(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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友達の友達

「高浜さん。編集長に担当の変更を申請したけど、却下されたって」

「へー……あの編集長に申し出るって、高浜さん度胸あるなー」

「担当が港浦さんなのが、それだけ嫌だったんじゃ」

「笑えねー」

 

 先日、高浜さんが怖い顔をして集英社に入っていった理由を本人から聞いた。

 そりゃ怖い顔になる。

 担当に左右される時点で才能がない証拠だと厳しい言葉を突きつけられたみたいだ。担当とやっていけないのなら他誌で描け、と。

 

 つまり、僕達も港浦さんからは、逃れられないことが確定した。

 

「ねじ伏せるマンガを描けか」

「編集長もキツイこと言うなー。俺達も担当のせいにするのは、やめようぜ」

「だな……それはいいんだけど」

「ん?」

 

 ここまでは真面目な話があったのでスルーしたけど、そろそろいいだろう。

 

「その頬っぺたどうしたんだ?」

「目立つ?」

「かなり……」

 

 シュージンが頬っぺたを赤く染めていた。

 俗にいうところの紅葉張れってやつだ。

 犯人は一人しかいないと思うけど、一応聞いておこう。

 

「劇場に行ったのが香耶ちゃんにばれた」

「何やってんだよ、シュージン」

「最後、踊り子の人に次回の割引券もらったじゃん。香耶ちゃんが洗濯する時に出てきて」

「捨てとけよ」

 

 僕は、ドリンクのカップとかと一緒に劇場のゴミ箱に放り込んで終わった。

 持ち帰ってどうするつもりだったんだ。

 もう一度足を運ぶつもりだったんだろうか。

 

 見吉じゃなくても怒りそうだ。

 

「取材って説明しても聞いてくれなくて」

「何の取材だよ」

「真城と一緒だったって言ったら、なんとか納得してくれた」

「俺まで巻き込むなよ」

 

 一緒に居たのは事実だけど、自分がばれたからって僕の名前まで出さないで欲しい。

 

「今朝、亜豆から『真城くん、最低』ってメール来たから、どうしたんだって思ってたけど」

「すまん、俺のせいだな」

 

 シュージンが大人の劇場に行ったことが見吉にばれる。

 僕も巻き込まれて、見吉に知られる。

 見吉経由で亜豆に拡散される。

 真城くん、最低。

 

「今朝、蒼樹さんから『汚れ先生』って呼ばれたから、どうしたんだって思ってたけど」

「それはちょっと呼ばれてみてー」

「ん?」

「す、すまん。俺のせいだな」

 

 最近は、真城さんに戻っていたのに、汚れ先生復活だ。

 女性陣が結託しているせいで、見吉にバレたら全員にバレる。

 負の連鎖がひどい。

 

 ちなみに、加藤さんから『グッジョブです』ってすごく前向きなメールが届いていたけど、それはスルーだ。

 大人の劇場通いを喜ぶなよ。

 

「亜豆に嫌われちゃったじゃん」

「大丈夫。そんな事もあるかと思ってフォローを考えてきた」

「フォロー?」

「11月5日は?」

「亜豆の誕生日」

「『誕生日ドッキリで亜豆の好感度を取り返そうぜ大作戦』だ」

「お、おう……」

 

 ダセえ。

 でも、他に案があるわけじゃないので、それに乗っかるしかなかった。

 

 シュージンの立てた作戦は簡単だ。

 昨日、見吉が亜豆の誕生日プレゼントとして服を買って来たらしい。

 それも結構値を張るものを。

 

 なんでも「秋人さんが劇場なんかに行く余裕があるのなら、ミホの誕生日プレゼントを奮発してもいいわよね」と()()()で言われて、認めるしかなかったとのことだ。

 つまりは、購入自体は劇場とは関係なく行われていたわけで、見吉の亜豆を思う気持ちは嬉しい反面、高木家でのシュージンの立場の低さを思わせる話だ。

 シュージンは、これからも稼ぐからジャンジャン使えって言ってるみたいだから、自業自得だけど。

 

 で、その誕生日プレゼントをすり替えてサプライズプレゼントをやろうぜってのが作戦だった。

 見吉には僕達が用意したプレゼントを運んでもらい、見吉が用意したプレゼントは、郵送で届くようにする。

 

「重さでバレないか?」

「ゴリラだからへーきへーき」

 

 見吉(ゴリラ)なら大丈夫か。

 ってわけで、すり替え用に同じ箱、同じ包装を用意しよう。

 僕とシュージンは、見吉が昨日買い物をしたショッピングモール、谷草ヒルタウンへと向かった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「で、どの店?」

「それを調べるところからスタートな」

「おい」

「港浦さんの尾行は失敗だったし、その続き。これも新作のため」

「ならいいけど……」

 

 手元にある情報は、箱のサイズと包装紙の柄だけだ。

 多数の服屋の中から店を探し出すのは、結構骨が折れそうだった。

 

 一軒一軒しらみつぶしに捜すローラー作戦だ。

 最初の数軒は、二人で回り、やり方の要領を掴んでからはそれぞれ1階と2階に別れて、服屋を回っていった。

 

 一人は恥ずかしいけど、これも亜豆のためだ。頑張ろう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「ここも外れか……」

 

 そろそろ折り返し地点ってところまで来たけど、正解を引けていない。

 ちょっと休憩しよう。

 タイミングよくベンチがあったので、小休止に入る。

 

 休んでいるうちにシュージンの方で見つかったりとかしないかな。

 なんて、他力本願な事を考えていた。

 

「あれ? 真城さん」

「え? 加藤さん……買い物ですか?」

「はい、友達と一緒だったんですけど、少し休もうかと」

「ああ、年だから」

「何か言いましたか?」

「いえ、何でもありません」

 

 迫力が怖い。

 負のオーラがやばかった。

 他にもベンチがあるのに、加藤さんは隣に座ってきた。

 

「近すぎませんか?」

 

 同じベンチに座るにしても、完全密着だ。膝と膝が触れ合っている。

 

「サービスです。ご指名ありがとうございます」

「チェンジで」

「却下します。真城さん、私に対して失礼過ぎませんか」

 

 そういう店じゃないところで、そういうことをされても困る。

 というか、そういう店に行った事がないから、加藤さんが正しいのかも判断できないし。

 

「こんな人目のある場所で」

「人目がなければいいんですか?」

「時と場合によります」

 

 加藤さんに下手に言質をとらせると後が怖い。

 誰に見られているのか分からないところで、キャバクラごっことか勘弁してくれ。

 特に谷草は地元なんだから。

 知り合いに見られたら、なんて言われることか。

 

「あーー、奈津実さん。何してるの?」

「リリカ」

 

 どうやら知り合いに見つかったのは、加藤さんだったらしい。

 茶色の長い髪の可愛いと綺麗の中間みたいな女性が加藤さんを指さしていた。

 

 慌てふためく加藤さんが見れるのかと思いきや、ピトっと僕の胸に頭を乗せるようにくっついてきた。

 

「って、おい」

「さっき話していた友達のリリカです。リリカ、こちらは真城さん。私がお金をいただいてお世話になっています」

「マンガ家とアシスタントの関係だから。離れて、誤解される」

 

 お金を払っていたのは間違いないけど、労働の対価だ。

 やましいところはない──とは言えないけど。

 

「もしかして亜城木夢叶先生ですか」

「声を抑えて……一応、そうなります」

 

 外でその名前で呼ばれるのは、恥ずかしい。

 

「奈津実さんがいつも自慢してますよ」

 

 加藤さん、めんどくさい人だと思っていたけど、友達に自慢してくれていたのか。

 それは恥ずかしいけど、嬉しいかも。

 自慢されて恥ずかしくないように頑張ろう。

 

「性欲が強いって」

「加藤さん!!」

 

 恥ずかしさ100%じゃねえか。嬉しさはどっかに消えうせた。

 頑張れない。もう、僕は頑張れないよ。

 

「私も興味あります。相手してください」

 

 そう言いながらリリカさんは、加藤さんとは逆側から僕に抱き着いてきた。

 ベンチで二人から抱きしめられるってどんな状況だ。

 性欲が強い僕に興味があるから相手しろって、そういうことなのか。

 展開が早すぎる。

 

「いったん、落ち着きましょう。加藤さん、どういう説明してるんですか」

「ごめんなさい。嘘をつけない性分です」

「嘘つき」

 

 なんとか両手に花ホールドを抜けだして、ベンチから立ち上がった。

 タイミングが良かったのか、周囲に人気はない。

 どうにか目立たずに済んだみたいだ。

 

「えっと、リリカさん。初対面の人にそういうことを言うのは、ダメかと」

「でもでも、あれだけ遊び人だった奈津実さんが今は一人の男性に一途だって知ったら、興味出てくるじゃないですか」

「加藤さん……」

「真城さんに身も心も捧げてますので」

「嘘つき」

 

 いや、嘘か本当かは分からないけど。

 少なくとも僕と亜豆との関係を知っていて、身体の関係にある加藤さんから心をもらっても持て余す。

 熨斗をつけてお返ししたい。

 

 あと加藤さん、友達からも()()()()遊び人だって思われるような人だったんだ。

 うん、なんとなく知ってたけど、あらためて言われると何とも言えない気持ちになる。

 

 早くこの場から立ち去りたい。

 というか、服屋のローラー作戦の続きをこなさないと。

 と、ここで閃いた。

 

「あの……今、この包装の服屋を探してるんですけど、知りませんか?」

 

 遊び人とその友達とはいえ、女性だ。

 僕達よりは、女性向けの服屋に詳しいはず。

 シュージンから転送してもらっておいた画像を加藤さんに見せる。

 

「ごめんない、分からないです。あ、でも服ならリリカが詳しいですよ」

 

 役立たず(加藤さん)は、僕から携帯電話をとって、リリカさんに見せた。

 

「このハート柄の店なら分かります」

「本当ですか!? どこか教えてもらってもいいですか」

 

 救いの女神がここにいた。

 

「今度、先生の仕事場に遊びに行ってもいいですか?」

「リリカっ」

「ダメなら教えません」

 

 女神じゃなくて悪魔がいた。

 加藤さんが窘めるものの、意思は固いみたいだ。

 

「……加藤さんと一緒なら」

「やったー、約束ですよ。えっと、店ですけど2階の……」

 

 類は友を呼ぶのか、加藤さんの友達は加藤さんの友達って感じの子だった。

 

 面倒な約束をしてしまったのかもしれない。

 とはいえ、これで店は特定できた。

 

 

 加藤さん達と別れて、シュージンと合流し、目的の店へと向かった。

 リリカさんの情報は正解で、これで誕生日ドッキリに必要なアイテムをゲットだ。

 

 あとは、箱の中身でサプライズドッキリを仕込んで、見吉の箱とすり替えて、任務完了となる。

 

「じゃあ、またあとで」

「おう」

 

 箱の中身を制作するために、僕は仕事場へと戻った。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 深夜。

 

「サイコー、夜中に悪いな」

「ほら、これ」

「入れよ、一緒にすり替えようぜ」

 

 外に出てきたシュージンに、サプライズを仕込んだ箱を渡して帰るつもりだった。 でも、シュージンは一緒に最後までやりたいみたいだ。

 

「おじゃまします」

 

 小声でそう返して部屋の中へと入った。

 シュージンの新居を最初に訪れるのが、こんなコソコソとした事になろうとは。

 

 シュージンの先導で、真っ直ぐに二人の寝室に向かう。

 見吉は、ベッドでグーグー寝ていた。

 うん、そういう顔だよな。見吉の寝顔って。

 それ以外の感想は出てこない。

 

 抜き足差し足忍び足で、クローゼットまで辿り着き、箱を交換した。

 

 部屋から離れたところで一息つく。

 

「緊張感はあったな」

「ああ。これで話ができそうだ」

「浮かんだのか?」

「完全犯罪。それが、次の亜城木夢叶のテーマだ」

 

 完全犯罪。

 シュージンがどんな話を出してくるのか、楽しみだ。

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