ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK 作:さくらおにぎり
アサクラ先輩を降して、準決勝を勝ち抜いた俺、つまりオウサカ・リョウマ(転生)。
ナナちゃんから聞かされた、"ゴジョウイン先輩の敗北"に、驚愕する面々の中、いち早く正気を取り戻した俺は、確認も含めてナナちゃんに訊き返す。
「ゴジョウイン先輩が負けたって……あの、†ゼロ・マスター†にか?」
「今なんか、ゼロ・マスターって名前に余計なものが混じってたように聞こえたんですけど……そうなんです、その人に負けちゃったんです」
マジか。
ゴジョウイン先輩を打ち負かすって相当な化け物だぞ?
そんな化け物が決勝戦の相手か……
「シノミヤ先輩は?」
「トモエセンパイは、アマネセンパイと一緒にいます。多分、今は待合スペースに……」
「そうか……すいませんケイスケ先輩、ちょっと御二方のところに行ってきます」
ケイスケ先輩に一言断ると「おぅ、行って来い」と返してくれた。すいません。
待合スペースのベンチでは、力無く俯くゴジョウイン先輩と、彼女に寄り添うシノミヤ先輩がいた。
「……オウサカか」
ゴジョウイン先輩には、いつもの凛然とした覇気が無かった。どうやら相当堪えるような負けになったようだ。
「オウサカくん、その……」
シノミヤ先輩が、代わりにバトルの顛末を話そうとしてくれるが、それは遮らせてもらう。
「ナナちゃんに聞きました。勝ったのは、あの†ゼロ・マスター†だと」
ゴジョウイン先輩が負けた、と言わないのはせめてもの気遣いだ。
そして俺に出来るのは、その†ゼロ・マスター†を倒すことだ。
「聞かせてください、そいつはどんな奴でした?」
少しだけ迷うような素振を見せてから、ゴジョウイン先輩は絞り出すように話してくれた。
――まず、あのゼロ・マスターはF91を使っていた。
若干の小改造と、カラーパターンの変更塗装が施されている以外は、原典機とそこまで大差は無いだろう、ほぼ普通のF91と見てもいい。
問題は、奴のガンプラではない。
奴の挙動には、まるで"癖"が無いのだ。
誰しも、操縦における細かな癖やパターンがあるものだが、奴にはそれが全く見られなかった。
何より、尋常ではない反応速度と初動の速さ。
こちらの攻撃は全て後出しで対処され、逆に向こうの攻撃も恐ろしく正確だ、まるで心を読まれているような気分だったよ。
そうして、何も出来ない、させてくれないままに、負けた。
「――以上だな」
淡々とそう語ってくれたゴジョウイン先輩だが……そんなに一方的な戦いだったのか。
「私の目から見ても、あのゼロ・マスターは恐ろしいわ。既存の戦法や戦術は、全く通じないと言ってもいいかもしれない」
第三者視点から見ていた、シノミヤ先輩をもそう言わせるとは。
果たして俺はそんな化け物に勝てるのか……?
「オウサカセンパイ……」
そんな話を聞かされて、ナナちゃんも不安げだ。
ふむ、
「なるほど、つまりこっちは既存の戦法や戦術を無視して戦えば勝てるってことですね」
それが通じないなら、通じる方法で戦えばいいじゃない。
「簡単に言うが……そんなことが出来るのか?」
ゴジョウイン先輩の訝しげな視線を受流しつつ。
「その†ゼロ・マスター†の言うところの『既存の戦法や戦術』が、どこまでの範囲が分からないのが不安要素ですが、まぁなんとかなるでしょう」
やりよう、戦いようはいくらでもある。
「アマネの仇を取って、なんて殊勝なことは言わないけど。お願いオウサカくん、勝って」
「わたしじゃ応援するくらいしか出来ることがありませんけど……頑張ってください!」
シノミヤ先輩とナナちゃんからお願いされる。
これに応えないなど、男が廃る。
「あぁ。行ってきます」
さぁ待ってろよ†ゼロ・マスター†。
どこのイキり厨学生か知らんけど、ゴジョウイン先輩を倒した罪は重いぞ。
『ただいまより、決勝戦を開始致します。オウサカ・リョウマ選手、ゼロ・マス、ぷっ……失礼いたしました、ゼロ・マスター選手の両名は、出撃準備をお願い致します』
おい、アナウンサーさんに笑われてんぞ†ゼロ・マスター†。
俺はナニ食わぬ顔で登場。
さて、†ゼロ・マスター†とやらの面構えを拝んでやるとし……
「ッ――」
ブッフォッ!?
いやいやいや、マジかよ……
真っ黒なロングコートに、その上から仮面……というかフルフェイスヘルメット……いや、黒バケツだ。
なんだこれ、俺を笑い死にさせるつもりか?
ゴジョウイン先輩、このトンチキな見た目に笑わされている間に負けたんじゃないだろうな?
いや、その程度で負けるようなゴジョウイン先輩では無いはずだ。
笑わずに、嗤わずに、嘲笑わずに行くとしよう。
ランダムフィールドセレクトは『グリプス2』
U.C.0087における、グリプス戦役の最終決戦場だ。
この戦場にはあまりいい思い出が無いなぁ……
カツが死ぬわ、ヘンケン艦長以下ラーディッシュのクルーが死ぬわ、エマ中尉が死ぬわ、レコアさんが死ぬわ、ジェリドが死ぬわ、ラムサスが死ぬわ、クワトロ大尉が行方不明になるわ、ヤザンが行方不明になるわ、シロッコが死ぬわ、挙句の果てにはカミーユが精神崩壊して頭が「バァッ」ってなるわ、もう酷いこと酷いこと……
別の世界線だと、カミーユも精神崩壊を起こさずに生還するからまだ救いが無くはないけどなぁ。
このフィールドでは、シンプルな宇宙戦と、コロニーレーザーの内部での二局面になるようだな。
行くぞ。
「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」
ゲートよりオリジネイトを発進、グリプス宙域へと飛び立つ。
さて、まずは宙域での宇宙戦だな。
目前に広がるコロニーレーザー・グリプス2の宇宙港から、その小柄な機体が飛び出してきた。
機体名――『ナインティワン』
F91の"91"を英読みしたものか。
カラーリングは、青の部分をダークブルーに変え、一部の色もダークブルーに置き換えられている――クロスボーンガンダムX1のそれに近いか?
――なんだろう、あの機体を見ていると、何故だか頭の中が疼く。
まるで、思い出せそうに思い出せない記憶を掘り返しているような気分だ。
なんかこう、○年振りに会った昔馴染みの顔は覚えているのに、名前が思い出せない感じ……
まぁいい、どうせ気のせいだ。
まずは牽制にビームライフルを一発。
牽制と言ってもしっかり直撃は狙っていく。
するとナインティワンは、回避運動らしい回避運動もせず、少し機動をズラしただけで避けた。
……今のは見てから動いたものじゃ無いな、俺がビームライフルを撃つタイミングとか銃口を予め先読みしていたか。
もう二発、三発とビームライフルを発射、特に三発目は二発目を陽動とした先置き射撃だったのだが、その先置きすらも読まれていたのか、掠めることもなく躱された。
続けて、ナインティワンからのビームライフルが返ってくる。
回避して、回避して、多分次は回避先に置かれているから、ここは前方に加速して接近、ビームサーベルを左マニュピレーターに持たせる。
ほら来た、三発目のビームを置こうとして、俺の接近への対応が遅れ……てない、向こうも同じく左マニュピレーターにビームサーベルを抜いて、こちらの斬撃を弾き返してきた。
弾き返された勢いを逆利用しつつ回転斬り、けれどこれは上昇することで避けられるが、ここまでは予想済みで、本命はナインティワンが回避した直後にビームライフルを叩き込む!
「そこっ!」
直撃コースだったが、ナインティワンはそれよりも早く左腕からビームシールドを発生させて、ビームを弾いた。
チッ、今のも防ぐのか。
やはりゴジョウイン先輩の言う通り、尋常ではない反応速度と初動の早さだ。
すると、ビームシールドの向こう側から、ナインティワンが覗き込むように睨んできた。
……なんだこいつ?
と、思ったらすぐさまビームライフルと左右のヴェスバーを撃ち返してきた。
ヴェスバーはやり過ごし、ビームライフルは咄嗟にシールドで受けるが、この一発でシールドが半壊した。
「ぁっ、ぶねーな!」
油断させやがってこの野郎。
ビームライフルでコレか、それよりも強力なヴェスバーならシールドごと腕を持っていかれただろう。
ここは一旦イニシアティブを取り直そう、バルカンを速射しつつ飛び下がる。
が、ナインティワンはビームシールドでバルカンの銃弾をかき消しながら加速、こちらに追い縋ってくる。
「くっ……!」
こんにゃろー、こっちがイニシアティブ取りたいって時に来んなし!
仕方ない、バーニアを前方へ向け直して、ナインティワンへ加速接近だ。
肉迫、ビームサーベル同士が炸裂、メガ粒子のスパークが、暗黒のグリプス2宙域を眩く照らしつける。
だがここで鍔迫り合いにはせず、弾かれるように一撃離脱、ついでにビームライフルとバルカンを斉射して牽制しつつ高速バック。
さすがのナインティワンもビームシールドをアテにして突っ込むつもりはなく、ビームシールドを消失させ、ゆらりとゆらりと回避していく。
……ここまで結構な駆け引きを伴った攻防になったが、こっちはシールドが半壊したのに対して、ナインティワンに目立った損傷が見られない。
「こいつマジで強いな……」
だが勝ちの目はまだ十分ある。
問題なのは、ゴジョウイン先輩がどのように負けたのか、だ。
彼女は「何もできない、させてくれないままに敗れた」と言っていたが、今のところそれほど圧倒的には感じない。
そりゃ俺が、過去の異世界転生でリアルMS戦を何度も潜り抜けているから、圧倒的と感じるほどのことでも無いのかもしれないが……
あるいは、ゴジョウイン先輩と違って、俺には異名とかネームバリューが無い無名のビルダーだからこそ警戒しているのか。
しかし、時折奴のツインアイがジーッと睨んでくるのは何なんだだ?
ダメだ分からん、今世の俺はニュータイプじゃないし、そもそもニュータイプが存在するのか分からん世界に転生しているから、思考の読み合いは出来ない。
さすれば!
「一寸先は運任せ、決め手は気分屋のジョーカー、出たとこ勝負は得意なもんでね!」
操縦桿を押し出し、オリジネイトを勢いよく加速させる。
とにかく打てる手、出せるカードは何でも使い、勝てる一手を見極めるのみだ。行き当たりばったりとも言う。
ビームサーベルを一度納めて、左マニュピレーターにはハイパーバズーカを持たせて、ビームライフルと交互に発射、発射、発射。
弾速の速いビームと、時間差に合わせた回避先にハイパーバズーカの弾頭を置いていく。
ビームは避け、弾頭はビームサーベルで斬り捨て、そのタイムラグにさらにビームライフルを撃ち込んで、その回避先に……ハイパーバズーカとバルカンの銃弾を射し込む!
しかしナインティワンは、バルカンはビームシールドでかき消して、すぐさまバルカンを速射してハイパーバズーカの弾頭を撃ち落としてしまう。
「今のも無理か……っ!」
クソッタレが、何手先まで読んでいるんだ?
いや……先読みじゃないな、『全部見てから反応している』のか。
撃ち尽くしたハイパーバズーカを捨てて、空いたスペースにビームライフルを納め、ビームサーベル二刀流で構える。
射撃戦じゃ通じないならインファイトで攻め立てるまでだ。
操縦桿を押し出して加速、ナインティワンの連射してくるバルカンとマシンキャノン、左右のヴェスバーを掻い潜りながらも距離を詰めていく。
だが、このまま斬り掛かってもすぐに対処されてしまうだろう。
故に、先に"捨て石"を一手挟んでおく。
バルカンとマシンキャノンの斉射が一瞬止む――その瞬間を待っていたんだ!
シールドを左腕から切り離して、
「行けよ!」
ナインティワン目掛けて蹴っ飛ばし、同時にスラスターをフルスロットルで加速!
蹴り飛ばされたシールドは猛然とナインティワンへ突っ込んでいくが、ナインティワンはこれを迎撃せずに回避し――いい子だ!
ビームサーベルの間合いに踏み込めた。
「墜ちろォッ!」
振り下ろす右のビームサーベル、しかしこれはビームシールドに防がれ――読み通りだ、すかさず左のビームサーベルで胴体を突き立てようとして、これは胴を捻るように躱され――想定範囲だ、次の瞬間には右腕のビームサーベルを引き戻しながらくるりと回転しつつ、ナインティワンの右側面へ回り込み、回転ざまに大きく前進しつつ薙ぎ払い――これもすぐに反応してビームシールドで防がれた。
「二段階の囮にも食い付かないか……!?」
右、左と囮を振るい、本命が回転しつつの右のビームサーベルだったのだが、これも防がれてしまった。
こりゃ本格的にキッツイな、この†ゼロ・マスター†、ただの厨学生じゃないらしい。
しかもそれどころか――ナインティワンの肩からフィンが展開され、マスク部が開放され、さらに全身が淡く輝き始め――
おいおい、公式戦の場でそれは反則技だろうが……!
次々と手を打っていくもののその全てが通じないでいるオリジネイトガンダム。
――その機体の挙動から、"焦り"が見え隠れしていることも。
「まずいわね、オウサカくんの打つ手が無くなってきた」
トモエその言葉を聞いて、アマネは苦々しげにナインティワンを映すモニターを睨む。
「そうだ、何をやっても通じず、潰される、全く突破口の見えない相手。オウサカならばあるいはと思ったが、……彼でもやはり厳しいか……」
三年生二人は「やはり彼でも勝てないか」と諦めムードを漂わせかけた時、
「センパイ達がそんな弱気になってどうするんですか!オウサカセンパイならきっと勝てるって、信じなきゃっ!」
ナナが強い声を張り上げる。
彼女は、リョウマなら勝てると信じて疑わない。
「……そうね、ナナちゃんの言う通りだわ。彼は、勝つつもりでいる」
萎縮しかけた気持ちを取り戻すトモエ。
アマネも諦めムードを払拭するように姿勢を正す。
「だが……打つ手が残り少ない以上、これをどう打開するのだ……?」
モチベーションの維持は大切だが、それと戦局の打開が直結するかはまた別の話だ。
――アマネの言葉通りであるかのように、あらゆる戦術、戦法で打開を試みるオリジネイトガンダム、その全てがナインティワンに無効化されていく様相を生み出していた。
しかもその上から、ナインティワンの全身から淡い輝きを放ち始める。
観客席からトモエは、腰を浮かせた。
「疑似覚醒システム!?そんな、レギュレーション違反でしょう!?」
彼女の声を皮切りに、周囲のギャラリー達もどよめく。
「反則技って……なのに、どうしてあのゼロ・マスターは失格にならないんですか?」
ナナの言うことは尤もであり、普通ならレギュレーション違反が発覚した時点で、出場選手は失格となる。それは、過去の公式大会から散見していたことだ。
「……あれが本当に"疑似"なのか分からないからだ」
アマネは、歯軋りしたくなる衝動を抑え込む。
「疑似覚醒システムを使ったかどうかが判明されるのは、バトルが終わって、そのログを調べてからになる。何かしらの不正なデータによる割り込みがあれば摘発されるが、バトル中にそれは出来ないし、もしかしたら"本物"の覚醒システムかもしれない……だから、審判側もバトルを中止することは出来ないのだ」
「そんな……」
ナナの声が弱まる。
素の状態ですらアマネを圧倒する上から、性能を底上げする疑似覚醒システム。
さすがのリョウマも、これには打つ手が無いかと思われた。
やべぇわ、どうしようこいつ。
ビームライフルのエネルギー残量あと四発分、バルカンも残弾僅か。
ビームサーベルは二刀流も両逆手忍刀構えも全部弾き返されたし、ビームシールド相手にパンチやキックを仕掛けるわけにはいかないし……
かくなる上は、コロニーレーザー内部に誘い込んでみるか。
向こうがこっちの誘いに乗ってくれるかは微妙なところだが、とにかく試してみよう。乗ってくれれば儲けものだ。
オリジネイトをユラユラと左右に蛇行させつつ、コロニーレーザー内部へと移動していく。
すると、一拍を置いてからナインティワンも追い掛けてきた。
うっわ、速い速い速い、追い付かれそう。
さてどうするか。
さすがにコロニーレーザー内部にトラップなんて仕掛けてないし、今からじゃ仕掛けられないから、不意打ち上等のゲリラ戦だな。
コロニーレーザー内部のミラーの柱の中を駆け巡り、挑発するように加速と減速と急加速と急停止を繰り返したり、ビームライフルを構えるだけの撃つフリをしてみせる。
……全く動じてないな、ビームライフルを向けられても挙動ひとつ変えないとか、こいつの心臓、ガンダニュウム合金で出来て……ん?
ガンダニュウム合金――ビルゴ――
俺の中で単語が連鎖的に思い浮かび――ひとつの可能性に至る。
「こいつ……まさか、"意思拡張AI"か?」
A.S.(アド・ステラ)のジェターク・ヘビー・マシーナリー社の第五世代MS『ダリルバルデ』が試験的に搭載していたシステムだ。
スレッタ・マーキュリーのエアリアルとの決闘で投入され、序盤は生身の人間を遥かに上回る処理速度と最適化によって優位に立っていたが、ドローンの動きが正直過ぎる点をスレッタに見抜かれた辺りから優位性が失われつつあった記憶がある(決闘終盤辺りで、搭乗者のグエルが生徒手帳をぶっ壊してAIを強制停止させてからは、グエルの操縦に切り替わり、互角の戦いを演じていた)。
つまり、あの†ゼロ・マスター†は操縦なんてしておらず、全部AI制御に任せてナインティワンを戦わせている……の、かもしれない。
だとすれば、ゴジョウイン先輩ですら後手に回らざるを得ないのも、俺の攻撃という攻撃手段が通じないのも頷ける話だが……あくまで可能性だ、†ゼロ・マスター†の心臓が毛虫みたいになっているだけかもしれない。
しかし、このままゲリラ戦を続けていても勝ち目はどんどん先細りばかりだ。
えぇぃ!イチかバチかだ!
「オウサカくんが押されてる……!」
マユは、疑似覚醒システムを発動したナインティワンに追い詰められていくオリジネイトガンダムを見て、不安げな声を上げる。
「あーっ、なんでそこで反撃しないんだよリョーッ!やられっぱなしじゃねーか!」
イツキはもどかしさに地団駄を踏む。
「何をどう攻撃しても、全部後出しで潰されているもの、これじゃどうしようもないわ」
トウカも、ナインティワンの動きを見て、仮に自分があの機体と立ち会った際にどう攻略するかをイメージしているが、彼女でさえも勝ち筋のイメージが出来ないでいた。
頻りに挑発を繰り返して、ナインティワンを内部ミラーへ誘い込んでいくオリジネイトガンダム。
追いかけっこが数十秒ほど続いた時に、不意にオリジネイトガンダムは振り返って、ビームライフルをリアスカートに納め、ビームサーベルもランドセルに戻して、素手になった。
「敢えて武器を手放して素手になった……何をしようってんだ?」
すると――
「え」
マユは目を点にして、
「一体何が始まったの……」
トウカは元より細めていた目をこれでもかと言うくらいに細めて、
「あっはははははっ!ちょっ、何してんだよっ、リョー……!」
イツキは腹を抱えて大爆笑し、
「おいおい……まさかそう来たか……」
ケイスケは苦虫を生きたまま丸呑みしたような顔をする。
リョウマに一体何が起きたのか、オリジネイトガンダムが突然――奇怪なダンスを踊り始めたのだ!!
「やっちゃいなよ、そんな偽物なんか!」
喰らえ――マフティーダンス!!
「鳴らない言葉をもう一度描いてー♪」
クネクネクネクネシュシュシュシュとオリジネイトを踊らせる。
いつかの異世界転生で、『もしも宇宙世紀に『連邦に反省を促すダンス』が流行ったら』と言う設定の二次創作で身に着けた、『マフティーダンス』だ。
秘密結社マフティーの、清廉さが感じられないダンスのことであり、この世界でもネットミームとして流行していたことに爆笑したものものだ。
ちなみに俺は、U.C.0105のその時、メッサーに乗っていて、アデレードの警備MS隊の前でこれを踊ったこともある。
あれ、本当は頭にジャック・オ・ランタン被って黒タイツで踊るべきなんだけど、さすがに用意できないので、振り付けだけでも完全再現だ。
で、何がしたいのかというと……
「赤色に染まる時間を置き忘れ去ればー♪」
奴が本当にAIなら、『バトル中にいきなり目の前で変なダンスを踊り始める敵機』への対処法なんて知らないだろう……と言う、希望的観測。
問答無用で撃ってきたらそれでおしまいだが……おっ?ナインティワンの動きが止まった……え、マジでフリーズしたの?
「悲しい世界はもう二度と無くてー♪」
だがまだ踊っておこう、どうせなら徹底的にフリーズさせてやろう。
なおも踊り狂うオリジネイトを前に、ナインティワンはやはり動かない。
時折ビームライフルを構えようとはしているが、その動きはぎこちなく、ツインアイは頻りにチカチカと点滅している。
よーし、いいぞ……踊りながら、少しずつ接近だ。
カシュ、カシュ、とバーニアを微動させて、オリジネイトをナインティワンへ近づけさせて行く。
「荒れた陸地が こぼれ落ちていくー♪」
ここまで来たら最後まで踊っておこう。
そして、踊りながらもさり気なく右マニュピレーターを伸ばし、ビームサーベルをランドセルから抜いて、まだビーム刃は発振させない、下手にビーム刃を出したら警戒されてフリーズが解けてしまうかもしれない。
「一筋の光へ♪」
――と、同時に今だァッ!!
マフティーダンスのキメと同時にビーム刃を発振させて、一閃!
ナインティワンもこちらの攻撃に反応こそしてみせたが、ただでさえ変なダンスに
起死回生の一閃は、ナインティワンの胴体を両断し――爆散せしめた。
ナインティワン、撃墜。
卑怯な騙し討ち(馬の骨感)?
向こうはレギュレーション違反してんだから、あくまでもお行儀よくレギュレーションに則っている俺に文句は言わせねぇ。
『Battle ended!!』
瞬間、爆笑と歓声が会場に轟いた。
そりゃそうだ、ガンプラバトル中に突然マフティーダンスを(ガンプラで)踊り始めるようなバカタレは、異世界中探しても俺を含めて片手で足りるくらいの人数ぐらいしかいないだろう。
だが勝ちは勝ちである。
オリジネイトとスマホを筐体から回収したら、すぐに相手側の筐体に回り込む。
「やぁやぁやぁさっきはよくも疑似覚醒システムなんてものを恥も外聞もなく使ってくれやがったなとりあえずそのツラ拝ませやがれくださいやァ!!」
バッと踏み込んで胸ぐら掴み上げ、黒バケツをぶん取ると、
「は!?」
思わず胸ぐらを手放して後退った。
黒バケツの下にあったのは、偉丈夫でもケツアゴでもなく、『そもそも人の顔ですら無かった』
「ロ……ロボット……!?」
無機質な――"機械"のそれだったのだ。
俺の声に、会場が騒然となる中、†ゼロ・マスター†は俺から黒バケツを取り戻そうとすることもなく踵を返すと、そのまま会場を去っていった。人間のソレと全く遜色ないレベルの歩みで。
俺は呆然とそれを見送ることしか出来なかった。
無意識の内に手放した黒バケツが、カコンコロンと音を立て転がった。
――・・・修復プログラ厶、完了。
――イレギュラー1の妨害排除に失敗。
――原作への侵食率……83%に上昇。
――イレギュラー1の侵食率が緊急排除域に到達。
――疑似覚醒システムver.1.78の再アップデートを推奨。
――確認。疑似覚醒システムのアップデートを承認。
――了承。また、イレギュラー1はコードM.K、コードT.M.への断片的な記憶の所持も確認。
――特に、コードM.K.への記憶の所持率は高いと思われる。
――警戒レベル4からレベル6への引き上げを推奨。
――・・・承認。コードS.M.、コードK.R.、コードN.H.への断片的な記憶も所持していると思われる。
――了承、これよりフェイズX105より、フェイズ56Sへ移行。
不気味な静寂の中で、ゴジョウイン先輩とアサクラ先輩による三位決定戦も行われようとしたが、ゴジョウイン先輩は体調不良を理由に三位決定戦を棄権。
続けて行われた表彰式は、優勝の俺と、ゴジョウイン先輩の棄権による不戦勝で三位となったアサクラ先輩だけで、†ゼロ・マスター†はその場に現れなかった。
ちなみに審判団によると、†ゼロ・マスター†が使っていた筐体には、疑似覚醒システムを使用した形跡があったため、どの道表彰式に立つことは叶わなかったのだが。
大会スポンサーのお偉いさんから優勝トロフィーをいただいたが……こんなに"重くて空っぽな"トロフィーは初めてだ。
閉会式も、それっぽいことをとりあえず述べるだけ述べてハイ終了、閉廷!解散!
大会も終わったところで、会場のフードコートに入り、俺、ゴジョウイン先輩に加えてアサクラ先輩も混じえた、"お疲れ様でした会"をすることになった。
主役の俺、ゴジョウイン先輩、アサクラ先輩に、マユちゃん、イツキ、ミカゲさん、ケイスケ先輩、シノミヤ先輩、ナナちゃんの計九人だ。
各々、自分の飲み物を用意して、席に着いたのはいいのだが。
…………………………
開幕、沈黙である。
まぁ無理もない、ゴジョウイン先輩を破った†ゼロ・マスター†が、まさかロボットだったなんて、誰が予想出来たものかよ。
そんな驚愕の事実を目の当たりにすれば、何を言えば良いのか分からなくなるだろう。
「……結局、あのゼロ・マスターは一体何者だったのだ?」
絞り出すように話題を用意してくれたのは、ゴジョウイン先輩だった。
奴が何者だったのか答えられる人なんて、この場にはいない。
ただひとつ、言えそうなことがあるとすれば。
「さぁ?……けど、AIロボットを一選手として大会にさせるようなバカタレがいるってことは確かでしょう」
今やAI生成なんて新たな概念が一般化しているとは言え、ロボットという"物理的な器"があるということは、それ設計、開発した人間がいるのは間違いない。
そしてそんなバカタレが考えるようなことなんて大抵ロクでもねーことだ。
まさにイカレた陰謀。そんな奴は一度『やたらとハードボイルドなペンギンさん達』に、キュートに可愛くシージャックされればいいと思う。
……話がマダガスカルに逸れた。
「ガンプラバトルを自らの手で戦わずに、AIに任せるなど……我々ファイターを侮辱しているとしか思えん」
アサクラ先輩は憤りを表にしている。
侮辱、ねぇ。
環境があれば(著作権侵害という点に目を背ければ)誰でも人気イラストレーター(の猿真似上手)になれてしまうのが生成AIの利点でもあり、害でもある。
人気イラストレーターのイラストを学習させて、"それっぽい"のを生成させ、名を騙ってマネーを騙し取る。
誰でも簡単に出来ると言うことは、希少価値が付かないことでもある。
個人間で楽しむ分には良いだろう。
けれどそこに利益が絡むと、それとこれとは話が違うと言わんばかりに人は平然と害を為す。
アートはアーティストありきの文化だと言う、"当たり前のこと"すら理解出来ないのも、マネー絡みのせいか。理解した上で飯の種にしているのなら、そいつはどうしようもないクズとしか言いようがないが。
ガンプラバトルに置き換えれば、わざわざ自分が動かすよりもAIに任せる方が効率的で強い、というものだろう、アサクラ先輩はそれが気に食わないと言う。
だが、オート化が全て害悪であるとは言い難いのも事実だ。
では全て機械に任せれば良いのかと言えば決してそうでもなくて。
マイナスゼロか無量大数か、そんな両極端な談義を必要としなければならないのが、日本人の悪しき風習と言うべきか。
「でも、そうやってロボットに優勝させることに、どんな意味があるんでしょう?」
マユちゃんが疑問の方向性を変える。
「んー……例えばだけどよ、プログラミングの企業が、『ウチはオープンクラスのガンプラバトル選手権にも優勝出来るくらい優秀なAIを作れます』って喧伝のためとかか?」
ケイスケ先輩が現実的な意見を述べた。
eスポーツをAIにやらせる理由なんて、それくらいのものだろう。
「でも、それならわざわざガンプラバトルでなくともいいじゃない?AIの性能を見せつけるためなら、もっと他に高度なことをさせればいいだけなのだし……」
しかしケイスケ先輩の意見に、シノミヤ先輩が疑念を浮かべる。
それもそうだ、それこそ人が動かすようなものと比較する必要がない、既存のスーパーコンピューター辺りと天文学的数字の計算を競わせればそれで十分だろう。
「逆に……『ガンプラバトルの有名選手はAIに負ける程度の実力しかない』と貶めるための手段だとか?」
ミカゲさんが、『AIの優位性』とは逆の意見、個人を貶めるための謀略では無いかと言う。
あぁ、なるほどそう言うことも有り得るか。
「え?え?ど、どう言うことですか?」
ミカゲさんの意見を理解出来なかったのか、ナナちゃんが右往左往する。
「例えば、ゴジョウイン会長や、アサクラ先輩の事を快く思わないグループがいて、その人達をガンプラバトルで負けさせることで、名誉威信を落とそうとしている……と言うことよ」
今大会の有名選手と言えば、やはり二つ名持ちのゴジョウイン先輩だろう。
彼女の名誉や地位を貶めるために放った刺客……そう考えれば、有り得なくは無いと思える。
「ミ、ミカゲちゃんが何言ってるか全然解んねー……」
イツキ、お前は黙ってドリンクでも飲んでなさい。
「バカな、仮にゴジョウインや俺を貶めるためだとしても、しょせん俺達は学生に過ぎん。そこまでする理由があるのか?」
そう。
アサクラ先輩はともかくとしても、ゴジョウイン先輩は学園理事長の娘かつ、学生会会長、ガンプラバトル選手権全国大会ベスト8の称号・肩書を持とうとも、学生であることに変わりはない。
貶めようとしたところで、多少の効果はあるかもしれないが、それでも実行に対して得られる恩恵との釣り合いは取れるまい。
「それが分からんからこうして意見を交わしているが……結局のところ、いくらこの場で私達があれこれと憶測を並べ立てたところで、真意を問い質すことは出来ん」
ゴジョウイン先輩の言う通りなんだよなぁ。
あの†ゼロ・マスター†はもう何処かへ立ち去ってしまったし、取っ捕まえて尋問するなんてことも出来ない。
それに……奴はAIでありながら疑似覚醒システムを使って来たことも気になる。
地区大会の前に、イツキとゴジョウイン先輩との三人チームでバトルした時、バカチントリオも疑似覚醒システムを使って来たところ、疑似覚醒システムは経路さえ知っていれば誰でも簡単に入手出来てしまうと言うことだろう。
なんか、こう……疑似覚醒システムって、生成AIに似てる気がするなぁ。
尊厳や権利を踏み躙ることに目を瞑りさえすれば、誰でも簡単にプロ顔負けの結果を出せる辺りとか。
俺やゴジョウイン先輩、アサクラ先輩の健闘を労うはずの集まりは、何の盛り上がりも見せないままに終わりを告げた。
地元に帰ってきたところで解散し、寄り道せずに真っ直ぐ帰宅した後、夕飯を作る気にもなれないまま、俺はスマートフォンのRINEを開いた。
メッセージを飛ばした相手は、チーム・ブラウシュヴェルトのエース、タチバナ・シオン。
地区大会後のたこ焼きパーティーの歳、これも何かの縁だと言うことで、彼とは個人的に連絡先を交換していたのだ。
リョウマ:今、大会が終わったのでメッセージを飛ばしてみる試み
シオン:おっす、お疲れさん。どうだったよ?
リョウマ:結果を先に言うと、優勝した
シオン:おぉー!おめでとさん!
リョウマ:ところで、疑似覚醒システムって何か知ってるか?
シオン:聞いたことはあるなあ、限られた人にしか使えない覚醒システムってのがあって、そのパチモンだって言うことくらいは
リョウマ:相手がそれ使って来て、こりゃやばいってなって、相手の動きがなんかおかしくて、もしかしたらAIかも?って思ったから、マフティーダンスで対抗した
シオン:マ?マフティーダンス?どゆこった?
リョウマ:今日のバトルの決勝戦の動画をドゾー
動画が送信されました
シオン:ちょwwwダンスすげえ上手いwwwきめえwww
リョウマ:さすがのAIもバトル中にマフティーダンスを踊ってくるとは思わないだろうと思って、踊ってみた
シオン:踊ってみたwあんたはG-チューバーかよwww
リョウマ:で、もうひとつ驚愕の事実があってだな
シオン:まだなんかあんのか
リョウマ:その決勝戦の相手、†ゼロ・マスター†って言うんだけど、実は人間じゃなくてロボットだった
シオン:あのすまん、頭大丈夫か?
リョウマ:頭は最高にハイってやつだ(耳掻きしながら)
シオン:全然大丈夫じゃあねえのはよく分かった
リョウマ:肝心のファイターがロボットなんだから、そりゃAIで制御されて当然だよなって
シオン:なあんかとんでもねえことをしれっと言いやがったぞ
リョウマ:だが勝ちで終われば全てよし、シオンも疑似覚醒システムの被害には気を付けろよって話
シオン:ご忠告痛み入るぜ
リョウマ:そろそろ夕飯にするから、あとはタコよろしくー
シオン:そこはイカじゃねえのかよwww またな
シオンとのやり取りを終えて、スマートフォンをテーブルに置く。
「……あるいは、これはほんの始まりに過ぎないのかもしれないな」
何か大きな、しょーもないことに巻き込まれそうな気がする。
そんな予感がしてならなかった。