(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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もしかして、ばれてる?

「なあ、親友。ちょっと、いいか」

「どうした親友」

「俺の婚約者って知ってるか?」

「何言ってんだ。当たり前だろ」

「だったら話が早い。お前にしか頼めない事がある」

「……厄介ごとの気配しか、しないんだけど」

「そんな厄介ごとじゃない。お前に俺の婚約者を寝取って欲しいんだ」

「厄介ごとじゃねえかよ」

 

 僕の叫び声が響いた。

 親友よ、それはない。

 

「いや、だってさ。お前好きだろ」

「え?」

「それならお前の方がいいかなって」

「気づいてたのか」

「だいぶ前から」

 

 

   ◇◇◇

 

 

「どう?」

「いや、どうって言われても……」

 

 感想を求められても困る。

 シュージンが用意してきた新しい話。

『君は僕から奪われた』

 まだ冒頭だけだけど、続きがどうなるのか気になるもので、インパクトはあった。

 ただ、内容が親友の婚約者を親友の依頼で寝取るってなんだ。

 ただでさえ内容がジャンプでやるには、スレスレで際どい。

 それを、親友と親友の彼女に手を出しているコンビの亜城木夢叶で描くって、限界ラインを突破してアウトだろ。

 リアリティーは、メチャクチャ出そうだけど。

 

 僕は、どう返すのが正解なんだ。

 というか、シュージン。どこまで知っている。

 

 待て、慌てちゃダメだ。

 まずは、もう一人の意見を聞いてからだ。

 

「見吉はなんて言ってた?」

「まだ冒頭だけだから、香耶ちゃんには見せてない」

 

 見吉よ。こんな大変なときに限って役に立たないとは。

 タイミングよくこの場にいないのもずるい。

 

「これって参考にしてる?」

「したした。バレバレ?」

 

 そりゃ気づくって。

 気づきたくなかったけど。

 

 ここまで知られているのなら謝った方がいいのか。

 いや、でも、それだったらこんなに回りくどいことをするのか。

 ダメだ。シュージンがどうしてこの話にしたのかが分からない。

 

「シュージンは、この話がやりたいってことでいいのか」

「そうじゃなかったら、持って来ないって」

 

 マジかよ。これで連載を狙うって言うのか。

 どんだけドMだ。

 シュージンは、寝取られ嗜好だったのか。

 それだったら問題がほぼ解決のまさかのハッピーエンドルートが見えてくる。

 

「これでいけるって思ったんだけど」

 

 これでイケるのか。

 僕には無理だ。

 

「うーん」

「ダメか?」

「ダメっていうか……ちょっとエグくないか」

 

 だから、どう答えたら正解なんだ。

 誰か正解を教えて欲しい。

 

「もう少し青春寄りの方がいいか?」

「え?」

「『青葉の頃』と『トゥルーヒューマン』の結果次第で、青春色を強くするのかエグさを出すのか後出しする気だった」

 

 あれ? もしかして参考にしたってのはその二つ?

 

 確かに、寝取るのがメインってのを目をつぶったら青春恋愛っぽいし、でも寝取るっていうエグさがある。

 

「でも待ってられねーなって。港浦さんにギャグはやらないって突っぱねるなら、話作っとかないと」

「なるほど。ちなみに、この後はどんな展開?」

「いくつか考えてみたけど、婚約者は高嶺の花だったんだけど、実は性格が悪くて主人公と親友で押し付け合うとか」

「エグい」

「青春寄りなら、婚約者と主人公は両想いになるけど、立場が許してくれないとか」

「少女マンガっぽい」

 

 どこか蒼樹さんの作る話っぽくなった。

 

「親友から婚約者の情報を手に入れて、それを活かして口説こうとする」

「好きな食べ物とか?」

「そんなとこ。で、親友の持っている情報が正しいとも限らない」

「……親友も嘘つかれていたって事?」

「そうなる」

「結構、話広げられそうだな」

「だろ。恋愛って、パターンが千差万別だし、駆け引きも多い。嘘の入れ方によっては騙し合いの邪道にもできる」

 

 そうなれば、シュージンの得意分野だ。

 

「寝取るって要素いる?」

「口説く理由と断る理由がはっきりしていた方が、展開しやすい」

「そこまで考えてるのなら、いいと思う」

 

 設定もシンプルだ。反対する理由はない。

 

「おっし。じゃあ、これで話作ってみる」

「……うん、シュージンには、こっちが合ってる」

「港浦さんに、笑いを入れろって言われないかだけ心配だけどな」

「しっかり固めてから出そうぜ」

「だな」

 

 港浦さんの意見を入れる隙をできるだけ減らす。

 話の方向性だけ決めて、次の連載に向けて一歩だけ前進した。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 後日。

 

「シュージンに、ばれてないよな?」

「ばれてたら、あたしが一人でここに来るのを止めるんじゃない?」

「……それもそうか」

 

 シュージンが寝取られで興奮する可能性もあるけど、そんなレア属性は持っていないで欲しい。

 気づかれていないと考えた方が自然か。

 

 いよいよ、赤マルジャンプが発売した。

 明日には、速報が発表される。

 つまり、シュージンと見吉の結婚へのカウントダウンが始まったとも言える。 

 結婚が確定するのは本ちゃんだけど、速報が1位ならほぼ結婚だ。

 

「見吉もいよいよシュージンと結婚か」

「まだ先でしょ」

「あっという間だって。次の作品の方向性決まったし」

 

 大学が夏休みという事もあって、シュージンが仕事場に出入りする事も増えた。

 まだ1ヵ月くらいあるといっても、見吉と二人っきりになれなかったらあまり意味がない。

 

「赤マルの自信あるの?」

「亜豆が面白いって連絡くれたから」

「ミホは、いつもでしょ」

「いや、亜豆は意外と厳しいときは厳しいって」

 

 面白くなかったとまでは言わないけど、遠回しにつまらなかったことを伝えてくる。

 結構、ショックだったりする。

 

 とはいえ、亜豆に褒められるように頑張ろうって気にもなるから、素直に評価してくれた方が助かる。

 

「でも、結婚してもあんま変わらないんじゃない?」

「いや、全然違うだろ」

「あたしはここに顔を出すし、帰る場所が変わるだけだって」

「……子供とかは?」

「秋人さんにも聞いてみないと分からないけど、当分は考えてない」

 

 少し踏み込んでみたけど、拍子抜けするような回答だった。

 シュージンはどうなんだろう。

 結婚も、ゆっくりできるうちにしとくかって感じだし、シュージンも急がないのかもしれない。

 まだ若いし、仕事も安定しているとは、言い難いのもある。

 

 ということは、結婚するだけでそこまで変化がないのかも。

 見吉に手を出せなくなるっていうのは、大きな違いだけど。

 

「明日は港浦さんが打ち合わせに来るから」

「打ち合わせ? 土下座しにくるって秋人さんは言ってたけど」

「……たぶん、するんじゃないか」

 

 ドアを開けた瞬間、土下座する港浦さんの姿が脳裏に想像できた。

 

「秋人さんをあそこまで怒らせるって才能かも」  

「石沢以来か」

「どっちも真城のためっていうのが、秋人さんらしくて好き」

「言われてみれば……」 

 

 意識してなかったけど、どちらも僕が関わっている。

 

 石沢が、僕の絵をバカにした事に怒って殴りかかった。

 港浦さんが、僕を絵から外そうとした事に怒ってファミレスを出ていった。

 

 自分のためよりも人のために怒ってくれる。

 最高の相方だ。

 

「僕達の関係がばれたら怒ると思うか?」

「ん--、怒るって言いたいとこだけど、秋人さんってたまに想像を超えるから、分からない」

「そこがシュージンの面白いところだけど」

「ねー」

 

 普通なら怒るか泣くかしそうだけど、シュージンだとどうだろう。

 想像できないからといって、確認する事もできない。

 

「明日に備えて英気を養おう」

「英気を出してるじゃん」

「スッキリして回復するからいいんだよ」

 

 明日、港浦さんをどうするのかは、明日考えればいいか。

 見吉に手を出せるのも、あと少しなんだから、シュージンには申し訳ないけど、今のうちに楽しもう。

 二人が結婚してから、嫉妬しなくていいように。

 

「見吉」

「真城」

 

「「バクマン(バクマン)!!!」」

 

 この最高の身体のことをきっと忘れない。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 翌日。

 

「よし、1話のネームの清書終わり」

「何とか間に合ったな」

 

 待ち合わせ時間の30分前に、1話のネームが完成した。

『君は僕から奪われた』

 青春寝取り恋愛だ。

 

 1話は、親友の依頼を受けるところから、主人公がヒロインを不良から守るところまでだ。

 予定では、ヤラセの不良だったけど、手違いで本物を相手にする事になってしまい、ボコボコにされながらも守り抜く主人公。

 顔を赤らめながらお礼を言うヒロインで締めとなる。

 

 1話らしい分かりやすい仕上がりだ。

 

 まだ構想段階らしいけど、2話はヒロインに看病される話らしい。

 1話で主人公を描き、2話でヒロインを描く。

 王道的なやり方になっている。

 

 ありきたりな展開で不安は残るけど、序盤から捻っても読者はついてきにくいと思う。

 

「担当に相談できないのって結構きついな」

「港浦さんだからな……」

 

『TRAP』のときは、服部さんが連載会議に出す3話までカッチリと導いてくれた。

 外さない手堅い内容だったので、それを参考にしている。

 あとは、恋愛マンガでもそれでいいのかどうかだ。

 

 うーん、どうなんだろう。

 シュージンの才能を信じるしかないか。

 

「来た……」

「土下座するのかな」

「されても困るけどな」

「言えてる」

 

 チャイムが鳴った。

 審判の時だ。

 シュージンと二人で玄関まで向かう。

 

 港浦さんの第一声はなんだろうか。ひどい顔してるんだろうな。

 

 不安半分で、扉を開けると、想像通りの青ざめた顔の港浦さんと──

 

「すまないが、僕も邪魔させてもらう」

 

 想定外の服部さんがいた。

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