稲妻の双雷   作:八魔刀

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焔の魔神の過去が、徐々に明かされていく。


第20話 焔人の章2

 

 

 

 焔硝たちは砂浜から船を漕ぎ、焔ノ島へと近付く。船を漕ぐ前は少し暑く感じる程度だったが、島に近付くにつれてその熱さは増していき、額から汗が流れ始める。空とパイモンは既に汗だくになっていっているが、焔硝は澄ました顔でいる。空よりも暑そうな格好をしているはずなのだが、本島にいる時と何ら変わりが無い。

 

 いよいよ焔ノ島に上陸すると、空とパイモンは肌が焼けるような感覚に襲われる。ジリジリ、ジリジリと肌が真っ赤に焼かれ、アチアチとジタバタして大慌てになる。まるで火に炙られているようだった。

 空はすぐさま冒険者協会から借りた瞬間冷却装置を取り出して起動する。予め装置に注入していた水を活用し、冷気が一気に噴射されて空とパイモンの周囲を冷やしていく。

 

 凄まじい効力だ。ただ水を注入しただけなのに、その水が急冷されて瞬時に特殊な冷却フィールドが生成された。そのフィールドによってこの火に炙られるような島でも活動できるようになった。

 

「ふぃ~! し、死ぬかと思ったぜ~!」

「や、やばかった……! ドラゴンスパインなんて比じゃない……!」

「……」

 

 焔硝はこの暑さの中、汗一滴流さず、眉一つ動かすことなく、ただただこの焼かれ続ける島の大地を眺める。緑一つ生やさず、所々から黒い煙が上がり、場所によっては火が地面から生え上がっている。地面は土ではなく岩や砂利であり、砂利の中に食べ物を入れたら焼き物として掘り出せるだろう。

 

 此処が焔ノ島――嘗て此処で焔の魔神と武火の魔神が死闘を繰り広げた。その影響で島は今も尚燃え続けているという。

 

「本当に燃えてるんだな……。なぁ、焔硝。この島でどんな戦いがあったんだ?」

「……激しい、それはもう激しい戦いだった。全てを燃やす戦火が、全てを焼き払った」

 

 焔硝は少しばかり悲しそうで、辛そうな表情を浮かべる。

 

「手早く済ませよう。すぐに魔獣がやって来る」

「お、おう……。空、大丈夫か?」

「ああ、大丈夫。焔硝、此処で何を調べてたんだ?」

「……この島に眠る、俺の罪をな」

 

 焔硝は歩き出す。空とパイモンは互いに首を傾げ、焔硝の後を追いかけた。

 

 岩と砂利の道を歩き、煙と火が支配する光景だけを目に焼き付けていく。生命のせの字も無い。此処には生物が棲んでいないのだろうか。まるで死だけが存在を許された島。燃え続ける火だけを見れば、生命力が活発的に感じられるだろう。

 

 だが実際には違う。そこにあるのは無情なまでの死、絶望だ。生きることを許さない、生者が此処から先へ立ち入ることを許さない。

 

 空とパイモンにはそう見えてならなかった。

 

「なぁ、焔硝。何でお前はそんなに平気なんだ? オイラたち、何度も冷却装置を使ってやっとだって言うのに……」

 

 パイモンは汗を拭いながら焔硝にウンザリした様子で問う。

 空は此処に来るまで何度も冷却装置を起動させた。予め用意していた注入用の水も、残り少なくなってきている。島の暑さで最早お湯になってはいるが問題は無い。

 装置に水を注入しながら、空は汗を拭う。

 

 此処まで魔獣の姿は見ていない。だが気配は感じる。生命の気配は無いというのに、まるで魔獣は違うと言わんばかりにその呼吸を感じる。

 

 見られている――。空は今までの経験から敵の存在を感じ取れるようになっていた。

 

 姿を見せず襲い掛かってこないのはどうしてだろうか?

 空は魔獣の行動に不信感を覚えるが、前を歩く焔硝を見て納得してしまう。

 

 ――そうか、焔硝を恐れてるんだ。

 

 焔硝が魔獣に対して威嚇している。ただ歩いているだけなのだが、纏い発する覇気によって獰猛な魔獣が怯えているのだ。

 既に焔硝は八重神子と何度もこの島を訪れ、その都度魔獣を狩っていると聞いた。焔硝の力を目の当たりにした魔獣たちの間で、焔硝には手を出してはいけないのだと思い知らされたのだろうか。

 

「俺は元とは言え焔の魔神だからな。赤雷になっても熱には耐性がある」

「うぅ……空、大丈夫か? 結構しんどそうだぞ?」

「大丈夫。でもそろそろ水が無くなってきた。一度補充しないと……」

 

 空は手元にある試験管にある水を確認する。数は三本で、これが無くなれば後は飲み水用しか無い。冒険者協会からの調査依頼は長期的なものであるから今回だけで完了させる必要は無いが、それでも焔硝と一緒にいる内にそれなりの成果を上げておきたい。

 

「この島に水源なんて無いぞ。補充したければ岸に戻るしかない」

「川とか池とか無いのか?」

「そんなもの、とっくの昔に干上がってる。ところで、お前達はこの島の何を調べに来たんだ?」

「島が燃え続けてる原因とか、歴史的文化とか、そう言うの。そう言えば、この島は俺の島だって言ってたけど、どういう意味?」

 

 空は鳴神大社で焔硝が口にしていた事を思い出す。自分達を島へと連れて行かない理由の中に、焔ノ島は俺の島だからだと言うのがあった。島の名前からして大体予想はできなくもないが、それでもその真相を知っておきたい。

 

 焔硝は少しバツの悪そうな顔をしてから答える。

 

「……元々、俺は神としてこの島を治めてた。オロバシは知ってるか?」

「海祇島の神様だよね? ヤシオリ島に骸もある……」

「そう。俺も奴と同じように、海底火山を活発化させて俺の島を創り出した。名前こそ最初は無かったが、島に住み着いた人間達によって焔の名が付けられた。もうどれぐらい前だったのか覚えてないが、魔神戦争の最中だったな」

 

 この島を焔硝が創り出したと聞いて空とパイモンは驚く。てっきり空は既にあった島に焔硝が住み着いたのだと思っていた。まさか島を創り出せるとは、流石は魔神と言うことか。

 

「お前も神様として人の上に立ってたんだな」

「意外か? まぁ、お前らには無様な姿しか見せなかったしな。その頃の俺は今ほど丸くはなくてな。神として威張ってた部分もある。ま、眞の前ではそれも形無しだったけどな」

「その頃の焔硝も見てみたかったぜ」

「お前らが『時の力』を手にすれば見られるかもな。お薦めはしないが」

「……焔硝は此処で人間達と一緒に住んでたんだ」

 

 空がそう口にした直後、焔硝は足を止めた。表情に影を落とし、目を伏せている。

 どうしたのだろうかと、空とパイモンは首を傾げる。

 やがて焔硝は「はぁ……」と小さく息を吐き、空の問いに答える。

 

「ああ……それなりに繁栄していたさ。収穫の時期になれば俺に貢ぎ物だと多くをくれたし、俺が教え広めた鍛造技法によって作られた武具は、稲妻でもどの流派の物よりも優れていると言わしめた。毎年毎年理由を付けては祭りを催しては朝まで騒ぐ。戦だけしか知らなかった俺の下で人と人がまぐわい、多くの世代をこの目で見てきた。俺が人から祀られる神として居られたのは、間違いなくこの島に住んでいた人間達のお陰だ」

 

「良い島だったんだね」

「あぁ……良い島だったさ」

「……その名残は無いの? 遺跡とか、そう言うの」

 

 焔硝は空の目を見つめる。それにどのような意味が込められているのか、空は分からなかった。だけど焔硝が何かを確かめようとしていることだけは分かった。

 

 しかし焔硝は空の問い掛けに答える前に、刀を腰から抜いた。振るわれた赤刃の刀から赤雷が放たれ、背後から襲い掛かってきていた獣域ハウンドを焼き払った。ハウンドはそれだけではなく、群れで彼らを取り囲んでいた。

 

「話の続きは後だ。先ずはこいつらを一掃しよう」

「お、おい! 焔硝の威嚇に怯えて襲ってこないんじゃなかったのか!?」

「馬鹿には意味ないって事だ。怖いなら俺の懐に隠れるか?」

「ば、馬鹿にすんな! オイラだって空の仲間だい!」

「上等。空、後ろは任せるぞ?」

「任せて」

 

 焔硝と空は一度背中合わせになり、そして駆け出した。空は戦いの中で培ってきた経験とそれぞれの国で得た元素力を駆使してハウンドに対して有効的に動く。獰猛な魔獣に臆することなく挑み、強者に相応しい働きを見せる。

 

 一方、焔硝は赤雷の力を使いながら、圧倒的力でハウンドを蹂躙していく。赤雷を刀や自身に帯び、無慈悲な一刀でハウンドを一撃で葬り去る。

 

 その戦いをチラチラと見ていた空は、以前、一心浄土で戦った影や雷電眞の意識空間で戦った将軍を思い出す。あの圧倒的な雷と武術を前に、正直今の実力でも勝てるのか不安を抱いている。

 

 ――もしかして、焔硝も本気を出せばあのくらい強いのかな? もし影と二人がかりで来られたら、それこそ勝てそうにないや。

 

 空は想像してしまう。自分の前に紫雷と赤雷の双雷が立ち塞がる光景を。

 絶対にそんなことにはならないようにと、唾を飲み込んだ。

 

 そうして二人は襲い掛かってきたハウンド全てを倒した。ただでさえ暑いのに、戦闘によって身体が熱り、装置の効力が出ているにも関わらず大量の汗が流れ出る。

 残り数少ない水を装置に注入して再び冷却フィールドを展開し、体力を回復していく。

 

「ふぅ~……! 何とか倒せたな――って、焔硝? どうしたんだ?」

 

 パイモンが焔硝の様子がおかしいことに気が付く。

 焔硝は頭を抱え、どこか辛そうに顔を顰めている。何かに苦しんでいるような、以前、影が将軍に身体の制御を奪われそうになっている時のような、あの様子に似ている。

 

「もしかして調子が悪いのか? 岸に戻って休むか?」

 

 パイモンは少し慌て、焔硝の周りを飛び回りながらそう提言する。

 しかし焔硝は「ふぅ」っと息をすると何でもないように振る舞う。

 

「大丈夫だ。連日の戦闘で少し疲れただけだ。歩いてればすぐに回復する」

「そうなのか? でも……」

「大丈夫、大丈夫。さ、進もう。記憶が正しければ、この先に大きな村があった。跡地として何か残ってるかもしれないぞ」

 

 そう言って焔硝は歩き出した。空とパイモンはどうしたものかと悩むが、結局焔硝の後を追いかけるのであった。

 

 そして辿り着いた場所は、何も無い場所だった。

 何も無い、は正確ではない。所々、地面が隆起していて、それがある種の区画を形作っている。言うなれば、これが村の跡地なのかもしれない。おそらく、それは家が建っていた場所なのかもしれない。よく観察すれば、人工的に造られた柱の残骸や道、塔らしき物まで散らばっていた。

 

「此処って……村があったのか……?」

「……石柱が溶けてる。それに、これはまるで……燃えた跡みたいだ」

「うげぇ!? 石って燃えるのかよ!?」

 

 これらが全て島が燃え続けている影響なのか、それとも燃える原因になった戦いによって齎された物なのか、空には分からなかった。

 焔硝はただ静かに村の跡地を眺め、悲しそうな目を浮かべる。

 

「……此処は島で一番大きな村だった。更に奥には大きな祭壇が――」

 

 そこで、焔硝の言葉は止まった。目を大きく見開き、信じられないモノを見たかのように驚く。

 空とパイモンは焔硝の視線の先へと顔を向ける。

 

「……人?」

「オイラたち以外にも島に来てる奴がいるのか? あれ? でも影が立ち入り禁止だって……」

 

 三人が見る人は、稲妻人の若い男だった。

 その男は何をする訳でもなく、ただ歩いていた。

 

 否――地面の上を直立不動で滑り動いていた。

 

「ひぃ!? あ、あああ、アイツ! 透けて見えないか!?」

「……幽霊?」

 

 パイモンは怖がり空の背中に隠れるが、空は至って冷静にその幽霊を観察する。

 幽霊なんてモノ、今更怖がるようなものじゃない。璃月にもいたし、何なら稲妻の、それこそ鶴観にだっている。今まで様々な修羅場を掻い潜ってきた経験は、幽霊程度に憶するようなものではない。

 

 ――と、空は僅かに脚をカタカタとさせて心の中で強がりを見せた。

 

 怖いものは怖い。いきなり出てきたら、例え百戦錬磨の身であっても驚くものだ。

 

「……追いかけるぞ」

「えぇ!? 本気かよ!?」

 

 焔硝は村の奥へと消えていく幽霊を追いかけて行ってしまう。

 空とパイモンは怖がる心を抑え、焔硝を追いかけるのであった。

 

 

 

 

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