(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

57 / 70
シュージンのライバルは僕のライバル

「ダージリンです」

「ありがとうございます」

 

 蒼樹さんが紅茶をいれてくれたので、ありがたくいただく。

 

 カワイイ声*1で言われたけど、ダージリンって、紅茶の種類なんだろうか。リプ〇ンしか知らない。

 いや、カップのブランドかもしれない。エルメスとかと似たような奴だ。

 

『有田焼ですか?』

『ダージリンです』

 

 うん、たぶん違和感がない会話だ。

 

 意味を聞いてみたいけど、無知をさらけ出すのは恥ずかしい。後で調べておこう。

 肝心の味は、たぶん、美味しいと思う。

 

 香りはいいなって思うものの、正直よく分からなかった。

 リ〇トンのパックの奴と比べたら甘さが足りない。

 

 砂糖とかドバっていれたら美味しくなりそう。

 でも、蒼樹さんの前でそんな品のなさそうなことはできなかった。

 蒼樹さんがそのまま飲んでるし。 

 

「落ち着きます」

「よかった……」

 

 数少ないボキャブラリーでも、なんとか会話が成立している。

 口数が少ないせいで、静かだ。

 二人っきりの空間であることを嫌でも意識させられて緊張する。

 

「週刊連載って大変ですね。1話にここまで掛かるとは思いませんでした」

「1話はページ数も多いですし、カラーもありますから。描いてるうちにペースは上がると思いますよ」

「だといいんですが……」

 

 蒼樹さんの方から話題を振ってもらえた。

 週刊連載に不安を抱えているみたいだ。

 

 あまり、弱いところはアシスタントの前では見せられないから、こういうタイミングで外に漏らしたのだろう。

 気休めにしかならないけど、慣れれば大抵のことはどうにかなる。

 

「ただ、単行本作業だけは注意してください。忘れていると大変な目に遭いますから」

「『ハイドア』の時は、セリフを直す程度でした」

「どこまでやるのかは、作者に任せられていますけど、絵の修正からおまけページから凝ろうとすると一週間休みたいくらいです」

「大変なんですね……」

「スケジュールに組み込めればいいんですけど、連載に追われて後回しになるとなかなか」

 

 実体験として、苦い思い出の方が多い。

 単行本が売れないと生活が苦しいので、頑張りたいところだ。

 お金を払ってくれる読者へのサービスは大事。

 

「真城さんは、次の連載会議はどうなんですか?」

「自信あります。シュージンが面白い話を考えてくれたので……キャラデザに苦戦してますが、連載会議には関係ありませんし」

「では、連載が決まったら同じ雑誌で勝負ですね。ライバルなんておこがましいですけど」

「そんなことありません。先に連載を決めたのは蒼樹さんですし、追いかけさせてもらいます」

 

 手伝わせてもらった1話は、文句なしで面白かった。

 赤マルの読切版からパワーアップしている。

 ジャンルが被らないので、票にどう影響するのかは読めないけど、有力なライバルだと思う。

 

「…………」

「…………」

 

 しまった。

 肯定も否定もしにくい返しだったのかもしれない。

 

 会話が終わってしまった。

 気まずい。

 これを飲み終わったら帰ろう。

 一息は、つけたと思う。

 

 蒼樹さんのいれてくれた貴重な紅茶を、ゆっくりと味わう。

 最後の一滴まで堪能して空になった。

 

「あの……」

 

 ご馳走様でしたと言いかけたところで、蒼樹さんから声が掛かる。

 

「…………」

「…………」

「……どうかしましたか?」

 

 次の言葉を待ってみたけど、続きがこないので僕の方から促した。

 蒼樹さんは、しばし迷った後で、ようやく口を開く。

 

「見吉さんから聞きました。関係を終わらせたと」

 

 その話か。

 見吉と蒼樹さんって全然違うタイプだけど、いい友達になったんだと思う。

 よほど親しい関係じゃなければ、話したりはしないだろう。

 

 見吉は元々亜豆の親友だし、蒼樹さんみたいなタイプは慣れっ子かもしれないけど。

 

「けじめって言うのも変ですけど、シュージンと結婚しましたからね。って、そういう話をするなら、そもそも恋人がいる相手に手を出してる時点で、アウトだったんでしょうけど」

 

 アウトかセーフかでいうなら元からアウトだから、今さら取り繕っても仕方ないんだろうけど、一定の線引きは必要だと思う。

 汚れと言われようが、人妻と未成年には手を出さない。

 それが僕のポリシーだ。既に守れていないけど。リリカが悪いよ、リリカが。

 

「……真城さんはそれでいいんですか?」

「シュージンも見吉も幸せそうですし、良かったと思ってます」

「それならいいんですが……お辛いのでは?」

 

 うーん、答えにくい質問だ。

 というか、僕の中でも整理がしきれていないから、答えようがない。

 

 それを素直に伝えるしかないか。

 

「どうなんでしょうか。正直、まだよく分かっていない感じです。今は、新しい連載を勝ちとることで頭がいっぱいですし」

「加藤さんとの関係は?」

「それは、まあ……続いてますけど」

 

 リリカのことは伏せておこう。

 蒼樹さんに知られたらどうなってしまうかが分からない。

 加藤さん経由で知られたら、諦めるしかない。

 

「そうですね……蒼樹さんは、最低って言うかもしれませんが、加藤さんが相手をしてくれている分だけ、助かっています。全部を失ったわけじゃありませんし、大丈夫なんだと思います」

「最低です……」

 

 やっぱり言われてしまったか。

 

「なんて言いませんよ。真城さんが頑張っていることは知ってますから」

「蒼樹さん……」

「でも、亜豆さんと付き合っているんですから、ほどほどにしないとダメですよ」

「……そうですね。ほどほどにします」

 

 ダメだ。なんとしてもリリカのことは隠し通さなければ。

 せっかく蒼樹さんが、ほどほどまでなら見逃してくれているのに、未成年に手を出したとか知られたら、限界突破してしまう。

 

 制服と体操服は、リリカが18歳を超えてからにしよう。

 

「紅茶、ごちそうさまでした」

「あ、はい。お粗末さまでした。カップはそのまま置いておいてください」

「僕もやらないといけないことが残ってますので、これで。蒼樹さんも2話の原稿頑張ってください」

「……はい。ありがとうございます」

 

 まだ何か言いたそうな感じだったけど、まだキャラデザが固まっていないし、長居して蒼樹さんの邪魔をするわけにもいかない。

 けっして、リリカとのことがばれないように逃げたわけではなく、仕事のためだ。

 

 そそくさと、隣の仕事場へと戻り、連載会議に向けた作業を開始した。

 あともう一息だ。頑張ろう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 締切3日前。

 

「サイコー、大変だ」

 

 仕事場でキャラデザをしていると、シュージンが駆け込んできた。

 

「岩瀬が連載会議に回るって」

「はい?」

「あいつもマンガ家になるとか言ってたけど、服部さんが担当についてて岩瀬の原作のマンガが12月の連載会議に」

「マジかよ」

 

 夏に岩瀬とシュージンが蒼樹さんの取り次ぎで再開して、ひと悶着あったとは聞いてたけど、そこからの展開が急すぎる。

 

 マンガと小説のどっちが上かって話をしたとか言ってたっけ。

 そこから岩瀬がマンガ家を目指す方向にいくって、どんだけだよ。

 

「岩瀬の負けず嫌いもすげえな」

「いや、負けてられねーって。岩瀬が連載になって、俺達が落ちたら最悪じゃん」

「4年間何やってたんだって話になるな」

 

 元々小説を書いていたとはいえ、マンガ家の原作を目指して半年も経っていないはずだ。岩瀬に負けてしまったら、中3から必死に頑張ってきた僕達の立場が無くなってしまう。

 

「サイコー、絶対に通るように、もう一回見直そうぜ」

「おう。最初から通して、気になるところは全部潰そう」

 

 既に自信があるものに仕上がっていたので、あとはキャラデザだけだと思っていたけど、仕方ない。

 もっとパワーアップできるところがないか、締切ギリギリまで粘ろう。

 キャラデザは、後回しだ。

 

 会議まで残り3日。

 1日1話を使うつもりで、徹底的に読み込んで、コマやセリフの一つ一つをこれが最適なのかどうか、二人でチェックしていった。

 

 ある意味、岩瀬のおかげでより万全の状態で連載会議に挑めるようになった。

 

 シュージンがこれだけ燃えるって、やっぱりライバルの存在は大きいみたいだ。

 シュージンとは良いライバル関係であって欲しい。

 

 この時の僕は、知らなかった。

 岩瀬が原作の作品が、僕にとっても最大のライバルになることを。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 連載会議当日。

 

 僕達の作品『PCP』と岩瀬原作で作画()()()()()の作品『+Natural』の新連載が決まった。

 

 岩瀬の作画がよりにもよって、新妻エイジって……マジかよ。

 

 こうなったら、新連載同士負けられない。

 僕達の方が最高のコンビだって証明してやる。

 

*1
CV:川澄綾子 出演作:甘城ブリリアントパーク モッフル

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。