稲妻の双雷   作:八魔刀

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ついに、主人公・焔硝の伝説任務編です。
つまりは最終章です。

他の神々の伝説任務と同じように二幕編成で行きます。


―焔ノ伝説任務編―
第19話 焔人の章1


 

 

 空とパイモンは稲妻に訪れていた。フォンテーヌという国へ行く前に、冒険者協会から一つの依頼が入ったのだ。それは鳴神島付近にある、遙か昔から燃え続ける焔ノ島の調査をしてほしいとのことだ。

 

 焔ノ島は稲妻の領土であり、その危険さから誰も立ち入ることはできないようにされていた。冒険者である空は一度だけ、雷電将軍から許可を得てその島に入ってみたのだが、あまりにもの熱量に長時間立ち入ることができなかった。

 

 しかし冒険者協会は、フォンテーヌの技術開発者からある特殊な装置を仕入れた。

 それは携帯型の瞬間冷却装置であり、その装置に水か水元素を組み込めば、周囲の温度を快適なものへと変える代物だ。まだまだ実験段階の物ではあるが、これで焔ノ島を探索することが可能になることだろう。

 

 空とパイモンは稲妻城天守閣へ訪れ、雷電将軍にお目通りしていた。焔ノ島に入り探索する許可を貰いに来たのだ。影と仲の良い空だからこそ、冒険者協会は空に依頼を出したのだ。

 

「焔ノ島の探索、ですか?」

「ああ、そうだぜ! 前回は断念しちまったけど、今回は特別な装置を貸してもらえたから今度こそ最後まで調べられるぜ!」

「なるほど……しかし、焔ノ島ですか」

 

 影はパイモンからの話を聞き、少しだけ思案してそう口にした。顔に少しばかり影を差し、いつもの朗らかな様子が無くなる。

 

「ん? どうしたんだ?」

「昨今、焔ノ島にて炎元素が活性化し、周囲に猛威を振り撒いています。稲妻周辺の気温も上がり、炎元素の魔獣もその数を増やして他の島々にも現れては被害を齎しています」

「ええ!? 魔獣が出てるのか!? まさか、鶴観みたいに……!?」

「彼処ほど酷くはありませんが……ですが、このまま原因を究明できなければいずれ大きな厄災になるやもしれません」

「だったら、俺が調べてくるよ。原因が分かって、解決できそうなら解決してくる」

 

 空は自分の胸をトンッと自信ありげに叩く。

 今まで何度も修羅場を掻い潜ってきた空は、この手の類いに関してそれなりの自負を持っていた。今回もきっと大きな冒険が待っているのだろうと、少々心を躍らせた。

 

 影も空の実力を知っており、風の噂で聞いている空の活躍もあり、この一件に空を関わらせることにした。

 

「分かりました。焔ノ島への上陸を許可します。今、あの島を調べているのは焔硝と神子です。既に人の身では上陸は危険ですので、他の者達は立ち入ることを固く禁じています」

「焔硝と神子が……。なら、先ずは二人に会いに行こうぜ」

「そうだね。それじゃ、影。許可、ありがとう」

「いいえ。寧ろお礼を言うのは私です。稲妻の危機に、あたな達はまた力を貸してくれるのですから」

 

 空とパイモンは影から焔ノ島への上陸許可を貰い、島を調べているという焔硝と八重神子に会いに、鳴神大社へと向かった。影向山の山道を登り、神櫻の花弁が舞う美しき景観を持つ、赤雷の魔神と雷神の眷属が住まう鳴神大社へと。

 

 大社の敷地にいる巫女の一人を見付け、焔硝と八重神子に会いに来たと伝える。裏手の庭に案内され、空とパイモンは神櫻の前で佇む八重神子を目にする。

 久しぶりに見る彼女の後ろ姿は、中々どうしてそれだけで美しいのだろう。

 

「宮司様、旅人様がお見えです」

「ん? 童か……久しいのう」

 

 振り返った八重神子の顔は、何処か少し疲れているように見えた。

 

「神子、久しぶりだな。何か元気無さそうに見えるぞ?」

「はぁん……それはそうじゃろう。ここ最近、焔硝と共に焔ノ島に赴いては魔獣と戦い続けておるのじゃから」

「神子が戦ってるのか? 神子って戦えたんだな」

 

 パイモンが驚いたように目を丸くすると、八重神子は少しばかりムッとする。

 

「失礼な奴じゃ。妾はこれでも、五百年前の厄災で焔硝と戦場を駆けたものじゃ」

「そうなのか? そんなの一度も聞いたこと無いぞ」

「まぁ、戦ったと言うても焔硝を援護する程度じゃったしな。最後も師を支える為に前線から退いたしのう。そんな話はどうでも良い。汝ら、何用じゃ?」

「焔ノ島の調査を請け負ったんだ。影から焔硝と神子が調べてるって聞いたから、事前情報を仕入れに来た」

 

 空が八重神子に事情を説明する。すると八重神子は少し困ったように眉を顰める。

 何か拙いことでもあったのだろうかと空とパイモンは首を傾げる。

 八重神子は腕を組んで考えに耽る。

 

「どうしたんだ?」

「うむ……汝らが手を貸してくれると言うのは、妾にとっては助かるのじゃが……焔硝がのう」

「焔硝がどうしたんだ?」

「……彼奴、今回の件について頑なに自分以外を関わらせようとせんのじゃ。毎度毎度疲弊して帰ってくるものじゃから、妾だけはと、漸く説き伏せた所なのじゃ」

 

 空とパイモンは顔を見合わせた。焔硝と焔ノ島の関係性は以前当人から聞いて知っている。焔の魔神であった頃、武火の魔神ベリアルと死闘をあの島で繰り広げた。そこで命を失って影の姉である眞に蘇らせてもらった。

 

 知っているのはそれぐらいだが、これぐらいなら別に他者を拒絶するようなものではないはずだ。それを断固として他者を関わらせようとしないのには、何か訳があるのだろう。

 

 しかし、空はそれで引き下がる男ではなかった。焔硝が拒んだところで、それを受け入れるつもりは無いし、こっちは焔硝が借りを作った立場だ。色々と有利な立場にある。それにそもそも冒険者協会からの依頼でもあり、一度引き受けた以上それを無碍にする訳にはいかない。

 

「神子、焔硝は?」

「今は休んでおる。もうそろそろ島へ向かう時間じゃ。すぐに出てくるじゃろう」

「兎も角、俺達も島に行くよ。冒険者協会からも影からも頼まれたからね」

「そうだぞ! ついでに、お宝が眠ってるのか調べたいしな!」

 

 八重神子は苦笑する。きっと内心では二人が来てくれるのに安心しているのだろう。

 空は八重神子にこんな顔をさせる焔硝に一度ガツンっと言ってやらねばと息巻き、シュッシュッとシャドーボクシングをする。

 

 その時、社の障子が開かれて焔硝が出てきた。いつものように焔のような模様がある上等な羽織を羽織り、赤鞘の刀を腰に差した姿だが、焔硝も八重神子と同じぐらい、否――彼女よりも窶れているように見えた。

 その様子にガツンと言ってやろうとした空は肩透かしを食らい、口をポカンと開けてしまう。

 

 焔硝は首をボキボキと鳴らしながら、空とパイモンが居ることに気が付く。

 

「ん? 空にパイモンじゃないか。久しぶりだな」

「焔硝! お前、随分と窶れてないか!?」

「そうか? ま、確かに最近真面に眠れてないが……」

 

 空は横にいる八重神子に顔を向けた。八重神子は溜息を吐いて呆れている。

 

「せっかく来てくれたのに悪い。これから所用でな。八重、今日はお前も休んで二人の相手してやれ」

「ちょっと待て! オイラたちも焔ノ島の調査に行くんだ!」

「何?」

 

 空とパイモンは焔硝に冒険者協会から調査の依頼があったことを話した。特別な冷却装置を持ち込んで行けば長時間焔ノ島で活動できることも話し、影から許可も下りたと伝える。

 焔硝はそれを終始黙って聞いていたが、空が話し終えると首を横に振った。

 

「悪いが、お前達は来ないでくれ」

「どうしてだよ!?」

「危険だから」

「そんな理由が俺に通じると思ってるの?」

「……焔ノ島は俺の島だ。他人を巻き込みたくない」

「もう被害は鳴神島や他の島にも出てるんだよ? その道理は外れてない?」

「……」

 

 焔硝は押し黙った。

 空は勝ちを確信した。

 パイモンと一緒に腕組みをしてムフーっと胸を張る。

 頭を抱えて肩を落とした焔硝は大きな溜息を吐く。

 

「はぁ~……言うても聞かんか。ったく、何処のどいつだ? 冒険者協会に島の話を流した奴は……」

「被害が出てる以上、冒険者協会も見て見ぬ振りはできないんでしょ。それより、早く知ってること教えてよ」

「お前、会う度に俺への遠慮無くしてない?」

「だって友達だし」

「……」

 

 焔硝は苦笑した。以前、焔硝は空とパイモンに対して確かに友達宣言はしていた。それを持ち出されては何も言えなくなり、「生意気な奴め」と空の額を指で弾いた。

 

「分かった。同行を許す。八重、今回お前は休んでろ」

「……分かった。童よ、此奴が無理をせぬよう、しっかり見張ってておくれ」

 

 八重神子は少しばかり不安そうな表情を見せたが、空なら任せられると表情を柔らかくさせた。鳴神大社から出て行く三人を見送り、八重神子は神櫻に祈りを捧げる。

 

「雷神バアル……雷電眞よ、どうか焔硝を守っておくれ」

 

 神櫻の枝が風に揺られ、花弁が散った――。

 

 

 

 

 

 

 

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