ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK 作:さくらおにぎり
「というわけで、俺とマユ、付き合うことになりました」
「ま、ましたっ」
真夜中の告白と、告白返しによる両想いの確認を終え、晴れて恋人同士になった俺とマユちゃん――マユは、朝食の大食堂の席の一角で、チームメイトと、セイントエスパーダ、ワイルドビーツ、ブラウシュヴェルト、プラスアルファでナナちゃんの前で、結婚報告のような形で、俺達二人の関係をみんなに示していた。
「うぇっ、マジ!?やっべー、おめでとう!」とイツキ。
「あら、そうなの?おめでとう」とミカゲさん。
「アサナギとくっついたかー。くーっ、羨まけしからんっ」ケイスケ先輩。
「ふむ、そうか。おめでとう」とゴジョウイン先輩。
「あらあらまぁまぁ、うふふ」とシノミヤ先輩。
「おめでとうございます」とアンリ嬢。
「よし、ここはいっちょ景気付けに『夜半の蒼月(ルナティクス・ブルー)』でも飲め」とヤコさん。いらんわ。
「おめでとう、末永く幸せにな」とアサクラ先輩。
「おぉー、おめでとうございまーす!」とチユキちゃん。
「ここの食堂、お赤飯とか出してくれねえかな?」とシオン。
他のチームメンバー達も次々に「おめでとう!」と祝詞を口にしてくれる。ありがとうね。
「…………」
ナナちゃんだけがちょっと呆然としていたが、すぐに笑顔を見せて「お二人ともおめでとうございます!ご結婚はいつですか?」と応じてくれたけど……なんかこう、他所向けのアイドルスマイルだった。
「え、えへへ……恥ずかしいけど嬉しいね、リョ、リョウマくん」
嬉し恥ずかしげにはにかんで、名前で呼んでくれるマユがかわいい。
恋人同士になったので、名字呼びはやめて、下の名前で呼び合うことにしたのだ。
マユはまだちょっと緊張しているが、俺は元々彼女のことは心の中では「マユちゃん」と呼んでいたので、すぐに慣れたけど。
おめでとう、おめでとう、と見知らぬ通りすがりのよそのチームからも祝福されたり、カウンター奥にいる食堂のおばちゃん達からは、紅白饅頭代わりに、イチゴゼリーとミルクプリンをオマケしてくれた。ありがとうございます、いただきます。
そんな騒がしくもおめでたい朝食を終えた後は、いざ決勝戦だ。
準備のために一度部屋に戻ろうとしたが、
「マユ、ちょっとリョー借りるぞ」
と、イツキに呼び止められた。
「え?い、いいけど……、うぅ……」
マユは頷いたが……こう、捨てられるのを悟った仔犬みたいな目で俺を見つめてくるのはやめて。その上目遣いは俺のハートにダインスレイヴだから。
「ちげーって、マユの親友として、リョーの幼馴染みとして、言いたいことがあるだけだって。いくらあたしでも、人の彼氏を横取りしたりしねーからさ」
時間もないと言うことで、強引にイツキに人気の無いところまで連れ込まれる。
言いたいことがあるとは言ったが……なんだろう?
「……マユにさ、"あんた"の本当のこと、話したのか?」
不意にイツキは声色を変えて、俺に対して"あんた"と呼んだ。
これは、イツキなりの"俺"に対する区別だ。
「いや、それはまだ話してない。昨夜の告白がいきなりだったし、"俺"のことは大会が終わって、落ち着いてからちゃんと話すよ」
落ち着いて話せば、マユだって分かってくれるはずだ。
「そっか。それならいいんだ。「あたしの親友に嘘ついたまま付き合うなら許さねーぞ」って釘刺すつもりだったけど、ちゃんと話す見通しがあるなら、あたしから言うことはねーや」
うん、とイツキは、
「……"リョー"が幸せになるなら、それでいいんだ」
――何かを確かめるように頷くと。
「贔屓目なしにしても、二人ともお似合いだからさ、ちゃんとマユのこと、可愛がってやれよー?」
次の瞬間には『イツキらしい屈託のない笑顔でバシバシと肩を叩いた』
きっと、これがイツキにとって、最後の『俺に対するイツキらしさ』になるからだろう。
「……イツキ」
「ふふーん、二人のキューピッドを演じてみせた、あたしに感謝しろよー?」
「はいはい、ありがとな」
「なんか感謝が雑ぅー!?」
ありがとう、イツキ。
嘘偽りなく、心からな。
その一方で、リョウマとイツキとは違う人気の無い場所で、トモエとナナは二人でいた。
「初恋は実らないって、ほんとですね……」
ナナは俯きがちにそう呟いた。
「オウサカくんのこと、好きだったものね」
トモエは、ナナが何故、リョウマとマユの関係報告を聞いた時に、一人だけ反応が遅れていたのか、その理由を察していた。
「やっぱり、トモエセンパイにはお見通しでしたか……」
「アマネだって知ってると思うわ。気付かなかったのは、当人くらいでしょうね」
それくらい、ナナのリョウマへの恋愛感情は明確だった。
「わたしなりに、好き好きアピールはしてたつもりだったんですけど、ね……」
星の巡り合わせが悪かったのかもしれない。
ほんのもう少し、リョウマと接する時間が長ければ、あるいは。
「って、ごめんなさい、トモエセンパイ。こんなんじゃ、キャンペーンガール失格ですね……」
「いいのよ。キャンペーンガールだって、女の子になっていいはずだもの。それを失格だと言う資格は、誰にも無いわ」
トモエはただ一定の距離を保ち、忌憚の無い言葉を放つのみ。
「泣きたいのなら、泣きなさい。泣きたい時に泣けない人間に、誰かを好きになる資格は無いから」
「うくっ、ぐすっ……トモ、エッ、センパ、イッ……!」
嗚咽を洩らして泣きじゃくるナナに、トモエはただその背中を優しく擦るだけ。
決勝戦開始の少し前まで、そうしていた。
そして、その時を迎える。
『レディースエンッ、ジェントルメン!見よ!静岡は、赤く燃えているぅぅぅぅぅーーーーーッ!!』
初っ端からテンションが天元突破してるナナちゃんのアナウンスから、決勝戦開催は始まった。
『初日からの人も!二日目からの人も!今日のために来た人も!ようこそいらっしゃいましたー!わたくしっ、キャンペーンガールのぉっ、ホシカワ・ナナと申しまぁーっす!!』
うおぉぉぉぉぉ!!と湧き上がる会場。
「さぁっ、もはや語るまい!泣いても笑っても、最後のゲーム!掴んだワンチャンス、誰にも渡すな!ガンプラバトル全国選手権、決勝戦をこれより開始致します!チーム・フォルテA・B両チーム、チーム・セイントエスパーダ、チーム・ビルドシンフォニーの選手は、出撃スタンバイをお願い致しまぁすぅぅぅぅぅッ!!」
20台の筐体が一斉に立ち上げられ、次々にスタンバイモードへ切り替わっていく。
フィールドセレクトは『衛星軌道上』
シンプルな宇宙ステージ……に見えて、大気圏に近付き過ぎると地球の重力に引きずり込まれ、そのままフィールドアウトになるようだな。
「頑張ろうね、リョウマくん」
「あぁ、最初から全力だ」
マユとコツンとノックするように拳を擦り合わせて、さぁ行くぜ!
「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」
「アサナギ・マユ、ガンダムファラリアル、決心解放(フィックスリリース)!」
「タツナミ・イツキ、ドラゴニックガンダム、行っくぞー!」
「ミカゲ・トウカ、ガンダムグレモリータナトス、行くわ」
「サイキ・ケイスケ、ジムカラミティ!チーム・ビルドシンフォニー、出るぞ!」
「シノミヤ・トモエ、フルコマンドガンダムMK-II、行くわよ!」
「レイセン・アンリ、ガンダムグシオンタンザナイト、参ります」
「ツキノミヤ・ヤコ、ザクシュヴァルツクーゲル、出るぞ」
「アサクラ・ハルヤ、べギルエリス、出撃する!」
「ゴジョウイン・アマネ、ゼイドラ・スタイン、チーム・セイントエスパーダ、行くぞ!」
全機出撃、と同時に作戦開始だ。
「これより作戦を開始する。強襲チームは私について来い!」
ゴジョウイン先輩のゼイドラ・スタインを先頭に、マユ、ケイスケ先輩、シノミヤ先輩、ヤコさんらが大きく戦線を離れていく。
さて、打てる手は打った。あとは出たとこ勝負だ。
程なくして、敵対機の反応が多数、真っ直ぐに俺達陽動チームに近付いてくる。
AGE-2、アルトロン、デュナメスと、
インフィニットジャスティス、ガンダムAGE-3オービタル、レジェンド、百錬、ゴールドフレーム天の五機……やはりいずれも陰りを帯びたカラーリングだ。
だが、大喬ガンダムアルテミーともう一機はどこに……?
「来るぞ、迎え撃て!」
アサクラ先輩のべギルエリスが、ビームライフルとビームキャノンの両方を以て牽制射撃するのに合わせ、俺もビームライフルで牽制、アンリ嬢のグシオンタンザナイトもガトリングガンを合わせてくれる。
敵対機の群れは即座に散開し――全機が、全身から眩い輝きを放つ。
「疑似覚醒システムだと!?」
「厚顔無恥にも程がありますね」
アサクラ先輩は驚き、アンリ嬢は淡々と罵る。
「へんっ、今更そんなインチキが通用するかってーの!」
「問題無いわ、作戦を続行する」
イツキは啖呵を切り、ミカゲさんはやはり冷静だ。
各々、疑似覚醒システムによって底上げされた性能のライフルを撃ってくるが、まだ距離がある内は躱せる。
姿の見えないもう一機の存在が気になるところだが、それを気にしている余裕はない。
アルトロンと、インフィニットジャスティスと、何故か丸腰で突っ込んでくるAGE-3、日本刀を構えた百錬の四機が接近を仕掛け、残りがライフルによる射撃を続行、さらにはレジェンドからドラグーンが放たれてくる。
乱戦に縺れ込む前の牽制射撃――ひいては、こちらを分断して孤立させて各個撃破を目論んでいるのだろうが。
だが、まだ未確認の敵が一機いるとは言え、流れとしては悪くない流れだ。
大喬ガンダムアルテミーともう一機がいたとしても、二機。
向こうにはゴジョウイン先輩とヤコさんと言う、チーム・セイントエスパーダの双璧がいるのだ、足止めされるとしても、何分も釘付けられることは無いだろう。
さて、ここからは持久戦だ。頼むぞ、強襲チームの皆さん。
一方の、アマネが率いる強襲チームは、フィールドアウトの警告スレスレの宙域を通過しつつ、チーム・フォルテの背後へ回り込もうとしていた。
ここまで、まだ誰も撃墜されていない。
「リョウマ達は持ちこたえてくれてるな」
ケイスケは僚機確認モニターで、奮戦しているオリジネイトガンダム、ドラゴニックガンダム、ガンダムグレモリータナトスを見やる。数的不利にも関わらず、互角以上に戦えている。
「だが、私達の強襲が遅れれば長くは保つまい。急ぐぞ」
急ぐぞと言いながらも、アマネのゼイドラ・スタインは一定の速度を維持しており、それ以上スピードを上げることはない。
当然だが、スピードの上昇とエネルギーの消耗は比例している。
強襲を急ぐ余り息切れを起こしても意味はないからだ。
しかし、先を急ぐ彼女らの前に立ち塞がる機影が"三つ"。
「作戦を読まれるのも作戦の内だと言っていたけど……三機?」
その反応に、トモエは疑問を浮かべた。
今、陽動チームと戦っている敵機は八機……『一機多い』のだ。
現れたのは、大喬ガンダムアルテミーと、陰りを帯びたカラーリングのガンダムキマリス、そして、
「ッ、あの、F91……!」
普段冷静沈着なアマネが、僅かとは言え挙動を乱した。
クロスボーンガンダムX1に似たカラーリングのガンダムF91――ナインティワン!
「待って、どうして一機多いんですか!?レギュレーション違反です!」
マユはオープン回線で、敵対機である大喬ガンダムアルテミーとガンダムキマリスに呼び掛けた。
すると、ガンダムキマリスから皮肉げな男の声が応じる。
『レギュレーション違反?違うね、あのF91は招かれざる客、乱入者さ。レーダー反応をよく見てみなよ』
言われるままにマユはレーダーに目を落とし――ナインティワンの反応は、第三勢力――黄色の反応を示している。
「だとしても、あんたらを攻撃しないのはおかしいんじゃねぇか?」
ケイスケもオープン回線に混ざり、ナインティワンの挙動を注視する。
その立ち位置は、第三勢力と言うよりも、チーム・フォルテに与するような位置だ。
『さぁね、それは"彼"に訊いてくれたまえよ。答えてくれるかは知らないがね』
それよりも、とガンダムキマリスは大槍――グングニールを腰溜めに構える。
『自分達の心配をした方がいいんじゃないかい?』
ガンダムキマリスの挙動に合わせるように、大喬ガンダムアルテミーが三色響弦の弦にそっとマニピュレーターを添えると――
『――"悪魔の贄"になりなさい、アサナギ・マユ』
心地好く――不気味なほど心地好い――音色が響いた。
不意にガンダムファラリアルが停止し……次の瞬間、胸部のシェルユニットから"銀色のヘックス状の物質"が溢れ始め、全身を覆い尽くし始めた。
「ちょっ、えっ、なにっ、なにこれっ!?」
同時にマユは見てしまった。
銀色のヘックス状物質が、『自分の腕にも浮かんでいる』ことに。
それが溢れ始め、全身を覆い尽くしていくのも。
「た、たす、け、リョウ、マ、く 」
観客席からモニター越しにその様子を見ていた、チユキとシオンは。
「なっ、なんなんすかっ、何が起きたんすか!?」
驚愕に狼狽えるチユキ。
「ありゃ『DG細胞』じゃあないか!?でも、あの中にデビルガンダムなんていない、どうなってる!?」
そして、DG細胞に覆われたガンダムファラリアルがドグンドグンと激しく脈打つように震えると、その銀色の殻を破いて――
レジェンドのドラグーンのビームを躱しーの、シュペールラケルタビームサーベルで斬り掛かってくるインフィニットジャスティスにはビームサーベルで斬り返しーの、日本刀で居合い切りをしかけてくる百錬をヒートブレードで弾きーの、遠距離からAGE-2とデュナメスが撃ってくるからこれも躱しーの、……盛り沢山か。
いやまぁ単純計算でも向こうの戦力はこっちの倍だ、疑似覚醒システムによる性能向上も仮想定してもキルレシオ換算で言えば、最初に撃墜機が出た時点で三分保てば上出来ってところだ。
しかし接敵して五分後、まだ誰も撃墜されていない。
それは相手チームも同じことだが、彼我の戦力差を鑑みても、とっくにすり潰されてもおかしくはない。
が、数字や理論だけで戦が決まるとは限らないものだ。
何せこちらは背水上等で戦っている、気迫だけならこちらが上だと自信満々どや顔で言ってのけられるくらいには。
このまま陽動を続けて、強襲チームとの挟撃が成れば、こちらの勝ちの目も――
「リョウマ!おい聞こえるか!リョウマ!」
不意に、ケイスケ先輩から通信が届いた。しかもなんかめっちゃ焦ってる。
ってかこれ、オープン回線じゃん?敵にも聞かれますよ?
「なんですケイスケ先輩、今こっちはそれどころじゃ」
「『作戦が失敗した』!それとっ、アサナギのファラリアルがやべぇことになった!今すぐお前が来てくれ!」
作戦が失敗した?マユのファラリアルがやばい?
なんだ、強襲チームに一体何が起きている?
錯綜する思考の隙を突くように、ミラージュコロイドによって死角に回り込んでいたゴールドフレーム天のマガノイクタチを蹴っ飛ばして逃れて。
ジムカラミティのモニター映像を共有してもらうと、
紅と黒を基調として、妖しく輝く翼を背負った――闇に堕ちてしまったかのように禍々しい『ガンダムエアリアル』がそこにいた。
「なっ、これは……!?」
機体銘――『ガンダムエビルエアリアル』
見れば、ビームアルケビュースの代わりに、ガンビットを改造したかのような二振りの実体双剣を手に、シノミヤ先輩のフルコマンドガンダムMK-IIに襲い掛かっている。
どう見てもマユの趣味じゃないな、マジで何が起きている!?
「二進も三進もいかねぇ、救援を頼む!」
いや、頼むって言われてもさぁ!?
こっちはこっちで一秒でも早く挟撃作戦を実行してほしかったんだが……!
「くっ……けどっ、ここで俺が離れるわけには……!」
ただでさえ数的不利なのにこれ以上戦力を割くわけには、
「行けよ、リョー!」
すると、イツキが割り込んで来た。
ドラゴニックは、ツインビームトライデントとドラゴンハング一対を縦横無尽に振るいながら、乱戦の中奮戦している。
「イツキ?だが、」
「ごちゃごちゃ言ってんじゃねぇ!"あんた"がいないくらいで、やられちまうほどあたしらは弱くねーし!」
「タツナミさんに同意ね、オウサカくんにおんぶに抱っこでここまで来たわけじゃないことを証明する、いい機会とでも思っておくわ」
集中砲火に曝されながらも、グレモリータナトスのナノラミネートコートで平然と立ち回っている、ミカゲさんまで。
「持ちこたえるくらいはやってやる、早く行け!」
「問題ありません、任務を続行します」
アサクラ先輩とアンリ嬢も……あーもう、皆さん揃ってお人好し過ぎかよ!
「…………分かった、頼む!」
ビームサーベルも使わずに素手で殴り掛かってきたAGE-3オービタルを軽く往なして、オリジネイトを反転させ、強襲チームが向かっていった方向へ加速させる。
そのリョウマのオリジネイトガンダムを見送ったイツキは。
「(そう……これでいい。"この物語"のあたしの"役割"は、リョーとマユを幸せにするための、引き立て役)」
諦めたわけでも、悲壮さも無い。
ただ、「そう」だと感じた。
理解したわけでも、理解できたわけでもない。
リョウマ(幼馴染み)にも、マユ(親友)にも幸せになってほしいと願う、"望み"だ。
「(例えあいつが、"あたしの知ってるリョー"じゃ無かったとしても、この想いに嘘はつけない)」
自分の大好きな二人が結ばれ、幸せになると言うのなら、なんだって喜んで引き受けてみせようじゃないか。
蹴りかかってきたインフィニットジャスティスのグリフォンビームブレイドをツインビームトライデントで弾き返し、間髪なくドラゴンハングで殴り飛ばす。VPS装甲に対して打撃は大したダメージにはならなかったが、
間髪なく突き出されたツインビームトライデントが、そのボディを貫いてみせた。
インフィニットジャスティスガンダム、撃墜。
「――かかって来やがれ。あたしの幼馴染みと親友の幸せを邪魔するってんなら、全員まとめてブチのめしてやる」
双頭の三尖槍(ツインビームトライデント)を荒々しく振るい、翡翠色の剣閃が二重の8の字を描き、ゆらりゆらりと双龍(ドラゴンハング)が睥睨するそれは――敢えて言わせてもらうならば、『阿修羅すら凌駕して』いた。
オリジネイトを超特急で強襲チームの方へ向かわせていると、イツキが敵のインフィニットジャスティスを撃破した通知が届いた。頼もしい幼馴染みだ。
すると、彼方に禍々しい輝きを放つ紅光が見えた。アレか!
二振りの双剣で凶暴に斬りかかるエビルエアリアルに、ヤコさんのザクシュヴァルツクーゲルがヒートホーク二丁で凌いでいるのが見える。
他にいるのは……大喬ガンダムアルテミーと、キマリスと……ん?あのF91は†ゼロ・マスター†の機体……いや待て、なんか敵チーム一機多くね?
よく見ると、F91――ナインティワンは、第三勢力を意味する黄色の敵対反応を示しているが……チーム・フォルテを狙わない辺りに、『敵寄りの第三勢力』ってところか?
とにかくは、ケイスケ先輩と合流だ。
自機の火力をフル活用して敵機を牽制し続けるジムカラミティの元へ急ぐ。
「ケイスケ先輩!」
「おぅ来たかリョウマ!すまん、アサナギを止めてくれ!」
「了解……ケイスケ先輩は、俺の代わりに陽動チームの方に向かってくれますか」
「分かった、頼んだぞ!」
入れ替わるように、今度はジムカラミティが陽動チームの方へ向かうのを尻目で確認したら。
まずはファラリアルが何故あのような姿になってしまったのかを確かめなければ。
オリジネイトを再度加速させつつヒートブレードを抜いて、ザクシュヴァルツクーゲルに斬りかかるエビルエアリアルを横合いからインターセプトする。
「オウサカか!」
「こっちは俺に任せてください、ヤコさんは他のみんなを!」
「了解した、任せる!」
こちらは俺に一任してくれるらしく、ヤコさんはすぐにゴジョウイン先輩の方へ向かって行った。
ゴジョウイン先輩のゼイドラ・スタインはナインティワンと、シノミヤ先輩のフルコマンドガンダムMK-IIは大喬ガンダムアルテミーとそれぞれ戦っているが、ケイスケ先輩の八面六臂の援護射撃もあってようやく均衡が保てていた状態だ、長くは保たない。
早くマユをなんとかしなければ……!
左右のヒートブレードが、実体剣になっているらしいビットステイヴ――ブレイドビットとでも言うべきか――とギチギチギチギチと擦り鳴らし合う。
「マユ!聞こえるか!?俺だ、リョウマだ!」
呼び掛けるが、マユからの応答は無い――ふと、エビルエアリアルの胸部のシェルユニットが、銀色のヘックス状物質に覆われている――これはDG細胞か!?
何故こんなものが――と思考に浸る余裕はない、瞬間、エビルエアリアルが右脚を振り上げようとしたので、強引に弾き返して距離を取ると、一拍の後にエビルエアリアルの右爪先からビームサーベルが伸びて、"蹴り斬り"を仕掛けてきた。
あっぶね、もう0.2秒でも反応が遅れてたらまともに食らったかもしれん。
しかし爪先のビームサーベルが躱されるや否や、エビルエアリアルは即座に猛然と斬り掛かってくる。
左右のブレイドビットと、両足先のビームサーベルによる四刀流。
クソッ、なんて苛烈な攻撃――だがこれはマユのそれじゃない。
しかもそれだけじゃない、各部にマウントされているガンビットまで遠巻きに囲んで撃ってくる。
近付けば四刀流、離れようとしてもガンビットが逃さない、か。なんて意地の悪い機体なんだ。
必死に躱して凌いでを繰り返しつつ……ひとつの仮説を立てる。
――エビルエアリアルのシェルユニットを覆っているのがDG細胞だとしたら。
DG細胞は精神感応物質――強固な意志を持つ者には感染しないと言う性質を持つ。
東方師匠――マスター・アジアは、自らDG細胞に手を伸ばしながらも自身はそれを跳ね返し、マスターガンダムの修復のみにそのリソースを割いていたそれが証明している。
そして、ドモン・カッシュの爆熱ゴッドフィンガーよりも熱い愛を受けたレイン・ミカムラはその想いに応えるためにDG細胞を跳ね除けてみせた。
ならば、俺のやることはひとつだ。
狂ったように襲い掛かるガンダムエビルエアリアルと、それを必死に食い止めようとするオリジネイトガンダムの戦いを尻目に。
フルコマンドガンダムMK-IIが放つビームライフルとガトリングガンによる弾幕を掻い潜る大喬ガンダムアルテミー。
「どんな手品かは知らないけれど、愛しあう二人を互いに戦わせるなんて、随分と無粋なことをしてくれるのね!」
『愛しあう二人?世迷い言を言わないで』
三色響弦から斧刃を引き出して斬り掛かる大喬ガンダムアルテミーに、フルコマンドガンダムMK-IIもビームサーベルを抜いて打ち付け合う。
『"贋作"の世界で生まれた愛に、』
弾かれ合い、大喬ガンダムアルテミーは即座に三色響弦を薙ぎ払い、フルコマンドガンダムMK-IIのフルコマンドブースターの右翼を叩き斬った。
『どんな意味があるの?』
「くっ……愛に意味を問うなんて、ナンセンスね!」
大きくバランスを崩すフルコマンドガンダムMK-II、しかしトモエは操縦桿を大きく捻り、叩き斬られた右翼に回り込むなりそれを蹴り飛ばし、即座にシールドのビームキャノンを連射、まだミサイルや弾薬を残したガトリングガンに引火、誘爆させる。
倒したとは思わない、これはあくまで目眩まし、と残る左翼のマイクロミサイルポッドを開き、全弾の内の半数近くを爆煙に撃ち込み、さらに頭部のバルカンポッドも続けて撃ち込む。
爆煙に爆煙を重ねてもなお、大喬ガンダムアルテミーの撃墜通知は表示されない。
直後、爆煙を切り裂いて姿を現す大喬ガンダムアルテミー、しかし装甲が爆煙に焼かれた以外の損傷は目立たない。
『あなた達に邪魔はさせない。この"贋作"の世界から、わたし達のリョウくんを取り戻す!』
そのSDガンダム特有の瞳に"狂気"を響めかせ、大喬ガンダムアルテミーは舞う。
さらにもう一方、ナインティワンとガンダムキマリスによる猛攻を、ゼイドラ・スタインとザクシュヴァルツクーゲルは背中合わせに立ち回って凌いでいる。
「ヤコ、あのF91は私にやらせてくれ」
「出来るのか?前の大会で惨敗したと聞いたが」
ヤコも、アマネが準決勝でゼロ・マスターと言う選手名のロボットに一方的に負かされたことは聞いていた。
アマネの実力は疑ってはいない。だが、「一度は負けた」と言う劣等感が苛むのではないかと思われたが。
「出来るさ。『もう既に確証は出た』」
アマネはモニター越しのヤコの顔に、力強く頷いてみせる。
「ならばよし。キマリスの方は任せておけ」
「……仕掛ける!」
タイミングを見計らって二機は機体を翻し、ゼイドラ・スタインはナインティワンへ、ザクシュヴァルツクーゲルはガンダムキマリスへ、それぞれ立ち向かう。
ガンダムキマリスと対峙するザクシュヴァルツクーゲル。
『ツキノミヤ財閥のご令嬢か。俺様を選ぶとは、見る目があるね』
「ふっ、そうだろうとも。『そんなことも分からんようではやってられん職業』でな」
『それは怖いねぇ。けど、もうひとりの方はどうかな?』
「どう、とは?」
『あのF91にはリョウマ――『君達の知っているオウサカ・リョウマ』とは違う、"オリジナル"のリョウマのデータが使われている。この間は"マフティーダンス"のせいで遅れを取ったようだけど……その問題点は既に解決済みだ』
「ほぅ、それは興味深いなぁ。まぁ、疑似覚醒システムに頼っている時点で評価はゼロだがな」
『ふむ……合法ロリか。いくら美女美少女が大好きな俺様でも、小学生の相手まではちょっと出来ないねぇ』
「ははははは」
いつものように笑って見せたヤコであったが、
『ッ!?』
一瞬、ガンダムキマリスの挙動が乱れた。
何か――龍の逆鱗に触れたか、虎の尾を踏んだか――否、狐につままれた。
「おい"小僧(クソガキ)"。ひとつだけいいことを教えてやろう――『てめーは私(おれ)を怒らせた』」
狐耳型のアホ毛が鋭く尖り、黒髪も九尾のごとく逆立つ。だからどうなってんだその黒髪ロング。
そして何より、紅色の瞳から光が消え、ドス黒い輝きを爛々と放っていた。
ヤコとガンダムキマリスのファイターの通信を聴いていたアマネは、ナインティワンと対峙する。
「(オリジナルのオウサカ・リョウマのデータ……と言ったか)」
詳しくは分からないが、恐らくは当代最強クラスのファイター、それをデータ化してAIに学習させたのが、あのゼロ・マスターと言うロボットなのだろうと言う想像は出来たが、そんなものに意味はない。
何故ならナインティワンは即座にビームライフルとヴェスバーを連射しつつ、ゼイドラ・スタインへ襲い掛かってくるのだから。
「(あいも変わらず恐ろしく正確な射撃だ、AIが相手だと分かれば納得も出来るが……)」
躱しつつ、即座にゼイドライフルを連射して撃ち返すゼイドラ・スタイン。
ナインティワンもビームに対して回避運動を取るものの、僅かに装甲を掠めた。
何故掠めたのか、とでも言うようにほんの僅かに挙動が止まったナインティワンに、アマネは操縦桿を押し出して加速、一気にゼイドラ・スタインを肉迫させる。
左マニピュレーターにゼイドラソードを装着すると同時に斬り掛かるが、ナインティワンの反応も早く、ゼイドラソードの一閃を躱すと同時にビームサーベルを抜
「読めているぞ」
くよりも先に、ゼイドラ・スタインがさらに側面に回り込んでいた。
ビームサーベルによる迎撃よりも、ビームシールドによる防御を優先するナインティワン。
ゼイドラソードが振り降ろされ――寸前でピタリと止まり、間髪なくガンマンの早撃ちがごとくゼイドライフルを撃ち――しかしナインティワンが回避運動を取ったためにバイタルパートを撃ち抜けず、しかしビームは右肩を抉る。
するとナインティワンは一度イニシアティブを取り直し、各部のバーニアを展開、肩の放熱フィンを広げ、頭部のマスク部分が開く、強制放熱状態へと移り――全身が眩い輝きを放つ――疑似覚醒システムを発動した。
反撃だと言わんばかりに攻め掛かってくるナインティワン。
対するゼイドラ・スタインは僅かに機体を左に傾け――ナインティワンの接近に合わせてフェイントを混ぜて右に回避――これを予測していたナインティワンはすぐにその方向へ避けるゼイドラ・スタインへ追撃をかけ――
右に回避運動を行ったはずのゼイドラ・スタインは何故か反対方向へ躱しており、ナインティワンの背後にゼイドライフルを撃ち込んだ。
ヴェスバーを懸架したバックパックユニット――メインスラスター郡が破壊され、ナインティワンは大幅に弱体化する。
「いかに優れたファイターのデータを学習させたところで、生身の人間との"駆け引き"は出来まい?」
ニヤリと凄味を効かせた笑みを浮かべるアマネ。
確かにAIの高速処理は人間が行うそれよりも早いだろう。
だがそれはあくまでも、"見てから行っている"に過ぎない、後出しジャンケンのようなものだ。
ならば、後出しジャンケンをしてくると分かっていれば、相手の後出しに合わせて手を変えればいいだけのこと。
戦闘力ががくりと落ちたナインティワンに、ゼイドラ・スタインは苛烈に襲い掛かる。
しかしナインティワンも然ることながら、アマネが仕掛ける猛攻に対応してみせる――が、時折差し込まれる先読みには打つ手が無く、
ゼイドラソードを振り抜く――と見せかけて逆のマニピュレーターのビームバルカンからビームサーベルを発振させており、これに対する反応が遅れたナインティワンはボディを深く抉られ、そのゼロ距離のままビームバルカンの連射を撃ち込まれた。
ナインティワン、撃墜。
「最初は何故だと思ったが……タネさえ分かればこんなものか」
強敵――否、"敵"ですらない、ただの"演算処理結果"を削除しただけだ。
気が付けば随分作戦行動から離れてしまった。
アマネはゼイドラ・スタインを翻させ、他の味方の救援に向かうことにした。
激戦はまだ続いている――。