(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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第65話 4度目の新年会

「サイコーも、やっぱ行った方がいいんじゃ」

「別にいいって。シュージン達だけで行ってこいよ」

「会いたくないミホは来ないんでしょ。ならいいじゃん」

「会いたくないじゃなくて会わない約束。香耶ちゃん、そこ大事だから」

 

 成人式当日。

 事前に、行かないと伝えてあったのに、朝からシュージンと見吉が仕事場まで迎えに来た。

 見吉の振袖は分かるけど、シュージンの袴ってどうなんだ。

 

 偏見だけど、成人式に袴を切るのは、お調子者かヤンキーのどっちかな気がする。

 シュージンだと前者か。

 

 亜豆は、八王子の成人式に参加する予定らしい。

 僕が成人式に参加しても、亜豆と会うことはない。

 

「別に締切がやばいってわけじゃないんだろ」

「それはそうだけど、余裕がある程じゃないし」

 

 これは本当の話だ。

 成人式には、参加できると思う。

 でも、それに付随する二次会とかまでは厳しい。

 

「成人式って式より、旧知に会うのがメインだろ。そんなに会いたい奴いないし」

 

 僕の人間関係は、中3でマンガ家を目指した時点で止まってしまい、希薄だ。

 しいて言うなら、小学校の頃に仲がよかった山ちゃんには会ってみたいけど、山ちゃんが来るのかどうかも知らない時点で、そこまで行きたいものではない。

 それに、服も用意していない。

 袴は勘弁して欲しいけど、スーツくらいは着ておかないと浮くと思う。

 

「ここで原稿描いてるから、シュージン達は楽しんで来いよ」

「……分かった。終わったらまた来るから」

「いいって。ネームは終わってるんだから、あとは僕の仕事」

 

 聞きたくもないおっさんの話を聞いたり、そこまで会いたいわけではない旧知の相手に会うよりは、ここで原稿を描いていた方が気楽だ。

 わざわざ迎えに来てくれたシュージン達には悪いけど、不参加を貫こう。

 

「あ、香耶ちゃん」

「なによ?」

「振袖すっげー似合ってて可愛い。行ってらっしゃい」

「ありがとー。行ってくるー」

「シュージンは、ヤンキーみたいで似合ってない。行ってらー」

「落差がひでえ。行ってくる」

 

 付き合いの長い二人だ。僕が行かないことは分かっていたと思う。

 それでも、来てくれたのは振袖と袴を見せて、ちょっとでも成人式気分を味わって欲しかったからだろう。

 感想くらいは伝えないとダメだ。

 

 香耶ちゃんの振袖姿は、よかった。

 巨乳が目立たない香耶ちゃんというのが新鮮だ。

 

 振袖って例の「あーれー」ってヤツをできるんだろうか。

 押しつけられた胸が解放されるトキメキのようなものを感じたい。

 

 香耶ちゃんとはできないのが、ちょっと寂しかった。

 

 

 さて、原稿に取り掛かろう。というか、巻頭カラーの構図をそろそろ決めないとヤバイ。

 ありがたい事に、一周年記念で巻頭カラーが決まっている。

 載るのは来月だけど、締め切りが早いので今から準備しないと間に合わない。

 

「どうしようかな……」

 

 ジャンプの発売日付近のネタとして、時期的にはバレンタインだ。ヒロインの舞がチョコレートを渡そうとするカットとかにすれば、分かりやすいし映えると思う。

 問題なのが、作中時間はバレンタインとは全く関係ないため、本編と巻頭カラーの剥離が起きてしまう。

 

 そして、チョコレートを渡すシーンだと、だいたい正面にチョコレートを持つ構図になるので、あまり尻に力を入れることができない。

 

「やめとくか」

 

 いろいろ考えた結果、主人公を中心にメインキャラ3人を並べた構図にする事に決めた。

 尻のためじゃない、これが『PCP』って作品の絵だと思う。

 服部さんにFAXで送るとすぐにOKが出たので、さっそく取り掛かろう。

 

 

 なお、後日聞いた成人式の話。

 同じ地域出身の同級生って事で、岩瀬とか石沢とかが来ていたらしい。

 

 行かなくてよかった。

 ただでさえ、僕の人間関係は中学の頃で止まっているのに、その中学の輪に、会って気まずい二人がいるとか勘弁して欲しい。

 

 そして、岩瀬が振袖で石沢は袴姿だったらしい。

 岩瀬は黙っていれば美人なので、振袖姿もちょっと見てみたかった気持ちもある。

 でも、自分の価値を分かっているからこそ、振袖を選んだ事が想像できるので、岩瀬らしいといえばらしいけど、近づきたくないのは変わらない。

 

 石沢は、見たくもないかも。

 絶対、お調子者枠で袴を選んでいる。

 

 中学時代に、殴った二人と殴られた二人が袴姿で揃うって、そんな成人式は嫌だ。 

 

 やっぱり、行かなくてよかった。

 

 亜豆から振袖姿の写メが送られてきたので、それだけで満足しておこう。

 来年は、リリカが成人式だ。あーれープレイをする楽しみは、その時にとっておけばいいか。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 新年会、当日。

 

 連載をしていると一年はあっという間に過ぎていった。

 絵を改善させていった結果、『PCP』は3位から6位あたりを前後する人気マンガの位置で定着する事ができた。

『PCP』『CROW』『Natural』は、良いライバルとして勝った負けたを繰り返している。

 ただ、なかなかエイジの2作品の上には立てていない。

 どちらかに勝つことがあっても、必ず片方に上を行かれてしまう。

 

 エイジの作品の中でも票が割れていて、票が集まった方に上に行かれ、票が少なかった方には勝っているような状況なのかもしれない。

 

 どうやったら両方の上に立てるのか。

 それが、今後の課題って感じだ。

 

 とりあえず、成人式の日に仕上げた巻頭カラー回では勝ちたい。

 

「福田さんがいないって、初めてだっけ?」

「最初に参加した時は、いなかったはず」

「あ、そっか。『TRAP』が連載決まった時、待ってろみたいに言われてたっけ」

 

 新年会に呼ばれるのは、連載中の作家だけだ。

 先日、最終回を迎えた福田さんは参加資格がない。

 

『TRAP』『KIYOSHI』『ハイドア』『ラッコ11号』

 近い時期に始まった連載陣も、残りは『ラッコ11号』だけだ。

 その『ラッコ11号』は、昨年アニメが放送されるなど絶好調で、グッズが売れに売れまくっていたみたいだ。

 蒼樹さんのアシスタントにもファンがいるみたいで、完売したグッズを頼まれて困った蒼樹さんから相談されたこともある。

 

 平丸さんに伝えたら、最初は渋られてしまった。

 が、蒼樹さんの名前を出せば、すぐにプレゼントしてくれた。

 アシスタントの手に渡ったことは、言わないでおこう。

 

 と、こんな感じで絶好調の平丸さんは、すっかり超売れっ子マンガ家入りしていた。

 羨ましい限りだ。

 

 アニメ化と言えば、もう一人いる。

 

「岩瀬の囲みが増えてね?」

「アニメ化が決まったからじゃね?」

 

 エイジの姿を探していたら、セットで岩瀬の姿が視界に入ってきた。

 去年もできていた囲みが、今年はさらにパワーアップしていた。

 おそらくアニメ関係者の分だけ増えたんだと思う。

 

 残念ながら、同時期に始まった『PCP』と『Natural』で『Natural』だけアニメ化が決まってしまっていた。

 また一歩差をつけられた感じだ。

 

 勝ったり負けたりで競っていたつもりだったけど、そこはエイジブランドというか、関係者の目には『Natural』の方が上だと判断されてしまったみたいだ。

 

 大人の男性に囲まれて、すまし顔の岩瀬が腹立たしい。

 たぶん内心は、ほくそ笑んでいるんだろう。

 

「……エイジへの挨拶は後にするか」

「だな」

 

 新年会中ずっと囲まれている事もないと思う。

 盛り上がっている中に、わざわざ割って入る必要はない。

 勝ち誇った岩瀬なんか見たくないし、距離を取っておこう。

 

 福田組のうち、福田さん、中井さん、おまけで高浜さんは呼ばれていない。

 エイジと岩瀬は後回し。

 頻繁に会っているお隣の蒼樹さんに、今さら挨拶する事はない。

 

 となると、残りは平丸さんだった。

 お酒が用意されているゾーンに向かったら、すぐに見つかった。

 

「ああ。グッズが売れるって素晴らしい。何もしなくてもお金が入ってくる。これほど幸せなことはない」

 

 毎年恒例ながら、かなり酔っ払っているみたいだ。

 

「僕はもう連載をやめてもいいんじゃないだろうか。これ以上苦しんで描き続ける意味がない」

「連載が終わったらグッズも売れなくなると思いますよ」

「そんな現実はいらない。働かずに食べていく。その夢のためにマンガ家になったんだ」

 

 かなり、めんどくさいことを言い出した。

 これが成功したマンガ家の姿なんだろうか。

 

 平丸さんが言うと本当に連載をやめそうで怖い。

 その夢には共感できないよ。

 

 平丸さんがここにいるってことは──いた。

 

 担当であり保護者である吉田さんが、平丸さんを見守る事ができる位置にいた。

 今年も酔っ払い過ぎたら止めるつもりみたいだ。

 

「シュージン、平丸さんの面倒を見ててくれ」

「何だよ、急に」

「ちょっと吉田さんと話してくる」

「は!? 吉田さんと何を!? サイコー……」

 

 シュージンが戸惑っているうちに、平丸さんの事をシュージンに押しつけて、吉田さんのところへ向かった。

 

「吉田さん、こんばんは」

「どうした。真城くん」

「平丸さんの事でちょっとご相談が……」

 

 平丸さんの事を見ながら声を潜めながら言うと、それだけで意図が伝わったらしい。

 

「場所を変えた方がいいか?」

「できれば」

「……分かった」

 

 流石は、平丸さんを売れっ子マンガ家に育て上げた敏腕編集だ。

 話が早い。

 シュージンが平丸さんの相手をしているのを見て、場所を移してくれた。

 

 人気のない会場の隅だ。ここなら落ち着いて話ができる。

 

「それで、平丸の事で相談って?」

「実は──」

 

 吉田さんに相談しておきたかった平丸さんの事。

 それは──

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