最低系チート禪院扇   作:田所1919810級術師

2 / 5
誰だよお前ら。


分つ咎、その血

 

 術師として来る日も来る日も呪霊を祓い続ける日々は特段と苦ではなく、生業、俗な言い方をすれば家業でもあるから、そこに論考が入り込む余地はなかった。決まって側にいる女もなく、縁談はあったが、ただ只管に任務へ勤しんだ。そんな私に兄は思うところがあったのか、顔を合わせると酒に付き合えと言って朝まで呑み明かしたこともあった。

 

 私たち兄弟は大酒呑みだった父に似て強靭な肝臓を持って産まれた。そう易く酔うことはなかったが、ある時珍しく酒の回ったことがあった。たしか、梅雨が明けたにしては肌がいやに絡まれる夜だった。

 

 特級を冠する術師はそこに据えられるだけの理由がある。総監部が定める基準は『単独での国家転覆が可能であるか否か』。私はそれに該当した。総監部の算出した予測では私が日本国土上を焼滅させるに足るまで十分と掛からない。その結果はあくまでも、私が当時の私の最大限の出力を以て術式を運用した場合の話であって、単純な日本国という国家の機能を破壊するだけでいいのならば関東全域を焼いてしまえばいい。そうすれば話はもう少し短くて済むだろう。

 

 私は自分の力を、術式を知覚したその時から図り違えることはなかった。夢から覚めて焔を宿した瞬間、この焔は合切を焼き尽くすことが出来るだけのものであることを悟っていた。生半な呪力による肉体保護は呪力ごと塵へと還し、どんな術式も、どんな呪霊も、そして恐らくは――試したこともなければ、実行に移すこともないだろうが――天元の結界でさえも、その万象を私の術式は焼き払うことが出来るだろう。だからこそ、その力に振り回されてはならないと己を律し続けてきた。衆生の盾として、呪いに脅かされる力なき者たちを守護する者として在り続けてきた。違えることはなかった。

 

 だが、私はそれと同時に恥をひた隠しながらも生きてきた。高潔であろうとして、私という人間、術師の根幹におけるイニシアチブを取るものの側には如何なる時も私を見つめて、秘め隠すものたちを表層へと押し戻そうとする力があった。渇き、失望、諦念、色褪せる視点、狭窄、寂寞。それらが由来するものは全て、私自身だった。それらも確かに私が憶えたことに他ならなかったのだ。

 

 何もかもが私の焔に耐えられず灰へ帰す。有機物も無機物も私の前ではそう差異はなく、人だろうが呪霊だろうが、ただ焼かれる一つに過ぎない。何故瑞々しく在れないのだろうか。何故そうも易々と私の眼前から消えてしまうのか。何故、弱く、脆い。

 

 兄はよく酒を呑むと私にお前には大雑把なやり方しかないのか、とかお前の術式には雅さがない――兄がそこに拘っていたかどうかは分からない。少なくともあの面構えで雅をどうだと感じるようには互いに老いた今でも思えない――、と言っていた。私にとてそういう手札がないこともない。しかし、それらを披露する段階に至るまでに相対した者が姿形を保っていたことがなかった。兄弟の酒の席。いつもと同じ与太話で笑って終わりのはずだった。しかし、酒が回っていたせいか、私はほんの少し零してしまった。

 

 「みな脆い。触れれば焼ける。私が戦うとき、轡を並べ、共に在れる者はいない」

 

 だからだろうか。

 

 「なんと褪せた世なのだろうな」

 

 猪口を口に運ぼうとした時、兄の貌が目に入った。常は野心と向上心、不遜さで輝きを放っていたその双眸にあったのは、憐憫と無力感のように見えた。それは瞬きのように刹那のことだった。瞼を閉じると兄も猪口を傾けて、日頃私に向けている豪快な笑みへと表情を戻した。

 

 「らしくもないな、扇。硬いお前がそう感傷的な口を叩くとは、さては回ったか?情けないなあ、弟よ」

 

 高笑いする兄にそうかもしれない、と返すと、もう今日は休め、と言う。任務に障りが出ては禪院の名に傷がつくやもしれん。五条なぞ恐るるに足らず、今や我らが禪院の世、我ら兄弟の天下よ。酒で気が良くなった兄の口上を背に私は自室へと戻った。

 

 もう随分と昔のことだ。だが、私は今でもふとその時の兄の貌を思い出す。

 

 その数年後、私は当主の座への推挙を辞した。家中の者たちはみな私を当主へと推していた。当時の禪院家、炳では特級を冠した私と生得術式の歴史は浅いが実力、実績、血統全てが当主足り得、政治的手腕に秀でた兄のどちらかを当主へ据えようとする動きがあった。しかし、実際のところ私を当主へ据えることが既に内々に固まろうとしていた。

 

 御三家のパワーバランスは当時、禪院家に大きく傾いていた。代々犬猿の仲であった五条家には六眼と無下限の抱き合わせ――真の意味での相伝は無く、加茂は相伝を継承した血統はいるものの禪院と比較すると家力で劣った。術師隊の質、実績、資金力、政治的要素、それら全てを禪院が総取りしている。まさに黄金時代だった。故に、私を当主に据えて体制を盤石なものとしようとした。いずれ、当主となった私が保守派筆頭の加茂家が根差す総監部の中枢へと進出すれば禪院の呪術界に於ける地位は御三家という枠を超える強権と支配力により盟主となり得ると画策したのだろう。

 

 私はその手のことがあまり好きではなかった。兄が言うように大雑把な私は細やかな気配りが上手くない。人付き合い程度ならともかく、若かりし頃の私に老人たちと魂胆を隠して卓の下で足を踏みつけ合うような腹芸は出来なかっただろう。加え、当主となればこれまでのように任務ばかりとも行かず、外交もやらねばならない。老いた今では多少の真似事は出来るようになり、その必要性も理解はしているが、当時は自身の生き方にはそぐわないと思っていた。私は一振りの剣でありたかった。不浄を焼く焔に政は必要ない、と。

 

 当主への推挙を辞すると表明した時、勿論家中は煩くなった。考え直すようにと老人たちが私の元へ詰めかけては父の側仕えたちと代わる代わる似たような言葉を捲し立てて帰っていく。それが数日は続いた。七日ほど経った頃、兄は家中の声を纏め上げて当主の座へと就いた。この間私は兄と顔を合わせて当主就任について話したことはなかった。老人たちが総監部へ兄――禪院直毘人の第二十六代禪院宗家当主の就任を伝達すると、兄は総監部へと出頭して挨拶を済ませた。帰宅した兄は私を呼び出して、やはり大雑把なお前には政治は似合わぬ、と言った。

 

 私は術師として、特級を冠した者として、その責務を果たそうと努力してきたつもりではある。しかし、その過程で様々思うことが無かったわけではない。それらの多くは家族のことだった。妻、娘たち、そして兄。

 

 老いた私の弱さなのかもしれない。もし、あの時信条を変えてでも当主へとなっていればと思うことがある。権力が欲しいわけではないし、この()()()()を話していても恐らくは当主にはならなかっただろうが、当主の座に就いていれば兄に余分を背負わせることもなかったのだろうか。私を含め、余人には理解できぬ何某かを兄はあの酒の席から抱いた。それはきっとあの夜から今に至るまで兄の胸に洞を空けて潜り込んでいる。私の穢れが兄を、私自身が兄を損なわせてしまったのではないか。

 

 共に禪院の双頭と呼ばれ、共に走り続けた兄はいつの間にか私の後ろで遠く笑むだけで、煽り文句も聞こえない。

 

 多くを抱え、呪いを孕みながら我ら呪術師の生は止まることを許さずに進む。真に歩みを止める時が来るとするのならば、それは全ての終わり。須らくが清算され、裁かれる死の瞬きに他ならない。

 

 

 

 

 

 廊下を歩く時から香りが私の鼻を誑かそうとしていた。障子を女中が開くと五徳の上に敷かれたスキレットを見つめ、顔の大きさほどある盃を傾ける兄が鴨の切り身を炙っていた。先に始めているぞ、と言いながらもスキレットの上で油を弾けさせる鴨から眼は離されない。

 

 「待たせたか」

 

 「いや、俺も今しがた戻ったばかりだ。ちと長引いた」

 

 まぁ、まずは一献、と兄に注がれた酒を呑む。米から由来する甘み、ふくよかさを荒く削ぎ落し、喉と腹をすとんと落ちていくが、確かに身体を熱くしてくれる。私が好きな酒の味だった。そして、鴨も私の好物の一つである。美味いだろう、と兄が笑む。つい一昨日酒蔵で偶然私が好きそうな酒を見つけたという。丁度、私が兄に話があるから出向くと本家に連絡した夜のことだったらしい。

 

 「蔵にあと数本ある。気に入ったのならば持っていけ」鴨肉の隣に置かれている葱を転がしながら兄が言う。私は頷いて、珍しいな、と返した。

 

 「女中にやらせないで手ずからやるなぞ、何年ぶりだ」

 

 「何でもかんでも他人にやらせてばかりでは面白みに欠けるだろう。今宵は久しくお前と、兄と弟とで飲むのだ。余人の入る場所はいらん……、お前ももう下がれ」

 

 手を払うようにして兄は女中を下がらせる。兄は昔から時折自ら肴を作ることがあった。豪快で尊大な大酒呑み。外側からの印象とは異なり、兄は細やかで丁寧なものを好む気質で、それは兄の術式が緻密な運用を要するものだからだろう。投射呪法。術者の視界を画角とし、一秒間の動作を二十四分割したうえで、予め脳内で作成したその動作を肉体へ反映する。度を越した物理法則の無視や実現不可能である動作は反映できず、脳内で動作を作成することに失敗すれば自身の肉体は一秒間硬直する。兄は優れた才覚と時間感覚、空間認識能力をしてこの術式を使う。敵と相対しながら脳内で常に変動し続ける彼我の状況を織り込みながら動作を作成し、最速の異名に違わぬ一見派手に見える戦いの中では端々で細やかな精度が要求される。

 

 アニメーションを好む兄と術式の相性は術式の特性上からも頗る良好だったが、酒に合わせる肴を追求するにつれて調理に妥協を許すことがなくなり始めた頃から兄の戦い方は速度やそれに任せた質量で重さを出すといった単純なものから、術式の解釈を拡げた多彩な手札をも持ち合わせるものへと昇華された。私が知る限り五条悟と甚爾を除いて対人戦闘という括りに於いて禪院直毘人に勝る術師はいないだろう。

 

 鴨がいい塩梅になってくると私たちはなにも言わずにそれをつつき始めた。兄は大根を鬼おろしにして小皿に載せた。それを一つまみ鴨に乗せて醤油を垂らして葱と食べる。そして酒で油を流す。私が来ると訊いて急ぎで鴨を用意させたらしいが兄の予想よりも良い鴨が届いたようで、静かに美味いな、と兄も零していた。

 

 「今日は出ていたのか?」

 

 「総監部から出頭要請があった。甚壱が就いた任務で多少問題が起きてな……、加茂の術師とやり合ったらしい」

 

 「重複任務か」

 

 「甚壱が言うには覆面に忍装束。総監部が飼っている術師殺しの狗だろう。情報が定かではなかったが、特級に相当する呪霊を相手取ったと訊く。生温い相手ではなかった故、消耗も激しかった。緊急時の対応のため待機していた躯倶留隊が急行した時点で狗は片腕を捥がれていたがそのまま逃走、追跡したが逃げられた。甚壱の外傷の殆どは呪霊との戦闘によるものだが、残るものは血液を媒介とした術式で付けられたものだと炳は判断した。そして甚壱は呪力の起こりを捉えられなければ死んでいた、あれは穿血だった、と言っている」

 

 「何故、甚壱を狙う。総監部には奴を狙う理由がない。飾り気もなく、術師としては随分と硬い。家中でも保守的な人間だろうに」

 

 「総監部、いや、加茂は今の御三家を取り巻く状況を良くは思っていない。無下限と六眼の抱き合わせ、五条悟を擁した五条家と我らが禪院。双方の関係は冷え込んではいるが、何方も特級術師を有し、術師隊の質は我らが勝るだろうが小癪にも、嗚呼、あの五条悟めの力で家力では拮抗してしまっている。この時点で出遅れている加茂だが、奴らにとっての最悪の想定がある」  

 

 兄は盃を傾けて、両家の関係修復だ、と言う。

 

 「平安の頃より犬猿の仲ではあったが、慶長の御前試合で五条と禪院の亀裂は決定的、修復不可能なものとなった。しかし、時は随分と流れた。五条にも我らにも関係修復を望む者たちが現れた。そして、お前と五条悟の仲は悪くない。水面下で両家の和解を望む勢力同士が会合を行い始めているとも訊く。そして、甚爾の倅。もし、だ。五条と禪院。完全な和解とまでは行かずとも、歩みを合わせるようになれば、加茂は孤立する。五条と禪院が組めば総監部と母体の加茂は一日と足らずに落とされるだろう。今回の件、任務は総監部から直接炳に回された。書面には最終的な決を採ったものとして五条家から総監部に出た者の名があった。甚壱を始末した後は遺体を回収し、細工をして赤血操術が使用された痕跡と残穢を処理し五条家の関与を疑わせるものと挿げ替える。そういう魂胆だったのだろう」

 

 結局のところ、お定まりの政。やった、やっていない。やられた、やられていない。その手の話は千年も昔から変わらずにここにある。珍しくもない足の引っ張り合い。

 

 「奴らの言い分では重複任務が発生したことによる事故ではあったが甚壱と術師隊が加茂の術師を攻撃したことは事実であり過失だ、と言ってはいるがこの件は総監部も深くは突けまい。工作は失敗し、我らの出方次第では不都合を長く引き摺ることになりかねん。何れにせよ、まずは互いに体裁だけでも整えておく必要がある。互いに伝達に擦れ違いがあったという体で見舞金を出して表向きは幕引きとした」

 

 炳、灯、躯倶留隊は甚壱の帰還と同時に報復として加茂宗家に連なる者へ襲撃を図った。現当主二男へ長寿郎を筆頭とした混成術師隊が殺害を視野に含めた作戦を決行しようとした。甚壱はあくまで一時的なもの――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()炳筆頭。禪院家術師隊を纏める立場にある。特別一級の等級を冠するが、しかし現在の禪院家の次期当主候補は表面上、私か直哉の二択となる。報復の対象は甚壱の禪院家内での序列や呪術界に於ける人的資源としての価値を踏まえて決定された。嫡子である憲紀殿でないのは、本来の嫡流が二男であることを禪院家が把握していたためで、相伝を継ぐことはできなかったが宗家の血統の下にある意味は小さくない。しかし、嫡男でないことは都合がいい。

 

 もしも、この報復が引き金となって加茂、禪院両家が敵対関係となり、全面的な交戦状態に発展したとしても術師隊は加茂家を潰し切ることが可能と踏んでいた。治療のために離脱した甚壱を欠いた炳は襲撃の立案と同時に高専京都校に滞在していた直哉へ帰還要請を出し、直哉はそれを受諾した。手順はどうであれ、最終的には加茂本家守備隊と強力な使い手を相手取ることとなる。一級相当の術師が扱う赤血操術を念頭に戦うことが出来る、最速と謳われる兄に次ぐであろう投射呪法の使い手。

 

 要請から九十分後、直哉が高専から帰還した時点で禪院家術師隊は一連の作戦を発動できる状態にあった。二男は供回りを連れ立ち外出中で、位置は掴めていた。後は兄の命一つでというところで、兄は展開している術師隊全てに撤退を命じた。今回の件に関する報復は直接的な行動を伴わないものとする、と。これによって加茂は兄に見逃された形となった。

 

 加茂を潰すことはそう難いことではない、と兄は言う。

 

 「加茂はもはや総監部に張られた細い根でなんとか保たれている朽ちかけの巨木だ。我らでも、五条でも、その気になれば独力で刈るは易いこと。しかし、俺は加茂を今廃してしまうことは悪手に思う。もし加茂を廃したとして御三家の枠組みに新たに何処の家を入れる?五条と禪院の二家では呪術規定に於ける御三家の推薦承認を要する項を履行できない。こうなった場合、二家で賄うとするなら大幅な規定の改稿が必要になる。莫大な時間と労力、各所から必然、発生するであろう反発。それらを抱えながら呪霊や呪詛師と戦うというのは面倒な話だ。必ずや尾を引き、最も避けたい時分に燻っていたものがぶり返すだろう。ならば、新たな家を御三家に迎え入れるとしよう。しかし、その座に見合う格の家はあるか?平安の世で我ら御三家に連なるほどの力を有していた家の多くは途絶えたか、その力を大きく削がれている。名声と力、これらが揃ってこそ術師たちの代表足り得る。今の世では相伝術式や術師隊の規模と質を鑑みても、どうも決め手に欠ける」

 

 加茂の喪失で生まれる呪術界の空白は御三家間のパワーバランスに留まらない。兄は酒で口を湿らせて、葱を齧る。

 

 「ここ数年、呪詛師たちの組織的な動きが顕著になってきた。集団の規模としては未だ大きいとは言えないが、総監部と御三家の超家融和派が数年前に制作した現代呪術界に於ける最悪の想定として国内主要都市に対する大規模呪術的テロと高専東京校最深部――薨星宮への侵入、呪詛師共の増長を許せばこれら二つのシナリオが現実のものとなる可能性に現実味が出てくる。逃亡中の夏油傑の件もある。特級呪詛師、呪霊操術の使い手が呪詛師共の組織化に成功し、行動を起こせば呪術界は混乱に陥る。物量に任せた戦術というのは馬鹿に出来ないものだ。未だ奴の居所は掴めていないが、高専が拘束した呪詛師たちには夏油の関与が見られることが多いと訊く。既にある程度の組織化を終えているとするのならば、加茂家の御三家除名と戦力の無力化で起こる間隙は、連中にしてみれば格好の機会でしかない」

 

 実際のところ加茂宗家がどの程度今回の工作に関わっていたかは分からない。総監部と加茂家中でも特に総監部と縁深い者たちが画策したことなのかもしれない。しかし、どう繕ったところで炳筆頭を闇討ちしようとした事実は揺るがない。故に、存亡の危機を他でもない禪院の当主に見逃された加茂はこの先どう動いても禪院の下手に回るしかなくなった。その気になれば三日と足らずに滅ぼせたにも関わらず、命乞いをしたわけでもない。しかし、勝手に、まだ価値が残っているからと見逃された。

 

 兄はすく、と立ち上がると、中庭に向かい歩き出す。星の瞬かぬ夜空だった。月が丸く、天中で輝いている。月を見やり、目を細める兄はこれから先の時代の展望を口にする。いずれ、想像を絶する大事が起こるかもしれない、と。

 

 「嘗て、俺が当主となって間もない頃だった。総監部の禁書庫で五条の六眼、天元、星漿体、これらには関連性があるのではないかという仮説が記された書物を見たことがある。随分と昔に著者は秘匿死刑を執行されているが、確かに天元と星漿体が同化をする周期には必ず五条から六眼を持った者が産まれている。此度もそうだった。天内理子と五条悟。表向きには予備の星漿体を宛がって同化は成されたとされているが、おそらく、天元は星漿体と同化をしていないだろう。予備などと、そのような話は誰も聞いちゃいなかった」

 

 千年以上に及ぶ日本呪術界に前代未聞の、前例のない事態が起きている。星漿体との同化が失敗した場合天元は人の身を逸脱し、天元という存在と意思を喪失した人ならざる、曰く高次元の存在と為る。一つの結果として高専や呪術界に於ける重要な拠点を守護する結界や、我らや補助監督たちの扱う結界術に無視できない綻びが出ることは確実とされているが、天元自身がどうなるのか、崩れた呪術界の基盤が修復可能なものなのか、天元の同化が失敗した先のことなど我らに知る術はない。

 

 「己の最期を夢想する時、畳の上で大往生ということは決してないと考えてきたが。こんな話の後だ、どうやら戦の中で散ることに真実味が帯びてきたらしい」

 

 「術師が畳の上で死ねるか阿呆。少なくともお前には俺より長く現役でやってもらわなければならん」

 

 お前という燈が在ればこの呪いの世の先も当分は見渡しが良いだろう、と兄は笑う。消えかけだろうに、と返すと消えぬよ、と。

 

 「お前の焔は消えぬさ。俺には分かる」

 

 「何故言い切れる」

 

 「同じ胎から産まれたのだ。分からぬはずもあるまい」

 

 兄の背が微かに小さく見えた。

 

 





禪院扇:渋谷で閉じない領域を見たら自分も出来てしまうらしい人。直毘人に「加茂の話してるから今日鴨肉食べてるの?(意訳)」って訊いたらすごい顔されて正気を疑われた。昔は少しギラついてたらしい。兄には感謝しかないとのこと。

禪院直毘人:お兄ちゃん。色々考えて生きている。追いていかれた。諦めてしまった。けれど独りにさせたくなかった人。自分の弟が最強だと思っている。

禪院甚壱:顔がアカン。

禪院直哉:北方爆進家出息子。反転術式が使えるらしい。俺はおとんとはちゃう。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。