Fate/Apocrypha〜The Craving One〜   作:とんとなま

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『魔術協会とかさ、聖堂教会とかさ、アイツら皆くたばるべきだと思うんだよ。そりゃ私もやり過ぎたかもしれないけどさ、曲がりなりにも客人に対してアレはないよ。人体実験とか酷くない?結局私が人間だってわかるとすぐ八つ当たりしてくるんだからさぁ』

──書き殴られた手記──


プロローグ

1話

時は西暦千八百年代。神代には程遠く、台頭した科学により残存した色濃き神秘も失われつつあった時代。

魔術の総本山たる時計塔、当時その中核を担う君主(ロード)達は、未曾有の事態に頭を抱える事となる。

異界より至ったという四人。魔術ひいては神秘そのものへの冒涜とも言える所業に、魔術師たちの選択は自然と絞られた。

ある者はこう溢した。

 

「刻印も持たず、理念も術式も魔術回路もなく魔術と呼ぶのは如何なものか」

 

「なぜ奴らは態々魔術と呼ぶのだ。あれは超能力の類いだろう」

 

異界の産物。基礎理論も再現どころか解明事態不能という謎に塗れた技術。

至極真っ当なツッコミに、誰もが賛同の意を示した。凄まじいまでの敵意と殺意を抱いて。

対して、件の四人の一角にして最も奇人だった男は悪びれずいうのだ。

 

「そもそも神秘とはなんなんだ。そんな仰々しい物ではない。我々からすれば至って普遍的な技術だぞ?それをやれ魔術刻印だの魔術回路だの非効率で訳のわからないことを……。この世界頭おかしいんじゃないのか」

 

こうなってはもう戦争しかなかった。魔術師の悲願も、信仰も、矜持も何もかも踏み抜くどころか爆散せしめんとする言動に、魔術に連なる者達の自制心など容易く消え失せたのだ。

とりわけバルトメロイに代表される貴族主義派のそれはもう凄惨極まる荒ぶりだったという。まあガチガチの選民思想の集まり。やむを得ないことではあった。

神秘の秘匿という原則故、歴史に隠れた小規模にして最大の魔術戦争。

異界からの侵略者(インベーダー)への抵抗は、まさしく英雄譚だったろう。けれども、ドン引きしていたのは当の侵略者側だった。

尤も、彼らはある実験と観光がてらにこの世界に訪れただけで侵略の意図など毛ほども無く。

例の奇人は言った。

 

「偶々異世界と繋がったので、偶々訪れたのが神秘を至上とする魔術師蔓延るロンドンで、偶々彼等が同じ魔術を冠する技術を振るっていただけで、偶々言葉は通じたが、偶々致命的なまでにソリが合わず、偶々諍いになった」 

 

「こっち何も悪くなくない?全部偶々だよ偶々。お互い被害者って事でさぁ?」

 

郷に入っては郷に従え、そんな言葉が異界の住民に理解出来るはずもなく。

最終的に大事になって面倒になったのか、それとも当人なりに本当に申し訳ないと思ったのか。状況悪化の原因となりつつもなんだかんだ比較的話が通じる奇人の説得で侵略者達と魔術師達の不可侵条約は締結された。

魔術師側としても最早不毛だと感じ始めていた事もあり、意外にも円滑に話は進んだのである。

その後どうなったかと言えば─────。

 

「あー。普通に予想通り(殴り合い)になったな」

 

そう。結局戦争は続行されたのだ。むしろ余計に悪化したとさえ言われている。

原因は侵略者側の頭目。

黙っていれば良いものを態々地雷原にミサイルを撃ち込むようなものだった。

 

「そもそも神秘などというが、そんな大層なものではあるまい。こちらの世界においてただ少し人知を超えた現象を引き起こすというだけの技術だ。それをまるで秘法だ、尊き力だと持ち上げる魔術師(貴様ら)の思考は全くもって理解出来るものではない」

 

「どれだけ特別視しようとそちらの魔術も所詮技術、科学とは系統樹の根元で繋がった枝葉にすぎないのだ。実際科学でもって再現可能なものであろう。単純な優劣で語るなど浅ましい。であるのに魔術師(貴様ら)はそれすら認めず。ただ神秘の深き所を突き詰める事しか能のない道化者どもよ」

 

「科学など下民の知恵、我らが術こそ至高であると宣う。そう宣っておきながらその実、ロクに目指した根源なる領域には到達していないではないか」

 

「その有り様からしてあまりにも鈍重、非効率にも程がある。そちらの言う古の時代ならばともかく、それがこの世界、今のヒトの世になんの益がある。素養に左右される他ないモノがヒトの世の基盤となるとでも?神秘が神秘たり得た時代を終わらせたのは、その傲慢と思考の停滞の対価に相違あるまい」

 

居合わせた魔術師達は赫怒に身を任せ、しかし叩き潰されたという。

結果として時計塔ひいては魔術協会は彼等の力を、所謂権能の類であると断定した。神代を衰退させた物理法則の世において、なんの制限も受けず、人の身で当然の如く振るわれるソレを最早権能と呼ばずしてなんと呼ぶのか。

争いの中、思わず抑止力仕事しろと咆哮を上げる者すらいたが、それを諌める者は誰一人としていなかった。

しかし、終局は突如として訪れる。

 

ある時頭目の男が姿を消し、その後1人、また1人と侵略者はこの世界から消失した。

はたして気でも狂ったか。唯一残った、すなわち裏切りを成した奇人は突然の事態に呆気に取られた魔術師達にこう告げた。

 

「いやな。私は面ど──大事になったからもういい加減帰ろうって言っていたんだ。だというのにどいつもこいつも頑固なものでね。やれまだ調査が終わってないだのやれ土産がまだ選べてないだのどうだので仕方なく叩き返したわけだ」

 

「何処に?そりゃあ私達の故郷さ。穏便に済ませるつもりだったんだがまあ最後の1人に随分反抗されてね。()()()()()()()()。そうだよ置いてかれたんだよ酷いと思わないかキミ達。……え?なんでそんな殺気だっているんだね?ほらもう多勢に無勢、争うだけ無駄ってものでこれでようやく我々の不可侵条約(約束)は成就というもの……痛っ!何をするんだねいきなり!あ、待って!顔はダメだろ顔は!」

 

顔以外ならば良しと捉えた者達に終戦記念品(サンドバッグ)にされながらも、奇人は特に抵抗しなかった。

あれだけ振るった力も用いず、這う這うの体で何処かに逃げ去っていったのだ。

 

────当然それで済まされるわけもなく、多くの追手が仕向けられた。

所業が所業故聖堂教会からも目をつけられており、代行者を含む狩人達に奇人は追われ、半月も立たぬまま拘束された。

なお身柄を巡って聖堂教会と時計塔間で熾烈な争いがあったというが、結局奇人を確保したのは後者だった。

奇人がどうなったのかはまあ、想像に任せるとする。

 

 

 

 

 

「素に銀と鉄。 降り立つ風には壁を。 四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

たいそうな詠唱に反して、威厳もへったくれもないどこか抜けた声音が響く。

「次なんだっけ……繰り返……いや違うなこれじゃ何を繰り返すんだバカ。…………あーそうそう」

 

仮にも魔術師らしからぬぐだぐだっぷりだが、その顔に緊張感と言えるものは微塵も存在していない。人の身では本来成し得ない、大いなる召喚儀式だと言うのに。

 

閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)閉じよ(みたせ)

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する」

 

()の手首からは夥しい出血があったが、それを機にする素振りはまるでない。流れる血は、広がる小さな魔法陣へと繋がっていた。

本来であれば小さな獣の生き血、または単にチョークで描いた物でも十分な効力を持つ陣だ。

実際彼も適当に掻っ攫ってきた複数の獣の生き血を用いていたが、何を思ったか途中で自身の生き血を混ぜ込んでいた。

 

 

「────Anfang(セット)。──────告げる」

「――――告げる。

汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

彼に呼応し、途方も無い魔力が吹き荒ぶ。彼はただ愉快そうに口角を釣り上げるだけ。これから現れるであろう偉大なる英霊への敬意も、畏怖も持ち合わせてはいなかった。

 

「誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。

汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ────」

 

 …………。

 ………………。

 ……………………。

 

「……え、これ一応成功ということでいいのかね?もっとこう、はっきりとした実体があると思ってたんだが」

 

最後の一節の後、凄まじい閃光の先に現れたのは曖昧な黒い(もや)

召喚者へ名乗る事もなく、ただ佇んでいた(浮いていた)

 

「ははーなるほど。触媒無しで召喚したから皆目検討がつかないおかしなモノが呼ばれたわけだ。確か召喚者の気質に似たのが選ばれるんだったかな?キミ、そこのところどうだね?」

 

『…………』

 

帰ってくるのは沈黙。とはいえ敵意の類はなく、靄は召喚者──パースの背後に侍った。

その所作を彼は気に入ったのか、上機嫌に召喚したサーヴァントに語りかける。

 

「まあ楽にしてくれたまえ。これから長い付き合いになるだろうが、よろしく頼むよ」

 

長い握手を求めたが、やはり返答はない。ただ主人の斜め後ろに侍るのみだ。

だが彼からすればそんなことどうでも良かったのだろう。もとより触媒を介さずとも呼べれば上出来だと考えていた。

何より、長年の渇望が叶えられるかもしれないという喜びが彼を支配していた。

 

「ああいけない……その前にやることがあった。すまないがもう少しそこで待っててくれ」

 

しかしパースは少し申し訳そうな仕草をしたと思えば、じっとサーヴァントを見つめた。マスターの特権の一つ、サーヴァントのステータス確認である。

彼が眼に魔力を通して見たものは、単純なステータスだけ。単純だからこそ秘匿系の宝具やスキルでもない限りどのマスターにも筒抜けな情報だ。

 

「筋力と幸運が極端に低い以外はB以上ね。なるほど、直接的に戦うタイプじゃないな。かといってそもそも真っ当に戦うタイプじゃないだろキミィ。となれば魔術師(キャスター)暗殺者(アサシン)あたり?」

 

言いながら、わざとらしく眉をひそめる。

どうにも違和感がある。推測と目の前のサーヴァントの情報が噛み合わないのだ。

確かに、パースの分析は正確だ。

彼の推測通りそのサーヴァントにはおよそ英雄らしい逸話が欠片もなく、直接戦闘を行うような代物でもない。

サーヴァントである以上霊格は保証されているが、聖杯戦争に挑むにはそもそもの能力値が心許ないのだ。

故にパースは、なにか大きな齟齬を感じ取ったのだ。

 

「ま、そんな事は追々知っていけば良いモノだ。元より完全に横槍だからね。正規の参加者じゃないんだから気にすることもない!さてミスター・黒いの(ブラック)、戦端は既に開かれている。早速征こうじゃないか」

 

違和感の正体は知れないが、少なくとも害はない。そう判断し彼は再び黒い靄に手を差し伸べた。

 

「いざ、我らが戦場(トゥリファス)へ──」

 

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