4月。
「岩瀬に振られた」
「はい?」
「ナチュラルの方が上だから、才能の無い俺は用済みらしい」
新連載がスタートして2ヵ月経った。
僕達は、1話こそ1位と最高のスタートを切れたけど、2話以降からやや落ちていき、一桁キープで落ち着いてしまっている。
一方の岩瀬原作の『Natural』は、常に3位以内をキープしており、なかなか抜き返すことができずにいた。
岩瀬が誇るのも分からなくもない。
分からないのが──
「その前に、シュージン結婚してるじゃん」
「うん。だからマジで意味分からん」
「岩瀬らしいっちゃらしい気もするけど……」
既婚者を振るって意味不明だ。
岩瀬がフラれたんじゃなくてシュージンがフラれた形にしたかったんだろうか。
なんというプライドの高さだ。
岩瀬に下に見られているままなのは、よくない。
どうにかしたくて工夫できるところがないか思案中だ。
シュージンがネームにしてくれていたのを、文章だけに切り替えてみた。
好きにコマ割りができるようになった分だけ、間を入れたりと構図の自由度が上がって良くなったと思う。
もっと早くこうしておけばよかったと思う反面、今までより時間が掛かるようになったので、ペースが上がった今だからこそできる事なのかもしれない。
これで、結果が出てくれれば言う事ないけど、どうなるか。
「岩瀬の次の相手は服部さんだって」
「は?」
「服部さんは才能があるからって」
「才能があるって……担当だろ」
「いいのか?」
どうなんだろう。
マンガ家と編集の恋か。
なくはないんだろうけど、いいイメージはないな。
仕事相手に手を出すなんてけしからん。
「外野が口出すことじゃないんじゃないか」
「それもそうだな」
少なくとも、
しかし、シュージンが岩瀬を元担当の服部さんに寝取られるとは。
どんな構図だ。
いや、別にシュージンと岩瀬がくっついていたわけじゃないから、寝取られたわけじゃないけど。
服部さんと岩瀬がくっついたわけでもないっぽいし。
岩瀬の恋のターゲットがシュージンから別の相手になったのは、たぶんいいことなんだろう。これで高木家が平和になる。
相手が服部さんって言うのには、どうなんだって思うけど、それは服部さんと岩瀬の問題だ。
好きな相手が編集で、認められたくてパワーアップとかしないよな。
シュージンを追いかけてジャンプ原作者になった岩瀬だけに、ちょっと怖い。
まあ、なるようになるか。
◇◇◇
「真城さんズルいです」
「いきなりなんですか」
「すっごいかわいい子が入ったって聞きましたよ」
「私も聞いた」
土曜日。リリカだけではなく加藤さんも参加してバクマンした後で、加藤さんに責められてしまった。
何の事か一瞬分からなかったものの、かわいい子というので何となく察する事ができた。
「白鳥さんですか? ダメです。加藤さんには合わせられません」
「なんでですか」
「危険だからです」
白鳥シュン。新しいアシスタントのことだろう。
フワッとした感じで、美少年って言葉がピッタリの高校を卒業したばかりの子だ。
絵が上手いので、即戦力として助かっている。
実際には、もう一人アシスタントが入ったけど、森屋さんは加藤さんの好みじゃなさそうだから、白鳥さんのことで間違いないと思う。
森屋さんも絵は上手いんだけど、個性的というか癖があるので、0からは任せにくいタイプだ。とはいえ、仕上げとかは問題ないので、アシスタントとしては十分戦力になってくれている。
「危険ってなんでですか」
「加藤さんって年下好きじゃないですか。純情な白鳥さんには刺激物はちょっと」
「誰が刺激物ですか誰が」
「加藤さん」
「私を何だと思ってるんですか」
「未成年に手を出したり、手を出させたりした人です」
「ね、捏造しないでください」
「事実ですよね」
未成年だった僕に手を出したり、僕が未成年のリリカに手を出すように仕向けた犯人だ。
白鳥さんみたいな好青年に合わせるわけにはいかない。僕が白鳥さんを守らないと。
森屋さんならいいや。
というか、ちょっと我が強いので、殻を破る意味でも刺激物を与えた方がいいんじゃないだろうか。
「私は真城さん一筋なのに」
「白鳥さんに手を出さないって誓えますか?」
「……ノーコメントです」
「絶対に合わせません」
アシスタント二人と入れ替えで、高浜さんはアシから抜ける事になった。
そろそろ高浜さんの連載終了から半年くらいになるので、次の連載をどうするのかに専念したいとの事だ。
前向きな話なので、アシスタントとして惜しいけど、見送るしかない。
高浜さんが抜けた穴は、白鳥さんが仕事を引き継いでいる。
今は白鳥さんを手放せないので、加藤さんには絶対に合わせられない。
「真城先生、私はいいんじゃないですか」
「リリカは白鳥さんに限らずダメです」
「どうしてですか」
「若い女性が出入りしてるってのをあまり知られるのはちょっと……」
わざわざアシの居ない日を選んで、見吉に弟子入りさせている。
これでアシと顔を合わせたら意味がなくなってしまう。
別に悪いことはしていないはずなんだけど、いい印象は持たれないと思う。
「もう高校は卒業しました」
「声優を目指すのなら、あまり遊ぶのは控えた方がいいんじゃないかと」
「ずっと真城さんとしか遊んでません」
「それは助かってますけど……」
リリカは、高校を卒業して今は声優の学校に通っている。
同じ夢に憧れる友達とかも無事にできたみたいだけど、しばらくはここに通うつもりみたいだ。
元々預かるのは、高校を卒業するまでの予定だった。
もう預かる義理はないし、男の家に出入りは声優としてあまり褒められた事ではない。
まあ、リリカが飽きるまでは、通うのを止めたりはしないでいいか。
見吉が言うには、まだまだ教えたいことがたくさんあるみたいだし。
今、追い出したら見吉が怒りそうだ。
声優としてデビューするようなことがあれば、止めるべきかな。
リリカをどうするのかは、あとで加藤さんにも相談してみよう。
今は、やることをやらないと。
地味にだけどネームでやる作業が増えた分だけ、土日は忙しくなっていて、前ほどゆっくりはできなくなった。
さっさとスッキリしよう。
「加藤さん、リリカ」
「真城さん」
「真城先生」
「「バクマン(バクマンマン)!!!」」
結局、土曜日は徹夜になってしまった。
何故だ。
◇◇◇
5月。
「よくやった。今週は5位だ」
「やった」
「久しぶりに『CROW』の上だ」
シュージンからネーム作業を引き取った効果が出たみたいで、アンケート人気が少し上がってきていた。
文章からネームを起こすようになってから、先週が6位で今週は5位。
ちょうど『CROW』と入れ替わった形だ。
とはいえ、まだ3位以内をキープし続けている『Natural』には届いていない。
ここから先、どうすれば伸びるだろうか。
シュージンの作る話には、手ごたえがある。
文章だけにしてもらって、より読者に話の良さを伝えられるようになった。
原作の質では、負けていないと思う。
となると、僕の絵がどうなのか。
「…………」
港浦さんが帰った後で、過去のジャンプを読み返してみた。
とりあえず、人気作品と『PCP』の絵を比較してみる。
エイジの絵は、やはり分かりやすさが圧倒的だ。
自然と頭に入ってくる感じがすごい。
『Natural』の連載が開始したことで、よりすごさを感じ取れるようになった。
どちらも一目でエイジの絵だと分かる。
でも、話に合うように描き分けられている。
それに対して僕の絵だ。
「……ちょっと暗い?」
癖じゃないけど、リアリティーを出そうとし過ぎていたのかもしれない。
全体的にトーンが多めで、重くなっている。
エイジと比べたら特に分かりやすい。
エイジのスッキリとした絵に対して、僕のはまだまだ無駄がある感じだ。
絵の足し算は簡単だけど、引き算は難しい。
引きすぎると味気がなくなってしまう。
改善点は見つかったけど、どう弄っていくのかはバランスを取りながら徐々にやっていくしかなさそうだ。
どこまで引けばよくなるのか。読者の反応を見つつさじ加減を加えていこう。
「あとは、女性キャラが強みかな」
なんだかんだで、苦手だった女性キャラが得意になってしまった。
見吉、蒼樹さん、加藤さん、リリカとモデルに事欠かないおかげだった。
ヒロインの舞は、お尻のラインが強調される事が多い。
全体的なイメージは亜豆をモデルにしているけど、局地的に尻だけはリリカの引き締まった尻を参考にしている。
あんまりやり過ぎると女性読者が離れそうだけど、ここはリアリティーを追求してもいいはずだ。
今度、リリカにショートパンツとかスパッツとか履かせて色んなポーズをとってもらおう。心のライバルは桂先生だ。
ただ、話を作るのはシュージンなので、登場させる機会があるのかどうかは難しい。
「シュージン、話はいいんだけど、もっと女性キャラの尻をアピールするシーンを増やして……無理だ」
どんな提案だ。シュージンに、正気かこいつって疑われてしまう。
こうなったら、シュージンが文章だけになったのをいいことに、尻を強調できるようなアングルを挟めないか試行錯誤するしかないか。
毎週やるとあざとくなるので、2週に1回のリリカ尻プッシュだ。
これでいこう。
この作戦が功を奏したのかは分からないけど、舞の尻をプッシュした最初の回で『Natural』を抜いて3位という結果を叩きだす事に成功した。
なお、大幅に増えた男性票でフォローできたけど、女性票はちょっと下がったらしい。うーん……痛しかゆし。