(性欲が)増しろ最高のバクマン   作:チームメイト

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次に会う時は

 エイジと岩瀬の『Natural』がアニメ化した。

 

 同時に連載を開始して、先を越されてしまったのは悔しい。

 

 それはまだいい。『PCP』も負けていられない、で終わる話だった。

 でも、それだけじゃなくて『Natural』のヒロイン役のオーディションで、亜豆が最終選考まで残っているらしい。

 こうなってくると話は別となる。

 

 別に、ライバルの作品でヒロインをやるのが嫌だというわけではない。

 そういう気持ちはゼロじゃないけど、仕事なんだからそこは割り切れる。

 それに、亜豆さんにどうこう言える立場かって言われたら、私生活でフラフラしている僕がとやかく言えるわけがない。

 

 仮に、亜豆が選ばれるというのを前提に考えてみよう。

 

 メリットとして、声優としての格が上がることだ。ジャンプアニメのヒロインをやれば、確実なステップアップだと思う。

 僕達の作品がアニメ化したときに、声優として不足して選ばれないみたいなことがなくなると思う。

 

 デメリットとして、『Natural』が通年アニメである事だ。

 原作がオリジナルモンスターを出しやすいというのもあって、原作に追いついても、いくらでも話を作れるような作品だ。

 どれだけ続くのかが分からない。人気が出れば、原作が終了するまでアニメも続くと思う。

 

『PCP』も『Natural』に負けず劣らずの人気で、手ごたえを感じている。

 このままいけば、アニメ化が近いと思う。

 

 アニメ化した場合、放送期間が『Natural』と被りそうだ。

 他のジャンプ作品でヒロインを演じている声優が、同時期に他の作品でもヒロインとして選ばれるのかどうか。

 区別化のために、被りをさけて、選ばれない可能性がある。

 

 そうなってくると、僕達の夢に対してはマイナスとなってしまう。

 

 大昔はジャンプの主人公をいくつもやってました。みたいな声優もいたので、気にし過ぎだとは思う。でも、選ばれなくなる可能性は減らしたい。

 

 格が上がった結果、被ってくる。一長一短な感じだ。

 

「うーん……」

 

 僕からは何とも言えない。

 

「サイコー止めなくていいのかよ」

「そうよ。真城が反対すればミホだって……」

「僕達の夢にとって良いことなのか分からないけど、声優亜豆美保にとっては良いことだろ」

 

 どう捉えたらいいのかが、本当に悩ましい。

 なんとなくシュージンと喧嘩別れしていた時期のことを思い出した。

 

 僕一人では作品が描けなくなってしまっていた。

 その時にストキンで準キングをとった蒼樹さんの作画を担当しないかって声が掛かった。

 

 マンガ家になるだけなら、受けた方がプラスだったと思う。

 でも、亜豆との約束、高木が原作で僕が絵を描いた作品がアニメ化して、ヒロインを亜豆が演じる。

 その夢のためには、プラスになるのかどうかは分からなかった。

 

 結局、シュージンと仲直りして、上手く回っているけど、その選択肢が正しかったのかどうかは、不明だ。

『青葉の頃』は、『青葉の頃』で絶好調だし、僕達がうかうかしていたら『PCP』よりも先にアニメ化されてしまうかもしれない。

 

「絶対反対。こんなのおかしいって」

「……香耶ちゃん」

 

 見吉は最後まで反対していたけど、僕の中で答えは出なかった。

 どうすればいいんだろうか。

 

 反対するのは簡単だ。

 そして、反対すれば、亜豆はオーディションを止めると思う。

 でも、それで亜豆の足を引っ張りたくはない。

 

 どっちが正解なんだろう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 翌日。

 

「サイコー。余計なことかも知れないけど、香耶ちゃんと一緒に亜豆から話を聞いてきた」

「……シュージン」

「4日後にココで12時からだって。話を聞いただけで、別に止めたりはしてないからな」

「分かった」

「あと、亜豆が応募したわけじゃないってさ」

「……そっか。ありがとう」

 

 僕達を思っての行動だ。感謝しかない。

 シュージンから会場の地図を受け取る。

 これで期限は確定した。それまでに結論を出さなければならない。

 

「…………」

 

 原稿を進めておこう。

 悩んで時間だけ浪費していたらダメだ。

 せっかく人気作品になっているのに、原稿に集中できずに質を落とすようなことがあってはいけない。

 僕の仕事は作画だ。まず、自分の仕事をしっかりやってから、亜豆のことを考えよう。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 オーディション当日。

 

 結局、結論が出せないまま、原稿だけは進んでいった。

 現実逃避がしたかったわけじゃないけど、がむしゃらに原稿に取り組んだ結果、無駄に順調に進んで、スケジュール的には余裕ができたくらいだ。

 

 どうしようか。

 止めるにしても止めないにしても、そろそろ答えを出さないと。

 時間切れでなし崩しに止めないっていうのだけは、ダメだ。

 

「…………」

 

 僕の感情的には、ライバル作品のヒロインをやることについて、嫌かどうかでいえば嫌。でも、絶対に反対する程ではない。

 

 僕達の夢のためにマイナスなら、止めて欲しい。

 でも、本当に夢にとってマイナスなのかどうかは分からない。

 

 反対寄りだけど、亜豆の声優としてのキャリアを邪魔する程ではない。

 たぶん、これが本音だと思う。

 

 となると止めないってのが答えになる。

 

「……亜豆はどう思っているんだろう」

 

 亜豆にとっては、声優としては絶対にプラスになるはずだ。

 でも、僕達のライバルの作品でヒロインをやることをどう思っているんだろうか。

 

 気になるのが、社長が勝手に進めたオーディションだということ。

 

 亜豆が自分から受けたオーディションだったら、ここまで悩む必要はなかった。

 亜豆がそれを望んでいるのなら、背中を押す事だってできた。

 

 でも、亜豆にとっても、やりたくない仕事だったらどうだろうか。

 やりたいとかやりたくないで、仕事を決めるべきではない。

 亜豆は仕事に対して真摯だから、割り切ってやると思う。

 

 でも、それが本当に正解なんだろうか。

 

 他ならいざ知らず、僕達の夢があって、やるべきなのか亜豆も悩んでいるとしたら、僕が止めるべきなんじゃないか。

 もし、亜豆を止めることができるとしたら僕だけのはずだ。

 

「……亜豆に会いに行こう」

 

 ずるいけど、亜豆さんに決めてもらう。

 止めて欲しそうなら止める。

 覚悟が決まっているのなら、応援する。

 

 どちらにしても、亜豆の迷いを僕が断ち切ろう。

 

 今ならまだ、オーディションに間に合うはず。

 そこで亜豆を捕まえよう。

 

 上着だけ慌てて羽織って、仕事場を飛び出していった。

 

 

    ◇◇◇

 

 

 電車の中で早く進めってじれったく待ちながら、駅を出てからオーディション会場までの道を確認する。

 土地勘はまったくないけど、駅からはそう遠くない。

 これなら何とかなりそうだ。

 

 電車が駅についた。

 

 人混みをかきわけるようにして急いで、改札口を出た。

 

「こっちか」

 

 調べておいた出口の番号を見つけて、早歩きで向かう。

 

 そういえば、会場に入れるんだろうか。

『Natural』のオーディションなら、港浦さんが関わっているはず。

 最悪、港浦さんに話を通してもらえばいいか。

 

 出口だ。

 目印の建物を探して、ここからは走る。

 

 オーディション時間までは、まだ時間があるけど、どの程度前から動き出すのかが読めない。早く着くに越したことはない。

 

「八〇スタジオ……見つけた」

 

 スタジオの前で、数秒間だけ呼吸を整えて中に入る。

 受付に女性がいるけど、出入りの制限は、特にされてないみたいだ。

 

「はぁ、はぁ、おはようございます」

 

 適当に挨拶だけして、不審者丸出しで突破だ。

 奥に進むと、何か人が話している声が聞こえてきた。

 

 この声は──

 

「おおっ、真城先生ーっ!!」

 

 エイジの姿がまず見えた。横に港浦さん。

 その奥に、亜豆と岩瀬がいた。

 

「亜豆さん!!」

 

 亜豆と目が合った。

 それだけで、互いの意思疎通は終わった。

 亜豆は乗り気じゃない。それが分かっただけで十分だ。

 僕の中でも結論が出た。ここに来た甲斐があった。

 

「行こう。ここから出る!」

「はいっ……」

 

 亜豆の手を掴んで、オーディション会場から連れ出す。

 

「真城先生、あとは任せてください。僕が落としたことにします」

「新妻さん、ありがとう」

「ちょっと、待ちなさい。私は許しません」

 

 問題になったとしても、知ったことか。くらいのつもりだったけど、エイジが協力してくれるみたいだ。

 原作者が問題ないって言っているのなら、問題にはならないはず。

 もう一人の岩瀬が何か言ってるけど、無視だ無視。

 岩瀬にそんな権限はない。エイジの方が立場が上だ。と思い込もう。

 

「ハァ……ハァ……」

 

 来た道を戻ってオーディション会場のスタジオが見えなくなったところで、走るのを止めた。

 

「ごめん、無理やり連れだして」

「ううん。私も、断ったところ」

「えっ!?」

 

 スタジオに入った時に、何やら話し声が聞こえたのは、そのことだったらしい。

 って事ことは、僕がやったことは無駄だったんだろうか。

 

「手繋いでくれたね」

「……はい」

 

 いや、無駄じゃなかった。亜豆さんと手を繋ぐことができた。

 会わないって約束は破っちゃったけど、手を繋げただけでもやっぱり嬉しい。

 

 その後、しばらく手を繋いだまま、亜豆は谷草まで付き合ってくれた。

 すぐに別れる事を二人で惜しんだ結果だ。

 

 久しぶりに会って色んなことを話した。

 

 僕が頑張っていることを、女性陣から聞いているらしい。

 いつの間にか、リリカとも知り合いになっていたみたいだ。

 それは、初耳だった。

 

 五人で遊ぶ約束があるとか、なんかズルいし、ちょっと怖い。

 何を話すつもりだろう。

 

 夢のような40分はあっという間に過ぎて、電車が谷草駅についた。

 

 亜豆と手を離す。

 これで卒業してから会うのは3回目だ。

 

 入院した時、見吉とシュージンの結婚式、そして今回。

 見吉とシュージンの結婚式の時は、話したりしなかったからノーカウントでも良さそうだけど。

 

 次はたぶん、無いと思う。

 次に会う時こそ夢が叶った時だ。

 

「次会うのは、夢が叶った時」

 

 亜豆も同じ気持ちらしい。

 だから、最後にもう一度だけ約束しよう。

 

 夢が叶ったら亜豆さんと結婚する。

 手を繋ぐことは叶った。次は、結婚したらしたいことだ。

 

「「今度会ったら」」

 

 そんなものは一つしかない。

 僕と亜豆さんの周波数は一致している。言葉も自然と重なり合う。

 

「セッ──」「キスしよ」

 

 しまった。最後の最後で周波数が合わなかった。

 手を繋いだ後って、キスだったのか。

 先走り過ぎてしまった。

 

 僕は汚れてしまっていた。

 いや、結婚した二人ってキスもするけど、するけど、それだけじゃないって。

 

「うん。キスしよう。そして、()()こんしよう」

 

 ()()じゃなくて()()だから。

 セックスなんて言ってないから。

 結婚しようと言おうとしたら、言葉が重なっただけだから。

 

 誤魔化せたかは分からないけど、亜豆が笑顔で手を振ってくれたから、良しとするか。

 

『Natural』のアニメ化から始まった騒動はこれで終わった。

 次は『PCP』の番だ。その時には、亜豆さんにヒロインをやってもらう。

 

 そして、夢を叶えて結婚して、キスをする。

 夢が叶うまであと少しだ。

 

 

   ◇◇◇

 

 

 後日。

 

「言いにくいんだが『PCP』のアニメ化は、できない」

 

 順調に来ていたはずの僕達に、厳しい現実が突きつけられてしまった。

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