(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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お手伝い

「1話目できた」

「早かったな……」

 

 未成年に手を出してしまった翌日。シュージンが1話のネームを持ってきた。

 

「描き始めたら止まらなくてヤバイ」

「そ……そっか。読んでみる」

「俺はその間に2話を描く」

 

 筆が乗るのは、いい事だと思う。

 シュージンが描き上げてきたネームをチェックする。

 

『完全犯罪クラブ』

 予告していたとおり、完全犯罪をテーマにした作品だ。

 主人公が小さな悪戯を完璧に成し遂げるところからスタートし、自分と同じ事をする仲間を見つけて、完全犯罪クラブを結成する。

 

 内容としてはシンプルだけど、一つ一つの行動にリアリティがあり、引き込まれる展開となっている。

 

「うん、いいよ、これ。今までの話で一番面白い」

「だろ。自信作」

「ただ、キャラの区別化が難しいかも……」

「そこなんだよな」

 

 シュージンの作る話は、ストーリーを読ませるものでキャラで引っ張るタイプではない。キャラが強すぎると話のノイズになるので、バランスが難しいところだ。

 

「キャラデザで盛ってもいいか?」

「盛るって?」

「『ヒカルの碁』の進藤ヒカルみたいな……普通の小学生ってあんな髪形しないだろ」

「たしかに、特徴的な髪形だよな……」

 

 囲碁の才能を除けば、生意気な等身大の子供として描かれていた囲碁マンガの主人公。

 普通の小学生だったはずなのに、前髪だけ金髪で、残りは黒というコントラストの効いたインパクトのある髪形になっている。あんな小学生は、たぶんいないはずだ。

 ライバル役のおかっぱヘアーと比べたら、際立つ存在だった。

 

「そうか……その方がいいと思う。絵の方で調整できるならお願い」

「分かった」

 

 キャラデザは、連載会議が通った後でも変更できるので、時間を掛けて取り組もう。

 とりあえず、あとで色付け出来る感じの絵でネームの清書だ。

 

 1話だけでも傑作の予感がする。

 この作品ならエイジに勝てる。

 そう思わせるだけのパワーがあった。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「すみません、真城さん。1話の進捗が遅れていて」

「いえ、夕方からだけなら大丈夫です」

 

 シュージンが、ようやく話作りに動き出した。

 僕も気合を入れて連載ネームに集中したいところだったけど、蒼樹さんから声が掛かってしまった。

 

 予定よりも原稿が遅れてしまっているらしい。

 絵の面倒を見ている手前、放置することもできず、手伝いに入った。

 

 蒼樹さんみたいなカワイイ声*1で、頼まれてしまったら、拒否なんてできるわけがない。

 

「新婚ってことで今はシュージンも、早めに帰宅してますし」

「高木さんと香耶さんは、上手くいっているんですね」

「みたいです」

 

 シュージンは、結婚して夕食を家に帰って食べるようになったので、夕方からは一人で作業だ。

 仕事場にシュージンを残して手伝うのは無理だけど、一人でやる作業を夜に回して手伝う分には、問題がなかった。

 

 雑談を切り上げて仕事に入る。

 

 状況を確認すると、問題が起きているのは背景だ。

 キャラに関しては、ベタとかトーンとかがまだで、それを仕上げるだけだ。

 でも、背景は半分も下描きすら終わっていない。

 蒼樹さんは、2話の原稿に入らずに、1話の背景を描いていた。

 

「見たところですが、しっかりし過ぎのように思います」

「どういう意味ですか?」

「メインの舞台で何度も出てくる学校とかは、丁寧に作り込んだ方がいい。でも、通学路の背景とかまで、作り込む必要はありません。通学路だって分かればそれでいいんです」

 

 この辺りの強弱のつけ方は、慣れるまでは難しい。

『TRAP』で言えば、物語のキーとなる館についてはしっかりと作り込んで、中井さんに背景を担当してもらった。

 でも、それは例外中の例外で、基本的にアシスタントに任せたまま、ほぼノータッチだった。

 事件現場なんか、その回でしか出てこないので、それっぽい場所になっていれば問題ないからだ。

 

「加藤さんに任せるところは任せて、蒼樹さんが全部を担当しない。全体のバランスを見る必要はあると思いますけど、それでだいぶ短縮できると思いますよ」

 

 どうしても1話は設定を固めながら描くので、時間が掛かる。

 蒼樹さんの場合は、自分でどうにかしようとして余計に時間が掛かってしまっていた。それが進捗が遅れている理由だ。

 

「ストーリー上、制限の出そうなところだけ注意すれば、それで大丈夫です。あんまり固めすぎても、設定と矛盾するから話を動かせないみたいな事も起きますし、緩いところは緩くていいんです」

「……考えてみます」

「頑張ってください」

 

 蒼樹さんの真面目なところが、悪い方向に出てしまったようだ。

 こだわるところをとことん突き詰めるのはいい事だと思う。

 でも、どうでもいいところまでこだわってしまうと、週刊連載は成り立たない。

 いい意味での大雑把さも持ち合わせないとなかなか難しい。

 

 連載が続けば、力の抜きどころも分かるはずなので、しばらく試行錯誤を繰り返しながら頑張るしかない。

 

 僕は、手伝えるところだけ手伝おう。

 メインでは入れないので、補助に徹するしかない。

 

 蒼樹さんのアシスタントは、僕を除いて加藤さん含めて三人いる。

 チーフの加藤さんの実力は十分承知しているけど、他の二人はまだまだこれからみたいだ。

 加藤さんは、アシの指導をしつつの作業となり、いつもと比べたらかなりスピードが落ちてしまっている。

 これも遅れてしまっている原因だ。

 

 手伝うとしたらそこか。

 

「加藤さんは、自分の作業に集中してください」

「……助かります」

 

 とりあえず、加藤さんをアシの指導から解放する。

 これで加藤さんがペースを取り戻せるはずだ。

 

「分からないところがあれば、僕に聞いてください」

「お願いします」

 

 僕が不慣れなアシの指導を受け持ち、どうにか原稿を進めていく。

 それが一番効率的だと思っただけで、若い女性を手取り足取り指導したいとか邪な考えがあったわけではない。

 ショートカットで、はきはきと喋る女子大生が新鮮だな、とか思っただけだ。

 ロングヘアーのお姉さんも、それはそれでいいな、とか思っただけだ。

 

 対照的な二人を並べて──マンガの指導をしよう。

 

 その仕事場には、その仕事場のやり方があったりするけど、幸いなことに蒼樹さんも加藤さんも、僕が教えた部分があるので、仕事の進め方に差異はない。

 僕のやり方を教えれば、そのまま使えるのが利点だ。

 

 

 作業に没頭していたら、あっという間にアシスタントが帰る時間になっていた。

 

「お疲れ様です」

「すみません、助かりました」

「慣れるまでは、仕方ありませんよ」

 

『TRAP』は、つくづく小沢さんがいてくれてよかったと思う。

 小沢さんが全部仕切ってくれたおかげで、僕は僕の作業に集中していれば原稿が完成していた。

 アシの指導をして、仕事の振り分けをして、自分のアシ作業も他の数倍の勢いでやって、本当にスーパーアシスタントだったと思う。

 

 作画を自分で描くのは初めての蒼樹さんとチーフアシが初めての加藤さん。

 これで作業が滞りなく回ったら、そっちの方が驚きだ。

 

「連載会議に向けて忙しい時期に……」

 

 それはその通りだけど、認めると蒼樹さん気にしそうだ。

 

「今は、とにかく作業をしていたかったので、大丈夫ですよ」

 

『TRAP』終了から、かなりゆっくりできたので、そろそろ本格的に動きたかったのは、本当だ。

 勘を取り戻すために、アシスタントをするのも悪くない。

 

 シュージンの話作りがスタートしたので、ちょっと忙しくなり過ぎてる感じはあるけど、どうせ連載がスタートしてしまえば、今以上に忙しくなるのは目に見えている。

 これくらいはこなせないと、週刊連載なんて無理だ。

 

「そんなに作業したかったんですか……」

「没頭してる方が楽ですから」

 

 中途半端にやるよりは、割り切った方が楽だ。

 時間を持て余すよりは、何かをしていたい。

 

「だから……見吉が」

 

 だからこそ、見吉みたいなストッパーがいないとダメなんだけど、見吉は今度もストッパーをやってくれるのかだけが、心配だった。

 見吉にどこまで頼ってもいいんだろう。

 

「見吉さん……」

「え? 聞こえました?」

「ええ……」

 

 意識せず、口ずさんでしまったので、結構恥ずかしい。

 さっさとこの場を離脱しよう。

 

「仕事場に戻ります」

「……お疲れ様です」

 

 蒼樹さんが何か言いたそうにしていたけど流して、自分の仕事場に戻った。

 

 

 夜は、キャラデザだ。

 

 二人とも優等生だと似たような感じになるから、片方はワイルドにして片方は優等生っぽくした方がいいか。主人公に向いているのはどっちだろうか。

 明日、シュージンに相談してみよう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

「1話完成です。お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

 

 どうにかこうにか『青葉の頃』の1話が完成した。

 アシスタントの二人からも質問される事が減ってきたので、これで僕の出番は終わった。2話以降は、僕が参加しなくても回せるはずだ。

 

「真城先生、ありがとうございました」

「本当に助かりました。まだまだ手伝ってくださいよ」

「すみません、僕は自分の作品がありますので」

 

 面倒を見ていた二人から、すごく感謝されてしまった。

 なんだかんだ結構仲良くなってきたところなので、これでお別れなのは、名残惜しい気もする。

 

「真城さんを困らせたらダメですよ。終電大丈夫ですか?」

「あ、やば」

「帰ります。お疲れ様です」

「私もこれで失礼します。お疲れ様です」

 

 電車の都合でバタバタとアシスタントが帰って行き、蒼樹さんと二人っきりになった。

 僕も帰ろう。って言っても、隣の部屋だけど。

 

「真城さん、本当にありがとうございました」

「いえ。次の連載のために、勉強になりました」

 

 小河さんの事を思い出したついでに連絡をしてみたら、今は別の現場で忙しくしているみたいだ。

 次の連載会議で突破しても、小河さんは呼べそうにない。

 

 ということは、アシスタントに自分で指示を出す必要がある。

 ここで、アシスタントの使い方を再確認できたのは、勉強になったと思う。

 

「真城さん、無理してませんか」

「……多少は。でも、大丈夫ですよ。慣れてますから」

 

 連日手伝ってしまったので、疲れていないと言ったら嘘になる。

 でも、これくらいは多忙とは言えないから大丈夫だ。

 

「見吉さんの言っていたことが分かった気がします」

 

 僕が無理しないようにって話か。

 これで蒼樹さんまで結託されてしまうと困る。

 

 亜豆とも繋がっているので、真城包囲網が形成されてしまう。

 

「少し休んで行ってください」

「……分かりました」

 

 ここは、安心させておこう。

 それくらいの軽い気持ちで、蒼樹さんの仕事場に残ることにした。

 

 

*1
CV:川澄綾子 代表作:かのこん 源ちずる

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