ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK 作:さくらおにぎり
クルージングパーティでのバトルロワイヤルを終えた、その日の晩。
晩飯はパーティで食べてきているので、晩飯のことは考えずに、あとは寝るだけの体勢を整えてから、ベッドに寝転ぶ。
「さて、と……」
改めて、あのナカツ・チサと言う美少女とのやり取りを思い出す。
あの時に"視"えたフラッシュバック――走馬灯と言うべき、記憶の奔流と、その脳の拒否反応は何だったのか。
もう一度、その記憶を思いだそうとして――
「――うっ」
やはりダメだ、脳が拒否反応を起こし、強烈な吐き気を催した。
慌ててトイレに駆け込んで、びちゃびちゃと。
流したあとは、台所で口をすすいで、麦茶を一口。ふぅ。
何だろうな、この、"逆自白剤"とも言うべき反応は。
仕組みはよく分からんが、頭の片隅を掠めるこの記憶は、どうしても俺に思い出して欲しく無いらしい。
イツキが幼馴染みだった"俺"と言う"オウサカ・リョウマの記憶と、ナカツさんが幼馴染みだった"もう一人の"『オウサカ・リョウマ』の記憶が、"俺"の中で混在しているのか?
それに、ナカツさんは『壊されたわたし達の世界を取り戻す』と言っていた。
その"壊された世界"を取り戻すためには、オウサカ・リョウマを取り戻す必要があるらしいが……ナカツさん達のグループの集団幻覚だ、と切って捨てるには早計だ。
――例えば俺が、ナカツさんと恋人同士になったとしよう。例えばな、例えば(大事なことなので復唱)
精神的だけでなく、肉体的な繋がりを彼女と持てば、壊された世界――こことよく似た並行世界にいたらしい、"もう一人の"オウサカ・リョウマとしての記憶が戻るのだろうか?
もしそうなったとすれば、今ここにいる"俺"の記憶や魂はどうなるのか。
これまでの数千年の記憶をそのままに、"もう一人の"オウサカ・リョウマの思い出が上書きされるのか、それとも……オウサカ・リョウマの肉体に憑依した"俺"と言う自我が消えてしまうのか。
一度テーブルの椅子に座って。
「――女神様、いますか?」
女神様へのリンクを試みる。
"俺"が持つ権能のひとつとして、短時間だけ女神様とのリンクを繋ぎ、通話することが出来る。
ようは、電波のいらない電話――テレパシー念話みたいなもんだな。声を出す必要はあるけど。
・・・
数秒のコール音の後に、女神様とリンクした。
『都合が悪くなれば証拠隠滅して何事も無かったかのように振る舞うようなクソ虫の作品を誰が評価すると思っている!評価やコメント、ブクマ、いいね!を強請る前にまず手前の行いを悔い改めろ!!』
……なんか知らんけどめっちゃ怒ってる。
多分、また異世界転生チートハーレム無双悪役令嬢追放溺愛ざまぁもう遅い飯テロスローライフをご希望になられた転生者でも出てきたんだろうけど。
「もしもし?女神様?聴こえてますか?」
『私にそんな発言をして良いと誰が命じた!クソ虫がベラベラとクソを垂れるな!今お前がやるべきなのは!その誹謗中傷によって傷付けられたユーザーに誠意を持って謝罪することだ!そのクソよりも価値のない頭に詰まったものにちゃんと覚えさせておけ!!』
「えーっと、俺です俺、『ガンダムブレイカー・シンフォニー』の世界に転生して、後腐れなく最後の人生を……」
『お前が誰なのか教えてやる!お前はクソ虫だ!この世界で最も劣った生物だ!他人の創作活動を妨害したどころか!そのモチベーションすら潰した害悪だ!正に生きている価値のない存在だ!!』
「め、女神様?」
『お前がどんな作品を創作していたかなど重要じゃない!お前のその行いが他人を傷付け、疎ませ、遠ざける!作品がじゃない、お前という人間がそもそも評価されるに値しないと言っているのだ!そんなことも分からんのがお前がクソ虫である証拠だ!分かったか!!』
「あ、あの……」
『よし。ならばさっさと誹謗中傷をしたユーザーらに土下座行脚をして、自分の全てのアカウントを削除してこい!異世界転生はそれからだ!!』
「…………」
『フゥー……あら、リョウマくん。どうされましたか?』
俺とのリンクに気付くと、即座に女神様らしい柔らかいボイスで反応してくれる女神様。
……うん、今のは何かの聞き間違いだ、そうに違いない。
「あぁ、こんばんは女神様。ちょっと相談したいことがあるんですが」
『無難なゴールインを目指すなら、アサナギ・マユさんか、タツナミ・イツキさんがオススメですよ。ゴジョウイン・アマネさんと、シノミヤ・トモエさんの先輩ヒロイン二人は家の問題もあって攻略難度が高いです。また、ミカゲ・トウカさんやホシカワ・ナナさんは、周囲からの嫉妬ややっかみから守らなくてはならないので、攻略するのなら茨の道ですよ?』
「誰がギャルゲーの攻略ルートを教えてくださいと言ったんですか。そうじゃなくてですね……」
俺は、今日のクルージングパーティでの出来事――特に、ナカツさんについての事を話した。
すると、それを聞いた女神様は『ふむ……』と考え込む。
『妙ですね、ナカツ・チサさんらがいた時間軸――つまり、"本家"とも言うべき『ガンダムブレイカー・シンフォニー』の世界は一度破壊され、エタっている……既に時が止まっているはずです』
"本家"?
つまり、ナカツさんがいた時間軸が『原作』に当たり、今俺がここにいる『ガンダムブレイカー・シンフォニー』の世界は、分家――むしろこちらが派生系なのか?
『何かしらの要因で、『原作』の世界が干渉しているのでしょうか……』
「ん?そうなると、"俺"が『オウサカ・リョウマ』に憑依する以前……"小学校四年生までイツキと一緒にいた"オウサカ・リョウマは、どう言う扱いになっているんです?」
俺としては、こっちが『原作』だと思っていたのだが……
『パラレルワールドですね。『ナカツ・チサさんが幼馴染みだったオウサカ・リョウマ』と、『タツナミ・イツキさんが幼馴染みだったオウサカ・リョウマ』と言う、それぞれ別の時間軸に隔てられていて、"あなた"が憑依したのは後者の方です。"あなた"が憑依しなかったオウサカ・リョウマくんは、既に別の時間軸に分岐して時が進んでいます』
おいおい話がどんどん複雑になっていくな、読者の皆様大丈夫?ついてこられる?
「えーとつまり、何者かによって世界を壊されたのは、ナカツさんがいた方の時間軸だった、と言うことで、相違無いですね?」
『イグザクトリーです。ナカツ・チサさんがいた方の時間軸がエタッてしまったので、一度"ガンダムブレイカー・シンフォニー"と言う二次創作世界をコピーし、ナカツ・チサさんとは異なる幼馴染みヒロイン、タツナミ・イツキさんを新たに加えた世界が、"あなた"のいる世界――つまりは『贋作』ですね』
ふむふむ、コピーされた世界のオウサカ・リョウマの幼馴染み役がイツキで、そこに"俺"が憑依することでさらに世界が枝分かれした、ということだな。
「……ちなみに女神様、その『原作』を壊した何者かって言うのは何なのか教えてくれたりします?」
『ですが、何故そこに『原作』のキャラであるナカツ・チサさんがいるのか……いいえ、恐らくは『原作』の準主役級、加えて読者から応募されたオリキャラもいると見てもいいでしょう』
……スルーされた。まぁ、知ったところで俺がどうこう出来るような話では無いだろうしな。
「とりあえず現状で俺に出来ることは、ナカツ・チサさん達『原作』の一派には極力関わらないことでしょうか?」
『そうですね。仮にもしも彼女らと接触することがあったとしても、今の"あなた"の意志を強く持っていてください。今の"あなた"の肉体には、『原作』のオウサカ・リョウマの記憶が戻りかけているのでしょう。"あなた"が『原作』の記憶を思い出せないように、無理に思いだそうとすると頭痛や嘔吐感を催すようにセーフティはかけていますので、決して体調不良ではないことは予めご了承を』
ごめんなさい女神様、既に何度か吐いています。
記憶の違和感を感じると頭痛を感じたり、"壊されている"記憶を思いだそうとすると吐き気がするのは、この肉体にかけられていたセーフティだったのか。
『こちらも、『原作』が干渉してきた要因究明を急ぎますので』
「分かりました。では、そろそろお暇しますね」
『はい、それでは』
・・・
女神様とのリンクが切られ、意識が現実世界に戻る。
……ふぅ、魂が肉体に繋がっている状態で、天界に接続すると脳が疲れちまうぜ。
女神様の言うことが正しい認識なら、『原作』の"ガンダムブレイカー・シンフォニー"と言う小説作品は、何者かに破壊されたと言う。
確か……最終回を目前に作者が突然エタり出して、それを境に更新がされなくなった作品であるとも言っていたはずだ。
……この二つを掛け合わせると、作者がエタッた理由と言うのは、"何者か"によって作品を壊されたから、と言うことだろうか。
壊された、と言うことは恐らくその"何者か"は悪意の元に――それを隠しもせず、自らが行ったと犯行声明を上げるようにだ――何かしらの嫌がらせ行為か、それに準ずる行為に走ったと言うことだ。
だが……たかが一人の、顔も分からない相手の、論も証拠も実も力もない戯言……"しょーもない"ことで、せっかく連載してきた作品、それも最終回直前と言う一番盛り上がるところで打ち切るなんて出来るだろうか?
よほどその作者のメンタルが豆腐だったのか、それともその人にとってよほどショックなことをしたのか。
うーん……相手を絶望感を与えるために有効な手段と言えば、『持ち上げてから突き落とす』だな。
応援したりなんなりして作者の心を許させて、最終回直前と言う絶好のタイミングで裏切った、と言ったところか。
考えるだけで胸糞悪い上に不愉快極まりないな、それを企てて実行に及んだそいつはよほど性格が悪いと見える。
……まぁ、誰が壊しただの、壊してないだのはどうでもいいとして。
作品を壊されて――"俺"が女神様の厚意によってオウサカ・リョウマと言う"主人公"に憑依させてもらうに当たって、世界観もまた一新されたらしい。
そうして一新された世界で、かつて幼馴染みだったのが、タツナミ・イツキと言う男友達みたいな女の子だった。
思えば、イツキに対する記憶が微妙に曖昧だったのは、オウサカ・リョウマと言う存在の肉体に、微かながらもナカツさんの記憶(あるいは残留思念か?)が残っていたのか、俺が憑依するよりも前にナカツさん達『原作』の一派が既に干渉しつつあったのか。
再構築された世界に干渉するほどだ、かなり強い力が働いていると言ってもいいだろう。
『原作』の一派の動向が気になるところだが、ジタバタしていても仕方ない。
向こうが何をけしかけてこようとも、とりあえず女神様に丸投げしとけばえぇやろ(転生者特有の脳筋思考)。
よし、今日のところはゆっくり休もう。
部屋に戻って灯りを消して、おやすみ。スヤー!
……と思ったら、RINEの通知が届いた。
あぁん!?俺が疲レてンのが分かラねぇのかよ!(巻舌)
軽くキレそうになりながらも、誰からのメッセかとスマホを確認したら。
トウカ:こんばんは。今って話して大丈夫?
……ミカゲさんからメッセって珍しいな?普段は部活間での連絡でしかこのやり取りを使うことが無いんだが。
少し落ち着いてから。
リョウマ:大丈夫だ、問題ない
トウカ:それはフリと見てもいいのかしら。
リョウマ:押すなよ!絶対押すなよ!?えぇか!?押したらあかんからな!
トウカ:後ろから蹴り倒せばいいのね。
トウカ:茶番はこの辺にして、要件を伝えていい?
リョウマ:どうぞどうぞ
トウカ:今月中にどこか、予定の空いている日はある?
リョウマ:特に何もないから、どこも空いてるな
トウカ:それなら、28日でいい?私のガンプラのことで相談したいことがあるの。
リョウマ:グレモリーの改造とか、そう言うアレか
トウカ:そう。前のパーティの時に、力不足を痛感したから。
リョウマ:なるほど理解した。それで俺は何をすればいい?
トウカ:28日に、前に行ったガンダムベースでいい?時間帯も前と同じ、九時に駅前で。
リョウマ:オK。アサナギさんやイツキも呼ぶか?
トウカ:アサナギさんは帰省するからパス、タツナミさんは返事待ちよ。
リョウマ:この分なら、イツキと三人になりそうだな
トウカ:それともう一つお願いがあるの。シノミヤ・トモエ先輩に繋いでほしいのだけど。あの人に相談事があるの。
リョウマ:シノミヤ先輩?確かに俺はあの人と連絡先は交換してるけど、無断で教えるわけにはいかないし、ちょっと聞いてくる
一旦、ミカゲさんとのトーク画面を閉じて、シノミヤ先輩個人とのやり取りに切り替え、無料通話ボタンを押す。
数秒のコール音が繰り返されている内に、適当なペンと紙を手元に用意して、と。
『はい、もしもし?オウサカくんね?』
「もしもし、こんな夜にすみませんシノミヤ先輩」
『あら、私の声が恋しくなっちゃったのかしら?オウサカくんも甘えん坊さんね』
「そうなんです、寝る前にどうしても先輩の声を聴きたくて……ってそうじゃなくてですね?」
『違うの?つまんなーい』
「そんなブーたられましても。それで……ウチの部員のミカゲ・トウカさんが、シノミヤ先輩に繋いでほしいって言ってるんですが、RINEのID教えてあげてもいいですか?」
『ミカゲさんに?えぇ、構わないわよ』
「そう言えば、いつの間にか先輩とミカゲさん、仲良くなってませんか?」
『今日のパーティのバトルロワイヤルで、彼女と色々話したし、一緒に戦ったからかしらね。ID教えるから、メモの準備はいい?』
「どうぞどうぞ、準備出来てます」
シノミヤ先輩のRINEのIDのナンバーを教えてもらって。
『それでオウサカくん、身体の方は大丈夫?』
「大丈夫ですけど、どうしたんです?」
『ほら、さっきパーティ中に、ナカツさん……だったかしら、あの人の前で吐いちゃったでしょう?』
「あぁー、ご心配おかけしてすいません。今はもう落ち着いてます」
嘘です、ほんとはさっきもゲロってました。
『ならいいのだけど。オウサカくんって、意外と虚弱体質?』
「至って健康体のつもりだったんですけどね」
……あれは、虚弱とか健康体とかは関係無いらしいが。
「それじゃぁ、これからミカゲさんに連絡先を教えますんで、すぐに彼女から連絡が来ると思います」
『はーい、待ってるわね』
通話を終えたら、ミカゲさんのトーク画面に戻って。
リョウマ:許可が降りた
シノミヤ先輩のIDナンバーを書き込んで送信する。
トウカ:ありがとう。これからちょっとシノミヤ先輩と連絡を取るから。
リョウマ:じゃ、次に会う時は28日にってことで
トウカ:また28日に。こんな時間からメッセージを返してくれてありがとう。
リョウマ:どういたしましてどういたしまして。
互いに「お休み」のスタンプを貼り合って、やり取りは終了。
イツキとのコンタクトはまだ取れていないようだが、まぁ風呂にでも入っているのだろう。
よし、今度こそお休み。スヤー!
28日。
今日はミカゲさんとガンダムベースへ行く日だ。
連絡待ちだったイツキも一緒だと思っていたのだが、意外なことにイツキもパスすることになったと、昨夜にミカゲさんから聞かされた。
何か予定でもあったのかとミカゲさんに訊いてみたところ。
「今はオウサカくんと会えないのだそうよ」とのこと。
何やら、俺と会えない理由があるらしい。
ミカゲさん曰くは「みんなと会えない」ではなく、俺を名指しして会えないと言ったらしい。それもどうやら、体調不良とかそう言う話では無いようだ。
……何だろう、いつものイツキなら体調不良でも無理を押してまで俺たちと遊ぼうとするはずなのに、急にそんなことを聞かされたら不安になるな。
一応、俺からもイツキにそれとなくメッセージを送ってみたが、既読スルーされている。今朝になってもまだ連絡が返ってこないのはさすがに少しおかしい。
明らかに避けられているのだ。
思い当たる節があるとすれば……この間のクルージングパーティの時――それも、ナカツ・チサさんのことだろう。
『原作』のオウサカ・リョウマの幼馴染みを自称するナカツさんは、『"俺"が憑依したオウサカ・リョウマ』を自分の幼馴染みであるかのような口振りだった。
それはまるで、イツキに向かって「お前は偽物だ」と言うように。
イツキはそれに対して「あたしは誰の代役でもない」と言ってのけていたが……やはり、思うところが無かったわけではなかったのだろう。
今度、正面切って話をすべきだな。
――"俺"が、『イツキの知っているオウサカ・リョウマではないこと』を。
まぁ今日のところはミカゲさんと二人でデートと洒落込むとするか。
前と同じく、10分前に到着するように駅前広場へGOだ。
ミカゲさんは待ち合わせ時間に少し近付けてくる傾向がある。
なので、俺は少し待つくらいでちょうどいいくらいだ。
ってなわけで余裕ぶっこいて呑気にテケテケテケテケと歩いていたら……
まさかのミカゲさん(美少女モード)が先に来ていた件について。
先に来ていたのはまぁいいのだが……何やら身形のいいおじさんがミカゲさんの前にいる。
なんだありゃ、ナンパにしちゃ随分と歳上だし、やけに下手(したて)に出ているな?
しかもミカゲさん、すんごい迷惑そうな顔してるし……
さては女の子の高額求人だなオメー。
あの、たまに街中で見かける、大型トラックの車体にデカデカと広告を見せびらかしているアレ。
まぁいいやさぁ行くか。
「おはようグッドモーニング、ミカゲさん」
「あっ……オウサカくん」
パッとミカゲさんが身を翻して俺の一歩後ろに隠れる。
「さっきからずっとしつこかったのよ……」
「は?(威圧)」
侮蔑と殺意を込めておじさんに威圧。
「オーケー分かったちょっとそこの交番まで来いやそれが嫌ならリアルファイトでもえぇんやでさんにいいちで選べさんにいいちよし死ね」
ゴキゴキベキベキと拳を擦り鳴らしておじさんをさらに威圧。
「まっ、待ってください待ってください!」
慌てて両手を上げて見せるおじさん。
「私、こう言うものでして……」
懐から名刺を差し出して来たのでとりあえず手に取ると。
「……芸能プロダクション?」
株式会社の名前からしてなんかそれっぽい。
「はい。以前からお誘いしているですが、良いお返事がなかなかいただけなくてですね……」
おい、そんな「彼氏さんなら分かってくれますよね?」みたいな目で見るな、腸が煮えくり返る。
「私にその気はありませんってもう三回は言ってるんだけど」
三顧の礼かよwwwしかも三回とも撃沈してるしwww
「と、本人は言ってますけど?まさか、「はい」と「いいえ」の違いも分からないなんて言いませんよね?」
「いえ……だからそれをこれからじっくり話し合おうと……」
……全然分かってねぇじゃん。三顧の礼で孔明先生を迎え入れようとした『劉備』だってそれくらいの区別はつくぞ。
「――まぁ、町を歩くだけでその辺の虫ケラが交尾をしようとするくらい可愛い女の子がいて、それを手籠めに出来ればあなたの上司からの覚えもおめでたいでしょうけど」
「へ?いや、そんなつもりは……」
するとミカゲさんからも、
「あぁ、やっぱり"そう言う"お仕事だったのね。やだ、私がそんなところに入ったら、他のお姉さん達がみんなクビになってしまうわ。だって私しか指名されないもの」
髪をサラリとかき上げてみせるミカゲさん。いかにも"そういう経験"が豊富そうに見せてるなぁ。
「め、滅相もない!私共のプロダクションに、そのような水商売など一切ありません!」
「でも、提携している『他の場所』に紹介しないとは言ってませんね?売れなくなったら、外堀を埋めて断れないようにして……って話はよくありますよ」
実態は知らんけど、想像には難くない。
アイドル卒業後は女優業に転職とはよく聞くけど、そうでない"爪弾き"にされて行くあてのない卒業生らは、水商売に身を堕とすって話は、たまに聞く。
「まぁ怖い、そんな後ろ暗いところと繋がっているプロダクションじゃ、安心して活動出来ないわ」
ミカゲさんも悪ノリしてる。
「で、ですから……」
っと、そろそろ搭乗予定の特急がくる頃合いだな。
「ミカゲさん、"暇潰し"はもういいか?」
「えぇ、これっぽっちも面白くなかったわ。行きましょうか」
興味が失せたと言うように、踵を返して駅のホームへスタスタと。
「え……ちょ……待って、話だけでも……!」
切符を購入して、改札を潜って、特急電車に乗り込んだら。
「朝から大変だな、あんなのに声かけられて」
「えぇ。毎回毎回本当に面倒でならないわ」
心底不愉快そうにクソデカ溜息をつくミカゲさん。
「その気は無いと言っているのに、一体私のどこを見てその気にさせようとしたのかしらね、……目線だけで虫酸が走る」
こっわ、虫酸が走るとか日常的に使う人、初めて見たわ。
「まぁまぁ、抑えて抑えて。せっかくの美人が台無しだぞ」
「美人を台無しにさせたくないなら、もう少し口説き方を考えてほしいものね」
自分が美人って自覚あったのか。……いや、自覚してなければ、学園でわざわざ"地味子ちゃん"を演じたりはしないか。
いかん、話題を変えよう。
「そう言えばこの間、シノミヤ先輩に相談があるから連絡先教えてほしいって話をしていたが、何の相談……あ、いや、デリケートなら話ならいいんだ、すまん」
「何を勘違いしたのか知らないけど、ガンプラの相談よ」
あっぶねー、地雷踏みそうになったけど、そうじゃなくて良かった。
「シノミヤ先輩にガンプラの相談をして、俺にも相談か?」
「他に相手がいないじゃない。サイキ先輩は歳上の男性だし、慣れてきたとは言え、二人になるのはちょっとね」
「……ちなみに、俺もサイキ先輩と同じ男なんだが?」
もし俺に魔が差したりしたらどうするつもりなんだ。
「あら、オウサカくんは私に何かする予定でもあるのかしら」
「無いなぁ」
「でしょうね」
信用されてるんだか、男として見られてないんだか、個人的にはちょっと複雑だな。
「大丈夫よ。オウサカくんのことはちゃんと異性として見ているつもり。その上で信用はしてるから」
す、鋭いな……
「……まぁ、信用されているならいいか」
ガタンゴトン電車に揺られて、前と同じ時間帯にガンダムベースに到着。
少しだけ行列の中に混じって、開店を待つ。
開店してから。
「オウサカくんは、何か物販コーナーで買うものはある?」
「いや、特に買う物は予定してないし、ミカゲさんの都合に合わせるよ」
「そうなの?じゃぁ……」
すると、物販コーナーには寄らずに、そのまま製作ブースの方へ向かう。
席の一角を確保すると、相席で座り合って。
「昨日、シノミヤ先輩にも相談しながら、グレモリーの改造案を色々と試していたのよ」
ミカゲさんは、大きめのトートバッグから、ガンダムグレモリーのパッケージを取り出し、中を開けると、ビニールクッションに包まれた、グレモリーの姿が見える。
それだけではない、グレモリーのものとは違うパーツや塗料の小瓶、ガンダムマーカーなども並んでいる。
鋭利な刃のようなウイングユニットに、得物もバトルアンカーではない、禍々しい死神の鎌のような武器もある。
塗料もダークブルーやパープル、すみれ色といった寒色が揃えられており、まさにファンタジーの悪魔(デーモン)のような機体になりそうだ。
先日にシノミヤ先輩と一緒に買い揃えたりしたのだろう。
「これは?」
「グレモリーをどう改造するかの具体的な形は決まったのだけど、塗装がまだで。……厚かましいことを承知でお願いするわ、手伝って」
「なるほど」
ガンダムベースに来たがっていたのは、製作ブースのエアブラシが目的で、俺が呼ばれたのはその塗装を手伝ってほしいのと、あとは……"虫除け"も兼ねているんだろうな。
このオウサカ・リョウマの容姿はそれなりに整っている方だとは思う。
ミカゲさんほどの美少女と釣り合うかどうかを判断するのは周りの勝手だが、少なくとも彼女が一人でいるよりはナンパが減るのは間違いない。
まぁいい、この傍から見る分には、学生らしい清いお付き合いをしている美男美女カップルにナンパを仕掛けるような虫ケラが寄ってくるなら、彼氏面をしておけばよかろう。
「それで、どこにどの色で塗装するのかは決まっているのか?」
「一応、プランを紙に書いてきたから、これを参照して」
ミカゲさんはトートバッグからクリアファイルを、クリアファイルからルーズリーフを取り出して、テーブルの上に置く。
ふむふむ……これなら分かりやすいな。だが、塗装を始める前に逐一確認を取っておいた方がいいか。
「よし、なら早速始めるか」
「お願いね」
というわけで、俺とミカゲさんの共同作業が始まった。
共同作業とは言っても、ミカゲさんの事前の下準備のおかげで、各パーツにエアブラシ塗装をした後は乾燥を待つだけとなった。
乾燥後は組み立ててからクリアーを吹き付け、その乾燥後に可動部のクリアランスを確認すれば完成するだろう。
早くも手持ち無沙汰になったところで、併設されたガンダムカフェで購入した飲み物を片手に雑談だ。
「新しいグレモリーが完成した後は、バトルもするんだな?」
「完成した時間帯にもよるわね。遅くても17時くらいには店を出ないと、地元に帰って来た時には暗くなるでしょうし」
確かミカゲさんの自宅は、駅近くのショッピングモールの裏手側にある、古物商店を兼ねたところにあったっけな。
昼食前頃になってから、塗装したグレモリーのパーツを一旦回収してから、ガンダムベースの近くにある飲食店で食事を取り、その後で再度ガンダムベースの製作ブースに立ち入り、今度は塗装したパーツの組み立てだ。
ミカゲさんが機体の上半身とウイングユニット、俺が下半身と大鎌の組み立てをそれぞれ担当することで、組み立て時間を半減、組み立てたらすぐにまた塗装ブースでつや消しクリアーを吹き付ける。
そうしてツヤが消えれば。
「……よし、関節や武装の可動も問題ないわ。完成よ」
可動部のクリアランスを確認して、完成だ。
「手伝ってくれてありがとうね、オウサカくん」
「どういたしまして」
この改造プランは、複雑な加工やパテ盛りなどを行わず、既存のキットなどをベースに、3mm口径軸を活かしたミキシング作品だ。
機体を構成しているのが、ガンダムフレームであることも幸いして、パーツ数も多くはなかったし、どうにかこの日の内に完成することが出来た。
「それじゃぁ、早速バトルにしようか」
「えぇ。試運転も兼ねるから、ミッションモードの軽めのものをお願いね」
製作ブースからバトルブースへ移動し、二台分のシミュレーターを使ってミッションモード、乱入設定もOFFに。
選択したミッションは『落とし前』
達成条件は、ジャスレイのケツア号……ゲフンゲフン、『黄金のジャスレイ号』の撃沈だ。
これは確か……タービンズに対して執拗かつ間接的な妨害を繰り返すJPTトラストに、ついに業を煮やした鉄華団は、彼らの後ろ盾であるテイワズを離脱し、ただの火星の一武装組織として報復のためにJPTトラストを襲撃する場面を再現……ってところか。
全く、ぁんのケツアゴ・ドノミチコロス(ジャスレイ・ドノミコルス)の腐れ外道っぷりと小物ぶりにはほとほと呆れたね、そりゃオルガだって「まぁ……これっぽっちも面白く無かったがな」ってクソデカ溜息混じりに言うわけだよ。
俺はその時、傭兵として鉄華団と一緒に戦っていたけど、勝ったあとの虚しさは筆舌に尽くし難いものがあった。
……思い出語りはこの辺にして、さて、出撃だ。
「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」
「ミカゲ・トウカ、『ガンダムグレモリータナトス』、出るわ」
ゲートを飛び出したオリジネイトと、新たなガンダムグレモリー――グレモリータナトス。
タナトスと言うと確か、ギリシア神話の死神だな。
それと……フロイトの精神分析用語では、『死への誘惑』と言う意味合いもあったかな?
どちらも、死神を彷彿とさせるグレモリーに似合う銘だ。
「ミカゲさん、聞こえるな?」
「えぇ、感度良好よ」
「敵の数は多いが、そこまで強くはないはずだ。俺達なら余裕だろう」
「問題ないわ、慣らすだけ慣らしたら、あとはいつも通りにやるから」
すると、前方に敵対反応が複数現れる。
灰色と紫色のツートンカラーのユーゴーやマン・ロディに、百錬、百里と言ったテイワズ系MSの群れ。
各々がライフルを撃ちまくってくるが、オリジネイトの機動性なら問題なく躱せるし、距離がある内からの射撃などグレモリータナトスのナノラミネートコートには掠り傷にもならない。
「それじゃぁ、お互い頑張ろうか」
「えぇ」
頷き合うなり――オリジネイトとグレモリータナトスは突進、雲霞のごとしMS隊へ突撃する。
ナノラミネートアーマー持ちのこいつらに、ビーム射撃はあまり有効ではないので、もっぱらヒートブレードによる格闘戦をしかけつつ、威嚇と牽制程度にバルカンとレールガンを撃つ。
ユーゴーの一機がバスターソードで斬り掛かろうとしてくるが、ひらりとオリジネイトを翻させ、すれ違いざまに頭部を一閃。ヘキサフレームは頭部にコクピットがあるからな。
百里が一撃離脱戦法を仕掛けようとしてくるが、それをやり過ごしたあとは、背面のスラスターに向かってレールガンを撃ち込む。
ナノラミネートアーマーの泣き所であるスラスター部は破壊され、姿勢制御出来なくなったところを近付いてヒートブレードで息の根を止める。
ミカゲさんの方は――うん、余裕そうだな!
ウイングユニットによって強化された機動性を以て、グレモリータナトスはマン・ロディ達に瞬時に接近し、長大な重刎首鎌――『タナトスサイズ』を振るい、ブルワーズ由来の丸々とした重装甲を、紙細工を破り捨てるかのように容易くズタズタに斬り裂いていく。
時折、腕部の機関砲を連射して、ユーゴーや百錬のライフルを撃ち抜いて破壊し、即座にすれ違いざまにタナトスサイズで一閃していく。
圧倒的じゃないか、ミカゲさんは。
これまでのような、ナノラミネートコートの防御力で強引に接近して格闘戦に持ち込むような力任せな戦い方ではない。
機関砲で的確に牽制しつつ、機動性を存分に活かして急速接近、接敵した目標をタナトスサイズで確実を仕留めていく……そんな感じだ。
輸送船を捕捉すれば即座に突撃、懐に飛び込んでタナトスサイズのブレード部分を変形させて槍のように突き込み、内部から抉り裂いて撃沈させる。
鎌としてだけでなく、槍としても使えると言うのは、ガンダムデスサイズのビームサイズを参考にしたのかもしれないな。
「――まぁ、こんなものでしょ」
そう呟くと、次の獲物はどこだと言わんばかりに次々にJPTトラストのMS隊に襲いかかる。
なんかこう……ストレス発散するみたいに暴れ回ってるなぁ。
『デブリだ!ヒューマンデブリどもを全部出せ!』
ジャスレイの指示により、残存している艦からさらにマン・ロディが現れるが、今更頭数が増えたところで、所詮は戦力の逐次投入に過ぎない。
程なくしてMS隊のほとんどが壊滅、最後に残っていた旗艦である黄金のジャスレイ号も、グレモリータナトスに取りつかれ、格納出来ないブリッジに、
『まっ、待て!金じゃねぇならなんだ、詫びか!?だったら、指の十本でも百本でも詰めてやっからよ、だからっ、ここはっ……』
容赦なく、タナトスサイズを叩き込んだ。
黄金のジャスレイ号、撃沈。
『Mission clear!!』
無事、ケツアゴに落とし前もつけたところで、ミッションクリアだ。
「お疲れさん」
「お疲れ様」
互いに短く労い合う。
なんかいいな、こう言う、言葉が少なくてもお互い気が合っているようなやり取り。
他の利用者のためにすぐ筺体を空ける。
ガンダムベースを出た頃にはもう日が傾き始めた頃、今から電車に乗って帰ればちょうどいいくらいだ。
行きと同じく、特急電車に乗ろうと思ったのだが、
「普通電車で帰りましょう」と、何故かミカゲさんがそう提案してきたのだ。
まぁ別に早いか少し遅いかの違いなので、タイムラグもせいぜい10分くらい、暗くなる前には地元に帰ってこれる。
「今日は付き合ってくれてありがとうね、オウサカくん。……本当にこっちから何もしなくていいの?」
「別に何か施しが欲しくて手伝ったわけじゃないしな」
実は切符を購入する前に、ミカゲさんは「手伝ってくれたお礼に」と、俺の往復の交通費を出そうとしてくれたのだ。
とはいえ別にただ単にパーツをエアブラシで塗装して、組み立てただけだから、俺が何かしたと言うわけではないので、遠慮しておいた。
「何ていうか……オウサカくんって、本当に紳士よね」
「それは褒めてるのか?それとも貶してる?」
「褒めてるつもりよ。……正直、今日のグレモリーの製作の手伝いをしてもらおうと思った時、オウサカくんに何か要求されるんじゃないかって思っていたから」
「……いや、さっきも言っただろ?ミカゲさんが、「私に何かする予定でもあったの?」って訊かれた時、「無いなぁ」って」
ついでに言えばミカゲさんだって「でしょうね」って頷いてたし。
「それはその時の事でしょう?だから、その……もし何かされたとしても、オウサカくんが相手なら……まぁいいかなって」
おいおい、なんか非常に理性に悪いことを言ってますよ。
しかも夏服なせいで肌色率も高いし夕暮れに照らされて妙に艶やかな上に目を逸らしながら恥ずかしそうに言うものだから、もう、もう!(鋼鉄の理性)
「ミカゲさん、そう言うことを男の前で言わない方がいい。普通なら間違いなく都合よく誤解するから」
「ふふっ、冗談よ。そこで都合よく誤解しないのが、オウサカくんが紳士たる所以よね」
おかしそうに小さく笑うミカゲさん。
なんというか……家族以外の男だと、こう言う顔を知っているのは俺だけなんだよな。
ちょっとだけ優越感。
「……別に、本当に都合よく誤解しても良かったのだけど」
何か呟いていたけど、電車の音にかき消されてよく聞こえなかった。
最寄り駅について地元に戻って来たところで、今日のデートは無事終了だ。
「次に会う時は……いつかしら」
「まぁ、その時ってことで」
「そうね。じゃぁ、またね」
「またな」
ミカゲさんがショッピングモールの裏手側に向かうのを見送ってから、俺も自宅への帰路を目指す。
帰りにスーパーで買い物でもしようかと、夕食の算段を考えていたら、街角掲示板に目がついた。
地元の神社で夏祭りが開催されるらしい。
夏祭りか。
……そうだな、イツキを誘ってみよう。
開催日は……八月の四日、ちょうど一週間後か。
それくらいの間が空けば、イツキも少しは心の整理がつくだろう。
そこで……本当のことを話さないとな。
来週の予定を仮定しつつ、スーパーに向かった。