ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK 作:さくらおにぎり
テスト終了を告げるチャイムの電子音が鳴り響き、席の後ろから答案用紙が回収されていく。
……ふぅ、これにて期末テスト終了だぜ。
「あ゙ーーーーーおわったぁぁぁぁぁ……ッ」
閉幕一番、イツキはべっちゃりと机の上に上体を押し付ける。
期末テストが終了したから「\(^o^)/」のか、もう補習・追試が確定したから「/(^o^)\」のか、どっちだろうか。
「お疲れさま、イツキ……大丈夫?」
マユちゃんは燃え尽きているイツキにそっと声をかける。
「だいじょぶくなぁい……あたしは疲れたぞぉ……」
だいじょぶくないらしいイツキ。
「……午後からは部活もあるのに、そんな調子でどうするのよ」
そのイツキとは対照的に、いつもの変わらない様子のミカゲさん(地味子ちゃんモード)。
中間考査でもクラス1だったらしい彼女にとって、テストなど恐るに足りないということか。
「あはは……オウサカくんはテスト、どうだった?」
ん?俺か?
「個人的な感触としては、まぁまぁ出来た方だと思う。ミカゲさんに教えてもらったおかげだ」
いやホンマに。
ミカゲさんの教え方は、喋る教科書みたいに淡々と理路整然としているから、俺にとってはありがたいくらい分かりやすかった。
「……別に大したことはしていないわ。私は教科書通りのことしか教えてないもの」
……ただ、先週の月曜日からやけにミカゲさんが俺のことを案じてくれているように思うのは、俺の気のせいか?
気のせいだな、このところはテスト範囲を教えてもらうことが多かったから、多少なりとも俺という男子に対する忌避感のようなものが薄れたのだと思っておこう。
「んじゃ、昼飯食べたら部活に行きますか」
今日は弁当を持ってきてないので、食堂へGOだGO。
昼食後はそのまま真っ直ぐ部室へ向かい、ケイスケ先輩はまだ来ていないが、各々自由に活動だ。
「よーっし、マユ、一緒にミッションモードやろーぜ!」
「いいよ、何のミッションする?」
イツキとマユちゃんはミッションモードをするようだ。
俺はどうするのかと言うと、オリジネイトガンダムの改造プランを練らなくてはならない。
ルーズリーフをテーブルに敷き、シャーペンをカチカチとノックしてもしもーし。
俺がオリジネイトを使っていての不満は、ビームに対して強い耐性を持つ敵機に対する決定力不足。
Iフィールドや耐ビームコーティング、ナノラミネートアーマーを持った敵機のことだ。
その不満を満たすにはどうするべきか。
実体剣やハンマーと言った質量武器を装備させることが良いだろうが、それに伴う全備重量の増加は機動性の低下や操縦性の悪化を招く。
「ふむ……」
その際、参考にしようと思ったのは、シノミヤ先輩のフルコマンドガンダムMK-II。
シンプルな機体を外付け装備によって強化し、場合によっては装備を切り離して元の形態に戻る、と言うフルアーマープランのそれに似たものだ。
アレは大型のウイングのパイロンに、ミサイルやガトリングガンを懸架する形で搭載していたが……俺が求めているのはそういうものではない。
「……オリジネイトガンダムの、改造?」
俺の隣の席についていたミカゲさんが、俺のメモ書きを覗いていた。
「あぁ、ミカゲさん。そんなとこだ」
「……オウサカくんは、具体的なプランが見えているのね」
「具体的な、とは違うかもしれない。現状に対する不満と、不満を解消するに当たって生じるデメリットをいかに受け入れるか、その間で悩んでいるだけだよ」
「……それでも、何をどうしたいのかはハッキリしているじゃない。私みたいに、『現状を良くしたくてもそれすらままなっていない』ようなことにはなっていないもの」
そう言っているミカゲさんの手元には、バトルアンカーを取り外したガンダムグレモリーがちょこんと鎮座している。
「……アサナギさんやタツナミさん、サイキ先輩みたいにハッキリとした『自分のガンプラ』と言うものが、私には無いから」
「……」
ミカゲさんのその言葉が、想像以上に深く俺の心に突き刺さる。
つまり、『オレガンプラ』を作りたいと思ってはいるけど、その"オレ"に当たる部分――パーソナルがハッキリしていないのがもどかしい、と言いたいのだろう。
それは、俺も同じことだ。
"俺"はしょせん、『オウサカ・リョウマ』と言うオリ主の肉体を"借りている"だけの、"紛い物の存在"だと言う自覚がある。
女神様は、最後の異世界転生くらい後腐れ無くやってくれと言っていたが……やはり後ろめたさは拭えない。
いくらオウサカ・リョウマらしく振る舞っても、いくら物語の主人公のような顔をしても、"俺"は『この世界における特異点』に変わりはないのだから。
とはいえ、ミカゲさんの心境と俺の深層心理は似て非なるものなので、それは置いておこう。
そうだなぁ……
「別に、今すぐ無理して『自分らしいガンプラ』なんて作らなくていいんじゃないか?」
「……どういうこと?」
「無理に長所を伸ばしたり、短所を補ったりしなくてもいいんじゃないかってことだよ。ガンダムグレモリーって機体をそのままに、単純な完成度を高めるだけでも、ガンプラバトルでの優位性は保てる」
「……機体を、そのままに」
「それに、『自分らしいガンプラ』を作るのは、いつでも出来ることだしな」
俺みたいに、『自分らしさなんてものを持っていられなかった』奴とは違うんだ。
ミカゲさんは、ミカゲさんのペースで、自分らしいものを作ってほしく思う。
「……なるほど、そういう選択も『自分らしさ』と言えるわけね」
彼女の中で合点が入ったのか、感心するように頷いた。
「……ありがとうね、オウサカくん」
「別に大したことを言ったつもりは無いけどな」
だが美少女から良く思われるのは単純に嬉しいので、ちょっとだけ照れ隠しだ。べ、べ、別に嬉しくなんかないんだからねっ!
さて、オリジネイトの改造プランの続きだ、続き。
結論から言うと。
・ビームピストルとヒート刃を兼ね添えた銃剣を中核に、ウイングと合体させることで、大型銃剣としても使用できるバックパックブースター(すぐにパージ可能)。
・補助火器として、左右サイドスカートに外付けするレールガン(すぐにパージ可能)。
・右腕のハードポイントにグレネードランチャー(すぐにパージ可能)。
……うむ、こんなところか。
つまり、これら追加装備を全て切り離せば、元のオリジネイトガンダムに戻すことも出来るわけだ。
元のオリジネイトの完成度が高くて下手な改造が出来ないのなら、『しなくていい』。
相手によっては追加装備が蛇足になることもあるだろうが、それならさっさとパージして身軽になればいいだけのことだ。
さて、ここまでは机上の空論と言うか俺のイメージに過ぎないので、次はどう形にするかだ。
カリカリとルーズリーフに大まかな図面を引いていく。
大型銃剣のサイズやリーチはどのくらいにするか、レールガンの弾数はシミュレーター上では何発くらいになるのか、グレネードランチャーはどこまで切り詰めてコンパクトにするか、etcetc……
俺の隣にいるミカゲさんは、先程から淡々とスマートフォンで調べ物をしているが、恐らくグレモリーの改造やディテールアップなど、参考になりそうな画像や情報を検索しているのだろう。
もし隣にいるのがイツキだったら、なんかあったらすぐに俺を呼んでスマホの画面とか見せて「なーなーリョー!これとかどーよ!」とか言いながら寄ってくるものだが、ミカゲさんは黙々と自分の作業に集中している。
こう言う時、物静かな人と一緒だと落ち着くなぁ。
……今、チラッとミカゲさんのスマホ画面が見えたんだけど、やたら物騒な形状をした大鎌とか不気味な頭蓋骨の画像が並んでいたんだが。
グレモリーの改造参考画像を検索しているのだろうが、一体何を見ていたんだろう……怖いもの見たさで知りたいような、見たら絶対に後悔しそうで怖いと言うか。
ま、マァいいやサァいくか。
「おぅリョウマ、順調か?」
最後に部室に来たケイスケ先輩が、進捗を訊いてきた。
「ペーパープランはざっとこんなところです。見てもらっても?」
先程書き終えたメモ書きとざっとした図面をケイスケ先輩に見せる。
「ふんふん……レールガンは既存のキットのパーツを流用するみてぇだけど、このバックパックブースターはスクラッチで作る気か?」
「そうです、実体剣を振るう上で最適なリーチとウェイトバランスを追求するつもりです」
「ははぁ、こりゃ手間のかかるもんを作るな……」
「何か、添削する部分とかはありますか?」
俺よりも遥かにガンプラ歴の長いだろうケイスケ先輩に、これら追加装備の問題点の洗い出しをしてもらおうと思ったんだが。
「いや、ペーパープランの時点じゃ添削のしようがねぇって。実物を作ってみて、そこから何が問題点になっているのかを逐一確かめなきゃならねぇからな」
そう言いながら、ケイスケ先輩は鞄のケースから、愛機のジムカラミティを取り出してみせた。
「こいつのビームキャノンな。元々あったジム・キャノンIIのビームキャノンの上から、プロペラントタンクのキットを改造したものを被せて大型化してんだけど、シミュレーターを通してみると、なかなか思い通りの結果にならなくてな。何が問題になっているのか、その都度考えて、再改造を繰り返してたもんだよ」
ようするにトライアンドエラーだな、とケイスケ先輩は苦笑して見せる。
なるほど、だから先輩のジムカラミティが地区大会ギリギリまで完成しなかったのは、そう言う理由があったのか。
最初から最後まで設計通りに行く方が逆に難しいと言うことだな。
「ともかく、まずは完成させんことには始まらないと」
「そゆこったな。ま、頑張れよ」
そうして、ケイスケ先輩の視線が次はミカゲさんの手元に向けられる。
「ミカゲは何調べて……うげっ、何見てんだお前!?」
「……『怖いガンプラ』、と検索してみたんです。グレモリーの改造の参考になるかと思って」
「やめとけやめとけやめとけっ、そんなもん実際に作ったら夢に出てくるぞ!?」
怖いガンプラか。
それはそれで見てみたい気もするが……ケイスケ先輩がマジでビビってるので、相当ヤバいものを見ているらしい。
っていうか、それを平然と見ているミカゲさんはホラー耐性高過ぎるだろ。
……占いをやってるくらいだから、不吉を思わせるようなものは見慣れているのかもしれないな。
部室に置いてあったプラ板やプラ棒、ジャンクパーツを引っ張り出して、銃剣ビームピストルや、ウイングブレード、それらをひとつのバックパック化するためのプラットフォームなどを、とりあえず形作っていく。
本物のMSの武装を開発するよりは遥かに簡単だが……やはり物が小さいので細かく緻密な作業になる。
カッターナイフでプラ板切り出しーの、複製して組み立ててーの、余分な部分は削りーの、足りない部分はパテで埋めーの、紙ヤスリで形整えてーの……
とかなんとかしてると、もう夕方頃だ。
「ん……もう下校時間かぁ……」
やべー、めっちゃ集中してたわ。
でもその集中の甲斐あって、とりあえずの形は出来たぞ。
ガチャガチャと製作中のパーツを集めて、プラケースの中に放り込む。
「お疲れーリョー、めっちゃ集中してたじゃん」
イツキが鞄の荷物を纏めながら話しかけてきた。
ぐいぃぃぃぃぃっと背伸びー。
「くあぁぁぁぁぁ……っと、でもまだ形が出来たところだ、これから家に帰ったら、表面処理をしないと」
「頑張るなー……でも、あんまし根詰め過ぎんなよー」
そこに、マユちゃんも混ざってくる。
「明日はテスト採点で休みだし、オウサカくんも今日はゆっくり休んだら?テスト勉強期間中、結構な勉強量みたいだったし」
「うーん、表面処理だけやろうとか思ったけど……ま、明日でもいいか」
マユちゃんの進言に従って、今日はゆっくり風呂に浸かってから寝るとしよう。入浴剤でも帰りに買おうかな?
「よーし、全員集合してくれ。今後の連絡だ」
ケイスケ先輩から連絡があると言うので、席を寄せ合って座る。
「実はさっき、ゴジョウインから貰ったものがあってな……っと、これだ」
鞄に手を突っ込んでガサゴソすると、クリアファイルを取り出し、その中にあるプリントを抜いて、俺達に配ってくれる。
「『レイセングループ』主催のクルージングパーティー?」
レイセングループってなんぞや。
ダブスタクソ親父っぽい独裁者とか、耄碌したご老体とか、強面の堅物熱血親父とか、見るからに怪しいBBA四姉妹とかが戦争シェアリングしてそうな響きのネーミングだな。
「レイセングループって確か、日仏共同財閥グループって聞いたことあるけど」
マユちゃんが俺の疑問に答えてくれるように、どう言うグループかを口にする。
「……正確には、フランスの中小企業郡を、日本のレイセングループが取り込んだ、と言う方が正しいわ。日仏共同と言うのは、表向きの話よ」
さらに細かくミカゲさんが補足してくれる。
「へー、そーなんだなー?」
イツキはそう言っているものの、チンプンカンプンな顔をしている。
そんな大企業のクルージングパーティーに、俺達一般学生にどう関係すると言えば。
「レイセングループと、理事長……ゴジョウインの親父さんと、その周りが懇意にしているらしくてな。加えて、『ツキノミヤ財閥』とも蜜月関係にある。レイセングループと、ツキノミヤ財閥……両家のお嬢様が、ガンプラバトルにどっぷりだそうでな。今回のこのクルージングパーティーに託つけて、ガンプラバトルの大会も催すんだとよ」
はいはい、何となく展開が読めてきたな。
「ゴジョウインが言うには、前のオープンクラスの選手権で優勝したリョウマのことが話題になったそうでな。お前には是非とも参加してほしいそうだ」
なんかゴジョウイン先輩越しに話のスケールがどんどんデカくなっていくなぁ……俺、ただの高校生よ?
「たかが一学生がeスポーツの大会で優勝したくらいで、そんなおえらいさんの集まるパーティーに参加していいんですか?」
負けたら晒し者にされそうでなんか怖いんだけど。別に俺一人が嘲笑われるだけなら構いはせんけど、それでガンプラバトル部のみんなにも迷惑をがかかるならイヤだな。
「リョウマ、お前びっくりするほど自己評価ひっくいなー……とにかくだ、ここにいるガンプラバトル部の全員にも、招待が掛かってるんだよ」
「全員に、ですか?」
マユちゃんが驚く。
「そうだ。なんでも「腕のいいファイターを片っ端から招待している」らしくてな。まぁ、リョウマ以外の俺達はおまけみたいなもんだが、ダメじゃねぇなら参加しない手は無いだろって話だ。あ、ちなみみに参加費とかはかからねぇから安心しろよ」
パーティーの主催者はバトルジャンキーか何かなのか?
それはそれとして、いつに開催かね……と開催日を確認すると、7月30日と記載されている。夏休み入ってすぐじゃねーか。
「参加するかどうかは、また俺のRINEに入れといてくれよ。んじゃみんなお疲れさん、解散!」
ケイスケ先輩の言葉を〆に、閉廷!解散!
さてさて、今度のバトルは船の上になりそうだし……強化型オリジネイトガンダムのちょうどいいお披露目会にもなりそうだ。
幸いなことに、俺の期末テストの成績はそれなりに良い方だった。
上の下くらいのマユちゃんと、クラストップのミカゲさんの中間辺り、上の中くらいの点数だ。
一番ヤバいと、本人も自認していたイツキも、俺達の努力の甲斐あって、全教科赤点回避を成し遂げたようだ。良かった良かった。
これで心置きなく夏休みを迎え、そして今月末にはクルージングパーティーでのガンプラバトルだ。
クルージングパーティー戦に備えて、オリジネイトの強化はしっかり完了させないとな。
そして迎えるパーティー当日の7月30日。
ケイスケ先輩越しの、シノミヤ先輩からの連絡では、現地(というか現船?)で礼装を借りて着替えるのだそうだ。
なので、俺達創響学園ガンプラバトル部はとりあえず制服で出席し、その後で礼装に着替えることになる。
お昼過ぎ頃に、一度学園の校門前に集合してからなので、まずは集合時間の15分前に到着。
すると、校門前には制服姿のシノミヤ先輩と、ナナちゃんが待ってくれていた。前に遊びに行った時もそうだったが、この二人も行動早いな。ドラゴンなクエストのモンスターズだったら、『こうどう はやい』の特性を持ってそうだ。
「あら、オウサカくんか1番ね」
「センパーイ、こんにちはですー!」
ナナちゃんがぶんぶんと手を振ってくれるのでちょっと駆け寄って。
「お二人ともこんにちは。シノミヤ先輩も今回のパーティーに参加するって聞いてましたけど、ナナちゃんも?」
学生会関係から、副会長であるシノミヤ先輩はともかく、一年生の書紀であるナナちゃんも参加するとは思ってなかった。
「ふっふっふっ……これもわたしのモデルのお仕事の一貫なんですよ、オウサカセンパイ」
「……と言うと?」
ご当地雑誌の専属モデルのアルバイトに、財閥グループのパーティーにどう関係するのかが、ちょっと分からない。
「実はわたし……なんとっ、ガンプラバトルのイメージキャンペーンガールに抜擢されたんです!」
「おぉっ?すごいじゃないか!」
すげぇよナナちゃんは。
学生会で業務こなしながら、ご当地雑誌の専属モデルまでやって、今度はイメージキャンペーンガールまでやっちまうんだ。
思わずどこぞの止まらない団長になったが、誇張抜きにそれはすごいと思う。
「……って言っても、これまたお義兄ちゃんに勝手に応募されて、しかも期末テスト終わってすぐにオーディションだったんですよ!?いくらなんでも義妹使いが荒すぎませんかね!?」
鼻息と声を荒げながら早口で同意を求めてくるナナちゃん。だから近いです近い。
「どうどう、ステイステイ、落ち着いて落ち着いて。……オーディションって言ったが、ガンプラバトルのキャンペーンガールのオーディションって、何を求められるんだ?」
「基本は雑誌モデルと同じで、リアクションとか笑顔とかの演技に、水着審査です。でもまさか、最後にガンプラバトルまでさせられるとは思って無かったです」
水着審査か……生で見たかったな。
「ガンプラバトルもオーディションに含まれるのか?」
「と言うか、最後のバトルでほぼ決められるみたいなものでしたね。でも、他のオーディションを受けに来た人達、ガンプラに関してはからきしみたいでしたし」
ナナちゃんが言うには、ほとんどが素組みのガンプラ――オーディションに参加するためだけに作ったようなもの――で、改造と全塗装までされたガンプラを使っていたのは彼女くらいのものだったらしい。
おまけに、ナナちゃん自身もバトルの腕前は確かなことを加味すれば、結果は考えずとも分かる物だ。
彼女はただでさえ、ゴジョウイン先輩やシノミヤ先輩と言う超A級ファイターと普段からバトルしているのだから、それらと比較すれば、歯牙にもかけないとはまさにこれ。
これを見越していたとすれば、ナナちゃんのお義兄さんは天才では……?
「それで今回のパーティーは、ナナちゃんの初デビュー……と言うか、試金石ね。ナナちゃんがちゃんとキャンペーンガールと言う役目を全う出来るのかどうかの、ね」
シノミヤ先輩が補足する。
既に大人社会に片足突っ込んだ言葉だな……
「そんなわけでしてオウサカセンパイ、応援よろしくお願いします!」
ぶんっと勢いよく頭を下げて見せるナナちゃん。
「もちろんだ。ナナちゃんのキャンペーンガールとしての初陣、この目に焼き付けるさ」
慕ってくれる後輩の勇姿、応援してやらにゃぁ先輩が廃るってもんよ。
「センパイ……ありがとうございます!」
ナナちゃんからすっげぇキラキラした目で見つめられる。よせやい照れるじゃねぇか。
ガンプラバトル部員も全員集まったところで、シノミヤ先輩の引率の元、電車とモノレールを乗り継いで港へ向かう。
港には、いかにも「豪華客船です」と言わんばかりのデカデカとした船が停泊しており、その周囲には正装、礼装の方々が集う。
その中に、シックなドレスを着こなしたゴジョウイン先輩を見かける。
元々が美人なのもあって、ドレスを着ると破壊力が増大するな……
「ん、来たかトモエ」
ゴジョウイン先輩の方も俺達に気付いたようで、ツカツカとハイヒールを鳴らしながら歩み寄って来る。
「お待たせアマネ。ガンプラバトル部全員と、ナナちゃん、全員出席よ」
「うむ。アンリとヤコは船内で大会の準備を整えてくれている。お前達も着替えてくれ」
「はーい。それじゃみんな、船に乗って着替えに行くわよ」
シノミヤ先輩の先導に従って船に乗り込む。
アンリとヤコ、と言うのは、ゴジョウイン先輩のお知り合いだろうか。
何やら大会の方を準備してくれているので、この後にでも顔を合わせるだろう。
船に乗ると、スタッフの方々が俺達を迎えに来るなり取り囲むと、男女に別れてドレスルームへ連行される。
男子は俺とケイスケ先輩だけで、男性スタッフに従って採寸をさせられる。サイズに合った礼装を用意してくれるのだろう。
程なくしてフォーマルスーツを用意されたので着替える。
「ケイスケ先輩、手伝いますよ」
「おぉ、悪ぃ。スーツなんて着るの久しぶりだからな……リョウマは手慣れてんな?」
苦戦しているケイスケ先輩を手助けしつつ、「まぁ、慣れてますから」と答えておく。過去の異世界転生からカウントすれば、スーツなんて普段着みたいなものだ。
ケイスケ先輩と共にドレスルームを出て、しばらく待っていると、女性陣も遅れて女性用ドレスルームから現れた。
「オウサカくん、サイキ先輩、お待たせです」
「うーん、なんかかたっ苦しいなぁ……」
「言ってる側から着崩さないの。黙ってればタツナミさんだって綺麗なんだから」
マユちゃん、イツキ、ミカゲさん(美少女モード)に、
「トモエセンパイ、おかしなとことか無いですよね?」
「大丈夫。綺麗で可愛いナナちゃんが、いつもの30%増しよ」
ナナちゃんとシノミヤ先輩も。
「おぉ……いつもと違うみんなの麗姿、新鮮でいいなぁ……」
ケイスケ先輩が目を"しいたけ"にして見惚れている。せっかくのイケメンが台無しだ。
全員着替え終わったところで、再びスタッフさんに連行されて、船内のパーティー会場へ。
既に多くの来賓者が席を占めており、テーブルにはこれまた豪華な料理が並ぶ。イツキが目を輝かせてそれら料理に飛び付こうとしているが、そこはマユちゃんとミカゲさんに止めてもらう。
「おぉ、皆揃ったようだな」
すると、俺達のご来場に気付いたか、ゴジョウイン先輩が現れた。その一歩後ろには、黒髪をうなじ辺りで纏めた、小学生くらいの女の子がついている。
あの狐耳みたいな髪型は天然なのか、それともセットしているのか……気にしないでおこう。
ゴジョウイン先輩への応対にはシノミヤ先輩が出る。
「お待たせアマネ。"ヤコ"さんも、お久しぶりです」
「うむ、久方ぶりだな、トモエ」
ヤコさんと言うらしい女の子……しかし、シノミヤ先輩が敬語で頭を下げているところ、歳上のようだ。全くそうには見えないが。
「他のみんなはこっちよ」
背後では、シノミヤ先輩が他の部員やナナちゃんを誘導している。
「オウサカ、紹介したい方がいる」
「はい」
ゴジョウイン先輩に呼ばれたので、一歩前に出ると、ヤコさんの前に立たされる。
「ヤコ、こちらが先月のオープンクラスの選手権の優勝者の、オウサカ・リョウマだ」
「初めまして。ゴジョウイン先輩からご紹介に預かりました、創響学園ガンプラバトル部の、オウサカ・リョウマです」
ご紹介されたので、所属とフルネームを告げて、ペコリと一礼。
すると、ヤコさんの狐耳っぽい髪がピクりと反応した。え、何それ、本物なの?
「ほぉ。貴様が、アマネが一目置くという、オウサカ・リョウマか」
見た目小学生なのにえっらい居丈高な人やなぁ……しかもなんか背後に『ゴゴゴゴゴ』ってカタカナが見えそうなくらいの威圧感がある。
「私は『ツキノミヤ・ヤコ』。ご覧の通り、ツキノミヤグループのご 令嬢だ」
一応先輩っぽいので、ヘイコラしておくとしよう。
「なに、これからバトルをすると言うのに、そう構えることはない。とりあえずコーラでも飲むか?」
そう言いながら、ヤコさんはテーブルの一席を埋め尽くさん勢いで並んでいるコーラのグラスを一つ手に取って、「とりあえずビール」みたいなノリで差し出してきた。
……一瞬、視界の端でゴジョウイン先輩が目を逸らしたのは気の所為だろうか?
「あぁ、はい、いただきます」
誘われるままにコーラを一口啜り……
「ン゙ン゙ッ!?ゲッホゲホッ……!」
味濃ッッッッッッッッッッ!?
なんぞコレェ!?市販のコーラを通常の三倍くらい濃くしたような味だぞ!?シャア専用かなんかか!?
しかも炭酸の刺激も半端じゃない、舌が、喉が焼け付くように痛い……!
「なんだ、コーラくらいで咳き込むな」
「ゴホッゴホッ……いや、なんですかこのコーラ。物凄く濃いんですけど」
「ツキノミヤグループ製コーラ、『
それはもうソフトドリンクじゃなくて、"おクスリ"の類じゃないですかね……
「ごめんなさい、俺の口には合わないみたいです」
「そうか、それは残念だ」
それはさておいて、とヤコさんはその『ルナティクスブルー』とか言う激濃コーラをぐびぐびと飲んでいる。この人マジで妖狐じゃないだろうか。
「……私はあれを一杯飲んで、丸一晩眠れなかったことがある。この会場に出ているコーラには決して手を出すな」
ゴジョウイン先輩の目のハイライトが死んでいる辺り、一口でやめといて良かったかもしれん。
「今宵のガンプラバトルは、オープンクラスの地区大会以上の激戦になるだろう。貴様の実力、この私が測ってやろう」
「よろしくお願いします」
あんなヤベーものを平然と飲むような人だ、ゴジョウイン先輩と同格か、それ以上か……いずれにせよ一筋縄ではいかないどころではあるまい。
すると、パーティー会場の壇上に、壮年の白人男性がマイクの前に立つ。
『皆様、本日はお日柄もよく……』
どうやら、レイセングループの総裁のようだ。長々とした社交辞令的な挨拶を聞き流していると。
『それでは、本日のメインイベント、『ガンプラバトルロワイヤル』について、我が娘『レイセン・アンリ』がご説明致します』
レイセン総裁に代わって、アンリと言うらしい御令嬢が登壇した。
肌の色から見ても東洋人だな、ハーフかクォーターだろうか。
『総裁に代わり、ガンプラバトルロワイヤルについてご説明致します、レイセン・アンリと申します』
藍色のミディアムヘアをふわりと揺らしてお辞儀。
……同じ財閥グループの御令嬢でも、ヤコさんとは大違いだな。いや、どちらかと言えばヤコさんの方が特殊な部類なのかもしれないが……
モニターに映し出されるのは、これから始まるらしい、ガンプラバトルロワイヤルとやらのご説明だ。
『今回のバトルは、チーム毎のトーナメント戦ではなく、参加者全員が一度に、広大なフィールドへ出撃し、最後の一人になるまでバトルが続けられます』
ふむ、アーケードゲームによくある形式ではなく、VRMMOみたいなオープンワールドのフィールドで、全員同時に戦うようだな。
『フィールド各地には、"補給ポイント"がございます。機体の修復や、弾薬、エネルギーの補給を行うことが出来ますが、補給中は無防備になってしまいますので、利用する際は十分にご注意を』
補給ポイントか。
これ、ポイント近くに伏せて、補給中のところを奇襲する奴とかいそうだなー。と言うかそう言う奴は絶対いる。間違いなく。
『出撃地点はランダムですが、チームに所属している方はチームで固まってもよし、多人数で一人を攻めてもよし、参加者が減るまで身を隠すもよし、レギュレーションに違反しない範囲であれば、何でもありです』
うん、レギュレーションに違反しない範囲であれば、って付けておかないと、"なんか勘違いしたバカ"がバカをやらかすからね。疑似覚醒システムとか、疑似覚醒システムとか、疑似覚醒システムとかな。
『ご説明は以上になります。これより30分後に、ガンプラバトルロワイヤルを開始致しますので、ご参加の方は準備をお願いします』
アンリ嬢の説明が終わると同時に、あちこちからバトルシミュレーターを載せたカートを押すスタッフさんが現れ、各所にシミュレーターを設置して行く。
その数、50台を超えているだろう、圧巻だ。
俺達はロッカールームにガンプラとスマホを置いてきているので、バトルに必要なものを取りにぞろぞろと戻る。
バトル開始10分前になり、再度アンリ嬢からアナウンスが流れ、参加者の皆さんが続々とシミュレーターに取り付いていく。
さて俺達もシミュレーターに、というところで、ケイスケ先輩から集合がかかった。集まるのは、ガンプラバトル部の四人。
「よーし、バトルの前にブリーフィングだ。俺達は最初、バラバラになって出撃することになるが、合流次第、俺達チームは固まって動くぞ」
まずはチームみんなと合流して、戦力を固めるってことだな。
「一人で補給ポイントを使うのは危険ですから、必ず二人以上組んでからの方が安全ですよね」
マユちゃんが補給ポイントについて確認してくれる。
「そうだ、補給中は無防備になるらしいからな。一人で補給するなとは言わねぇけど、そん時は十分以上に注意しろよ」
「まずは仲間探しからかー……ミカゲちゃんは、大丈夫か?」
イツキは、防御特化機故に単騎での攻撃力が心許ない、ミカゲさんを案ずる。
「私なら戦える。心配は無用よ、タツナミさん」
「そうは言うけどよー、あたしはちょっと心配だなー」
過保護と言えなくも無いが、イツキの仲間思い意識も分かる。
『出撃開始、1分前です。皆様、出撃準備はよろしいですね?』
最後のアンリ嬢のアナウンスが流れる。
さぁ、俺達も出撃開始だ。
「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」
「アサナギ・マユ、ガンダムファラリアル、決心開放!」
「タツナミ・イツキ、ドラゴニックガンダム、行っくぞー!」
「ミカゲ・トウカ、ガンダムグレモリー、出るわ」
「サイキ・ケイスケ、ジムカラミティ!チーム・ビルドシンフォニー、出るぞ!」
そして別サイドからも。
「ゴジョウイン・アマネ、ゼイドラ・スタイン、出るぞ」
「シノミヤ・トモエ、フルコマンドガンダムMK-II、行くわよ!」
「ホシカワ・ナナ、ティエレンパイタォ、行っきまーす!」
出撃完了!
最初の出撃地点は、切り立った崖と荒野による、渓谷地帯のようだ。グレートキャニオンかな。
さて、俺の強化型オリジネイトガンダムの初陣だ、気を抜かずにしっかり行くとしよう。
荒れ果てた大地をガシーンガシーンと足音を立てて歩いていると、
岩陰の向こう側から土煙を巻き揚げながら、何かが近付いてくる。
反応は……三機。こいつら、チームか?
いきなりチームと合流出来たとは、なかなか運がいい奴ららしい。
目視確認距離まで来ると、ドムのような黒紫色をした『リック・ディアス』三機がホバー機動で急速接近してくる。
『奴にジェットストリームアタックを仕掛けるぞ!』
『『おぅ!』』
ジェットストリームアタック?
あの黒い三連星のフォーメーションか。
あれって確か元々は対艦攻撃用のフォーメーションだったはずだけど……っと、考え込んでいる場合ではない。
先頭のリック・ディアスはビームサーベルを、二番目はクレイバズーカ、三機目はダブルスレッジハンマーの構えを取っている。
まぁいい、行くぜ!
ウェポンセレクターを回し、大型ヒートブレードを選択すると、バックパックブースターから銃剣ビームピストルとウイングを抜き放ち、その二つを連結させる。
「撃ち落とす!」
大型ヒートブレードの先端部のビームガンを連射。
しかし、三機のリック・ディアスは一糸乱れず一列になったまま、連射されるビーム弾を掻い潜ってくる。
『もらったァ!』
先頭のリック・ディアスが、ビームサーベルを横薙ぎに振り抜いてくる。
このまま躱しても、二機目のクレイバズーカや、三機目が追撃に来るので躱しきれない。
なのでここは――奴らの思惑を正面から突き破る!
振り抜かれるビームサーベルに対し、左のヒートブレードで受けると、
「行けェ!!」
グイッと操縦桿を押し出し、フルスロットルで加速!
『ぬおぉっ!?』
まさか正面から力押しで来ると思わなかったのか。先頭のリック・ディアスは怯み、そのまま推力で押し込む。
『お、おい!急に止ま……ぐぉっ!?』
『な、なんだとぉ!?』
先頭のリック・ディアスが急に押し返されたことで、二機目、三機目がぶつかってしまう。
混乱している隙に、ビームサーベルを強引に弾き返し、返す刀の右のヒートブレードでリック・ディアスを一閃!
『バ、バカなぁ!?』
リック・ディアス、撃墜。
「一つ!」
先頭のリック・ディアスを斬り抜いて、二機目のリック・ディアスも左のヒートブレードで真っ二つに斬り裂く。
『うおぉぉぉぉぉっ!?』
リック・ディアス、撃墜。
「二つ!」
このままトントン拍子に三機目も……と言いたいが、
『この野郎!あと一歩だってところで!』
混乱から立ち直った三機目は、ビームサーベルを抜いてヒートブレードと打ち付け合う。
これはすぐに弾き返し、リック・ディアスはビームサーベルによる接近戦を継続しようと再び斬り掛かってくるが、残念ながらそれは悪手だ。
「遅い!」
即座、ウェポンセレクターを切り替えて、両サイドスカートのレールガンを展開、発射。
放たれた一対の電磁加速弾はリック・ディアスのボディを貫き、爆散せしめる。
リック・ディアス、撃墜。
ふぅ、初っ端からハードモードだったが、なんとか切り抜けたぞ。
よし、みんなを探しに行こう。