稲妻の双雷   作:八魔刀

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あけましておめでとうございます。
私の初の原神二次創作を読んでくださりありがとうございます。
沢山の応援のお声を頂き、まことに感謝しております。
今年も完結に向けて走らせていただきます。

今月で完結まで書くことを目指します!


第26話 焔人の章6 霧依side

 

 

 霧依は、焔硝が大好きだった。

 師であり、兄であり、育ての親である彼を彼女は愛していた。

 同時に彼が愛する稲妻や民も愛していた。

 彼と彼が愛するモノの為に、己が持つ力を使いたい――魔神として育っていく内に、そんな夢を抱く。

 

 霧依は、特別な魔神だった。

 焔硝――アウナスの焔に人々が願いを込めて生まれた人造神。奇跡のような存在で、その力も願いを具現化した物であった。

 焔硝は霧依の力を知りながらも愛弟子として、妹として惜しみない愛を注ぎ、次代の神として育てた。

 そんな焔硝が霧依は大好きだった。彼に褒められるのなら何でも覚えた。彼に喜ばれるのなら何でもやった。彼に認められていくのが何よりの喜びだった。

 

 だからこそ、焔硝の次に愛する民達の甘言に耳を貸してしまった。

 

 ――ベリアルよ、アウナス様の為にその力、更に強くしようぞ。

 

 己の力がもっと高まれば、師の期待に応えることができれば、師と同じ力を手に入れられるのならば――。

 

 ベリアルは求めた。アウナスの隣に立ち並べるその力を。師により認めてもらう為の力を。

 

 それが間違いだと知らずに――。

 

 

 

 

 

 

 

 鳴神大社で八重神子の独り言を聞いた霧依は、鳴神大社を飛び出した。そのまま焔ノ島が見える海岸まで駆けていく。

 師があんな状態になっているのは焔ノ島が原因だ。その原因を取り除くことができれば、師は助かる。そう信じて霧依は単身で焔ノ島に乗り込もうとしていた。

 

 船着き場に辿り着き、船を出そうとした時だ。

 

「おーい!」

「……!」

 

 背後から声を掛けられた。振り向くと、師の友人だと言う金髪の旅人と白くて小さな生物が駆け寄ってきていた。

 

「霧依! お前こんな所で何してんだよ!?」

「パイモン……。止めるな、私は島に向かう」

「一人でか!? バカ止めろ! 危ないぞ!」

「霧依、駄目だよ。そんなこと、焔硝が許さない」

 

 空とパイモンは船に近付こうとする霧依を止めようと、手を差し伸べながら歩み寄る。

 しかし霧依はその手を無視し、船の準備を進めてしまう。

 

「霧依、帰ろう。焔硝が待ってるよ」

「戻るなら貴殿らだけで戻れ。私は行く」

「霧依……!」

 

 空が一歩前へ踏み出す。

 その直後、空の足下の地面が斬り裂かれる。

 空は立ち止まり、ゴクリと唾を飲み込む。視線を霧依に戻せば、霧依は剣を鞘に戻している所だった。

 

「もう時間が無い。師匠を救うには一刻も早く島の異変を解決しなければならない」

「ちがっ、そうじゃなくて――」

「これ以上私を止めるな!」

 

 霧依は空を睨み付ける。彼女から放たれる覇気に空は圧されてしまう。人間部分であろうとも、霧依は人造神。嘗て魔神と戦ったことがある空だからこそ分かるその力の大きさを霧依から感じ取る。

 

 だがそれに怖じ気づいている訳にはいかない。此処で霧依を一人で焔ノ島に行かせてしまえば、島に眠っているベリアルが何を仕出かすか容易に分かる。きっと封印を解かせて現世に復活するだろう。

 

 霧依は焔硝が弱っている理由が島にあると踏んでいるようだが、空にはそれが分からない。だがそれが本当だとしても霧依を行かせる訳にはいかない。

 

 空は剣を取り出した。霧依を力尽くでも行かせないと決めたのだ。

 霧依もそれを悟り、ゆっくりと腰の双剣に手を伸ばす。

 

 しかしその時、周囲に炎が沸き起こる。それは魔獣や怨霊の形を取り、空とパイモンを取り囲んだ。

 

「な、何だ!?」

「パイモン、気を付けて!」

「……」

 

 霧依は空とパイモンを助けるべきかと一瞬だけ迷い、しかし今が好機だと見て船に乗り込み、焔ノ島に向かってこぎ出してしまう。

 空は霧依を止めようとするが、魔獣らに邪魔をされてしまい霧依を行かせてしまった。

 

「このっ……!」

 

 空は剣を振るい、囲んでくる魔獣らを薙ぎ払っていく。まるで霧依を行かせようとする魔獣らに、空は焦りを感じる。全ての敵を倒した時には、既に霧依が乗る船は小さくなっていた。

 

「大変だぞ! 霧依が行っちまった!」

「……焔硝の下に行こう。今すぐに」

 

 空とパイモンは大急ぎで鳴神大社へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 焔ノ島に乗り込んだ霧依は双剣を握り締めて島の中央へと向かう。

 乗り込んだ当初は、敵の激しい猛攻が来るのだと踏んでいたのだが、不思議と何事も起こらずにいる。敵らしい気配も感じられず、困惑しながらも先へと進んでいく。

 

 やがて霧依は一番大きな気を感じる場所へとやって来た。そこは大きな洞窟で、中にボロボロな祠と巨大な剣が二振り祀られていた。

 霧依が祠に近付くと、突如として地震が発生する。そして霧依が立っていた場所が砕け、そのまま霧依は穴底へと落ちてしまった。

 落ちた場所はまるで地獄のような場所だった。無限に広がる闇の中に激しく噴火する火山が並び、溶岩の川や海を作っている。

 そして、霧依の目の前にはしめ縄が巻かれている巨大な岩があり、その岩に何かが打ち付けられている。

 霧依は我が目を疑う。それは赤い槍に貫かれ、岩に打ち付けられた己だったからだ。

 

「なん……だ……あれは……?」

 

 霧依は異様な不気味さを感じながら、その正体を確かめようとそれに近付く。

 するとそれは閉じていた目を開き、霧依を視界に収めた。

 

「来たか、我が半身」

 

 それは口を利いた。

 

「お前は……誰だ……?」

「我はお前だ。そしてお前は我だ」

「何を……?」

「我とお前は元は一つ。二人で一つの神なのだ」

 

 途端、霧依の脳裏に光景が流れ込む。

 

 それは己が産まれた瞬間の光景。人々が焔に願い、それが肉体を成して名も無き人造神として誕生した。その瞬間、人造神から零れ落ちた火が人々を焼き尽くし、灰燼と化した。

 

「何だっ、これは……!?」

「これが我らの宿命。我らは望まれたのだ、神殺しを」

「何っ……!?」

 

 霧依の目が見開かれる。

 それは嗤っていた。

 

「驚くよなぁ? 我も此処に眠ってからそれを知った。民に望まれていたとは知っていた。だからこそ我は民を愛していた。だが民が望んでいたのは我ではなく、我の力だった」

「何をバカなことを……! 師と私の民が神殺しなど望む訳がない!」

 

 霧依はそれの話を否定した。

 

 ありえない、嘘だ、戯れ言だと己に言い聞かせる。

 

 しかしどうしてか、言葉とは裏腹に心がその通りだと認めてしまっている。まるで知っていたかのように、すんなりと受け入れてしまっている。

 

「我から切り離されたお前だ。知らぬはずもなかろう」

「私を唆すつもりか! そうはならん! 貴様を祓い、我が師を死から救う!」

 

 霧依の言葉を聞いたそれは、胸に槍が刺さったまま大声で笑い出す。

 

「クハハハハハ! 我が半身の言葉とは思えんな! あの男の死が我にあると?」

「何!?」

「覚えておらんのか? アレを一度殺したのは我らだぞ?」

「――」

 

 霧依の視界が赤く染まる。

 

 その赤は激しく燃え盛る焔で、その焔の中心に愛する師がいた。師の手には槍が握られ、その切っ先は真っ直ぐ己に向けられていた。槍はそのまま己の胸を貫き己を焔で焼き始め、己の火もまた師を焼き始めた。

 

 霧依は握っていた剣を落とし、藻掻き苦しむように頭を抱える。

 

 知っている――この光景を知っている。これは――間違いなく己の記憶。

 だが有り得ない――己が愛する師に殺され、己も殺すなんて。

 

「腹立たしくも完全に殺しきれず、雷神の片割れによって延命されたが、それももう限界。そのお陰でこうしてお前を切り離すこともでき、我が力も外界に影響を与えることができた。あの時殺せておれば、封印なんぞ一瞬のことであったのに」

「……お前は……私は何なんだ……!?」

 

 それは――更に嗤いを深めた。

 

「我らはベリアル。神を殺す為に産まれた神殺しの魔神なり。今こそ、その宿命を果たそうぞ」

 

 それの――ベリアルの赤い目が光る。その直後、霧依は身体が動かせなくなる。しかし自身の意に反して足が動き出し、一歩、また一歩、更に一歩と岩に打ち付けられているベリアルへと近寄っていく。

 

「身体が……!?」

「何故、我がお前を我から切り離したと思う?」

「くっ……!」

 

 霧依が岩の側まで近寄ると、今度は身体が浮き上がる。固定されているベリアルの正面まで運ばれてしまう。

 

「この槍はあの男の焔だ。触れてしまえば焔によって焼き尽くされる」

「止めろ……!」

 

 霧依の手が槍を掴む。

 

「だが我らは別だ。我らは奴の焔から産まれた。例え人間の側面であろうとも、それは変わらない。我らだけが、いや――お前だけがこの槍を抜けるのだ」

「嫌だ……!」

 

 槍を掴む手に力が入る。ベリアルの胸から抜こうとしてしまう。

 

「この槍を抜き、再び我らは一つになるのだ。そうして今度こそ、我らが宿命――神殺しを始めよう!」

「止めろぉぉ!」

 

 果たして槍は抜き放たれてしまった。槍から解放されたベリアルは逃げ出そうとする霧依の腕を掴み、内から放たれる火の中へ共に姿を消した。

 

 そしてその火から現れたのは赫灼の着物と漆黒の甲胄を身に纏った武神だった。

 

「クハッ……ハハハッ……! アハハハハハハッ!」

 

 ベリアルは高笑いをし、己が力を示すかのように全てを赤く染める武火を撒き散らす。囚われていた空間を火で焼き尽くし、生み出した炎の双剣で斬り裂いた。空間から飛び出し、二千年ぶりの外界へと地獄の底から舞い戻ったベリアルは、完全に力を解放する。

 

「戻ったぞ! アウナァァァァァァァァス!!」

 

 ベリアルの背後に炎元素が集束し、爆ぜて具現化する。六本腕の巨大な炎武者が現れ、天を武火で貫く。巨人から放たれた武火はいとも容易く天を燃やし、赤く染め上げる。

 

「神殺しの宿命を果たす時だ! 先ずは貴様から殺してやる! アウナス! そして全ての神を殺してやろう!」

 

 今此処に、神殺しの魔神が復活した。

 

 天を焼き尽くす火を見て、焔硝は――アウナスは覚悟を決めるのであった。

 

 

 

 




今回は霧依視点の、少し短めでした。
次回からは覚悟が決まった焔硝の行動が――。
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