ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK 作:さくらおにぎり
馬の骨の妹さんこと、チユキちゃんとのバトルを行ったその翌日。
休日でも今朝の俺は早い。
朝起き抜けに洗濯やら朝食やらを終えたら、手早くお出かけの準備。
今日はマユちゃん、イツキ、ミカゲさんの女子三人と、最寄りのガンダムベースにお出かけするのだ。
休日に、クラスメートの女の子三人とお出かけ。なおかつ男子は俺一人だけ……完全にギャルゲーじゃん!
きっとこの辺りから選択肢が出てきて、ヒロインとの好感度のアップダウンが発生するんだろうなぁ……という妄想は
待ち合わせは、午前九時に駅前広場だったな。
向こうでガンプラバトルもするから、オリジネイトも忘れずに用意して、と。
さぁそろそろ良い時間だし、出るとしよう。今日も元気に……
リョウマ、行きまーす!
駅前広場についた頃には、時刻は8:45。
完璧な十五分前行動やな。意識高い系男子だよ、俺。
しかしまだ誰も来ていないな?
ならばここは、彼女を待つリア充彼氏の気分を味わいながら待つとしよう。
「おーっす、リョー!」
と思った矢先に、ビバチーンと背中を叩かれて、彼女を待つリア充彼氏の気分を台無しにされてしまった。
気配を殺して背後から一撃とは……どこのどいつだシュバルツ・ブルーダー!
って、イツキじゃないか。むしろどこのチャイナだったわ、シェンロンガンダム的な意味で。
だからって私服がチャイナドレスじゃなくて良かった、普通の可愛らしくも、動きやすそうなイツキらしい私服だ。
「挨拶代わりに背中を叩くなよイツキ。俺が心臓を悪くしてたらどうするんだ」
「え?リョーって心臓弱かったっけ?」
真顔で返すなよ、答えにくいじゃないか。
「いや、健常だけど」
「じゃぁいーじゃん!あ、はよーっす」
えぇんかい。いや、あんまり良くないけど。
「うん、おはよう。アサナギさんとミカゲさんは……一緒じゃないのか」
てっきりイツキと一緒に来ると思ってたから、ちょっと意外だった。
「マユは時間にしっかりしてるから大丈夫、ミカゲちゃんはどうか分かんねーけど、普段遅刻はしてねーし大丈夫っしょ」
なるほど、普段から学園に遅刻してなければ、待ち合わせ時間の心配はしなくていいわけか。
「そっか」
まぁ、待ち合わせ時間の九時まではまだ10分以上あるんだ、焦ることも無かろうさ。
「なんか久しぶりだなー、リョーとこうして休みの日に遊びに行くとかさ」
……うん、"俺"は初めてだけどな。
「七年間会ってなかったもんなぁ、そりゃ久々にもなるか」
このオウサカ・リョウマの肉体としての記憶では、小学四年の一学期に転校し、それ以降は会っていない……ということになっている。
――でも、なんか引っ掛かるんだよな。
イツキってこんなギャルギャルしい感じの娘だっけ?
もっと髪とか雰囲気もふわふわしてて、むしろマユちゃんの雰囲気に近かったような、そもそも名前もなんか違――
■カ■・チ■
ズキンッ と突然、頭の奥が痛みだし、記憶の掘り返しを拒否した。
「うぐっ……」
「リョ、リョー?大丈夫か?」
痛覚に思わずこめかみを抑えたら、イツキに心配されてしまった。
「いや、大丈夫。来る前にコンビニで冷凍スムージー飲んでて、頭キーンがぶり返したみたいだ」
「なーんだ、慌てん坊だなぁ」
心配して損した、とイツキはおかしそうに笑う。
咄嗟の嘘にしてはよく出来た。
「あっ……オウサカくーん、イツキー」
おっと、マユちゃんが来たか。
彼女の雰囲気にマッチした、清楚なチョイスだなぁ。
周囲の野郎の皆さんの視線を向けさせてるし、やっぱり美少女だ。
「おはよう、アサナギさん」
「マユはよーっす!」
イツキ、マユちゃんと来て、残るはミカゲさんだけだ。
「ミカゲさんはまだなのかな?」
「まだ待ち合わせ時間まで少しある。五分前になってもこなかったら連絡してみようか」
ミカゲさんとの連絡先は、昨日の時点でガンプラバトル部の中で共有されている。
だから、もしも急用が入ってドタキャンする必要があったとしても、すぐに連絡の一つくらいは寄越してくれるはずだろう。
ならば慌てずに待つとしよう。
来ないなら、来るまで待とう、ミカゲさん。
織田信長なら殺しちゃうじゃないか、とかいらんことを考えていたら。
「ごめんなさい、待たせたわね」
イツキやマユちゃんとも違う方向からやって来た、神秘的な紫色のロングストレートヘアの美少女。
……え?誰、この人?
いや、声色はなんとなーく聞き覚えはあるんだけど。
俺と同じことを考えているのか、マユちゃんとイツキも互いに顔を見合わせて戸惑っている。
そんな俺達の様子を見かねてか、美少女はため息をついた。
「ハァ……こうなるとは思ってたのよ。ミカゲよ。ミカゲ・トウカ」
ミカゲ・トウカ……あ、ウチのクラスメートで……そう、ガンプラバトル部の部員だね。
……嘘だと言ってよバーニィ。
「「「えぇーーーーーっ!?」」」
この人、ミカゲさんかよ!?
完ッ全に別人じゃねぇか!!
予定時刻の電車が近付いてきたので、とりあえず切符を購入して、電車に乗り込んでから。
「……ほ、本当にミカゲさんだよね?」
未だに信じられないのか、マユちゃんは恐る恐るミカゲさんに本人確認する。
「残念ながら本人よ。信じられないのも、分からないでもないけど」
他ならぬ本人がそう言っているのだから、間違いないだろう。
「いや、でもさ……学園の時と全っ然違うじゃん?なんで普段から、今見たいなすげーキレイな感じにしねーの?」
イツキもまだ混乱している。
そりゃそうだろう、学園では髪を結って瓶底眼鏡でちょっと猫背気味で、「アイアム地味子ちゃん、話しかけないでね」って感じの雰囲気なのに。
今俺達と同じ車両にいるミステリアス系美少女が、それと同一人物だと言う方が信じられない。
心做しか、口調も普段よりハキハキしてるし。
「まぁ、その……自分で自分のことをこういうのもなんだけど。今の私って、結構人目を引くでしょう?一年の頃に、大変……えぇ、ほんっとうに大変面倒な目に何度も遭ってね。そういう面倒事を避けるために、わざわざ"地味子ちゃん"を演じてるのよ」
これだから色眼鏡を通さなきゃ人を見れないお猿さんは、とミカゲさんは心底から忌々しげに吐き捨てる。
つまり、ミカゲさんは一年の頃にモテモテ過ぎて、硬く伸び切ったチンチンをピラピラさせたイエローモンキーチェリーボーイズにアンなことやコンなことをサれそうになったことが何度もあったということか。
「……え、ちょっと待って?じゃぁミカゲさん、もしかして俺はいない方が良かったりするのか?」
男嫌いなら、俺がいたらむしろマズイのでは?そもそも話しかけた時点で地雷の上でハンドスラップしてないか?
「オウサカくんは、単に私に勉強を教えて欲しいって話しかけただけでしょう?いつの間にかガンプラバトル部に勧誘されてたけど」
「でも、まぁ、ガンプラバトル部に人出が欲しかったのは本当だったし、ミカゲさんが入ってくれたのは単純に嬉しかったわけで」
「何か勘違いしてるようだけど、私は別に男の人が嫌いなわけじゃないのよ?人の皮被ったお猿さんは嫌いだけど」
「あぁ、それなら良かった」
うん、本当に良かった。
まぁようするに、サ↑ル↓からエロい目で見られるのが嫌なだけで、普通に接する分には問題ないと。
「じゃぁミカゲさん、今はコンタクトしてるの?」
マユちゃんは、ミカゲさんがいつもの瓶底眼鏡をしていないことに目を向けた。
確かに、眼鏡かけて髪をおさげにしているのが、(俺達三人から見た)ミカゲさんのトレードマークみたいなものだったし。
「いいえ、裸眼よ。私、視力は悪くないもの。あんな瓶底眼鏡だって伊達だから度は入っていないし、カモフラージュの一貫ね」
わざわざ輪郭をぼかすほどの分厚い眼鏡をかけているのも、"地味子ちゃん"を演じるためのものか、用意周到だな。
「なんつーか、モテるくらいならいいけど、モテ過ぎると逆に大変だなー……」
イツキは苦笑しているが、やけに共感しているようにも見える。
マユちゃんやミカゲさんとはまた違うタイプの美少女だしなぁ、当然、サ↑ル↓みたいなのに興奮されたこともあるんだろう。
「モテる女って辛いわ、で済むならどれだけ良かったことか……ハァ、めんどくさい女でごめんなさいね」
幸せが逃げそうなくらいの溜息をつくミカゲさん。
あぁ……なんか分からんでもないなぁ。
乙女ゲーの世界の主人公に異世界転生した時も、共通ルートの時点で攻略対象全員に一発ヤられたこともあるし、美少女を前にした男の八割はそうなるもんなのかなぁって思ったことはあるわ。
尤も、性別が逆でも同じことが言えて、あまりにもイケメン過ぎると、イケメンを狙ったハエのような女が延々纏わりつくものだ。
男にせよ女にせよ、モテるのは程々でいいってことだな。
そういえば、人は異性を見て0.5秒で性的対象かどうか判断出来るってなんか聞いた覚えがあるな。"一目惚れ"のメカニズムだとかナンとか。
「ミカゲさん、何か辛いことがあったらわたし達に頼っていいからね。力になるから」
「マユの言う通りだ、あたしらはもう友達だもんな!」
ミカゲさんは「友達がいない」って言ってたけど、「作れない」んじゃなくて、そもそも「作らせてくれない」環境にいたんだ。自己防衛のために。
俺の口からは言わないけど、せめてガンプラバトル部が、ミカゲさんにとって警戒しなくてもいい居場所になるようにしないとな。
っと、次が降車駅だ。
日本各地に点在するガンダムベースには、地域ごとに違う歴代主人公ガンダム立像が建造されており、この地には『ガンダムエクシア』が聳え立つ。暗くなると、GNコンデンサーやGNドライヴが発光する仕組みらしい。
開店前から、老若男女問わず多くの顧客に満ち溢れてごった返している。
「まだ開店もしていないのに、賑わっているのね」
長蛇の列の最後尾に足を踏み入れると、ミカゲさんが物珍しそうに辺りを見回している。
「休みの日はいつも大体こんな感じだよ」
「新作の発売日とかは、もっとすげーことになるぞ?」
ミカゲさんを気遣ってのことか、マユちゃんとイツキは積極的に話しかけている。
俺も、空気にならない程度には話に混ざっておこう。
「開いたら一気に列が動くから、三人とも気をつけるんだぞ」
中には列の中に強引に割って入ってくる人もいるからなぁ。
『本日も朝早くからご来店の皆様、大変長らくお待たせしました。ガンダムベース、ただいまより開店致します』
アナウンスが流れると、列が動き出した。
人の流れに沿うように、物販コーナーへ流れ着く俺達四人。
さて、今日はミカゲさんがバトルに使うガンプラを見繕いに来たわけだが。
ミカゲさん自身は、昨日にケイスケ先輩の指導の元、ハインドリー・シュトルムを一度触っただけだ。
「ガンダムには色んなシリーズがあるっていうのは知っているけど、よくまぁ、こんなにあるものね……」
陳列棚にズラリと並ぶ、ガンプラ、ガンプラ、ガンプラに、ミカゲは視線を左右させる。
こんなにあると、どれがどれか分からないだろうなぁ。ザクやジムだけでも何十種類もあるわけだし。
「どれでも好きなのを、って言いたいけど、ある程度は俺達がチョイスするべきだろうな」
俺がそういうと、マユちゃんとイツキも頷いている。
すると。
「みんなやサイキ先輩が使っているガンプラってどれ?って訊いてもいいかしら?」
まずはそこから訊いてきた。
ミカゲさんなりの考えがあるのだろう、手分けしてファーストガンダム、ガンダムエアリアル、シェンロンガンダム、ジム・キャノンⅡを集めてくる。ケイスケ先輩は恐らくジム・キャノンⅡをベースにした改造機を使うだろう。
ついでに、俺がファーストガンダム、マユちゃんがエアリアル、イツキがシェンロン、ケイスケ先輩がジム・キャノンⅡをそれぞれ使うことを教える。
この四つのパッケージを見て、しばし考え込むミカゲさん。
「来週の地区大会は、チーム戦で行われるのよね?」
「そうだな、5on5の集団戦になる」
「ガンプラの特徴を見た感じ、オウサカくんとタツナミさんが前衛で、アサナギさんとサイキ先輩が後衛……で、合ってる?」
ファーストガンダムは確かに白兵戦用MSだし、シェンロンは格闘戦が得意なガンダム、エアリアルはガンビットを自在に操る辺り射撃戦に長けているし、ジム・キャノンⅡは見たまんまの砲撃型。
厳密に言えば、ファーストガンダムとエアリアルは射撃・格闘をバランスよくこなせるから、前衛・後衛をハッキリ別けなくともいい。
「大体そんな感じだ。……そう考えると、俺達って意外と遠近のバランスが取れたチームだよな」
「そうなると……私に出来そうな役割は、防御力の高いガンプラで、相手チームの注意を引く……ぐらいかしら」
なるほど。
チーム全体のバランスを鑑みても、遠近での攻撃力に過不足は無いから、代わりに相手からの攻撃を引き受ける防御・陽動役をすべきと考えたのか。
「一々要求して申し訳ないけど、防御力の高いガンプラはどういうものがある?」
「防御力ひとつを取っても、意味合いは色々ある。フルアーマーだったり、装甲が特殊だったり、バリアを装備していたり、あるいは受け流すことに特化したガンプラもある。それらを踏まえるなら……」
俺が過去の異世界転生で「堅くて厄介な奴」を脳裏に列挙していく中、マユちゃんとイツキは迅速に動く。
「
「プラネイトディフェンサーのメリクリウス……は、プレバンだからここじゃ買えないか。旧キットならあるけど、塗り分けが大変だしなー」
フォビドゥンにメリクリウス。
前者はレールガンに曲射可能なビーム砲、腕部機関砲に長柄の実体鎌を装備した重武装の機体だけど、複数ある武器の使い分けや、ビームを歪曲させるゲシュマイディッヒ・パンツァーを使いこなせないと、ただの重くてエネルギー効率の悪い機体でしかない。
後者のプラネイトディフェンサーは長距離ビームなども防ぎ切るほどの防御力を持つし、攻防一体のクラッシュシールドもあるが、複数のプラネイトディフェンサーを上手く配分して防御力と範囲を調整する必要があるため、これもまた扱いの難しい機体だ。
素人が作っても安定した防御力を発揮できる機体、というと。
ハイペリオンは防御可能な時間が極端に短いし、グシオンは装甲が重過ぎて小回りが効かないしそもそも地上戦じゃ役に立たない。
何かあったっけ……装甲が重過ぎない程度で、強い耐性を持つ機体……
ミカゲさんはスマートフォンを素早くタップして、スライドを何度も繰り返して、
「これとかどうかしら?」
画面を見せてきた。
それは、濃紺やガルグレーのカラーに、外套を被ったような外観、半分欠けた錨のような武器を持つ、『ガンダムグレモリー』というガンプラだった。
「あっ、グレモリーがあったね」
「しまったぁ、月鋼のこと忘れてた!」
マユちゃんは納得がいき、イツキは失念していたと軽く自分の頭を叩く。
ガンダムグレモリー……あぁ!アナルホルン……ゲフンゲフン、ギャラルホルンのナディラ家のガンダムフレームか!
確か、素のナノラミネートアーマーの上から、さらにその上位互換である、ナノラミネートコートを持った機体だ。
錨――バトルアンカーの半分は厄祭戦中に欠損したままになって、まるで死神の鎌みたいな見た目になったんだっけ。
なるほど、確かにこれなら素組みで作っても、システム上ではかなり高い防御力を発揮するだろう。
射撃武装が腕部機関砲しかないのがネックだが……まぁ、何かしら武装を追加すれば一応は解決出来るか。
「ガンダムグレモリーだな、取ってくる」
HGIBOのコーナーからガンダムグレモリーを持ってきて、ミカゲさんにそれを手渡す。
ミカゲさんはパッケージをくるくると見回して、
「これにするわ」
購入決定。
初めてのガンプラがガンダムグレモリーですって方は、日本中探してもミカゲさんくらいのものだろう。
物販コーナーでガンダムグレモリーを購入してからは、製作ブースに移動して、各々がやりたいことをする。
イツキはシェンロンの改造の続きだ。何やら『ガンダムナタク(アルトロンガンダム【EW】)』のパーツなども用意している。
マユちゃんはミカゲさんの隣について、プラモ作りのレクチャーをしてあげている。
俺は先程にHGCEの『エールストライクガンダム』を購入したので、その製作だ。これもガンプラ作りの練習です。
「ランナーの状態から直接切るんじゃなくて、少しだけ残して切るの。そうやってランナーからパーツを切り離してから、もう一度。で、その後で紙ヤスリで表面を整える。これを、"ゲート処理"っていうの」
「ふむ」
マユちゃんとミカゲさんの席と向かい合う形を取りつつ、マユちゃんの製作技術を盗み見る。
丁寧で優しい作り方だ。
盗み見た技術を、自分の中に咀嚼し、このエールストライクの製作で実践だ。
にしても、ストライクかぁ……
過去の異世界転生で、ヘリオポリスからアークエンジェルに乗り込んで戦い続けていた時も、ドミニオンのローエングリン砲からアークエンジェルを守ったムウさん、ノーマルスーツのヘルメット吹っ飛んでたけどよく生きてたよなぁ。
宇宙空間でノーマルスーツのヘルメットが無くなる=死 も同然だからな。
もしMSから投げ出されても、ノーマルスーツの気密が保たれていれば仮死状態で救助される可能性も十分にあるが、ヘルメットが無くなった状態で宇宙に放り出されたら、(個人差はあるにせよ)ほんの十数秒で窒息死する。
故にムウさんの生存は見込めないも同然だったから、ファントムペインのネオ・ロアノークとして生きていたことにはびっくりだった。
そりゃマリューさんだって泣くし、最愛の男から「俺、あんたのこと知りませんけど?」って真顔で言われたらショックだろうよ。
後々になって、ミネルバのタンホイザーからアークエンジェルを守るためにアカツキのヤタノカガミで正面から受けた際に、"ムウ"としての記憶が蘇ったと聞いた時は何かの因果を感じたね、まさに『不可能を可能にする男』だ。
――後で知ったことだが、アニメの『SEED』がリアルタイムで放映されていた頃と、DVDとでは内容が若干異なり、ムウ・ラ・フラガのヘルメットが宇宙に漂っている場面が、大破したストライクの頭部に差し替えられていたので、リアルタイム放映中は、『ムウは本当に戦死する予定だった』という裏話(SEED〜SEED DESTINYのリアタイ放映中では急な予定変更が頻繁にあったらしい)があるのだとか――。
まぁそれはそれとして、ストライク作ろーっと。
キャプリケーション取りつつゼロモーメントポイントを再設定(略
俺がエールストライクを完成させ、ついでだからとスミ入れペンを買ってきてスミ入れをしている頃には、ミカゲさんのグレモリーも完成、イツキのシェンロン――というかほぼアルトロン――も完成間近といったところまで来る。
「ふぅ……複雑そうな見た目してる割には、意外と簡単に作れるのね」
無事に初ガンプラであるグレモリーを完成させ、ミカゲさんが一息ついている。
「お疲れさま。初めてだけど、ちゃんとよく組み立てられてるよ」
マユちゃんがグレモリーの出来を見て褒めている。褒めて伸ばすタイプだなぁ。
「イツキー、そろそろお昼ごはんにしよっか」
その向かい側、俺の隣席にいたイツキはというと。
「あー、もうそんな時間か。ま、あとは帰ってからやるかー」
もう少しで完成といったところで切り上げなければならないので、渋々ながらもパーツを片付けていく。
「おっ、リョーのストライクもいい感じに出来てるな」
「スミ入れしただけだよ。せめて、エールストライカーの主翼ぐらいは部分塗装したかったなぁ」
これ、シールだけじゃ黒部分を全部隠せないんだよな。どっかははみ出る。
ガンダムベース内のガンダムカフェで食事をしつつ休憩、それも済んだあとは、お待ちかねのバトルだ。
今回はミカゲさんのグレモリーの習熟がメインだが、同時にマユちゃんの新しいエアリアルのお披露目でもある。俺は今回はエールストライク、イツキもシェンロンとは違うガンプラでバトルだ。
バトルブースに移動して、四人分の筐体を確保。
「ミッションモードでやろっか」
マユちゃんがそう提案してくれた。
ミッションモードと言うのは、ガンダム作品の劇中での戦闘を追体験するモードらしい。
乱入を受け付けないように設定し、ミッションを選択。
「ミカゲちゃんのことも考えると、あんま難しいのはダメだよな」
「そうだね、だったら……これはどう?」
イツキとマユちゃんが検討した結果、選ばれたミッションは『ジャブローに散る!【連邦軍シナリオ】』というタイトルだ。
ジャブローの戦い、それも連邦軍サイドか。
ちょいと敵の数が多そうだが……まぁ四人いるし、クリア出来んことはなかろうて。
決定。
バナパスを読み込ませ、ガンプラをスキャン、ゲートの中にスキャニングされたガンプラのデータが反映されていく。
さすがにスミ入れしただけのエールストライクと、完成されたオリジネイトとじゃ性能差もある、勝手の違いに混乱しないように気を付けないと。
出撃だ。
「オウサカ・リョウマ、エールストライクガンダム、行きます!」
「タツナミ・イツキ、『ドラゴンガンダム』、行っくぞー!」
「ミカゲ・トウカ、ガンダムグレモリー、出るわ」
「アサナギ・マユ、『ガンダムファラリアル』、
ゲートより発進し、広大な密林の中へ着陸する。
イツキは……今回はドラゴンガンダムか。シェンロンといいドラゴンガンダムといい、ドラゴン好っきゃなー。
ミカゲさんは先程に完成したグレモリー。
そして、マユちゃんの、明るいカラーリングに塗装された新たなエアリアル――ガンダムファラリアル。
……なるほど、ファラクトの『ブラストブースター』とロングライフルの『ビームアルケビュース』を装備している辺り、機動性と射撃能力に特化させたカスタムだな。
「おぉー、マユの新しいエアリアル、なんかかわいいな!」
イツキがファラリアルを見て、早速称賛している。
「えへへ、ありがと」
マユちゃんとイツキがキャッキャウフフしているのを尻目に、ミカゲさんが通信を繋いでくる。
「敵はどこから?」
「まずは空から来るはずだ。輸送機に搭載されたMSが降りてくるんだ」
ほら来たぞ、ガウ攻撃空母やらファット・アンクルやらが大量に。
ジオンのMSが降下を開始していくが、何機かはジャブローの防空システムに迎撃され、撃ち落とされていく。
そして、ザクⅡやグフ、ドム、それらの派生機やら何やらが、着陸――その数、30機くらいか。
「これ……ちょっと初心者にはキツくないかしら?」
多数の敵対反応を見て、ミカゲさんが気後れしている。
「多いと言っても、大半は量産型だ。油断しなきゃそうそうやられないさ」
マユちゃんとイツキにも通信を共有し、
「ミカゲさんのフォローは俺がやるよ。アサナギさんとイツキは思いきりやってくれ」
「分かった、頑張るね」
「ちゃんとミカゲちゃんを守ってやれよー?」
マユちゃんは素直に頷き、イツキは意地悪そうに笑う。
「はいはい。ほら、来るぞ」
木々の隙間からモノアイがいくつも現れる。
「よーし、行くぜー!」
早速、イツキのドラゴンガンダムはビームフラッグ『フェイロンフラッグ』を抜き放って突っ込み、
「あ、ちょっとイツキ、待ってよ!」
その後を慌ててマユちゃんのファラリアルが追う。
さて、こっちはこっちでやるか。
っと、こっちにはザクⅡが二機と、ジャイアントバズを装備したグフの一個小隊だな。
「俺がフォローに回るから、ミカゲさんは自由に戦っていい」
「自由にと言われてもね。じゃぁ、本当に自由にやるわよ?」
するとグレモリーはバトルアンカーを肩越しに構えて突撃していく。
ジャイアントバズの砲弾やザクマシンガンの銃弾を正面から受けながらも、全く怯まない。
「ふっ!」
正面から突っ込み、大きく袈裟懸けにバトルアンカーを一閃、グフを左肩口から粉砕する。
グフ、撃墜。
残るザクⅡ二機も必死にザクマシンガンを撃ちまくっているが、ほとんどノーダメージ。百単位ある耐久値で、どう攻撃しても1ダメージしか入らないって感じだ。
回避することもなくザクマシンガンを受け切り、接近してバトルアンカーで叩き潰す。まさに「突撃あるのみ」だな。
「やるじゃないか、ミカゲさん。俺のフォローもいらないくらいだな」
「こっちは必死にやってるつもりなんだけど……まぁ、難易度低めなら、これくらいなのかしら」
「まぁ、エース級はまだ出てきてないし、強い奴が出てきたら俺が対処するが」
強いって言っても、シャアの赤いズゴックくらいだな。
別の世界線だと、空からアプサラスⅢとアプサラスⅡが二機、合計で三機のアプサラスが、メガ粒子砲をバカスカ撃ってきてジャブローが地獄絵図になっていたからな……
一方のマユとイツキの二人もまた奮戦していた。
「とりゃぁー!」
ザクマシンガンの銃弾を掻い潜るドラゴンガンダムがフェイロンフラッグを一閃し、ザクⅡのボディを斬り裂く。
ザクⅡ、撃墜。
その横合いから、ドムがジャイアントバズを向けようとするが、上空からのビームにジャイアントバズを撃ち抜かれ、爆発する。
「狙い撃つ!」
マユのガンダムファラリアルの、ビームアルケビュースを用いた狙撃だ。
慌てて距離を取ろうとするドムだが、間髪無くもう一射、ドムの重装甲を正確に撃ち抜く。
ドム、撃墜。
「リョーとミカゲちゃんの方は順調っぽいな」
新手のゾゴックにはドラゴンクローを伸ばして噛み付き、ゼロ距離のドラゴンファイヤーで焼き払うイツキは、自分達とは反対側のエリアの敵対反応が着実に消えていくのを見て、マユにそう通信を繋ぐ。
「うん、向こうの心配はしなくていいかも。……ガンビット!」
エスカッシャンをプラットフォームから分離射出、上陸してきたゴッグに無数のビームを浴びせつけて、河へ沈め返すマユ。
リョウマのフォローのおかげもあるかもしれないが、トウカも善戦しているのだろう。彼女を勧誘しようと思ったリョウマは、実は慧眼の持ち主かもしれない。
二人合わせて15機ほど撃破したところで、不意に通信が届く。
ホワイトベース隊の一員という設定なのか、オペレーターの『フラウ・ボゥ』のボイスと顔画像が表示される。
『敵モビルスーツが、ジャブローの内部に侵入しています!至急、内部に侵入した敵機を撃破してください!』
どうやら後半戦に移行するようだ。
「今度は内部だなー、シャアのズゴックが出てきそうだ」
「ジャブローに散る!の名シーンが見られるかも」
迎撃に現れたジムを、シャアの赤いズゴックが瞬時に接近し、アイアンネイルの一撃で貫いて撃破、爆発と共に立ち上がり、それを見ていたアムロ・レイが戦慄するシーンのことだ。
ともかくはプレイ進行に従って、マユとイツキはそれぞれガンダムファラリアルとドラゴンガンダムを反転させ、ジャブローの"入り江"に進入していく。
フラウ・ボゥから「戻って来て」と言われたので、すごすごとジャブローの軍港に戻って来ている俺のエールストライクと、ミカゲさんのグレモリー。
ナノラミネートコートの防御力に頼りながらも、ミカゲさんは難なくジオンの水陸両用機を薙ぎ倒していくので、俺はチマチマとビームライフルでザクⅡやドムを掃除していた。
すると、NPCらしいジムが、ビームライフルを片手に勇躍し――その先に、『赤いズゴック』がいる。
あっ……(察)
お察しの通り、ジムの射撃を潜り抜け、アイアンネイルで一撃。
「赤い機体……パイロットは確か、アカイ・シュウイチだったかしら?」
「……シャア・アズナブルな。それは別の世界の別人だ」
確かに担当声優は同じだけどさ。
600m強の長距離にある小型盗聴器を正確にスナイピングしたり、1.2km離れた対岸で投擲された手榴弾を撃ち抜いたり、あの人もある意味人間の枠を超えてたなぁ。
なんて余計なことを考えていたら、シャアのズゴックが躍り出て、腕部からメガ粒子砲を連射してきたので、エールストライカーの推力と合わせてジャンプして躱し、即座にこちらもビームライフルを撃ち返す。
『さらに出来るようになったな、ガンダム!』
ビームを掻い潜るズゴックに、ミカゲさんのグレモリーが挑みかかる。
「えぇいッ!」
しかし、大振りなバトルアンカーの一撃はひらりと躱され、ズゴックはすぐさま反撃に頭部のロケット砲を連射してきた。
「ぐっ、うっ……!」
何発もの爆発を受けて、グレモリーが吹き飛ばされてしまう。
「ミカゲさんは一度下がってくれ!近くにゾック……緑色のデカい奴がいるはずだ!そっちを頼む!」
「りょ、了解……!」
グレモリーは一度その場から離脱し、代わりに俺がズゴックの前に立ち、エールストライカーからビームサーベルを抜き放つ。
メガ粒子砲を織り混ぜつつ接近してくるシャアのズゴックに、こちらもバルカン砲の『イーゲルシュテルン』で牽制、回避と防御で的確にメガ粒子砲を防ぐ。
すかさず突き出されるアイアンネイルは、その場で右脚を振り上げて蹴飛ばし、間を置かずビームサーベルで斬り飛ばす。
『チィッ!』
けれどシャアのズゴックは加速してそのまま頭突きを敢行してきた。
「くっ……!」
腹部を強打し、機体が吹き飛ばされてしまうが、エールストライカーのスラスターを偏向させてすぐに体勢を立て直し、間髪なく襲いかかるメガ粒子砲をホバーするように躱す。
シャアも迂闊に近付いてこないのか、頭部のロケット砲も駆使して射撃戦に持ち込もうとしている。
さすれば!
ロケット砲を躱し、そのまま壁際まで飛び下がると、エールストライカーの大推力と壁キックを用いた三角跳びで、壁、天井と跳び、一気にズゴックの正面に飛び込む。
『なんとっ!?』
怯むシャアのズゴック。
ここで素早くビームサーベルを突き出……
『ジオンめ!ジャブローから出ていけ!!』
ホバークラフトのファンファン?
っておぉいウッディ大尉ィ!?
ちょっおまっ、今来んな、あっ……
無謀にも突っ込んできたウッディ大尉のファンファンが、ビームサーベルを突き出そうとしたその合間に飛んできて、止められずに焼き貫いてしまった。
ふ ざ け ん な !?
『冗談ではない!』
冗談ではない!はこっちの台詞じゃこのマザコンシスコンロリコン変態仮面!!俺は悪くねぇ!原作通りに突っ込んできたウッディ大尉ご自身のせいです!!そもそもMS同士がドンパチやってる最中にファンファンで飛んで来んなし!!
などと無駄に逆ギレしてると、
『私にプレッシャーを与えさせるとは、一体何者なのだ……?』
シャアのズゴックが反転し、メガ粒子砲で岩盤を崩しながら撤退していく。
チッ、ウッディ大尉が邪魔しなきゃシャアを討ち取れたものを……
それを尻目に、シャアの援護に現れようとしたゾックに、ミカゲさんのグレモリーが容赦無く襲いかかる。
『シャア大佐はやらせん!ウオォォォォォーーーーーッ!!』
ボラスキニフがゾックの持てる火力全てをグレモリーに向けて撃ちまくるものの、残念ながらビーム兵器である以上、ナノラミネートコートの前には全くの無力だ。
「NPCのボイスも本格的よね、臨場感がある」
対するミカゲさんも慣れてきたようで、冷酷無比にバトルアンカーを振り下ろし、ゾックの前後対称の巨体を一撃の元に叩き斬る。
ゾック、撃墜。
……ふぅ、シャアも撤退したし、あとは残存戦力の掃討だな。
マユちゃんとイツキの二人とも合流し、抵抗を続けるジオンのMSを次々討ち取り、無事にミッションクリアだ。
「よーしっ、クリア!みんなお疲れー!」
リザルト画面を前に、イツキが喜ぶ。
「うん、ファラリアルもいい感じだし、これで完成かな」
マユちゃんもファラリアルの出来を確認して、それも良い結果になったようだ。
「初めてにしては、まぁまぁ戦えた方かしら」
ミカゲさんも達成感のある顔をしている。
(俺がウッディ大尉を撃墜しなければ)上々の結果だろう。
その後は、もういくつかミッションモードをクリアし、そろそろ夕暮れ時が近付いて来るを見計らって、今日はお開きだ。
ガンダムベースを出て帰りの電車に乗り、夕陽が差し込む車内をガタンゴトンと。
「今日はどうだった?ミカゲさん」
マユちゃんがミカゲさんに話しかける。
一緒にグレモリーを作ったり、バトルでコミュニケーションを取ったり、今日でだいぶ打ち解けたのだろう。
「ふぅ……慣れないことの連続でちょっと疲れたけど、楽しかったわ。ありがとうね、アサナギさん」
ゴシゴシとミカゲさんは瞼を擦っている。
プラモ作りそのものも初めてで、アーケードゲームを嗜んでいるような人でもなさそうだし、今日は未知の体験に溢れた一日になったかもしれない。
「バトルもけっこう戦ってたし、これなら来週の地区大会も楽勝だな!」
シェンロンの改造に集中し、バトルを何度もやったのに、イツキはまだ元気だ。みんな若いなぁ……今世の俺もまだピッチピチのDKなんだけど、この差はなんなんだ。
「素人に期待されても困るのだけど……あ、そうそう、みんなに言っておかないとならないことがあるの」
ふと、ミカゲさんは何かを思い出したのか、俺達三人に向き直る。
「今の私のことは、学園では内緒にしておいてほしいの。「創響学園二年のミカゲ・トウカは地味子ちゃん」ってイメージを保っていたいから」
行きの電車に乗っていた時に言っていたことの続きだ。
今日にミカゲさんがお出かけしていた時も、彼女は『地味子ちゃん』のままにしておきたいのだと言うのだ。
「つまり、今日のミカゲさんと、学園でのミカゲさんは別人。そういうことだな」
何もそこまでこだわる必要も無いとは思うが、ミカゲさんとしてはそうしたいと言っている以上、その意志を尊重すべきだろう。
「うん、分かった」
「いつも通りにしてればいいってことだろ?」
マユちゃんとイツキも了承。
「サイキ先輩には、この事を話した方がいいかな?」
マユちゃんは懸念点を挙げ、ケイスケ先輩にも共有すべきかと訊ねる。
「いや、今は言わなくていいだろう。その時が来たら、俺達から説明すればいい」
ケイスケ先輩になら話してもいいとは思うが、どこから噂が漏洩するか分からない以上、こちらから話す必要はないだろう。
もしそのことを問われたら、きちんと説明すれば分かってくれるはずだ。
「そっか」
「ありがとう、助かるわ。はぁー……、高校生になってから、初めて友達と遊んだわ」
……今、なんか聞いちゃいけないことを聞いた気がする。
「その、今日は私のガンプラを見繕いに行くって理由があったけど。これからは、特に理由が無くてもどこかに遊びに行く予定があったら……私も誘ってくれると、嬉しい」
ちょっと恥ずかしそうに、視線を逸しながらはにかむミカゲさん。
「「!!」」
それを見て、マユちゃんとイツキが驚愕している。俺もちょっとドキッときました。
「ミカゲさん、やっと笑ってくれた」
「すっげーかわいい!マジかわいーんですけど!」
「え……えっ?私、今日そんなに笑ってなかったの?」
今日のミカゲさん、ずっと取り繕ったような顔しかしてなかったの、自覚無かったのか。
まぁ、他者とのコミュニケーションを避けようと思えば、自然と表情筋も仕事しなくなるよな。
だがその分、笑ってくれた時の破壊力は抜群だ。こんな美少女にこんな笑顔を見せられたら、男なら誰だって勘違いするだろう。
マユちゃんとイツキから、かわいいかわいいと連呼されて戸惑っているミカゲさんを眺めつつ、最寄り駅の到着を待つのだった。