ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK 作:さくらおにぎり
決勝戦にて、チーム・ブラウシュヴェルトを破り、見事優勝してみせた、俺達チーム・ビルドシンフォニー。
優勝トロフィーを手に学園に凱旋したガンプラバトル部は、確かにその結果を手にしたとして、もう存続か廃部かの境目を彷徨うことは無くなったと見てもいいだろう。
ふぅ、ここまでちょっと慌ただしかったけど、ようやく一息つける。
地区大会を終えた、翌日の週明け月曜日。
今日の活動は休みにする、とケイスケ先輩から昨夜の内に連絡を受けているので、さて今日はどうしようかと、俺、マユちゃん、イツキ、ミカゲさんの四人で昼休みの屋上に集まって、昼飯も兼ねて放課後の予定について談議だ。
「ケーキバイキング行こーぜ!」
開口一番、イツキがそう意見を挙げた。
「ケーキバイキング?あ、繁華街のあそこのケーキカフェの?」
美味しいスイーツの穴場は女の子特有のテリトリーなのか、マユちゃんがどこのケーキバイキングかを読み取っている。
「そうそう、あそこ今、格安でケーキバイキングしてるからさ、改めてそこで祝勝会しよう!」
「……祝勝会ね。遅くならない限りなら問題ないわ」
ミカゲさん(地味子ちゃんモード)も頷いて応じている。
「わたしも賛成。オウサカくんは?」
女子三人はケーキバイキング行き確定か。
しかし、今日の俺の放課後は予定があるのだ。
「あー……悪い。今日はスーパーで特売日やってるから、そっちを逃したくない」
「えぇー?祝勝会の後じゃダメかー?」
イツキはちょっと不満そうだが、そうはいかん、俺とて譲れないものがあるのだ。
「それに、ケーキカフェに男がいるっていうのも不自然だろう?俺のことはいいから、三人で楽しんでくれ」
「……そう言えば、オウサカくんは一人暮らしなのよね。値引きとかセールに敏感になるのも、分からないでもないわ」
ミカゲさんが理解を示してくれた。
親からの仕送りがあるとはいえ、節約出来るところは節約したいのだ。
「そっかー、まぁいっか。よしっ、それじゃぁ女子三人で祝勝会だな!」
俺が欠席すると分かるや否や即決するイツキ、早いな。
放課後の予定は滞りなく決まり、その後はくっちゃべって過ごす。
あぁ、学園生活してるって感じだ。
イツキが話題を用意して、マユちゃんがそれに応じて、場合によってはミカゲさんが鋭くツッコむ、というのがこの三人の基本形だ。
俺は完全に蚊帳の外だけど。
「でさ、夏休み入ったらさ、ここ行ってみたい!」
イツキが雑誌を片手にある誌面を指差して俺達に見せてくる。
「あ、ここって屋内プール場の『マーキュリーワン』?」
知っているらしいマユちゃんが、施設名を挙げてくれる。
「そうそう、ここ一回行ってみたくてさー」
俺も掲載されている写真を見てみる。
写真には、施設の全貌や、各所各所では水着を着た、ピンク髪をツーサイドアップにしたモデルさんがリアクションを取りながら撮影されているページが並ぶ。
そのモデルさんだが、かなり若い。
加えて、水着を着たそのスタイルは大変素晴らしく、青年誌の表紙を飾っていてもおかしくないレベルだ。
多分だが、俺達と同じくらいだろう。読者モデルだろうか。
名前は……『
「リョーがナナちゃんに釘付けになってるー」
「へ?」
イツキのからかうような声に、思わず間抜けな反応しちまった。
「だってリョー、ガン見してたし?」
おいなんだその、エロ本慌てて隠してる奴を見かけたような顔は。
「ホシカワさん……だっけ。確か、ウチの学園の学生会で、書紀をやってるって聞いたことあるけど」
スタイルいいなぁ……とマユちゃんが写真のホシカワさんを見て羨んでいる。
この学園の生徒だったのか。それも学生会メンバーとな。
「……今年の一年生よね?去年の私みたいなことにならなければいいのだけど」
ミカゲさんは自身に覚えがあるのか、やけに実感のこもった深い溜息をつく。
読者モデルやってますって人が同じく学園にいたら、そりゃ目立つだろうし、"お近付き"になりたいのも必ず出てくるだろうなぁ。
「へぇ、この学園にいるんだな。……そう言えば、時々校門近くでナンパしてる奴を見かけるけど、あれがそうなのか」
登下校時に校門通る時に「アイアムナンパーマン、オレとイチャイチャ(意味深)しようぜ」って輩を何人か見たことあるんだけど、あれってホシカワさん目当てだったのかもしれないな。
……まぁ、俺にはあまり関係無いか。
放課後。
マユちゃん、イツキ、ミカゲさんの三人は予定通り繁華街のケーキカフェへ向かい、俺はスーパーの特売セールへ突撃する。
しかし。
「………………よもや、全滅とは」
俺の目当ての品は全て吹き飛ばされてしまっていた。
当然と言えば当然なのだが、特売日だと分かっていれば主婦の方々が揃って「一番乗りィ!」と言わんばかりに赴いて来るものだ。
夕方頃の一人暮らしの学生がフラフラ来たところで、残り物しか残ってないわけで。
まぁ仕方無い、今日のところは退散するとしよう。人生、諦めも肝心だ。
ふらーっと出入口に向かってほっつき歩いていると、雑誌のコーナーが目に付き――ちょうど、イツキが昼休みに持っていたタウン誌だ。
イツキってこういうのも普段読んでるんだなぁ、今日のケーキバイキングについての情報にも詳しかったようだし。
ペラペラと捲ってみて、そう言えばタウン誌とかまともに読んだこと無かったなーと思いつつも、先程の屋内プール場『マーキュリーワン』の特集に。
一面を飾る読者モデルで、ウチの学園の一年生で、学生会役員の……なんて名前だっけ。
誌面を見回して、『星川 奈々』の名前を発見。
「そうそう、ホシカワ・ナナ……」
「あ、はい、なんでしょうか?」
「……え?」
俺の独り言になんか反応してくれた人がいたから、思わず振り返ったら……
「今、わたしのこと呼びましたよね?」
目の前にいるのは、創響学園の制服を着た、ピンク髪をツーサイドアップにした女子生徒。
しかもその容姿は、俺の手元にあるタウン誌の一面を飾るモデルさんにそっくりで……
っていうか、
「うわっ、まさかの本人!?」
「本人も何も、わたしはホシカワ・ナナですよ?その雑誌にいるのもわたしですけど」
おいおいおい、まさかご本人とエンカウントするとは思わなんだ、さすがの俺も予想してなかったぜ。
「……わたしの水着、見てたんですか?」
「ん?まぁその通りだが、可愛く撮れているなーと」
「お褒めいただきありがとうございます♪でもダメですよ、下校中に寄り道なんてしちゃ。学生会書紀として、注意させていただきます。……って言いましたけど、皆さん普通に道草ムシャムシャしてますから、校則も有名無実化してるのが現状なのですが!」
あははー、と笑うホシカワさん。
「ってかウチの学園、寄り道禁止だったのか」
「校則の上では、ですけどね。一応、形だけでも注意はしておきませんと」
ぺこりと頭を下げるホシカワさん。
「なるほど、すいません」
校則を突きつけられては、素直に低頭平身になるしかあるまい。
俺達学生は、学校という規則に守られているから学生をさせてもらっているのだから。
「あ、もしかして、センパイさんですか?」
「うん、俺は二年だな。……というかその俺を注意したホシカワさんも寄り道真っ最中では」
「わたしは学生会の買い物ですから、ご心配なくです」
そう頷くホシカワさんの足元には、エコバッグに詰め込まれた2リットルのペットボトルが三本ずつ、計六本が置かれている。
これを買い出しに来てたわけか。
しかしこの量は結構重いだろう、それも女子一人が運ぶにはキツいかもしれない。
「……それ、手伝うよ」
「え、あっ」
ホシカワさんの了承を待たず、エコバッグに詰め込まれたそれらを持ち上げる。
「でもでも、すっごく重いですよ?」
「だったらなおさら放っておけないな。俺の『困ってそうな人をほっとけない病』が再発してしまう」
つーか普通に重いな。
今世の俺は軍人や少年兵、ガンダムファイターじゃないから、身体を鍛えているわけではない、普通の男子高校生だ。
「あ……ありがとうございます。なら代わりに、わたしがセンパイの鞄をお持ちします」
そう言って、ホシカワさんが俺の鞄を手に取ってくれる。
普通に持つと重いが、肩に掛ければ少しはマシだな、あーらよっと。
さぁ、学園へ蜻蛉返りだ。
そうして学園へ蜻蛉返りしている間、ホシカワさんとのんべんだらりとお話する。
「ほうほう、あのタウン誌の編集長が従兄なのか」
「モデル役がいないからって、今年の春から頼まれちゃったんです。一応、来年の三月……一年だけの契約なので、それまでは頑張ろうかなって思ってます」
その従兄さんにとっての幸運は、従妹が美少女だったことか。読者モデルなんて普通は願っても叶わないだろうに。
「でも身内だからって、薄給で扱き使うんですよ?ひどくないですか?」
「薄給?」
実際、雑誌のモデルさんのギャラってどのくらいの金額なんだろうか。
「いくら素人の学生でも、モデル料が一日千円だなんて、学生のアルバイトの時給でももうちょっと貰えてますよ」
「一日千円!?……モデルって撮影に時間とかかかるものだよな?」
仮に三時間程度のアルバイトで最低賃金でも、二千五百円くらいは貰えるはずだけどなぁ、一日千円はどう考えても割に合ってないどころか、コストを度外視してるぞ。逆の意味で。
「普通に丸一日拘束されます。だから、休日が無くなることも多いんですぅ」
「学生のアルバイトでも、それだけ働けば五、六千円は普通にもらえるぞ?賃上げ要求すべきだ」
それはいくらなんばでもブラック過ぎる、ドスブラックだ。
「撮影ついでにタダで美味しいもの食べられたり、色んなところへ行けたりするんですけどね」
「いやいや、それは業務内容の一部だろう。報酬は報酬としてちゃんと支払われるべきだ」
従兄さん、訴えられたりしないか心配になるんだけど。
「ですよね!?よしっ、次からは二千円くらいにはしてもらいます!」
「……時給換算で最低賃金プラスアルファくらいは要求していいと思うぞ。手数料と手間賃、さらに心的苦労も含めればもっと要求されてしかるべきだ」
すると、「よくぞ聞いてくれました!」と言わんばかりにホシカワさんがズズイッと顔を近づけて来る。
「そうなんです!苦労してます!」
おぅふ、近い近い。
「一番困ってるのはナンパです。校門前で待ち伏せしてる人とか、数少ない貴重な休日に限ってしつこく声かけてくる人とかっ!」
あー、やっぱりそういうのもあるんだな。ミカゲさんの苦労がなんとなく分かった気がする。
「そ、そのなんだ、ホシカワさんも大変だな……」
「とにかくしつこくて最低最悪です!わたし、ぐいぐい来られるの大嫌いなんです。なんであぁ言う人達って、相手の気持ちとか心情とかそういうのを汲み取ろうとしないんですかね!?」
ふぁっきんしーっと、と女の子が発したら良くないことを吐き出すホシカワさん。ストレス溜まってそうだなぁ……
「なんとなく分かるよ」
お断りしますって言ってるのに、ハエのように集りにくるのは俺も勘弁だな。ハエならハエらしく汚物に集れば良いものを。
「彼氏にするんだったら、普通に優しい感じの人がいいんですけど。例えば……さりげなく重い荷物を持ってくれる人とか、ですっ」
「なるほど。そういう点では、俺もホシカワさんのお眼鏡に掠める程度は叶っているわけか。それは光栄だ」
「あははっ、センパイって面白いですね♪」
今のがどう面白かったのかは分からんが、喜んでくれたならまぁいいか。
ホシカワさん並んで校門を潜り、学生会室へ向かう。
「あ、そういえばセンパイのお名前、聞いてなかったです」
「ん、名乗ってなかったか。俺はオウサカ・リョウマだよ。二週間くらい前に転校して来たんだが」
「オウサカ・リョウマ……あっ、もしかして、ガンプラバトル部のウマノセンパイを叩きのめしたって言う、"あの"オウサカセンパイですか?」
「知ってたのか」
「そうですそうです。わたし、入学したての頃にあの人にもしつこく言い寄られてまして……もうほんっと嫌でした」
ハァ、と幸せが逃げそうなくらいの溜息。
マジかよぁんの馬の骨、マユちゃんだけに飽き足らずホシカワさんにまで手を出そうとしてたのか。
いや、マユちゃんのガードが堅いから、気分を変えてホシカワさんを狙ったとも言えるか。どちらにせよ度し難いが。
「それで、二年の転入生がウマノセンパイをガンプラバトルで叩きのめしたって言うのを風の噂で聞きまして……それが、オウサカセンパイだったんですね」
むむ、俺の勇名……勇名?は下級生たちにも知れ渡っていたか。
「まぁ確かにあの馬の骨を押しやる形で、ガンプラバトル部に入部はしたけども」
というか転入初日からこの二週間で色々あったな、なかなか濃密な二週間だった。
「今となってはあのセンパイも大人しくしてるって聞いてますから。懲らしめてくれてありがとうございます、オウサカセンパイ」
「別に懲らしめたわけじゃないんだが、まぁいいか」
俺に負けたからって勝手に身を退いただけなんだがな。
「それで、ですね。わたしの呼び方についてですが……ホシカワさん、じゃなくて、違う呼び方がいいなーと……」
「となると、下の名前の方がいいと。じゃぁ、ナナちゃんでいいか?」
「はいっ。以後はそれでお願いします、オウサカセンパイ♪」
オケー理解した。
こうして、俺とホシカワさん――もとい、ナナちゃんとのファーストコンタクトは滞りなく済んだ。
学生会室へ到着。
学生会室ってことは、ゴジョウイン会長とか、シノミヤ副会長がいるんだよな。
「失礼しまーす、ホシカワでーす」
ナナちゃんがノックしてからドアを開けてくれるので、俺もそそくさと続く。
ほーん、この学園の学生会室ってこんな感じなんだな。
とは言え室内にいるのはゴジョウイン会長とシノミヤ副会長だけのようだが。
「あら、ナナちゃんおかえりー。……と、オウサカくん?」
最初にシノミヤ副会長が出迎えてくれた。
「ハローこんにちはシノミヤ副会長、こちらのホシカワさ……じゃない、ナナちゃんの手伝いをしていました」
「そうなんですよ、トモエセンパイ。このオウサカセンパイが、すっごい優しくて親切なんです♪」
ナナちゃんが評価高めに俺をそう言ってくれる。
「そうなの?わざわざありがとうね、オウサカくん」
「どういたしまして。冷蔵庫は……あぁ、そこですね」
見えやすい位置に冷蔵庫があったので、そこへペットボトルを運び込んで、ドコドコと入れていく。
「ほぅ、男嫌いのホシカワにそこまで言わせるか。オウサカ、君もなかなかやるようだな」
すると、会長専用の高そうなデスクから、ゴジョウイン会長が顔を覗かせてきた。
「男嫌い、ですか?」
男嫌いとな?
冷蔵庫の戸を閉じてから、オウム返しに訊き返す。
「あぁ。ホシカワが雑誌のモデルをやっているのは知っているだろう?そのせいでやけに目立つようでな、毎日ラブレターやお近付きになりたい男子が絶えんそうだ」
「それはまた」
実際に起こり得るんだな、ロッカー開けたらラブレターの山積みとか。
「ラブレターばっかりでも無いですけどねー。大抵はイメージアップを狙った部活の勧誘とか、知らない女の子からの挑戦状とか、脅迫状とか、不幸の手紙とか……」
ナナちゃんがまた溜息をこぼしたけど、その内容がちょっと笑えない。
「え、なにそれ怖い」
挑戦状とか脅迫状とか不幸の手紙って、ヤバくないかそれ?
「だから、そういうのに対する自衛も含めて、学生会にいるんですよ。ここならトモエセンパイもいますし、アマネセンパイに喧嘩を吹っ掛ける人もいませんし、万々歳です!」
なるほどな、学生会の傘下に入って庇護を受けてもらっているわけだ。
学生会員なら男子でもナナちゃんに色目は使っても、手を出すまでには至らないだろうし、仮にもしそんなことが発覚すれば即座にゴジョウイン会長とシノミヤ副会長という、学生会のツイン重鎮の耳に入るわけで。
さらに言えば、腕っ節でねじ伏せようにも、そのトップが武闘派の側面も持ち合わせているとも来れば、まともで真っ当な理由以外でナナちゃんに手出しは出来まい。
「ナナちゃんは役員としても優秀だし、私もアマネも助かっているわ。加えて、合法的に学生会のイメージアップにも繋がっているし、まさにWin-Winよ」
それもそうか。
ナナちゃんにとってのきっかけは自衛のためだとしても、学生会に所属するならデスクワークも出来ないと話にならないわけだが、それも心配無く、だからといってナナちゃん目当てで、学園の規範と模範となるべくの組織に入りたがるバカタレもいないわけで。
まさに理想的な環境だ。
「……さて、俺の任務も完了したんで、そろそろお暇しますね」
無関係な生徒がいつまでも学生会室にいるわけにもいかない、用が済んだなら早いところ退室だ。
「あ、ちょっと待ってオウサカくん」
……と、思ったんだが、シノミヤ副会長に引き止められた。
「せっかくここに来たのだし、乗り掛かった船だと思って、ここで私達の仕事を手伝ってみる気は無いかしら?」
「トモエ、彼にも都合があるだろう」
俺を引き止めたいシノミヤ副会長と、それを止めるゴジョウイン会長。
「えー?でもせっかくちょうどいいタイミングで、優秀な人材が転がってきてくれたのよ?このチャンスを逃したくないわ」
「そんな言い方で人にものを頼む奴があるかと言っているんだ」
「つまり、言い方を変えればそれも吝かではないと」
「……訂正する。自分の都合で他人を振り回すような真似をするなと言っている」
「あら、アマネの都合でもあるし、ナナちゃんの都合でもあるし、間接的に会全体の都合でもあるわ」
「〜〜〜〜〜……………」
なにこの漫才コンビ面白い。
ようするに仕事を手伝ってくださいやがれってことやな。
「あの、オウサカセンパイ。ほんとに無理して手伝ってくれなくてもいいですからね?ちょっと気を許すとすーぐ人を振り回したがるのがトモエセンパイの悪いところですし……」
「ちょっと、今のは聞き捨てならないわナナちゃん。人を振り回すにしても、ちゃんと相手くらいは選んでいるわ」
人を振り回したがること自体は否定しないんですね。
「まぁ、立てていた予定も無くなってしまったんで、手伝うくらいなら」
たまにはデスクワークの真似事くらいは良かろうて。
「ありがとう、オウサカくん。それじゃぁ早速、こっちの書類を……」
………………
…………
……
「えーと、こんなもんでどうでしょう。一応チェックをお願いします」
「あら、もう終わったの?早いわね」
シノミヤ副会長から頼まれた書類の書き込みに一区切りがついたので、不備が無いかをチェックしてもらう。
「ふむふむ……よし、よし、これもよし……うんっ、完璧よ。さすがはオウサカくんね」
褒められてしまった。よせやい照れるじゃねぇか。
「そんな難しいことでも無いですし」
「難しいことでも無いから、油断して不備が起きやすいのよ。正直、正規の役員よりも優秀だわ」
マジか、そんなにか。
まぁ、過去の異世界転生で兵站管理やら予算会計やら作戦参謀やら、尻で椅子を磨いて温める仕事には慣れてるし。
「どうでしょう、間違えちゃならんと思って緊張しながらやってたんですが」
「緊張感……なるほどね。確かに緊張感は大切だわ。でも、ピリピリして空気が張り詰め過ぎるのも良くないのよ。アマネみたいに四六時中緊張感を保つなんて無理だし」
「トモエ、余計なことを言うな。それに私もオフの時くらいは抜いているつもりだ」
ゴジョウイン会長からツッコミいただきました。
「だが、不備なく仕事をこなせる役員が、思いの外少ないのも事実だ。本音を言えば、私もオウサカに学生会員になってほしいところだ」
「……すごいわ、学生会関連の仕事で、アマネが人を褒めた。今夜は何が降って来るのかしら」
そんなに驚くことなのか、シノミヤ副会長が心底意外そうな顔をした。槍とか血の雨じゃなくて、何が降って来るか分からない辺りが怖い。
………………
…………
……
そうして、シノミヤ副会長から与えられるミッションを一つずつこなしていくと。
「オウサカくんのおかげで、今日の業務も随分早く済んだわ。ありがとうね」
「どういたしまして。特別、何かすごいことをやったわけでも無いですけど」
俺が業務を手伝ったおかげで、今日のノルマが想定よりも遥かに早く済んだらしい。
「いや、すごいですよ!他の役員さんなら、大体二、三回はダメ出しが入るのに、オウサカセンパイは全部一発で通してるんですから!」
ナナちゃんはすごいすごいと言ってくれるけど……そんな毎回ダメ出されるとか、ちょっと杜撰すぎないか?
「私からも礼を言わせてくれ、ありがとう」
ゴジョウイン会長からも感謝の言葉をいただきました。
さて、現在の時刻は17時が過ぎた頃。
さすがにそろそろお暇しないとな。いくら業務を手伝ったとはいえ、部外者がいつまでも学生会室に居座るわけにもいかんし。
「じゃぁトモエセンパイ、バトルシミュレーター使っていいですか?」
「あら、構わないわよ」
ん?バトルシミュレーター?ガンプラバトルのか?
学生会室にそんなものあるのか?
「やった!オウサカセンパイ、今日はガンプラを持って来てますか?」
「ん?あるけど……まさか、この学生会室でやるのか?」
というか、なんでシミュレーターが学生会室にあるのか……
「そうですよー、なんでもゴジョウインセンパイが私物として持ち込んだとか、なんとか」
「会長の私物!?」
思わずその会長の方に目を向けると。
「うむ。私は学生会の立場上、ガンプラバトル部に居座るわけにはいかんからな。仕事が終わった後などは、ここで自己鍛錬もしている」
本人がそう言うからには間違いないか。
まぁ、実績の他には家柄とか権力とかで押し込んだんだろうなぁ……
「というか、ナナちゃんもガンプラバトルをしているのか」
それよりも気になるのはそっちだ。
ナナちゃんからはそんなイメージが全然無かったから、意外と言えば意外だ。
「はい。って言っても、これもモデルの仕事の一貫みたいなものでして……」
「モデルの仕事の一貫?」
オウム返しに訊き返すと。
「ウチの従兄ちゃん、ガンプラ関連でもわたしを売り出そうとか考えてるみたいでして……なので、そのガンプラバトルを始めたのも今月くらいからなんです」
まだまだ練習中です、と言うナナちゃん。
「それはまた……なんだかガンプラアイドルみたいだな」
「歌って踊るわけじゃないので、厳密にはアイドルでは無いんですけど。さぁ、時間もあんまりありませんし、早速やりましょうセンパイ!とりあえずミッションモードでいいですよね?」
俺の承諾を得るよりも先にバトルシミュレーターを並べて電源を入れていくナナちゃん。まぁいいけどな。
ミッションモードで選択し、さて何のミッションにするのかね。
「じゃぁオウサカセンパイ、これ、いいですか?」
どれどれ、どんなミッションかなー。
ミッション名は『ラプラスの亡霊』
指定されるフィールドは『旧首相官邸ラプラス』
ふむ、ここは確か……U.C.0096頃に、『ラプラスの箱』を巡る戦いの中で、"箱の鍵"である
いやー、あの時代に転生した時は、バナージと一緒に連邦と袖付きを行ったり来たりして大変だったなぁ。
達成条件は『敵機の全機撃破』か。シンプルでいいな。
「よし、じゃぁやろうか」
「はい!」
バナパスを読み込ませてーの、ガンプラをスキャニングさせてーの。
「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」
「ホシカワ・ナナ、『ティエレンパイタォ』、行っきまーす!」
ゲートより発進して、すぐにナナちゃんのガンプラと合流。
目に映える淡いピンク色の装甲……だが、その装甲形状はゴツゴツして分厚い。
人型と言うよりは、『四肢を持った戦車』とも言うべきそれは、
「ティエレンの改造機なんだな」
A.D.歴の人類革新連盟(人革連)の主力機なんだけど、ユニオンのフラッグや、AEUのイナクトに比べるとどことなく古臭い機体なんだよな。
「はい、正確には、"タオツー"の方ですけど……これがわたしのガンプラ、ティエレンパイタォです!」
なるほど、
それに……完成度もなかなか高い。
滑腔砲やショルダーシールド、プロペラントタンクを外している代わりに、手持ちのライフル――非太陽炉対応型ビームライフルかな――などを装備している。
肩にあるのは、シェンロンガンダムのシェンロンシールド、それも左右両方に付いているな。
「すごいな、ガンプラを始めて間もない初心者とは思えない完成度だ」
「いやいやっ、オウサカセンパイのガンダムの方がやばいくらい強そうじゃないですか!なんか、恥ずかしいです」
「恥ずかしがることなんてない。仕事の一貫だとしても、そのティエレンはナナちゃんが真摯に取り組んだ結果だ。誰だって簡単に出来ることじゃない」
「センパイ……嬉しいお言葉、ありがとうございますっ♪」
あれ?なんか好感度が上がった気がするぞ。
まぁいいか、とりあえずミッションに集中しよう。
まずは官邸の近くに移動して、少し待つ。
『――地球に住む全ての方々へ……』
そして始まる、リカルド・マーセナス初代首相による演説。
そうそう、これで危機を察知したバナージが、
――『オウサカ・リョウマ……初出場で俺の前に立ったこと、それは褒めてやる』――
「――えっ?」
……なんだ、今の声は?
聞き覚えの無い声が、俺の名前を呼んだ。
いや……違う、俺はこの声を知っている。
「オウサカセンパイ?どうかしましたか?」
「あ、あぁ、大丈夫だコノミちゃん。心配ない」
「……あの、センパイ?"コノミちゃん"って誰ですか?」
「え?何言ってるんだ、コノミちゃんはコノミちゃ……あ、あれ?」
俺は誰のことを言ったんだ?
お、落ち着け。今俺と一緒にバトルしているのは、ホシカワ・ナナちゃんだ。
使っているガンプラはティエレンパイタォ。
デュナメスの改造機じゃない、はずだ。
……デュナメス?どうして今、デュナメスの機体名が思い浮かんだんだ?
「えっと……大丈夫ですか?」
「あー、あー……すまん、きっと俺のオリジネイトに搭載されているLa+システムが反応したせいで妙な電波を受信したみたいだ」
咄嗟にそんな冗談で誤魔化そうとする。
「それより、そろそろ敵が来る頃だな」
「あ、あっはい」
これは嘘ではない、官邸の反対側に潜んでいた、親衛隊を含むギラ・ズールが四機と、アンジェロ・ザウパー専用の隊長機が飛び出し、一斉に襲いかかってきた。
その中でも、一般機仕様で高出力バックパックを備えたのがギルボアさんの機体、親衛隊仕様で両腕にギラ・ドーガのシールドを備えたのがキュアロン中尉の機体だな。
ランゲ・ブルーノ砲改やビームマシンガンによる射撃を回避しつつーの、こちらもビームライフルを撃ち返せば、ナナちゃんのティエレンパイタォもビームライフルを合わせてくれる。
だが、フル・フロンタルに追従するエリートで構成された親衛隊と、叩き上げかつ腕利き揃いのガランシェール隊だ、素早く散開してこちらの反撃を躱してくる。
双方の射撃が交錯するものの、どちらもダメージらしいダメージかを与えられないまま膠着状態へと縺れ込む。
「当たらないです……!」
ナナちゃんは焦れたようにビームライフルを連射している。ちょっと冷静さが足りないな。
「落ち着いて、ナナちゃん。慌てずに、俺に動きを合わせるんだ」
「は、はい!」
俺の一声に、ナナちゃんはすぐに反応し、オリジネイトの背後についてくる。
よし、いい子だ。
幾度目の一斉射撃を躱し――親衛隊の一機が僅かに連携を遅らせる。
「そこ!」
即座にビームライフルを発射、俺の射撃がギラ・ズールの頭部を撃ち抜き、動きを止めたところをすぐにティエレンパイタォがビームライフルで重ねがけし、親衛隊ギラ・ズールを撃ち抜いた。
ギラ・ズール【親衛隊仕様】、撃墜。
「や、やりました!」
「ナイス援護だ、ナナちゃん」
ビギナーですと言う割には、反応が早い。もしかしたらこういうFPSのゲームは得意なのかもしれないな。
とにかくまずは一機。
『手筈通りだキュアロン、やれ!』
すると、アンジェロの指示を受け、キュアロン機の動きに変化が見られた。
キュアロン機が前に出て、ビームマシンガンを連射し、さらに両腕のシールドからシュツルムファウストを次々に発射してくる。
その後方からもアンジェロ機がランゲ・ブルーノ砲改を撃ち込んでくる。
「ナナちゃん、前のギラ・ズールは任せる。俺は後ろのアンジェロ機をやる」
「了解ですセンパイ!」
キュアロン機をスルーし、そのままアンジェロ機のギラ・ズールへ突撃。
ガランシェール隊のギラ・ズールが横合いから援護射撃を仕掛けてくるが、こちらは既に加速済みだ、そうそう当たるまい。
アンジェロ機からもランゲ・ブルーノ砲改を撃ちまくってくるが、これも問題ない、最小限の挙動で躱して肉迫。
『化け物め……私のギラ・ズールを舐めるなよ!』
アンジェロ機はビームトマホークを抜いて斬り掛かって来るものの、こちらはそれよりも早く左マニピュレーターにビームサーベルを抜いている、加速の勢いのままギラ・ズールのボディを突き立て、蹴り飛ばす。
『大佐!離脱してください!貴方を失うわけには……!』
ギラ・ズール【アンジェロ機】、撃墜。
すぐに反転してナナちゃんの元へ向かえば、接近戦を持ち込んだキュアロン機を相手に喰らいついて粘っている。
振り抜かれるビームトマホークに、ビームサーベルで対抗しているが……ビームサーベルに非太陽炉対応型ってあったっけ?まぁどっちでもいいか。
ビームライフルでキュアロン機の横合いから一発。
ギラ・ズール【キュアロン機】、撃墜。
「助かりました!ありがとうございます!」
「よく堪えてくれた。あと二機だ」
残るはガランシェール隊の二機だ。
数さえ減らせばこちらのものだ、残り二機のギラ・ズールも苦戦すること無く撃破し、無事にミッションクリア。
「ふぃー……お疲れ様でした、オウサカセンパイ。さすが、ガンプラバトル部のエースだけありますね」
「ナナちゃんもお疲れさん、なかなかやるじゃないか」
互いの健闘を称え合いつつ、スキャナーからガンプラを回収。
「二人ともお疲れ様。そろそろ戸締まりするから、片付けてちょうだいね」
シノミヤ副会長が、この学生会室の鍵を片手に待ってくれていた。すいませんね。
ナナちゃんと手分けして、手早くバトルシミュレーターを片付けていく。
「そう言えば、ナナちゃんのティエレンって改造していたけど、あれもナナちゃんが自分で?」
「あぁ、あれはですね、ティエレンタオツーじゃないパーツは、実は従兄ちゃんが持ってたパーツを使っているんですよ。ティエレンパイタォに付けるための改造とか、一部は従兄ちゃんにやってもらいましたけど、パーツのチョイスとか、塗装とかは自分で頑張りました!」
「なるほどな」
オリジナルのビームライフルやビームサーベル、シェンロンシールドを二枚も装備していたのは、あれは従兄さんのジャンクパーツから選んだのか。
「従妹に無理難題を押し付けるんですから、これくらいの融通はきいてもらわないと!」
「無理難題とか言いながらも、それでもきちんとやろうとするナナちゃんは凄いな」
「そうですか?えへへ、オウサカセンパイに褒められちゃいました♪」
実際、世辞を抜きにしても凄いと思う。
戸締まりを終えて、四人で校門を潜る。
それぞれタイプの異なる美少女三人と一緒に下校……あれこれなんかデジャヴ?
……あっそうか(閃き)。
マユちゃん、イツキ、ミカゲさんと三人を攻略可能な『ガンプラバトル部ルート』と、
ゴジョウイン会長、シノミヤ副会長、ナナちゃんの三人を攻略可能な『学生会ルート』の2ルートに分岐していて、
どっちのルートにも入らないと、ケイスケ先輩との『友情エンド』で終わると。
……ってやっぱりギャルゲー世界じゃねぇか!!
「……あぁそうだ。オウサカ、君に教えておくことがある」
この学園ラブコメ世界の仕組みについてツッコミを入れていると、不意にゴジョウイン会長が話しかけてきた。
「なんでしょう?」
「六月の末頃に、個人戦の部の選手権大会がある。こちらはオープンクラスでレベルは高いが、君なら勝ち抜けるはずだ」
六月の末頃……今が六月上旬だから、大体三週間後。
参加するかどうかは自由だけど、今後の展開的には参加すべきだろうな。
「オープンクラスの個人戦の部ですか。せっかくですし、挑戦してみます」
「よし、よく言ってくれた。これで張り合いが出来ると言うものだ」
満足気に頷くゴジョウイン会長。
「張り合い?もしかして、ゴジョウイン会長も参加するんですか?」
「そうだ。君とはもう一度戦いたいと思っていてな。つまり当日は、私と君はライバル同士になるというわけだ」
ははぁ……そういうことか、だから俺を誘ったんだな。
「お手柔らかにお願いしますよ」
「無論だ。お手柔らかに、全力で倒すと約束しよう」
お手柔らかに全力で倒すって、すんごい器用なことをするな?
まぁともかく、今月末に個人戦の選手権大会が控えてますということで、今度はそれに備えるってことか。やれやれ、なかなか忙しないスケジュールだな。
すると、隣からシノミヤ副会長がくすくす笑う。
「アマネったら、オウサカくんとバトルするの、すっごい楽しみにしてるのよ。最近なんか、「自己鍛錬などより、オウサカとバトルする方が充実感があるな」とか言い出してるし」
「当然だ」
むふん、とドヤ顔。なんですか、ちょっとかわいいとか思っちゃったじゃないか。
「アマネセンパイにそこまで認められているなんて、やっぱりオウサカセンパイはただ者じゃなかったんですね……!」
その反対側から、ナナちゃんが戦慄している。
ただ者じゃない……うん、『異世界転生でこの世界に来た』って言う意味なら、ただ者ではないかな。
「うむ、今後も連絡を取り合うこともあるだろう。連絡先の交換をしておくとしよう」
「あ、はい。RINEでいいですか?」
「構わない」
ゴジョウイン会長がスマホを取り出すのを見て、俺も懐からスマホを取り出す。
「あーっ、アマネセンパイずるいです!わたしも交換したいです!」
「そうねぇ、それなら私も交換してもらおうかしら」
それを見て、ナナちゃんとシノミヤ副会長も続いてきた。
ゴジョウイン・アマネ
ホシカワ・ナナ
シノミヤ・トモエ
今日だけで女子の連絡先が三つも増えてしまった。
これは本格的にギャルゲーだな、夜に誰に連絡するとかで好感度アップに繋がりそう。