ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK 作:さくらおにぎり
暗がりの中。
数人の男女――厳密に言えば、男は一人しかいないのだが、それを気にする者はこの中にはいない。
その彼女らの前には、暗闇に蠢く巨大な"ナニか"。
――原作への侵蝕率、90%に到達。
――危険域に到達、イレギュラー1の即時廃除を推奨。
――否定。イレギュラー1はサンクチュアリへのアクセス権を持つため、運命決定による廃除は不可能。
――・・・否定。猶予は無い。疑似覚醒システムを用いた上で、即時廃除を再推奨。
――否定。イレギュラー1はサンクチュアリへのアクセス権を持つため、運命決定による廃除は不可能。
――・・・代案。イレギュラー1の思考から、イレギュラー2への恋愛感情を確認。プランD24を推奨。
――・・・推奨不定。ケースL1を確認した場合のみ、プランD24の実行を決定。
シュルシュルと緑色のコードが伸び、そこに鈍色の突起物のような"ナニか"が取り付き――混ざり合って、ひとつの姿を模る。
「やれやれ、プログラムとAIの押し問答とは見苦しいねぇ。内輪揉めで勝手に自爆したりするんじゃないのかい?」
黄土色の髪の青年は、呆れたような溜息混じりでそう言う。
「そう言うことなら、"こんなモノ"はその程度の存在だし、『人類はこの程度の存在に滅ぼされた』ってことでしょ?」
長い黒髪の美少女が、身も蓋もなく言ってのける。
「ま、なんでもいいんじゃないですか?これで先輩を――"本来の先輩"を取り戻せるなら」
橙色の髪をサイドテールにした美少女は、にひひと笑う。
「……皮肉なものよね、"こんなモノ"に頼らなくちゃ、大切な人一人も救えないなんて」
亜麻色のロングヘアーの美少女は、蠢く"ナニか"から、人の形をした"ナニか"が次第に生み出されていくのを見やる。
赤茶色の髪を二つ結びにした美少女。
アルビノを思わせる白い肌に赤い目を持つ少年。
鋭い目付きと硬い髪質の青年。
何故か和風の陣羽織を纏い、仮面を被った黒髪の女性。
ロンド・ギナ・サハクにそっくりな背広姿の男性。
そして最後に、白金色の髪をサイドテールにした女性が生み出されようとして、
突如、ビー!ビー!と警報が鳴り響く。
――警告!警告!甚大なエラーが発生!エラー原因を特定・・・エラーコードJ.L.を確認!廃除廃除廃除廃除廃除廃除廃除廃除廃除廃除削除削除削除削除削除削除削除削除削除削除抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消抹消デリートデリートデリートデリートデリートデリートデリートデリートデリートデリートブロックブロックブロックブロックブロックブロックブロックブロックブロックブロック!!!!!
すると、緑色のコードが白金色の髪の女性の身体に纏わりつき、その上から無数の銀色の突起物が全身に突き刺さり、蠢く闇の中に引き摺り込まれ……
――エラーコードJ.L.のデリートを確認。警告解除。
「いけないいけない。『余計なモノ』まで生み出しちゃうところだった」
ふわふわしたブロンドの髪の美少女――ナカツ・チサはふぅ、と息をつく。
「あなたの出る幕は無いよ。――消えて」
冷たくそう吐き捨てた。
イツキと二人で夏祭りを過ごした、その翌週。
ケイスケ先輩からの通達予定通り、俺達ガンプラバトル部、及びゴジョウイン先輩とシノミヤ先輩、ナナちゃんは、静岡県のホビーセンターの近隣に建設されたスタジアムを訪れていた。
地区大会とは比べ物にな゙らない選手と観客、それを引き込むための出店や露店なども所狭しと並び、選手権大会というよりもフェスのような様相だ。
「すごい規模だね……」
マユちゃんはこのお祭り騒ぎの前に腰が引けている。
「いいなー、このお祭りって感じ!」
対してイツキは興奮している。先週あれだけお祭りフードを食べたのによく飽きないな。
「一体どれくらいの企業が、この大会に一枚噛んでいるのかしら……」
ミカゲさんは目の付け所がちょっと違うが、しかしそう言うように、多くの企業がスポンサーとなっているのは間違いないだろう。
「んじゃ、俺はチーム・ビルドシンフォニーの代表として受付登録すっから、バラけんなよー」
ケイスケ先輩はそう一言告げてから、大会の受付所へ向かっていく。
「では、私も受付に行くとしよう」
同時に、ゴジョウイン先輩も1チームとして出場するため、同じように受付所へ向かう。
ちなみにゴジョウイン先輩のチームメンバーは、シノミヤ先輩、ヤコさん、アンリ嬢ともう一人、助っ人さんがいるらしいのだが、現地の選手村の方で合流予定らしい。
「それじゃぁトモエセンパイ、わたしも行きますね」
「えぇ、ナナちゃんも頑張ってね」
ナナちゃんも何やら会場に一足先に向かうようで、シノミヤ先輩に見送られている。
「ナナちゃんは別チームで出場するのか?」
彼女が会場へ向かう前に呼び止める。
もしかしたら、企業側が用意したチームとかで出場するのかと思ったのだが。
「あ、オウサカセンパイ。実はわたし、今大会は選手として出場しないんですよ」
オロ?そうなの?
「えーと、あれか、イメージキャンペーンガール関係か」
「ですです!色々準備とか必要なので、一足お先に失礼します!」
びしっと敬礼してみせるナナちゃん。かわいい。
ケイスケ先輩、ゴジョウイン先輩と並んで会場受付へ向かうナナちゃんを見送りつつ……俺は然りげ無く周囲を警戒する。
この間のクルージングパーティーの一件から、ナカツ・チサさんが俺に接触を図ろうとしてないか、と。
女神様の言う通りなら、ナカツさんのような『原作』の登場人物との接触は、オウサカ・リョウマの肉体に眠る『原作』の記憶が戻ってしまう恐れがある。
"俺"と言う自我を強く保っていれば問題無いと言うが、どんな手段を使ってくるか分からん、下手すると拉致されるとかも有り得る。
まぁ、こんな白昼堂々と拉致はしてこないだろうけど、夜間帯に一人で行動する時は気をつけよう。
「あっ、オウサカ先輩!」
聞き覚えのある声がしたと思ったら、そこにいたのは、馬の骨の妹さんこと、チユキちゃんがいた。
「おぉ、チユキちゃん。それに……」
彼女だけではない、チユキちゃんと同い年だろう中学生グループが、興味深げに俺のことを遠巻きに見ている。キメ顔をしておこう、キリッ。
「あそこにいるのは、チームメイト?」
「そうっす!草の根運動でメンバーを集めて、ついにチユもチームを結成したのでっす!」
むふん、と胸を張るチユキちゃん。
「と言うことは、チユキちゃんのチームも出場か」
「その通りっす!先輩達には負けねーっすよ!」
「なるほど、こりゃ侮れないな」
チユキちゃんくらいの実力者が、生え抜きで選んだファイター達だ、油断していると足元を掬われそうだ。
「というわけで、チユも受付に行って参りまっす!」
チームリーダーは彼女らしい、意気揚々と受付へ向かっていく。元気な娘だなぁ。
しばらくして受付が終了し、俺達のチーム五人は会場に併設された選手村へ移動する。
もちろん男女別で、俺とケイスケ先輩、残る女子三人が別の部屋に割り振られる。
荷物を一度部屋に置いてから、女子三人を男子部屋に呼び寄せる。
ケイスケ先輩が先ほど受付から戻ってきた際に、今大会の選手向けのパンフレットを預かっているとのことだ。
五人全員集まって、テーブル席に座ったところで。
「よーし、全員揃ったな。それじゃ、パンフレットの内容を確認すんぞ」
ケイスケ先輩の手によって配布されるパンフレット。
大会全体の進行や、簡単なよくあるQ&Aはとりあえず飛ばして、今大会のバトルの形式やルールの確認だ。
「広大なオープンワールドのフィールドによる、時間制のバトルロワイヤルで、一日ごとに宇宙、地上、宇宙と切り替わる。これから始まるバトルは、まずは宇宙戦か」
「この間のクルージングパーティーと同じように、フィールド各所に、補給ポイントがあるみたいだね」
俺の読み上げに、マユちゃんが補足してくれる。
「午前と午後で90分ずつ。一日目、二日目と合わせて最も撃墜数を稼いだ4チームが、三日目の決勝戦に出場出来るってことは、補給ポイントの近くで陣取ってるだけじゃ、優勝は出来ないってことかー」
イツキが、今大会で最も重要なポイントを挙げてくれた。
生存機の多さではなく、撃墜数の多さによって結果が決まると言うものだ。
補給ポイントの近くで敵を迎え撃っているだけでは撃墜数は稼げない、だからこそ攻めなければならないということか。
「蓄積された撃墜数は、バトルを終えた時点で一旦セーブされるとは言え、自機が墜とされたら、バトル中に稼いでいた撃墜数はゼロになる、ね……撃墜地点から最寄りの補給ポイントからリスポーンはされるようだけど、これは慎重にならざるを得ないわね」
ミカゲさんが言ってくれたように、せっかく苦労して稼いだ撃墜数も、自分が倒されてしまったら、それまで稼いでいたポイントは全部失ってしまうというものだ。
「いかに自機の撃墜を避けつつ、手早く撃墜スコアを稼ぐ。しかも、そのバトル中に稼いだ撃墜スコアの数は相手から見えちまうのか。稼げば稼ぐほど、狙われやすくなるってわけな」
ケイスケ先輩が結論を纏めてくれる。
撃墜スコアが明確にされてしまうと言うのは、思いの外厄介な要素だな、突出して高い撃墜数を持った者がいたら、見知らぬ相手同士が共通の強敵としてその場で協力し合うこともあるわけだ。
倒しさえしてしまえば、とりあえずの独占は防げるわけだからな。共通の強敵がいなくなったらお互いの潰し合いを再開するだろうが。
「決勝戦の4チームって言うのも絶妙なバランスだな、2チームずつ同盟を結んで10対10のバトルになる可能性もあれば、味方以外は全員敵の大乱闘もあるわけか」
まぁなんにせよ、三日目の決勝戦に辿り着くには、今日と明日のバトルをしっかり勝ち抜かなければならないわけだが。
「今日の午前のバトルは11時から開始だ。俺達は特別招待枠って形で参加させてもらっているが、それとこれとは別。やるからにゃ、優勝狙っていこうじゃねぇか!」
「「「「おぉー!」」」」
ケイスケ先輩の檄に、俺、マユちゃん、イツキ、ミカゲさんは力強く応じる。
今から約一時間後だ。
荷物やコンディションを整えてから、時間に余裕を持って選手村を出て、スタジアムへ向かう。
まずは開会式だ。
スポンサーの方々を始めとしたお偉方のお話を聞き流しつつ、開会式の終了を待っていると、
『続きまして、今大会のイメージキャンペーンガールのご登壇です。それでは!ホシカワ・ナナさん、ご登壇お願いします!』
選手の入場口にスポットライトが当てられ――
『はーい皆さん!初めましての方は初めまして!ご存知の方はこんにちは!今大会のイメージキャンペーンガールに選ばれました、わたし、ホシカワ・ナナと言いまーす!ビルドファイターの皆さんっ、不慣れなこともあってお見苦しいところはあるかもしれませんが、よろしくお願いしまーす!!』
まさにガンプラアイドルと言わんばかりの華やかな衣装を纏った、ナナちゃんが現れた。
うおぉぉぉぉぉ!!と(主に男性による)歓声が上げる。
いや……ちょっと衣装の露出度高過ぎない?ナナちゃんの高校生離れしたナイスバディを魅せたいのは分かるけど、ちゃんと本人の了承を得たのだろうか。
……またナナちゃんのお義兄さんが勝手にOK出しての事後承諾か?
『皆様の熱い声援、ありがとうございます!わたしも皆様のご期待に答えられるよう、全力で頑張りまーす!』
再びうおぉぉぉぉぉ!!と(主に男性による)歓声が上がる。
「ホシカワさん、すごい衣装してるね……SEED DESTINYのミーアみたい」
俺の隣りにいるマユちゃんがそっと耳打ちしてくる。
"議長のラクス"こと、ミーア・キャンベルか。
あの露骨に媚を売るような方針で、本物のラクス・クラインがメディアに現れるまでよくプラント市民に怪しまれなかったものだな。
「俺は別の意味で心配になるな……」
何がって?ナナちゃんの活躍によって、今後のガンプラバトルのイメージキャンペーンガールの審査基準が跳ね上がったりしないかどうかって意味で。
『それでは皆さん!これより、ガンプラバトル選手権全国大会、スタートです!君は、生き延びることが出来るかー!?』
三度、うおぉぉぉぉぉ!!と(主に男性による)歓声が上がる。
もう皆さんすっかりナナちゃんの虜だな。
ナナちゃんの登場によって最高潮を迎えたところで、開会式は終了、早速バトルロワイヤル初日午前の部、開始だ。
200台以上の筐体が各チームごとにズラリと並び、スタジアムを埋め尽くす。
「オウサカくん」
さて筐体にバナパスとガンプラを読み込ませようと言う時、ふとマユちゃんが声をかけてきた。
「ん、どうしたアサナギさん」
「頑張ろうね」
柔らかな笑みを浮かべてくれる。
マユちゃんと一緒に頑張ろうって思うと、自然とやる気と元気が湧いてくる。
思い返せば、"俺"がオウサカ・リョウマの肉体に憑依して、創響学園に編入して、もう三ヶ月が経つのか。
なんだかんだ言って、マユちゃんはいつも俺と一緒に頑張ってきた。
彼女と一緒なら、この大会だって、
「――あぁ、頑張ろうな」
……今は、この気持ちは胸にしまっておこう。
マッチング、ローディング完了。出撃だ。
「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」
「アサナギ・マユ、ガンダムファラリアル、決心解放(フィックスリリース)!」
「タツナミ・イツキ、ドラゴニックガンダム、行っくぞー!」
「ミカゲ・トウカ、ガンダムグレモリータナトス、行くわ」
「サイキ・ケイスケ、ジムカラミティ!チーム・ビルドシンフォニー、出るぞ!」
出撃完了。
「よーし、全機聞こえるな。フォーメーション通りに行くぞ、アサナギがタツナミの援護、ミカゲの援護は俺、リョウマは遊撃だ、いいな?」
「「「「了解」」」」
基本ツーマンセル、俺がその都度臨機応変に動くと言うものだ。責任重大だぜ。
「っと、早速お出ましだ、来るぞ!」
ケイスケ先輩の注意喚起と同時に散開、俺達が固まっていた空間に一筋のビームが通り過ぎた。スナイパーライフルか?
「狙撃!?こっちはまだ射程外……!」
マユちゃんのファラリアルはすぐさまビームアルケビュースを撃ち返そうと構えるが、ケイスケ先輩のジムカラミティがそれを制する。
「待て待て、慌てなさんな。どうせレーダー反応頼りで撃っただけだ。こっちから俺達の位置を教えてやることはねぇさ。全機、前方を警戒!まだ仕掛けるなよ!」
まだ仕掛けるなと言うケイスケ先輩の指示に従い、俺達は適度にバラけた状態で速度を落としつつ前進。
有視界戦闘は、MS戦における基本中の基本。
そして、超長距離射撃の基本は、相手の位置特定。
ましてやこんな遮蔽物も何も無い宇宙空間でビームを撃ってくるなど、自ら位置を教えているようなものだ。
「リョウマ、オリジネイトのライフルは長距離射撃も出来るな?」
「ご心配なく、もうスタンバってますよ」
ビームライフルのフォアグリップを握り、精密射撃の準備だ。
すると、数秒後に再び前方から熱源体、先程と同じビーム。
やはりレーダーに合わせて撃っただけの、ただの当てずっぽう。
最初の一発目を威嚇射撃で撃つならまだしも、反撃も無いのに二発目を撃つなど、迂闊過ぎる。
即座にケイスケ先輩は行動に出た。
「よし今だっ、反撃をぶち込め!」
ジムカラミティは大型ビームキャノンを発射、それに合わせてオリジネイトとファラリアルもそれぞれビームライフルとビームアルケビュースを放つ。
「そこ!」
「狙い撃つ!」
四筋のビームが彼方へ吸い込まれ――遥か遠くで爆発とGN粒子の光が見えた。
一拍を置いて、ケイスケ先輩がケルディムガンダムを撃破したことが通知される。
ケルディムガンダム、撃墜。
「すっげー!ケイスケ先輩、今のどうやったんすか!?」
イツキがすげーすげーと喜んでいるが、よそ見してる場合じゃない。
「気ぃ抜くのは早ぇぞタツナミ!ほれ、お前さんの出番だ!」
すると、ケルディムガンダムがいたらしい方向から、残る四機が突撃してくる。
『野郎!』
『よくも!』
ブルデュエルに、アルケーガンダム、ドラゴンガンダムと、それを乗せたMA形態のガンダムアシュタロンだ。
「フォーメーションを戻すぞ。数的優位だ、正面から行け!」
再びビームキャノンと、ハイパーバズーカを撃ち込んで牽制、敵チームを分断するジムカラミティ。
「ブルデュエルとアルケーの方はあたしがやる!ミカゲちゃんは反対サイドな!」
「青と赤の方ね、了解よ。なら私はあの竜のガンダムと……何かしら、ヤドカリ?を相手するわ」
ドラゴンガンダムを乗せたアシュタロンを"ヤドカリ"呼ばわりするミカゲさん。いやまぁ、改修後は確かにヤドカリ(ハーミットクラブ)と呼ばれるけどさ。
ファラリアルとドラゴニックが、ブルデュエル&アルケーに、グレモリータナトスとジムカラミティが、ドラゴンガンダム&アシュタロンに、それぞれ挑みかかる。
なら俺は……
「ケイスケ先輩、俺はアサナギさんとイツキの方に加勢します」
「おぅ、そっちは任せるぞ!」
ビームキャノンで先制砲撃を仕掛けるジムカラミティを尻目に、俺はオリジネイトを加速させて、ブルデュエルとアルケーの二機にビームライフルと、銃剣ビームピストルで牽制する。
「とぉりゃぁーッ!」
俺の牽制射撃に合わせて、イツキのドラゴニックがツインビームトライデントを抜き放ちながら、ブルデュエルに斬り掛かる。
『行けよファング!』
それを見てアルケーはサイドスカートを開き、その内部からGNファングを射出、ドラゴニックに向けて突撃させようとするが、
「させない――ガンビット!」
その間に割り込むように、マユちゃんのファラリアルがエスカッシャンを分離させたガンビットを展開、アルケーのGNファングに対抗するようにビームを撃ち合う。
であれば、ガンビットの射線に入らないように、回り込みつつアルケーへ接近だ。
バルカンで牽制を加えつつ、同時に左の銃剣ビームピストルもヒートブレードを合体させる。
GNファングはオート制御なのか、アルケーはGNバスターソードを握り直してオリジネイトを迎え撃つべく斬りかかってくる。
『アルケーに接近戦たぁ良い度胸だ!』
GNバスターソードとヒートブレードが衝突するがしかし、そこで鍔迫り合いはせずにすぐに弾き返して距離を取る。
アルケーの厄介な武装のひとつとして、爪先にGNビームサーベルを仕込んでいることだ。正面からかち合ったら不意打ちで"蹴り斬り"が飛んでくるだろう。
現に、アルケーは右脚の爪先にGNビームサーベルを発振していたし、俺が飛び下がった直後にその蹴り斬りが飛んできた。
『躱した!?』
だが、そのおかげでアルケーは隙を晒している。
「足技はもっと使い所を考えるべきだぞ?」
ビームライフルとビームガンを同時発射、ビームライフルはアルケーの左腕を打ち抜き、ビームガンは右脚を撃ち抜くには至らないものの、目に見える被弾を与える。
同時に、ブルデュエルを援護しようとしていたGNファングの群れは、ファラリアルによるガンビットと、ビームアルケビュースを保ちいた正確な射撃で次々に撃ち落とされていく。
さらに、ドラゴニックの放ったドラゴンハングが、ブルデュエルの右肩のシールドとレールガン『スコルピオン』をもろとも噛み砕いた。
『くそぉー!』
ブルデュエルは右腕を左肩に伸ばし、その左肩のフォルテストラの内部に格納されていた短剣状の武装『スティレット』を三本抜き放ち様に投げ放つ。
「甘いっての!」
爆弾付き投げナイフとも言うべき武器だが、ドラゴニックそれに対してツインビームトライデントを薙ぎ払い、三本のスティレットを纏めて斬り捨てる。……しれっとやってみせたイツキだけど、近距離の間合いで投げられたナイフに反応して即座に斬り払うって、地味に凄いと思う。
しかしスティレットを破壊すると言うワンクッションを挟んだために、ブルデュエルに脚部のビームサーベルを抜かせるだけの余裕を与えてしまったが、ドラゴニックの格闘性能とイツキの実力なら問題無いだろう。
『くそっ、こいつら……おい!"アレ"を使うぞ!』
お?なんだなんだ、疑似覚醒システムでも使うのか?
すると、アルケーとブルデュエル……恐らくはドラゴンガンダムとアシュタロンの方もだろう、機体が輝き始める。
「疑似覚醒システム!?」
「またこれかよ!」
マユちゃんは驚き、イツキは呆れを含ませて声を荒げる。
「これは……例の、偽物のシステムね」
「こんな大会で堂々と使うのかよ」
やはりミカゲさんとケイスケ先輩の方でも同じことが起きているらしい。
でもさぁ、
『へへっ、悪く思うなよ。これさえあれば俺達は、……!?』
瞬間、オリジネイトを加速させてヒートブレードを突き立てようとするが、これはGNバスターソードに弾かれる。
が、それは想定済みなので、直後にビームライフルとバルカンを連射、アルケーのボディに直撃させ続け、撃墜。
「これさえあれば俺達は……なんだって?」
悪いがそんなインチキを使わなきゃ勝てないような、塩を掛けられたクソザコナメクジに負けてやる義理はない。
アルケーガンダム、撃墜。
『う、嘘だろ……!?』
疑似覚醒システムを使ったにも関わらず、即座に撃墜されたアルケーを見て、ブルデュエルの挙動が狼狽えている。
当然、その隙を見逃すイツキではなく、ドラゴニックはツインビームトライデントを逆袈裟に振り上げて、ブルデュエルのビームサーベルを弾き飛ばす。
ブルデュエルはもう片方のビームサーベルを抜こうとするが、そこへアルケーの相手をしていたファラリアルのガンビットが取り囲み、ビームをボディへ一斉射、さらにビームアルケビュースが狙い撃つ。
「そんなインチキに頼って!」
「あたしらに勝てるわけねーだろ!」
いかに疑似覚醒システムでも、いかにフォルテストラが頑強であろうとも、ボディに集中砲火を浴びせられれば耐え切れるものではない。
ブルデュエル、撃墜。
残るはドラゴンガンダムとアシュタロン。
しかしミカゲさんもケイスケ先輩も苦戦している様子は無い。
ドラゴンガンダムも右腕を失っているし、アシュタロンのアトミックシザースも、ちょうど今グレモリータナトスのタナトスサイズに斬り捨てられたところだ。
「まぁ、いくらバフ掛けしたところで、それを使いこなせなければ意味は無いわね」
『舐めるなァ!』
アシュタロンはビームサーベルを抜いて斬りかかろうとするが、グレモリータナトスはスラスターウイングを翻して躱し、
「はいもらいっ」
それを見越していたケイスケ先輩のジムカラミティは、腹部のメガ粒子砲を発射、反応の遅れたアシュタロンは胴体を貫かれる。
ガンダムアシュタロン、撃墜。
そのジムカラミティの隙を使おうとしていたドラゴンガンダムだが、そこは先程アシュタロンを躱したグレモリータナトスがフォローに回り込んでいた。
『どうなってんだよ!?なんで、何でシステムを使ってるのに倒せない!?』
振り抜かれるフェイロンフラッグに、グレモリータナトスはタナトスサイズで受け流し、
「システムのせいにしてないで、自分の実力を見直したら?」
流れるように、一閃。
一拍を置いて、ドラゴンガンダムがズルリと真っ二つにズレて、爆散した。
ドラゴンガンダム、撃墜。
やれやれ、初っ端から疑似覚醒システム使いと当たってしまったが、ちょうどいい点数稼ぎに過ぎなかったな。
「各機、被害状況はどうだ?」
周囲を警戒しながら、ケイスケ先輩はチームの状況を確かめる。
「ノーダメージです」
「わたしもノーダメージです」
「若干バルカン喰らったけど、ほぼノーダメっす」
「ナノラミネートコートの損傷度は3%ほどです」
俺とマユちゃんはノーダメージ、イツキはかすり傷程度、ミカゲさんはごく軽微な損傷。
実質被害ゼロと言ってもいいだろう。
「よーし、なるべくこまめに補給はするが、戦闘後の被害状況は毎回確認する。「『まだいける』は、『もう危ない』」を忘れんなよ」
「「「「了解!」」」」
ケイスケ先輩の采配は見事なもので、しっかり撃墜スコアを稼ぎながらも、補給を行うタイミングも的確で、乱戦を避けているのもスコア保持の理由のひとつだ。
今の俺達は撃墜スコアを溜め込んでいる状態、つまり多数のチームとかち合った場合、同時に狙われやすいと言ってもいい。
乱戦の中で集中攻撃を受けそうになれば、状況次第ではその場からの撤退もあったが、引き際を見逃してやられては元の子もないので、ケイスケ先輩の判断力は実に優れている。
そんなわけで、俺達チーム・ビルドシンフォニーは今のところ誰も撃墜されることなく撃墜スコアを維持し、午前の部を終了。
昼休みを挟んでから、午後の部に突入だ。
しかし……
『いたぞ、チーム・ビルドシンフォニーだ!』
『落とせ落とせ!やっちまえー!』
午後の部が始まって間もなく、複数のチームが徒党を組んで俺達に攻撃を仕掛けてきた。
「ちっ……こいつら、俺らばっか狙って来やがって!」
敵機からの砲撃を躱しながらも、ケイスケ先輩のジムカラミティはハイパーバズーカを撃ち返し、ジェスタを撃墜する。
ジェスタ、撃墜。
しかし直後にジムIIIの肩部ミサイルランチャーからミサイルが全弾発射され、ジムカラミティに襲い掛かるが、その前にファラリアルのガンビットがビー厶を照射してミサイルを撃ち落としていく。
「午前の部で目立ちましたからね、わたし達……!」
マユちゃんがそう言ったように、チーム・ビルドシンフォニーは午前の部でスタートダッシュをキメて見せたのはいいが、それは同時に他のチームから警戒される理由にもなってしまった。
「私達を倒したところで、どうせその後で自分達の潰し合いを始めるだけでしょうに……!」
斧形態に変形させたタナトスサイズでジェガンを叩き斬るミカゲさんのグレモリータナトスも、先程から被弾を重ねており、ナノラミネートコートの表面塗装が剥がれ落ちつつある。
ジェガン、撃墜。
「だからってこんなところでやられっかよ!」
EXAMシステムを起動させたブルーディスティニー3号機の猛攻を凌ぎつつもツインビームトライデントで反撃するイツキのドラゴニック。
その背後を突こうとするジムIIだが、そこは俺がインターセプトさせてもらう、すれ違い様にビームサーベルを一閃。
ジムII、撃墜。
けれど、すぐにまた別方向から別の反応が複数近付いて来る。
「くっ、また来たか……!」
ゴールドスモーにスラッシュザクファントム、マラサイ、バーザム、ブリッツガンダム……
このままじゃ補給も出来ないままジリ貧だ。しかも撃墜スコアはバッチリ稼いでいるから、さらに他のチームから狙われる……くそっ、微妙に悪循環だな。
だがやるしかない、オリジネイトを新手のチームの方へ向かわせようとするが、その間に割って入るように、また別の反応が現れ、先頭のゴールドスモーを真っ二つに斬り裂いた。
ゴールドスモー、撃墜。
「よおリョウマ、随分苦戦してるみたいじゃあないか」
この宇宙空間に溶け込むような濃紺色のイフリート……イフリート・ラピート!
「シオン!お前もこの大会に参加してたのか?」
そう、地区大会で死闘を演じたその相手……チーム・ブラウシュベルトのエース、タチバナ・シオンだった。
ゴールドスモーを斬り捨てたのは、ラピートブレードによる斬撃のようだ。
「まあな。もちろん、俺の先輩達も一緒だぜ」
シオンのイフリート・ラピートが一人で突出してきたのか、遅れたタイミングで彼のチームメイト……エゥーゴカラーのガンダムMK-II、ネオバード形態のウイングゼロ、エールストライク、ヴィダールの四機が、ブリッツとスラッシュザクファントムに射撃を浴びせつける。
「フォーメーションを崩すな!このままビルドシンフォニーを援護するぞ!」
「「「了解!」」」
以前はバラバラに動いて散発的な攻めしか出来なかった彼らだが、少々拙いながらもフォーメーションを組み、俺達を援護するように動いてくれる。
「俺達を援護してくれるのか?」
「あんたとは決勝で戦いたいからなあ、とりあえず共同戦線って奴だ」
「よし来た……なら、アテにさせてもらう!」
シオンの実力は折り紙付きだ、背中を預け合えるくらいにはな。
直後、オリジネイトとイフリート・ラピートが背中合わせになり、迫ってきたマラサイとバーザムを迎え撃つ。
マラサイのビームサーベルをすり抜け、銃剣ビームピストルの刃をバイタルパートに突き込んで、ゼロ距離射撃、蹴り飛ばす。
マラサイ、撃墜。
「ライバルが後ろにいるもんでねえ、早速だが本気で行かせてもらおうじゃあないか!」
イフリート・ラピートはラピートブレードを鞘に納め、背部に懸架していた三節棍を抜き放つと、バーザムが撃つビームライフルをそれで弾き、
「せえぃッ!」
ぐるんと機体を翻すと、鋭い槍のような一撃でバーザムのボディを一撃で打ち砕いた。
バーザム、撃墜。
そう言えばイフリートって本来、地上専用のMSじゃなかったっけ?
……よく見たら、各部に姿勢制御バーニアがいくつか追加されてるな、簡単なパーツの付け替えで宇宙戦にも対応可能な改造を施しているのか。ドムとリック・ドムの違いくらい分かりにくいけど。
「オウサカくん、あの人達って、確か……」
ガンビットを呼び戻しながら、マユちゃんのファラリアルが近付いてくる。
「あぁ、春の地区大会で戦った、チーム・ブラウシュベルトだ。俺達に協力してくれるそうだ」
「そうなんだ」
おっとそうだ、シオン達が味方してくれることを他の皆に伝えないとな。
「イツキ、ミカゲさん、ケイスケ先輩!チーム・ブラウシュベルトが俺達に加勢してくれている!彼らの識別信号を"味方"に設定だ!」
すると、残る三人もすぐに理解してくれて、シオン達への識別に、"味方"を示す青のマーカーに切り替える。
さぁて、反撃開始だ!
シオン達チーム・ブラウシュベルトが加勢してくれたおかげで、包囲されていた俺達は、どうにか敵対機を全て撃破することが出来た。
「周囲に敵機の反応なし……助かったよ、シオン」
「なあに、気にすんな。こっちも撃墜スコアを稼がせてもらったしなあ」
それにしても、シオンも前と比べても腕を上げている。
敵として戦うことになったら、気を引き締めて挑まなければな。
「俺達は今から補給ポイントに向かうが、そっちはどうする?」
「双方の補給が完了するまでは、お互い守り合うってえのはどうよ」
「そうするか」
補給中は無防備になってしまうので、その無防備の隙を守ってくれるのはありがたい。
まずは連戦続きで消耗の激しいビルドシンフォニーから、その後でブラウシュベルトのメンバーか補給していく。
両チームの補給が完了して。
「んじゃあ、また会ったらそん時ってことで」
「達者でなー」
オリジネイトとイフリート・ラピートが互いに手を振り合って、そこで別れる。
彼らと同盟を組むことも考えたのだが、シオン曰く「あんた達と組んでたら、俺はともかく、先輩たちが撃墜スコアを稼げないから、遠慮しとくわ」とのこと。
その代わりと言ってはなんだが、ピンチのところに出会したら、お互い助け合うことは約束した。
「なんかいいな、こう言う……ほらアレだ、「昨日の敵は今日の友」ってヤツ!」
少年マンガとかだとよくある、以前は敵同士だった者らが友情を結び、共闘すると言う展開に、イツキは嬉しそうに喜ぶ。
「とは言え、あまり借りを作りたくはないわね。いざ正面切って戦うことになった時、情が湧いたらやりづらいわ」
ミカゲさんはそう言っているが、春の地区大会でシオンに不意打ち同然の攻撃を受けて真っ先にやられてしまったせいか、少し苦手意識があるようだ。
「ミカゲさんはドライだね……」
苦笑するマユちゃん。
「まぁまぁ、そう言うなよミカゲ。こっちも向こうも都合よく着陸したんだ、それで良しだろ」
ケイスケ先輩が締めてくれたように、双方に不都合が無ければ、利用し合う関係でもいいわけだ。
まぁ少なくとも、向こうが裏切らない限りはこちらも不義理なことはしないつもりだが。
「さっ、切り替えて行くぞ。俺達を目の敵にしてる奴らもいるんだ、油断しないようにな」
先程の乱戦のおかげで、撃墜スコアはそれなりに稼げている。
なら、ここは少しだけ積極性を控え、制限時間まで逃げ切るのも手段の一つだろう。
その事をケイスケ先輩に進言しようと思ったら。
「っと、早速次の敵……ん?」
彼方より近付いて来るのは――
ゼイドラ・スタイン
フルコマンドガンダムMK-II
ザクシュヴァルツクーゲル
ガンダムグシオンタンザナイト
べギルエリス
の五機……ゴジョウイン先輩のチームか!?
身構えようとしたら、先頭に立っていたゼイドラ・スタインがゼイドライフルを下ろし、他の機体を制するように左腕を上げた。
『つい先程ぶりだな、オウサカ』
ゼイドラ・スタインからのオープン回線だ、こちらも回線を合わせて……
「どうも。ところで……」
オリジネイトの頭部を、べギルエリスに向ける。
「先輩達の助っ人さんって、アサクラ先輩のことだったんですね」
『久しぶりだな、オウサカ・リョウマ。六月のオープンクラス戦以来か』
べギルエリスの方も頭部を向けて、是正する。
『ゴジョウインに誘われてな、本来なら敵同士で戦いたかったのだが……それは今は置いておこう』
そういえばこの人、ゴジョウイン先輩に対抗意識持ってるんだっけか。
それはそれとして、とザクシュヴァルツクーゲルのモノアイが『ぐぽーん』と光る。
『アマネよ、やるのか?』
ヤコさんも選手として参加してるんだったな。また前みたいに"おクスリ"切れで医務室に放り込まれることが無ければいいんだが。
『やめておいた方が良さそうだ。今の彼らは補給を終えたばかり、消耗している今戦えば、勝つことは出来るだろうが、こちらも相当な痛手を負わされる』
『賢明ですね』
グシオンタンザナイト――アンリ嬢がその意見に同調している。
それを尻目に、フルコマンドガンダムMK-II――シノミヤ先輩が、ミカゲさんのグレモリータナトスに近付いているが、攻撃するわけでは無さそうだ。
『ミカゲさん、新しいグレモリーの調子はどうかしら?』
「好調です。先日はありがとうございました」
『なら良かったわ』
それだけ訊くと、フルコマンドガンダムMK-IIは離れていく。なんか仲いいよな、あの二人。
『そう言うわけだ。次に戦うとすれば、二日目にな』
ではさらばだ、とゼイドラ・スタインが機体を翻せば、残る四機もそれに続いてこの場から離脱していく。
「おいおい、行っちまったぞ……」
油断なくハイパーバズーカを構えていたジムカラミティだったが、向こうが敵対するつもりが無かったことに、ケイスケ先輩が拍子抜けしている。
「今日のところは見逃してくれるそうです」
ゴジョウイン先輩達も消耗していたようだったが、それでも確実に勝てるとは言えない。
身内だから見逃した、と言うのもあるだろうけど。
「むー、せっかくゴジョウイン先輩にリベンジしてやろうと思ったのに」
イツキが頬を膨らませている。
あぁ、前のクルージングパーティーの時にボロ負けしたって言ってたな……二日目はともかく、決勝戦で存分にリベンジしてほしいものだ。
その後は何度か遭遇戦を繰り返し、午後の部も無事終了、俺達チーム・ビルドシンフォニーの撃墜スコアの総数は、8位。
初日に稼いだにしては上々だろう。
さて、次は翌日に持ち越しだ――