「貴殿が話をした竜人族の男と言うのは間違いなく、バハリだな。バハリは変わり者だが、メル・ゼナの研究に欠かせない研究員だ。しかし、初対面であのバハリの性格に馴染むとは・・・貴殿とバハリの相性が良かったのか?」
「まあ、専門分野は違えどエキスパートと言う点ではお互いに似たところがあるのだろう」
「成る程な。ならば、今後は貴殿にバハリが何かした時は頼むようにするか・・・」
そんな事を話ながら俺は船に搭乗するフィオレーネを見送る。因みにいま立てられている作戦はルナガロンがカムラの里を襲撃する前に撃退すると言うものである。最もカムラの里は遠方なのもあり、陸路からやって来るルナガロンとの接触はそれこそ、神に祈るようなものだろう。
俺もついて行ってやりたいところだが、ルナガロンはかなり手強いモンスターだと聞いている。まだ此方の狩りに慣れていない俺が行っても足手まといになるだけだろう。
あとはフィオレーネの不在の間を埋める意味でも仮登録とは言えど臨時でハンターを補充する必要があるからな。その候補の中にたまたま、俺がいただけだ。
他にも他国からハンターを寄越しているらしいが、技術面の違いからするに使い物になるかどうか・・・。
「それでは行って来る。留守の間を頼む」
「了解した。お前も気を付ける事だ」
言葉短く、俺はフィオレーネにそう告げると提督の元へと向かう。
「フィオレーネを乗せた船が出航したぞ」
「うむ」
「本当にあんたが見送りをせずに良かったのか?」
「責任ある立場だからこそ、此処を離れる訳にはいかぬのだ」
「そう言うものか・・・あんたも大変なんだな?」
俺がそんな風に軽口を叩きながら提督から次の必要物資の一覧表を渡される。随分と量が多いが恐らく、カムラの里のハンターが参加してから本格的に動くつもりなのだろう。
「今回の必要物資の調達だが、王国騎士団の武具の強化に必要な素材も入っている。ルナガロンが動いたとあれば、やはりと言うべきか、なんらかの災厄の前触れと見るべきであろうからな」
「了解した。時間は掛かるだろうが任せられたからにはなんとかしてみせよう」
「それともう一つ、貴殿に頼みたい事がある。時たまにで構わないのでバハリの様子を見てやって欲しいのだ。バハリは興味のある事以外は目に入らぬ者だ。それ故に専門家としては腕は立つのだが、あのような性格しているのでな。必要ならば、貴殿にはバハリの護衛役も頼む事になるかも知れぬ」
「・・・期待に沿えるように努力はしよう」
俺はそれだけ告げると物資調達の為に観測拠点を後にする。
やれやれ。やる事が一気に増えてしまったな。まあ、カムラの里のハンター程ではないが、それだけ期待されているのだろうと思う事にするか。今回はバハリと呼ばれる竜人族の男のお目付け役としての役割もあるので狩り場がまた異なるが、仕方ない。探しながら他の狩り場に慣れて行くとしよう。
俺はそんな事を考えつつ、バハリの研究している資料を元に次の狩り場を予想し、その場所へと向かう。
今回の狩り場は沼地であった。沼地と言ってもココット村の狩り場にあった沼地とはかなり異なっていた。
濁った水面からは時折、魚が飛び跳ねる程、自然に特化している。毒沼独特の臭いもしない。俺は顔を上げ、湿地帯の独特な臭いに紛れて微かに感じるバハリの臭いをかぎ分ける。間違いないな。バハリはこの狩り場の何処かにいる。探しがてら必要物資調達の一覧にあった素材集めをするとしよう。
俺は沼地を歩きながら道を覚えつつ地図を確認し、素材があった場所に印をつけながら移動する。小型モンスターなどから剥ぎ取りやらをして進んでいるとバハリを見付けた。
「・・・おい」
「ん?ああ。確か、都市伝説の人だっけ?」
「あながち間違いではないな。改めて名乗るが、ネロと言う。あんたはバハリって名前で合っているか?」
「ああ。俺はバハリ。モンスターの研究とモノ作りのエキスパートだ」
「そんなあんたが次に調べているのが、ガランゴルムの生態変化の調査か・・・」
俺がそう口にするとバハリは「へえ」と感心したように此方をニヤニヤしながら見詰める。
「どうして、そう思うんだい?」
「提督に頼んであんたのまとめようとしている資料を見せて貰った。ルナガロンが異常な行動をしたのを踏まえるとエルガドに生息する他のモンスター達も異常な行動を起こさないかを調べていたようだな。ルナガロンが異常な行動をしたあとはエルガドの中でも最も大人しい大型モンスターのガランゴルムが異常な行動を示すのではないかと、あんたは踏んでいる。そして、実際にガランゴルムは突発的にこの場を訪れると言う異常な行動を起こしたから、あんたは調べに来た・・・違うか?」
「すごいな!正解だよ!やっぱり、キミは研究する方に向いているんじゃないか!?」
バハリは手を叩いて喜ぶと再び地面の様々な痕跡を確認する。
「ガランゴルムが此処にやって来たのは確かだと思うんだが、決定的となる証拠がまだない。単に此処を訪れただけなのか・・・それともルナガロンのように何らかの理由で異常な行動を示したのか」
バハリはしばらく考え込んでから俺に質問して来る。
「キミの意見も聞きたいな。ハンターの視点も含めて、これをどう見る?」
「そうだな。モンスターの生態系が変わるのは何らかの脅威となるモンスターの出現によって生態系が狂って狂暴化するのが、従来の生態変化による狂暴化だ」
「ふむ」
「だが、エルガドの狂暴化は何か違う理由があるかも知れん。ルナガロンとやらもガランゴルムも突発的過ぎる。何よりも生態系を脅かす存在がこの場にいた痕跡らしきモノがないーーで、あるならば、従来のように生態系を単に崩す存在が現れて脅威となって興奮して暴れているのとは、また違うのであろう」
「成る程。従来のように生態系を崩されて暴れているのとは違う、と・・・」
「メル・ゼナとやらが関係あるかも知れないが、あとはもっと調べてみなくてはなんとも言えんな。少なくともメル・ゼナとやらが、この狩り場を訪れて猛威を振るったのであれば、痕跡が残る筈だ。それが影も形もないとなると別の要因による脅威があると考えてみるのも良いだろうな」
俺の推測にバハリは拍手し、此方を改めて見る。
「本当にうちの研究員に欲しいくらいだよ。キミとなら、きっと楽しい毎日になりそうだ・・・って、ん?」
そこで何かに気付き、バハリは俺に近付いて腰に触れる。正確には俺の腰に装備したグラビモスの防具にだ。
「これは・・・バサルモスの素材に見えるが、もっと古くて堅い材質だな・・・まさか、伝承にあるバサルモスの成体のモノか!?」
「伝承って事はバサルモスはいるが、グラビモスはいないのか?」
「ああ。グラビモスなんてエルガドじゃあ、伝説上のモンスターだ。そうか・・・これがグラビモスの・・・」
「珍しいのはわかったが、いまはガランゴルムの生態変化を追っている最中なんだろ?」
「ーーああ!そうだった!」
俺のグラビモスの防具に興味を示していたバハリは思い出したように再び地面の痕跡を探る。
「提督から時たまにで良いからあんたの様子見も気に掛けるように請け負っている。俺はそこら辺で物資調達で採取とかしているから何かあれば、呼んでくれ」
「ああ。わかった」
俺はバハリから一旦離れ、必要な素材集めなどを再開する。
バハリとはなんだかんだ、上手くやっていけそうな気がするのはお互いにスペシャリストだからか、それとも変わり者同士だからか・・・。