稲妻の双雷   作:八魔刀

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年内に完結するかな……?

次のバージョン後半で雷電将軍が復刻……。二凸と餅武器を狙います。


第25話 焔人の章6

 

 

 

 焔硝が霧依を連れ帰ってから二週間が経過した――。

 

 稲妻には、緊張が走っていた。

 鳴神島の東側に位置する島――焔ノ島。

 嘗てその島には火の神様が住んでおり、雷神様と手を取り合って稲妻を守っていたという。

 しかし、焔ノ島で悪しき神が産まれ、その神を討つ為に火の神様は命を落としたという。

 

 その火の神様の名は『御建火産霊主尊(みたけほむすびぬしのみこと)』――。

 悪しき神の名は『ベリアシノミコト』――。

 

 二つの神は焔ノ島の民達と共にこの世から居なくなり、稲妻は守られたと言い伝えられている。

 

 

 その島が今――――燃え上がっている。

 

 

 焔ノ島が燃えるのは今に始まったことではない。もう二千年も前から島は燃えており、黒い煙が上がっていた。ヤシオリ島にある無双刃狭間と同じように、火の神の力が未だに焔ノ島を燃やしている説と、悪しき火の神を焔ノ島に封じているからではないかと言う説がある。

 

 だがその燃え方は小さいもので、島に上陸しない限りは炎が見えない程だ。

 今のように、大きな炎が島全体を包み込もうとしている燃え方ではない。

 焔ノ島が大きく燃える光景を目にした稲妻の民達は、二つの考えを抱いた。

 

 一つは、火の神『御建火産霊主尊』が蘇ろうとしているというもの。

 一つは、悪しき火の神『ベリアシノミコト』の祟りが起きているというもの。

 

 大きな考えは、後者であった。最近になって発生している事件が、炎元素の活性化によるものだということが既に知り渡っており、怨霊や魔獣などを生み出しては被害を生んでいた。

 

 焔ノ島の炎が大きくなった日を皮切りに、その被害は一気に大きく広がった。天領奉行が総出で事件に当たり、負傷者を出しながらも敵を討伐していた。

 

 歴史をよく知る者は、これを五百年前の漆黒の厄災の再来だと言った。あの時と同じく、大きな戦が始まる前触れではないかと危険視している。

 

 現在、稲妻は雷電将軍を筆頭に怨霊と魔獣の討伐と焔ノ島の調査に乗り出していた。

 討伐の方は負傷者を出しつつも対応し切れている。まだ幕府軍側が有利に立っており、被害は可能な限り減らせている。

 

 問題は焔ノ島の調査である。あの燃え盛る島に入れる者は、例え炎元素の神の目を持つ者であっても居なかった。旅人が借りてきた冷却装置を以てしても、直接炎の中に飛び込める訳ではない。

 

 雷電将軍は焔ノ島の調査を、鳴神大社に居る焔硝に文面で命じた。

 その命令通り焔硝は焔ノ島に乗り込み、島への対応を試みた――全身に激痛を抱えている状態を隠して。

 

 

 

 

 

 

「フンッ!」

 

 焔硝は赤刃の刀を振り下ろす。赤い雷の斬撃が放たれ、正面にいた巨大な獣域ハウンドを両断する。

 焔ノ島は、魔獣と怨霊が跋扈する魔界と化していた。

 焔硝が足を踏み入れた途端、大量の敵が押し寄せ、焔硝に襲い掛かったのだ。それも、炎元素によって強化された強力な敵だ。

 焔硝は動かしづらくなっている身体に鞭を打ち、全ての敵と戦った。目に映る敵全てを撃破しても、また新たに島から敵が生まれてくる。一向に終わりが見えない戦いに焔硝は撤退を余儀なくされた。そして今に至るまで何度も島に出向き、島の中央へと向かおうとしていた。

 

「チッ……キリが無い」

 

 背後から飛び掛かってきた海乱鬼の怨霊を斬り捨て、赤い雷で薙ぎ払う。

 あまり元素力を使いたくなった焔硝だが、今の身体では元素力無しでは戦えなくなってしまっていた。身体が重く、五感も鈍っており、だが体内に走る激痛だけは感じている。元素力を扱えば扱うほどその激痛は増していき、生命力が無くなっていく感覚を味わう。

 

 とうとう焔硝は刀を地面に突き刺し、身体を支えなければ倒れてしまいそうになる。

 その隙を狙い、背後からハウンドが襲い掛かる。焔硝が気付いた時には既に遅く、避けられなかった。

 

「師匠!」

 

 だがハウンドの爪が焔硝に届く直前、そのハウンドの四肢と首が斬り落とされる。

 焔硝の背後に、赤い着物を着た女剣客が現れた。

 黒髪を一つに束ね、焔硝と同じ赤い瞳を持つ女性は二本の剣を両手に持っていた。

 

「師匠! 大丈夫ですか!?」

「霧依……!」

 

 その女性の名は霧依――ベリアルから切り離された人間部分である。

 この二週間で、霧依は少女の姿から成人女性の姿までに急成長した。

 

 その理由は、焔硝の力が弱まったことで封印が緩み、それによって力を強めたベリアルの影響が霧依に現れたのだ。切り離されたと言っても、魂までは繋がりを断てていない。ベリアルが力を強めたことで、その力の一端が霧依に流れ込んでいるのだ。

 

 その結果、霧依は嘗ての剣技を駆使できるまでの身体能力を取り戻し、ベリアルの炎だからか焔ノ島に立ち入れる身体になった。

 

「師匠! 私に掴まって下さい!」

「くっ……」

 

 霧依は焔硝に肩を貸して身体を支える。

 

「師匠! 撤退しましょう!」

「ならん……! 一刻も早く封印を……封印を強めなければ……!」

「ですが師匠! その状態ではその封印とやらもできません! ここは一度戻り、宮司殿に診てもらいましょう!」

 

 霧依は焔硝を支えながら、集まってくる敵に剣を向ける。

 変わらず敵の数は増えていく。この状態のまま戦うわけにもいかず、焔硝は撤退を了承する。

 霧依に支えられたまま海岸に出て船に乗り込み、そのまま鳴神島へと戻る。

 去り際、焔ノ島からベリアルの叫びが聞こえた気がした。

 

 ――復活の時は近いぞ、アウナス。

 

「……何で……眠っててくれないんだ」

 

 霧依が漕ぐ船の上で、焔硝は悲しげに呟き瞼を降ろした。

 

 

 

 

 

 

 鳴神大社に運ばれた焔硝は巫女達に着替えさせられ、八重によって治療された。

 そのまま目覚めず、今は静かな眠りについている。

 弱り切って眠る焔硝の額をそっと撫で、八重は部屋から出て神櫻が咲く庭へと出る。

 神櫻の前では、霧依が腰に剣を差した状態で佇んで神櫻を見上げていた。

 

 八重に気が付いた霧依は、彼女に一礼する。

 

「宮司殿……師の具合は如何でしょうか?」

「……日に日に弱っておる。もはや妾の術も効かぬ。もう限界かもしれん」

 

 八重は顔を曇らせたまま、そう霧依に告げた。

 霧依はくっと唇を噛み締め、拳を握る。

 

「宮司殿……いったい師に何が起きているのですか? 師だけではありません。私自身にも何が起きているのですか?」

 

 霧依は混乱していた。自分が置かれている状況を理解していないのだ。

 

「気が付けば二千年も経過していて、焔ノ島は燃えていて民も居ない。元素力も使えず、記憶がちぐはぐ。何故、教えて下さらないのですか?」

 

 霧依は二週間前にあった出来事を覚えていなかった。封印される前の記憶も確りとしておらず、まだ霧依が覚醒する前の状態としてそこに在るのだ。

 

 焔硝は霧依に訳を話さなかった。これ以上余計な混乱を避けたかったからだ。

 もし全てを話すとなると、此処にいる霧依がそれを受け止めきれるのか分からなかった。精神を大きく揺さぶられ、島に封じられているベリアルが霧依に手出しをさせる隙を与えてしまうかもしれないと危惧し、焔ノ島が危機に陥っているとだけ伝えているのだ。

 

「それは焔硝に固く口止めされておる。妾からは何も言えぬ」

「何故ですか、師匠……! どうして私に何も言ってくださらないのですか……!」

 

 霧依は悔しそうに唇を噛み締める。

 八重はそんな霧依をただ静かに観察する。

 

 これが霧依――ベリアルなのか、と。

 

 八重はベリアルを知らない。口伝えや文献でのみの情報しか得ておらず、しかもそれらは全てベリアルが稲妻の敵対者として扱われている。霧依の存在は、この間初めて知ったのだ。

 

 ――焔硝の弟子、か。

 

 もし悲劇が起こることなく歳月が経っていたら、彼女とも交流があったのだろうか。

 稲妻を守る魔神として、彼女も人々に崇められ君臨していたのだろうか。

 そうなっていれば、焔硝も魔神としての身分を捨てることなく、雷電眞も失わずに済んだのだろうか。

 もしかしたら……ベリアルの存在が、焔硝の運命を左右していたのかもしれない。

 

「……今は身体を休めるのじゃ。焔硝があのような状態の今、汝だけが頼りじゃ」

 

 八重は今にも飛び出していきそうな雰囲気を醸し出す霧依にそう言った。

 現状、焔ノ島で焔硝と共に戦えるのは霧依しかいない。焔硝が弱っている今、戦場で助けられるのは霧依だけだ。

 そう八重が伝えると、霧依は頷いて宛がわれている部屋へと戻っていった。

 

 八重は神櫻を見上げ、思い悩んだように溜息を吐く。

 

「雷電眞よ……何故、焔硝を助ける術を残してくれなかったのじゃ? 主が影に術を教えておれば、焔硝が苦しむことも、妾がこんな思いをすることもなかったと言うのに……」

 

 

 

 

 

 

 

 あの日、焔硝から残酷の真実を伝えられたあの時――。

 八重は焔硝が何を言っているのか理解できなかった。

 

「……何を言っておるのか、意味が分からんが?」

「寿命が尽きる。保って……あと一月だ」

「……笑えぬ冗談じゃな」

 

 八重は焔硝を非難の目で睨み付ける。よく冗談や言葉遊びで他人を弄ぶ八重であっても、人の命を軽んじるようなことはしない。脅すことはあったとしても、それを笑いの種にすることは決してない。

 

「俺は眞の雷で延命している状態だ。眞の雷が無くなれば俺は死ぬ。あの日高熱を出したのも、雷が少なくなったからだ。雷が無くなれば、俺は焔によって燃え尽きる。封印が弱まっているのは、俺の命が尽きようとしているからだ」

「……ならもう一度、眞の意識空間の神櫻に行けば良かろう?」

「あれはきっと眞の賭けで、奇跡に等しい現象だ。もう無理だ」

「なら影に協力してもらえば良かろう? 影も彼女と同じ雷神であり双生の魔神じゃ。彼女の元素力とも酷似しておるはずじゃ」

「眞は自分の寿命の半分を犠牲にした。影にも同じことやれと? それにその術は眞の権能だ。影にあるとは限らない」

「寿命は兎も角、影にその権能があるかどうかは試してみねば分からぬじゃろう!」

「それに神の心が無い。権能の力を底上げできない以上、最悪命を落とす」

「雷電眞は神の心無しでやってのけたそうではないか! ならば影も――」

「無かったからこそ命を削った! 半分で済んだのが奇跡なんだよ!」

 

 焔硝が怒鳴る。

 八重はビクッと肩を震わせ、固まった様子で焔硝を見つめる。

 焔硝は頭を抱え、腹の底から湧き上がる怒りを躙り出しながら話す。

 

「眞は俺の為に命を犠牲にしてくれたんだよ……! 優しいから……強いから……! 影だって同じだ! 知れば必ず俺を助けようと自分を犠牲にする! そういう奴だって知ってる! それを俺が許すと思うか!? これ以上俺に! 愛する者の命を糧にして生き長らえろと! そんなことを俺が許すと思うか!?」

「じ、じゃが……! なら汝は死ぬつもりなのか!? 影に何も告げず、妾が問い詰めねば妾にも告げず! それこそ妾達が許すと思うてか!?」

「っ……」

 

 今度は八重が焔硝に怒鳴り返した。いつもの雅な様子は消え失せ、感情を剥き出しにした形相で焔硝に食ってかかる。

 

「何故勝手に全て決める!? 何故妾達に助けを請わぬ!? 妾達はそんなに頼りないか!? 共に戦ってきた間柄じゃと言うのに、汝にとって妾はそんなにも頼りないと言うか!?」

「そういう問題じゃない! 俺の死は最早どうすることもできない! そんなことよりも、お前達や稲妻を守ることの方が重要だ!」

「そんなこと!? そんなことじゃと!? 汝は何を言っておるのか分かっておるのか!? 妾に汝の死を受け入れろと言うのか!? この妾に! 汝を見殺しにしろと、そう言うか!?」

「ああ、そうだ! 俺は――」

 

 

「師匠……?」

 

 

 霧依の声が焔硝と八重の耳を突いた。

 二人はハッとして庭先に繋がる縁側に目を向ける。閉められていたはずの障子は開いており、その隙間から霧依とパイモンが不安げな表情をして顔を覗かせていた。

 

「お、おい……喧嘩してるのか? 凄く大きな声が響いてたぞ? 他の巫女達も驚いてたし……」

「……師匠、大丈夫?」

 

 霧依が泣きそうな声でそう言った。

 焔硝はその顔にグッと込み上げてくるものを感じた。弟子であり妹でもある霧依の泣き顔を、焔硝は見たくなかったのだ。

 焔硝は霧依に今できる笑顔を作り、優しい声を投げる。

 

「あぁ……大丈夫だ。驚かせてすまない。パイモン、霧依を連れて外にいる巫女の所に行ってくれ。俺の名前を出して、甘いお菓子でも出してもらえ」

「お菓子! 分かった! 行くぞ!」

「……うん」

 

 パイモンは霧依の手を引っ張って行ってしまった。

 二人を見送り、少し冷静になった焔硝と八重は沈黙を続ける。

 そして先に沈黙を破ったのは焔硝だった。

 

「ともかく、今は稲妻を守ることが最優先だ。それ以外に注意を割くな」

「……勝手じゃ。勝手な男じゃ、汝は。妾の気持ちを知りもせず、勝手なことばかり言う」

「……すまない、とは思っている」

「……もうどうにも……本当にどうにもできぬのか?」

 

 焔硝は頷く。

 八重は目を伏せた。それから焔硝に顔を見られぬよう背を向ける。僅かにだが、八重の肩がフルフルと震えているのが見える。

 やがて八重は焔硝の顔を見ないまま口を開く。

 

「妾は嫌じゃ……こんな別れは嫌じゃ。妾は汝が思うほど、強い女ではあらぬ」

 

 そう言い残し、八重は部屋から出て行った。

 背後から微かに聞こえた、謝罪の声を耳に残しながら。

 

 

 

 

 

「生きとし生けるものは皆何時か死ぬ……。それは分かっておる。じゃがせめて……その死は報われるものであってほしい。焔硝が……妾が恋した神がせめて、幸せの中で眠ってほしいと思うのは、妾の間違いなんじゃろうか?」

 

 八重の独り言は、風に揺れる神櫻の音に掻き消される。

 

 だがその呟きが掻き消える直前、物陰に隠れていた女剣客の耳に入ってしまった。

 彼女は――霧依は、覚悟を決めた目を浮かべて鳴神大社から出て行くのであった。

 

 

 

 

 

 

 焔硝は悪夢を見ていた。

 炎に呑まれる鳴神島、街、そして天守閣。

 焔硝は燃え盛る天守閣の中に立っていた。

 その天守閣で、影が横たわっていた。床一面に広がる真っ赤な血の海に沈むように、生気の無い顔で浮かんでいる。そのすぐ隣には八重が、影と同じように倒れている。

 

 死んでいる――殺された――。

 

 誰に――?

 

 焔硝は顔を下から上に向けた。

 

 影と八重のすぐ側に、燃え盛る炎を連想させる甲胄を身に纏った女性が立っていた。

 その女性は双剣を握り、その双剣から赤い血が垂れていた。

 女性は憎しみと狂気に満ちた目で、焔硝を睨み返す。

 

『アウナス――これが報いだ。貴様の愛するモノを全て、我が燃やし尽くしてくれる』

 

 霧依――ベリアルは嗤った。

 

 

 

 

「ッ――!?」

 

 目を覚ました。途端に頭の中で警笛が鳴り出す。

 嫌な予感――と言うよりも確信に近いものが焔硝の頭を過る。

 飛び起きて刀だけを手に持って部屋から飛び出す。

 

 探しているのは霧依だった。霧依の気配が鳴神大社の何処にも無いのだ。

 時間は夕暮れ、真っ赤な夕日が半分沈んでいる。

 大社を駆け回り、霧依の姿を探したが何処にも見当たらない。

 

 いったい何処に――?

 

 焔硝が困惑していると、何やら外が騒がしいのに気が付く。その場に向かうと、八重と空とパイモンがいた。空とパイモンは焔硝に気が付くと、随分と慌てた様子で駆け寄る。

 

「焔硝! 大変なんだ!」

「何があった?」

「霧依が一人で船に乗って焔ノ島に向かったんだ! 俺達、止めようとしたけど間に合わなくて!」

「何!?」

 

 直後――天を火柱が貫いた。

 爆発に近い轟音が鳴り響き、強い衝撃が鳴神島を襲う。激しい地震が起こり、鳴神島を揺らす。

 

「わぁ!? 何だ!?」

「パイモン!」

 

 空はパイモンを、焔硝は側にいた八重を抱えて揺れに耐える。

 幸いにして鳴神大社は崩れることはなく、他の巫女達も無事だった。

 

「これは……!? そんな!?」

 

 焔硝は何かに気が付き、血相を変えて走り出す。そこは影向山の崖で、そこから焔ノ島を一望できる場所だ。焔硝に続いて空たちも走り出し、焔ノ島を見る。

 

 火柱は焔ノ島から立っていた。その火柱から、火の巨人が生まれた。

 顔が三つ、腕が六本、上半身だけが具現化しているの巨人は、まるで産声のように咆哮を上げた。

 

「何じゃ……あれは……!?」

「――武神招来・火之迦具土神(ほのかぐつちのかみ)……」

「何じゃと……?」

「魔神ベリアルが――――目覚めた……!」

 

 今再び、稲妻に滅びの脅威が襲い掛かる――。

 

 

 

 

 

 

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