(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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お隣さんは蒼樹紅

 加藤さんに案内されて、仕事場の隣の部屋に向かうと蒼樹さんが現れた。

 

「今日からお隣ですね、よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします?」

「それでは、どうぞ」

「お邪魔します?」

 

 加藤さんに背中を押されたのもあって、案内されるがままに部屋に入ったけど、どういう状況だ。

 まだ展開に頭がついていけていない。

 

 入ってすぐのところにダンボールが積み重なっており、奥から見吉が顔を出した。

 

「あ、真城ーーー、ようやく来た。遅いーーー」

「見吉?」

「見吉なんていないから」

「……香耶ちゃん?」

「そんなのどうでもいいからさっさと手伝いなさい」

 

 じゃあ、わざわざ訂正させるなよ。

 

「すみません。どうしても男手が必要で」

「あ、いえ。分かりました。運べばいいんですか?」

「お願いします」

 

 ようやく何をしなければならないのかが分かった。

 どうやら引越しの手伝いで呼ばれたらしい。

 

 蒼樹さんのこの感じからしたら、たぶん、僕が事情を知ったうえで、ここに来ていると思っている。となると、サプライズ引っ越しのドッキリを仕掛けたのは、見吉と加藤さんか。

 見吉は天然で忘れていた可能性もあるけど、加藤さんは絶対にわざとだろう。

 昨日、泊まっていったのは時間調整のためか。

 夜中まで何回も求めてくるから、加藤さんに好かれてるなって感じていたのに、ドッキリのためかよ。

 その事実にガッカリだ。

 

「ダンボールごとにシールが貼ってますので、赤はこちらに、青はあちらにお願いします」

「分かりました」

 

 蒼樹さんは、男性が苦手なんだっけ。

 力仕事とか僕よりも見吉の方が役に立つと思うけど、頼られたのなら仕方ない。

 協力するか。

 

 僕は、ダンボールを指定された部屋まで運んでいった。

 

 

「…………」

 

 そういえば、間取りって3LDKだったんだっけ。

 おじさんの部屋は、一部壁を取っ払ってるから同じマンションの部屋なのに、印象が全然違う。

 とはいえ、作業スペースが作業部屋であることは、変わらないみたいだ。

 僕達の資料スペース側で、部屋が2つ独立している。

 片方を個人スペースにして、片方は応接間にするようだ。

 

 ということは、仕事場兼住居か。

 

「ここに住むんですか?」

「大学との兼ね合い次第ですけど、恐らくそうなると思います。今はまだ、前の部屋も残してますが……」

「なるほど」

 

 大学院というのがどのくらい忙しいのかは分からないけど、連載作家の忙しさは知っている。大学に通わないのなら、仕事場で暮らすのはアリだ。

 

 僕は実家が自転車の範囲内だから、今は帰ってるけど、連載が決まったら、たぶん帰ることは減ると思う。

『TRAP』の頃は、高校に通わないと行けなかったので、実家に帰っていた。

 卒業した今は、わざわざ実家に帰る必要がなくなっている。

 

 そうなると、蒼樹さんみたいに寝起きできるようなスペースが欲しいけど、おじさんの資料を処分なんてできないし、ソファーで寝起きするしかないか。

 

 

 ダンボールが減ってきた。

 最初は、みんなで運んでいたけど、今は僕一人で部屋まで運んでいる。

 女性陣は、振り分けたダンボールを開けて整理中だ。

 

「これでラストか……軽いな」

 

 最後のダンボールに貼ってあったシールを確認して、個人部屋へと運ぶ。

 やけに軽いけど、何が入ってるんだろうか。

 

「これで終わりです」

「ありがとうございます。ゆっくり座っててください」

「いえ、僕も手伝いますよ」

 

 女性陣だけ仕事をさせて、僕だけゆっくりするわけにはいかない。

 さっき、運んだばかりのダンボールを開封。

 

「あ、それは──」

「え?」

 

 中身を取り出すと、イチゴ柄の下着だった。

 ああ、下着の入ったダンボールだったのか。軽いわけだ。

 

 動じるな。ここで動じたら大事になる。

 

「これは、どの棚にしまえばいいですか?」

「変態っ」

 

 あたかもただの布地を扱うかのように、指でつまんで持ち上げてみたけど、蒼樹さんは許してくれなかった。

 とびかかるような勢いで、手にしていたイチゴ柄を奪われてしまった。

 

 そんなカワイイ声*1で怒らなくても。

 僕に手が出なかっただけ、マシだと思う。

 

「真城、自分の仕事場にいなさい」

「……はい」

 

 見吉にも怒られて、トボトボと仕事場へと戻る。

 なぜだ。

 頑張って手伝ったのに、腑に落ちないこともある。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「って事があったんだけど、どう思う?」

「何だそのハーレム主人公ムーブ。つーか、サイコーが悪いだろ」

「まあ、そっか」

 

 仕事場に戻って大人しく絵を描いているとシュージンが来た。

 午前中に起きた出来事を簡単に説明する。

 

 第三者のシュージンの判定でも僕がクロなら、悪いのは僕で間違いなさそうだ。

 

「蒼樹さんが引っ越してくるの今日だったのか」

「シュージンは知ってたのかよ」

「香耶ちゃんが関わってるから。このマンション全体の管理ってお義父さんの会社が関わってるだろ」

「あー……そういうことを言ってたような……」

 

 おじさんに頼まれて部屋の改装をしたのは、見吉の父親だったんだっけ。

 

「俺達って新居探してたじゃん。その中で、隣も一応候補に入ってたから、空室になってて入居者を募集していたのは知っててさ」

「そういえば、最近やけに静かだったような……」

 

 不在になっていたのか。

 マンション住民との付き合いなんてゴミ出しとかエレベーターで一緒になった時に挨拶をする程度なので、全然知らなかった。

 面倒な管理業務は管理会社に丸投げの部屋だし。

 

「結局、あんまり仕事場に近いのも切り替えできないからってので、違う部屋を選んだけどな」

 

 仕事場で寝起き出来たら楽でいいっていう僕とは違うか。

 この辺、作画と原作の違いかもしれない。

 できるだけ作業時間が欲しい作画担当と、話を思いつける環境が欲しい原作担当。

 気持ちの切り替えができた方が楽だってのも、分かる気がする。

 

「それとは別件で、蒼樹さんから仕事場を持つべきかで悩んでいるっていう相談を香耶ちゃんが受けて、あと『TRAP』の時にアシやってた加藤さん。高浜さんのところのアシが終わったら蒼樹さんのところでって話になったらしい」

 

 そうだと思っていたけど、加藤さんがチーフアシを引き受けたのは、やっぱり蒼樹さんの現場だったか。

 って事は、今後は加藤さんは隣で仕事するわけで、バクマンのための都合はつけやすくなるはず。

 点と点が繋がったじゃないけど、タイミングは加藤さんの方でどうにかするって言ってたのは、こういう理由だったのか。

 

「それで、谷草だったら通いやすくていいですねってのと、谷草で丁度いい物件が空いてるって話から、蒼樹さんが隣を仕事場にする事を決めて、今日が引っ越し」

「なるほど……そういえば、連載するなら仕事場がいるのかどうかとか前に聞かれて、ここまで見学にきた事があった」

「ここはだいぶ特殊な気もするけどな」

「作業スペースで大体一部屋は、変わらないって」

 

 無茶な工事をしたおじさんに言って欲しい。

 おかげで資料を大量に置くことができて便利だ。

 

 そろそろジャンプを置くのがしんどくなってきたから、一部は僕の部屋に運ばないといけないけど。おじさんの資料は、そのまま残しておきたい。

 

「それにしても、サイコー」

「なんだよ」

「蒼樹さんにだいぶ信頼されてるんだな」

「何が?」

「いや、手伝おうかって言ったら、女の子の引っ越しなんだから、秋人さんは大人しくしていなさいって香耶ちゃんに」

「ダンボールを運ばせられただけだから。信頼って言うより、使いやすかっただけだと思う」

「なんつーか、お疲れ」

 

 最後のはちょっとしたアクシデントだ。

 そこまで思い至らなかった僕が悪い。

 

 蒼樹さんと僕の関係って、ややこしくて自分でもよく分からなかったりする。

 嫌われてはいないと思うけど、好かれているとも思わない。

 最近は、汚れ先生って呼ばれなくなっただけ、マシになった。

 良くも悪くもマンガ家仲間に落ち着いたように思う。

 

 これからは、隣人のマンガ家仲間か。どうなっていくんだろうか。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「はい、引っ越し蕎麦お待ち」

「香耶ちゃんが作るのかよ」

「いいじゃん、皆で食べた方が美味しいし」

 

 僕達の仕事場で、蒼樹さん達も合流して食事になった。

 本来は、隣に引っ越された側である見吉が引っ越し蕎麦を用意するって、何が引っ越しなのかよく分からない。

 でも、見吉の言うように、みんなでこうしてワイワイ食べるのも、楽しかったからいいか。

 

 隣人が増えるのも悪くない。

 

「ミホにも連絡しよ」

 

 見吉が皆で食べているところを亜豆にメールしたら『真城くん、ずるい』って僕に連絡が来た。

 早くこの中に亜豆さんが加われるように、頑張らないと。

*1
CV:川澄綾子 代表作:ゼロの使い魔 アンリエッタ

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