(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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第45話 亜城木夢叶の解散!?

「真城ー、蒼樹さんのこれって」

「俺達のことだよな?」

「シュージン、連載会議に出す話決まった?」

「露骨に話をそらすなよ」

 

 しらばっくれる作戦は、失敗か。

 港浦さんから赤マルの見本が届き、蒼樹さんがシュージン達を元ネタにしている事が、ついにばれてしまった。

 ばれたからといって、もう後の祭りだけど。

 

 勢いで切り抜けよう。勢いがあれば、大体なんでも解決する。

 

「蒼樹さん、困ってる、僕、助ける」

「なんで片言なのよ」

「恋愛、描けない、why、ネタがない」

「無駄に韻を踏んでるな」

「感心しない」

「面白い、二人、高木と見吉」

「こうしてマンガにされると確かに面白いけど」

「採用、嬉しい、みんな、ハッピー」

「片言やめろっつーの」

「痛い、痛い、ワイ、悲しい」

「いい加減にしなさい」

 

 このあたりが限界か。

 蒼樹さんと僕が親しい事を知られてなければ、勘違いなんてよくあるネタでたまたまで押し通すつもりだったけど、もう遅い。

 蒼樹さんは隠し事が下手だし、見吉と蒼樹さんが繋がっている以上、あっさりと認めると思う。

 嘘をつけばつくだけ、見吉の怒りゲージが上昇しそうだ。

 既に手が出ている。これ以上は危険だ。

 というので、素直に認めることにした。

 

 別に悪いことは、していないと思う。

 

「蒼樹さんに相談されて、話しているうちに、シュージン達の話題になって」

「話したと」

「そのままマンガに使われるとは、思ってなかった」

「この教師はどう見ても中井さんだろ。俺達だけなら怒るところだけど、蒼樹さんも自分のエピソード入れてたら、怒るに怒れないじゃん」

「俺も思った。これ絶対中井さんと蒼樹さんだよな」

 

 三十過ぎの小太り体育教師のストーカーエピソードだ。

 告白された女子は気持ち悪がっていたけど、繰り返し告白され続けているうちに気になりだしてというやつ。

 

「なになに? 何の話?」

「見吉も見に行っただろ。中井さんが蒼樹さんともう一度組むまで、蒼樹さんところのマンションの前の公園で、マンガを描き続けてたやつ」

「あ、あの時ね。言われてみれば、シチュエーションは同じかも。でも、これって蒼樹さん中井さんを好きにって事になるんじゃない?」

 

 体育教師を中井さん。

 女子生徒を蒼樹さんと置きかえると確かにそうなる。

 

「気になってたんじゃね?」

 

 シュージンがそんな事を言うと、見吉が顔の前で手を振って否定した。

 

「えー絶対ないし。蒼樹さんが好きなのは──」

「──蒼樹さんって好きな人いるのか?」

「あー、う、うん。いるって言ってたような言ってなかったような」

 

 コイツ今、何を言おうとしやがった。

 慌てて割り込んで止めたけど、その流れで僕の名前を出されたらおかしいだろ。

 自意識過剰で、もう嫌われてる可能性はあるけど、付き合っていると誤認された関係だ。好きな相手で名前が上がるとしたら、僕だと思う。

 

「なんだそれ。つーか、蒼樹さんと恋バナとかしてたのかよ」

「友達になったし、恋バナくらいするって」

「ったく、サイコーも香耶ちゃんも俺のいないところで」

 

 完全に外されていたシュージンが、ちょっといじけている。

 いきなり僕や見吉が蒼樹さんと親しくなっていたことを聞かされたら、そりゃそうか。

 違う話題を出そう。

 

「それよりも、エイジの新妻賞とった人のやつ」

「あれか。なんか昔の俺達と作風被ってるな」

「『ふたつの地球』に似てる」

「だよな」

 

 静河流の『True human』

 2月にエイジが審査員をした月例賞で、エイジの特別賞を受賞していた。

 どんな作風か気になっていたけど、エグさとグロさが際立っている。

 

 エイジなら喜ぶだろうけど、ジャンプの作風からは外した感じだ。

 だからこそ、正式な賞ではなく特別賞だったのかもしれない。

 

 王道と邪道で言うなら、完全な邪道で、亜城木夢叶よりも上をいっている。

 僕達ならその手前でブレーキをかけるところを、突き抜けてしまっている。

 

「票取りそうだな」

「赤マルは本誌より年齢層高いらしいし」

「番外編1位獲れるかな」

 

 亜城木夢叶の読切は、連載を狙っていないので何位だろうと関係ない。

 それでも競い合う以上は、1位が欲しかった。

 

「巻頭カラーだし、負けてねーって」

「それ、巻頭カラーじゃなかったら負けてたって事にならね?」

「弱気なこというなよ」

「すまん」

 

 結果が出るまでは分からないけど、たぶん大丈夫だと思う。

 番外編が良くできていたのは、編集部のお墨付きだ。

『トゥルーヒューマン』は、読者の年齢層が高いにしてもちょっとエグ過ぎるように思う。

『青葉の頃』は、話は上手いけど、蒼樹さんの絵がまだまだ拙くて足を引っ張るはずだ。

 

 ライバルのどちらもマイナス事項を抱えているので、総合力で一歩上をいけたと思う。蒼樹さんの画力が上がる前で助かった。

 

 今の蒼樹さんが描いたら、どうだっただろうか。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「やっぱり、君達はギャグをやるべきだ」

「それは」

「待ってくれ。僕の説明は、まだ終わっていない」

 

 次回作の打ち合わせ。

 シュージンは、具体的な案をまだ出せていない。

 赤マルのライバルになりそうな2作品から刺激をもらったみたいなので、そこまで心配していない。

『青葉の頃』と『トゥルーヒューマン』が、どこまで票を集めるのか気になるらしい。

 結果を受けて、話のバランスを取るつもりみたいだ。

 

 というので、僕達の案が無いのもあって、今回も港浦さん主導で話が進んだ。

 独演会パート2だ。

 

 今回の港浦さんは、データで武装済みだった。

 用意した資料に目を通すと過去のギャグマンガとストーリーマンガのどちらが長く続く傾向にあるのかとかが見えてくる。

 連載を勝ち取った場合は、ギャグマンガの方が強いみたいだ。

 ストーリーマンガは続くと強いが、あっさり打ち切られるケースも多いけど、ギャグマンガは連載さえ辿り着ければ、順位が落ちにくく粘れるみたいだ。

 

「息の長い連載を狙うならギャグがいい」

「僕達はヒット作を出したいんです」

「!」

 

 港浦さんが用意したデータには申し訳ないけど、僕はぶれなかった。

 シュージンに、ギャグは合わないし、僕もギャグの絵は合わない。

 

「でも、このデータを見たら笑いがあった方がいいのは分かる」

「シュージン……」

「ごめん、サイコー。でも俺はデータ派だから。データに嘘はないと思う」

「笑いがあった方がいいけど、それメインにしちゃダメだって」

「最初はメインでもいいんじゃね? 後から修正してヒットする例がたくさんある」

 

 港浦さんの用意したデータは、そのことも指摘していた。

 ギャグマンガは、人気が落ちてからの再浮上も、しやすいらしい。

 ギャグからバトルに展開できても、バトルからギャグにはしにくいからだ。

 

「……修正ありきは違うと思う」

「別に修正ありきってわけじゃないって、最初は本気で取り組む。それでダメなら」

「ギャグに向いてるとは思わない。シュージンは、それでエイジに勝てると思ってる?」

「思わないけど」

「なら」

 

 ライバルのエイジに勝ちたい。

 その気持ちだけは、忘れたくない。

 僕達に作れる最高の作品を出して、ようやくエイジと勝負できるのかどうかだ。

 向いていない作品に取り組む余裕なんかない。

 

「描くならトップを取りたい、看板になりたい。サイコーのその気持ちもわかる。俺もそうじゃないとダメだって思ってた」

「思ってたって……」

「港浦さん。看板作品じゃなくてもアニメ化することはありますよね」

「優先順位は人気作の後だが、アニメ化する作品はある。最近は、深夜アニメとかで、枠も増えてきた」

「このデータを見ていて気付いたんだ。アニメ化は、人気になることもだけど連載が続くことも大事だって」

 

 シュージンの言っていることは、間違っていない。

 アンケートの人気的には10位前後だったものの連載が続いてアニメ化した作品がいくつも載っている。その中には、ギャグマンガでスタートしたものも含まれている。

 

「まずは、連載を長期化させる。それでアニメ化を狙う。こういう方法もアリなんじゃね?」

「……僕は反対」

 

 たぶん、シュージンが態度を軟化させたのは、僕のためだと思う。

 僕と亜豆の夢。アニメ化して亜豆がヒロインを演じて結婚。

 

 その夢がなければ、看板作品を狙わなくていいなんて発想にはならないはずだ。

 シュージンの気持ちは、ありがたい。

 でも、僕の夢が亜城木夢叶の足を引っ張ったらダメだと思う。

 

「真城くん。高木くんは、いいって言ってくれている」

「サイコーがOKならです」

「君達は若いんだ。まずは、連載することが大事なんじゃないか」

 

 話がおかしくなっている。

 ギャグなら連載が続けやすい。

 連載が続けばアニメ化しやすい。

 

 この二つはおかしくないけど、視点が一つ欠けている。

 ギャグじゃなければ、連載できないのかどうか。

 

「亜城木夢叶が成功する道は、シリアスな話だと思います」

 

 絶対にそんなことは無い。

 シュージンの話ならシリアスで勝負ができるし、看板が狙えるはずだ。

 

「話を作るのは高木くんだろ。真城くんが決めるのはおかしい」

「おかしくないですよ。シュージンの才能は僕が一番知っています。それに、僕の絵もギャグに合っているとは思えません」

「だったら、真城くんが絵を変える努力をするか、高木くんが他の人に絵を描いてもらうかだ」

 

 一瞬、時が止まった。

 港浦さんが何を口にしたのか解釈するまで時間が掛かってしまった。

 

 聞き間違いだと正直思った。

 

「な、何を言ってるんですか」

 

 でも、シュージンが港浦さんに問い返したことで、僕が耳にした言葉がそのままの意味だったことを悟った。

 

「『やらない』『やらない』って主張を曲げないのなら、別の人に作画してもらうしかないだろ」

 

 売り言葉に買い言葉だったんだと思う。

 それでも、亜城木夢叶に対して言っていい言葉じゃない。

 

「サイコー帰ろ」

「シュージン」

「これ以上話しても無駄だ」

「待てって……」

 

 シュージンが店を出た。

 今の港浦さんには、何を言っても互いのためにならないと思う。

 仕方なく僕もシュージンの後に続く。

 

「…………」

「…………」

 

 ファミレスを出てどれくらい歩いただろうか。

 無言で前を歩くシュージンの背中から怒りが伝わってきて、僕は何も言えなかった。

 

 仕事場とシュージンの家との分岐点。

 その交差点が見えたところでシュージンの足が止まった。

 

「サイコー……ジャンプ諦めるか?」

「!」

 

 まさか、シュージンがそこまで言うとは思わなかった。

 驚きで言葉が出せない。

 

「俺は、ジャンプよりサイコーと一緒にやりたい」

「……シュージンのその言葉だけで充分だって」

 

 今の立場を捨ててでも僕と一緒にって言ってくれたのが嬉しかった。

 僕も同じ気持ちだ。

 だからこそ、冷静にならなければならない。

 

「けどさ、ジャンプでやっていくのなら港浦さんとだろ。一緒にできると思うか?」

「……厳しいかも」

「だろ」

「港浦さんって勢いで突っ走るところあるから……フォローとかしたくないけど」

 

 勢いだけでどうにかなるほど、甘い話はない。

 

 僕とシュージンは、二人で亜城木夢叶だ。

 一時的に解散した事はあったけど、ずっと一緒にやっていく。

 

「だよなー。たぶんその場の勢いで本気じゃないんだろうけど、それでも許せねー」

「…………」

「って。サイコーは冷静だな」

「シュージンが怒ってるのをみたら、僕が怒る必要ないかと」

 

 港浦さんは、怒って暴走した。

 シュージンは、怒って出ていった。

 これで、僕まで怒ったら本当に破綻してしまう。

 怒っている人がそばにいたら、冷静になってしまうアレだ。

 

「最悪、ジャンプじゃなくてもシュージンと一緒ならそれでいい」

「サイコー」

「でも、おじさんにジャンプで1位を獲ったって報告したい。これは夢とは関係ない僕の目標」

「あーーー……川口たろう先生か。そうだよな、サイコーにとってはジャンプであるって事も大事だよな」

「シュージンは、どうせやるなら日本一の雑誌だっけ?」

「言うなよ、恥ずかしいじゃん。昔からジャンプ好きだったし」

 

 おじさんの連載していたジャンプでおじさんの獲れなかった1位を獲る。

 これも、ジャンプで達成したい目標だ。

 でも、これこそ僕個人の事情なので、シュージンまでは巻き込めない。

 

「港浦さん、謝ってくるだろうな」

「それがなかったら終わりでいい」

 

 そこは、絶対に譲れないラインだ。

 

「謝ってきたらどうする?」

「……ノーコメント」

 

 頭の痛い問題だった。

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