(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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最終回!? 宣戦布告とお別れ

「本ちゃん1位だ。おめでとう」

「ありがとうございます」

 

 無事に赤マルジャンプのアンケートで、1位を獲得することができた。

 嬉しいというより、プレッシャーから解放されて、ホッと胸を撫でおろした感じだ。

 

 新人とかの作品が並ぶ中で、連載作家+連載作の番外編で巻頭カラーだ。

 この条件で1位を獲れなかったら、そっちの方がヤバい。

 巻頭カラーを与えてくれた編集部の期待に応えられてよかった。

 

 速報がよかった時点で大丈夫だと思っていたけど、何があるのか分からないのがアンケート。ジャンプの怖いところだ。

 

「シュージン、おめでとう」

「なんだよ、サイコーもだろ」

「いや、結婚。これで決定だろ。元々3位以内が条件だったし」

「そうか」

「そうかって……」

「まだ実感が……」

 

 岩瀬との事があって、急に進んだ結婚話だ。

 準備は進めていたはずだけど、実感が追いついていないのかもしれない。

 まあ、シュージンが逃げ腰でも、もう逃げられないと思う。 

 

「ちょっと、秋人さんは、私と結婚したくないってわけ」

「別にそんなんじゃないけど……」

「それならもっと喜びなさいよ」

「やったー……」

「なんか、しらじらしい……」

 

 これほど弱弱しいやったーを初めて聞いた。

 

「明日からさっそく部屋を見に行きたいんだけど、大丈夫なの?」

「連載会議まで1ヵ月以上あるし、しばらくは結婚優先でいいから」

 

 亜城木夢叶の活動はシュージンが話を作らないと始まらないので、しばらくは休みになりそうだ。

 シリアスな笑いの実現のために、絵の幅を広げたかったのでちょうどいい。

 

「一日で十分だって。俺は部屋にこだわりないし、香耶ちゃんに任せてもいいくらい」

「3か所まで絞り込んでるんだから、最後くらい付き合いなさい」

「分かった分かった。とりあえず、明日は部屋回って決める。生活が落ち着いたら婚姻届けを出しに行こう」

「うん」

 

 見吉の父親の熊は、不動産屋だ。手回しは早い。

 既に親への挨拶や家具とかは決定済みらしいので、あとは部屋を決めて暮らせるようになれば、終わりみたいだ。

 

「本当は、サイコーに証人になって欲しかったんだけどな」

「20歳未満はなれないんだから、仕方ないって。俺と亜豆の結婚は、シュージンになってもらうから」

「任せとけ」

「私もなるー」

「いや、見吉はちょっと」

「なんでよ、証人は二人なんだからいいでしょ」

 

 見吉が証人ってなると結婚がなんか軽くなるみたいで嫌だ。

 新郎新婦でそれぞれ選ぶのが基本らしいから、亜豆が見吉を選んだら諦めるしかないけど。

 

 赤マル1位にシュージン達の結婚。

 久しぶりに仕事場が、幸せな空気に包まれた日だった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 翌日。蒼樹さんから電話があった。

 

「おめでとうございます」

「ありがとうございます」

 

 僕達の順位を聞いて、電話してくれたみたいだ。

 僕達も連載準備に入っていたので、頻度は減ったものの交流は続いている。

 っていっても、見吉がいる時限定で蒼樹さんが仕事場に来るだけで、二人っきり会うことはなかった。

 自然と、シュージンと蒼樹さんも顔を合わせている。

 

「私は3位でした」

「……おめでとうございます。3位なら連載狙えますよね」

「はい、このまま進めて行こうって話になってます」

 

 僕達が1位なのに、おめでとうって言っていいのか少し迷ったけど、3位なら連載が狙えるはずだ。そういう意味でおめでとうが正しいと思う。

 

「ただ、絵が……」

「何か言われましたか?」

「中井さんともう一度組んでみては、と」

「それは……」

 

 元々とりあえずこれでって言われていたんだっけ。

 

 編集部としては万全な体制で連載をさせたいみたいだ。

 気持ちは分かるけど、蒼樹さんは一人で描けるように練習をしていた。

 どう言葉を返していいのか分からない。

 

「中井さんに連絡してみたんですが……やっぱりあの人とは無理です」

「何かあったんですか?」

「加藤さんに夢中みたいで、ちょっと……」

「……どうしようもありませんね」

 

 何をやってるんだよ、中井さん。

 あれだけもう一度連載したいって言ってたのに、何だったんだ。

 僕がアシスタントで声を掛けたのが、まずかったんだろうか。

 加藤さんと中井さんを出会わせた事に、責任を感じてしまう。

 

「それで、どうすればいいのかが……」

「蒼樹さん。赤マルの読切の描き直しってどうなりました?」

「もうすぐ終わる予定ですけど」

 

 前に見せてもらった時は、半分までだった。

 しっかりと原稿を進めていたみたいだ。

 

「それを完成させましょう。担当に見せて判断してもらえばいいと思いますよ」

「……私一人でできるでしょうか?」

「本誌に載っても大丈夫なレベルまで達していると思います」

 

 平均にギリギリ届くのかどうかくらいで、上手いとは決して言えないまでも、下手ではなくなった。

 基本さえマスターできれば、あとは連載が続いていくうちに上達していくはずだ。

 

「もし悩むことがあれば言ってください。いつでも相談に乗りますから」

 

 これからは、連載会議、連載と亜城木夢叶として忙しくなりそうだけど、高校に通っていた頃を思えば、多少は時間を作れるはずだ。

 蒼樹さんにならなんでも乗りたいし。

 

「……お願いします」

「僕達も次の連載会議で、連載を狙います。蒼樹さんには負けませんから」

 

 宣戦布告は、忘れない。

 

「勝負ですね、負けません」

 

 その言葉が聞けて嬉しかった。

 成り行きで絵の先生っぽくなってしまったけど、それだけではなくライバルでありたい。

 福田組は仲間であり、ライバルだ。

 一番のライバルは新妻エイジってのは譲れないけど。

 

「……勝ち負けではなく真城さん達と一緒に連載できたら嬉しいと思います。それでは」

「あ、はい、それでは」

 

 最後の最後でカワイイ声*1で可愛い事言って電話を切りやがった。

 宣戦布告したのが台無しだ。

 

 蒼樹さんは、手強い。

 改めてそう思うのであった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「真城、いたー」

「どうしたんだよ……こんな時間に」

 

 午後11時。

 仕事場に泊まるのか家に帰るのか、そろそろ決めようとしていたところに見吉が訪れた。

 居残ってこの時間になる事はよくあるけど、この時間に顔を出すのは珍しい。

 

「今日中に言っておかないとと思って」

「何がだよ」

 

 急いで来たらしく見吉の息は荒れていた。

 それを整えるように、見吉が何度か深呼吸するのを待った。

 

「真城」

 

 見吉はまっすぐに僕を見ている。

 

「あたし、明日秋人さんと結婚する」

 

 言い終わった見吉は笑顔だった。

 今まで見た中で一番眩しく感じるようなものだ。

 向日葵のような笑顔って言葉がピッタリだ。

 

「知ってるし」

「……そこは、おめでとーでしょ」

「おめでとう」

「感情がこもってない。やりなおし」

「おめでとーーー」

 

 無理やりにでも声を張り上げて祝う。

 おめでとうで合っているはずだ。

 でも、本当に心の底から祝えているのかっていうと自信が無かった。

 

「何で泣くのよ」

「泣いてないし」

 

 視界が歪んでいるのは、単に一日中絵を描いていて疲れたからであって、それ以外の理由はない。

 見吉の笑顔が眩しかった。これでいこう。

 

「真城が後押ししてくれたんでしょ」

「さっさと結婚した方がいいよって言っただけ」

 

 見吉がシュージンの事を好きなのは知っている。

 シュージンも見吉の事を好きなのは知っている。

 

 お互いに両想いなら、さっさと結婚した方がいいと思った。

 僕と亜豆の結婚がいつになるのか分からないし、二人には一緒になって欲しかった。

 それで二人が幸せになって欲しかった。

 

「わざわざそんな事を言いに来たのか」

「そんな事って大事な事じゃん」

「いや、知ってたし」

 

 婚姻届けを出すのがいつかまでは知らなかったけど、近日中にとは思っていた。

 というか、今日出してても驚かなかったと思う。

 

「……真城にお別れ言いに来た」

「別れって、そんな大げさな」

()()()()は、秋人さんのものだから」

「俺達は別に付き合っていたわけじゃないじゃん」

 

 大雑把に言えば、僕が二人に嫉妬して、性欲を処理してもらっていただけ。

 それが、僕と見吉の関係だ。

 

「いいの。あたしにとっては大事なことだから」

「…………」

「真城。あたし、明日秋人さんと結婚する」

「うん」

 

 僕は何とか返事を発した。

 

「絶対に幸せになる」

「うん」

 

 シュージンなら絶対に大丈夫だ。

 見吉を不幸にするような事はしないはずだ。

 

「だから、今までありがとう」

「うん」

 

 僕と見吉の歪んでいた関係は、これで終わりだ。

 これでリセットだ。

 明日からは、親友の妻と夫の親友という関係になる。

 

「これからも亜城木夢叶として、秋人さんをよろしくね」

「任せろ」

 

 あ、あと、見吉も三人目の亜城木夢叶って言っていいか。

 だから、それを含めて亜城木夢叶の一人として、任せてもらうしかない。

 

「うん、頼りにしてる」

「頑張る」

「頑張れ」

 

 これで、結婚前に終わらせたかったやりとりは、終わりだった。

 おかげで引っかかっていたものが、取れたように思う。

 する必要があるのかって思っていたけど、わざわざ時間を作ってもらえてよかった。

 

「それじゃ、おしまい。帰るね」

「おう」

 

 自然と涙も引いていた。

 笑って見送ることができる。

 

「って、真城、なんで手を掴んでるの?」

 

 見送る事ができるけど、クリアになった視界は時計の針を捉えていた。

 

「11時31分。あと30分くらい、シュージンのものじゃないんだよな」

「そりゃそうだけど……まさかアンタ」

 

 それだけ見吉は察したみたいだ。

 

「脱いで」

「……真城ー、いい感じで終われそうだったのに」

「いいじゃん。こっちの方が僕達らしいって。最後の記念に」

「何の記念よ」

 

 とか言いながら、しっかり服を脱いでくれるあたり見吉は優しい。

 

「さようなら記念?」

「どんな記念よ」

「最後に一発やっとけば、別れても、まあやれたからいっかってなるじゃん」

「最低」

「なんとでもいえ」

 

 オーバーすると笑えないからサクッと終わらせよう。

 

「見吉」

「真城」

 

「「バクマン(ラスト)!!!」」

 

 

 こうして、最低なお願いから始まった僕と見吉の最低な関係は、最後の最後まで最低な終わり方をしたのだった。

 

 

亜城木夢叶先生の次回作にご期待ください。

『(性欲が)増しろ最高のバクマン』は もうちびっとだけ続くぞ!

*1
CV:川澄綾子 出演作:げんしけん 大野加奈子




本編はここまでとなります。

50話からは蛇足編をお送りします。
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