ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK   作:さくらおにぎり

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16話 硝煙弾雨、激戦区域

 クルージングパーティのガンプラバトルロワイヤルが行われている最中。

 ホールの階上から、その様子を見ている者達がいた。

 いずれも十代半ばの男女で、彼女らも正装を身に纏っており、このクルージングパーティの来賓客だった。

 

「…………見つけた」

 

 その内の一人――亜麻色の長い髪をアップで纏めた美少女が、他の四人に、目当ての人物を発見したことを告げる。

 

「本当にわたし達のこと、忘れちゃったんだね……」

 

 隣にいた、ふわふわしたブロンドの髪を揺らす美少女は、もの悲しげに呟いた。

 

「仕方ないですよねー。だってあの人はもう、あたし達の知ってる先輩じゃありませんし」

 

 橙色の髪をサイドテールにした美少女は、諦めを含めた声色で応じる。

 

「だから、"取り戻す"って話をしてたんじゃないの?」

 

 黒髪を無造作に纏めた美少女も、共通認識の再確認と言う無駄な行為を、抑揚の無い声で気怠げに切って捨てる。

 

「この緑乃愛随一の美男である俺様を差し置いて、"こっち"でも美少女を侍らせるとはねぇ……けど、使っているのはクロスボーンガンダムじゃないのか」

 

 黒みのかかった金髪を整髪剤でオールバックにした青年は、呆れたように言ってのける。

 

「それに……"原作"への侵蝕率も、じきに88%に到達する。このままだと、俺様達は本当に"消えて"しまう」

 

 青年の言葉に、亜麻色の髪の美少女は深く頷く。

 

「大丈夫。私達なら、必ず彼を……"壊された私達の世界"を取り戻せる」

 

 だから、と視線の先のモニター――オリジネイトガンダムを見やる。

 

「待っていて――オウサカくん」

 

 

 

 

 

 間一髪のところを、リョウマとトモエに助けられたトウカ。

 その彼女の、バトルアンカーと頭部を失い、バイタルパートがへしゃげたガンダムグレモリーは、フルコマンドガンダムMK-IIに宙吊りにされるような形で運ばれている。

 

「間一髪だったわね、えぇと……ミカゲさん、だったかしら?」

 

「はい。……お手を煩わせてごめんなさい、シノミヤ副会長」

 

「いいのよ、オウサカくんの頼みだもの。ここで彼に恩を売っておけば、後々で学生会の業務を手伝ってもらいやすくなるから」

 

「打算的ですね……?」

 

「でも、実際オウサカくんが手伝ってくれた日の仕事は早く終わることが多いわ。私もアマネも大助かりよ」

 

 世間話はそこまでにしたところで。

 

「私は……自分はそれなりに戦えると思っていました」

 

「うん?」

 

 ポツリと切り出したトウカに、トモエは続きを促す。

 

「ガンプラの性能に頼った戦い方をしていたことは否定しません。それでも、自分なら一人でも戦えると、チームメイトにも大きな口を叩いておきながら、結局はこの体たらくです」

 

「あなたが戦っていたアンリさんは、アマネやヤコさんほどでは無いにしろ、全国レベルで見れば上から数えたほうが早いくらいには強いのよ?そんな相手に善戦出来ただけでも上出来よ」

 

 トモエは、自分が思った事実を言ったつもりだった。

 けれど、トウカはそれを聞いて素直に喜べないほど、今の自分に大きな不満を覚えていた。

 

「それでも……勝てませんでした」

 

 リョウマが自分をガンプラバトル部に勧誘したのは、人数合わせのためにと言う理由が大きかった。

 人数合わせだとしても、やるからには真面目にやるつもりだったし、足手まといになりたくはなかった。

 

 だが、実情はどうだった?

 地区大会の決勝戦――チーム・ブラウシュヴェルトとのバトルでは最初に倒されて、結果的に長期戦を招いてしまった。

 

 それ以外に何か実績を挙げたのかと言えば――無い。

 

 模型のコンテストに出場したこともないし、出場したところで入賞出来るほどの作品を作ることも出来ない。

 

「私は、人数合わせ以外でチームの役に立ったことが無いんです」

 

 それがトウカの、ガンプラバトル部における己の価値だった。

 

「………………」

 

 そんなことないわ、とトモエはそう口にしかけて、喉の奥に押し留めた。

 トモエはトウカのことをよく知らない。故にそんな無責任な発言で慰めるわけにはいかなかった。

 

「なら、ミカゲさんはどうしたいの?」

 

 敢えて、問い掛けた。

 

「どう……とは?」

 

「人数合わせでしか役に立てない、そんな自分は好き?嫌い?」

 

 唐突な問いかけに、トウカは少しだけ考えて。

 

「……嫌い、です」

 

 劣等感を抱いた自分が好きな人間などいない。

 

「それが嫌なら、どうすれば好きになれるかしら?」

 

 自分の嫌いな部分と向き合え、そう言われているようなトモエの問いかけに、トウカは。

 

「強くなる、ですか?」

 

「何を?」

 

「ガンプラバトルに、勝てる強さを」

 

「バトルに勝てるくらい強くなれば、それで自分を好きになれそう?」

 

 トモエのその言葉には、「本当にそれでいいのか」と問われているように、トウカはそう読み取った。

 それは手段であって、目的ではない。

 

 そもそも、自分は何のためにガンプラバトルをしているのか……

 

「私は、自分のことを誰かに認められたい。外見や容姿だけじゃなく、私という人間の本質を、見て欲しい。だから、」

 

「コンプレックスの一つや二つなんて、誰しも持っているわ。いいえ、それを持たない人なんていない」

 

 トモエは、トウカの"自己承認欲求(コンプレックス)"をつまらないもののように遮った。

 

「私はチャペルのシスターでは無いから、あなたの懺悔を聞かされても、何も言えないわ」

 

 けどね、とフルコマンドガンダムMK-IIのツインアイが応じるようにハイライトを輝かせた。

 

「先輩として、人生相談や、ガンプラの相談くらいなら乗ってあげられるから、いつでも学生会室にいらっしゃい。もちろん、私がいる時間帯に、だけど」

 

「はい……」

 

 懺悔は聞かないが、相談くらいなら聞いてやれる、と言うトモエの言葉に、トウカは自分の中でくだを巻いていたものが少しだけ解けた気がした。

 

 遠く各地では、まだ激しい戦いが続いている。

 

 

 

 大苦戦。控えめに言ってそれしか言葉が無い。

 

 イツキのドラゴニックガンダムは、アマネのゼイドラ・スタインと対峙した。

 対峙したまでは良かった。そこまでは。

 

「くそっ!」

 

 ツインビームトライデントの間合いの懐と外を的確に突いてくる攻撃の手管。

 

「くそっ!」

 

 ドラゴンハングを放っても躱されるどころか、フレキシブルアームを掴まれて機体ごと投げ飛ばされる。

 

「くそっ!」

 

 反撃の隙が見えたと思えば、即座に蹴り飛ばされて体勢を崩される。

 

「なんで……なんで倒せないんだよ!?」

 

 飛んでくるビームバルカンの躱しながら、イツキは焦る。

 気を抜けばコクピットを貫かれているだろう攻撃の数々をどうにか凌いているが、それも長くは保たないと、他ならぬ彼女自身が肌身に感じている。

 

『荒削りだが、筋はいい』

 

 にも関わらず、対するゴジョウイン・アマネの息遣いひとつ乱れておらず、しかもこちらの動きを客観視する余裕まである。

 

『しかし挙動が素直過ぎるな。いかに正確で素早い攻撃でも、先を読まれていては意味が無いぞ?』

 

「だからなにさっ!」

 

 即座にツインビームトライデントを突き出すドラゴニックガンダム。

 しかし、ゼイドラ・スタインは左のビームバルカンの銃口からビームサーベルを発振させて弾き返し、返す刀の回し蹴りがドラゴニックガンダムの頭部を蹴りつける。

 センサー系へのダメージを受け、イツキのモニターやレーダーが乱れる。

 

『戦いにおいて、先を読まれる、裏をかかれると言うのは致命的な隙だ。直面する事態に対し、場当たり的な対処をするだけでは、簡単にそこを突かれるぞ』

 

 こんな風にな、とドラゴニックガンダムが苦し紛れに放った右のドラゴンハングを躱し様に、その可動部をゼイドラソードで正確に叩き斬る。

 ドラゴンハングとてそう簡単に破壊されるような代物ではない。

 

 イツキがドラゴンハングを放つタイミングを予め予測していたからこそ出来る芸当だ。

 

「な……なめんな、しっ!」

 

 頭部のバルカンを乱射しながら突撃するドラゴニックガンダム。

 速射される銃弾を躱すゼイドラ・スタインに、ツインビームトライデントを横薙ぎに振るい――

 

『読めている』

 

 フッとゼイドラ・スタインは機体を反らし――ツインビームトライデントの柄を掴み取った。

 

「えっ……」

 

 次の瞬間には、ゼイドラ・スタインのマニピュレーターの握力によってツインビームトライデントを半ばから折られてしまう。

 

「う、うそ……!?」

 

『私に勝つには、まだ早いぞ?』

 

 折られたツインビームトライデントの柄ごと引き込まれ――ゼイドラ・スタインの胸部から放たれたビームバスターに呑み込まれた。

 

 ドラゴニックガンダム、撃墜。

 

「くっ、うぅぅぅぅぅ……ッ!!」

 

『LOSE』の赤文字がロストしたモニターを横切り、イツキは悔しげに項垂れる。

 

 爆散するドラゴニックガンダム。

 それを見つめていたアマネは、

 

『……素直過ぎると言うのは、逆に言えば、『それだけ基本に忠実である』ということなのだがな』

 

 基本に忠実であるが故に応用が効かない。

 イツキも今はまだ、基本と言う枠に囚われている。

 だが、その枠を破ったその瞬間に、"化ける"可能性もまた秘めている。

 

 あとは、彼女が自分でそのことに気付くことが出来るかどうか。

 

 

 

 マシンガンの銃弾と無数のミサイルが雨霰のごとく襲い掛かる。

 損傷はしているものの機体のマニューバには困らない俺のオリジネイトガンダムだが、それでも躱すのに精一杯だ。

 

 マユちゃんのファラリアルは空中機動性が高いぶん被弾率は抑えられているが、何かの拍子に直撃を喰らえば即死に繫がりかねない。

 

 ナナちゃんのティエレンパイタォは、市街地を上手く駆け回って被弾を防いでいるが、反撃のしようがないようだ。

 

 それというのも、俺達三人が対峙している、ヤコさんの黒いザク――ザクシュヴァルツクーゲル。

 

『当たらなければどうということはない?そもそも撃たせなければ済む話だな』

 

 弾切れを気にする必要はないと言わんばかりに、サブアームからも放たれるマシンガンにアサルトライフルにミサイルにバズーカに……いや、どうなってんだその射撃管制!?

 

 弾幕が凄まじい上にその射撃そのものも正確だ、単なるオート制御じゃないな、本体とサブアーム、どっちもマニュアルで制御しているのか。

 

 弾幕に任せて撃ちまくっているだけじゃない、あのザクシュヴァルツクーゲル本体の機動性もハイレベルだ。

 あれだけの重装備でどうやってあんな殺人的なマニューバが出来るのか……操縦するファイター側の負担だって半端じゃないぞ、宇宙世紀版のトールギスか?

 

「は、反撃出来ない……!」

 

 マユちゃんはどうにかビームアルケビュースによる狙撃を敢行しようとしているが、狙いを付けようとしている端から射撃が飛んで来る上に、不規則なタイミングで回避先にバズーカの弾頭が"置かれている"のだ。

 

「ど、どうなってるんですかあのガンプラ!?」

 

 ナナちゃんも必死に市街地の陰に隠れながらビームライフルを撃っているが、カクンカクンと急加速と急停止を三次元的に行うザクシュヴァルツクーゲルの常識外れなマニューバに、焦りを隠せない。

 

 かくいう俺も、接近戦を仕掛けたいんだが……ハリネズミもかくやの弾幕を殺人的なマニューバでばら撒いてくる相手にどうやって近接戦闘を仕掛けろと言うのか。

 

 何というか……ゴジョウイン先輩のゼイドラ・スタインと、シノミヤ先輩のフルコマンドガンダムMK-IIが、一体のMSになっているような感覚だ。

 

 しかしどう攻めたものか……

 僅かな思考、二人に指示を飛ばす。

 

「アサナギさん、ナナちゃん!俺が合図したら射撃を頼む!当てなくてもいい、牽制してくれ!」

 

「分かった!」

 

「りょ、了解ですセンパイ!」

 

 いくらザクシュヴァルツクーゲルの弾幕が厚かろうと、スピードが速かろうと、常にフルスロットルで撃ち続けることは出来ないはずだ。

 

『お?何か仕掛けてくるのか?来たまえよ』

 

 まだだ、まだ凌げ……よし、時間合わせ……

 

「3、2、1、今だっ、撃て!!」

 

 タイミング通り、ファラリアルはビームアルケビュースとビームバルカンを、ティエレンパイタォはビームライフルと20mm機銃を撃ちまくる。

 

『ほぉ?』

 

 連携射撃を前に、さすがのヤコさんと言えど無視するわけにはいかないのか、弾幕を止めて回避していく――その回避のマニューバが完全に物理法則を無視してるんだが、

 

「――その一瞬が欲しかったんだ!」

 

 ヒートブレードのビームガンと、頭部のバルカンを撃ちまくり、フルスロットルでザクシュヴァルツクーゲルへ加速する。

 向こうも接近戦になると見たか、ゴツゴツとした角張った金槌のような武器――『スレッジハンマー』を右マニピュレーターに抜いて殴り掛かってきた。

 

 瞬間、左のヒートブレードとスレッジハンマーが衝突し、重々しい金属音と火花を散らす。

 グシオンタンザナイトのランヤーパンほど重くは無いが、それでも強烈な一撃だ。

 軋む左腕、コンソール上では、損傷警告のオレンジランプががなり立てる。

 ……まずいな。グシオンタンザナイトと戦っていた時から、外装甲はともかく、フレームがガタに来始めている。

 

 なのでここは受け流……

 

『こっちにもあるぞぉ?』

 

 反対側、マシンガンを持っていたはずの左のサブアームはいつの間にかヒートホークに持ち替え、斬り掛かってきていた。

 慌てるな、ここは左のヒートブレードで弾き返す。

 

「ガンビット!」

 

 同時に、マユちゃんのファラリアルがエスカッシャンからガンビットを射出、俺を守るようにオリジネイトの周囲に展開し、ザクシュヴァルツクーゲル目掛けて近距離射撃を仕掛けていく。

 

 対するザクシュヴァルツクーゲルは、強引にヒートブレードを弾き返して飛び下がってガンビットの一斉射撃を躱し、

 

「そこ!」

 

 飛び下がったところをナナちゃんのティエレンパイタォがビルの隙間から飛び出し、距離を詰めながらビームライフルを撃ちまくる。

 

『上手い連携だな』

 

 が、ザクシュヴァルツクーゲルは空中で、なおかつ減速なしで、見えない壁を三角跳びするような機動で二人のビームを躱してしまった。

 

 なんか今、スラスターの軌道が『横倒しににしたW字』を描いてたんだけど……何 で も あ り だ な お い ?

 

『だが、私には通じんよ』

 

 反撃のザクバズーカが発射、距離を詰めようとしていたナナちゃんも反応は出来ていたが回避が完全に間に合わず、右脚を吹き飛ばされてしまう。

 

「うわわっ……!?」

 

 片脚を失って前のめりに転倒してしまうティエレンパイタォ。

 ――ちょうど、ザクシュヴァルツクーゲルのサブアームがヒートホークを振り翳す瞬間。

 

「――さ せ る、かッ!!」

 

 何をすべきかを自問自答――即答し、すかさず右のヒートブレードをザクシュヴァルツクーゲルのヒートホークを持ったサブアームに投げ付けて破壊する。

 

『お?』

 

 ザクシュヴァルツクーゲルのモノアイが向けられ、ナナちゃんへの注意が外れたところに、空いた右マニピュレーターにビームサーベルを抜刀様に斬り掛かる。

 

 これは躱されて上空へ逃れられるが予測の範疇だ、とりあえずティエレンパイタォから奴を引き離す!

 

「当たっ、て!」

 

 上空へ飛び上がった直後を狙っていたのか、ファラリアルのビームアルケビュースがザクシュヴァルツクーゲルを狙撃するが、スレッジハンマーを寝かせて構え、その分厚い面積を盾にしてビームを弾いてしまう。耐ビームコーティングか!

 

 このまま俺もオリジネイトを上昇させ、ザクシュヴァルツクーゲルを追撃、空中戦に持ち込む。

 

『レディのスカートを下から見上げようとは、なんと破廉恥な!』

 

 見た目小学生が何言ってやがるんですかね……

 

「その機体がノーベルガンダムならちょっとは遠慮したんですけどね?」

 

 いや別にノーベルガンダムでも遠慮しないけどさ。ってかヤコさんもそんなことで文句は言わないだろう。そして今のはブレックス准将だな。

 

『なるほど、私のカラダに興味があるとは……面白い、この後にでも一発ヤってみるか。なに、この船には"そのための"部屋もあるから安心したまえよ』

 

「ヤコさん、その発言は全年齢向けの作品としてはかなりまずいです、自重してください」

 

 いかん、"夜"の字のルビに「ヤ」がチラつく……茎が苛立つ!

 

 余計なことは考えつつも、意識そのものはバトルに傾いている。

 こちらがビームサーベルで斬りかかればヒートホークで弾かれ、残る左のヒートブレードはスレッジハンマーで受けられる。

 格闘戦をしている合間にも、別のサブアームからマシンガンやアサルトライフルで近距離射撃をかましてくるので、ジワジワとオリジネイトの装甲が削られていく。

 

「ビットオンフォーム!」

 

 すると、ファラリアルのエスカッシャンが分離、機体各部に装着しての高機動モード――ビットオンフォームへ移行すると、ブラストブースターを翻して一気に上昇してくる。

 

 ビームアルケビュースを発射――俺を巻き込まずにザクシュヴァルツクーゲルだけを引き離す絶妙な射撃だ。

 

『ほん?お前……いい女だな』

 

「へっ?」

 

 ぎゅいいとザクシュヴァルツクーゲルのモノアイがファラリアルに向けられ……おい、まさかこの女狐小学生、百合でもイケるタイプか!?

 

『個人的には金髪でもう少し背が低く胸が小さくて、機体もエアリアルじゃなくてザウォートの方が……』

 

「男の前で別の女に目移りたぁいい度胸ですね!」

 

 流れるようにウェポンセレクターからレールガンをダブルセレクトと同時に撃ち込む。

 が、ほぼ近接格闘の間合いで発射した音速の弾丸すら回避された。

 

 この人ほんとに人間か?妖狐が人に化けている可能性を本気で考えるぞ。

 

『おぉ、それは失敬。では、私だけを見つめてくれよ?』

 

 こンの人は……男だろうが女だろうが構わず口説くようなことをナチュラルに言いおってからに!

 

「えぇ、瞳を逸らさずに熱く激しく鮮やかな一瞬の光へと導いてやりますともよ!」

 

 レールガンの反動をバーニア出力で強引に相殺し、急速接近。

 

 ヒートブレードとビームサーベルによる乱撃、マシンガンやアサルトライフルによる近距離射撃は無視して受ける。どうせ後で補給ポイントで修復すればいいし。

 

 後先考えずに現地調達で何とかすればいい、と言うのは旧大日本帝国的だが、この際そんなことは考えていられない。

 

 対するザクシュヴァルツクーゲルも、左マニピュレーターにもう一丁のヒートホークと、右のスレッジハンマーから仕込み刀のようにブレード――『ヒートカタナ』を抜いて対抗してきた。

 

「おぉぉぉぉぉォォォォォッ!!」

 

『オォラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!!』

 

 ヒートブレードとビームサーベル、ヒートカタナとヒートホークが打ち付け合い、弾き返し合う。

 

「こ、これじゃ手が出せない……!」

 

 少し離れた位置から、マユちゃんのファラリアルがビームアルケビュースを構えて狙撃を狙ってくれているが、こうにも激しい斬り合いでは誤射の恐れもあるのだろう、援護が出来ないでいる。すまんな、今はちょっと手を出さないでね。

 

「そこ!」

 

 突き出したビームサーベル、しかし機体を反らされたことで右のショルダースパイクの上半分を焼き斬っただけだ。

 

『楽しい……!お前の実力……もっと私に見せてみろ!』

 

 返す刀のヒートホークが、オリジネイトの右胸部を抉る。リアルだったらコクピットに金属片が飛び散りまくって、"痛いイザーク"になるところだったわ。

 

「あーーーーーっぶねー……なァッ!!」

 

 即座に蹴り飛ばして、バルカンで反撃、サブアームに懸架していたザクバズーカの一つを撃ち抜いて爆破する。

 

『ははははは!滾る燃える濡れる昂るなァ!』

 

 しかし向こうも瞬時に姿勢制御して、マシンガンとアサルトライフルで弾幕を展開、これも無視して強引に接……

 

 ビー!ビー!とモニターの片隅で、『左腕のパワーダウン』と言う非常によろしくない報告をしてくれた。

 

 グシオンタンザナイトとの戦いからここまで、騙し騙しで保っていた左腕の過負荷が、ここに来て限界を迎えてしまったのだ。

 

「こ の く ら い !」

 

 動かない左腕などただのデッドウェイトだ、ビームサーベルで肩口から斬り落とす。これで機体が軽くなったよ。

 

 ビームサーベルを持った右マニピュレーターをプロペラのように高速回転、擬似的なビームシールドを形成させて弾幕の中へ突っ込む。

 

『よぉし良かろう!そろそろ本気で相手してやろう!』

 

 するとザクシュヴァルツクーゲルは全身のマウントラッチから武装やサブアームを全て切り離し、シンプルなザクIIになると、ヒートカタナとヒートホークを逆手に握り、双剣のごとく構える。

 

 ってか、『アレで本気出してなかった』のかよ!?

 

 瞬間、俺の視界からザクシュヴァルツクーゲルが"消えた"。

 

 待てや、今なんか見えなかったんだが。

 

 ほぼ反射でビームサーベルを振るえば、その死角にはヒートカタナが回り込んでいたので、弾き返す。

 

 向き直った瞬間にはまた"消える"。

 

 反射でビームサーベルを振るい、弾き返し、"消えて"……まずい、このままじゃ身体の反射どころか目でも追えなくなる……!

 

 焦りが反射神経を鈍らせたか、残っていた右腕がヒートカタナの一閃に斬り飛ばされ、ヒートホークに頭部を叩き斬られる。

 

「オウサカくん!」

 

「センパイ!」

 

 両腕と頭部を失ったか……だが、まだとレールガンがある!

 

 即座にサブカメラに切り替えて、次の接近のタイミングだ。

 向こうが接近してくるタイミングの先を読み、レールガンを直撃させれば、まだ勝ち目は……

 

 しかし、不意にザクシュヴァルツクーゲルがその動きを鈍らせ、墜落してしまった。

 

「なに……?」

 

『うっ、ゴホッゴホッ……えぇぃ、こんな時に……っ』

 

 オープン回線越しに聞こえてくるヤコさんから、苦しそうな咳声が……

 

「ヤコさん!?まさか何か病気が……!?」

 

 年齢の割に発育がよろしくない(最大限の配慮)方だ、何かしら先天的な病気があるのかと勘繰ってしまったが……

 

『さ、さすがに一週間フル徹を『夜半の蒼月(ルナティクス・ブルー)』で誤魔化すのは無理があったか……っ!』

 

 ………………ただの寝不足かい!!

 

 しかも一週間フル徹をコーラ(激濃)で誤魔化すとか、控えめに言って阿呆では無かろうか。心配して損した。

 

『い、いかん、視界の端にフェネクスが……フェネクスが一機……フェネクスが二機…フェネクスが三機……』

 

 寝不足のあまり既に少し錯乱しているヤコさんは、うわ言のようにユニコーンガンダム3号機の数を数えている。

 

「えっと、オウサカくん……この人、大丈夫……?」

 

 何が起きたのか分からないマユちゃんは、とりあえず上空から降りてきた。

 

「うーん……(頭は)あまり大丈夫じゃないかもしれないな」

 

『フェネクスが十一機……す、すまんが、『夜半の蒼月(ルナティクス・ブルー)』を持ってきてくれないか……2リットル飲めば、まだ半日は保つはずだ……うぅ……フェネクスが十二機……、……全滅?十二機のフェネクスが全滅?三分も経たずにか……!?』

 

 ユニコーンタイプが十二機もいるだけで十分悪夢だろうに、それらを三分で全滅させる奴がいるとか、想像したくもない光景だな…… 

 

「あー、えっと……救急車呼びましょうか?いや、船の上だから救護ヘリ?その前にこの船の医務室?」

 

 墜落して動かないザクシュヴァルツクーゲル。

 

「あの、オウサカ先輩、この人どうしますか?」

 

 片脚を失って起き上がれないでいるティエレンパイタォから、ナナちゃんの通信が届く。

 

「ナナちゃん、ライフルは撃てるな?」

 

「はい。……撃ちますか?」

 

「このまま放置するのはヤコさんもまずいし、人思いに撃って退場させた方がいいかもしれない」

 

 さっさと撃墜して、医務室に放り込んでもらおう。

 

「わ、分かりました……」

 

 ティエレンパイタォは寝そべった姿勢のまま、ビームライフルをザクシュヴァルツクーゲルに向けると。

 

「とりあえず、寝てください。一ヶ月くらい」

 

 容赦なくビームライフルを撃ち込んでやった。

 

『コーラを飲めば、溶け合えるんだろ……?楽になろうぜ……』

 

 ザクシュヴァルツクーゲル、撃墜。

 

 あーーーーー……強かった。

 マジで強かった。多分、局地的かつ瞬間的な戦闘能力ならゴジョウイン先輩よりも上だろう。

 

 今回は、"おクスリ"が切れたおかげで俺の粘り勝ちと言いたいところだが……あの人がフルコンディションだったら為す術もなく瞬殺されていたかもしれない。リアルエクステンデッドかよ。

 

 オリジネイトももう酷い状態だ。

 頭部はズタズタだわ、両腕は無いわ、レールガンの残弾も無いわ、フレームはガッタガタ、バーニアもガス欠寸前だ。

 早急に補給ポイントにいかないと、途中で動けなくなりそうだ。

 

「アサナギさんはナナちゃんを頼む。俺はまだ歩ける」

 

 片脚を失って歩けないティエレンパイタォの方が深刻だ、そっちはマユちゃんのファラリアルに任せたほうがいいだろう。

 尤も、俺のオリジネイトもギリギリのギリギリなので、歩いている内に脚のフレームが完全にイカれてしまうかもしれん。

 

「う、うん、分かった」

 

 マユちゃんは頷くと、ファラリアルを向かわせてティエレンパイタォに肩を貸す。

 

「すいません、アサナギセンパイ」

 

 さて、補給ポイントはどこにあるかね……とりあえず、さっきの話し合いで決めていた、『シノミヤ先輩とミカゲさんが向かった方向』に移動を開始するのだが、

 

 ――不意にアラートが反応し、

 

「「「え?」」」

 

 彼方から飛んできた二筋のビームが、ファラリアルとティエレンパイタォを撃ち抜き、その爆散に巻き込まれたオリジネイトは今度こそ大破、動けなくなった。

 

 ガンダムファラリアル、ティエレンパイタォ、オリジネイトガンダム、撃墜。

 

 えぇ……(困惑)

 

 

 

 

 

「あり?アサナギに、ホシカワ、リョウマ?……やべ、味方を撃っちまった……?」

 

 そのビームの正体は、ケイスケのジムカラミティが発射した大型ビームキャノン。

 岩陰から、市街地を出ようとする敵機を狙っていた彼は、ちょうど三機が市街地をのろのろと出てきたところを狙撃したのだが、撃墜したファイターの名前を確認し、背筋に嫌な汗が流れる。

 

 やってしまった。

 

「こりゃ後で謝っとかねぇとな……」

 

 そろ〜……っとその場を離脱しようとするジムカラミティ。

 だが、

 

『あら、サイキくん。ごきげんよう』

 

『どうも』

 

 その行く先に、トモエのフルコマンドガンダムMK-IIと、補給を受けて全快したトウカのガンダムグレモリーが立ちはだかった。

 

「お……おぉ、シノミヤ副会長にミカゲ、どうしたんだ?」

 

 なんだか嫌な予感がする、とケイスケは、自分の背中の発汗量が増加する中、フルコマンドガンダムMK-IIはビームライフルの銃口を、ガンダムグレモリーがバトルアンカーを構えて、ジリジリと迫る。

 

『遠距離からの狙撃、確かに有効な手段だわ』とトモエ。

 

『でも、撃つ前に味方かどうかを確認してからでも遅くないのでは?』とトウカ。

 

「(ヤべェ、やらかしたことに対する是非を問うヤツだわコレ……)」

 

 ジムカラミティを後退りさせるケイスケ。

 フルスロットルで逃げれば、ガンダムグレモリーは逃げ切れるだろうが、背を向けた瞬間、フルコマンドガンダムMK-IIがミサイルをばら撒きながら追い掛けてくるだろう。

 

「いや、その、やっちまったことは認めるし、あいつらにもちゃんと謝る!だ、だから……」

 

『ミカゲさん、どうしましょう?』

 

 フルコマンドガンダムMK-IIの頭部が、ガンダムグレモリーに向けられる。

 言い逃れをしようとするケイスケに対する判決は。

 

『潰しましょう』

 

 間髪なく、死刑判決。

 

『りょーかーい♪』

 

 瞬間、フルコマンドガンダムMK-IIのミサイルの大群が、ジムカラミティに殺到した。

 

「まっ、待て待て待て!シノミヤはともかくミカゲ!おまっ、先輩を逆恨みとかイヤアァァァァァァァァァァァ!?」

 

 ミサイルを全身に撃ち込まれ、満身創痍の上からバトルアンカーにコクピットを叩き潰されてしまった。

 

 ジムカラミティ、撃墜。

 

 

 

 

 

 ……うーむ、まさか市街地を出た瞬間狙撃されるとは思わなかったな。

 三機ともボロボロだったし、狙いやすいと思われてもやむ無し。

 こればかりはこのバトルのルールの問題だ、間が悪かったとしか言えん。

 

 撃墜されたので、読み込ませていたガンプラを回収して、観戦用のモニターで、勝ち残っている選手達を確認し……

 

 あれ?ケイスケ先輩のジムカラミティが、フルコマンドガンダムMK-IIとグレモリーに狙われている……あ、ミサイル浴びせられた上からバトルアンカーで潰された。

 

 あの三人の中で何が起きたんだろう?

 

 ――後に聞いた話だが、俺、マユちゃん、ナナちゃんの三人を狙撃したのはケイスケ先輩であり、誤射だったとのこと。これからはケイスケ先輩のことを「誤射先輩」と呼んでやろうか。

 

 そう言えばヤコさんは大丈夫なんだろうかと会場を見渡すと、

 

「またお嬢様が倒れたぞ!」

 

「メディック!メディーック!」

 

「救護班!ストレッチャーを!早く!」

 

「お嬢様め、何回ぶっ倒れりゃ気が済むんだ!」

 

「とりあえず睡眠導入剤と栄養剤ぶち込んどけ!どうせ三日は起きてこん!」

 

 白衣を着込んだ方々が、筐体の前で「光が、広がっていく……」とか言ってぶっ倒れているヤコさんの首根っこを引っ掴んでストレッチャーに放り込み、ガラガラーと会場を後にしていく。

 

 財閥のお嬢様なのに扱い雑過ぎない?

 しかも、「また」って言っているし、あの手慣れた様子だと同じようなことを何度もやらかしているのかもしれん。

 きっと医務室のベッドに寝かせたら報酬金の1/3をむしり取るのだろう。

 

 ………………それにしても、バトル中に何だか視線を感じたのは気のせいだったのか?

 

 

 

 残っている選手は残りわずか、ヤコさんと言う猛スピードで爆走する爆薬庫が退場した今、最後はゴジョウイン先輩無双で決まった。

 

 レイセン総裁からトロフィーを授与されるゴジョウイン先輩を拍手で讃える中、

 

「どうやったら、あんなに強くなるんだろ……」

 

 俺の隣にいたイツキが、苦虫を噛み潰したようなしかめっ面をしている。

 そういえばイツキ、ゴジョウイン先輩と出会して、ボロ負けしたって言ってたな……スイーツヤケ食いしながら。

 

 

 

 粛々とした表彰式が終わった後は、パーティの続きだ。

 

 出された料理にありついたり、踊れる人は社交ダンスを踊ったりしている中、誤射をやらかしたケイスケ先輩がみんなに平謝りしたりして。

 

「楽しんでいるようだな」

 

 そこへ、ゴジョウイン先輩とシノミヤ先輩がやって来た。

 

「楽しんでいると言うか、メシ食ってるだけですけどね」

 

 このポテトサラダ超うめーよ。

 烏龍茶ですらこの旨さ、感動の嵐だ。

 

「ところでオウサカくん、今って大丈夫かしら?」

 

 シノミヤ先輩がそう訊ねてきた。

 大丈夫ってどゆこと?

 

「ダンスのお誘いですか?」

 

 そう思ったんだけど、どうやら違うらしい。

 

「ダンスでは無いのだけど……」

 

 と、シノミヤ先輩の視線が背後に向けられる。

 

「こちらの彼女が、オウサカくんに用があるそうよ」

 

 そこにいたのは、ふわふわのブロンドの髪を揺らす、なんだかゆるふわそうな雰囲気の女の子だ。歳は俺と同じくらいか。

 

 すると、

 

「――久しぶりだね、リョウくん」

 

 久しぶり?

 あれ?どっかでお会いしたっけ?

 こんなに綺麗で可愛い美少女に名前を呼ばれるくらいなら、そうそう忘れないと思うが……

 

 急いで"オウサカ・リョウマ"としての過去の記憶を探り……

 

 ――全く記憶にない、どう言うことだ?

 

 覚えていないんじゃない、『知らないぞ』?

 

「すまないが、人違いじゃないか?俺は君と会った覚えがない」

 

「うん、知ってる。もう、わたしのことを覚えてないんだよね」

 

 美少女の顔が落胆する。

 

「小学校の頃から高校二年の夏休みまで、ずっと一緒にいたのに……うぅん、覚えていないんじゃなくて、『知らない』んだね」

 

 ……なんだと?

 

 小学校の頃から高校二年の夏休みまで、ずっと一緒にいた?

 

 それに、『俺が知らないと言うことを、どうして知っている』?

 

「……君、名前は?」

 

 名前を聞けば何か思い出すかもしれない。

 

 

 

 

 

「『ナカツ・チサ』だよ」

 

 

 

 

 

 ナカツ・チサ。

 

 やはり聞き覚えのない名前。

 

 しかし……

 

 ――帰り道、転入生、ショッピングモール、フォン・ブラウン、大喬ガンダムアルテミー、バウンド・ドック、タコさんウインナー、付き合っていない、ガンダムAGE-3オービタル、ガンダムグレモリー、鉄華丼、テスト勉強、ガンダムマーカー、喬美麗頑駄無……

 

 

【挿絵表示】

 

 

 ――どぐんっ!!

 

 

「うっ、ごぼっァ……!?」

 

 途端、記憶の掘り返しを拒絶したのか、脳が破裂するような衝撃が迸り、ナカツさんの前にも関わらず恥も外聞もなく膝を着いて嘔吐した。

 

「お、おいリョー!大丈夫かよ!?」

 

 慌ててイツキが駆け寄ってきて、俺を支えてくれる。

 

 ……なんだ、今のフラッシュバックは?

 

「あなたがリョウくんの幼馴染みなんだね。タツナミ・イツキさん」

 

 するとナカツさんは、イツキにも目を向けた。

 

「なっ、なんでお前があたしの名前を知って……!?」

 

 答えてもいない名前と、俺との関係に、イツキはぎょっとする。

 

「うん。だって、あなたはわたしの『オウサカ・リョウマの幼馴染み』って役割の、"代わり"だもの」

 

「なんだよ……"代わり"ってなんだよ?あたしは誰の代役でもねーぞ!いい加減なこと言うな!」

 

「知らないなら、知らなくていいよ」

 

 けどね、とナカツさんは立ち去り際に、

 

「わたし達は、"リョウくん"を必ず取り戻す。あなたなんかに、壊させはしない」

 

 それだけ言って、会場を後にしていった。

 

「待て!待てよおい、お前!」

 

 イツキがナカツさんを追いかけようとしたが、「待てイツキ」と止めさせる。

 

「でもリョー!あいつ……」

 

 とりあえず立ち上がって、と。

 

「いいんだ、俺なら平気だ……悪い、水を頼む」

 

「う、うん……」

 

 イツキはその辺のテーブルから冷水の入ったグラスを持ってきて、差し出してくれるので受け取り、咽ないように少しずつ飲む。

 

「はー……はー……ふぅ」

 

 嘔吐した不快感が幾分かマシになる。

 

「どうなされましたか」

 

 俺の嘔吐騒ぎを聞き付けたか、アンリさんがハイヒールを鳴らしながら駆け寄ってきた。

 

「あぁ、すみません。少し粗相を……」

 

 すると、俺のすぐ足元に吐瀉物がぶちまけられているのを見て。

 

「係の者にすぐに清掃させます。ご気分が優れないのなら、医務室へご案内いたします」

 

「いや、大丈夫です。少し吐き気がしただけですから」

 

「それならよろしいのですが」

 

 程なくして、ホールスタッフが清掃用具を手に現れ、吐瀉物をササッと処理してくれた。ごめんなさい、ありがとうございます。

 

「しかし、今のは何だったんだ?」

 

 ケイスケ先輩は、ナカツさんが去った会場の出入り口を見やる。

 

「オウサカくん、知り合い……じや、無いんだよね?」

 

 マユちゃんも、俺のナカツさんの関係が何なのかを測り兼ねているようだ。

 

「……少なくとも、俺はあの人のことを覚えていない、と言うか知らない、全くの初対面のはずだ」

 

 そう、全くの初対面のはず、なんだが……

 

 知らないのに覚えている、と言う矛盾した記憶。

 

 そして、誰かの記憶の断片、その奔流。

 

 その誰かの記憶を確かめようとしたら、脳がそれに拒否反応を起こした。

 

「アマネ、今の人って誰か知ってる?」

 

 シノミヤ先輩が、ゴジョウイン先輩の人民なら知っているかと訊ねるが、

 

「いいや、私も知らん。オウサカに何が用があるとだけは聞いたのだが……」

 

 そうそう都合よくはいかないか。

 

「タツナミさんの"代わり"……リョウくんを必ず取り戻す……壊させはしない、ね……」

 

 ミカゲさんが、先程にナカツさんが言っていた言葉を反芻している。

 普通なら、新手の信教の手先か、架空と現実の区別が付かなくなったイタい娘ちゃんのどちらかだが……

 

 ナカツ・チサという名前を聞いた途端、俺の記憶が矛盾したのだ。

 

 2649年もの異世界転生を繰り返した"俺"が憑依した、今ここにいる『贋作』のオウサカ・リョウマと、

 

 "俺"が憑依する以前の、イツキと幼馴染みの関係にあっただろう、本来の『ガンダムブレイカー・シンフォニー』と言う二次創作小説のオリ主――『原作』のオウサカ・リョウマと、

 

 ナカツさんと幼馴染みの関係にある……恐らくは、"俺"じゃない誰か――ドッペルゲンガーかもしれない、『もう一人の』オウサカ・リョウマ。

 

「どうもこれは……他人事じゃ無さそうだ」

 

 

 

 楽しいはずのパーティは、不穏と謎の種を植え付けて終幕を迎えたのだった。

 




 今回登場のガンプラ『ザクシュヴァルツクーゲル』の画像や詳細設定はこちら↓(ガンスタグラムへのジャンプです)

 https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22014284
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