(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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魔女の宴

「加藤さんと昼からやってるんじゃないでしょうね」 

「いきなり爆弾発言を放り込むなよ」

 

 とんでもない爆弾を投げつけつつ、部屋に入ってきた見吉。

 自分の想像とは違う部屋の様子に、何度か目を瞬きさせた。

 

「あれ?」

 

 首をかしげながら、蒼樹さんと僕を交互に見ている。

 ようやく頭が回りだしたらしい。

 

「真城ー。誰よ、その女」

「中井さんの原作担当だった蒼樹先生。マンガ家の同僚」

 

 僕の胸倉を掴むのをやめて欲しい。

 何勝手に連れ込んでんのって、言わんばかりの剣幕だった。

 つーか、なんで見吉が俺の彼女面してるんだ。

 おまえは、シュージンの彼女だろうが。

 

「はじめまして、蒼樹紅です。汚れ先生に、()()()()と教わってます」

()をだから。()をいろいろとだから」

 

 カワイイ声*1で意味深な言い方するなよ。

 胸倉を掴まれている手に力が入っているのが分かる。

 あ、振り回し始めた。頭が、ぐわんぐわんする。

 

 あと、このタイミングで汚れ先生はやめてくれ。

 いや、いろいろ教えたのは事実だけど、事実じゃないっていうか。

 汚れてるのも否定できないけど、それだけじゃないっていうか。

 

 あくまでも絵のためだ。性欲が一番だったけど、絵のためだから。

 

「真城、ちょっと来なさい」

「……はい」

 

 怒りに目覚めた見吉には逆らえない。

 そのまま胸倉を引っ張られるようにして、ベランダまで連れて行かれた。

 

「なんで蒼樹さんがここにいるの?」

「絵を学びたいっていうから教えていた」

 

 どこで出会ったかとかは、省略でいいはず。

 出会ったのは、集英社近くで中井さんと打ち合わせしてるのを見つけた時だし、そこから説明すると長くなる。

 

「汚れ先生ってのは?」

「僕が、汚れ最高だからです」

 

 細かい説明は、省略でいいはず。

 見吉のコメカミがピクピクした気がするけど、僕は何も見ていない。

 

「いろいろ教えたってのは?」

「もちろん、いろいろです」

 

 いろいろ教えた。

 これですべて説明は終わりだ。

 

「そのいろいろと汚れって呼ばれてるのは、関係あるわけ?」

「それは蒼樹さんに聞いてみないと」

「正直に言いなさい。今だったら怒らないから」

 

 諭すように言う見吉から、母性を感じた。

 お母さん、ごめんなさい。正直に言います。

 

「蒼樹さんに彼女がいる事を言わないで手を出しました」

「汚れじゃん」

「ごほ……ご、ごもっともです」

 

 今日はビンタじゃなくて膝蹴りだった。

 怒らないって言ったのに、嘘つき。

 

「ただ、僕は蒼樹さんは僕に彼女がいることを知ってると思いこんでて」

「ダメじゃん」

「終わった後で、蒼樹さんから私達付き合ってるのか確認されて」

「蒼樹さん可哀相」

「亜豆がいるから無理って断ったら、汚れ先生になった」

「自業自得でしょうが」

「ぐふっ……暴力ヒロインは、流行らない」

 

 本日2発目の制裁だった。

 見吉、それやってる事は制裁じゃなくて正妻ムーブだから。

 シュージンと結婚するんだから、控えて。

 

 とりあえず、状況説明は終わって、ベランダから中へと戻った。

 

「蒼樹さん……このバカがほんっとーに、ごめんなさい」

 

 後頭部に指が食い込む勢いで掴まれて、強引に頭を下げさせられた。

 

「痛い」

「頭が高い。土下座しなさい、土下座」

「はい」

 

 そのまま床へと押し付けられる。

 強制的な土下座だ。

 土下座に慣れつつある。なぜだろう。

 

「いえ、もう謝罪は受けましたので……私の勘違いも有りましたし、大丈夫ですよ」

「真城、この子いい子じゃないの」

「悪い人だったら、絵を教えたりしないって」

 

 蒼樹さんは、いい人だ。

 だからこそ、絵を教えてもいいかって思えたし、手を出してもいいかって思ってしまった。

 いや、手を出すなよって話なんだけど。そこはまあ、若気の至りというか。

 

「あの……汚れ先生と、見吉さん?」

「見吉香耶。好きに呼んでくれていいから」

「分かりました。汚れ先生と見吉さんの関係は?」

 

 ようやく後頭部に掛かっていた圧力が止まったので、土下座をやめて身体を起こす。

 僕と見吉の関係か。どう答えるのが正解なんだろうか。

 

「ん--……あたしと真城の関係は……保護者?」

「あってるような間違ってるような」

 

 面倒をみてもらっているだけに、否定しにくい。

 それも、見吉側の親とか彼女の亜豆公認だけに、ややこしい。

 

「見吉さんは、高木さんの彼女なんですよね」

「そそ、もうすぐ結婚する」

「赤マルの結果が良かったらな」

「なによ、自信ないわけ」

「あるけど……」

「それならいいじゃん」

 

 結婚することは賛成だけど、少し寂しい。

 赤マルの結果が欲しい。でも、結果が出なかったら出なかったで、ホッとすると思う。先延ばしにしかならないけど。

 

「あの……どうして、高木さんの彼女さんが、汚れ先生の女性関係を把握してるんですか?」

「え?」

「先ほど、昼から加藤さんとやってるんじゃないでしょうねって入ってきましたよね?」

 

 しっかり見吉の放り投げた爆弾は、爆発していたみたいだ。

 そりゃそうか。

 蒼樹さんT大だし、勢いで誤魔化せるような人じゃない。

 

「それは……真城、あんたから説明しなさいよ」

「丸投げかよ」

 

 見吉のやらかしの後始末を押しつけないで欲しい。

 どうやって説明しろと。

 

「余計な事を言ったのは、見吉だろ。自分でやれよ」

「あんた、それでいいわけ?」

「ぐ……」

 

 そう言われると見吉に説明させるのは、恐ろしい気がしてくる。

 こいつ、どこまで話す気だ。

 

 それ次第で、僕は死ねる。

 僕の過去の行動が人質にされてやがる。

 

「その……見吉さんと汚れ先生は、そういう関係なのでしょうか?」

「…………」

「…………」

 

 僕も見吉も言葉に詰まった。

 そして、返事がない事が答えとなってしまった。

 

「おかしいです。高木さんと見吉さんは、お付き合いしてるんですよね。真城さんにも彼女がいる。それなのに、お二人がそういう関係って、狂ってます」

 

 蒼樹さんの正論が、僕達に突き刺さる。

 親友の彼女に手を出すのは、おかしい。

 親友の彼氏に手を出すのも、おかしい。

 ごもっともとしか言えない。

 

「高木さんが可哀相です」

「それは……」

「待って、違うの。違わないんだけど……」

 

 同情がシュージンに向かったところで、見吉が割って入った。

 

「蒼樹さんが言ってるみたいに、高木とミホには、悪い事をしてる」

「ミホさん?」

「僕の彼女です。亜豆美保」

 

 蒼樹さんの疑問に簡単にフォローを入れる。

 

「あたしは高木と付き合ってるし、真城はミホと付き合ってる。それなのに、あたしと真城がそういうことするのは、ダメだと思う」

「分かっているのなら、なぜ」

「それでも、あたしは真城の方が可哀相だと思った。ごめん、これ以上は言えない」

「見吉……」

 

 僕の方が可哀相か。

 

 見吉だけが、僕と亜豆の関係はおかしいって、ずっと言い続けてくれている。

 僕と亜豆が普通の恋人だったら、見吉と深い関係になることは無かった。

 

 僕が納得して亜豆とそういう恋人になったんだから、可哀相だと思う必要はない。

 それでも、見吉は優しいから、僕を甘やかしてくれている。

 

 それに甘えっぱなしなのは、歪んでると言われて間違いない。

 

「理解できません」

 

 そりゃ理解できないと思う。

 親友にも彼女にも裏切られているシュージンが、どう考えても一番可哀そうだ。

 いや、僕は同情しちゃダメな側だけど。

 

「見吉さんは、高木さんにお二人の関係を言えるんですか?」

「言えるわけないでしょ」

「高木さんが、可哀相です。騙されてます」

「そうかもしれない。でも、それはあたしと高木の関係だし、外から言われたくない」

「それはずるいのでは?」

「ストップストップ、落ち着いて」

 

 ヒートアップする二人をなんとか落ち着かせようとする。

 

「誰のせいよ」

「誰のせいですか」

「……ごめん」

 

 僕が当事者だった。

 仲裁できる立場じゃない。

 

「蒼樹さんの言っていることは正しい。僕と見吉が間違っている」

「…………」

「開き直りと言えば開き直り、ずるいといえばずるい。それでも、僕が亜城木夢叶であるためには必要だった。そこだけは分かって欲しい」

 

 見吉が抜いてくれなかったら、僕はどこかで潰れてしまっていたと思う。

 入院だけで済んだけど、下手したら体調管理ができずに終わっていたかもしれない。

 

 僕にとって、それだけ見吉との関係は大事なものだ。

 マンガ家を続けるためには必要だった。

 

「……理解はできません。ですが、大切に思っているというのは、伝わりました」

「蒼樹さん」

 

 とりあえずは、保留って感じか。

 蒼樹さんの中で葛藤は残りそうだけど、それはこれから先の話。

 

 見吉とシュージンが結婚したら、僕と見吉の関係は終わる。

 ずるい考えだけど、それまで先延ばしできれば、逃げ切れる。

 

 シュージンにとっては、知らないままでいるのと、事実を知るのは、どちらがマシなのか。これは、実際にそういう局面にならなければ、答えが出ない部類のものだ。

 

 伝えた方がマシなのか、伝えない方がマシなのか。

 そんな状況に蒼樹さんを追い込んでしまったのは、申し訳ない。

 でも、だからこそ蒼樹さんは悩みながらも、言えないはずだ。

 

 こういう打算的な考えは、自分がクズだなって自覚して嫌になる。

 知ったら不幸になるとか、一種の呪いかもしれない。

 

「あの、見吉さん」

「何よ」

「……真城さんのいないところでお話できませんか?」

「はい?」

「見吉さんのお話が聞きたいです」

「なんでよ」

「真城さんの前では、ちょっと……」

 

 何、この展開。すっげー怖いんだけど。

 せめて僕の居る所でやって欲しい。

 口を滑らしがちな見吉と、賢い蒼樹さんが二人で話すとか恐怖でしかない。

 見吉よ何とか断れ。頭を必死に使って言い訳を思いつけ。

 

「あたしは話す事とかないんだけど……って、思い出した。高木に岩瀬を会わせたのあんたでしょ」

「……はい」

「あんたとは一回話したいって思ってたところだし。場所を変えて話す」

 

 見吉さん、このタイミングで岩瀬の事を思い出すなよ。

 話す理由を思いつけとか誰も思ってねー。

 

「お世話になりました」

「い……いってらっしゃい」

 

 僕には見送ることしかできなかった。

 何も起きないことを願う。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「気になって、絵に集中できない」

 

 一人仕事場に取り残されてしまった。

 修羅場になっていないか心配で、作業が滞っている。

 

 ダメだ。絵の練習をしてても全然のらない。

 今日はもう切り上げて帰るかな。

 

「って、電話」

 

 修羅場を気にしている時に電話が掛かってきてドキっとしたが、見吉でも蒼樹さんでもない、加藤さんからだった。

 

「もしもし、何か用?」

 

 ちょっと声が不機嫌になってしまったけど、タイミングが悪過ぎる。

 

「いいんですか? そんな態度とって」

「用が無いなら切るよ」

「気になってるであろう真城さんを安心させようと思ったんですけど?」

「ん? どういう意味?」

 

 加藤さんの言っている事がよく分からない。

 

「今、見吉さんと蒼樹さんと亜豆さんと4人でお茶してます」

「はーーー!? どうしてそんな状況に!?」

 

 驚きすぎて、座っていたイスを倒してしまった。

 

「4人で友達になって、仲良くやってますので、安心してくださいね。現場からは以上です」

「……亜豆さんによろしくと伝えてください」

 

 どういう状況だ。

 現場からは以上っていうか、現場が異常じゃねえか。

 

 友達になったって事は、悪い方向には向かわなかったって事でいいんだろうか。

 

 亜豆、付き合っている彼女、ノーバクマン。

 見吉、彼女の親友のバクマンフレンド。

 加藤、彼女の友達になったバクマンフレンド。

 蒼樹、彼女の友達になったバクマンした相手。

 

 この4人で仲良くお茶とか狂気の宴じゃん。

 

 僕が言えた事じゃないけど言わせてもらう。

 たぶん、何も知らない亜豆さん、仲間外れで可哀相。

*1
CV:川澄綾子 出演作:クレヨンしんちゃん 酢乙女あい

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