誤字報告していただいた方々もありがとうございます。
しばらく誤字修正が出来る時間がなく、大分先に修正出来るかと思います。
「ちゃあ〜」
まだ正直眠いが、俺は寝ているショウを起こさないように窓の戸を静かに開ける。空はまだ薄暗いが、太陽が昇るのはもうすぐだろう。朝の冷たい空気が心地いい。このまま朝の散歩をして、自由気ままに宿舎の近くの建物を観て周るのも悪くないだろう。
「ピカ?」
ふと空を見上げた瞬間、俺の眼に妙な光景が映った。富士山と良い勝負しそうな大きな山の山頂に“雷雲?”が発生している。ソレは山全体には拡がってはおらず、山頂付近にだけ存在していた。いやそもそもアレは雷雲なのか?空間が裂けているようにも見える。見るからに不穏なアレはこの地特有の異常気象なんだろうか。
「んにゅ…へへ、へへへへへ♪」
はぁ。悩み無さそうな可愛い寝顔しやがって。なんで急にカビゴンのイビキなんて迷惑極まりない技を発動したの。あれから二度寝しようと色々と努力したけど、結局寝れなかったんだよ。今一体どんな夢を見てるんですか、もしもーし?
「やっと、私にもポケモンがぁ……」
しばらくショウの寝顔を観察していたら、こんなことを寝言で言った。それを聞いた瞬間、なんかこそばゆい気持ちになってしまう。でもよくよく考えてみたら、俺ってショウのポケモンじゃない。成り行きでショウのことを助けはしたものの、これからも一緒に行動していいものか。今後の身の振り方は真剣に考えたいしな。
「ピカピー」
ふと俺はある物が気になった。それは畳の部屋の片隅に置いてある木で出来ているトランクケース。好奇心に負けてしまった俺は、まだ寝ているショウを横目にトランクケースを静かに開ける。中に入っていたのは、職人御用達の品々だった。トンカチ、木工か鉄工用のヤスリ、彫刻刀が数本…他にも用途が分からない道具が入っている。年若い女の子が持つ物じゃないだろうと思ったけど、どの道具もよく使い込まれてる。例えば、この折り畳まれている木板だ。おそらく簡易的な作業台なんだろうな。折り畳まれている木板を開けば、無数の細かな傷がショウの努力を教えてくれた。
「ピカ?」
木板の下に何かあるかと思い、木板を軽く持ち上げてみると、そこには木製モンスターボールが入っていた。他にも作りかけの木製のモンスターボールがある。ここで俺は寝ているショウの顔を見る。え?この娘がイチから作ってるってこと?ジョウトのモンスターボール職人『ガンテツ』さんも驚愕して失神するわ。
「ピッカ……」
待てよ。昨日、この木製モンスターボールを散々尻尾で打ち返しまくったよな。打ち返した木製モンスターボールの数は100個を余裕で超えている。その全てがショウが丹精込めて作った品々だったという可能性が急浮上……
誰? この娘にイビキがカビゴンとか言ってたアホ。ホンマにごめんなさい。
「ピカー」
しかし、この木製モンスターボールは見れば見る程よく出来てる。是非ともイチから作る様子を見学させてほしいと思う。だから自然と木製モンスターボールを手に取っていた。これってどうやって開けるんだ。金具のU字型の部分を外せばいいのか?新しい玩具を手にした子供の感覚で木製モンスターボールを開けるのに躍起になる。
「……あれ?………何してるの?」
「ピッカァ!!?」
え、えっと、決して悪戯してたワケじゃ……突然ショウに話しかけられたことで、己の心臓が跳ね上がる。そのせいか俺は手に持っていた木製モンスターボールを宙に放してしまう。マ、マズい。丹精籠めて作られた物を床に落とすワケにはいかない。さながらキャッチャーフライを捕りに行くキャッチャーの如く、俺は木製モンスターボールの着地予定地点にスライディングして滑り込んだ。
この時、ショウの顔が俺の目に飛び込んでくる。
「すぅ…すぅ…」
「ピカピッ!!?」
ね、寝てるじゃねぇかぁあああああ!!紛らわしい寝言を言うんじゃねぇえええ!!
「ピッ!?」
ショウが寝ていたという真実に集中力を切らした俺は、宙から降ってきた木製モンスターボールを両手じゃなく頭で受け止めてしまう。次の瞬間、身体が無重力に襲われた。そして、凄い勢いで木製モンスターボールに自分が吸い込まれていくのが分かる。悲鳴を上げる暇は無く、真っ暗な世界が俺を出迎えた。数秒後、何故か花火の音がパァンと聞こえてきた。
……………………え? 俺、閉所恐怖症なんですけど。
「おはよう。ラベン博士」
「シマボシ隊長。おはようございます」
ここはギンガ団本部 執務室。私の仕事場だ。次の会議で使用される資料に目を通していたとき、出勤してきたラベン博士が入室してきた。昨日の野生のピカチュウがショウを助けたと報告したときから、この男はいつもより上機嫌だ。
『シマボシ隊長! 今回の件はポケモン図鑑の完成に大きな一歩をもたらしたのです!!』
昨日、報告に訪れたラベン博士は、鼻息を荒くして私に詰め寄ろうとした。ラベン博士の熱意には私も心を動かされるものはある。しかし、咄嗟にケーシィにねんりきでラベン博士を遠ざけてもらった私は悪くない。その証拠にねんりきで浮かされるラベン博士は童心に帰っていた。
『おお!ケーシィのねんりきを見れるとは!! また一つポケモン図鑑のタスクが埋まりましたよー!!』
と、空中で喜ぶラベン博士を見て、ケーシィが若干引いていた。
「シマボシ隊長、ショウくんはまだ来ていないのです?」
「来ていない。だがもうすぐ出勤するだろう」
昨日の珍事を思い出していると、ラベン博士がそわそわした様子でショウのことを聞いてくる。はやく話題のピカチュウに会いたいのだと分かったが、ショウがいつもより来るのが遅いということに私は気付いた。あの娘もラベン博士に負けず劣らず、はやく出勤してくる。そんなショウがまだ来ていないことに違和感を感じた。
「はやく来ないですかね!」
「まだ来ていないものは仕方ないだろう。それよりもあの3匹に朝ごはんを」
「おお!私としたことが!ポケモンのお世話を疎かにするところでしたよ!!」
この執務室の左は、ラベン博士の研究室となっている。研究室にはジョウト地方から連れてきた『ヒノアラシ』イッシュ地方から連れてきた『ミジュマル』アローラ地方から連れてきた『モクロー』がいる。
その3匹が……
(((ねぇ。ボクたちの朝ごはんはまだですか?)))
と、期待と悲しさが交じった視線をラベン博士に向けていた。ラベン博士が研究室に入ってから少しするとようやく朝ごはんを食べられた3匹の喜びの鳴き声が聞こえてきた。その鳴き声を聞くと少しだけ気分が良くなった気がして悪くない。
そんなとき、息を切らしたショウが執務室に入ってきた。
「す、すみません。ち、遅刻しました…」
「おはよう。別に遅刻はしてないぞ」
一体何をしてきたのか。あの真面目なショウが息を切らして出勤してくるとは。しかも、右手にモンスターボールを握り締めている。
「ショウくん! 待っていましたよ!」
「ラベン博士。おはようございます」
3匹に朝ごはんを与えたラベン博士が執務室に戻ってくる。ラベン博士の顔を見るなり、ショウは少し安堵の顔を見せた。
「ラベン博士。少し相談したいことが」
「ん? ショウくん、そのモンスターボール揺れてますよ」
「あ! ダ、ダメです」
ラベン博士にモンスターボールのことを指摘された途端、ショウは両手でモンスターボールが開かないように押さえる。しかし、それは無駄な努力だった。勢いよく開いたモンスターボールから『ピカチュウ』が出てくる。ピカチュウは見知らぬ場所にいきなり出てしまったせいか、執務室のあちこちを興味深そうに見ている。
「おお! ちゃんとモンスターボールに入ってくれていたのですね!!」
「そ、それが……」
ラベン博士の喜びようとは裏腹に、ショウが言いにくそうに頬を掻いた。
「なにか不都合なことがあったのか?」
と、私が聞くとショウは一瞬悩んだ後、モンスターボールをピカチュウに向ける。
「戻ってください。ピカチュウ」
「ピカ! ピカピ! ピッカーー!!」
物凄く不満そうなピカチュウの鳴き声が気になったが、ピカチュウはモンスターボールに戻される。しかし、モンスターボールに戻った直後、ピカチュウは勝手にモンスターボールから出てきた。
「ピカピー! ピッピカチュウ!!」
「俺は自由だ。だからモンスターボールに入れるな」と言っているんだろうか。ショウに詰め寄って意義を申し出てているように見えてしまう。当のショウはそんなピカチュウに困り果てていた。
「ラベン博士。これはどうしたらいいですか?」
「うーん。これはまた……」
ラベン博士もピカチュウの行動に困惑しているようだった。モンスターボールから勝手に出てくるポケモンを私は初めて見る。確かにモンスターボールから勝手に出てこられたら、色々と不都合が生じてしまうだろう。
「ショウくん、無理にモンスターボールに入れない方がいいでしょう」
「え? い、いいんですか?」
「答えはその子が行動で教えてくれています。モンスターボールの中が嫌いなのでしょうね」
ラベン博士の言う事に「うんうん。そうだそうだ」と、ピカチュウは腕組みしながら首を縦に振る。その様子に私は不覚にも面食らってしまったが、顔に出さないように努力した。
「ピカ?」
「むっ…」
ここで私とピカチュウの視線が合う。私の顔になにか付いているのか。ピカチュウはジーっと私の顔を見てくる。ここで私は自分の頬に米粒でも付いているのでは?と、疑心暗鬼になってしまった。ケーシィ、私の顔に米粒なんて付いていないよな。付いていたら、出勤する前にお前が教えないはずないもんな。
「ピカピ…ピカピカ?」
何度も何度も首を傾げながら私の顔をジーっと見てくるピカチュウ。流石の私も対応に困っていたら、ショウがピカチュウを抱き上げた。
「ピカチュウ。シマボシ隊長のことを知ってるの?」
「ピ、ピーピカチュ」
何を伝えたいのかショウにも分かりかねるようだ。このままではいつまでも私の顔を見られるだけで時間がただ過ぎてしまう。ここで一つ咳払いをし、話題を逸らすことにする。
「ショウ。いきなりで悪いが、訓練場に行ってもらおう」
「訓練場ですか?」
「そうだ。行けばペリーラ警備隊長が待っている」
昨夜、ペリーラにショウの訓練を頼んだ。調査で野生のポケモン達と戦っていくのは必然。ショウは圧倒的に戦闘の経験がない。それを少しでも補うべく、ペリーラには話を通しておいた。
「おお! ボクも見学に!!」
「ラベン博士は溜まっている仕事を片付けてもらうから行けないぞ」
陽気なラベン博士が一気に沈んだ顔になったが、それくらいで私から逃げられるとは思わないでもらおうか。
「ペリーラが待ちくたびれてる頃だ。はやく行ってあげてくれ」
「はい。行こうか、ピカチュウ」
「ピッピカチュウ」
ピカチュウを右肩に乗せ、ショウが執務室から出ていく。出ていく間際までピカチュウが私の顔をジーっと見てきたが、動揺を顔に出さないように徹底した。ケーシィ。正直に伝えてくれていいぞ。本当に私の顔に米粒は付いてないんだな。
「ケシィ……」
※貴方の綺麗な顔には何も付いておりませぬので、ご安心ください。シマボシさま。
「うーん!待ちくたびれたぞ」
「おはようございます。ペリーラさん」
「ピカ!ピカチュウ!」
訓練場とやらに移動した俺とショウは、訓練場の真ん中でストレッチしていたペリーラさんに挨拶をする。訓練場にはポケモンバトルのバトルコートが石灰で描かれている。それにしてもさっきは驚いた。ギンガ団のボス【アカギ】の女verがいたんだから。俺がジロジロと凝視したせいで、自分の顔に何か付いてるんじゃないのかと疑心暗鬼にさせて申し訳ないことしちまったよ。
「ショウ。ポケモン勝負は初めてだったよな?」
「は、はい。もしかして戦闘訓練ですか?」
「そうだ。シマボシ隊長に頼まれたからな」
そう言うと、ペリーラさんはバトルコートのトレーナーが立つ位置に移動する。それを見たショウもペリーラさんの反対側の位置に移動した。え?これ俺がポケモンバトルする感じ?レンタルポケモン制度とかない感じなの?
「お願いします。ピカチュウ」
「ピカピーカ」
レンタルポケモン制度は無いんですね。はいはい、観念してポケモンバトルしますよーっと。これ初心者相手の講習みたいなもんらしいから、とんでもなく強いポケモンが出てくることなんてないでしょ。どうせ出てくるのはムックル、コリンク、ビッパとか初心者向けの奴等だろうし。
「ピッピカチュウ!!」
バトルコートの定位置に移動した俺は、かかってこいと挑発する。
「威勢が良いな。お前の相手はコイツだ!」
ペリーラさんはモンスターボールを投げる。投げられたモンスターボールから出てきたのは……
「…………………………………」
「ピカ!?」
「え!? 相手もピカチュウ!?」
俺とショウが戸惑う。ペリーラさんはピカチュウを繰り出してきた。相手のピカチュウが一切鳴かないのが気になるが、同じピカチュウ同士負けられん。そしてなにより、相手がピカチュウなら参考に出来る技や動きを勉強出来るはずだ。粋なことを考えてくれるじゃないか、ペリーラさん!!
「えっと……」
ショウのヤツ、初めてのバトルでどう指示したらいいのか悩んでるな。
「ピカ! ピーピカ! ピッピカチュウ!!」
俺がショウに向けて大声を出す。最初の指示なんてなんでもいい。そうやって緊張していると勝てるものも勝てない。初めは戸惑っていたショウだったが、俺を見据えて顔つきが変わる。
「ピカチュウ! 10まんボルト!!」
「ピッカ!!」
いきなり10まんボルトを指示されて内心困ったが、今度はちゃんと相手に向かって10まんボルトを撃つことが出来た。良い調子だ。そのまま当たってくれ!!
「………………………………」
くそっ! 相手は半身身体を逸らして10まんボルトを最低限の動きだけで避けてみせる。
「中々の10まんボルトだな。野生で相当鍛えていたクチかな」
生憎と野生の頃の記憶なんて皆無だよ。初めて10まんボルトをまともに撃てたんだぞ。サービスで当たってくれてもいいだろうが。
「諦めないで! 続けて10まんボルト!」
「ピカピーカ!!」
今度も上手く10まんボルトを撃つことに成功するが、今度も同じように最低限の動きだけで避けられる。遠距離で攻めあぐねるなら、近接に持ち込むしかないのか……
「………………………………フッ」
え? 君、今バカにした? バカにしたよね? バカにしたよな!!
「ピカ!! ピカピーピカッ!!」
「………………………くくくっ♪」
「ピカピー!!?」
こ、これが“ちょうはつ“という技ってこと!?
「ショウ。そのピカチュウは大分短気らしいな」
「ピカチュウ! 相手の挑発に乗らないでください!」
挑発に乗るなって言うけど、相手がすごくバカにしてくるんですけどぉ!?
「ピカチュウ! まずは相手の視界を奪いましょう! 相手の地面に向かって10まんボルト!」
「ピカ? ピーピカチュウ!!」
初め戸惑ったけど、ショウの狙いに賛成した俺は10まんボルトを相手の地面に向けて撃つ。多少ブレてしまったが、相手の周辺に土煙を舞い上がらせることに成功した。
「…………………………ッ!」
相手の嫌そうな声が聞こえた。ショウの機転が作った相手の隙。これを決めなきゃ男じゃない。
「今です! 10まんボルト!!」
「ピーカ……チュウ!!」
渾身の10まんボルトが土煙の中にいる相手に向かって飛んでいく。これには反応が遅れるはずだから、当たる可能性がぐーんと上がってるはずだ。そして相手に当たる寸前まできた瞬間、ペリーラさんが叫んだ。
「面白くなってきた! “かえんほうしゃ”で相殺してやりな!!」
………………………………え? 今なんと?
「ウォオオオオオオオンッ!!」
狼の咆哮を思わせる鳴き声がした瞬間、土煙の中から本当にかえんほうしゃが出てくる。そのかえんほうしゃは俺の撃った10まんボルトと当たり、ほんの一瞬だけ拮抗した後、激しい爆発を起こした。
「ピカァ!?」
バトルコートに爆発の煙が立ち込める。爆発の衝撃で俺は後方に吹っ飛ばされてしまった。受け身なんてまともに取ることも出来ず、地面にたたきつけられてしまう。ピカチュウがかえんほうしゃを覚えているだと? そんなのチートだろうが。
「ピカチュウ!? ピカチュウ!!」
「ピィカ……」
まだ動ける自分を軽く恨みながら、俺はショウを安心させるために立ち上がる。
「ぐるるるるるるるる……」
低い唸り声が爆発の煙の奥から聞こえてくる。俺は身構えながら爆発の煙が晴れるのを待つ。
「もう少し遊びたかったんだけどね」
ペリーラさんが少し残念そうに言う頃には、爆発の煙が完全に晴れる。そこには相手のピカチュウはおらず、代わりに見たことないポケモンがその姿を現した。
「コイツはゾロアーク。驚いただろ」
ペリーラさんが悪戯が成功した子供のように無邪気な笑顔を見せる。なるほどゾロアークか。ふーん……
「ピカピーカチュウッ!!?」
いや! 誰だぁああああああ!!? 俺の知ってるゾロアークって黒いんだけど!!いつ白色ヤンキーにイメチェンしたんだよ!!これ初心者の講習じゃないよ! ただのイジメじゃねぇかぁああああ!!
勝ち目が一切ないと判断した俺は、完全に戦意喪失してしまった。
ケーシィ cv 朽木ルキア