかと思ってます」

「え……」

*1
CV:川澄綾子 代表作:シスター・プリンセス 千影

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。