(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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次回作はギャグ!?

「夏に野外で描くのは厳しいですし、夏休みに入ると人が増えるでしょうし」

「そう……ですね。分かりました」

 

 全ての動物を網羅するまではいかなかったけど、主要な動物はスケッチできたはずだ。よほどマニアックな動物をシュージンが出したいとか言い出せなければ、描けると思う。まだ納得いかない部分はあるけど、何も知らない状態よりはマシになった。

 

 今まで描いてきたスケッチブックをペラペラとめくって見返していく。

 

「真城さん、さすがです。上手いですね」

「まだまだ中井さんには、勝てませんよ」

 

 蒼樹さんが、反対側から覗き込んできて褒められてしまった。

 謙遜ではなく本音だ。恥ずかしくない動物は描けそうだけど、動物を武器にする程ではない。中井さんなら動物も武器にできる。

 この違いは、小さいようでかなり大きい。

 

 僕は、つの丸先生にはなれない。

 

「……赤マルは自分で描いてみましたけど、絵に自信がありません。力不足を感じています」

「担当から何か言われましたか?」

「とりあえず、()()()()()()()と」

「うーん……」

 

 ある意味お試しの場だからこそ、許されるレベルってことか。

 見本もまだ見ていないから何とも言えないけど、厳しいのかもしれない。

 

「『ハイドア』のときもキャラの顔の下描きは、蒼樹さんでしたよね?」

「はい。少女マンガを描いてましたので、そこだけはなんとか」

「……表情が描けるなら、絵もすぐに上手くなると思いますよ」

 

 中井さんは苦手だと言っていたので、ほぼ蒼樹さんの下描きからそのまま線を拾っているはずだ。

『ハイドア』は、中井さんの超絶テクが光った背景が凄かったけど、キャラクターも別に悪くはなかった。

 

 イメージした線が引けないレベルだときついけど、表情が描けているのなら、そこまで酷くないはずだ。

 

「ほんとでしょうか? 少年マンガの絵の描き方がイマイチつかめなくて」

「そこは経験ですね」

 

 本当はアシスタントとかで学べればいいんだけど、アシに入るにもある程度の腕が求められるから、そこまでは自分で上げるしかないのが辛い。

 

「……人に教える程じゃありませんけど、基本的なことでよければ、僕が教えましょうか?」

「そんな真城さんのご迷惑になるには」

「シュージンの原作待ちで時間がありますから、大丈夫ですよ」

 

 まだ次の連載の方向性すら決めていない。

 絵のレベルアップに励むにしても、作品の方向性が決まらないと何を伸ばせばいいのかが悩ましい。

 苦手の動物を克服したので、次は全般的に描いていく事になると思う。

 

「…………」

「しばらくは絵の練習ですので、一人で練習するより、切磋琢磨する相手が居た方が僕も張り合いが出ますし」

 

 地味な作業も嫌いじゃないけど、ゴールの見えない作業で一人でずっと机に向かうのは、モチベーション的にしんどいときもある。

 適度に息抜きできた方がありがたい。

 

「……では、ご迷惑でなければ、お願いできますか?」

「任せてください」

 

 蒼樹さんなら大歓迎です。

 すぐにスケジュールを決めよう。

 

「基本的に暇してますので、日時は蒼樹さんに任せますけど、どうしましょうか?」

「そうですね。平日は大学もありますので、土日の方が助かります」

「では、土日で」

 

 ちなみに、蒼樹さんは日本のトップ大学の大学院生だったりする。

 さすが蒼樹さん、賢い。

 それもマンガ家になれなかったら教師希望で教員免許も取ったらしい。

 美人教師に襲われたい。

 間違えた。教わりたい。

 

 蒼樹さんの後輩の岩瀬も同じ大学だ。

 偏見だけど、何かがやりたいとかじゃなくて、トップの大学だから賢いとか、自分に相応しいと思っていそうな気がする。

 それでこそ岩瀬って感じだから、偏見だけど間違いない。

 

 シュージンもマンガ家に墜ちなかったら、第一希望だったみたいだ。

 こうなってしまうと、勉強よりもマンガを選んでよかったって思えるような結果が欲しい。亜城木夢叶として頑張りたい。

 

 日時は決まった。問題は、場所をどこにするかだ。

 マンガ家バレはしたくないので、人の目のある場所だと描きにくい。

 となると、選択肢は限られるか。

 

「場所は、カラオケボックスとかでいいですか?」

「う、歌いませんよ」

「いえ、そうじゃなくて……絵を教えるのに、テーブルがあって個室ならどこでもいいんですけど」

 

 警戒されてしまったかもしれない。

 

 こういう場合、仕事場に呼ぶのとどっちがいいんだろうか。

 いきなり仕事場に呼ぶのもどうかと思ってカラオケにしたけど、個室で二人っきりになるというのは、変わらない。

 

 歌わないというのは、同意したい。

 僕もカラオケは、苦手だ。

 

 あーでも、蒼樹さんが歌うのは聞いてみたいかも。

 声がカワイイ*1だけに、きっと歌声も可憐だと思う。

 るろうに剣心の二代目OPの「1/2」とか歌ったら似合うんじゃないか。

 

「ごめんなさい、私、てっきり」

「いえ、説明不足でした。すみません」

「そうですね。それでお願いします」

 

 こうして、蒼樹さんとの勉強会(カラオケ)が決まった。

 遊びじゃないから歌わないけど、最近の流行曲を一応、調べておかなければ。

 念のためだ、念のため。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 蒼樹さんとの約束が決まって、ウキウキしていたけど、亜城木夢叶としてまったく何もしていなかったわけではない。

 

 港浦さんと、次回作の打ち合わせが入っていた。

 

「赤マルの話、編集部でも好評だ」

「ありがとうございます」

「票を集めると思うが、これを連載にはしたくないんだな?」

「はい、あくまでも『TRAP』の番外編ですので、メインにはできないと思います」

「もったいないが、最初からそういう話だったから仕方ないか」

 

 赤マルで1位を取れば、次は連載を狙うのが普通だ。

 僕達の場合は、単行本を出すという理由があっただけで、既に終わらせた作品の番外編でしかない。

 作品のポテンシャル的には、連載でも行けそうな手ごたえはあった。

 

 だから、確かに惜しいと思う。

 でも『TRAP』があってこその手ごたえだとも思うので、実際に連載するとなると単独では厳しい部分が出てきそうだ。

 

「次の連載会議は10月だ。そこで次回作を出して欲しい」

 

 4月で打切りが決まって、半年後の連載会議か。

 間隔としては、少し早い気がする。

 

 蒼樹さんも、赤マルがよければ次の連載会議って言っていたから、蒼樹さんの場合は、12月打ち切りで読切を挟んで10月の会議だ。

 こちらの方が王道に思える。

 

「連載会議ですか……僕は、読切で一度試すべきだと思ってます」

「おいおい。1年以上も続いた連載作家なんだから自信を持ってくれよ。連載会議を目指すべきだ。読切で試した方がいいのなら、こっちで判断できる」

 

 いきなり意見が割れた。

 僕は、読切で試したい。

 港浦さんは、直接連載会議を狙いたい。

 

「…………」

「…………」

 

 シュージンも、連載会議派だった。

 読切のために話を作るのも大変なので、こればっかりは強く言えない。

 

 結局、多数決で押し切られて連載ネームを考える事になった。

 こうなってくると赤マルを番外編で使ったのは、もったいなかったかも。

 蒼樹さんみたいに、何か読切で試した方が良かった。

 

「次は、ギャグマンガがいいと思う」

「それはちょっと」

「そうですよ」

 

 ここから港浦さんの独演会が始まった。

 高木くんにはギャグセンスがある。

『TRAP』や『ハイドア』に足りなかったのは、笑いだ。

 

 同時期に始まった『ラッコ』や『KIYOSHI』は続いてるから、一見否定しにくいけど、エイジの『CROW』は? と言いたくなるような主張だった。

 

「ギャグマンガってほど極端じゃなくてもいい。笑いをできる限りやる。どうだ」

「どうだって言われても……」

「笑いか……笑い。確かに足りていなかったかも」

 

 何を言ってるんだ、シュージン。

 シュージンが洗脳されかけてる。

 シュージンは、面白いヤツだけど、シュージンが向いてるのは、笑いじゃない。

 邪道をかけるのが、強みのはずだ。

 

 このままじゃダメだ。時間をおいて仕切り直そう。

 

「まだ、何も案が出ていませんし、次への課題って事で保留にさせてください」

「分かった。笑いだぞ、笑い。忘れるな」

「……はい」

 

 やや強引に話を打ち切り、打ち合わせを終わった。

 

 シュージンと二人で谷草に帰る。

 

「笑いか……サイコーはどう思う?」

「反対」

「……珍しいじゃん。サイコーがはっきり否定するのは」

「シュージンの話ですげえって思ったのは『ふたつの地球』」

 

 今読み返すと、服部さんに言われた通り未熟さも目立つけど、設定にひかれてこのマンガを描きたいって思った。

 

「俺が描きたいのは、シュージンのああいう話。それに、ギャグの厳しさを知ってるから……」

「……川口たろう先生か」

 

 ギャグマンガでおじさんを超えられる気がしない。

 身内びいきだろうけど、僕の中でギャグマンガといえばおじさんだ。

 

「あと、自分で言うのもアレだけど、俺の絵ってギャグに向いてなくね?」

「サイコーならギャグも描けるだろ」

「それ言い出すならシュージンもギャグで話を作れると思う。でも、出来るのと向いてるのかどうかは別じゃん」

 

 おじさんは、絵が下手だからギャグマンガ家になるしかなかったって、自嘲気味に言っていた。

 ギャグなら絵が下手でも通じる。

 じゃあ、絵が上手いとダメなのかっていったら、そういうわけでもない。

 

 超有名どころとしては、社会的現象にもなった『Dr.スランプ』だ。

 鳥山明先生とかメチャクチャ絵が上手い人もギャグマンガで天下をとっている。

 

 だから、絵が上手いから向いてないとかは、ない。

 そのはずなんだけど、リアルで写実的な絵が強みの僕には、向いてないと思う。

 逆に言えば、ギャグマンガに出てくるようなタッチは、苦手としている部分かもしれない。

 

「連載したいってだけならギャグでもいいと思う。ただ、ギャグマンガで新妻エイジを超えられると思う?」

「想像できねー」

「だろ。無理じゃん」

「悪い。とりあえず、連載しないとって焦ってたかも」

「……シュージンは、結婚予定だから仕方ないって」

「結婚して収入無しってのは、ちょっとな……」

 

 大学の学費を自分で出している分、僕よりは少ないだろうけど、まだ数百万の貯金が残っているはずだ。

 でも、減り続ける貯金ってのは精神的に悪いか。

 

 マンガ家なんて連載してなきゃただのニートだし。

 

「方向性として笑いも取り入れるってのはいいけど、それメインはなしで」

「分かった。いくつか案を考えてみる」

「楽しみに待ってる」

 

 シュージンは、話作りを頑張る。

 僕は、蒼樹さんとのカラオケを頑張ろう。

 

 シュージンの分まで息抜きしてみせる。

 これで、亜城木夢叶としてのバランスは取れているはずだ。

*1
CV:川澄綾子 代表作:のだめカンタービレ 野田恵

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