「キャラの設定だけできてるんだっけ?」
「犯人を騙す専用の探偵。これがキャラデザ」
放課後。久しぶりにシュージンも仕事場に来た。
おまけで、見吉までついてきた。
見吉はこれで、二日連続だ。
ネームは全くできなかったけど、キャラデザは先行して済ませていた。
いくつか描いた中から自信があった1枚をシュージンに見せる。
「おー、特徴的なシルエットがいいじゃん。どんなネーム考えてたんだ?」
「冒頭で犯人を騙すシーンから入って、こういうキャラだってのを見せようと思ったんだけど、どう騙したらいいかで詰まって」
事件の解決シーンから入れば、どういう作品でどういうキャラかを読者に伝えることができる。
イメージ的にはルパンのテレビスペシャルだ。
最初に盗みを成功させるシーンから入るのが王道だと思う。
泥棒だから盗みのシーン。探偵なら解決シーンから。
騙し専門なら当然騙して解決するシーンからだ。
「だったら、探偵が変装とかできたら駄目か?」
「変装?」
「殺された人に成りすまして犯人の動揺を誘う」
「それいい。変装なら定番だし、絵で表現して映えそう」
ルパンも変装の名人だし、主人公の探偵が変装できても問題ないはず。
毎回いろんな変装ができれば、話の幅も広げやすくなる。
定番ネタなのに、なんで思いつかなかったんだろう。
自分の視野の狭さに凹みそうだ。
「もっと早くシュージンに相談しとけばよかった。ずっと詰まってのが馬鹿みたいだ」
「いや、この主人公が魅力的だって思えたからすぐに思いついただけで、キャラがあっての思いつき。ミステリーでいくことは決めてたけど、とっかかりで詰まってたのは俺も同じだから。1ヵ月掛かっても納得いくネーム出来なかったわけだし」
言われてみればシュージンの考える話は、話が面白いけどキャラクターが弱いことが多い気がする。
「ミステリーってトリックも大事だけど、普段は不真面目だけど決める時は決める金田一一、見た目は子供で頭脳は大人の江戸川コナンとか、キャラクターも重要だから。この主人公いいよ。今までの中で一番連載向きだと思う。いけるよ、これ。この主人公で絶対連載獲ろうぜ」
「おう」
シュージンが燃えてるし、このキャラが主人公で決定だ。
この勢いでネームをって、シュージンがソファーに座り込んだ。
そして、大きく息を吐いた。
「サイコー。ミステリーで連載狙うなら、ネタは多く用意したい」
「そうだな。連載用ネームだけじゃなくて、使えそうなネームは揃えておいた方がいいんじゃないか」
「最低10本がラインだと思う」
連載会議に回してもらえるネームは3本だと聞いているけど、その3本でネタ切れになっていたら連載なんて無理だ。
使えるネタは、多く用意するに越した事はない。10本用意するというのは、妥当だと思う。
「俺も服部さんに見せる段階で、それくらいは用意した方がいいと思う」
「服部さんは、高校を卒業するまで……2年かけてって言ってたけど、どれだけ待てる?」
「ミステリーなら時間をかけてじっくり練るのは、有りだと思うけど、2年は長過ぎる」
同じ高校生のエイジが、既に連載しているんだ。
高校生であるうちに、連載したい。
いや、それだと2年と変わらない。目標は高い方がいい。
今が1年の9月だから。
「高校1年が終わるまで……半年でネームを作りたい」
「半年……か。そうだよな。時間をかけるっていっても、それくらいが限界だよな」
燃えているシュージンなら高い目標にも乗ってくるかと思ったけど、イマイチ乗り気じゃないみたいだ。
「……もっと時間が欲しいって事?」
「推理ものでネームを描いているって伝えたら、服部さんから勉強しろってミステリー関係のDVDとか本とかがビッシリ詰まったダンボールが6箱、昨日届いたんだ」
「6箱!?」
あの狭い部屋に6箱。
「勉強になるのは間違いないし、全部チェックしておきたい。でも、あれ全部見てたらそれだけでも3ヵ月は掛かる」
「3ヵ月か……」
経費なのか服部さんの自腹なのか分からないけど、相当かかったんじゃ。
服部さんも、それだけ本気って事だろう。
見ないでネームを進めることも出来るけど、それだけ本気なら、生半可な出来のミステリーだと認められそうにない。シュージンの言っている事は、正しい。
ただ、3ヵ月かけて履修してからとなると、そこから残り3ヵ月で10本。
連載を考えるなら週に1本ペースだから、それよりは楽だけど、それはキャラや設定が埋まった上で成り立つ話だ。
0から生み出してそのペースで10本描くのは厳しい。
「話の完成度の為には、全部見ておきたい。だから、時間が欲しい」
「服部さんは、2年後の連載をって言ってるんだっけ?」
「ああ。高校生の間は、準備に充てるくらいでいいって事だと思う」
シュージンは3ヵ月と言ったけど、ダンボール6箱ならかなり無理して目を通して何とかって感じか。
しかもそこまでやって、最低ラインだ。
知識がないとどうしようもない。その知識を手に入れるためにはどうしても時間が掛かる。
僕も手伝った方がいいか。
多少はトリックを知っておかなければ、マンガにする時の見せ方も上手くいかないかもしれないし。
2人で割れば、ダンボール3箱。
絵の勉強を止めるのはキツイけど、1人でやる事を決意して止まっていたのと比べたら、ゴールが見えているだけマシだ。
よし、シュージンに手伝うことを伝えよう。
「シュージン、俺も」
「決めた!! あたし、夢変更する!!」
俺の決意は、見吉の叫び声によって打ち消された。
声がでけーよ。
詳しくは知らないけど、小説家になるって夢があったんだっけ。
「あたしの夢は高木と真城の成功!!」
「何、言ってんだ」
「意味わかんねーし……」
人の成功を夢って言われても、要領が掴めない。
「だからぁーーその小説とかDVDとかは、あたしが全部観て高木に要点を伝えるの。それなら時間短縮できるでしょ。まとめとけば、真城も要点だけ見れるし」
両手の人差し指を上げているのは、いいアイディアが思いついたポーズなのかな。
もしくは国語が2らしいので、国語が2というのを両手で表現してるのか。
「あたし、ミホと真城には結ばれて欲しい。それが一番の願いだもん」
こういうの聞くと見吉っていい奴だよなって本当に思う。
「そして、2人が成功したらあたし達も結婚」
その流れで、見吉がシュージンにプロポーズした。
シュージンは、飲み物を吹いた。
失礼だな。見吉は、いい奴なのに。
シュージンに迫る見吉と、及び腰のシュージンのやり取りが続く。
「真城、あたしにも手伝わせてくれるよね?」
「えっ!?」
これって、僕が同意したらシュージンと見吉の結婚も決まるのか。
さすがに、そこまで重たいものは決めれない。
シュージンがいいって言ったら、くらいで逃げるべきか。
「なんでもするから」
「──見吉、ありがとう。手伝ってくれ」
なんでもってそういう事だよな。
僕には反対する理由はない。というか、反対できない。
既に見吉からは、受け取り済みだからな。すまん、シュージン。見吉と結婚してくれ。
「よかったーーー」
「泣くなよ」
見吉が喜び泣きをしながら、シュージンに抱き着いた。
おめでとう、シュージン、見吉。末永くお幸せにな。
見吉、これからも『なんでも』頼む。
こうして見吉の協力を得て、半年で連載用ネームを5話以上作る事にした。
5話は最低でもネームまで仕上げる。
それ以外で5本は、ネームにできそうなネタを作っておく。
そこまで決めて、この日は解散となった。
見吉はさっそく高木の家までダンボールを取りに行くらしい。
帰り支度をしている見吉を呼び止める。
「見吉」
「なによ?」
俺は引き出しの中から合鍵を取り出して、見吉に差し出した。
「見吉にも渡しとく」
「え?」
「いいのかよ、サイコー。見吉に渡したらずっと居座りかねないぞ」
「そんときはそんとき考ればいいし。見吉の夢が俺達の夢なら、見吉だけ仲間外れなのは可哀そうだろ。ペンネームまでは、変えられないけど」
「…………」
亜城木夢叶。このペンネームでそれなりに定着してしまっている。
まだ連載経験が無いので、変えようと思えば変えられるかもしれないけど、響きも気に入っているので、変えたくない。
というより、見吉香耶の文字のどれかを亜城木のどこに足してもバランスが崩れそうで、困る。
シュージンも苗字だし、それに倣うなら見吉も苗字か。
見亜城木 亜見城木 亜城見木 亜城木見
吉亜城木 亜吉城木 亜城吉木 亜城木吉
正直、どれもパッとしない。
「いらないのなら渡さないけど」
「いるーーーー、いるわよーーーー。ちょっと嬉しくて返事できなかっただけだし」
奪い取るという表現がピッタリな感じで、持っていたカギは見吉の手に渡った。
そのままカギのついたキーホルダーに、つけはじめる。
たぶん家のカギっぽいな。
「たかぎーーましろが優しいーーー」
「良かったな、見吉。あんまり迷惑かけんなよ」
さっき泣いたばかりというのに、再び泣きだしかねない勢いの見吉の頭をシュージンが撫でた。
これくらいなら目の前でいちゃつかれてもいいや。
「かけないし。また高木はここに籠るんでしょ?」
「まあ……そうなるかな」
「じゃあ、私もそうする。邪魔しないから」
やっぱりそうなるよな。
ちょっと早まった気がするけど、見吉が嬉しそうにしてるし、いっか。
「ここに来るのはいいけど、親に迷惑かけるなよ」
「あ、それは大丈夫。あたしのところ共働きで遅いし、ほとんど放任主義だから」
「それならいいけど……」
放任されないと見吉のあの成績で放置されないか。
妙に納得してしまった。
格闘技経験者だし、あまり心配されていないのかもしれない。
本人が問題ないって言ってるのなら、問題ないんだろう。
こうして、僕達の夢に新しい仲間が加わったのだった。