稲妻の双雷   作:八魔刀

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ピノコニー何あれぇ!?!?!?めちゃめちゃ楽しそうやないかぁ!!!!


ついに決戦。もう焔硝は止まりません。
皆覚えてるかな?焔硝の刀の銘。


第30話 焔人の章10

 

 

 世界の外側かやって来た異邦人――旅人。その名を空と言う。

 彼はこの世界の理から外れた存在。肉体的、精神的に見ればこの世界の人間とはまるで変わりない。だがその在り方や力は異質。この世界に存在するあらゆる生物と渡り合える器量を持ち合わせており、神ですら旅人を一目置いている。

 

 その彼は――現在、多くの魔獣と怨霊に取り囲まれている。それら全てが凶悪な炎元素を纏っており、武火の魔神の手下だと言うことが分かる。

 

「おい! 後ろだ!」

「っ!」

 

 側で飛び回るパイモンの声に従い、空は身体を動かして剣を振るう。雷元素を用いて剣先から三つの雷の刃を飛ばし、飛び掛かってくる魔獣を斬り裂く。その瞬間を狙って複数の怨霊が空に襲い掛かるも、空は今度は風元素を用いて突風を爆ぜさせ、怨霊を吹き飛ばす。そして岩元素に切り替えて周囲の地面から金色の岩を隆起させ、まとめて敵を消し飛ばした。

 

「これでっ!」

 

 最後に残っている魔獣を剣で斬り裂き、戦闘を終える。随分と汗をかき、呼吸を乱していることから長く戦闘を行っていたのだろう。パイモンが心配そうに空の周りを浮遊し、顔色を窺っている。

 

「大丈夫なのか? ずっと戦ってるけど、少し休んだほうが良いんじゃないか?」

「うん……。でも魔獣が現れてるのは此処だけじゃない。焔硝の言う通り、ベリアルは裏で稲妻に侵攻してるみたいだ」

 

 空がどうして一人で戦っているかというと、それは雷鳴が轟く少し前まで遡る。

 

 

 

 

 ベリアルが復活し、幕府軍が戦の為の準備をしている中、冒険者である自分に何かできる事があるはずだと、色々な場所に駆け付けて手を貸していた。

 

 その時、どこか思い詰めた表情をした焔硝が現れた。

 

「空、頼みがある」

「何? こっち結構忙しいんだけど――」

「稲妻を守ってくれ」

 

 焔硝は唐突にそう口にした。

 空とパイモンは首を傾げ、どういう事かと訊ねる。

 

「いきなり何?」

「……ベリアルは鳴神島の彼方此方に軍勢を忍ばせている。幕府軍の準備が整う前に攻撃を仕掛けるつもりだ」

「何だって!? 大変じゃねぇか!」

 

 パイモンは顔を青ざめ、早く影に知らせないと、とアワアワと慌てる。

 空もそれには同意だが、焔硝から匂う違和感に頭を冷静にさせられる。

 

「なら……俺にじゃなくて影に知らせないと」

「……影には無理だ。お前にしか頼めない」

「……どうして?」

「理由は……言えない。だが、これはお前だけにしか頼めない」

「……」

 

 空は焔硝を見つめる。睨み付けると言った方が正しい。焔硝は静かに空を見つめ、パイモンはそんな二人を困惑の表情を浮かべて見守る。

 

「……どうして、俺に頼むの?」

「……」

 

 焔硝は一瞬、答えに戸惑う。

 しかしすぐにそれは見つかり、真っ直ぐと空の目を見据えて口を開く。

 

「お前が――俺の友だからだ」

「……」

「頼む、空――稲妻を守ってくれ」

 

 焔硝は腰を深く折り、頭を下げた。

 彼から感じるこの気迫、緊張感、覚悟――。それら全てを空は感じ取る。

 理由は分からない。だが目の前の男が理由も無く、こうして頭を下げる訳がない。

 

 だらしなくて、情けなくて、意気地無しで面倒臭い魔神――。

 

 そんな男が――友として頭を下げている。

 

「……はぁ」

 

 空は溜息を吐き、頭を下げ続けている焔硝の肩にポンッと手を置く。

 

「頭を上げてよ。魔神がそんなんじゃ、立つ瀬無いよ」

「……」

「――いいよ。頼まれてあげる」

「……かたじけない」

「まったく……友達だからね」

 

 空はニヒリと意地の悪い笑みを浮かべる。

 

「オイラもだぞ!」

 

 パイモンもその隣で、その赤子のように小さな身体を張ってアピールする。

 焔硝はそんな二人を見て小さく笑みを浮かべ、懐から赤い石を取り出した。

 

「ありがとう。これを持て。俺の元素力を込めて作った。これが奴らの居場所を教えてくれる」

 

 空は石を受け取りポケットにしまう。

 それじゃ早速、と空はパイモンを連れて戦いに出ようとした。

 

「空、パイモン」

 

 その二人を、焔硝は呼び止める。

 立ち止まって振り返った二人を暫く見つめた焔硝は、今にも消えそうな笑みを浮かべた。

 

「――ありがとう」

 

 そのまま焔硝は赤雷となって姿を消した――。

 

 

 

 

 

 

 あの時の焔硝は、やはり様子がおかしかった。

 

 ――ベリアルの復活で余裕が無かったのだろうか? それにしては迷いが無かったような。

 

「なぁ、空。やっぱ何だから変だぜ、アイツ」

「……」

 

 パイモンも焔硝の様子が変だった事に気付いていた。

 

 ――やっぱり何かある。ある程度雑兵は片付いたし、一度焔硝と合流しても……。

 

 その時だった。

 

 今までに聞いたことがない雷鳴が耳を劈く。何事かと空を見上げると、紫雷と赤雷が激しく混ざり合っている雷雲が目に入った。ベリアルによって燃やされている空が、それら雷雲によって覆われていく。

 

「な、何なんだ!?」

「……っ! 行こう、パイモン!」

「お、おう!」

 

 空は駆け出した。

 酷い胸騒ぎがする。かなり悪い予感がする。取り返しの付かない事が起こってしまいそうだと、空は全力で雷雲の真下へと急いだ。

 

 

 

 

 

 

 影との戦いが終わった焔硝は、夢想の一心と自身の赤刃の刀――神刀・倶利迦羅を腰に差したまま、焔ノ島へと足を踏み入れた。

 

 焔ノ島と鳴神島を隔てる海はベリアルによって無くされ、大地が続いている。その大地を焔硝は身体を引き摺りながら歩き進み、ベリアルが生み出した軍勢の前までやって来る。

 

 焔ノ島は、既にその姿を変えていた。此処を決戦の場と選んだのか、ベリアルの神威によって大地は激しく隆起し、渦巻く巨大な岩石島へと化していた。宛らそれは稲妻の孤雲閣、いや層岩巨淵と言った所か。その中心では強大な炎元素が鎮座しており、そこにベリアルが居るのだと、焔硝は確信した。

 

 焔硝の目の前にはベリアルの神威で生み出した炎元素の魔獣、怨霊の軍勢が広がっている。そのどれもが強敵であり、今の焔硝にとっては一体と戦うだけでも命懸けに近い。

 

 だが――それでも勝たなければならない。この軍勢を突破し、ベリアルが待つ島の中心へと辿り着かなければならない。そしてベリアルの命を己の命を以て絶ち、稲妻を、世界を――影を、友を守らなければならない。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 息も絶え絶えだ。着物の下は酷い火傷を負っており、まるで燃やされた炭のように割れたりもしている。腕や足を動かすだけでも激痛ものだ。もしかしたら途中で四肢が焼き落ちるかもしれない。

 

 この状態のままであれば――だが。

 

 焔硝は静かに、倶利迦羅を左手で赤鞘から抜く。赤雷の将になってから創り出した愛刀。もうこの刀を振るうのはこれが最期だと、少しだけ感慨深くなる。

 

 それから、腰に差しているもう一振りの刀――夢想の一心に手を掛ける。柄を握り締めると、スッと腰から抜く。

 

 すると、どうした事だろうか――辺りが静かになった。風の音も、炎が燃える音も、煩かった心臓の鼓動も聞こえなくなった。

 

「……」

 

 ――呼吸がしやすい。身体が楽だ。

 

 摩訶不思議な現象に戸惑い、だが一時の休息だと受け入れた。

 

 そして何故か、今までの記憶が最初から頭の中を駆け巡る。

 

 修羅として世界を歩き、眞と影に出会い、戦い以外の時間を過ごし、愛を知り、絆を紡いでいったあの尊き時間。

 

 今思えば何と幸せだった事か。焔の魔神アウナスとしてではなく、眞に愛された焔硝として在れたその奇跡。それは、それこそがアウナスの望みだった。修羅を捨て去り、愛する者の温かな腕の中で過ごす事こそが生まれ落ちた意味だった。

 

 叶うことなら――その幸せがもっと続いてほしかった。

 

「……」

 

 閉じていた瞼を開いた。

 

 目の前に、彼女がいた。

 

「……眞」

 

 これは夢なのだろうか。それとも、あのまま死んでしまったのだろうか。

 目の前に、死んだはずの眞が立っている。

 

 眞だけではない――死んでいった盟友が全員、そこにいた。

 

「笹百合……御輿千代……狐斎宮……」

 

 皆、生きている頃と姿は変わらなかった。

 焔硝は嘗ての光景に涙ぐむ。

 

「焔……」

「眞……これは夢か?」

 

 眞の手が伸び、焔硝の頬に触れる。焔硝は左手の倶利迦羅を落とし、眞の手を優しく握り締める。そしてその手の感触を確かめ、鼻先に持っていき唇を当てる。

 

 ――嗚呼……温かい。眞の匂いだ……。

 

「焔……ごめんなさい。私の所為よ」

「何を謝るんだ……? お前は何も悪くない」

「私が貴方を救いきれなかったから……。貴方を一人であの子と戦わせてしまったから」

 

 眞は涙を流す。焔硝はその顔を見るのが嫌で、左手で眞の目元を拭う。

 

「いいんだ……。いいんだ……。お前は命懸けで俺を助けてくれた。俺を愛し、お前を愛する時間をくれた……。それが全てだ……」

「でも……貴方に酷いことをさせたわ。貴方を思い詰めさせてしまった」

「これは俺が選んで決めたことだ。お前が気にすることじゃない」

 

 焔硝は眞の後ろに立っている盟友達に顔を向けた。

 彼らも何か言いたげな顔をしている。

 

「よぉ……元気だったか?」

 

 焔硝は震える声でそう問い掛けた。

 一番先に答えたのは大天狗の笹百合だ。

 

「あぁ、それなりにな」

「お主はボロボロじゃのう」

 

 鬼の姫君・御輿千代が茶化したように笑う。

 

「俺が斬った場所は痛むか?」

「ふん、それはもう毎晩……あの時はすまなかったのう」

「こっちこそ」

「ねぇ~? 私には無いの~?」

 

 白髪で狐の耳を生やした仙狐が無垢な笑顔を向ける。

 

「お前は……どうせ向こうでも団子ばっか食ってるんだろう?」

「あっ! ひっど~!」

「事実ではないか」

「笹百合は黙って!」

 

 焔硝の目の前で繰り広げられる嘗てと同じ喧噪に、焔硝は涙を零しながら笑みを浮かべる。

 皆、死んでも元気にやっているようだった。これが幻想でも、その姿が見られただけでも焔硝は嬉しかった。

 

 焔硝は鼻を啜り、笑みを引っ込めて真剣な眼差しで眞を見つめる。

 此処に彼女達が現れたその意味を、焔硝は何となく察した。

 

「……迎えに来てくれたのか?」

「……」

 

 眞は――小さく頷く。

 

「……そうか。でも――まだもう少し時間はあるんだろう?」

「……ええ」

 

 眞は頷いた。

 焔硝は嬉しかった。こうして愛する者達が迎えに来てくれたことが。死んでも、ずっと一緒に居られるのだと、心から感謝した。

 

「なぁ……死ぬ時ってどんな感じなんだ? 俺、覚えてなくて。怖かったのか?」

「……安心して、大丈夫よ。私達が側に居るから」

 

 眞の手が、焔硝の胸に触れる。温かい何かが、焔硝の身体の中へと入っていく。

 

 ――心地良い……力が湧いてくる。

 

 焔硝の中に残っている元素力が活性化していき、焔硝に生気を取り戻させていく。

 

「焔……覚えてる? この羽織を贈った時のことを」

「あぁ……態々羽織りを織るのに神威なんか使って、影に呆れられてたな」

 

 焔硝は思い出す。赤雷の将になってから身体の調子が悪くなることが多々あった頃、それを少しでも解消させる為にと、眞が自身の神威で特別製の羽織を織ってくれた。そのお陰で焔硝の体調が悪くなる回数は減った。

 

「ずっと大事にしてくれたのね」

「……何度か身を守る為に使ったけどな」

「守れたのなら本望よ。いい? よく聞いて。この羽織には私の力が込められてるわ。きっと貴方の力になるはずよ」

「……ほんと、眞……お前にはいつも助けられてばかりだ」

「いいのよ。だって……貴方の事を愛してるもの」

 

 眞は微笑んだ。

 しかしすぐにその笑みは消えて無くなる。

 

「でも……本当に良いの? 今ならまだ引き返せるかもしれないわ。羽織に残っている力と、影の力を使えばもしかしたら――」

 

 眞は焔硝の顔を見て言葉を止めた。

 焔硝は、決意を固めた表情をしていた。

 

「眞……俺はお前を愛してる。この気持ちはどれだけ時が経とうと薄れない」

「……」

「でも影が――影も大事なんだ……愛してる。あいつはまだ生きてる……生きててほしいんだ」

 

 焔硝のその告白に、眞は一瞬だけ目を丸くし、そして満足げに笑った。

 眞は嬉しそうに頷き、焔硝から手を離して盟友達の方へと下がっていく。

 

 そして彼女達は――笑顔を贈る。

 

「なら行きましょう――影を守りに」

 

「――――――ああ、行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 瞼を開けると、戦場が広がっていた。風の音が聞こえる、燃える音が聞こえる、心臓の鼓動が聞こえる。

 

 先程までの光景は夢か、はたまた幻想か――。

 

 しかし不思議と身体は少しだけ楽になっていた。四肢に力が入る。元素力が少し戻っている。

 

 夢想の一心が力をくれたからだろうか……刀が強く輝いている。

 

 地面に突き刺さっている倶利迦羅を左手で抜き取り、二刀流の構えを取る。元素が溢れ、背後に小さな火神が添い立つ。最後の戦だと、火神は力を振り絞るように焔硝に付き従う。

 

 焔硝は大きく息を吸い込んだ。

 

 そして――喊声を発する。

 

 

「常道を恢弘せしは、永遠なる鳴神なりィィィ!!」

 

 

『オオオオオオオッ!!』

 

 

 呼応するように、火神が咆哮を上げた。

 

 焔硝は地を蹴り、敵軍へと突撃を開始する。

 

 敵軍も雄叫びを発しながら、向かい来る獲物を討ち取る為に突撃する。

 

 ついに――最終決戦が始まった。

 

 

 

 




出来ればもう今月末で仕上げたい。
でももしかしたら2月の上旬になるかも。
後者の方が可能性高いですね。

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