9月15日 火曜日
「おはよう」
「おう……」
見吉が帰った後の話。
昨夜のうちに、シュージンに話がある事をメールしておいた。
7時30分。
いつも待ち合わせている時間よりも早い合流だ。
見吉と色々あったせいで、罪悪感を感じるかと思ったけど、そっちはどうやら麻痺しているらしい。
はっきりと割り切っているとも言える。見吉に恋愛感情は抱いていない。
親友の彼女に抜いてもらうってのはどうなんだって言われたらもっともだけど、見吉の方から言いだした事であり、俺はそれに乗っただけだ。
あとは見吉とシュージンの問題ってことにしよう。
「シュージン、こっち」
「お? おお」
学校までの道のりを半分ほど過ぎたところで、通学路から離れて、公園に寄った。
早い時間のおかげか、公園には余り人が居なかった。
遊具が申し訳ない程度に置いてあるだけの、ほとんど広場みたいな公園だ。
入口すぐに自転車を止める。
「で、話ってなんだよ」
「シュージン、ごめん。俺が悪かった。もう一度、俺とコンビを組んでほしい」
深々とシュージンにむけて頭を下げた。
「ど、どうしたんだ、サイコー」
「コンビを解散するって言いだしておきながらアレだけど、俺1人じゃマンガは描けない。この数日で、俺にはシュージンが必要だって事がよくわかったんだ」
「……サイコー。でも、俺はネームを夏休み中にできなかったし」
「ずっと描いてたんだろ? 合わせて謝るけど、見吉からも話聞いた」
「余計な事言うなって言ったのに……なんて言ってた?」
「あたしの事ないがしろにされてたって怒ってた。冗談っぽくだったけど」
「一緒には居たんだけどな……」
昨日、見吉から話を聞いたけど、見吉といるときも、シュージンはずっとパソコンと向き合っていたらしい。
見吉は元々嘘がつけないし、かなり愚痴られたので間違いないだろう。
シュージンから聞いた時点で疑っていたわけじゃないけど、見吉からも改めて聞くことによって、シュージンが本気で取り組んでいたことがより伝わった。
「締切破ったことはいいのかよ」
「シュージンには王道は向いてないってこと知ってたのに、王道で頼んだ俺が悪いと思う。王道じゃなければ、シュージンはネーム間に合ったんじゃないか」
「それなんだけど……サイコーには悪いけど、王道のバトルファンタジーは描いてない」
「は?」
それは初耳だ。
「じゃあ、何描いてたんだよ」
「俺が描こうとしてたのは推理もの」
「は? なんで」
「そっちの方が俺達らしい、良い作品が作れると思ってさ」
シュージンが描いていたものも推理もの。
なんだそれ。俺と同じじゃん。
「で、王道を描きたい真城を納得させる推理ものを描こうとしたら、思ったより時間が掛かって夏休み中に間に合わなかったんだ。1ヵ月あればいけるって思ったんだけどな。甘かった」
「1ヵ月ってそんなに前からかよ」
「サイコーからの電話を見吉の家で受けた日だ」
「それ俺がアシスタントやめた日。7月29日じゃん。俺もその日、探偵ものでいきたいって思った日だ!」
「ええーっ、サイコーも探偵もの描いてるって服部さんから聞いたけど、そんなに前からシフトしてたのかよ。言ってくれれば良かったのに」
「それはこっちのセリフだろ。俺はシュージンが王道ファンタジー描けるのなら、それでいいとも思ってたから、無理そうなら探偵ものを提案すればいいかと思って」
「俺は真城が王道ファンタジーが描きたいと思っていたから、説得できるだけのネームを作ってから言おうって」
「はあーーっなんなんだそれ……」
お互いに同じ日にミステリーを描こうって思いついたのに、相手が王道ファンタジーに拘っていると思い込んで、ミステリーで作品を描く提案を避けたのか。
「あはは、ばっかみて」
「なにやってんだよ、俺達、ははは」
「意見が合ってるのに、すれ違うってどんな奇跡だよ」
「ほんとだよな……さっさと言えばよかった」
2人して笑い合う。
反省しないと。僕とシュージンの2人で亜城木夢叶だな。
同じ題材を描くつもりなら、一緒にやった方が絶対にいい。
「じゃあ、亜城木夢叶は再結成ってことで」
「だな。コンビ解散から2週間か。早かったな」
「下手に長引くよりいいって。集英社で別の原作、勧められたし」
「それ聞いて、サイコーが別の原作者と組んで始める前に、ネーム描かなきゃって焦ったし。服部さんは2年は我慢させるって言ってたけど」
まったく迷わなかったって言ったら噓になるけど、選ばなくてよかったと思う。
と、いつの間にか公園の時計の針が8時10分を回っていた。
「まずい、そろそろ行かないと遅刻しそうだな」
俺の視線を追って、シュージンも時間に気付いたみたいだ。
遅刻はまずい。でも、話し足りない。
「サボるか?」
「そうだな……いや、2学期は初日からサボったし、やめとく。今日はおとなしく学校行こうぜ」
「……わかった。続きは、放課後な。はい、カギ」
「いいのか?」
「コンビ再結成するんだから、持ってないと不便だろ」
「サンキュ」
シュージンから返してもらったカギは、財布に入れっぱなしだった。
それを取り出して、再びシュージンに渡す。
本音を言えばサボりたかったけど、先々週にサボってるし、シュージンの言う通りおとなしく学校に行った方がいいか。
俺1人でサボっても意味がないしな。
こうして亜城木夢叶は、再結成したのだった。
◇◇◇
昼休み
「ましろー、たかぎー、ちょっと来て」
「シュージン、呼んでるよ」
「お前もだろ」
仲違いしていたわけじゃないけど、なんとなくあったわだかまりを埋めるべく、一緒に飯を食べてたら、見吉から声が掛かった。
「話があるんだけど、たかぎーさっさと来なさいよ」
「…………」
「…………」
今度はシュージンだけだったので、行くように目配せするも、お前もだろって睨まれた。
「あんたたち無視するわけ」
「行くか」
「だな」
そろそろ限界が近そうだ。
仕方ない。食べかけのパンを袋の中に戻して、見吉の元へと急ぐ。
見吉は、僕とシュージンを引き連れて、昨日と同じ屋上へと向かった。
「どうしたんだよ」
「なんだよ、話って」
「話があるのは、あたしじゃない。2人でしょ」
シュージンと顔を見合わせる。
「は?」
「何言ってんだ?」
「だーかーらー、2人とも、もう一度話し合おう。亜城木夢叶は2人で1人でしょ」
昨日の今日で、さっそく2人で話し合う場を設けてくれるつもりだったらしい。
見吉らしいといえば見吉らしいけど、ちょっと遅かったな。
シュージンと2人で笑う。
「それ、もう解決したから」
「コンビ再結成」
「ええーーー!? 何よそれーーー」
屋上に見吉の声が響いた。
なんでもするって言いだして、実際に要望を叶えてくれたくらいだ。
見吉は見吉で、俺とシュージンの関係に思い悩んでくれたんだろう。
「見吉にも心配掛けたな。今日の放課後、仕事場行くけど、見吉も来る?」
「行くーーーー」
よし、これで全部解決。
教室に戻って食事の続きを。
「あ」
「どうした?」
「あたし、ミホにコンビ解消したって言っちゃった」
「はー? 余計な事言うなって……」
「シュージン、大丈夫だから。再結成したってメールしとく。送信っと」
素早く携帯を操作して亜豆に送信。
亜豆にも心配かけてたみたいだし、メールするいいきっかけになったと思えばいいや。
見吉も悪気あったわけじゃないんだろうし、責める必要はない。
見吉に甘すぎる気がするけど、昨日お世話になったから仕方ないだろ。
「あ、返信来た」
「はやっ。ミホの学校は昼休み遅いからまだ授業中のはずなのに。ってミホと真城って周波数とか言ってるの?」
「うっせーよ、いいだろ、別に……」
見吉に優しくする必要はなかった。
まあ、いいか。
周波数ってそんなに変かな。
合うか合わないかって大事だと思う。
亜豆とは周波数が合う。
シュージンともミステリーに切り替えた経緯から合ってると思う。
見吉とは合いそうにないな。うん、ごめん。やっぱり仲間外れだ。