いよいよ新連載が始まる。
その前に、現在の亜城木夢叶の体制をまとめてみよう。
マンガ家亜城木夢叶。
高木明人(シュージン)。ドM原作担当。
真城最高。作画担当。
アシスタント。
高浜さん。モブキャラ担当。連載経験有り。無口。
折原さん。仕上げ担当。元気。
その他。
高木香耶。雑用担当。食事とかを作ってくれる。元性欲処理担当。シュージンの妻。
北見リリカ。雑用、性欲担当(週一)。声優志望の高校生。
蒼樹紅。お隣のマンガ家さん。性欲担当その2(週一)。
加藤奈津実。蒼樹さんのチーフアシ。元アシスタント。たまに性欲処理をしてくれる。
その他というか、性欲処理担当でまとめるのが正しい気がしてきた。
アシスタントよりも充実している性欲処理担当ってどうなんだろう。
本音を言えば、アシスタントがもう一人欲しい。
港浦さんに探してもらっているけど、なかなか見つからないみたいだ。
春になれば専門学校の卒業生とかの希望者が増えるらしいので、あと3ヵ月どうにか二人体制で乗り越えよう。
とりあえず、1話と2話は納品済みで、3話もあとは仕上げるだけだ。
シュージンは4話のネームに入っている。
『TRAP』の時は、4話を2パターン用意して1話の速報を受けてからどっちで行くのかを決めたけど、今回はそういう小細工はしない。
1話のクオリティーには自信がある。
アンケートの結果もついてきてくれるはず。
4話も路線変更とかは考えずに、1話からの流れのままに描く。
それが港浦さんとも話し合って決めた方針だった。
夕方。原稿を取りに来た港浦さんに3話の原稿を渡し、4話のネームの許可をもらった。
これで、連載開始前の段階でできることはひと段落ついた感じだ。
「サイコー。本当に速報聞かなくていいのかよ」
「どうせ本ちゃんで変わったりするし、速報に振り回される必要ないって」
来週の月曜日に1話掲載のジャンプが発売し、火曜日には速報が出る。
今回は、速報を聞かないことを選択していた。
『TRAP』のときは獲れなかった1位を獲りたい。
それが1話の目標だ。
仮に速報が2位以下だったらかなりショックだ。
1位だったとしても、本ちゃんまで維持できるのかが心配になる。
と、原稿を描く上ではプラスに働きそうにない。
気になる程度で留めておいた方がいいという判断からだ。
「シュージンは気になるなら、シュージンだけ聞けばいいじゃん」
「そういうわけにもいかないだろ。絶対態度に出るって」
「だよな……」
僕の場合は原稿を描くだけなので、アンケートの結果は、嬉しいか悲しいかで済む。シュージンは、話を作らないといけないので不評なら変化を考えなければならない。
つまり、速報を聞いて動けるのはシュージンで、僕よりも知りたいんだと思う。
「蒼樹さんはどうしてますか?」
「聞いてますけど、今は金曜日に原稿をあげてますので、あまり影響が。『ハイドア』の頃は、話を訂正したりしていました」
「なるほど」
亜城木夢叶みたいに二人組なら、速報を取り込みやすい。
でも一人でやる場合は、締め切りをいつにしているのか次第か。
火曜日の速報が有効なのは、月曜日の最終締め切りで原稿をあげるパターンだ。
月曜日区切りなら次の話を考えている火曜に速報が入るので、影響を活かすことができる。
金曜日上げの場合は、土日には話を固めるので火曜日に速報を聞いても今更となる。
「すみません。私まで食事に誘っていただいて」
「いいっていいって。3人分でも4人分でも手間は変わらないし」
「せめて材料費だけでも」
「好きでやってる事だから気にしないで」
なぜ、蒼樹さんがこの場にいるのかと言えば、これも『TRAP』の頃からの変化だ。
原稿の締め切り日である金曜日だけ、蒼樹さんを呼んで一緒に夕食を食べるようになっていた。
すでに3回目だけど、毎回見吉と蒼樹さんが同じやりとりを繰り返している。
好意だから気にしないで欲しい見吉と気にする蒼樹さん。
結局、いつも見吉に押し切られて終わりだ。
どうしても気にするみたいなら、たまに蒼樹さんが食べたい食材でも用意してもらおう。アンコウとかフグとかでもなければ、見吉がどうにかしてくれるはずだ。
食材と言えば、この米は中井さんから届いたものだったりする。
田舎で頑張っているみたいだ。
頑張るならアシスタントをして欲しかったけど、中井さんが決めた道だから仕方ない。
「…………」
蒼樹さんには言わない方がいいか。せっかくの美味しいお米なんだから、美味しく食べて欲しい。
来年はリンゴも送ってくれるらしい。そのときは、しっかりと中井さんから送られてきたリンゴですってお裾分けしよう。
1年も経てば気持ちも整理もつくはずだ。
皆が帰った後で、しばらく仕事に入る。
ほどほどのところで切り上げて、隣へと向かった。
「もうちょっとだけ待ってください」
「はい」
少し早かったみたいだ。
出直すのも変で、ちょっとだけ手持無沙汰になってしまった。
来週からは原稿を持ち込もう。
僕が蒼樹さんの仕事場に来た理由は単純で、バクマンをするためだ。
金曜日に原稿をあげる。
夕食を一緒に食べる。
バクマンして一緒に寝る。
原稿を終わらせてスッキリした後のスッキリって流れだ。
とはいえ、その週の原稿が終わった時点で、翌週の原稿が始まる。そのせいで、こんな感じで仕事の合間をぬってのバクマンとなる。
場所が蒼樹さんの部屋なのは、寝るのに困らないからだ。
それに、仕事場にいたら、睡眠時間を削りがちになってしまう。
週一だけでも、しっかり休む日ができたと思おう。
「お待たせしました」
「いえ、大丈夫です」
仕事を終えた蒼樹さんと一緒にお風呂に入り、綺麗になってベッドに向かう。
「蒼樹さん」
「真城さん」
「「バクマン(バクマン)!!!」」
終わったらもう一度お風呂だ。
シャワーだけではなく湯船が完備というのも、蒼樹さんの部屋を使う理由かもしれない。
一緒に抱き合うようにして、蒼樹さんの匂いに包まれながら就寝。
と、みせかけて──
「蒼樹さん」
「真城さん」
「「バクマン(2回目)!!!」」
お風呂はいっか。おやすみ。
◇◇◇
「今日だよな」
「遅くね?」
翌週も順調に仕事は進み、4話の原稿を終わらせていた。
今日は、それを提出する日であり1話の本ちゃん発表日だ。
『TARP』の時は、本ちゃんが分かり次第、港浦さんから連絡が入っていたはずだけど、なかなかシュージンの電話が鳴らない。
原稿が終わったばかりというのもあって、仕事が手につかなかった。
直接のライバルとなる先週始まった『Natural』が1位だっただけに、僕達も負けられない。
「結果が悪かったとか?」
「どうせ黙っててもバレるんだから、いくら港浦さんだからってそんな事しないって」
言い出しにくくて黙ってました。とかされたら困る。
担当としての仕事をして欲しい。
「ねえ、こっちから電話してみたら?」
と、見吉が提案したところでチャイムが鳴った。
「誰か忘れ物かな?」
「私、行ってくる」
さっき帰ったアシスタントが引き返してきたんだろうか。
アシの机にそれらしきものは無いっぽい。
「ましろー、秋人さん。港浦さーん」
「え!?」
「行こう」
玄関側から見吉の声が聞こえて、慌てて二人で迎えに行く。
「はあはあ……」
不審者っぽいけど担当だ。
駅から走ってきたらしく息切れしている。
玄関を閉めて中に入った。
「はあはあ……」
原稿を取りに来る予定になっていたけど、もっと後のはずだ。
今週は、既に終わっているからいいけど、あまり早く来られるのはプレッシャーになるからできればやめて欲しい。
「はあはあ……」
もしかしたら、見吉の前では話にくい事なのかもしれない。
見吉に目配せして、下がらせる。
これでシュージンと僕だけになった。話しやすくなったはずだ。
「はあはあ……」
「…………」
「…………」
早くなんか言えよ。
見吉を下げたのが不審者から守ったみたいになったじゃねえか。
というか、どれだけ急いだんだ。
港浦さんは、運動不足だと思う。
「どうしたんですか?」
しびれを切らして、シュージンが問いかける。
「おめでとう。1位だ」
「え!?」
「アンケート1話1位だった。すぐに知らせようと慌てて来てしまった。すごいぞ君達。ジャンプで1位だ。おめでとぅうううううう」
「………」
「………」
港浦さんが急いできた理由は分かった。
アンケート1位が相当嬉しかったみたいだ。
某配管工みたいに、イヤッフーしそうな勢いで全身で喜びを表している。
「ど、どうした。喜ばないのか?」
「いや……嬉しいです」
「やった……」
なんだろう。
興奮し過ぎてる人を見ると同じ気持ちのはずなのに、妙に冷めてしまうアレだ。
もっと素直に喜びたかったよ、港浦さん。
◇◇◇
結果から言えば、先週の『Natural』の1話よりも票は取れたけど、『CROW』の1話は越せなかったらしい。
フォローするなら『CROW』は新連載1本目。『PCP』は2本目で、票の獲りやすい
ただ、新連載2本目になったのは、編集部的に今回始まった新連載で先に掲載された『Natural』の方が上だと見込まれたからだろうから、それを含めての実力だと思う。
「アンケートってお借りできますか?」
「それはできない。許されてるのは口頭で伝えるまでだ」
「では、一緒についてきて欲しい場所があるんですが……」
連載で1位を獲ったときに、どうしてもしたかった事がある。
迷惑かもしれないけど、1位を獲った記念って事でここはワガママを押し通させてもらおう。
港浦さんだけではなくシュージンも一緒にタクシーに乗った。
目的地は墓地だ。
「こっちです」
目的の墓へと真っ直ぐに案内する。
僕の家の墓だ。
独身のまま死んだおじさんの墓だ。
港浦さんからアンケートを受け取って、墓から見えるようにかざした。
「…………」
「…………」
港浦さんもシュージンも、しばらく黙っていてくれた。
おじさんに報告しよう。
おじさん。しばらく墓参りにも来れなくてごめんなさい。
おじさんが獲りたかった。
おじさんが一度も獲れなかった。
ジャンプの読者アンケート1位だ。
おじさんの夢を僕が叶えることができた。
どうだ。やってやったよ。
羨ましいって言ってくれるかな。
おじさんがいなかったらマンガ家になろうなんて思わなかった。
おじさんがいてくれたから、ここまで来れたんだ。
おじさんに直接見せたかった。
褒めて欲しかった。
これでおじさんのできなかった事を達成することができた。
あとは、おじさんのやりのこした事とやりたかったことを叶えるよ。
やり残したことは、マンガ家として一生食べていくこと。
まだまだ貯金が足りないから、1位で浮かれていないで頑張りたい。
やりたかったことは、好きな人と結婚すること。
絶対にアニメ化して、亜豆と結婚する。
そして──
「サイコー、良かったな」
「ああ。シュージンのおかげだ。ありがとう」
「泣かすような事いうなよ」
「今度は、アニメ化を決めてまた来ようぜ」
「……おお。絶対にアニメ化してみせる」
決意を新たに『PCP』の連載が始まった。