(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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蛇足編
第五十話 狂いだした歯車


「え……だめだった?」

 

 連載会議当日。

 電話を受けたシュージンの第一声で、何があったのかを悟った。

 

「はい。はい……企画自体がダメ」

 

 見吉は連載が決まる事を想定してご馳走を用意していた。

 どうするんだ、これ。

 いや、残念会パーティーするしかないんだろうけど。

 

「『BBケンイチ』も終了ですか。はい。では、詳しいことはまた後日」

 

 僕達のアシスタントをしてくれていた、高浜さんの連載も終わってしまったみたいだ。

 シュージンが電話を切って、盛大な溜息をつく。

 

「はぁ……いけると思ったんだけど」

「港浦さんは、なんだって?」

「企画自体がボツ。練り直しとかじゃなくて、新しい話を考えないと無理だって……」

 

 連載会議前にやり直しを食らう事もあるけど、会議まで辿り着いた作品の結果は4つだ。

 

 1、連載決定

 2、練り直して、指摘されたところを修正して次の連載会議へ

 3、読切で試す

 4、企画自体がボツ

 

 今回は、一番悪い結果4だ。

 結果4を食らった作品は、完全アウトでジャンプに連載されることはない。

 完全に0から練り直して、新しい話を描かなければならない。

 

 この結果は、へこむ。

 

 港浦さんは、連載終了が決まった高浜さんとの打ち合わせがあるので、詳しくは後日らしい。

 連載中の作家が優先されるのは、仕方ない。

 

「うーん、結果を聞くときついな」

「あと『青葉の頃』の連載が決まったみたい」

「そっか……蒼樹さんに先を越されちゃったか」

 

 赤マルは無関係の読切だったので、単純比較はできないけど、赤マル1位だった僕達が落ちて、3位だった蒼樹さんの連載が決まった。

 そうなると2位はどうだったのか。

 

「『トゥルーヒューマン』は?」

「新井先生と蒼樹さんとしか聞かなかったから、たぶん落ちてる」

「蒼樹さんの逆転勝利じゃん」

 

 僕が絵を見るようになってからの伸びが凄かったから、蒼樹さんの連載もあるかもって思っていたけど、自分達が落ちることは想定していなかった。

 

 おめでとうって気持ちはあるけど、気を遣わせそうで言い難い。

 

「まー、落ちたものは仕方ないでしょ。暗くなっても結果は変わらないんだし、今日はたくさん食べて気持ち切り替えよー」

「見吉……」

「真城ー、ここに見吉なんて居ないんだけど」

「ごめん、香耶ちゃん」

 

 シュージンと見吉が結婚してからは、僕も香耶ちゃん呼びするようになった。

 見吉に強制された形だ。

 

 二人っきりで汚れた時に、香耶ちゃん呼びする事はあったけど、シュージンの前で呼ぶのはちょっと抵抗があったりする。

 そのせいで油断するとつい、見吉と呼んでしまう。

 シュージンは気にしてないみたいなので、僕が気にしすぎなんだろうけど。

 

 でも、見吉の言う通り、落ち込んでても仕方ないか。

 今日のところはご馳走を食べて英気を養おう。

 

「食うか……」

「だな」

 

 見吉のおかげで、多少は沈んだ気持ちを持ち直すことができた。

 見吉、ありがとう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「ボツになった理由だが、言い難いんだが『青葉の頃』が評価された結果だ」

「どういう意味ですか?」

「『青葉の頃』は、王道ど真ん中の青春物。君達のはそこから捻ったものだった。それでも十分勝負できると思っていたんだが、思いのほか『青葉の頃』の評判が高くて上をいかれてしまった」

 

 絵を教えている関係で、構図とかの指導のために連載ネームは見せてもらっていた。確かに、完成度は高かった。

 読切と比べたら別作品なくらいに良くなっていたはずだ、

 

「今回はタイミングが悪かったと言うしかない。捻りがあったとはいえ同じジャンルとして見られてしまったみたいだ。赤マル3位で、ある程度読者からの評価を得ている作品だ。さらにそこから伸ばしてきたら、後発としては分が悪い」

 

 読切で試した蒼樹さんと、試さなかった僕達で差が出てしまったみたいだ。

 

 赤マルジャンプを『TRAP』で使ったのが、どうだったんだろうか。

 そのおかげで単行本が出て印税がポンって入ったから、痛しかゆしって感じだ。

 

「……もう少し捻った方がよかったのかも」

 

 シュージンが、どこがダメだったのか反省する。

 

「いや、元々『青葉の頃』と『トゥルーヒューマン』を意識した作品だったし、被ってるって言われるのは仕方ない。捻り過ぎたら、それこそジャンプの読者層から外してしまう」

 

 親友の彼女を寝取るという時点でギリギリだ。

 それ以上攻めてしまうと、今度は攻めすぎてアウト判定を食らってしまうと思う。

 

「その読者層がまずかった」

「え?」

「『青葉の頃』は、年齢層高めの層に受けていた。君達が狙っていたのと同じだ。読切や練り直しじゃなく企画がボツになったのは、その辺りが影響したというのが班長の分析だ」

 

 紙面バランスの問題か。

 読者層が被る似たような作品を連載させるのならどちらかを選ぶ。

 判断としては妥当だと思う。

 ただ、それを言い出すなら『TRAP』にぶつけてきた『チーター』とかねえよって話だけど、あれは推理ものを流行らせるためにあえて被せたんだっけ。

 

『TRAP』は、被せられてダメージを食らった。

『君奪』は、被るからNGを食らった。

 

 編集部は、亜城木夢叶に対して冷たいんじゃないだろうか。

 同じ失敗を繰り返さないためだって、前向きに捉えるしかないんだろうけど。

 

「高校を舞台にした恋愛をテーマにした作品は避けた方がいいって事ですね」

「『青葉の頃』の連載が受けるのか次第だが、出すならそれ以上を目指せる作品じゃないと厳しい」

「分かりました。新しい作品を考えます」

 

 港浦さんと別れて、改めて反省会が始まった。

 

「ちょっと甘く見てたのかもな」

「『TRAP』の時は、万全を期してって感じだったもんな」

 

 金未来杯を獲る。

 学業との両立の証明のために、金未来杯と並行して原稿を描く。

 連載開始後にネタ切れしないように、ネームも何本も用意する。

 

 やれる事は全部やった上で挑んだのが『TRAP』の連載会議だった。

 ミステリーで行くって決めてから連載会議まで1年半掛かっている。

 

 それと比べたら今回は、赤マルの見本を読んでから2ヵ月で会議だ。

 

 既に連載がどういうものか分かっているだけに、突破できる自信があったけど、そんなに簡単なものじゃなかったらしい。

 

「でも、次の連載まで半年以上あけるのが普通だから、決まったら早過ぎだって」

「そんなもんか」

「企画がボツってのはきついけど、前向きに考えるといいこともあるし」

「いいこと?」

「シリアスな笑い。服部さんに言われて意識したけど、最初から意識してたわけじゃないじゃん」

 

 話の骨格が決まって、1話のネームまで作ったあとで、受けたアドバイスがシリアスな笑いだ。

 指摘されてからは意図的にそういうシーンを練ったりしたけど、最初からシリアスの笑いを入れる事を前提にした作品ではなかった。

 

「シリアスな笑いか」

「難しいけど、シュージンならできるって信じてる」

「……新婚生活早々、収入ゼロってきついし、頑張るか」

「連載開始想定だったもんな」

 

『TRAP』でもう一冊出せたのは、シュージンの方がありがたかったもしれない。

 貯金を切り崩すだけではなく、収入があったのは精神的に大きいはずだ。

 

 振り出しに戻ったけど、12月の連載会議での連載を狙って、亜城木夢叶は再起動だ。

 気合を入れなおして、次の話に集中しよう。

 

 って思っていたんだけど──

 

 

   ◇◇◇

 

 

 翌日。

 仕事場で新しい話をどうするのか、シュージンと話し合っていると電話が鳴った。

 

「あれ? 加藤さんからだ」

「あれって?」

「この時間って高浜さんのところでアシに入ってる時間のはず、どうしたんだろう」

 

 出てみないと分からないか。

 

「もしもし」

「突然ごめんなさい。真城さんに相談すべきか分からなかったんですけど、真城さん以外に頼れなくて」

 

 どうやら厄介ごとらしい。

 小声で話しているのは、高浜さんに聞かれないようにするためだろうか。

 

「どうかしましたか?」

「昨日の帰り道で、中井さんをはっきり拒絶したんです。それが原因か、今日中井さんがアシスタントに来なくて」

「ええ!?」

「高浜さんが連絡したら、マンガ家をやめて田舎に帰るって……私一人じゃどうしようもありませんし、とりあえず真城さんに相談しようと」

「中井さんがアシをサボって田舎に帰る!?」

「ええ!?」

 

 僕の声に続いて、シュージンが驚きの声をあげる。

 

 ついこの間蒼樹さんと衝突したと思ったら、今度は加藤さんか。

 ダブルパンチで致命傷になったのかもしれない。

 

「連絡ありがとうございます。僕から連絡してみます」

 

 電話を切って、すぐに中井さんに掛けてみた。

 

「中井さん。田舎に帰るなんて言わないでくださいよ。あれだけ絵が描けるのに、もったいないですよ」

「……絵が描けても望むものは何も手に入らない。絵しか見てもらえないんだ。分かっていたのに、期待して、利用して……自分が嫌になってしまった。止めても無駄だよ。もう荷造りを始めた。明日の夜には実家に帰る、じゃあ」

「中井さん、切らないで……中井さん」

 

 呼びかけてみたものの、帰ってきたのは機械音だった。

 

「くそっ」

「なんだよ中井さん。ちょっと自分勝手過ぎないか」

「シュージン……」

「振られたとかそういうのは同情するけど、アシをサボって実家に帰るってのはちょっと応援できない」

 

 僕もどうかと思う。

 でも、絵が描けても望んだ結果にならないという辛さは、同じ作画担当として中井さんの気持ちも分かってしまう。

 

「悪い、今日の話し合い終わりでいいか?」

「中井さんのところ行くのか?」

「いや、それは明日。今日はとりあえず高浜さんを手伝ってくる。中井さんが高浜さんのところでアシをやっていたのは、僕にも責任があるし……」

 

 連載終了が決まった作家がアシを探すのは難しい。

 そのことを身をもって知っているだけに、フォローしたかった。

 

「そうだな。まだ何も案とか出てないし、そっちを俺は手伝えない。サイコーに任せる」

「ごめん」

 

 すぐに高浜さんに連絡を入れて了承をもらうと、画材道具一式をまとめに入る。

 仕事場の戸締りはシュージンに任せて、急いで高浜さんの元へ向かった。

 

 次の話に集中したかったのに、なかなか上手くは回ってくれないみたいだ。

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