シュージンとコンビを再結成してからの半年は、あっという間だった。
その半年間を簡単に振り返ろう。
あれからは、見吉を加えた3人で行動することが増えた。
服部さんが送ってきたダンボールは、結局、出入りのしやすい仕事場に置かれることになった。
見吉は、数日分だけ持ち歩き、足繁く通って読み終わったら、手持ちのものとダンボールの中身を入れ替えている。
放課後も、DVDを仕事場で見てから帰宅する日々だ。
シュージンは、最初の数日は、本を読んだりDVDを見たりしていた。
自分で資料を調べる事により、チェックして欲しい部分をピックアップして、見吉が読む際のポイントを作り上げた。
それが終わってからは、資料のまとめを見吉に任せて、ネーム作りへと入っている。
見吉はシュージンが用意したそれを元に、項目を埋めていく形で、読み終わったものからまとめていっている。
最初にシュージンが読んだものと同じものを読ませることで、シュージンがどこに注意していたかを細かくレクチャーしたのもあって、見吉が1人でも問題なく回るようになっていた。
これで、服部さんが送ってきたダンボールは、目途がついた。
将来の夫婦初めての共同作業だった。
僕は僕で、ミステリー漫画を開いて、構図とか見せ方とかを学んでいく。
黒塗り犯人は、見せ方としてやっぱり上手いな、と感心してしまう。
模倣を繰り返した結果、黒塗りならどんな構図でも描けるようになってきた。表情をしっかり描かなくていいし、大雑把な体格だけで済むから楽だ。
いや、楽だと言ったけど、黒塗りで感情を表現するのは、それはそれで高等技術だ。焦りとかその辺のさじ加減は、難しかったりする。
そんなこんなで、亜豆の誕生日を挟んで冬になった。
この冬の最大のトピックスは、亜豆のステップアップだ。
初のレギュラー番組「聖ビ女」が人気番組となり、新しいEDメンバーに亜豆も選ばれていた。
その情報を見吉から聞いて、せっかくだからその初回放送は、仕事場に3人で集まって見ることに決まった。
この頃には、週末に見吉が泊まることも珍しくなくなっていた。
見吉家が放任主義というのは、本当らしい。
番組が始まるまでは、気になりつつも各自の作業を進め、時間と同時に手を止めてテレビ前に集合だ。
ちなみに、古いブラウン管でそろそろ買い換えないとやばそうだ。
亜豆が実写で歌うエンディングを見て、それぞれの反応はこんな感じだった。
僕、なんか恥ずかしい。
見吉、爆笑。
シュージン、驚愕。
どんなものだったのかは、察して欲しい。
「にしても、スカート短すぎだろ」
「見せパンに決まってんじゃん!! バッカじゃないの」
なんていうシュージンと見吉のやりとりもあったくらい、アイドル声優として売り出されていた。
思うところがないわけじゃないけど、亜豆の容姿を考えれば、そういう売り方されるのは仕方ないと思うので、人気声優として実績を積んでいると納得する事にした。
翌日、日曜日。
「今日は家の用事があるから帰るわ。サイコーはずっといるよな?」
「そのつもりだけど」
「じゃあ、用事が早く終わったらまた来る」
「あ、高木、あたしも残る。今見てるシリーズがあと2話みたいだから、そこまで見てから帰るー」
「……あんまサイコーに迷惑かけんなよ。じゃ」
週末は、基本的に仕事場に籠りっぱなしだ。
シュージンも居ることが多いけど、今日は用事があるらしく、朝に帰って行った。
「…………」
「…………」
しばらくは黙って、各自の作業に集中する。
見吉は宣言通り、昨日見ていたDVDの続きを再生し、メモを取りながら見ていた。
「ふー、このシリーズ終わったー」
「……お疲れ」
「この作品何度もドラマ化してるから、別のシリーズがまだまだあるんだけどね」
「見ていくのか?」
「今から見ると中途半端になりそうだから、やめとくー。別のを見よっかな」
DVDを取り出すと、ダンボール箱の方へと向かっていった。
資料をチェックする順番に、見吉の中でこだわりがあるらしい。シリーズは週末、まとめて一気に見る派だ。
四つん這いになってゴソゴソと箱の中を漁っている。
見吉のスカートは短くないけど、四つん這いになっているせいで、裾が上がって太ももが露になっている。
もう少しで下着が見えそうだ。
「ましろー」
「何だよ」
「ましろもやっぱり下着とか見たいの?」
「わざとかよ」
「視線感じただけ。気をつけなさいよ、女の子ってそういうの敏感なんだから」
「……気をつける」
下着が見えないか熱い視線を送ったのは、バレバレだったらしい。
「これにしようっと……で、みたいの?」
見吉は新しいDVDを手にして戻って来た。
「……この流れで見たくないって言えないだろ」
太ももを見ていたことに気づかれているのに、否定できる要素がなかった。
「それもそっか。そんじゃー、見せてあげるって言ったら見る?」
見吉がスカートの裾を持ち上げて、見えるか見えないかギリギリのところまで引き上げた。
「おまえなー……そういうのは、自然と見えるからいいんであって、見せられても」
「見ないの?」
「見るけど」
「やっぱり見るんじゃん」
「見せてくれるのか?」
「どうしよっかな」
「なんだそれ……」
見吉がパッと、スカートを離したのに合わせて、僕もずるっと、滑り落ちて机に身体を預けた。
「からかってんのかよ」
「噓嘘、見るなら亜豆の方が嬉しいかなって思っただけ」
「見れないし」
「見れるなら亜豆の方がいいんじゃないの?」
「亜豆のは見たいけど、見たら眠れなくなりそうだから」
「何よ、あたしのはどうでもいいってことーーー」
「ち、違うって。亜豆は特別ってだけ。見吉のも見れて嬉しいし」
「それならいいけど……はい」
「お、おお……」
シュージンとコンビを解散した日に見たのは、花柄の子供っぽいパンツだったけど、今日の見吉はシンプルな淡い青色のショーツだ。
ワンポイントでついているリボン飾りが目を引いて、視線が引き寄せられていく。
「いい」
「やらしー」
「見せてるの見吉じゃん。これって見せてもいい奴なのか?」
「いいわけないじゃん。ガチの奴だし」
ガチのヤツか。
イメージする勝負下着ほど気合の入っている感じはしないけど、気を使っているのは伝わる部類だ。
ぴしっと隙間なく密着しているのが、その奥にあるものを嫌でも連想させて、艶めかしさが伝わってくる。
「いい。いいよ、見吉」
「ましろ、ほめ過ぎ……で、これってどうすれば終わるの?」
「もうちょっとだけ、ちょっと描いてみていいか?」
「ええ!?」
「作画の参考になるから」
「……協力するって言ったし、早く終わらせてよね」
見吉は立ってままスカートをめくりあげている。
ポーズを変えようかと思ったけど、見吉が恥ずかしさからか顔を背けたので、そのままでいいか。
スケッチブックにざっと鉛筆を走らせていく。
「…………」
「…………」
しばらく紙と鉛筆が擦れる音だけが響き、大雑把にだけど描き上げることが出来た。
「終わった。もういいよ」
「ふー……恥ずかしかった」
「ノリノリだったじゃん」
「恥ずかしいものは、恥ずかしいの。それに……」
「……なんだよ」
「真城の真剣な目がやばい」
「そんなにやばかった?」
そこまで鼻息荒く見ていたつもりはないんだけど、見吉が言うならそうかもしれない。
「うん。絵を描いてる時の真城って、カッコいいと思う」
「……そっか。ありがとう」
「うん」
やばいってそっちの事か。日本語って難しい。
にしても、カッコいいか。面と向かって言われるのはちょっと照れるな。
いけない。見吉はシュージンの彼女だ。カッコイイって言われたからって下手に意識しちゃだめだ。
シュージンの彼女であって、僕の好きな人ではない。
「見吉、今日も頼めるか?」
「は? この流れでそんな事言うわけ」
「うるせー。この流れだからこそだろ。頼む」
変な流れを断ち切るには、多少強引でも、話題を変えた方がいい。
見吉のパンツを見てムラムラしていたし、一石二鳥だ。
「ましろ、さいてー」
「分かってるって。で、だめか?」
「まあ、いいけど……そうね。今日は胸でやったげる」
「なん……だと……!!」
「そういうのもあるんでしょ、特別サービスだから。仲間に入れてもらったお礼ってやつ?」
別に、その為に仲間に入れたわけでもないんだけど、見吉がやるって言うなら素直に受け取っておこう。
「見吉」
「真城」
「「バクマン(胸)」」
なお、これは余談になるけど、見吉のブラはパンツとは別柄だった。
分かってたら揃えてたのに、とのことらしい。
中身については、立派だったとだけ。
こんな感じで、月日はあっという間に過ぎて行って、高校生活2度目の春。
僕とシュージンは、出来上がったネームを手に服部さんの元へと向かった。