ガンダムブレイカー・シンフォニーRe:BREAK 作:さくらおにぎり
学生会室で業務を手伝ったその日の晩、早速メッセージが投げ掛けられた。
メッセージがあったのは、シノミヤ先輩からだ。
ちなみに、ゴジョウイン先輩、シノミヤ先輩、ナナちゃんの三人のグループトークにも参加させてもらっている。
はいはい、なんでございましょう。
トモエ:今、時間は大丈夫?
リョウマ:大丈夫ですよ。なんでございましょう?
トモエ:今週末の日曜、アマネとナナちゃんと遊びに行く予定なのだけど、オウサカくんも一緒にどうかしら?
リョウマ:特に予定も無いですし、お呼ばれします
トモエ:さすがはオウサカくん、レディの扱いに慣れているわね
リョウマ:慣れているつもりは無いんですが、普段から女子率の高い部にいるからでしょうか
トモエ:なるほど、それなら納得だわ
トモエ:アマネとナナちゃんには、私から伝えておくわね
リョウマ:よろしくお願いします
トモエ:夜分遅くにごめんなさいね、おやすみなさい
リョウマ:おやすみなさい
互いに『おやすみなさい』のスタンプを貼り合って、トークは終了。
ふむ、今週日曜は学生会の三人と遊びに行く、と。
忘れない内にスケジュールアプリに書き込んでおくとしよう、カキコカキコ。
しかし遊びに行くとな。
シノミヤ先輩とナナちゃんはなんとなく想像出来る。
けれど、ゴジョウイン先輩が遊ぶ姿と言うのが今ひとつイメージ出来ない……というかあの人、ガンプラバトル以外でプライベートの時間は何やってるんだろうか。
うーん、握力でカボチャを潰せそうなくらい鍛えているようだし、トレーニング?朝起きたら30分はランニングしてそう。
いや、あぁ言う凛々しい系女子に限って、実は部屋はかわいいぬいぐるみだらけでもふもふしてたりするのが鉄板だし……うん、なんかその方がしっくり来るな。
でも直接訊くのはやめておこう、きっと隠しておきたい趣味だと思うし。
想像ばかりが先走ってしまったが、まぁその日にさりげなく訊けばいいだろう。
ともかく、今週日曜日の予定は決まったところで、今日のところは寝るとしよう。おやすみー。
というわけでやって来た週末日曜日。
ゴジョウイン先輩からは、現地でガンプラバトルもする予定だからガンプラも持ってくるようにと言われているので、オリジネイトガンダムも忘れずに持ち運ぶ。
待ち合わせ場所は、10時に駅前広場。
以前にガンダムベースにミカゲさんのガンプラを見繕いに行った時と同じように、15分前には到着しておき、意識高い系男子をアピールしておくぜ。
……と思ったんだが、事態は俺の予想を見事に裏切ってくれた。
「あっ、オウサカセンパーイ!こっちですー!」
「なんだ、思ったより早かったな」
「あら、時間前行動が出来るなんて紳士的じゃない」
俺が着くよりも先に、御三方が既に待ってくれているではありませんか。
うん、皆さん制服じゃなくて私服だから、新鮮だなー。
とりあえず朝のおはようございますを告げてから。
「遅くなってすみません、15分前に待っていればいいと思ってたんですが、三人とも早いですね?」
「いいや、私達も今来てすぐのところだ。待つと言うほど待ってはいない」
ゴジョウイン先輩がそう言うからには、待ち始めて間もないのだろう。この人は基本的に忌憚のない物言いをするから。
「少し早いけど、むしろ時間に余裕が出来たと思えばいいわ」
「ですです!」
時間ギリギリよりは余裕がある方がいい、まさにその通りだ。
「それで、今日はどこに行くんです?」
ガンプラバトルもする、という以外は、どこに遊びに行くかは聞いていない。遠出するわけでも無さそうだが。
「まずは映画館に行く予定です。コミックの実写化作品なんですけど、評価ポイントがけっこう高くて、レビューでも評判いいらしいんですよ」
ナナちゃんが最初の予定を教えてくれた。
映画か、デートでも定番コースだな、
「あぁ、マンガやアニメの実写映画化って最近多いな」
あれって当たり外れが激しいって、過去の異世界転生でもよく聞いたけど、この世界ではどうなんだろう。
「ジャンルは何なんだ?」
「イセコイ……つまり、異世界の恋愛ものです」
それもなんだか最近よく聞くなぁ、悪役令嬢だの、婚約破棄だの、追放だの、溺愛だの、ざまぁ・もう遅いだの、そういう世界には何回も異世界転生したわ。
あらゆる先の展開を実経験済みの"俺"としてはあまり楽しめないかもしれないな……
まぁ、評価ポイントが高くてレビュー件数も多いということは、少なくともそれなりに完成度のある作品か。
「それじゃぁ、早速行きましょうか」
シノミヤ先輩に先導されるように、開館前のショッピングモールへ向かう。
『私は彼女に真実の愛を見つけた!ゆえに、お前との婚約を破棄させてもらう!』
冒頭十秒、最初のセリフがコレである。
こういうスタートも多いなー、と白けた目で見る。
婚約破棄、濡れ衣、国外追放、三点揃ってお得なセット。
まさに「テメーの頭はハッピーセットかよ」である。
追放後、ご都合主義的展開で隣国の王子に拾われ、発揮しても認められなかった才能を正当に評価され、次々に隣国を良い方向へ変えて行くヒロイン。
これも定番だなー、無能に見えて実は超有能な聖女とか、何百パターンもあるわ。
やがてヒロインは隣国王子に見初められてめでたく婚約。そのヒロインを追放した国は、ヒロインを追放してから急に雲行きが怪しくなり、凋落の一途を辿っていく……と。
展開そのものはありふれているし、ストーリーも陳腐だが、俳優さんの演技は見事なものだ。高評価を得ているのはストーリーやキャラではなく、キャストのおかげだと思う。
それにしても、こういう創作物における"真実の愛"に対する解釈はひどいなぁ、王族が政務をほったらかして女に夢中になる……"傾国の美女"と言う言葉があるけど、こういうのが原点なのかもしれん。
なんやかんやあって頭ハッピーセット……ではなく、ハッピーエンドで終わったので、お決まりの昼食ついでの映画の感想だ。
ファミレスに入店して、各々メニューをオーダーしたら。
「テンプレでした」
「テンプレでしたねぇ」
「テンプレだったな」
「テンプレだったわねぇ」
俺、ナナちゃん、ゴジョウイン先輩、シノミヤ先輩の順にこれである。
「キャスティングとサウンドは良いと思うのだけど、ストーリーが如何せん陳腐ね」
あぁ、やっぱりシノミヤ先輩も同じこと考えてたか。
「なんかもう最近のイセコイは、とりあえず婚約破棄とざまぁをしておけばいい、みたいな風潮がありますし」
ナナちゃんも低温評価だ。
婚約破棄をした側が「はははははっ、ざまぁないぜ!」ってカミーユしてたら気が付いたら逆に「はははははっ、ざまぁないぜ!」カミーユされるまでがざまぁの定義みたいなものだし。
「今回の実写化は"ハズレ"だったな。原作のコミックでは面白いのかもしれないが……」
ゴジョウイン先輩は溜息混じりに紅茶を啜っている。
「原作がどのくらいの期間を連載していたのかは分かりませんけど、映画にするに当たってカットされたシーンも多いでしょうね」
俺の総評としては、『レビュー件数の割には微妙と言わざるを得ない』と言ったところか。
映画の感想会も早々に終わったところで、この後の予定について。
「この後はどういう予定ですか?」
「ブティックや雑貨屋をいくつか見て回るつもりだったけど、オウサカくんにはちょっと退屈になるでしょうし、今回は見送って先にガンプラバトルにしてもいいかと思っていたのよ」
シノミヤ先輩がそう応じてくれる。
女の子の服とか小物アクセサリに対する熱意は並々ならぬからなぁ。比べるのは失礼かもしれないが、アニヲタのアニメに対する熱意に似通ったものがある。
(今世では)男子である俺には退屈だろうと思って、シノミヤ先輩は気遣ってくれているのだ。
人を振り回したがるとかナナちゃんは言うが、……いや実際その通りかもしれないが、こういった気遣いが出来る人なのだ。
が、そこで「すみません」と頭を下げる俺ではない!
「俺のことならお気になさらず。むしろ、美少女三人が着飾るのをタダで見られるんですから、そこで退屈だなんて思ったら罰が当たりますよ」
「そうなの?無理して私達に合わせなくてもいいのよ?」
「無理してるつもりはないですよ」
「なら、ここはオウサカくんの紳士ぶりに甘えちゃおうかしら。アマネとナナちゃんもそれでいい?」
一応、ゴジョウイン先輩とナナちゃんの同意も確認。
「私が、というより、服のことになると長いのはトモエの方だからな」
「わ、わたしもちょっと長くなりそうなので……今日はほどほどにしておきます」
ゴジョウイン先輩はともかく、ナナちゃんにも少し気を遣わせてしまうか。
ほんとに気にしなくていいんだけどなぁ。
昼食をのんびりいただいたら、御三方の当初の予定通り、ブティック巡りと、雑貨屋さんでアレやコレやと。
ゴジョウイン先輩はあまり物欲が無いのか、いくつか物を手にとって、すぐに終えてしまった。
ナナちゃんとシノミヤ先輩はやはり、あれもこれも試着しては俺やゴジョウイン先輩に意見を求めたりしてきた。
退屈はしないけど、ちょっと手持ち無沙汰だ。
よし、ゴジョウイン先輩も手持ち無沙汰そうだし、ちょうどいいタイミングだ。
「ゴジョウイン先輩、つかぬことを訊いても?」
「くだらんことならその場で叩き伏せてやろう。……というのは冗談だが、つかぬこととは?」
あかん、これ迂闊なこと言ったらマジでこの店の床のシミにされそう。
「先輩って、ガンプラバトル以外だとどういう趣味があるのかなぁと思いまして」
当たり障りないはずだ、多分。
「お菓子作りだ、と言ったら意外か?」
「……それは、予想していなかったですね」
ぬいぐるみ集めに匹敵するくらいのファンシーかつキュートな趣味だったわ。
「私の趣味がお菓子作りだと言うと、周りは揃って信じられんものでも見たような反応をする……そんなにおかしいのか?」
もう慣れたものだか、とゴジョウイン先輩は溜息をつく。
「確かに意外でしたけど、別におかしくは無いでしょう。ごく普通のことです」
ゴジョウイン先輩が、黒髪ロングを束ねてエプロン姿でクッキーを焼く姿……うん、かわいい。
なんて妄想をしていたら、今度はゴジョウイン先輩が意外そうに目を丸くしている。
「……私の趣味を聞いてそういうことを言ってくれたのは、トモエ以外なら君が初めてだ」
ふふっ、と柔らかい笑みを浮かべてくれた。
「機会があれば、君にもぜひ私の桜餅を味わってもらいたいものだな」
「……ぜひとも」
そ っ ち か ! ?
お菓子はお菓子でも、和菓子の方とは思わんかったわ!!
ま、まぁいいか、その時が来たら美味しくいただこう。
「あのアマネが、オウサカくん相手とは言え笑ってるわ……!?」
「一体どんなナンパテクニックを披露したんでしょうか……!?」
試着室のカーテンのむこう側からそんな視線と声が聞こえて来たけど、気にしない気にしない。
さて、シノミヤ先輩とナナちゃんの気が済むまでブティックを巡った後は、お待ちかねのガンプラバトルの時間です。
俺とゴジョウイン先輩、ナナちゃんの三人でミッションモードでもやるのかと思っていたが、
「チーム分けはどうするの?」
ゲームセンターに移動している内に、シノミヤ先輩がそう言った。
「チーム分け?……あれ、もしかして、シノミヤ先輩もバトルするんですか?」
それはきいてないぞ。
「あら、知らなかった?……そう言えば、私がオウサカくんにガンプラバトルの話をしたことは無かったわね」
「はい、今初めて聞くことになります」
マジか、ゴジョウイン先輩の和菓子作りの趣味ほどじゃないが、これもなかなか意外だ。
「トモエセンパイもすっごく強いです。前に一回だけ一緒にミッションモードをやりましたけど、なんかもう、すっごく強いです!」
ナナちゃんが二回も「すっごく強い」と言うくらいだ。恐らく、ゴジョウイン先輩には一歩譲るが、それでも全国レベルで見れば上から数えたほうが早いくらいには実力があると見てもいいかもしれないな。
「強い強いって言うけど、アマネやオウサカくんの方がずっと強いわよ?」
「トモエはこう言っているが、確かな実力があるのは間違いない。私が保証出来る」
ゴジョウイン先輩がこう言うくらいか、もしバトルすることになったら気を引き締めなければ。
ゲームセンター内に併設型されている、ガンプラバトル専門のスペースに移動し、四基分のシミュレーターを確保する。
ゴジョウイン先輩が部屋を作り、その後から俺、ナナちゃん、シノミヤ先輩も入る。
チーム組み合わせは、シャッフルで設定され……
Aチーム:アマネ ナナ
Bチーム:トモエ リョウマ
「あら、オウサカくんとね」
ふむ、シノミヤ先輩と組むことになったか。
「頼りにしてるわね」
「期待を裏切らない程度には頑張りますよ」
そして対するはゴジョウイン先輩とナナちゃんのコンビか。
「アマネセンパイ……足手まといにはなるかもしれませんけど、頑張ります!」
「足手まといなものか。全力を尽くせば良い」
ゴジョウイン先輩はいつも通り余裕に満ちているなぁ。
強者の余裕ってやつか。
ランダムフィールドセレクトは『アスティカシア学園 第11戦術試験区域』
A.S.(アド・ステラ)のアスティカシア学園内において、スレッタ・マーキュリーとグエル・ジェタークの二度目の決闘が行われる際に選ばれた場所だな。
ローディング中にシノミヤ先輩と通信を繋いで、短い作戦会議だ。
「私のガンプラは砲撃戦仕様の機体だから、前衛はオウサカくんに任せていいかしら?」
「いいですよ。ナイスな援護、期待してますよ」
ほう、シノミヤ先輩のガンプラは射撃特化機なのか。
ゴジョウイン先輩が認めるほどの猛者の機体だ、ちょっと楽しみだ。
ローディング完了、出撃開始だ。
「オウサカ・リョウマ、オリジネイトガンダム、行きます!」
「シノミヤ・トモエ、『フルコマンドガンダムMK-II』、行くわよ!」
『ゴジョウイン・アマネ、ゼイドラ・スタイン、出るぞ』
『ホシカワ・ナナ、ティエレンパイタォ、行っきまーす!』
四者四様に出撃して、まずはシノミヤ先輩と合流だ。
さて、先輩のガンプラは……お、おぉ?
「シノミヤ先輩の機体、見るからに火力高そうですね?」
「えぇ、これが私のガンプラ、フルコマンドガンダムMK-IIよ」
素体はティターンズカラーのガンダムMK-IIだが、バックパックから大きく横に広がるように大型ウイングを展開し、そのパイロンにはガトリングガンやら大量のミサイルポッドやらで武装している。
手持ちの武器も原典のガンダムMK-IIとは異なるライフルを両手に備えているところ、かなりの重武装だ。
しかも、それでいて完成度も高いから、恐らくは機動性も高いと見ていいだろう。
まさに、空飛ぶ弾薬庫だ。
――そういえば過去の異世界転生で、ダブルオーガンダムの『趙雲』があんな感じの装備を引っ提げてたなぁ。
「なるほど、それなら俺に前衛を頼むのも頷けますね」
「そういうことよ、美人で頼りになる先輩からの、お・ね・が・い♪」
「了解です」
「……しれっと返されたわ、さすがはオウサカくんね」
何がどう"さすが"なのかは知らんけども。
「おしゃべりはこの辺にしておきましょうか、来ますよ」
戦術試験区域の森林を切り裂く白い閃光――ゴジョウイン先輩のゼイドラ・スタインが猛スピードで突出してきている。
『ホシカワの援護もあるとは言え、トモエとオウサカの二人を同時にか。油断は出来んな』
バババッとゼイドライフルを連射してくるゼイドラ・スタインだが……いやもう相変わらず先読むのが上手いなこの人、リアルシャアかよ!機体のカラーリングはどっちかと言うとゾルタンの方に近いけど。
四苦八苦しつつビームを躱し、こちらもビームライフルを撃ち返せば、
「今日は勝たせてもらうわよ、アマネ!」
俺の後方上空からフルコマンドガンダムMK-IIが、大型ミサイルポッドのハッチを開き、両側部のガトリングガンと共に一斉発射。
すんごい弾幕だ、正面からカチ合ったら俺でも避けきれないかもしれん。
しかもただの弾幕じゃない、ミサイルの追尾機能に複数のパターンがあるのか、ゼイドラ・スタインの逃げ場を潰すように取り囲みながら迫り、その上からガトリングガンが正確に追い掛け、ミサイルの先へ誘導させるように撃ち込んでいる。
『チッ、これだからトモエの弾幕は厄介でならん!』
すると、ゼイドラ・スタインが後方へ飛び下がりつつ、左掌からビームバルカンを連射してミサイルを撃ち落としている。
ゴジョウイン先輩を後手に回らせるって、やはりシノミヤ先輩も相当な実力者だ。
「なら、シノミヤ先輩の弾幕が厄介な内に墜させてもらいますよ」
見ているばかりじゃいられない、ゴジョウイン先輩が後手に回っている内に攻めるとしよう。
ビームライフルを撃ち込みつつ、バルカンで牽制。
『アマネセンパイ!』
ゼイドラ・スタインの後方から、遅れてやってきたナナちゃんのティエレンパイタォがビームライフルを撃ち返してくる。
っと、援護役だろうナナちゃんを早めに墜して、ゴジョウイン先輩の方に集中したいところだが、狙われていると悟ってかティエレンパイタォはすぐに回避を取る。
背部にあるのはミラソウル社製フライトユニットの改造品だ、ティエレンのような重量級の機体でも、単独飛行は無理でも高機動は可能らしい。
そうしてティエレンパイタォに気を取られそうになると、ゼイドラ・スタインがその隙を虎視眈々と狙ってくる。
今は、フルコマンドガンダムMK-IIの弾幕火力のおかげでゼイドラ・スタインは自由に動けないが、問題はその火力の弾切れが起きた時だ。
だからこそ短期決戦を望みたいところだが、それはゴジョウイン先輩も承知の上だろう、向こうはシノミヤ先輩が弾切れを起こすその時を待っているはずだ。
であれば、ウェポンセレクターを開き、ビームライフルとハイパーバズーカをダブルセレクト、ハイパーバズーカはティエレンパイタォに向けて撃ちながらも、ビームライフルはゼイドラ・スタインへ放つ。
すると、オリジネイトの両手が塞がっている――即ち、咄嗟にビームサーベルを抜刀出来ない状態を見て、ゼイドラ・スタインは左マニピュレーターにゼイドラソードを抜いて猛然と迫りくる……が、これは読めている、その場から飛び下がって距離を取るものの見る内にゼイドラ・スタインとの距離が縮まっていく。
けれど、ゼイドラ・スタインが自ら近付いてくるなら、そこはシノミヤ先輩の出番だ、フルコマンドガンダムMK-IIから放たれる大量のミサイルとガトリングガン、ビームライフルによる重厚な弾幕が諸手を挙げて歓迎、殺到する。
それら弾幕を盾にするように回り込み、ハイパーバズーカを納めてビームサーベルを抜刀、弾幕を回避しているゼイドラ・スタインへ接近する。
「シノミヤ先輩、ナナちゃんの足止め頼みますよ!」
「了解よ」
俺がゼイドラ・スタインに接近戦を持ち込んでいる間は、シノミヤ先輩にティエレンパイタォの足止めをお願いしてもらう。
間合いに踏み込みビームサーベルを横薙ぎに振るえば、ゼイドラ・スタインもすぐに反応し、ゼイドラソードで弾き返してくる。
だが弾き返されるのは想定済みだ、ゼイドラソードを振り抜いたその隙を、ビームライフルの近距離射撃で、
『甘いな!』
ゼイドラソードを振り抜いた直後に隙が出来ると予想していたが、ほぼノーモーションでサマーソルトキックを仕掛けてきた!?
「ちっ!?」
そのサマーソルトキックでビームライフルを蹴り飛ばされてしまった。
恐らくは俺がビームサーベルを弾き返された直後にビームライフルを撃つことも読んでいただろう。
宇宙でも地上でも、アクロバティックな機動力は変わらないな、さすがと言うべきか。
『もらったぞ!』
サマーソルトキックからさらに流れるようにゼイドラソードを突き出して来るゼイドラ・スタイン。
咄嗟にシールドを構えて受け流すが、受け流してなおゼイドラソードの刃はシールドの表面を深く斬り裂いていた。……つか、前にバトルした時よりもなんか斬れ味上がってないか?
シールドはもう使い物にならないが構わん、即座にカウンターにビームサーベルを斬り返すが、これは回避され、イニシアティブを取り直される。
一方、トモエのフルコマンドガンダムMK-IIは、リョウマの頼み通り、ナナのティエレンパイタォの足止めを行っていた。
足止め、と言っても可能であれば撃墜しても構わないだろうとトモエは思っていたのだが、
「ナナちゃんもなかなかやるようになったわね」
『お褒めいただきありがとうございます!オウサカセンパイに置いてかれないようにっ、必死に練習してましたからね!』
なかなかどうして倒し切れないでいた。
確かに対アマネのために、フルコマンドMK-IIの弾薬は撃ち尽くさない程度に温存し、両マニピュレーターのビームライフル二丁でティエレンパイタォを攻め立てていたが、それだけでは仕留めきれそうにないほどに、ナナの操縦技術は大きく向上している。
少なくとも、リョウマと一緒にミッションモードをプレイした時よりも、全体的に挙動が素早い。
不安定だった機動もしっかりした動きになり、フルコマンドガンダムMK-IIの動き無駄が見えない。
あの日から、アマネやトモエが見ていないところでも操縦技術を磨いていたのだろう、なるほど確かに練習は嘘をつかない。
そして少しでもトモエの攻撃の手が緩めば、すぐに反撃を仕掛けてくる。
フルコマンドガンダムMK-IIの左右のビームライフルの連射を凌ぎ、すぐさまビームライフルを撃ち返すティエレンパイタォ。
対するフルコマンドガンダムMK-IIだが、重武装を背負っているとは思えないほどの機動性を以てビームを躱す。
重い機体を飛ばすためにバーニアを増設したりすることで補う。
単純に思えるが、何かを増設するということは、それだけで全備重量が増え、制御が煩雑になるのだ。
トモエのフルコマンドガンダムMK-IIの完成度の高さもあるが、それを支えるための、彼女自身の操縦技術によるバーニアの扱いも巧みだ。
「よし、ナナちゃんのために、ここは接近戦にしてあげましょう」
トモエはウェポンセレクターを切り替え、ビームライフルを背部の重武装付きウイング――『フルコマンドブースター』のマウントラッチに納めて、代わりにガンダムMK-II本来のビームサーベルを両手に抜き放って、ティエレンパイタォへ猛スピードで迫る。
『わ、わたしのため!?やっ、真正面からぶつかるのはちょっとご勘弁をっ……!』
ご勘弁を、も言いつつも、ティエレンパイタォの左マニピュレーターにはビームサーベルを抜き、接近戦に対応しようとしている。
瞬間、双方のビームサーベルが衝突し、メガ粒子と疑似GN粒子が干渉の余波を撒き散らす。
弾き返し合い、ティエレンパイタォはすぐにビームサーベルを突き出そうとするが、それよりも先にフルコマンドガンダムMK-IIが急加速し、ビームサーベルを飛び越えるように飛び蹴りでティエレンパイタォを蹴り飛ばす。
「ナナちゃんはまだ手足の使い方が甘いわね。せっかく重量級の機体なんだから、機体ごとぶつける体当たりだけでもそれなりのダメージにはなるわ」
『そんな背中に爆撃機背負ってるようなガンプラ使ってる人に言われても説得力ないですー!』
原作設定通りのガンダムMK-IIとティエレンであれば、(チタニウム合金とEカーボンという材質の違いはさておくとしても)双方の機体重量は二倍近い差がある。
だが、フルコマンドガンダムMK-IIとティエレンパイタォであれば、全備重量の関係もあって、前者の方が重い上に推進力も桁違いである。
蹴り飛ばされたティエレンパイタォだが、すぐにフライトユニットのスラスターを吹かし、姿勢制御して着地、直後そこへフルコマンドブースターのガトリングガンがすぐさま襲い掛かり、銃弾の嵐が戦術試験区域の地面を砕き飛ばしてくる。
『うわわっ……』
これには思わずナナも引けを取り、ティエレンパイタォをバックホバーさせてガトリングガンを躱す。
「そろそろオウサカくんの援護に戻るべきかしら」
リョウマがアマネに遅れを取るなど早々起こり得ないはずだが、苦戦はしているかもしれない。
ティエレンパイタォが遠ざかるのを見つつ、トモエは操縦桿を捻り返してフルコマンドガンダムMK-IIを反転させ、オリジネイトガンダムの元へ急行する。
そのモニターが捉える先には、まるで稲妻がぶつかり合っているかのごとき戦いが繰り広げられている。
技量でも機動力でも、一日の長と言うべきなのか、やはりにゴジョウイン先輩に分がある。
苛烈鮮烈に攻め立ててくるゼイドラ・スタインの猛攻。
瞬き一つでもすればその瞬間にゼイドラソードに首を飛ばされるか、掌のビームサーベルにコクピットを貫かれるかもしれない……そんなギリギリの均衡の元に、俺は喰らいつけている。過去の異世界転生でリアルMS戦を経験してこなければ、こうはならなかっただろう。
互いに決め手に欠け、しかしこの均衡も長くは続かない。
これでは埒が明かない、けれどどうしたものかと考えさせてくれる余裕もない。
『ふふっ、やはり君とこうして正面から斬り合うのは、実に楽しく有意義だ!』
「そいつはどーも……ッ!」
ゴジョウイン先輩は楽しそうだなぁ、今その御尊顔を拝められるなら、ツヤツヤでイキイキしてそうだ。
ゼイドラ・スタインの左マニピュレーターのビームサーベルを斬り返し、返す刀でビームサーベルを突き出せばゼイドラソードに防がれ、弾き返し合えば即座に蹴りが飛んでくる。
これは右肩をぶつけるようにして蹴りを受け、すぐさまフルスロットルで操縦桿を押し出して、ショルダータックルで弾き飛ばす。
一瞬でも体勢を崩すゼイドラ・スタイン、そこへ瞬時に加速させて右のビームサーベルを突き出す。
『甘いな』
突き出されたビームサーベルから飛び退くゼイドラ・スタイン。
――そう、そうすれば躱されるのはもう知ってる。
だから、すぐに次の攻めに移れる。
ビームサーベルを突き出した姿勢のまま、飛び退いたゼイドラ・スタインの回避運動に、バーニア出力だけで強引に追従してみせる。
『なんと!?』
ここで付いてこられるとは予想していなかったのか、ゼイドラ・スタインの挙動が僅かに乱れた。
「ここっ!」
瞬時、オリジネイトの軸足を入れ替えて、機体ごと回転させながら左のビームサーベルを薙ぐ。狙いはコクピット――ゼイドラ・スタインの頭部だ。
『くっ!』
だが、ビームサーベルがゼイドラ・スタインの頭部へ届くよりも先に、
「なっ!?」
ゼイドラ・スタインは海老反りをするように機体を傾けさせ、ビーム刃はゼイドラ・スタインの額を掠めただけだった。
この人、なんちゅー回避のしかたしよるか!?
内心で舌を巻いている内にも、ゼイドラ・スタインは海老反り姿勢のまま返す刀のゼイドラソードを振るい、左腕を斬り飛ばされてしまった。
『今のはさすがに肝が冷えたぞ……!』
「そんな避け方を見せられたこっちの肝も冷えますよ……!」
とは言えいつまでも肝を冷やしている場合ではない、こちらは片腕を失ってしまったのだ、これでは接近戦で大きく不利になる。
一度後退して、シノミヤ先輩と合流すべきか……と思ったら、上空からゼイドラ・スタインに向けたミサイルのシャワーが降り注いできた。
「オウサカくん、まだ生きてるわね?」
シノミヤ先輩、あなたは神ですか?
「助かりました、シノミヤ先輩。片腕無くなったんで、危うく墜されるところでした」
「アマネにオトされるオウサカくん……なんだかえっちな響きね」
「あのすいません、今ちょっと下ネタに反応出来るほど余裕ないんで」
いや、ほんとに。
シノミヤ先輩の援護が無かったら、次の瞬間にはゼイドラ・スタインに斬り捨てられるかもしれないから。
『すみませんアマネセンパイ、抜かれちゃいました!』
『問題ない、すぐに合流してくれ』
程なくして、そのシノミヤ先輩に足止めされていたナナちゃんのティエレンパイタォも、ゼイドラ・スタインに合流。
これで再び2on2の体制になった。
「対アマネ用にミサイルは温存しておいたけど、次の一斉射でミサイルは打ち止め。そこから先はお願いね」
「了解です」
ミサイル弾幕は次で最後か、こっちも左腕が無いし、ここで勝負を決めないとな。
『トモエのミサイルは次で最後のはずだ。ホシカワ、しくじるなよ』
『分かりました……!』
向こうも身構えている辺り、こっちが勝負を掛けようとしているのを見抜かれているか。
初動、フルコマンドガンダムMK-IIが飛び上がり、戦術試験場のホログラムの天井スレスレまで上昇すると、
「避けれるものなら……避けてみなさい!」
残るミサイルとガトリング全弾と、ビームライフルも撃ちまくる。
ミサイル、銃弾、ビームがスコールのようにゼイドラ・スタインとティエレンパイタォに降り注ぐ。
弾幕でありながら、それでいて正確に逃げ場を潰している。
『こ、これは避けれませんよ!?』
『気合で避けろ』
『そんなご無体な!』
気合で避けろって、とんでもない脳筋思考だな?頭の悪いシューティングゲームの攻略本かな。
フルコマンドガンダムMK-IIから最後のミサイルが発射されるのを見計らって、俺は操縦桿を押し出し、ゼイドラ・スタインへ特攻を掛ける。
『ちょっ、むっ、無理っ無理っ無理、あ』
すると、弾幕を避け切れなかったティエレンパイタォにミサイルが殺到し、粉々に吹き飛ばしていった。
ティエレンパイタォ、撃墜。
『気合で避けろと言ったろうに……』
気合で避けろと言われてそれを実行出来るのはあなたくらいですよ、ゴジョウイン先輩。
ミサイルを凌ぎ、躱していくゼイドラ・スタインの隙を虎視眈々と狙う。
だが、ある程度の数のミサイルを躱したところで、
『ここだ!』
ゼイドラ・スタインは胸部のビームバスターを『地面に向けて照射した』。
高出力のビームが戦術試験場の地面を砕き飛ばし、土砂の津波が発生する。
土砂津波がミサイルを呑み込んで爆破させていく。
それに巻き込まれないように、俺はオリジネイトを一旦停止して距離を置こうとしたが、
当のゼイドラ・スタインは、土砂津波を自ら突き破って正面から近付いて来た。
「なっ!?」
さすがの俺もびっくりだ、下手すれば自機が土砂津波に呑まれて一発アウトだろうに、その土砂津波を敢えて突破してくるとは思わなんだ。
そのびっくりで反応が遅れ――オリジネイトのバイタルパートがゼイドラソードに貫かれるのを黙って見てしまった。
オリジネイトガンダム、撃墜。
結果としてはAチーム――ゴジョウイン先輩とナナちゃんのコンビの勝利だった。
ミサイルを撃ち尽くしたシノミヤ先輩は、悪あがきに残弾僅かのビームライフルとバルカンポッドを撃ちまくり、ビームサーベルで接近戦を仕掛けたものの、やはり剣の間合いであればゴジョウイン先輩の方が一枚上手だ、続けてフルコマンドガンダムMK-IIも撃破して、ゴジョウイン先輩の勝利だ。
「ふぅ、いいバトルだった」
「やっぱり気合じゃどうにもならないですよー……」
少し汗ばんで色気が増した笑顔のゴジョウイン先輩と、げんなりしたナナちゃん。
「うーん、オウサカくんの力を借りても倒せないとは。さすがアマネね、なんともないわ」
シノミヤ先輩は曲げて悔しがるどころか、自分を打ち負かしたゴジョウイン先輩を当然のように称えている。
この二人、学園では学生会の会長と副会長の座に就いているけど、実際はもっと付き合いの長い関係なのだろうな。
もう数回バトルをやって(ちなみにゴジョウイン先輩に割り振られたチームは全勝だった)、その後は各々が見て回りたいところを回れば、もう空は夕方の茜色に染まりつつあった。
駅前広場まで戻って来たところで、解散だ。
「う〜ん、いっぱい遊びましたねぇ」
ナナちゃんが夕陽に目を細めつつ背伸びする。
「今日は楽しかったわ。付き合ってくれてありがとうね、オウサカくん」
シノミヤ先輩のニコリとした柔らかい笑み。こんな美人さんに微笑まれたら、勘違いする男子が後を絶たないのも頷ける話だ。
「俺も楽しかったです、誘ってくれてありがとうございました」
こちらも感謝の言葉を返しておく。
「では、今日はここでお開きだな。また明日、学園でな」
ゴジョウイン先輩の言葉を締め括りにして、それぞれの帰路へ辿る。
――さて、次の目標は地区のオープンクラスの個人戦だったな。