(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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勉強会

 勉強会1回目。

 

 待ち合わせ場所の駅で合流し、事前に調べていたカラオケボックスへと入った。

 少しもったいないけど、格安店を避けたおかげで、部屋の広さは十分だ。

 テーブルに向かい合って座っても、互いに原稿を広げる事ができる。

 

「原稿のコピー持って来ていただけましたか?」

「はい。恥ずかしいですけど……」

 

 蒼樹さんの絵は見た事がないので、赤マルの原稿を持ってきてもらった。

 恥ずかしそうに渡されたそれを受け取り、まずは読んでみる。

 

『青葉の頃』

 

 一言で言うなら、恋愛オムニバス作品。

 主人公の恋を中心に描かれているものの、同時に複数のサイドストーリーも展開していて、色んな恋が描かれている。読切だとゴチャゴチャしそうなところが、蒼樹さんの構成力で綺麗にまとまっているのがすごい。

 

 恋の見せ方が上手いので、どれか一組気になるカップルができれば、作品を追いかけてしまうと思う。

 

 と、話に関しては、良くできてると思う。

 どう考えてもシュージンと見吉じゃんっていう勘違いから始まる恋をスルーすれば。

 

「これ、シュージンと見吉ですよね?」

「はい。参考にしました」

 

 参考にしましたって、はっきり言われてしまった。

 ま、いっか。見吉とシュージンは結婚するんだし、問題ないはず。

 

 なにか言われたら『いちご100%』でも参考にしたんじゃないか。これで通そう。

 

 問題は絵だ。

 キャラクターは描けているものの、ポーズがありきたりで映えるものがない。

 担当の指示を守ってパンチラの下着がしっかり描き込まれているせいで、逆に浮いて目立っている。

 これだと、エロシーンだけ作画を全力にする低予算アニメみたいに、なってしまっている。

 背景もパースがしっかりとれていないみたいだ。

 キャラの配置、向きに合わせた背景になっていないところもある。

 おそらく、目線がハッキリと定まっていない。

 

 うーん……どこから手直しすればいいのかってところからか。

 

「とりあえず、背景から……」

 

 変に感じたコマを直してみよう。

 まず、キャラクターをネーム程度で模写する。

 

 蒼樹さんの描いた背景から、角度を変えてパースを正した背景にして描き直す。

 背景の角度をキャラに合わせるだけで、違和感は消えてしまう。

 

「こんな感じで、コマの目線を統一させるだけで、だいぶ変わります。アイレベルって奴ですね」

「アイレベルですか?」

「ええっと……」

 

 簡単な女性キャラで、アイレベルを上・中・下とずらした3枚の絵を描く。

 上は、女性キャラの目と同じ高さ。

 中は、女性キャラの胸と同じ高さ。

 下は、女性キャラのパンツと同じ高さ。

 

 無意識に卑猥っぽくなってしまったけど、わざとじゃない。

 上半身を中心にずらそうと思ったら、こうなってしまっただけだ。

 

「こうやってコマの目線の高さを決めたら、それで固定します。ここからずらすとおかしくなります。このまま背景をつけて」

 

 同じ背景でそれぞれのアイレベルからパースを取って、背景を描き分ける。

 無事に3つの絵ができあがった。

 

「こんな感じです。違いが分かりますか?」

「はい。目線の高さが違います」

「これをずらしてしまうと」

 

 アイレベルが胸の高さのキャラクターに対して、目線をパンツと同じ高さにして背景を描く。

 背景の絵のレベルは変わっていないのに、どこかちぐはぐとした絵に仕上がった。

 

「同じ背景なのに、全然違います」

「これが基本中の基本です。慣れれば感覚でできるようになりますよ」

 

 今のは、一点だけでパースが取れる簡単なものだ。

 俯瞰的な絵になると一気に難易度が上がる。

 パースが複雑になるので、しっかりと考えながら下準備をしないと背景が狂ってしまう。

 

 中井さんは、フリーハンドでさらっとやっていたけど、あれは職人技過ぎる。僕にもまだできない。

 

「この原稿は、汚しても大丈夫ですか?」

「コピーですので問題ありません」

「では、失礼して」

 

 背景が狂っていると思われるコマに〇とか×とかの印をつけていく。

 背景無しのコマや、合っているコマもあるので、全体としては10分の1くらいだ。

 

「今、印をつけたコマがおかしく見えるコマです。×は難易度が高いので、飛ばしてください。〇のところだけ、簡単な下描きでいいので、描き直してみましょう。目標は1時間です」

「分かりました。やってみます」

 

 蒼樹さんが作業に入ったのを見て、タイマーを1時間にセットして、僕も自分の絵の練習に入る。

 テーマは、苦手克服だ。

 とりあえず、動物の目途はついたので、次の苦手を潰していく。

 この前、港浦さんとの打ち合わせで出たギャグ描写だ。

 

 キャラクターにデフォルメを利かせた絵って、これまであまり描いてこなかった。

 デフォルメまでいなくても、崩してキャラクターを描くのも練習不足だ。

 

 使う機会があるのかどうかは分からないけど、練習しておこう。

 

 まずは、ノーマルのキャラクターを描く。

 適当にシュージンでいっか。

 これを崩せばいいんだけど、どうしたらいいんだろう。

 

 こういうときは、シーンを考えてみよう。

 見てはいけないものを見てしまったシーンにするか。

 

 目を飛び出して……加減が難しい。

 眼球ってこんなに長くならないだろ。いや、つっこんじゃいけないか。マンガの表現技法なんだから。

 メガネが前に飛ぶくらいの勢いで、目をぐーーんと前に飛び出させた。

 

 うーん、目が前に出るって事は、身体はくの字に曲げた方がバランス取れそうなんだけど、違うか。

 

 身体まで曲げてしまうと目が飛び出るインパクトが薄まる。

 顔だけ軽く前に出して、目も飛び出るくらいがいいか。

 

 こうなると口も大きく開いてっと……もういいや、極端にやろう。

 顔の半分が口でいい。それくらいの勢いで描写してっと。

 

「くす……」

「?」

「ごめんなさい、邪魔しちゃいましたか」

 

 笑い声が聞こえて顔を原稿から上げると、蒼樹さんと目があった。

 って、近い近い。

 僕の絵を覗き込んでいたみたいで、吐息が掛かる距離だ。

 平静を装って、身体を起こす。

 

 蒼樹さんは笑い声もカワイイ*1

 

「それは、高木さんですか?」

「ギャグテイストのシュージンです。あまりこういう絵を描いてないので、練習しておこうと」

「お上手です」

「ありがとうございます。蒼樹さんは、どうですか?」

「こんな感じです……」

 

 下描き程度の背景だけど、さっきまでとは違ってキャラクターからのズレが消えている。

 

「いいと思います。あとは枚数をこなせば、もっとよくなりますよ」

「ありがとうございます」

「しいていうなら、ええっと……」

 

 蒼樹さんの絵に描き加えようとするものの、反対側から見ているため感覚が掴めない。

 絵を受け取って自分側に向ければいいけど、そうなると蒼樹さんが逆側から見る事になる。

 

「あの……こちらにどうぞ」

 

 困っていると蒼樹さんが少しずれてスペースを作ってくれた。

 ここに座れって事らしい。

 

「し……失礼します」

 

 蒼樹さんの左隣に座る。

 さっきまで蒼樹さんが座っていたせいで、ほんのりと椅子が温かい。

 蒼樹さんの体温を感じる。

 

 座るときにチラッと生足が見えた。

 あまり意識してなかったけど、蒼樹さんのスカートが若干短いような。

 いや、夏だしこんなもんなんだろう。

 他意はないはずだ。

 

「えっと……この絵は大丈夫ですけど、こっちの絵が」

 

 アイレベルから消失点の位置が少しずれているのを正して、パースを引き直す。

 左側は問題ないけど、右側が狂っている。

 

「これで描き直してみてください」

「やってみます」

 

 蒼樹さんへと絵を渡して、今度は作業を見守る。

 

 そういえば、蒼樹さんの左隣か。

 どうも僕は女性の左側に座る事に縁があるみたいだ。

 

 席替えの時も、入院中も亜豆は僕の右側にいた。

 そのせいか、右側に女性がいるとどこかホッとしてしまうようになった。

 

「そこは──」

「──あっ」

 

 蒼樹さんの手が止まったのを見て、僕は手助けしようと蒼樹さんの前の原稿に向けて、右手を伸ばそうとした。

 そのタイミングで蒼樹さんも描き直そうと、()()()()()()()()()()()僕の前に置いてあった消しゴムを取ろうとして、二人の身体が接触した。

 

「…………」

「…………」

 

 腕と腕が軽く触れ合っただけだけど、蒼樹さんの柔らかさは十分に伝わってきた。

 顔が熱くなっているのが分かる。

 蒼樹さんも同じみたいだ。

 

 手を伸ばせば届く距離。

 見つめ合う二人。

 カラオケという個室。

 阻むものはなにもない。

 

 無意識のうちに、徐々に吸い寄せられるように顔と顔が近づいていき──タイマーが鳴った。

 

 正気に戻って、慌てて身体を離す。

 

 どうやら、目安にしていた一時間が経ったみたいだ。

 途中で作業を止めたので、タイマーをセットしていたのを忘れてしまっていた。

 

「……れ、冷房強くしましょうか」

「そ、そうですね、そうしましょう」

 

 仕切り直しだ。

 照れ隠し半分、熱さを覚ますために、距離を取りなおして、冷房を強くした。

 

「…………」

「…………」

 

 さっきよりも開いた距離。

 うかつに触れ合ってしまったせいで、警戒というか緊張めいたものが二人の間に生まれてしまった。

 

 結果、その緊張が作業に集中させるようになり、二人の口数が減る。

 

 どちらが悪いとかいうものでもなく、色々とタイミングが悪かった。

 

 

 この後は黙々と作業を進めて、一回目の勉強会は終わった。

 

 結局、蒼樹さんのカラオケを聴くことはなかった。

*1
CV:川澄綾子 代表作:藍より青し 桜庭葵

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