ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK 作:さくらおにぎり
ミカゲさんとのガンプラデートを終えた、その帰りのスーパーで夕食の買い出しを済ませて帰宅した俺は、すぐにスマホを手に取り、RINEを開いた。
トークの相手は、イツキ。
先ほど、掲示板の告知にあった、神社の夏祭りに誘うためだ。
遊びに行くのはもちろんだが、それ以外にも目的は二つほどある。
ひとつは、イツキが「俺に会えない」と言う理由を問い質すため。
そしてもうひとつは、"俺"の正体を明かすためだ。
いつか話さなければならないだろうなぁ、とは思いつつもズルズルと先延ばしにしていたが、予想していなかった形で話すことになるとは思わなんだ。
この夏祭りは、俺とイツキの心の整理と言う間を置いた、ちょうどいい機会だ。
リョウマ:来週、近くの神社で夏祭りがあるらしいから、一緒に行かないか?
リョウマ:その時に、話したいことが色々ある
すると、すぐに既読が付き……少し間を置いてから『OK!』のスタンプが貼られたが、それ以上のメッセージは来なかった。
だが、これでいい。
あとは来週を待つだけだ。
さて、夕食でも作りますか……っとなんだ、またメッセージが来た。
イツキからの返信かと思いきや、ガンプラバトル部のグループホームの方だった。
ケイスケ:業務連絡ー、業務連絡ー。今しがたゴジョウインの方から通達が来たんだが、8/10〜12の三日間かけて行われる静岡の選手権に、俺らが特別招待されたそうだ
ケイスケ:この日にちに予定があって参加出来ないって奴は、自己申告するように
……特別招待ぃ?
何そのご都合主義。
うーん、アレかな?前のクルージングパーティーの縁から招待されたのかな?
まぁいいや、とりあえず返信しとこ。
リョウマ:問題ないです、参加可能です
マユ:わたしも参加出来ます
トウカ:上に同じく。
マユちゃんとミカゲさんの返信はすぐに来たけど、やはりイツキの反応が遅いな、既読はついているんだが。
ケイスケ:よし、今のところはリョウマ、アサナギ、ミカゲは参加だな
イツキ:あたしもオッケーです!
おや、イツキからも返信が来た。
けど、直前の俺とのやり取りと違って、いつもの感じの文だ。
多分、取り繕っているところもあるのだろう。
ケイスケ:よっしゃ、チーム・ビルドシンフォニーは全員参加だな。詳しい内容はまた後日に連絡すっから、とりあえずはゴジョウインに連絡しとくわ
リョウマ:よろしくお願いします
マユ:よろしくお願いします
トウカ:よろしくお願いいたします。
……ミカゲさんだけ律儀な書き方してんなぁ。
よし、今度こそ夕食作ろう。
けど……本当にイツキに、"俺"のことを話してもいいんだろうか?
夏祭りまでの一週間は夏休みの課題の消化に費やしたおかげで、あとはもう憂いなく夏休みを謳歌することが出来るようにしてから。
予定通り、今晩はイツキと二人で夏祭りだ。
まずは普通にお祭りを楽しもう。
で、頃合いを見て二人きりになったところで、本命だ。イツキへの告白じゃないぞ。
時刻は18時の20分前頃、イツキとは現地で待ち合わせ予定だ。
……イツキとは、ちゃんと話せるといいんだが。
神社周辺は既に多くの人でごった返しており、遠くから屋台の食べ物の匂いが漂ってくる。
いいね、この夏祭りって感じの空気。
待ち合わせ場所はこの辺でいいだろう。
スマホで時刻を確認しつつ、イツキを待つ。
五分前くらいになるので、普段のイツキならもう既に来ているはずだ。
うーんやっぱりちょっと不安だな、最悪黙ってドタキャンされるかもしれな……
「おーい!リョー!」
っと、呼ばれた気がしたのでそっちの方を見たら、
浴 衣 姿 の イ ツ キ が い た ん で す け ど !?
「はぁっ、はぁっ……着付けに時間かかっちゃってさ、ふぅっ、……悪いっ、ま、待った?」
「いいや、ちょうど今来たところだ」
着慣れない浴衣で息を切らせて走って来たのだろう、汗に濡れた上気した頬とか鎖骨周りが大変色っぽいです。
「せ、せっかくだから着てきたんだけどさ……どう、かな?」
ここで"馬子にも衣装"とか言ってゲンコツをもらうのがラブコメの基本だが、俺は転生者なので同じ轍は踏まんよ。
「いつもはもっとラフな着こなしだけど、こうしてめかしこむと、まるで別人みたいだな……可愛いって言うより、綺麗だな」
「きっ、きれっ……、そ……そっかそっか!ならばよし!」
うんうん、と大仰に頷いているイツキだが、照れ隠しなのは丸分かりだ、かわいい。
「んじゃ、行こーぜリョー!」
「おぉ、おぉー」
……見た感じはいつも通りだが、やっぱりちょっとぎこちなさが見え隠れするな。
たこ焼き、焼きそば、焼き鳥、焼きとうもろこし、綿飴、かき氷……などなど、とりあえずお祭りのジャンクな定番メニューが食べたいと言うイツキのご要望にお答えするため、お小遣いを折半して買い揃える。
夏のお祭りに限らず、中高の文化祭や学園祭にもこういった粉物がよく並んでいるのは、単価が安いから材料を揃えやすいし、油を敷いた鉄板に材料ぶち込んでソースをぶっかければハイ完成、と言うものが多いから、と聞いた覚えがある。
買い揃えたあとは、境内の邪魔にならない適当な場所に腰掛けて、ムシャムシャだ。
「ん〜っ、うんまっ!この安っぽさがたまんないなー!」
イツキは美味しそうに焼きそばやたこ焼きを罵倒している。
最近だと焼きそばやたこ焼きなんかも冷凍食品で売ってるけど、あれって実際美味しんだろうか。今度食べてみよう。
「美味しく馬鹿にするのはいいけど、口周りが汚れまくってるぞ」
「馬鹿にしてねーし。ってか、せっかくお金出してくれんだから、リョーも食べろって」
するとイツキは爪楊枝をたこ焼きに突き刺すと、そのまま俺の口に突っ込ませてきた。
「んっ、あっふ!?おまっ、あふふっ……!」
熱い熱い熱い熱い熱い!
慌ててペットボトルのお茶を注いで、たこ焼きという名のファイアボールを冷やしてから流し込む。
「……ふぅ。って何すんだイツキ!せめて冷ましてからにしてくれ!」
「あっははは!」
この野郎、笑いやがってからに。
ったくもう、とぼやきながらお手拭きの封を開けると、ソースやら青海苔やらで極彩色を描くイツキの口周りを拭いてあげ、
「え、ひあぁっ!?」
なんともイツキらしくない声を上げながら跳ね上がった。
「なんだよ、口周り拭いてやっただけだろ」
「あ、え……じっ、自分で拭けるっての!」
口を尖らせながらも、イツキはお手拭きで口周りを拭く。その顔と耳が真っ赤になっているのは見なかったことにしておいた方が良さそうだ。
「ったく、リョーが変なことするから、顔が熱くなっちまった」
粉物を食べている最中からかき氷も食べ始めるイツキ。
……なんだ?やっぱりどことなくイツキらしくないな。
しばらく無言でもちゃもちゃシャクシャクと食べていると、ふと境内の一部――広く間取られた位置に、人集りが出来始めた。
「お?なんか始まんのかな?」
綿飴に手を付け始めたイツキは、イベントらしい人集りに目を向ける。
電源や大掛かりな機材を運び込んでいるが、何だか見覚えのあるような……
「あれって、ガンプラバトルシミュレーターの筐体じゃないか?」
「え、マジ?」
四台ほど持ち込まれて、告知ののぼりが立てられ……『ガンプラバトル選手権、開催中!!』とデカデカと主張しているな。
と言うか、縁日にまでガンプラバトルを持ち込んでくるとは、この世界のガンプラバトルの社会的価値高いな……
「ふむ、年齢制限無し、2on2バトル、ガンプラは主催が用意したものを使ってバトルするようだな」
「年齢制限無しか!なら、参加するしかねーな!」
吸い込むように綿飴を口に運んでいくイツキ。いくら綿飴だからってそんな慌てたら喉詰まるぞ。
「いや、年齢制限無しって言っても、こう言う場所だから小学生くらいがメインターゲットだろ」
そんな中に高校生カップルがいたら大人げないだろう、と思ったんだが。
「いんや?大人とかあたしらくらいの奴らも普通に参加してるっぽい」
イツキがそう言ったように、……と言うか、小学生以下が対象のものと、オープンクラスの二部に分かれているからか。
まずは小学生以下の部を終えてから、オープンクラスの部が始まるようだな。
「よしっ、早く行かないと締め切られちまう!行くぞリョー!」
「はいはい、仰せのままに」
いち早く綿飴を食べ終えてゴミを一纏めにしたイツキは、纏めたゴミを俺に押し付けながらも、そのイベントへ急ごうとする。やれやれだぜ。
オープンクラスの方で無事に参加申請した俺達二人は、参加枠が埋まるまで少し待っていたが。
「な、なんか、カップルが多いな……?」
そわそわしているイツキ。
周囲には、明らかにカップルだろう、イチャついた男女二人組みが多い。
「まぁ、傍から見れば俺達も似たようなものだろうさ」
俺はともかく、イツキくらいの美少女と並んでいれば、そう見られるのもまぁ分からんでもない。
「カップル……あたしと、リョーが、カップルか……えへへ」
何やら呟きながら、嬉しそうに頬を緩ませているイツキ。
まぁ嬉しそうなので気にすることもあるまい。
「参加枠埋まりましたー!参加者はこちらでくじを引いてくださーい!」
お、締切だな。
くじ引きを引いて、それに応じたガンプラを使うことになるようだ。
ぞろぞろとくじ引きの列を並び、さぁ俺達二人の番だ。
ビンゴゲームとかでよく使われる、番号付きのボールをガラガラを回して……
イツキは『ガンダムエクシア』、俺は『ガンキャノン』をそれぞれ引き当てた。
「あたしがエクシアで、リョーがガンキャノンなら、前衛後衛がハッキリしてていいな」
「俺のガンキャノンが白兵戦して、イツキのエクシアがそのフォローだな」
「なんでそこでガンキャノンが白兵戦すんだよ!?アムロかよ!」
俺の真顔のボケに、イツキは笑いながらツッコんでくれた。
実際、セイラさんがガンダムで無断出撃した時、アムロは慣れないガンキャノンに乗り込んで、熟練パイロットのコズンのザクを白兵戦で取っ捕まえたくらいだからな。(別の世界線だとカイも白兵戦を敢行していた)
まぁ、ボケの通りに俺が前に出たりはしない。もし接近されたら遠慮なくガンダムファイトするだけだが。
まずは小学生以下の部(こちらは年齢を考慮してかSDガンダムのみでのバトルだった)が終わり、続いてオープンクラスの部だ。
トーナメント戦で、AとBの2ブロックに分けられ、各ブロック八組の中から勝ち抜き、最後にAブロックとBブロックのトップ同士がバトルするため、優勝までは四回勝ち抜かないとならない。縁日のイベントにしてはなかなかハードだ。
それじゃぁまずはAブロック第一回戦、ランダムフィールドセレクトは『反政府組織収監所』
ここは……A.D.歴の、ソレスタルビーイングのアレルヤ奪還作戦が行われた場所か。
およそ五分で強襲かけてアレルヤ(とついでにマリナ)を救出とか、なかなかハードなプレイだったなぁ。
出撃だ。
「オウサカ・リョウマ、ガンキャノン、行きます!」
「タツナミ・イツキ、ガンダムエクシア、行っくぞー!」
ゲートから打ち出されたら、目下はもう収監所。ソレスタルビーイング側からの出撃か。
エクシアは飛行できるけど、ガンキャノンはそうもいかないので、まずは二人とも着地だ。
ってか……エクシア、そんな身軽な機体なのに単独飛行出来るとか、ズルくね!?
……いや、重量で言えばガンキャノンと同じくらいだっけ?なおずっこい(関西弁)わ!!
文句言ってもガンキャノンはGNフィールドもGNフルシールドも持ってないんだ、せいぜい頑張るさ(しょぼーん)
さて、敵さんは……収監所の格納庫から飛び出して来るのは、ガンダムMK-II(エゥーゴカラー)と、グレイズ改か。
敵機二機は、並行してビームライフルと120mmライフルを撃ってくるが、狙いが甘いな。
俺はやや左後方に飛び下がって躱し、逆にイツキのエクシアは弾幕を掻い潜って接近を試みる。
「リョー!MK-II頼むぜ!」
「あいよ」
ナノラミネートアーマーを持つグレイズ改に、ガンキャノンの武装じゃちょっとダメージを与えにくい。故に実体剣を持つエクシアがグレイズ改の相手をすべきと引き受けたのだろう。
ウェポンセレクターを回転させ、ビームライフルと240mmキャノンを同時にセレクト、右キャノン、ビームライフル、左キャノン、と不規則交互に砲撃開始。
エクシアを狙おうとしたMK-IIは、俺の不規則な砲撃を前に慎重になっているのか、その場に釘付けられる。
よーしいい子だ、こっちに注意を向けていろよ。
その一方で、イツキのエクシアはGNソードを展開し、グレイズ改の方もバトルアックスを抜いて打ち付け合う。
弾き返し合い、エクシアはすかさず回し蹴りを放ち、グレイズ改のボディを蹴り飛ばす。
あっちは大丈夫そうだな、ならばこっちはMK-IIを引き付けておこう。
MK-IIがその場でビームライフルで反撃してくるけど、ササッとステップを踏んでビームを躱し、同時にバルカンを速射して牽制し、ステップの隙を減らす。
すると、ガンキャノンならば接近戦を仕掛ければいいと思ったのか、まだライフルの間合いからMK-IIはビームライフルを納めてビームサーベルを抜いて加速してきた。
お?ガンキャノンに接近戦か?俺は一向に構わんやで?
まぁ、そんな距離から「吶喊します!」って自己主張するようにビームサーベルを抜いてくるんならさぁ、いくらでもやりようがあるんだよね。
まずは直撃コースのビームライフルで牽制し、その0.5秒後に左右のキャノンを発射、ちょうどMK-IIの右手前と左手前に着弾するように撃ち込む。
するとMK-IIは、まずはビームを回避すべく右に避けて、すぐ目の前でキャノンの砲弾が地面に着弾し、捲り返される地面に機体を転倒させてしまう。
はい、それを狙ってました。
転倒してすぐに起き上がれないMK-IIにしっかりロックオン、舌でペロッと唇を湿らせて、ウワァォッ!(カイ感)
発射したビームライフルはばっちりMK-IIのボディを撃ち抜き、爆散!
ガンダムMK-II、撃墜。
よし、イツキの援護に向かおう。
と、思ったけど、ちょうど同じタイミングでエクシアがグレイズ改を真っ二つに斬り裂いていた。
グレイズ改、撃墜。
『Battle ended!!』
「よっしゃー!さすがあたしとリョーのコンビだぜ!」
「さすがイツキだ、何とも無いぜ」
イエーイとハイタッチをしようとイツキが手を伸ばしてきたので、それに合わせようとしたら、
「あっ……」
不意に、イツキは俺の掌を見るなり、萎縮してしまったように手を下ろしてしまった。
「イツキ?」
「な、なんでもねーし!ほら、次がつっかえてるし!」
イツキは慌ててエクシアを回収して筐体から離れる。
なんだよ、さっきからのことといい、この、"イツキらしくなさ"の連続は。
イツキのぎこちなさが見え隠れしながらも、Aブロックを順調に勝ち抜いた俺とイツキは、いよいよ決勝戦、Bブロックを勝ち抜いてきたコンビと戦うことになる。
向こうのガンプラは、セイバーガンダムと、ガンダムデュナメス。こちらと同じく、遠近の役割分担がハッキリした組み合わせだ。
……なんだが、何だろう、また"俺"の中の記憶が疼く。
――ホビーショップでアルバイトの新人研修を押し付けられて、バイト上がりにガンプラバトルをすることになって、その時はクロスボーンガンダムX1を持ってなくて、代わりにセイバーを……
「リョー?……おい、リョー!」
ベチンッとイツキが背中を叩いてきた。いてぇ。
「っと、なんだイツキ?」
「なんだじゃねーし、何ボケーッとしてんだよ」
「あぁ、悪い。セイバーとデュナメスって組み合わせに、なんかデジャヴを感じてな」
「……そっか」
……なんだ?一瞬、イツキの顔が曇ったように見えたが……
『それではいよいよ、決勝戦の開始です!両チーム、出撃どうぞ!』
司会のマイク音声に急かされ、慌ててガンキャノンを筐体に読み込ませる。
ランダムフィールドセレクトは『サウスフェニックス市街地郊外』
ここは確か……A.W.(アフターウォー)の世界で、ガロード・ランとオルク、新政府防衛省の三つ巴の戦い……だったかな?
――クソッ、本当に何なんだ、この……記憶をチラ見せさせられるような不快感は!
ガシガシと頭をかきむしって記憶の掘り返しを誤魔化す。
下手に思い出そうとすると、またリミッターが働いて吐き気を催すかもしれないからな。
とにかくさっさと終わらせよう。
「オウサカ・リョウマ、ガンキャノン、行きます!」
「タツナミ・イツキ、ガンダムエクシア、行っくぞー!」
レールが横切る荒野に着陸するガンキャノンとエクシア。
「デュナメスがいるなら、狙撃を狙ってくるはずだ。気を付けろよ、イツキ」
「分かってるしっ、そんなの一々言われなくても!」
「……ならいいんだが」
照れたり怒ったり落ち込んだりイライラしたり忙しい奴だな。
けど……いつものイツキだったら「とかなんとか言ってるリョーこそ気を付けろよー」って笑いながら返してくれるはずなのに。
こんな噛み合ってないコンビで、向こうの二機に勝てるだろうか。
すると敵対反応がひとつ。
MA形態のセイバーが単騎で突っ込んで来る。
セオリー通り、セイバーが陽動、その後ろからデュナメスが狙撃か。
それなら、セイバーが飛んで来た方向に向かって適当な距離にキャノンを撃ち込んで、デュナメスの狙撃をこっちに誘導するか。ガンキャノンの装甲なら、直撃で無ければ数発耐えられるはずだ。
「イツキ、デュナメスの狙撃は俺が引き付ける。お前は、」
「うるせぇっ、あたしに指図すんなっ!」
「……イツキ」
……何故、俺を拒むんだ?
これまでだって、俺が出した指示には素直に従ってくれたのに、何故……?
ハッとなった時には既にロックオンアラートが明後日の方向から。
しまったっ、デュナメスの狙撃……!
ほぼ反射で操縦桿を捻り、直後に彼方から放たれたビームが、ガンキャノンの右肩を撃ち抜きえぐり飛ばす。
「くっ……」
いきなり右腕が吹っ飛ばされたか……だがな!
「――そこかッ!」
転んだと思っただろうが、ただでは転ばないぞ、道連れだ!
即座、ロックオンせずマニュアルで左右のキャノンを動かし、その方向に撃ち返し――デュナメス撃墜の通知が届いた。
ガンダムデュナメス、撃墜。
ヨシッ!
デュナメスよ、狙撃後にすぐにその場から離脱しなかったのは、判断ミスだったな。
さて、急いでイツキの援護に向かわねば。
イツキのエクシアは、空中でセイバーに追い縋ろうとしているが、重力下でのドッグファイトはセイバーの専売特許と言ってもいい、MSとMAを巧妙に使い分けて、エクシアに接近を許さない。
エクシアもソードライフルを撃ちながらセイバーを追おうとしているが、空中機動性も火力もセイバーの方が圧倒的に上だ。
加えて、セイバーの使い手も中々の実力者だ。エクシアを近付けさせず、なおかつ俺のガンキャノンとの合流もさせないように、付かず離れずエクシアに纏わりつく。
「こんのぉっ!」
イツキのエクシアはムキになったようにソードライフルを連射しながら、左マニピュレーターにGNビームサーベルを抜いて、セイバーに斬り掛かる。
対するセイバーも右マニピュレーターの高エネルギービームライフルを納め、左肩内部からヴァジュラ・ビームサーベルを抜いて、打ち付ける。
しかしそこで鍔迫り合いにはせず、セイバーはエクシアのGNビームサーベルを受け流し、隙を見せたエクシアを上から蹴り落とす。
「うわっ……!」
セイバーに蹴り落とされ、地面に叩き付けられるエクシア。
そこへセイバーが背部のビーム砲『アムフォルタス』を向けている。
――間に合え!
フルスロットルのダッシュをしながら、セイバーに向けてキャノンを発射。
左右の内、一発は外れたが、もう一発はセイバーの横腹に炸裂し、体勢が崩れた拍子にアムフォルタスの荷電粒子が明後日の方向へ放たれていった。セーーーーーフ!
VPS装甲だから実弾は対して効かんだろうが、体勢を崩して射線を逸らすのが目的だ。
「無事か、イツキ!」
「あ……う、うっせ!あたしはへーきだし!」
強がりを返しながらも、イツキはエクシアを起き上がらせようとするが、
「あ……あれっ、動けない!?」
どうやら地表に落下したショックで機体が動かなくなってしまったらしい。
「無理するな、後は俺がやる」
動けないんじゃしょうがないが……キャノンとバルカンしかないガンキャノンでどうやってセイバーを倒すかね?
向こうはアドバンテージであるVPS装甲がパワーダウンする前に決着を着けたいはずだから、必然的に距離を詰めなければならない。
すると、体勢を立て直したセイバーは再びMA形態に変形し、頭部カバーの機関砲『ピクウス』を速射しながら接近してくる。
あ?やんのかコラ、上等やぞオイ。
ピクウスの銃弾は敢えて無視して装甲で受け、肩部キャノンを連射してセイバーを牽制。
キャノンの砲弾を掻い潜りながらも、セイバーはMS形態に変形しながらも空力防盾を捨て、ヴァジュラ・ビームサーベルをシュバッと二刀流で抜き放つ。アスランがゲルズゲーの両腕ぶった斬った時もあんな感じだったな。
迫りくるセイバー、しかしここで引き撃ちしても追い込まれるだけだ……が、しかし!
「っしゃこいオラァ!!」
操縦桿を思い切り押し出し、ガンキャノンをフルスロットルで加速させ、セイバーに真正面から接近!
喰らえ!コズンのザクを一撃で行動不能にした、ガンキャノンパーーーーーンチッ!!
ズヴァゥッ
……刹那、セイバーのヴァジュラビームサーベルが振り抜かれ、ガンキャノンの右腕は地面を転がった。
「うん、やっぱダメかー」
瞬間、ガンキャノンのボディにヴァジュラビームサーベルが突き込まれた。
ガンキャノン、撃墜。
結局、イツキのエクシアも動けるようにはならず、そのまま続けて撃墜され、俺とイツキのコンビは惜しくも準優勝と言う形となり、景品として、『スレミオのペアカップ』をいただいた。赤と白のマグカップが縁起良さそうです。
そろそろ出店が店仕舞いをしていく中で買った、ビンのラムネを片手に社屋の裏手に座り込んで一休み。
「ビームライフル無しのガンキャノンじゃセイバーの相手は無理だったな」
「ははっ、そりゃムリゲーだって」
落ち着いてくれたか、イツキは苦笑しながら応じてくれた。
出店の店仕舞いと共に祭りの灯りも減り始め、櫓の赤色灯だけが静かに夜を彩り、ドンドンカッカッと和太鼓の音色が響く。
――そろそろ、だな。
「なぁ、イツキ」
「ん?」
今夜で、俺とイツキとの関係が壊れてしまうかもしれない。
だが、けじめはつけなければならない。
――本当に?
今になって、それを躊躇う自分もまたいる。
本当のことだと言っても、その内容はあまりにも突飛だ、信じてもらえるどころか理解してくれるかどうかも定かじゃない。
「先週、俺とミカゲさんがガンダムベースに行く時に、イツキも誘われたんだろ?ミカゲさんから聞いたんだけど、俺に会いたく無かったんだって?」
「………………あー、そのことかぁ」
たはは、と笑って見せるイツキだが……やめろよ、そんな痛々しい作り笑顔なんて見たくないぞ。
「その前にさ、リョーは覚えてるか?」
「何がだ?」
「ほら、小学生二年の頃だよ。今日みたいに夏祭りにガンプラバトルの大会があってさ、SDガンダムでバトルしてたこと」
小学生二年の頃の記憶なんて知らんぞ。
慌ててオウサカ・リョウマとしての記憶を掘り返して……
……覚えてない?と言うか、そんなことあったのか?
「あー、よく覚えてないけど、そんなこともあったような」
「……なぁリョー、それ冗談で言ってんのか?」
不意に、イツキの声色が変わる。
「ほんとに覚えてないのかよ!」
「え……」
やばっ、地雷踏んだか?
おおお落ち着け俺、子供の頃の記憶だ、いくらでも言い訳出来る……
「……冗談だよ」
「だ、だよなー、じょーだんだよな、ははは……」
「そうそう」
フー、なんとか回避出来たか?
「――嘘。ほんとはそんなこと無かった」
「え」
思わずラムネを手放してしまい、中身が地面にぶちまけられる。
「嘘つくなよ!」
イツキに胸ぐらを掴まれる。
「覚えてない……ッていうか、『あたしのこと何も知らない』んだろ!?」
「それ、は、っ…………」
何も言えなかった。
胸ぐらを掴むイツキの手は、震えている。
「リョー……いや、『あんた、誰だよ』?」
……今の誘導尋問で、イツキの中の疑念が確信に変わったんだろう。
"俺"が、『オウサカ・リョウマの姿をした、全くの別人』であることに。
「俺は……」
イツキには全てを話した。
"俺"は、異世界転生の女神様に仕える天使のような存在であること。
何者かによって壊された『ガンダムブレイカー・シンフォニー』と言う二次創作小説の主人公、オウサカ・リョウマに憑依していること。
けれどこの時空は『原作』――本来の『ガンダムブレイカー・シンフォニー』の世界――ではなく、そのデッドコピーとも言える"もうひとつの世界"、『贋作』だということ。
"俺"は女神様から最後の命令を受け、後腐れなくこの世界を謳歌しようとしていること。
オウサカ・リョウマの肉体に"俺"が憑依したのは、俺が転入してくる前日だったこと。
転入してきたその日にイツキのことを思い出せたのは、小学四年生の頃までのオウサカ・リョウマとしての記憶を一部持っていたこと(恐らくそれらしく振る舞えるように女神様が記憶を調整してくれたのだろうと見ている)。
ナカツ・チサさんと幼馴染みだったと言う『原作』のオウサカ・リョウマと"俺"は全く別人物であり、ナカツさんに対する記憶は全く無いのだが、ここ最近に感じるデジャヴは、『原作』の記憶が混在しつつあること。
「――以上だ」
話し終える。
自分の知っていた幼馴染みが実は全く知らない人にすり替わっていた、なんて聞かされて、果たして正気でいられるだろうか?
「………………あたしはバカだからさ、あんたの言ってることの半分も分かってねーと思う」
だろうな、まさか異世界転生なんてフィクションが現実に起こるなんて……なんてフィクションも、今となってはありふれたなろう系だが、ノンフィクションの世界が実はフィクションだったなど、実際に起きてみれば脳が理解を拒否するだろう。
「なんてーのかな……前のパーティーの時からさ、なんだか、自分の記憶に自信が無いんだよな」
はぁ、とイツキは溜息をついた。
「あたしと、あんたが憑依する前のリョーはさ、小学校四年までは一緒だったんだ。で、再会した時が三ヶ月前くらいで……その七年間、自分が何やって過してたのか、全然思い出せないんだ。おかしいよな、自分のことなのに」
……女神様の言っていた通りなら、イツキは『俺がいなかった時の記憶が無かったことにされている』んだ。
小学校四年の頃に俺と離ればなれになり、その間に"俺"がオウサカ・リョウマに憑依したことで、"俺"が憑依したオウサカ・リョウマと、そうでないオウサカ・リョウマの物語に分岐している。
後者の幼馴染みだったイツキなら、その抜けている記憶を知っているんだろう。
けれど、こっちのイツキにそんな"設定"は無い。
彼女の、この『空白の七年間』は、文字通り"空っぽ"。
空っぽだったところには、嘘で塗り固めて。
「けど、思い出せないのも当然だよな。リョーが"あんた"になるまでの七年間、あたしは『嘘の記憶の中で生きてた』ってことだろ?」
「そう言うことに、なるな」
「ふーん」
ふーん、って軽っ!?
もっと取り乱すものかと思ったけど、軽っ!?
「……驚かないんだな?」
「驚いたってか……だから半分も分かってねーんだって。これまで普通に生きてたって思ってた時間が全部嘘だったとか、現実味が無さ過ぎるっての」
ぐいっとラムネを飲み干して、コキン、とビー玉が瓶底を鳴らす。
「この間ミカゲちゃんが誘ってくれた時、リョーとは会えないって言ったのはさ、怖かったんだ」
「怖かった?」
「前のパーティーでナカツ……だっけ?あいつが言ってた、幼馴染みって役の"代わり"があたしだったってこと。あのことを聞いてさ、もしかしたら、今ここにいるあんたはあたしの知ってるリョーじゃないのかも?って思ったんだ。そう思ったら、自分の記憶にも自信が無くなってきて……もしリョーに会ってたら、頭ん中グチャグチャになってどうかしそうだったんだ」
そしたらミカゲちゃんにも迷惑かけちまうし、と苦笑するイツキ。
「まぁ、アレだよな。「あたしの記憶とか思い出を返せ」って言ったって、あんたじゃどうしようも無いんだろ?」
「そりゃ、な」
"俺"には、他者の記憶を書き換えるような権能は持ってないからな。持っていたとしても、無闇に人の記憶を書き換えたら時空が歪む恐れだってあるから使わないけど。
「んじゃ、いいや。分かんねーことは分かんねーし、あたしは今まで通り、"リョー"の幼馴染みだ。……たとえそれが嘘の記憶で、"物語の設定"だったとしてもだ」
それは、嘘だ。
これからのイツキの俺を見る目は、変わる。
幼馴染みじゃなくて、幼馴染みの姿をした、違う他人として。
それが疑念から確信に変わるまでの間、どれほど怖かったのか、俺には想像も出来ない。
「……イツキ、その……今日のこと、みんなには、」
「みんなには黙っててくれってことだろ?ってか、こんな訳分かんねー話、あたしじゃなきゃ笑い話にもなんねーって」
笑って見せるイツキ。
「うん。今日、あんた……うぅん、リョーと話せて良かった。夏祭り、誘ってくれてありがとな」
「どういたしまして。俺も、イツキにはいつか話さなくちゃいけないって思ってたんだ。……結局、今日まで引き摺ってしまったけど」
「いーよ、あたしとリョーだけの、秘密の共有だ」
秘密の共有、ねぇ。
イツキには弱みを握られたような形にはなったが、それでもその弱みを悪用したりはしないし、不用意に他のみんなに言い触らしたりもしないだろう。
それだけは、この三ヶ月イツキと言う女の子を見てきたから分かるつもりだ。
「っし……じゃ、そろそろ帰ろーぜ」
勢いよく立ち上がるイツキ。
「ん、そうするかぁ」
落としてしまったラムネ瓶を拾ってから、俺とイツキは神社を後にした。
イツキを家の近くまで送って。
「んじゃリョー、次は……部活の時かな?」
「来週の全国大会に向けた準備だな」
そう、来週から三日間をかけて、ガンプラバトル選手権の全国大会がある。
ケイスケ先輩――と言うか、ゴジョウイン先輩が言うには、俺達ビルドシンフォニーは、特別招待枠をいただいたらしいが……そう言うことなら、恐らくヤコさんやアンリ嬢も大会に出ることになるだろう。
ゴジョウイン先輩に、シノミヤ先輩、ヤコさん、アンリ嬢か、いずれも一筋縄ではいかない強敵揃いだな。ナナちゃんはどうだろう?
……オリジネイトガンダムにも、もう少し手を加えるべきだろうか。
「そんじゃぁ、またなー」
「あぁ、またな」
イツキが自宅のドアに入るのを見送ってから、俺も踵を返して帰宅する。
さて、来週に向けて備えますか!