ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK   作:さくらおにぎり

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15話 冷厳なるグシオン

 リョウマのオリジネイトガンダムが、開幕同時に三機のリック・ディアスを撃破していた頃。

 

 森林地帯を、一機のジンがモノアイをギョロギョロと左右させ、マニピュレーターにした76mm重突撃銃を油断なく構えながら闊歩していた。

 この視界の悪い森林地帯では、どこに敵が潜んでいるか分からない。

 

 すぐにでも76mm重突撃銃のトリガーを引き絞れるよう、神経を尖らせ――不意に攻撃接近のアラートが鳴り響く。

 

 それは、右手側から放たれた二筋の大出力のビームだ。

 

 バカな、ロックオンされていなかったはず、とジンはビームを躱そうとしたが、アラートに気付いた時には、もう視界はビームの閃光で染められていた。

 

 ジン、撃墜。

 

「ま、有視界で敵機が見えるんなら、わざわざロックオンしてやる理由もねぇわな」

 

 ジンを撃ち抜いた正体――木々の隙間にその青緑色のボディを潜めていたのは、ケイスケのジムカラミティ。

 

 この深い森林地帯に出撃した彼は、すぐに木々の隙間にジムカラミティを潜ませ(背後から襲われない位置で)、視界内を通過しようとしている敵機を、ロックオンせずに完全なマニュアル制御で狙撃していたのだ。

 ロックオンをすれば、それだけで狙われていることを相手に気付かれてしまうので、そのロックオンのタイムラグを省略。

 そうすることで相手に感知されるアラートは、攻撃接近の注意喚起だけだ。

 相手が気付いた時には、もう既にビームキャノンは発射された後であり、余程反射神経に優れていなければ、回避も防御も間に合わないだろう……と言う作戦である。

 

 加えて、狙撃を行った後はすぐに移動している。

 

 ケイスケと同じか、それに類似した戦法を取っている者がいないとは限らないからだ。

 

 すると案の定、0.5秒前までジムカラミティがいた地点に、また別のビームがいくつも撃ち込まれた。

 

「(あっぶねー、そろそろこの狙撃戦法も危険だな)」

 

 欲をかかずに、まだ大丈夫だと思い込まずに、ケイスケは速やかにジムカラミティを森林地帯から脱出させる。

 

「さて、他の奴らはどこにいるのかね」

 

 撃墜スコア稼ぎはここまでにして、ケイスケは周囲を警戒しつつもチームメイト達を探しに行く。

 

 

 

 また一方、イツキのドラゴニックガンダムは早くも多人数を巻込んでの乱戦に身を投じていた。

 

「おりゃりゃりゃりゃりゃーっ!」

 

 目にも止まらぬ速度のツインビームトライデントによる連続突きが、ディランザの重装甲に明確な損傷を刻み付けていく。

 しかしディランザもシールド裏からビームトーチを抜き放ち様に振り上げ、ツインビームトライデントを弾き返す。

 

「甘いっての!」

 

 即座、バックパックのドラゴンハングが牙を剥き、ビームトーチを振り上げて懐がガラ空きのディランザの右脇から咬み付き、喰いちぎってみせる。

 

 ディランザ、撃墜。

 

 すると、機を覗っていたネモがビームサーベルを抜いて急速接近、ドラゴニックガンダムの背後を突こうと迫るが、

 その横合いから割り込むように白い陰が横切り――気が付けば、ネモの胴体は真っ二つに泣き別れにされていた。

 

 ネモ、撃墜。

 

「ん、新手か」

 

 イツキはまた新たな敵機が現れたと思い、その姿を視認し――

 

「白いゼイドラ……げっ、ゴジョウイン先輩!?」

 

 そこにいたのは、アマネのゼイドラ・スタインだった。ネモを斬り裂いたのは、その右腕にあるゼイドラソードによるものだ。

 

『げっ、とは随分な挨拶だな、タツナミ』

 

 ゼイドラ・スタインの頭部のスリットから、アイグリーンのセンサーライトが点滅する。

 

『先輩に対する態度がなってないな……どれ、私がひとつ指導してやるとしよう』

 

 アマネはニヤリと――獲物を見つけたような笑みを浮かべると、次の瞬間には猛然とドラゴニックガンダムに襲い掛かってきた。

 

「……あたしだって前のあたしとは違うんだ!退かねぇぞ!」

 

 ドラゴンハングをバックパックに呼び戻し、ツインビームトライデントを振り回して構え直すと、振り抜かれるゼイドラソードに打ち付けた。

 

 

 

 

 各地で激戦が繰り広げられているだろうなぁと思いつつ、俺/オウサカ・リョウマは、荒野の中、オリジネイトをのんびり歩かせていた。

 出撃位置はランダムらしいが、最初に三機も倒しちゃったからな、もうちょい離れた位置に移動しないとエンカウントしないようだ。

 

 そんなわけで、一応は長距離狙撃に注意しつつも移動しているわけで……おっと、センサーに感あり。

 すぐさまその方向に頭部を向けると、

 

「あら、オウサカくんじゃない」

 

 岩陰の向こうから、フルコマンドガンダムMK-II――シノミヤ先輩が現れた。

 

「シノミヤ先輩か。どうします、ここで一発やりますか?」

 

「やぁん、他に誰もいないからって、オウサカくんったら大胆♪」

 

 いやに艶めかしい声で応じてきたシノミヤ先輩。ナニを妄想してるんですかねこのえっちぃパイセンは。

 

「ナニを想像していたのかは聞きませんよ、ナニを想像していたのかは(大事なことなので二回復唱)」

 

 ……じゃなくてだな。

 

「まだお互い一人なら、とりあえず俺と行動しませんか?」

 

「なるほど、デートのお誘いというわけね」

 

 ちゃうわい。

 この人の脳内回路はどうなってやがる。

 

「えっらい殺伐としたデートになりそうですが……」

 

「オウサカくんとデート出来るなら、ガンプラバトルの最中でも構わないわよ?」

 

 ちょっと言ってる意味が分かりませんね……

 

「まぁいいか、じゃぁシノミヤ先輩、とりあえずデートでもしますか」

 

「なーんかツレない反応ねぇ……」

 

 俺にどないせぇと。

 ともかく了承はしてもらえたので、シノミヤ先輩とデート(意味不)だ。

 

 切り立った崖をバーニアを使ったジャンプで飛んだり跳ねたりして乗り越えつつ。

 崖を越えて、市街地が見えてきたと言う時。

 

「そう言えば、シノミヤ先輩はどうして今回のパーティに呼ばれたんですか?」

 

 ふと訊きたいことが思い浮かんだので、シノミヤ先輩に訊ねてみる。もちろん周囲への警戒も怠ってないよ。

 

「ん?どう言うこと?」

 

「ほら、ゴジョウイン先輩は理事会の関係で呼ばれたんでしょうし、ナナちゃんはイメージキャンペーンガールとして招待されてますけど、シノミヤ先輩はどう言う理由で招待されたのかな、と」

 

 単にゴジョウイン先輩が個人的に招待した可能性もあるだろうけど……

 

「あぁ、そのことね。ちょっと小難しい話になるけど、いい?」

 

「小難しい話?」

 

 どう言うベクトルの"小難しい話"だろうか。

 とりあえず是正すると、シノミヤ先輩は自分のことについて語り始めた。

 

 

 

 ――私が今回のパーティに呼ばれたのは、簡単に言えば"御家"に関することだからよ。

 

 ゴジョウインの御家は、古くから日本の政界、経済界に深く根を張っている一族。

 シノミヤ家は、代々ゴジョウイン家に仕える家系なのよ。

 

 ゴジョウインのご息女様であるアマネとは、幼馴染み……と言うには歪な関係ではあるけれど。

 ゴジョウインを上に立てるため、シノミヤはその下に立つ。

 だからいつも、アマネが一番で、私が二番目……永遠の二番手と言ってくれても構わないわ。

 

 でも私自身、アマネの下に甘んじていたつもりは無いのよ?

 どうしてあの娘がいつも一番で優先されなきゃいけないの、って反抗したこともあったわ。

 

 けど、その反抗もすぐに引っ込めた。

 だって、家や血筋に関係無く、アマネは一番であるに相応しい結果を出していたし、そのために血の滲むような努力を続けていることも知った。

 

 アマネは生まれた時から既に大人の世界にいて、周囲からの期待を押し付けられながら、ずっと心を張り詰めて生きている……今もね。

 だから私は、アマネにとって『心を張り詰め無くていい相手』として、支えると決めた。

 

 多分、ゴジョウイン家とシノミヤ家の御先祖様も、そんな感じでお互いの役割を決めていたと思うのよ。

 アマネが創響学園の学生会長に立候補するなら、私は副会長に立候補するつもりでいたし、そうでなかったとしたら同じ部活に入っていて副部長になっていたと思うわ――。

 

 

 

「……ってところね」

 

 長話しちゃった、とシノミヤ先輩は笑うが……そのバックボーンが思ったより重かった。

 

「ゴジョウイン先輩とシノミヤ先輩に、そんな関係があったんですね……」

 

 今時、珍しいほどにしっかりと取り決めが履行された御家関係だと思う。

 

 シノミヤ家のどこかの代で、ゴジョウイン家に下剋上してやろうとか思わなかったのだろうか。……否、そう言う野心家は必ず出てくると歴史がそれを証明している。

 そしてそんな野心家が現れても、ゴジョウイン家はその都度に力の差を見せつけて、乱の芽を摘み取……いや、踏み潰して来たのだろう。

 

「まぁ、こんな面白みに欠ける話、誰彼構わず話したりしないわ。オウサカくんにだけ、特別よ?」

 

 何だろう、シノミヤ先輩が「特別」と言うと、ひどく淫靡さを覚える。

 もしやこの先輩、魔性の女では……

 

「っと……話してる内にも新たな反応よ」

 

 フルコマンドガンダムMK-IIのセンサーが敵機の反応をキャッチしたらしく、こちらにも共有してくれる。

 

 数は二機だが、どうやら市街地の方で互いに戦闘中らしい。

 

「どうしますか?」

 

「私達の身内なら援護しましょ。そうじゃなかったら……どっちも撃滅でいいんじゃない?」

 

 撃滅て。

 しれっと物騒なこと言い出したぞこの人。

 まぁいいか、仲間探しをしなければならないのはお互い同じだ。

 オリジネイトをその反応方向へ加速させ、シノミヤ先輩もその後に続く。

 

 

 

 ――時は数分前に遡る。

 

 トウカのガンダムグレモリーは、市街地に出撃した。

 出撃して早々に出会したシナンジュ・スタインを、バトルアンカーの一撃で粉砕したところで、一息つく。

 

「さて、みんなはどこにいるかしら」

 

 この広大なオープンワールドのフィールドでは、いつどこに敵や味方が現れるか分からない。

 加えて、継戦のためには必ず利用するだろう補給ポイントがどこかも分からない。

 

 そうなれば。

 

「(補給ポイントを見つけ次第、そこで陣取るべきね)」

 

 懸念されるのは補給中を狙ってくる敵機だが、逆に言えばそう言った相手は補給中でしか狙ってこないのだ。

 補給ポイントの近くで潜んでいる敵機は、他の敵機に見つかる可能性もあるため、長時間はいられないはずだと、トウカは見通しを立てていた。

 しかしトウカがそう見通している時点で、同じことを考えているファイターは多いだろう。

 そこは実力で切り抜けるしかないか、とトウカはガンダムグレモリーを移動させて補給ポイントはどこかと探し始める。

 

 出来れば、この市街地のように身を潜めつつ補給出来るような場所がいいのだがと、頭部のナノラミネートコートのスリットからガンダムフレーム特有のツインアイを光らせ――別の方向から敵機の反応が現れた。

 

 自身とは反対側の曲がり角から姿を見せたのは、無骨な形状をした青灰色の装甲。

 関節の構造を見る限りは、ガンダムグレモリーと同じく、ガンダムフレームの機体。

 トウカはまだその名を知らなかったが、それは『ガンダムグシオンリベイク』をベースとした改造機だ。

 

『あら、先客でしたか』

 

 オープン回線で届く、抑揚の無い女性の声。

 先程も聞いた、レイセン・アンリのそれだ。

 

「レイセン・アンリさん……ね?」

 

『ガンダムグレモリーと言うと、創響学園のガンプラバトル部の方ですね?』

 

「初めまして、ミカゲ・トウカよ」

 

『ご丁寧なご挨拶、痛み入ります。改めまして、レイセン・アンリと申します』

 

 

【挿絵表示】

 

 

 お辞儀をしてみせるガンダムグシオンリベイクに、ガンダムグレモリーも会釈を返す。

 

『噂に名高い、チーム・ビルドシンフォニーの実力、確かめさせていただきましょう』

 

 そうしてアンリのガンダムグシオンリベイク――『ガンダムグシオンタンザナイト』は、背部に納めていた"ソレ"を抜いた。

 

 有体に言えば、『棘の生えたばかでっかいメイス』だ。

 

「随分と重そうな武器ね」

 

 トウカはそう口にはしたものの、その機体がどれほど厄介で御し難い相手なのかを想定し、眉をしかめる。

 

 ガンダムグシオンタンザナイトの機体全高を上回るほどのそれは、MS一機をそのまま鈍器にして振り回すような代物だった。

 

『こう言う武器が好きなものでして。あなたも、ガンダムフレームの使い手ならお分かりでしょう』

 

「生憎と私は素人なもので。……そろそろ、挨拶はいいかしら」

 

 ガンダムグレモリーはバトルアンカーを、ガンダムグシオンタンザナイトはメイス――『ランヤーパン』を、それぞれ構える。

 

「ミカゲ・トウカ、ガンダムグレモリー……」

 

『レイセン・アンリ、ガンダムグシオンタンザナイト』

 

「行くわ」

 

『參ります』

 

 昂ぶることなく、驕ることなく、淑女と淑女による冷厳なる戦いが幕を開ける。

 

 ガンダムグシオンタンザナイトが今手にしている武器はランヤーパンだけで、マウントラッチにはガトリングガンの類も見られるが、恐らくこの戦いでは使ってこないだろう、とトウカは見立てていた。

 双方、射撃武器の通りにくいナノラミネートアーマー(コート)の特性を持った機体だ、必然的に鈍器による殴り合いを強いられる。

 

 先手を打つのは、ガンダムグシオンタンザナイト。

 不規則な蛇行で距離を詰めつつ、間合いに踏み込むなりオニノクロガネを振り抜いてくる。

 見た目からして、バトルアンカーとランヤーパンとの質量差は歴然、まともに打ち合えばへし折られるのはバトルアンカーの方だ。

 

「(なら、カウンター)」

 

 横殴りの一撃をバックステップで躱し、着地と同時に加速、バトルアンカーを叩き込もうと迫るが、ガンダムグシオンタンザナイトは素早くランヤーパンを引き戻して柄でバトルアンカーの刃を受ける。

 

 ガギャァンッ!!と重々しくも甲高い音を上げて火花が飛び散る。

 

 ギチギチギチギチとガンダムグレモリーとガンダムグシオンタンザナイトとの力比べに縺れ込むと見えたが、

 

『甘いのです』

 

 ガンダムグシオンタンザナイトが少し出力を上げれば、ガンダムグレモリーをいとも容易く弾き返される。

 

「っと」

 

 姿勢制御しつつガンダムグレモリーを着地させれば、

 次の瞬間にはガンダムグシオンタンザナイトは踏み込みながらランヤーパンを上段から振り降ろしてくる。

 トウカはほぼ咄嗟に操縦桿を傾けてガンダムグレモリーを横っ飛びで回避させ、その0.2秒後にランヤーパンがアスファルトに叩き込まれ、小さなクレーターを穿つ。

 あれほどの重撃ともなれば、如何にナノラミネートコートの防御力でも一撃で粉砕されるだろう。

 

 横っ飛びからそのままイニシアティブを取りつつ、トウカはウェポンセレクターを開き、腕部機関砲をダブルセレクト、両腕の機関砲をガンダムグシオンタンザナイト目掛けて撃ちまくる。

 ダメージらしいダメージは与えられないが、とりあえず牽制だ。

 連射される銃弾に対して、ガンダムグシオンタンザナイトはランヤーパンのインパクト部を盾にして防ぐ――その巨大な面積はガンダムグシオンタンザナイトのほとんどを隠してしまうほどだ。

 

「(さて、どう攻めたものか……)」

 

 見るからに格上の相手。

 機体の膂力も得物の重量や頑強さも、恐らくは機動性も向こうのほうが上だろう。

 

 ケイスケが「レイセンとツキノミヤのご令嬢がガンプラバトルにどっぷり」と言っていたが、果たしてそんな言葉で言い表せるような相手ではあるまい。

 

『来ないと言うのならば、こちらから』

 

 再びランヤーパンを槍のように構え、ガンダムグシオンタンザナイトが迫る。

 

 普通に躱してから反撃しても防御されて弾き返される。

 あの青灰色の装甲にバトルアンカーを叩き込んで断ち割るにはどうすべきか。

 しかし足を止めて思考に耽る暇はない、間合いに踏み込まれ突き出されるランヤーパンに、トウカはとりあえず回避を選択する。

 

 バトルアンカーを叩き込まなければ致命打は与えられない。

 けれどバトルアンカーの間合いを維持すると言うことは、必然即ち、ランヤーパンの猛威の中に留まるという事だ。

 今は回避に成功しているが、一撃でも喰らえばそれだけで敗北が決まる。

 

 故にトウカは思考し――この場から撤退することも脳裏に浮かぶが――それは何となく気に入らず、ふと思い浮かんだのはリョウマのことだった。

 

 リョウマは格上の相手でも怯まず果敢に攻め、それでいて駆け引きや策略と言った搦手も駆使してみせている。

 

 その彼に誘われてガンプラバトル部に入ろうと思ったのは、無意識の内に固く閉塞的な自分に嫌気が差していたからかもしれない。

 

 あるいは自己承認欲求……容姿や肉体と言った外見のみではない、自分と言う存在価値を彼に求めた――認めてもらいたかったのかもしれない。

 

 その彼に認めてもらいたいと言うのならば。

 

「(虎穴に入るべきね)」

 

 虎穴に入らずんば虎子を得ず……危険を冒さなければ望む結果は手に入らないということ。

 だからと言って何の備えや企みもなく虎穴に飛び込めば、あっという間に虎に喰われる。

 

 あのガンダムグシオンタンザナイトの懐に飛び込むための策――と言うよりは、ほぼ"賭け"に近いだろう。

 

 だが、やるしかない。

 

 トウカは操縦桿を握り締め、それに呼応するガンダムグレモリーもまたバトルアンカーを構え直し、ガンダムグシオンタンザナイトへ向かって加速する。

 

『仕掛けてくるのですね』

 

 今度はアンリが待ち構える側となり、その場で足を落ち着けてガンダムグレモリーを迎え撃つ体勢を取る。

 

 真っ直ぐに突っ込むガンダムグレモリーに対し、ガンダムグシオンタンザナイトはランヤーパンを右から左へと大きく薙ぎ払う。

 その高さは、飛び越えるにも潜り抜けるにも困難な、絶妙な位置の一撃。

 しかしトウカにとって、それは大した問題ではないし、むしろ御しやすいものだった。

 

 何故なら、『飛び越えもしなければ潜り抜けるつもりもない』のだから。

 

 薙ぎ払われるランヤーパン、対してガンダムグレモリーはバトルアンカーを水平にして振るう。

 

 ――それは、ランヤーパンと真っ向からぶつけ合うように見えたが。

 

 ランヤーパンのスパイクとバトルアンカーの切っ先が衝突した瞬間、

 

 ヂュギリィンッ、と音を立てて、『ランヤーパンが空振りした』

 

『あら?』

 

 今の一撃ならば、バトルアンカーもろともガンダムグレモリーを薙ぎ払っていたはず……と、アンリは空振りしたランヤーパンよりも、それを空振りさせたガンダムグレモリーに目を向けていた。

 

 何故、バトルアンカーが破壊されずにランヤーパンを空振りさせたのか。

 

 ガンダムグシオンタンザナイトが振るうランヤーパンに対し、トウカはバトルアンカーを真っ向から叩き込んだことに変わりはない。

 にも関わらず両者は健在で、双方が空振りし合ったような形になったのか。

 

 それは、バトルアンカーの刃が曲線状であることが理由であった。

 

 トウカはバトルアンカーをランヤーパンに(僅かに刃を逸らしながら)真っ直ぐ叩き込み――その結果、バトルアンカーの曲線にランヤーパンが"滑った"のだ。

 避弾経始――水平面ではなく、曲線を描いている部位は、衝撃を伝えにくく逃しやすい性質を持つ。

 トウカはそれを利用して、真っ向勝負をすると見せかけて、『ランヤーパンを受け流した』のだ。

 

 互いに得物が空振りした状態――しかし、最初からそれを狙っていたトウカと、直面した結果に反応が遅れているアンリ――この瞬間、決定的有利なのは、トウカの方だった。

 

「私の勝ちよ」

 

 賭けに勝った、とトウカはすぐさま操縦桿を捻り倒し、ガンダムグレモリーはバトルアンカーを振り下ろす。

 狙いは胴体部、この一撃で撃破出来――

 

『いいえ、それは私の台詞です』

 

 ガギンッ、とバトルアンカーはその寸前で止まった――否、止められていた。

 

「な……っ!?」

 

 トウカは目に見える光景に愕然とする。

 

 何故ならば、ランヤーパンを手放したガンダムグシオンタンザナイトが、『両拳でバトルアンカーを挟み止めている』からだ。

 

 あろうことか、そのままバトルアンカーを素手の拳で挟み潰してしまった。

 

『バトルアンカーの形状を活かして空振りさせる策。見事と言いたいところですが、少々惜しかったようです』

 

 元から欠けていた形状をしていたバトルアンカーが、両端とも欠けてしまったのを見て、トウカは慌ててバトルアンカーを捨ててガンダムグレモリーを後退させようとするが、

 

 ガシリ、とガンダムグシオンタンザナイトに頭部を鷲掴みされ、ナノラミネートコートもろとも握り潰された。

 

「あっ……!?」

 

 頭部を失い、視界がゼロになる。

 なんとか脱しなければと、トウカは操縦桿を動かそうとするが、既にガンダムグシオンタンザナイトの拘束に捕らわれているガンダムグレモリーでは、どうにもならなかった。

 

 元よりガンダムフレーム・グシオンのツインリアクターは、重装甲とパワーに出力を傾注させたガンダム。

 ガンプラバトルにおいても、重武装を軽々振り回せるほどの改造が為されたガンダムグシオンタンザナイトと、スミ入れと部分塗装、つや消しクリアーの簡単フィニッシュで仕上げられただけのガンダムグレモリーとでは、そもそも模型としての保持力が違い過ぎた。

 

『これでおしまいです』

 

 ガンダムグシオンタンザナイトの右マニピュレーターが、ガンダムグレモリーのナノラミネートコート越しのバイタルパートを掴み、そのまま握り潰していく。

 

「く……」

 

 もはやこれまで。

 そう諦めたトウカだが、

 

 突如、ガンダムグシオンタンザナイトにいくつもの爆発が襲った。

 

『ふむ、ミサイルですか』

 

 装甲に大したダメージは無いが、爆発の衝撃に機体のバランスを崩しかけたガンダムグシオンタンザナイト。

 すぐに姿勢制御し――そのためにガンダムグレモリーを手放した。

 レッドアラートがトウカのコンソールを埋め尽くす中、サブカメラに映し出された光景は、

 

『ヒロピンに都合よく俺参上!とりあえずドロップキックだオラァ!!』

 

 ……なんだかよく分からないことを流暢に叫びながら、ガンダムグシオンタンザナイトにドロップキックを喰らわせる――リョウマのオリジネイトガンダムの姿だった。

 

 

 

 市街地に反応が二つ、それも戦闘中だと思ったらグレモリーと、青灰色の装甲にばかでっかいメイス――狼牙棒か?をぶん回しているガンダムグシオンリベイク――ガンダムグシオンタンザナイトと言うらしい――が、鎬を削り合っていた。

 グレモリーの方は恐らくミカゲさんのはずだ。

 が、グレモリーが反撃しようとしたけどグシオンタンザナイトのパワーに返り討ちにされそうになっていたので、シノミヤ先輩のフルコマンドガンダムMK-IIにミサイルで牽制してもらい、俺はフルスロットルで加速して、グシオンタンザナイトをドロップキックで蹴っとばす。

 

『んん、なんと無粋な』

 

 勢い良く蹴っ飛ばされたと言うのに、グシオンタンザナイトのファイター――声からして、主催者のレイセン・アンリ嬢か――は抑揚の無い声で応じてきた。

 

「オ、オウサカ、くん……?」

 

 満身創痍のグレモリーから、ミカゲさんの戸惑う声が届く。

 あの状況から助かるとは思ってなかったんだろう。

 ふっふっふっ、俺の主人公補正とご都合主義をなめるなよ(あやふやかついい加減な根拠)。

 

「先輩はミカゲさんを頼みます!」

 

「はーい、了解よ」

 

 フルコマンドガンダムMK-IIがガンダムグレモリーを羽交い締めにすると、そのまま飛行してこの場を離脱していく。補給ポイントまで連れてってくれるとありがたい。

 

『そのファーストガンダム。なるほど、あなたがツキノミヤさんやゴジョウインさんが一目置くという』

 

 グシオンタンザナイトは、そのランヤーパンとか言うクソデカ狼牙棒を拾い直して身構える。

 

「どうも初めまして、オウサカ・リョウマです。さぁ、ウチのチームメイトに代わって俺がお相手ですよ」

 

 ヒートブレードを両手に構えて二刀流。

 どうせビームガンではロクなダメージは通らんのだ、近付いてどつき回すか、近距離でレールガンやグレネードランチャーを撃ち込むしかない。

 

『よろしい。それではダンスの時間です』

 

 すると、猛然とグシオンタンザナイトが加速してきては、ランヤーパンを振り下ろして来たので、ヒートブレード二丁をクロスさせて防ぐ。

 

「ぐっ……」

 

 とんでもなく重い一撃。

 下手するとヒートブレードよりも先に関節がイカレるな、オリジネイトの完成度の高さに感謝だ。

 

『正面から受けられるとは予想外です』

 

 この人……横槍を入れられたってのにさっきから怒りも驚きもしねぇな、感情の振れ幅が限りなくゼロに近いと言うか。

 

「相手のまさかと思うポジションが、こちらの有利に……なるッ!」

 

 その間合いでグシオンタンザナイトの腹にヤクザキックをぶちかます。

 

『んむ』

 

 仰け反りたたらを踏むグシオンタンザナイト。

 すかさずそこへ右のヒートブレードを突き出すものの、これはランヤーパンに弾き返されるが想定内、返す刀で左のヒートブレードを振るうがこれはランヤーパンの柄で弾かれ、左右左右のヒートブレードの乱撃でグシオンタンザナイトへ肉迫する。

 

 だが、それら乱撃は全て弾き返されているばかりだ。

 

 一際強く、ヒートブレードとランヤーパンの柄が衝突し、ギチギチギチギチと火花を散らす。

 

 思ったより手強いな、別の搦手が必要になりそうだ。

 

 弾き返し合い、瞬時にスタンバイさせていたウェポンセレクターでレールガンをダブルセレクト、一対の電磁加速弾を撃ち出すが、これは読まれていたのかランヤーパンで跳ね返される。

 

 だがそれは俺の読み通りだ。

 

 レールガンが跳ね返されるよりも先に操縦桿を押し上げてオリジネイトを加速させる。

 グシオンタンザナイトが盾にしているランヤーパンがどう動くか……

 

『さすれば』

 

 グシオンタンザナイトがその体勢のまま加速、ランヤーパンを盾にしたまま体当たりをするつもりか?

 であれば――フルスロットルでランヤーパンにタックルだ!

 右肩を向けてランヤーパンに体当たり、激突と同時にギリギリギリギリとオリジネイトとグシオンタンザナイトが押し合う。

 

『むん』

 

 グシオンタンザナイトはランヤーパンを振り上げて力尽くで振り払ってきた。

 振り飛ばされるオリジネイト、姿勢制御よりも先に急速バック、ランヤーパンの間合いから飛び退く。

 叩き付けられるランヤーパンを躱して、前進し――ランヤーパンを踏み台にして、バーニアの推力をシンクロさせて、

 

「なんとおぉぉぉぉぉーーーーーッ!!」

 

 ドンッ!!と大きく踏み込む!

 

『なんと?』

 

 ランヤーパンを踏みつけておくことで、咄嗟に引き戻せないようにした上でこの間合いだ、逃しはしない。

 

 右のヒートブレードを真っ直ぐに突き出す、その切っ先はグシオンタンザナイトのバイタルパートへ向かうが、

 

『まだです』

 

 グシオンタンザナイトは咄嗟に左腕のシールドを突き出して、ヒートブレードを受ける。

 バーニアの排熱を利用した高熱の刃は、熱に弱いナノラミネートアーマーを破壊するための有効手段だ、グシオンタンザナイトのシールドもろとも左腕装甲を貫くが、フレームに刃を阻まれ、バイタルパートまでは貫通出来なかった。

 

 瞬時、グシオンタンザナイトはランヤーパンの柄から手を離し、右マニピュレーターにガトリングガンを持たせて、至近距離から連射してきた。

 銃弾にオリジネイトの装甲が撃ち込まれ、損傷度が深まっていくが構うまい、右のヒートブレードでガトリングガンを斬り飛ばす。

 しかしガトリングガンを斬り飛ばすと言うタイムラグを挟んだせいで、向こうに余裕を与えてしまったか、グシオンタンザナイトはヒートブレードが突き刺さった左腕を切り離し、

 

『てい』

 

 ヤクザキックを返され、蹴り飛ばされてしまった。

 

「ぐ……」

 

 だが転びそうになってもただでは転ばん、飛ばされている内にも右腕のグレネードランチャーを発射、グシオンタンザナイトのボディに炸裂させる。あんまり効かないだろうけどな。

 

『むぅ、なかなかどうして』

 

 グレネードランチャーの爆発に機体を仰け反らせるものの、グシオンタンザナイトはすぐにランヤーパンを拾い、右腕だけで担いで見せる。

 あんなクソデカ狼牙棒を片腕だけでも振り回せるのか、とんでもねーな。

 

 こちらも右のヒートブレードをグシオンタンザナイトの左腕から引き抜いて、身構え直す。

 

 片腕しかないと言っても、ランヤーパンを振り回せる以上、その脅威は健在。

 腕の無い左側から攻めたいところだが、それはアンリ嬢も承知しているだろう、無策で迎え撃ってくるはずがない。

 

 さて、どう攻めるべきかね……

 

 と思考を回していると、不意にグシオンタンザナイトが明後日の方向に頭部を向けた。

 お?俺を目の前にしてよそ見とはいい度胸だな?

 

『ふむ、どうやらここまでのようです』

 

 突然、グシオンタンザナイトは背を向けると、スラスターを点火させて飛び去って行ってしまった。

 その0.5秒後に、グシオンタンザナイトがいた地点にビームが撃ち込まれた。

 

 今のビームは、パーメット粒子の実戦出力のそれだな。

 

「オウサカくん!」

 

「センパーイ!」

 

 するとそのビームが放たれた方向から、ファラリアルとティエレンパイタォ――マユちゃんとナナちゃんが飛んで来た。さっきのビームは、ファラリアルのビームアルケビュースか。

 

「おぉ、二人とも無事だったか」

 

 ヒートブレードを持った右腕を振って応じる。

 

 合流して、と。

 

「大丈夫?オリジネイトも随分損傷してるみたいだけど……」

 

 オリジネイトの状態を見て、マユちゃんが心配してくれる。優しい。

 

「ちょっと手強い相手と戦ってたからな。二人が来てくれたおかげで、逃げてくれたけど」

 

 臆病者とは言わない。

 むしろあの状況なら、即座に回れ右して撤退するのは正しい判断だ。

 状況が同じなら俺だってそうする。

 

「それと、ミカゲさんのグレモリーがあいつと戦っていて、撃墜寸前だったから、シノミヤ先輩に離脱させてもらった」

 

「トモエセンパイと一緒にいたんですか?」

 

 ナナちゃんが反応し、ティエレンパイタォのモノアイがぎゅいいと向けられる。

 

「あぁ。今頃、どこかの補給ポイントにいてくれてるとは思うけど……」

 

 シノミヤ先輩の実力から、そんじょそこらの相手に遅れは取らないだろうが、動けないグレモリーを抱えながらでは、ちょっと不安だ。

 

「とにかく、俺達も補給ポイントを探そうか。俺もこのまま戦い続けるのは避けたい」

 

 装甲のダメージもあるが、関節に掛かった負荷も馬鹿にならない、いつガタが来るか分からん以上、早めに補給ポイントで機体修復をしておきたい。

 

「アサナギさんかナナちゃん、近くに補給ポイントがある場所はあるか?」

 

「わたしはまだ見つけてないけど……」

 

 マユちゃんはまだ補給出来ていないのか。

 なら、ナナちゃんも……

 

「あの、オウサカセンパイ。さっきトモエセンパイは、どっちに向かって飛んでいきましたか?」

 

「ん?確か、あっちの方だな」

 

 と、最後にフルコマンドガンダムMK-IIがグレモリーを抱えて飛んで行った方向を指す。

 

「それならその方向に向かえば、補給ポイントがある……かは分からないですけど、トモエ先輩もそんなに遠くまで離れてないと思います」

 

 ふむ、補給ポイントを探しているのだから、そこまで遠くへ行かないはずだと、そうでなくともシノミヤ先輩とも合流出来る、と言うわけか。

 

「よし、ここはナナちゃんの意見を従おう。アサナギさんも、それでいいか?」

 

「わたしもホシカワさんの提案に賛成だよ」

 

 マユちゃんの同意も得られた。

 

「それじゃ、行きましょう!」

 

 レッツゴー、とナナちゃんが言いかけたところで、

 

 

 

『どこへ行くんだァ?』

 

 

 

「フオォォォォォ!?」

 

 なんか急にどっかから不敵過ぎるウィスパーボイスが飛んできたので、思わずどこぞの野菜人になってしまったぞ。

 

「……センパイ、なんですか今の声」

 

「大丈夫だナナちゃん、問題ないノープロブレム」

 

 いや、問題ないどころかむしろ新たな問題が降って湧いてきたわけだが。いかん、ちょっと落ち着こう。

 

 すると上空から何かが降って来ると――ズガンと轟音を立ててビルを踏み壊しながら現れた。

 

『なんだかとぉっても面白そうな話が聴こえた気がしたんだが……私の混ぜてもらおうか』

 

 黒いザク。

 多分S型のザクIIの改造機のようだが……フルアーマーユニコーンガンダムも真っ青な重武装群を身に着けている。サイコザクか?

 

「そのなんか妙にエロいウィスパーボイス……ツキノミヤ・ヤコさんですね?」

 

『ははははは、お望みならば一晩中耳介を舐め回すように囁いてやろうか?飛ぶぞ?』

 

 ナニが飛ぶんですかね……っと、ふざけてる場合じゃない。

 

 

 

 この人、ヤバい。

 

 

 

 何がって、あのプレッシャー。

 ゴジョウイン先輩と同等か、それ以上か……

 

「オウサカくん……」

 

「センパイ、わたしはいつでもいいですよ」

 

 マユちゃんのファラリアルもビームアルケビュースを構え、ナナちゃんのティエレンパイタォもGNビームライフルを向けている。

 

「あぁ……やるしか無さそうだ」

 

 下手に背を向けたら、間違いなく墜される……あれはそう言う相手だ。

 今ここで倒す他に、切り抜ける術はない。

 

『3対1か。良いだろう。この私のザク――『ザクシュヴァルツクーゲル』が、纏めて相手してやろう』

 

 シュヴァルツクーゲル――黒の銃弾の銘を冠するザクが、猛然と襲い掛かってきた。

 




今回登場のガンプラ『ガンダムグシオンタンザナイト』の画像や詳細設定はこちら(ガンスタグラムへのジャンプです)↓

https://gumpla.jp/hg/1886442
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