稲妻の双雷   作:八魔刀

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赤雷の将は、過去の罪と再会ス――。


第21話 焔人の章3

 

 

 焔硝達は浮遊して村の奥へと去って行く幽霊を追いかけた。

 その幽霊は若い男性であり、のっぺりとした表情のまま移動していく。

 やがてその幽霊は大きな広場に出た。その広場には巨大な石柱が二本、少しばかり溶けた状態で佇んでいた。此処が焔硝が口にしかけていた祭壇なのだろうか。

 

 焔硝達は幽霊に気付かれないよう、物陰に身を潜めて辺りを注意深く観察する。すると追いかけていた幽霊以外にも、多くの幽霊が集まっていた。その幽霊達は石柱に身体の正面を向けると、理解できない言葉を呟きながら石柱を崇め始めた。

 

「な、何やってんだ、あいつら……?」

「言葉が理解できない……」

「……死者の言葉だ。生者には理解できなくて当然。あまり耳を傾けるな。連れて行かれるぞ」

「ヒィ!?」

 

 焔硝の恐ろしい警告に、パイモンは顔を真っ青にして両手で耳を塞ぐ。

 空と焔硝は幽霊達を注意深く観察していると、石柱の間から赤い光が発せられるのを目の当たりにした。その光はまるで火が吹き上がるようで、一瞬にして消えた。

 それを見た焔硝は目を見開き、物陰から身を乗り出してしまう。

 

「お、おいぃ!? 何してんだよ!?」

「焔硝、どうしたの?」

「あれは……!」

 

 程なくして、幽霊達は煙のように消えていった。広場は何事も無かったかのように静けさを取り戻し、空とパイモンは物陰から出て焔硝の隣に立つ。

 

「いったい何だったんだ……? あの幽霊達は何をしてたんだ? それにさっきの光は……?」

「……焔硝、何か知ってるの? ってか、知ってるよね?」

 

 空は先程の反応から、焔硝があの赤い光に関して何か知っているのだと察した。焔硝はただ黙って赤い光を放った祭壇を見つめ続けている。何やら真剣な表情を浮かべ、手を見ると強く拳を握り締めていた。

 

 絶対に何か知っている――空は確信した。ずっと島を調べていた彼の事だ、この島で起きている事態をある程度は把握しているはずだ。

 

「焔硝」

「……あれは、ベリアルの輝きだ」

「ベリアル!? お前が倒したんじゃないのか!?」

 

 空とパイモンはこの島で焔硝とベリアルが戦い、焔硝が勝利したと聞いている。そのベリアルの輝きとなれば、事態は二人が思っているよりも深刻なのかもしれない。

 

 焔硝は首を横に振り、真実を二人に話す。

 

「実際には倒しちゃいない。この島の地中深くに封印したんだ。文字通り、命懸けで」

「じ、じゃあ、今もベリアルはこの島の下にいるのか?」

「ああ。だがここ最近、その封印が弱まっている。島の温度が上がっているのも、炎元素の獣域ハウンドが出現しているのも、それが原因だ」

「何だって!? じゃあ、島が燃えてるのも、それが原因なのか!?」

「いや、島が燃えているのは封印が弱まっているからじゃなくて、最初からだ」

「あ、そうなのか?」

 

 焔硝達はその場から移動し、広場の方へと歩く。祭壇の前に行くと、焔硝は手を翳して祭壇に宿る元素を調べていく。そして幾らか情報を抜き取った焔硝は顔を顰める。

 

「どうなんだ?」

「……奴の意識はまだ眠ってるようだ。ただ、力だけが動き出している」

「封印を強化する方法は無いの?」

 

 空がそう尋ねると、焔硝は一度空の顔を見て何かを考える。空は首を傾げ、焔硝は空から顔を逸らす。

 

「……あるには、ある。ただ今すぐにという訳にはいかない。今できるのは、こうして奴の力を祓ってやることだけだ」

 

 焔硝は祭壇に宿っていたベリアルの力を手に吸収し、それを己の雷で焼き尽くした。

 すると、心なしか辺りの温度が下がった。燃え上がっていた火は消えて、煙も立たなくなる。

 それでも島は燃え続けており、火が消えたのは目の前のほんの僅かな一帯だけである。

 

 空は残りの水を確認した。残りは一本で、これが無くなれば水筒の水を使うしかない。複数の国を渡って元素と共鳴した空でも、まだ水元素と共鳴していない。水元素さえ使えれば移動制限なんて喰らわなかったのにと、空は項垂れる。

 

「……お前達は一度、岸に戻れ。そこで海水を補充して来い」

「焔硝はどうするの?」

「仕方が無いから、此処で待っててやる。少し調べたいこともあるしな」

 

 空とパイモンは焔硝の提案を受け入れ、急いで海岸へと向かう。道中、魔獣とは出会さずに済み、無事に海岸まで辿り着く。

 海水を試験管に入れようと海に近付くが、海は島の火でお湯になっており、危うく熱湯で火傷するところだった。一応、湯でも冷却装置は作動するが、できることなら常温以下の水が好ましい。

 しかしだからと言って船を漕いで海水が冷たい場所まで向かう時間は無く、火傷しないように熱湯の海水を試験管に入れて補充した。

 

 冷却装置を起動して焔硝が待っている場所まで戻ろうと走っていると、ふと、視界に赤い物体が入る。火でも魔獣でもなく、人の形をしていたような気がする。

 

「どうしたんだ、空?」

「今、誰かいた」

「ま、また幽霊か?」

「……ううん。違う、たぶん生きてる人だ」

 

 空は駆け出した。生きている人間なら、この島に立ち入ってはいけないことを伝えなければならない。大事になる前に島から遠ざけなければ、今後の調査に悪影響を及ぼしてしまうかもしれない。それにこんな危険な場所に放って置けない。

 

「……見付けた!」

 

 空が見付けたそれは、赤い着物を着た少女だ。黒髪を一つ結びにした活発そうな娘で、洞窟の中へと走って入っていった。

 

「おい、何だよこの洞窟……何か、涼しいぞ?」

 

 パイモンはこの洞窟の異様さを感じ取った。

 それもそのはず、この洞窟からは熱を感じない。島全体が燃えて灼熱地獄と化しているはずなのに、目の前の洞窟から流れてくる風は冷たい。外から中を窺うも、見える範囲では火や煙が見当たらない。

 

 ――焔硝はこの洞窟のことを知ってるのかな?

 

 空は今すぐにこの洞窟を調べるべきだと判断した。しかし焔硝に何も言わない訳にはいかない。洞窟に入っていった少女も気になり、どうするべきかと悩む。

 

 悩んだ結果、空は冷却装置と水をパイモンに渡す。

 

「パイモン、これを持って焔硝の所に戻って。俺は彼女を追いかけるよ」

「な、何言ってんだ!? お前を一人にできる訳ないだろ! それにこれは一つしか無いんだぞ!」

「大丈夫、洞窟の中は涼しいみたいだし。それに早くあの子を見付けて危険を教えないと」

 

 空は無理矢理パイモンへ冷却装置を渡し、パイモンの背中をぐぐいっと押し出す。

 

「わ、分かったよぅ……! すぐに焔硝の奴を呼んでくるからな!」

「うん、待ってるよ」

 

 パイモンは冷却装置を抱えたまま飛んでいった。一人になった空は洞窟へと振り返り、何の戸惑いも無く洞窟内へと駆け込んだ。

 洞窟の中は光る鉱石や植物によって明るく、安全に歩き回るにはうってつけだった。魔獣の気配は無く、しかし警戒は怠らずに洞窟を進んでいく。

 

 やがて空は、拓けた場所へと辿り着く。そこも祭壇がある場所で、その祭壇には巨大な二振りの折れた剣が祀られていた。かなり古い剣のようで、剣身は錆び付いている。その大きさも、人が扱うようなモノではなく、もっと大きなナニかが使うと言ったほうがしっくりくる。

 

 空はその祭壇の前に歩み寄り、その剣に触れようとした。

 

 その時――物陰から地面を踏む音が聞こえた。

 

 空は咄嗟に剣を取り出し、音がした方へと向ける。

 そこには、先程の赤い着物を着た少女が、岩陰から頭を出して空を覗き込んでいた。

 

「……君は?」

「……」

 

 少女は警戒しているのか、一言も発せず岩陰から動こうとしない。

 空は剣をしまい、自分に危険性が無いと証明するためにゆっくりと近付く。

 

「大丈夫、俺は何もしないよ。俺は空、旅人だ」

「……」

「この島は凄く危険なんだ。魔獣がいて、彼方此方が燃えてる。鳴神島まで送ってあげる」

「……」

 

 少女は空の言葉を聞いて、怖ず怖ずと岩陰から身体を出していく。

 

 空が少女に手を伸ばし、少女がその手を握ろうとしたその時――。

 

『ギャオオオオ!』

「っ!」

「ヒッ!?」

 

 突如、空と少女の周りを赤い獣域ハウンドが取り囲んだ。いったい何処から現れたのか、付けられていたのか分からないが、魔獣らは空と少女という獲物を狩ろうと躙り寄ってくる。

 

 空は剣を取り出し、襲い掛かってくるハウンドを斬り付けていく。四方八方から飛び掛かってくるハウンドから少女を守るべく必死に剣を振るい、元素を発動していく。

 

 しかし不意を突かれた状態で少女を守りきることが難しいと判断した空は、風元素でハウンドの一角を吹き飛ばし、退路を開く。

 

「走って逃げて!」

 

 少女にそう叫び、少女は脇目も振らずに走り出す。

 しかし、その少女前にハウンドが躍り出る。少女は恐怖で崩れ落ち、涎を垂らすハウンドを見上げて固まってしまう。

 

「ダメだ!」

 

 空は少女を助けようとするも、ハウンドに囲まれて阻止されてしまう。

 

 ハウンドが大きな口を開いて少女の頭に噛み付こうとしたその瞬間――。

 

「灼雷!」

 

 赤い雷がそのハウンドの首を斬り飛ばし、少女の前に現れる。

 それは赤雷を纏った焔硝だった。

 

「……!」

 

 少女は焔硝を見て驚き、焔硝もまた少女を見て顔を強張らせた。

 それを隙だと捉えたのか、魔獣らは一斉に焔硝へと襲い掛かる。

 しかし、焔硝はすぐに動き出し、刀のたった一振りで赤雷の斬撃を放って魔獣らを仕留めた。

 魔獣らは赤雷と共に塵と化していき、焔硝は刀を鞘に収める。

 

「空~~~!」

「パイモン……!」

 

 遅れてパイモンが飛んで来た。

 

「大丈夫か!? 焔硝がいきなり雷になって飛んでいったから、オイラ、お前に何かあったのかと……!」

「大丈夫だよ、パイモン。パイモンが焔硝を呼んできてくれたおかげで助かった」

「そうか……なら良かったぜ!」

 

 空は焔硝にも礼を言おうと振り返る。しかし言葉は出なかった。

 

 何故なら焔硝は先程助けた少女の前に立ち、少女を凝視して動かなかったからだ。

 少女も、焔硝を見上げて固まっていた。

 

 ただならぬ雰囲気に、空とパイモンは戸惑い固唾を呑む。

 

 そして、焔硝の口が動く――。

 

「――――霧依(きりえ)

 

 焔硝は少女の名を呼んだ。

 

 焔硝の目は、悲しみに染まっていた。

 

 

 

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