ヒスイの時代でピカっと生きてみる   作:さいとーん

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ピカチュウ cv坂田銀時


10まんボルトってどうやって撃つんだよ

 前世の俺はどちらかと言うとクズな方だったかな。嫌なことがあればすぐに他人のせい。自分の落ち度は中々認められず、職場の同僚からは陰口を叩かれ続ける。そんな毎日が続けば、心が荒むのなんてすぐだ。嫌な態度なんてすぐに表に現れて、家族関係は少しずつ悪化していき、家に自分の居場所がなくなるなんて当たり前だった。

 

 けど、こんな俺にだって文句を言う権利くらいあるよなッ!!

 

「なんでピカチュウに転生してんだァ!!?」

※中身、三十路手前のオッサンのピカチュウが青空に向かって哀を叫ぶ。

 

 なんだこりゃ!?

昨日、仕事から帰ってすぐに寝てたのは覚えてる。だが、次目覚めたらピカチュウになってたんだ。なんの前触れも無しに何処か分からない土地に放り出されて、辺りにはビッパ・ムックル・コリンクが当たり前のようにいやがる。

 

「ピカピ…」

 

 もう何度目になるか、自分の頬を可愛くなった手で引っ張る。夢であれ。夢であれと願えば願う程、自分の頬に走る痛みが現実であると示している。絶望感に苛まれながら、俺は慣れない身体でトボトボと移動を始める。とりあえず、こんなワケも分からない野原にいたら何も進まない。人だ。人に助けを求めよう。こんな所で野宿なんて真っ平だし、夜になったら色々と致命的だ。

 

 それにしても、ここはどこなんだ?ビッパ・コリンク・ムックルってことはシンオウ地方か?社会人になってからは年齢を追う毎にあまりゲームしなくなったから、新作のポケモンの内容なんて全然分からねぇな。全然知らねぇポケモンに遭遇しなくて幸運だと思うことにしよう。俺の知識はぶっちゃけアローラで止まったし。ガラルは冒険出来なかったしな……

 

 そんなことを考えながら、宛もなく広大な野原を歩き続ける。最初は二本足で歩いていた俺だったが、なんということでしょう。前足を地に着けて、四本足で歩いた方がかなり楽だと気付いた自分がいて、人の身体の感覚が段々と薄れていく気がして涙が出そうになる。

 

 そんな俺に突然、空から泥団子が目の前に落ちてきた。

 

「ピカッ!?」

 

 反射的に後方へ軽く跳び、降ってきた泥団子を避けてみせる。上を見ると木の上でエイパムが爆笑していた。ここで俺はエイパムに睨みを効かせるが、相手は明らかに馬鹿にしているのが嫌でも分かる。ここで怒って喧嘩するのは簡単だが、少し冷静になって考えよう。相手はポケモン、今の俺も不本意だがポケモンだ。なら会話が出来るはずと少し前向きに今の状況を捉える。俺は軽く咳払いをして、木の上にいるエイパムに話しかける。

 

『なぁエイパム! 俺の言ってること通じてるか?』

『はぁ? 分かるけど、なんなの?』

 

 おぉ! 今、歴史的快挙を成し遂げた気分!!

 

『俺、ここら辺のこと分からなくさ! 人間の町って何処にあるんだ?』

『え?なんで人間のこと聞くの?』

『なんでって、人間に会いたいからさ。人間の住む場所に行きたいんだよ』

 

 そう伝えた途端、エイパムは怪訝そうな表情をした。

 

『変なピカチュウだね。あーあ、悪戯する気失せちゃった』

『そ、そいつはどうも…』

 

 エイパムは踵を返して、その場を去ろうとする直前、ふと俺を見る。

 

『どうするのかアンタの勝手だけどさ、せいぜい気を付けなよ。人間に…』

『お、おぅ…』

 

 憐憫な視線を俺に送った後、エイパムは身軽な動きで林の奥へと姿を消した。それもそうだよな。不本意だけど、今の俺は野生のピカチュウだ。トレーナーに出会ったらゲットされる可能性もある。それならそれでアリかもしれないが、悪いトレーナーに捕まる可能性もある。起こりうる最悪な可能性を頭の片隅に置いておくべきだった。それに気付かせてくれたエイパムには感謝しておこう。後、泥団子の恨みを込めてテキトーな場所で転べばいいのに、と天に祈ろう。

 

「ピカピ…」

 

 こんなときこそ、前世で大変憎んだブラック企業を思い出せ。上っ面の心地良い言葉信じてる内は駄目だ。クズ上司の人間的本質を見抜くのを怠っちゃならねぇ。要は悪いクズトレーナーだけには捕まるのは絶対に勘弁だな。特に奴隷みたいに扱ってくる頭のネジ外れた人外のクズみてぇな奴には容赦なく10まんボルトを…いやかみなりをプレゼントしないとな……

 

 ポケモン人生のポリシーを固めていると、俺の近くに丸っこいナニかが落ちてきた。

 

「ピ?」

 

 またエイパムの悪戯かと木の上を見るが、エイパムの姿はそこにはない。おかしいなと思いつつ、俺は近くに落ちてきたナニかを観察した。そして、そのナニか…モンスターボールによく似たモンスターボールもどき?だと気付いた。見るからに木材で構成された洒落てるモンスターボールもどき。よく出来てるとちょっと感動したのも束の間、また木で出来てるモンスターボールもどきが落ちてくる。

 

「あっ! 惜しい!」

「ピカ?」

 

 声のした方向に顔を向けるとそこには木の陰に隠れてる中学生くらいの女の子がいた。あわあわと懐からモンスターボールもどきを取り出し、おぼつかない投球フォームで俺を明らかに狙ってる。というか、ダイパの女主人公「ヒカリ」に瓜二つなのは俺の目の錯覚じゃないと信じたい。気になるのはもう一つ、服装が明治って雰囲気丸出しなのは何故なんだ?まぁよく似合ってるけども。

 

「そ、そこでじっとしててくださいね…」

「ピ、ピカ?」

 

 オイオイ。そんなド緊張した顔で近寄られたら逃げるよ?相手が一歩また一歩と俺に近寄ってくるが、俺もそれに応えて一歩また一歩と後退していく。それを暫く続けていると俺は壁際に追い詰められてしまっていた。

 

「良い子ですよー…良い子ですからー…」

 

 やだ怖い、なにこの娘。ついさっき迷わず逃げてればよかった。

 

「私も調査隊の一員なんです!」

 

 意を決してモンスターボール?を俺に向かって投げる娘。俺はそれを…それを…ただ黙って眺めた。肝心のモンスターボール?は俺に掠りもせず、俺の横を華麗に通り越していった。ちなみに、俺とこの娘の距離は2m弱かな。

 

 え? この距離を外したのこの娘?

 

「ピカッ♪」

「あ! 今、鼻で笑いましたね!?」

「ピカッチュチュ」

 

 笑ってません。笑ってませんとも。ただノーコン娘を憐れに思っただけだって。

 

「もう一度!」

「ピカッチュ」

「躱さないで!?」

 

 今度は当たるところだった。ただ速度が足りんよ速度が。そんなんじゃ元野球部の俺には掠りもしませんて。

 

「もう一度!!」

「ピカッピ」

「尻尾で撃ち返さないで!?」

 

 おー! アニメのピカチュウの真似も案外イケるなー!

 

「諦めません!!!」

「ピッカァ!!」

「さっきよりも遠くへ飛ばさないで!!?」

 

 だんだん尻尾で撃つ感覚が慣れてきて楽しいな。今度はヒットじゃなくてホームラン狙うから。

 

「……絶対捕まえますから!!」

「ピッ」

「また撃ち返しましたね!!」

 

※このやり取りは暫く続きました。

 

「ピぃピぃ……」

「あ、あなたは絶対に捕まえます……」

 

 気付けば、辺りは暗くなり始めていた。ノーコン娘とのやり取りは途中まで楽しかったのだが、慣れないピカチュウの身体で千本ノックするのは精神的にも体力的にも限界だ。もう尻尾の付け根の筋肉が悲鳴上げてるんだよッ!!三十路手前のおっさんの体力なんて期待する価値無しィ!!

 

 なんか切なくなってきた。

 

「つ、次で最後です」

「ピィカ……」

 

 奇遇だな。俺もあと一振りで限界なんだよ。さながら、逆転が懸ってる最後の打者の気分だ。

 

「ッ! 当たって!!」

 

 ノーコン娘の渾身の一球は、明後日の方向へ飛んでいき、草むらの中に姿を消した。大暴投で幕を引いたノーコン娘は目尻に涙を浮かべて俺を見ている。なにこれ?俺が全部悪いんか?気まずい空気が場を支配し始めたからこの場を去ろう。逃げるが勝ち。ボク、今ピカチュウだから人間の気持ちなんて分からなーい…

 

 こっちはどうやって人間に戻るか考えなきゃいけないからな。ま、明日から頑張れノーコン娘よ。きっと明日なら良い事あるから、と踵を返そうとした瞬間、草むらから何かの足音が聞こえてきた。それも複数。良くない不穏な雰囲気を感じた俺は咄嗟にノーコン娘の前に移動する。

 

「ピカ?」

 

 え?なんで俺、咄嗟にこの娘の前に…と戸惑った直後、草むらから3体のムックルが現れた。見るからにこっちに敵意剥き出しなのは何故だ。後、奴等の内の1匹に立派なたんこぶ出来てるのなんで?

 

「ムックル、しかも3体も……」

 

 おいおい。相手はムックルだぞ。流石に追い払えるんじゃない?ほら、お嬢様の相方のポケモンを繰り出して、この不穏な状況を一気に解決してくれたまえ。

 

『おい。お前らか?』

 

 このままポケモンバトルが始まるかと思いきや、ムックルが何かを確認し始めた。当然だが、ポケモンの言葉が分からないノーコン娘じゃなく、俺が答える。

 

『なんのことだ?』

『しらばっくれるか!この人間に飼われる恥知らずめ!!』

 

 ギリっ!と、つい奥歯を噛み締めたが、大人の俺は我慢を一つ……

 

『なぁ、一体なんでそんなに怒ってるんだよ?』

『お前らが投げたモノがきのみに当たって落ちてきたんだ!!』

 

 と、たんこぶ野郎が憎々しげに叫ぶ。なるほど、さっきの大暴投が余計な奇跡を起こしたらしい。

 

『仕返しだ!仕返しだ!仕返しだ!!』

『人間は危ない生き物だって本当だった!』

『人間に飼われるお前も覚悟しろ!!』

 

 ちょっ…なんかもうこっちの言う事に聞く耳持ってもらえなさそうなんですけど……

 

「「「ピョーーー!!」」」

 

 奴等の雄叫びが木霊する。

 

「きゃーーーッ!?」

 

 その雄叫びに負けじとノーコン娘の悲鳴が響く。そんなことは奴等にとっては関係ない。つい呆然としていた俺を無視して、奴等は無抵抗になってるノーコン娘につつくというひこうタイプの技を夢中に繰り出していた。

 

 え?もしかして、この娘ってポケモン一体も持ってないのか?

 

「痛い! 嫌ッ!!」

「ピッカッ!!」

 

 もうどうにでもなれ!と、俺は無我夢中で3体の内の一体のムックルにたいあたりを仕掛ける。俺のたいあたりは虚しく空を切るだけで終わったが、奴等をノーコン娘から遠ざけることには成功した。

 

「君……」

 

 俺は初めて自分の頬にある電気袋から電気を迸らせる。感情が昂ると自然と発電してしまうみたいだ。

 

「ピカ…」

 

 ムックル3体に睨みを効かせながら、10まんボルトの準備を感覚頼りに進める。すぐに発射すればいい?すまんな。ポケモン人生初の10まんボルトだ。やり方なんて分かるワケないじゃん。おいテメェら、強すぎてひんし状態になっても知らないからな。数の暴力をしてきた君達が悪いんですからね!

 

「チュウーーーーー!!」

 

 その場の勢いとノリに任せ、10まんボルトを発射した俺。ポケモン人生初の技を放った自分に感動したのも束の間、俺の10まんボルトはムックル3体に当たることはなく、天高く真上に電気の柱になって綺麗に消えてしまった。

 

 あれ? もしかして、めっちゃピンチな状況なのでは?

 

『あいつバカだ!』

『自分の技をコントロール出来てないぞ!』

『もっと練習しろー!』

 

 ムックル3体の嘲笑込みのお言葉を聞いた瞬間、俺は気付いたら奴等に向かって駆け出していた。

 

「ピッカ!!」

 

 ムックル3体も俺がこんな行動に出るとは想定してなかったらしく、奴等の内の1匹に抱きついて捕まえる。

 

「ピョーっ!?ピョーーー!!」

『なにをする!?』

『離れろ!このッ!このッ!!』

 

 当然、残る2匹からつつくを盛大に受け続けるワケだが、俺は決して捕まえてるムックルから手を離そうとはしない。寧ろ、つつくを受ければ受ける程、頑なに離すまいと手に力が入ってしまって好都合だった。

 

「ピカ…」

 

 当たらなきゃさ……当たる距離まで行けばいいだけなのよ!!

 

「チュウーーーー!!」

「「「ピョーーーーーーー!!!」」」

 

 次の瞬間、俺は全身全霊で電撃を放つ。もう10まんボルトなんて技にこだわったりなんかしない。コイツらに一矢報いることが出来ればそれでよかった。当たり前だけど、全力で技を放ち続けるなんて芸当は出来はしない。悔しいが、自分の手の握力を振り払ったムックルが空へと逃げていく。それ続くように残りの2体も振り向きもしないまま、空へと消えた。

 

「ピカ…ピ」

 

 なんか身体全体がフワフワと脱力していってるけど、なんとか立ってみせる。考えもせずに電気を放電し続けてしまった影響か、立ってるのがやっとだった。体力のない三十路手前にしては大金星を挙げたのではないかと、自分を褒めておこう。

 

「ピカチュウ!」

「ピ?」

 

 立つのがやっとだった俺をノーコン娘が抱きかかえる。俺は一瞬逃げようとしたけど、彼女は決して逃すまいと…いや寧ろ優しい力加減で俺を傷つけないようにとしてるのが嫌でも分かった。分かってしまった。そう思うと俺は彼女の腕の中で大人しくなってしまう。

 

「ありがとう。私のせいでこんなになるまで…」

 

 さっきまで、つつくを雨あられのように受けたからな。主に背中が痛いわ。アホみたいに滅茶苦茶つつきやがって、今度会ったら、電気タイプの大技“かみなり”お見舞いしてオーバキルしてくれるッ!!

 

「ショウさーーーん」

 

 俺がささやかな復讐を誓ってたとき、遠くから男の声が聞こえた。それを聞いたショウと呼ばれた彼女の表情は一瞬で明るくなる。

 

「ラベン博士!」

 遠くから手を振って駆け寄ってきた男はラベン博士というらしい。

 

「いやー! 心配しましたよ。中々戻らない上に遠くで雷が天高く昇ったものですから」

 

 すいませーん。その雷やったの俺でーす。なんか恥ずかしいのだが……どうやらこのラベン博士は俺がやった電撃を目印に駆け付けてくれたらしい。このショウって娘とどういう関係か知らんけど、良い人だと思う。

 

「博士、大変なんです。この子が私を庇ってくれて…」

「おや、ゲットしてポケモンと勝負させて怪我を?」

「私、ゲットしてないのに危ないところをこのピカチュウが…」

 

 ショウがそうラベン博士に伝えた直後、ラベン博士は驚きの表情を見せる。

 

「なんと!野生のポケモンが人間を助けたというのですか!?」

「そうなんです。ムックル3体相手に勇敢に挑んでいきました」

 

 よせやい。照れるわ。

 

「非常に興味深い。捕まえてない野生のポケモンが人を助けるなんて」

 

 そう呟きながら、俺をじーっと観察するラベン博士。

 

「博士、すみませんが、この子を手当したいんです」

「おお! すみません。つい夢中になってしまいました」

 

 そう会話した二人は同じ方向に歩き出した。俺を抱えたままどこに行くのかと心配になる。

 

「ごめんね。私、きずくすりを持ってないから手当て出来ないの」

「心配ご無用。私達の拠点“コトブキムラ”で手当て出来ます」

 

 おおッ!! 人助けするもんだ!! 野宿回避確定キターーーーっ!!

 

「ギンガ団本部で待つシマボシ隊長にも今回のことを報告せねば」

 

 ん?“ギンガ団”?

ギンガ団ってあのギンガ団?ダイパで登場したロケット団的なあの組織?

 

 と、一抹な不安を感じつつ、俺は二人に連れていかれた。

 

 やべぇ。悪の組織に犯罪の片棒を担がされちまう可能性(大)

 

「ピカピ…」

「急いで帰って手当てしますからね」

 

 でも、悪い人達にはとても見えねぇんだよな。

 

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