最終回はまだまだです。
あ、合計280連で雷電将軍2凸と餅武器一本ゲットしました!
やっと弊ワットにも最推しが来てくれました!
魔神と魔神の戦いを目にした人間は、現在この世にはいない。見たことがあると宣う奴はとんだホラ吹きか、人間ではないかだ。最近では魔神オセルと戦った璃月でも、人間が神同士の戦いを目にしたことはない。
魔神戦争の終結から凡そ二千年――それから現在に至るまで神同士の戦いは起こらなかった。
そう、二千年ぶりである。二千年経った今、稲妻にて神同士の戦いが起きたのだ。
稲妻・鳴神島、東海岸――。
幕府軍の陣が展開されている中、紫雷と赤雷が激しくぶつかり合う。二つの雷鳴が轟き、武士達の耳を劈く。武士達の視界が紫雷に包まれたと思った瞬間、赤雷が紫雷を斬り裂き食い破り空間を赤く染める。
武士達は神々の動きに目が追い付かなかった。色だけが瞬きする内に変わっていき、想像だにできない戦闘が行われているということだけを理解させられていた。
「将軍様……焔硝殿……」
陣の中で九条裟羅は二人の戦いを食い入るように眺めていた。己が主である雷電将軍とその懐刀であるはずの赤雷の将が戦っている。何千年も昔から互いを支え合ってきた稲妻の神々が、稲妻の民達の前で刃を交えている。
どうしてこうなったのか裟羅には分からない。裟羅だけではない、この場にいる誰もが理解できていなかった。分かるのは、雷電将軍と赤雷の将が本気の戦いをしているということだ。
九条裟羅はどうすれば良いのか分からなかった。天領奉行・九条裟羅として雷電将軍に加勢するべきなのかもしれないが、天狗の血が流れてるとは言え人間の手には負えない。今はただ、大人しく事の成り行きを見守るしかないのだろう。
再び雷の爆発が辺り一帯を襲いだした。
焔硝は目の前に迫る雷の刃を同じく雷の刃で受け止める。刃自体は防げたが、刃に纏っている紫雷が焔硝の頬を掠め斬る。ただ斬られた訳ではなく、魔神の雷によって焼き斬られた。それにより通常の再生力では治らない傷が左頬に刻まれた。
刃を押し返し、赤雷を纏った刃を影の腕目掛けて振るう。影の身体は将軍――つまり人形だ。痛みは感じないだろう。そう願って焔硝は刀を振るう。
だがそう易々と攻撃を通させる影ではなかった。自身の周りに紫雷の障壁を展開し、焔硝の刀を弾き返した。そのまま焔硝に雷撃を喰らわせ、焔硝も赤雷の障壁を出して対抗する。二つの雷がお互いを喰らい合い、やがて小規模な爆発を引き起こす。
爆発の中から飛び出した焔硝は影から距離を取ろうとする。しかし、瞬きをした直後には影が焔硝の目の前に迫っていた。振るわれた刀を防ぐために己の刀を前に出すが、影から繰り出される強烈な連撃を受けて吹き飛ばされる。そのまま影は吹き飛ばした焔硝の背後に雷速で先回りし、夢想の一心を横に薙ぎ払う。焔硝は辛うじて刀を背中に回して影の一撃を受け止めるが、再び吹き飛ばされてしまう。頭から地面に転がった焔硝は、何度も地面を跳ねながら体勢を整える。滑るようにして着地した焔硝は立ち上がって刀を正面に構えた。
「チッ……!」
焔硝は乱れた呼吸を整える。内に巡る元素力を必死に練り上げ、激痛が走る身体を抑え込む。
戦いが始まってから焔硝の寿命はどんどん磨り減っている。元素を内から発する度に身体が内側から燃やされていく。雷電眞の雷が焔硝の身体から無くなっていく今、焔硝は本来とは異なる焔を身体が受け入れられず、その焔に食われているのだ。
「ハァ……ハァ……!」
――くそっ、ベリアルとの戦いの為に力を残しておかなきゃならねぇってのに!
焔硝は激しい紫雷を纏う影を睨み付け、口の中から流れる血を吐き出す。
――分かってはいた。影を相手に生半可な力じゃ太刀打ちできないことは。だが全ての力を此処で出し切る訳にはいかない。
刀を握り締める手の力を強め、どうすれば目の前の雷神に勝てるのかを考える。
今の状態では勝てないのは目に見えている。力を半分以上抑えている状態では勝機を見出せない。勝つには今以上に力を引き出す必要がある。そんなことをすればどうなるか――。
「影……!」
「……」
影は静かに脚を動かして焔硝に近付いていく。一歩踏み出すごとに雷が足下で爆ぜる。凄まじい闘気を発し、焔硝という敵を倒す為に近付く。
「俺の思い違いか? 俺を止めるんだよな? 殺気を感じるぞ?」
「殺しはしません。ですが言ったはずです――四肢を斬り落としてでも止めると」
「っ……」
本気だ――。影の言葉に嘘は全く感じられない。その気迫に焔硝は息を飲み込む。
少しでも体力を回復する為に焔硝は言葉を投げ続ける。
「ベリアルはお前では殺せない。アイツには神殺しの力がある。神の力が強ければ強いほど、その効力は真価を発揮する。お前なら尚更だ」
「それでもあなたを向かわせる理由にはなりません。神子から聞きました。あなたが彼女と心中するのだと。いったい何を考えているのですか?」
「アイツを殺せるのは俺だけだ。世界を守る為に、稲妻を守る為に……お前を守る為に俺は俺の命を使う。それだけだ」
それを聞いた影は顔に怒りの表情を浮かべる。ギリッと歯を食いしばり、刀を握る手が力みで震える。バチバチと紫雷が弾け、影の背後にある諸願百目の輪の輝きが増していく。
そろそろ休めそうにないな、と焔硝は口を閉じて刀を両手で握り締める。
影はその気になれば本当に四肢を斬り落とせる。それも一瞬で。しかしこうして焔硝が未だ戦えているのは、影は焔硝の限界を狙っているのだ。ベリアルと戦わせる力を失わせてしまえば五体満足で捕縛できるからとでも考えているのだろう。
――そうはさせない。お前がその気なら、此方だって手札を切るまでだ。
「あなたはどうして……どうしてそんな簡単に……!」
影を中心として、激しい落雷が発生する。その落雷はまるで影に力を与えるかのよう影に纏わり付き、強大な力を夢想の一心に集約していく。
「どうしてそんな簡単に死のうと思えるのですか!?」
振り下ろされる刀。そこから放たれるは無数の紫雷の斬撃が束ねられた極大の一撃。
焔硝は体内の元素力を先程まで以上に練り上げ、影の一撃と同じ規模の赤雷を刀から吐き出す。二つの雷の斬撃が衝突し、辺りに強烈な衝撃波を撒き散らす。
「っ!」
影は咄嗟に背後へと刀を振るう。赤雷を纏った焔硝がいつの間にか背後に迫っており、焔硝の刀が影の刀を弾いて逸らす。そのまま焔硝は赤雷を撒き散らしながら影に連撃を繰り出して押し込んでいく。
影も紫雷で赤雷を対処しながら焔硝の連撃に刀を合わせていく。先程までよりも力強く、より強力な元素力を感じて僅かに動揺を見せ始める。
焔硝が力を更に使い始めた――。それが意味することは、彼の寿命を今この場で縮めてしまっているということだ。ベリアルの下へ行かせない為に、死なせない為の戦いだというのに、皮肉にもその戦いが彼を死に追いやっている。
影は焦る――だがそれでもやることは変わらない、分かりきっている。焔硝が死なない程度まで力を使わせ、動けなくなるまで戦い続ける。それでも止まらないようなら、四肢とは言わずとも片腕を斬り落としてでも止める。
「焔硝……! あなたはどうして……!」
「っ!?」
影は焔硝の腕を左手で掴み止める。掴んだ腕から赤雷が襲い掛かり手を焼こうとするが、手から放たれる紫雷が防ぐ。
「どうして分かってくれないのですか!?」
「影……! 俺は!」
「私にとってあなたは! あなただけが!」
影は焔硝の腕を捻り上げ、紫雷を発した蹴りを腹に打ち込む。紫雷が焔硝の身体を突き抜け、焔硝は刀を手から零してしまう。その瞬間、影は刀で焔硝の身体を刻む。端から見ればたった一振りだが、焔硝の身体を刻んだ閃光は十にも届く。
「ぐっ――!?」
焔硝の身体は刻まれた。だがその着物や身体には傷が付いていない。影は紫雷を操り、焔硝の体内だけを雷撃で刻んだのだ。
焔硝の口から血が吐き出され、膝から崩れ落ちようとする。
だが影はそれを許さず、夢想の一心を体内にしまい込み、掴んでいる腕を引っ張って紫雷の拳を焔硝の身体に叩き込む。何度も、何度も、何度も、何度も――。焔硝が抵抗し逃れようとするも、掴んでいる腕は絶対に離さない。引き寄せては更に拳を叩き込み、紫雷で貫く。
「もうあなただけなんです! 私と同じ時を生き、隣を歩いてくれたのは!」
焔硝の両膝が地面につく。影は腕を引っ張り、遠心力を加えて焔硝を放り投げる。放り投げられた焔硝はそのまま岩壁に激突し、崩れ落ちた瓦礫の下敷きになった。
影はその瓦礫に向けて手を翳し、そこから雷撃を放つ。雷撃が瓦礫を包み込み、爆発を起こす。
ほんの一瞬の間があり、爆発の中から焔硝が飛び出して影に肉薄する。赤雷を纏った拳で影に殴り掛かるが、影はその全てを見切ってかわす。右手を手刀にし、紫雷を迸らせて連続で胴を斬る。
「ぐぅ――!?」
「眞も! 笹百合も! 御輿千代も! 狐斎宮も! 私を置いて去ってしまった! あなただけは失う訳にはいかないんです!」
最後の一撃で突きを喰らった焔硝は身体をくの字に折り曲げてしまう。頭が下がった所に影の膝蹴りが放たれ、焔硝の鼻っ柱を強く蹴り飛ばす。頭を蹴り上げられ、身体が伸びきった所に横蹴りが首に入り、焔硝はそのまま遠く離れた幕府軍の陣の中へと柵をぶち破って吹き飛ぶ。
「ハァ……ハァ……!」
その身は人形だというのに、精神的な原因なのか息を荒げる影。
その時、陣の中から赤雷が飛び出し、影を攫う。赤雷の中から焔硝が現れ、空中で縺れながら影と殴り合う。焔硝の拳が影の顔面に叩き付けられる度に赤雷が爆ぜ、影の拳が焔硝の顔面に叩き付けられる度に紫雷が爆ぜる。
赤雷と紫雷はそのまま空中で何度も殴り合い、やがて影の蹴りが焔硝の顔に炸裂し、地面に叩き落とされる。
焔硝はすぐさま立ち上がり、遠くに落ちている刀を引き寄せて掴み取る。
影も地面に着地し、感情を剥き出しにした表情で焔硝を睨み付ける。
「ハァ……ハァ……! クソッ……!」
焔硝は全身に駆け巡る激痛に意識を持って行かれそうになりながら、必死に呼吸を元に戻す。まだ死にはしないが、このまま続けば間違いなく力尽きてしまう。ベリアルとの戦いの前に影との戦いで力を全て失ってしまいそうだった。
ベリアルとの戦いの為に余力と切り札を残して影に勝たなければいかないと言うのに、どうしても勝てない。
甘く見ているつもりはなかった――だがそれでも無謀だったのかもしれない。
片や弱り切っている武神――片や神の心を失ってると言えど健在な武神。
勝負は目に見えている。それでも焔硝は勝たなければならない。大切な者を守る為に。
「影……頼む……行かせてくれ……!」
刀を構えながら、焔硝は懇願するように呟く。
一方、影は顔を伏せて肩を震わせている。
「嫌です……!」
「頼む……!」
「嫌です……!」
「影!」
「嫌ですっ!!」
雷鳴が轟く。いつの間にか二人が立っている場所の空は雷雲に支配されていた。
「あなたが私を守ろうとしてくれているのは分かっています! 残り少ない命を私を守る為に使おうとしてくれているのも! ですがっ! じゃあ私の気持ちは!? あなたを失いたくない私の気持ちはどうしたらいいんですか!? あなたまで失ったら、私はどう耐えればいいんですか!?」
「影……!?」
影の周りの空間に罅が入る。
「私にとって――」
その罅はピシリッ、ピシリッ、と大きくなり――。
「この世界や私の命よりも――」
それはやがて大きく砕ける――。
「焔硝のほうが――ずっと大事なんですよ!!」
世界が崩壊する音を響かせ、影は力の解放と共に自らの意識空間『一心浄土』を展開する。焔硝を取り込み、誰にも邪魔をされず、決して逃がさない己の戦場へと誘う。
無限に広がる空間、無数に見える巨大な鳥居――。
そしてそこの主として君臨する雷電影――。
否――雷神バアルゼブル。
彼女は己の意識空間故に、その身をある種の完全体へと変貌させていた。
いつもの装いではなく何処か神聖さを感じさせる戦闘装束へと変わり、地面ではなく巨大な両の手の上に浮かび、右側には巨大な右腕が一本、左側には小さめの左腕が三本浮かび上がり、右手には巨大な刀、左手の一つには金剛杵が握られている。背後の輪も神々しくなり、今までの雷電影とはまるで比べ物にならない存在へと変化した。
焔硝はいつしか空とパイモンから聞いた、戦いの中で雷電将軍が変貌した話を思い出す。
おそらくはそれを見た影が、自分の意識空間の利点を生かして発現させたのだろうと推測する。
「焔硝――もはや手加減はしません。次はその四肢を斬り裂き、否が応でも止めます。そして再び生きる時間を増やす手段を探しましょう。例え、私の命を糧にするとしても」
雷神は巨大な刀の切っ先を焔硝に向け、そう告げた。
それをしかと聞いた焔硝は深く息を吸い込み、握っていた刀を鞘に戻す。
それは決して諦めたからではない。
寧ろこうして一心浄土へと引き摺り込まれたからこそ、焔硝は決断することができた。
「影――俺だってこの世界や俺の命よりも――」
焔硝は右手を正面に持ち上げた。その手の先から赤雷――ではなく、赤い焔が煌めく。
「お前のほうが――ずっと大事だ」
焔が激しく猛り、それは一つの形を作って焔硝の手に収まった。
所々穴だらけで、具現化できていない箇所も存在する槍――焔の十文字槍が現れた。
そして赤雷ではなく焔を纏い始めた焔硝を見て、雷神は驚愕する。
それは失われたはずの焔――。赤雷の将ではなく、焔の魔神としての力――。
魔神アウナスがそこに立っていたのだ。
「火神招来――
一心浄土に、灼熱の焔が燃え盛った――。
赤い月が血塗れ町を――。