「は? マンガは描けないけどお手伝いしたい? 却下に決まってるでしょ。あたし一人でも余りぎみなのに、人を増やしても意味ないでしょうが」
さすが見吉。頼りになる。
リリカの面倒を見て欲しいという加藤さんの願いは、ストッパー見吉の活躍により防がれた。
話がこうなれば、加藤さんに命令しただけ得になった。
ナイス、見吉。ありがとう。
「少しだけ話を聞いてくれませんか?」
「別にいいけど、聞いてもあたしの答えは変わらないし」
待て、見吉。その判断はまずい。
僕は頭を抱えて、成り行きを見守った。
中略
「リリカっていい子じゃない。いいわ。あたしが面倒みるから」
「ありがとうございます」
話を聞いて号泣した見吉が、安請負をした。
こうなると思っていた。
見吉は、僕を可哀そうだと思って性欲処理の相手までしてくれるような優しい子だ。
リリカの状況を聞いて、同情しないわけがない。
そうなると見吉の面倒見の良さが発揮されて、リリカも僕らの仲間入りするのは必然だった。
「サイコー、いいのか?」
「面倒みるのは香耶ちゃんだろ。うるさくされたら困るけど……」
「サイコーがいいっていうなら、俺は反対しないけど」
「それに……」
「それに?」
女性陣が盛り上がっている中で、シュージンとコソコソ話す。
「シュージンの計画に口を挟む気はないって前提で聞いて欲しいけど」
「何の計画だ」
「香耶ちゃんに子供ができたら、仕事場への出入りとか無理だろ。いざって時に、代わりに入れる子が育っていると、助かるかもしれない」
「は? バカ……まだ全然そんな計画ねえよ」
シュージンが大声で否定した。
「あんたたち何話してるのよ」
「男同士の話?」
「あやしー」
まさか、見吉が妊娠する、しないという話が行われているとは思うまい。
当事者のシュージンが否定しているので、しばらくはないみたいだ。
そうなるとリリカを面倒みる価値は無くなるけど、まあいいか。
専門学校に通いだして、友達ができるまでだろう。
それまでは、週末だけ合法JKが仕事場に出入りする事に決まった。
天啓を受けたキャラデザでOKが出たので、1話に取り掛かろう。
仕事だ仕事。
◇◇◇
年明け。
アシスタントの顔見せ日。
高浜さんは相変わらず口数が少なかっただけなので省略。
新しいアシスタントが入った。
「はじめまして折原です。よろしくお願いします」
明るい好青年って感じで、僕やシュージンと同じ年。
「えーーー、もう結婚してるんですか!? すごい、マンガ家は変わった人が多いって言いますけど、本当ですね」
「変人みたいに言うな」
「失礼しました」
ちょっと、明るすぎるかもしれない。
でも、ぐいぐいとコミュニケーションをとってくれた方が助かるので、ありがたい。
明るい仕事場になりそうだった。
『TRAP』の時と同じように、モブとかの人物は高浜さんが担当し、背景は折原さんメインで手が空いたら高浜さんや僕も参加だ。
アシスタント二人体制は、初めてだ。
しばらくは、月から金の週5で昼から入ってもらうことになった。
以前は、高校に通っている都合で、夕方からだったので、アシの入る時間を伸ばして、人数の少なさをカバーする感じだ。
人数が減った分だけ、追い込まれたあとで挽回するのは厳しいけど、ペースを守れればどうにかなると思う。
あとはやってみて、不具合が出れば人を増やすなり対処しよう。
◇◇◇
新年会当日。
原稿は順調というのもあり、無事に今年も新年会に参加する事ができた。
これで3年連続の参加だ。
「ハイヤー2台並んで走るって感じ悪くね?」
「帰りは別になるかもしれないし、仕方ないって」
ほぼ同じ仕事場と言っていい亜城木夢叶と蒼樹さんだ。
僕達としても蒼樹さんとしても同じハイヤーでまったく問題なかったけど、編集部が別々に用意してくれていた。
会場入りする時間とかそこまで差があるわけもなく、結局並んで走る事になっていた。
一台でも目立つのに、二台並んでいると余計に目立ってしまっている。
会場についてどこかホッとしたくらいだ。
先に僕達が降りたので、後ろのハイヤーに乗る蒼樹さんを待つ。
降りる際のエスコートは、ハイヤーの人に任せた方がよさそうだ。
「ありがとうございます」
大人っぽく着飾って上品に礼を言う蒼樹さんは、いつもよりも素敵だった。
僕達は相変わらずの普段着だったけど、そろそろ一着くらいスーツを作った方がいいのかもしれない。
「行きましょうか」
「はい」
「おう」
手を取ったりはしないけど、三人で並んで会場へと入った。
「亜城木くん達も、来たか」
「福田さん」
入ってすぐに福田さんに捕まった。
「なんで亜城木先生と蒼樹さんが一緒に!?」
「仲がいいので」
「いつの間に!?」
さっそく絡んできた平丸さんを蒼樹さんが一言でぶった切る。
たぶん、悪気はないんだろうけど、平丸さんがちょっと可哀そうだ。
「どういうことだ。亜城木先生!!」
前言撤回。ちょっとめんどくさい。
「平丸さんもう飲んでますか?」
「僕はまだ飲んでいない。福田先生に止められている」
「平丸さん酔っ払ったら真面目な話ができないだろ。あっちだ。行くぞ」
どうやら僕達が最後だったみたいで、福田組全員で人溜まりができているところへ向かう。
その中心にいたのは、蒼樹さんに負けず劣らず大人っぽい服装をした岩瀬といつも通りの全身スウェット姿の新妻エイジだ。
岩瀬のアレは、自分が美人だって自覚があるからこそできる服装って感じだな。
「おおーーー色っぽい」
平丸さんが興奮している。
確かに、岩瀬は色っぽい。ちょっと鼻につくけど。
平丸さんのタイプは年下の美人系だっけ。
蒼樹さんとか岩瀬とかが、好みのストライクみたいだ。
僕達の登場で人混みが割れた。
「新妻師匠。話がある」
「どうしました。皆集まって。あけおめです。ハッピーニューイヤーです」
新年会だから間違いじゃないんだろうけど、一月中旬に言うのはエイジくらいだと思う。
「どうして2本も連載するんだ。『CROW』に専念するべきだろ」
「描きたいからに決まってます。『+Natural』面白いです。秋名さんの原作は最高です」
「ありがとうございます」
どこか岩瀬が誇らしげなのがムカつく。
それにしてもエイジが大絶賛するほどの出来なのか。
直接新連載で争うけど、大丈夫だろうか。
「2本描いても人気が分散するんじゃ」
シュージンらしい分析だ。
「僕は絶対に無理だ。1本でも無理だ。2本描くならラッコ11号も描くべきだ」
「平丸さんは、少し黙ってください」
「はい」
平丸さんは平丸さんだった。
「私は、新妻さんが2本というのは……原作者としては、自分の作品に専念して欲しいと思います」
蒼樹さんは元原作担当からの意見だった。
エイジなら両立してしまいそうだけど、自分の作品をより良くするのに力を集中して欲しいのは当たり前か。
「真城先生は?」
「……どちらにも負けません。僕が言えるのはそれだけです」
昔は色んな雑誌に掛け持ちして、連載するのも珍しくなかったらしい。
ジャンプで2本っていうのはどうかと思うけど、専属契約で縛っているのは集英社だ。掛け持ちするならジャンプでしか無理だ。
というので、前例と縛りがある以上、2本描くというのに反対はできない。
どちらよりも上回りたい。勝ちたい。勝ってみせる。
それが、僕の素直な気持ちだ。
「真城先生は、分かってますね。文句があるなら僕より面白いマンガを描いてから言ってください。人気が獲れれば続く、獲れなければ終わる。それがジャンプです」
アンケートシステム。
打ち切り経験者だから、エイジの言葉の正しさが身に染みて分かる。
「無理かどうかを決めるのは読者です。僕は描きたいから描くんです。無理だっていうなら、僕からアンケートを奪ってください」
エイジから宣戦布告を受けて、福田組の抗議は終わった。
僕達が離れるとすぐに、エイジが人混みに囲まれる。
関係者から大人気みたいだ。
まだ連載開始前なのに、岩瀬が女王様のように見えるのが、イラっとする。
「アンケートを奪え、か。新妻師匠らしいっちゃ、らしいけど」
「『CROW』はずっと上位をキープですからね。でも、負けていられません」
「票が割れるのを期待しない方がいいだろうな、俺達が上回るしかない」
「ですね、やりましょう」
「私は、まず軌道に載せたいと思います」
蒼樹さんの新連載は、1話2位からスタートし、4話まで終わったところで一桁をキープしているらしい。とりあえずスタートダッシュには成功したと言える。
「辛気臭い仕事の話は、もういいでしょう。終わりです終わり」
平丸さんは、吸い寄せられるようにアルコールの方へと向かっていった。
酔いつぶれるのが毎年恒例の姿になりつつある。
なんとなく真面目な話をする空気じゃなくなったので、僕達も解散して新年会を楽しむ事になった。
「3年目にして初めて新年会って感じだ」
「去年も一昨年も挨拶回りだったからな」
一昨年は新人として先生方を回り、去年は入院で迷惑をかけたので挨拶回りだ。
エイジの連載2本で多少ドタバタしたけど、例年よりはゆっくりできた。
今年はビンゴ大会は残念だったけど、十分満喫できたと思う。
「岩瀬はすげえな」
「ああ。でも、シュージンもすごいと思う」
「だといいんだけど」
岩瀬は大人になったと思う。
中学時代から大人びた部分はあったけど、年齢が追いついた感じだ。
何が言いたいかというと、エロい身体をしている。
フォーマルな格好でやや露出が多いのもあって、色気が溢れ出ている。
でも、シュージンはそんな岩瀬に詰め寄られても、見吉を選んだんだからすごい。
僕だとフラフラしてしまったかもしれない。
「新妻さんがあそこまでべた褒めとか」
「ん?」
「どんな原作なんだろうな」
「あ、ああ……そうだな」
そっちの話か。
岩瀬の容姿がエロいって話じゃなくて、ライバルとして強そうだって話だった。
エイジが岩瀬を『エロいです。ファンスタスティックです。おっぱい揉ませるです』とか言っていたのかと思って一瞬ビビってしまった。
おっぱい揉ませろって誉め言葉じゃなくてただのセクハラだけど。
今も隣にいるけど、岩瀬よりも食べ物に夢中って感じだから、それは無いか。
「おまけに担当は服部さんか」
港浦さんじゃ太刀打ちできそうにねー。
「そろそろお開きの時間となりました。二次会を考えている先生方。港浦が面白い店へ案内するとの事ですので興味があれば……」
ちょうど、そのタイミングで閉会の案内が入った。
「どうする?」
「帰って原稿の続きやらなきゃ。シュージンは行ってきたら?」
「サイコーが原稿やるなら、俺も帰るって」
「でも、港浦さんが案内する店って気にならね?」
「それはなるけど……」
担当の事を知っておくのも大事だと思う。
シュージンは、僕だけ仕事に戻ることに抵抗があるみたいだ。
参加しない理由を探している。
「一緒に帰らないとハイヤーが」
「あの、私も帰りますので、真城さんは私のハイヤーで送ります」
と、そこで蒼樹さんがカワイイ声*1で話に入ってきた。
仕事場は隣同士で、ハイヤーに乗せてもらえれば、シュージンの移動の問題は解決する。
「シュージン、僕の分も任せた」
「……分かった。明日、どんな店だったのか報告する」
僕は、シュージンの顔が緩むのを見逃さなかった。
たまにはシュージンも、羽を伸ばすのもいいと思う。
見吉には、黙っておいてあげよう。
こうして、シュージンと別れて、蒼樹さんと一緒に仕事場に戻っていった。