稲妻の双雷   作:八魔刀

18 / 34
今回は少し短く、台詞が多いダイジェストのような流れになっています。


第18話 雷電眞

 

 

 焔が紫雷と出会ったのはもう数え切れないほど昔。焔はただ只管戦場を追い求めて世界中を駆け巡り、その過程で二つの紫雷と出会う。

 

 焔は二つの紫雷から感じる強大な力――特に片方の――に内心恐怖を感じた。

 こいつは己を殺せる、己を負かすことができる。

 求めていた強者であったはずなのに、焔は生まれて初めて武者震いではなく恐怖で身体を震わせた。

 焔はその恐怖を払拭せんと咆哮を上げ、紫雷へと刃を向けた。焔と紫雷はぶつかり合い、筆舌に尽くしがたい戦いが繰り広げられた。その戦いに勝者は無く、また敗者も無かった。

 強いて挙げるなら、焔から修羅を取り払った紫雷の勝利になるだろう。

 

 以来、焔は二つの紫雷の下、ただ一柱の男として傍らに在り続けた。

 しかし――その在り方にも、終わりの兆しが訪れることになるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

『我が火焔の剣――その身に刻め!』

『もう止めろ! ベリアル!』

『貴様が先に抜いたのだ! アウナス! 我らが臣民を! 貴様が!』

『止められなかった! 止められなかったんだよ! 彼らはもう止まらなかった!』

『我が臣民の悲願――我が火焔へと変えて貴様を討つ!』

『ベリアルゥ!』

『アウナスゥ!』

 

 

 

 

 

「――っ!?」

 

 焔硝は目を覚ました。身体が飛び跳ねて起き上がろうとしたが、全身を走る激痛によって阻まれる。掛けられている布団を捲り上げ、自身の身体を確かめる。胴体は包帯で覆われ、腕や足も包帯で巻かれている。

 

「何があった……?」

 

 焔硝は己の身に何があったのか、眠る前の出来事を思い出そうとした。

 

 ――確か、オロバシが攻めて来て、それで戦って……それから焔ノ島で民達が……。

 

「――ベリアル!? ベリアルはどうなった!?」

 

 そこでベリアルとの戦いを思い出し、布団の上から這いずる様にして移動する。部屋の戸の近くまで行くと、戸が勝手に開かれた。その先には薄紫の着物を身に纏った女性がいた。

 

「焔!? 何をしているの!?」

 

 その女性はこの稲妻国を収める雷神バアル――雷電眞であった。

 眞は焔硝に駆け寄ると焔硝の身体を抱き起こし、焔硝は眞に縋り付く様にして問い掛ける。

 

「ベリアルは……ベリアルはどうなった!? オロバシは、影は!? 皆は、戦いはどうなった!?」

「落ち着いて! あなたの傷はまだ癒えてないの! 動いては傷が開くわ!」

「俺のことはいい! 戦いはどうなったんだ!?」

「大丈夫よ! 戦いは終わったわ! あなたと影の勝利よ!」

「あ……!?」

 

 勝った――そう聞いて焔硝は全身から力が抜けた。あの激しい戦いを勝利で終えることができた。それを聞けて焔硝は涙を流す。

 

「そうか……そうか……! 良かった……! 影たちは無事なんだな? 笹百合も、千代も、斎宮も……」

「……」

 

 眞は目を伏せた。その顔を見て、焔硝は眉を顰める。

 嫌な予感が頭を過り、焔硝はもう一度眞の肩を掴んだ。

 

「無事……なんだよな? 皆、此処に帰って来てるんだよな……?」

「――――笹百合は……戦死したわ」

「――!?」

 

 焔硝の頭は真っ白になった。

 朧気な意識の中、眞をそっと退かして部屋から出て行こうとする。眞の制止を振り切り、激痛で動けないはずの身体を動かして笹百合を探す。

 そしてとうとう見つけ出した。影たちが集まっているその中心で、顔に白布を掛けて寝転ぶ笹百合の姿を目にし、焔硝は生まれて初めての慟哭をした。

 

 

 

 

 

 

「――焔、あなたは一度死んだわ」

「……」

 

 笹百合の葬式から数日後、焔硝は眞に話があると言われて眞の私室に呼ばれた。

 そこで焔ノ島で起きたことを教えられた。

 

「私が駆け付けた時にはあなたの身体の殆どは炭と化していたの。だけど魔神であるあなたはそれでも完全に死んだ訳ではなかった。だから私の命を半分、あなたにあげたの」

「お前の……命を?」

「殆ど賭けだったわ……。私の権能を用いてもできるかどうか分からなかった。でもあなたを死なせたくなかった。だからこの選択に後悔はしていないわ」

 

 眞が打ち明けた真実に、焔硝は頭をガツンと殴られた様な感覚を抱いた。

 愛する女性が己の為にその命の半分を差し出した。本来ならばその分秘めていた可能性を、彼女は己の為に犠牲にした。

 友を守れず、民を守れず、愛する神でさえも命を半分削らせてしまった。

 焔硝は二度目の涙を流し、己の無力さを呪った。

 

 眞はそんな焔硝を優しく抱き締め、泣く子をあやす様に頭を撫でる。

 

「泣かないで。あなたは良くやったわ。たった一人で戦って、命を犠牲にしてまで私達を守ってくれた。だからこれはご褒美よ。あなたは私を、私はあなたをこれからずっと抱いて生きていくの。ほら、泣かないで? 私、嬉しいのよ? 大好きなあなたと命を共有できて」

「眞……眞……! ごめん……! ごめん……! ありがとう……!」

「焔……私の焔……生きてくれて、ありがとう……!」

 

 

 

 

 

 

 

「眞……どんな具合だ?」

「……大丈夫よ。ちょっとあなたの焔が雷を拒絶していただけだから」

「大丈夫なのか? その……俺は良いが、お前の身体は?」

「何てこと無いわ。はい! おしまい! これで身体の不調は治ったでしょう?」

「……ん、いつも以上に元気な気がする」

「あなたが生きているのはかなり特殊な例だから、色々不安定な部分もあるけれど、私が生きている限り問題無いわ」

「……絶対に無理はするなよ? お前の身体はもうお前だけの物じゃないんだから」

「あら? その言い方じゃあ、まるで子供ができたみたいじゃない?」

「茶化すなよ……。お前がその気なら、俺は別に良いぞ?」

「っ……もう! 馬鹿言わないでよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘でしょ……このままじゃ焔が死んでしまう……!? 彼の焔が、どうあっても異物である雷を排除してしまう……! 何とかして方法を探さないと……!」

 

「一定期間の間に調整を行えば不調は治せる……でもそれだって何度効果があるか……!? それにその時、私がその場に居なかったら……!?」

 

「どうして……!? どうしてなの……!? 私はただ、彼と生きていきたいだけなのに! どうしてそれができないの!?」

 

「……私の命を彼に全て与えることができたら? そうすれば少なくとも、今後数百年は保つかもしれない……。でもそれじゃ意味が……!」

 

「……カーンルイアへの召集? いったいこんな時に何――――」

 

「……そう……そうなのね……。嗚呼、私は二人に何て酷いことを……!」

 

「でもそれしか……彼と影を守ることができないのなら……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「焔硝! 眞が! 眞が! たった一人でカーンルイアに!」

「なっ――!? 何を考えてんだアイツは!?」

「どうしたら……どうすれば!?」

「くっ……稲妻は俺に任せろ! お前が眞の下へ行け!」

「で、ですが!」

「言い争ってる暇は無い! お前の方が俺よりも早い!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「焔……ごめんなさい。あなたを助けるにはこうするしかないの。影……あなたにも辛い想いをさせるわね。どうかお願い……焔と幸せに生きて」

 

 

 

 

 

 

 

「眞……! お願い! 無茶なことはしないで! 間に合って!」

「大丈夫だ……眞ならきっと……きっと……!」

 

 

 

 

 

 

「さようなら、私の大好きな――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

 焔硝はそっと、神櫻から手を離した。

 

「……焔硝? こんな夜更けに何をしておる?」

 

 寝間着に羽織を羽織った姿の八重神子が、焔硝の背後に立った。

 彼女は焔硝の顔を覗き込む。彼は涙を流していた。

 

「泣いておるのか?」

「……何でも……無い」

「じゃが……」

「何でも無い……!」

「……」

「……なぁ、八重」

「何じゃ……?」

「……残されるのって……辛いな」

「……そうじゃな。じゃから焔硝……妾を残すでないぞ?」

「……そうだな。そう……思うよ」

 

 

 

 

 

 

 




次回、焔人の章――開幕。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。