卒業する沙知先輩への曲を作ることになったスクールアイドルクラブの2年生4人。
梢と花帆が一緒に曲作りするために、集中できる梢の実家へと向かった。
その日の昼前頃、俺と沙知先輩は、沙知先輩の荷物の整理が終了したので2人で校内を見回っており……今は校門から校舎までの桜並木を見ていた。
沙知「ふっ……四度目の桜だねえ」
淳平「……………」
沙知「一度目、二度目、三度目……………会う度にキミはあまり変わっていないのに、どうしてだろうね。あたしはキミに抱く気持ちが変わる」
沙知先輩は寂しそうな表情を浮かべて、桜の木に語りかける。
沙知「今年のあたしは、キミに聞きたいことがあるんだ。毎年みんなを見ているキミにさ。……あたしは、今までの先輩方から受け継いできたものを……台無しにしなかっただろうか」
淳平(沙知先輩……)
俺がここで大丈夫だと言っても、恐らく沙知先輩の不安は消えないだろうな。
だから、皆で作った曲を聞かせて俺達の気持ちをぶつける。
だから……ここは我慢だ
沙知「……あたしちょっと、自信がないんだよね」
淳平「……………」スッ
おれは、そっと沙知先輩の側に近寄り、沙知先輩の頭をワシャワシャと撫でる。
沙知「わっ?! ジュンペイ……?」
俺は黙って、沙知先輩を撫で続けると…沙知先輩は次第に目に涙を浮かべて、俺に身体を寄せてきた。
淳平(本当に……この小さい身体で、俺達のために…頑張ってくれたんだよな………)
沙知(…………///)
その頃、ちょうど梢と花帆は梢の実家に到着していた。
梢「ふう、ようやくついたわね」
花帆「け、け…………」
梢の実家を見た花帆はブルブルと震える。
梢「け?」
花帆「兼六園級じゃないですか!?」
あまりの広さにそう叫ぶ花帆。しかし梢は大した事ないとすまし顔で…
梢「なにを言っているの花帆、兼六園は11ヘクタール。約3万坪もあるのよ? さすがにそこまでじゃないわ」
花帆「え、ええぇ…………?」
梢の感覚に、花帆は頭がこんがらがる。
梢「それに、広さという意味では、花帆のご実家は我が家以上ではないのかしら」
花帆「うちはほとんど山ですもん〜!」
花帆が叫ぶと、梢はフフッと笑い、
梢「時間があれば、花帆のために歓迎の演奏会を開いてあげたいのだけれど。今回は作業に集中をしたいから、またの機会にしましょうね」
花帆「演奏会…………!?」
次々と飛び出す金持ちワードに、花帆は急に「あたしここにいて大丈夫かな?」という気分になってくる。
花帆「あ、あの、あたし、次来るときはドレスとか着てきたほうがいいですか……!?」
梢「あら、それもかわいいわね。でも、大丈夫よ。私が中学の時に着ていたものが、いくらでもあるから」
花帆「い、いくらでも……! やっぱりすごい、梢センパイ……!」
そして、梢に連れられて家の中に入る花帆。梢の家族にも挨拶し、客間に自身の荷物を置かせてもらうと梢と一緒にとある一室に向かう。
梢「というわけで、ここが音楽室よ。……………あら、どうしたの? 花帆」
花帆は家の中を歩いただけで息が上がっていた。
花帆「い、いえ、客間に荷物を置かせてもらってからも、かなり歩いたので……………。センパイ、自宅でもトレーニングしてたんですね……!」
花帆の発言に梢は苦笑し、
梢「そういうわけではないけれど……ええと、少し休んでからにしましょうか?」
梢は花帆に提案する。が、
花帆「いえ! 今回は作曲のために来たので、早く進めましょう! 一泊二日しかありませんし!」
梢「!! そう、わかったわ。実はね、曲のイメージはもうできているの」
花帆「おお、さすがセンパイ!」
梢「ただ、できているのはあくまでも大枠だけ。ここから細部を詰めていかなきゃいけなくて。その作業がいちばん大変だって、もう花帆もわかってるわよね?」
梢が花帆に聞くと、
花帆「はい、分かってます。それにあたしだって、スクールアイドルクラブに入部して、もうすぐ1年経つんですよ。こないだは、慈センパイのお手伝いだってしたんですから!」
花帆が自信満々に胸を張る。
梢「そうだったわね。あれも素敵な曲だったわ。じゃあ、早速始めましょう。まずはメロディラインを確定させるところから」
花帆「はい! よろしくお願いしまーす!」
そして、作曲作業に取り掛かる2人。夢中になって作業を続け、時間を忘れてしまい気づいた頃には夜になっていた。
梢「あら……いけない、もうこんな時間だわ」
花帆「あ……ちょっと、熱中しすぎちゃいましたね。でも、かなり進みましたよね?」
梢「ええ、これなら、早ければ明日には形になりそう。助かったわ。……ふふふっ」
花帆「? 梢センパイ?」
梢「いえ。この前は作詞をしてもらって、今度は作曲のお手伝い。最近ますます頼りになるわね、花帆。それが嬉しくなっちゃって」
花帆「えええ〜! そんなこと言われたら、あたしこそ、もう嬉しさでバクハツしちゃいますよ〜〜!」
花帆は気恥ずかしさと嬉しさから身をよじり顔を赤くする。
梢「ふふっ。それじゃあ、食事にしましょう。私の大切な後輩が泊まりに来るからと言ったら、普段は料理人任せの母が、珍しく腕を振るってくれたのよ」
花帆「はい!……………………って、センパイのお母さん!?」
梢「ええ、そうだけれど……?」
花帆は自身の服装に目をやると、
花帆「あたし、こんな格好ですよお!?」
因みに花帆の服装は何もおかしくは無い。女の子っぽくて可愛らしいちゃんとした服装だ。だが、花帆はこの家の雰囲気で自身を「庶民臭い」と感じているようだ。
梢「か、かわいいんじゃないかしら?」
そしてリビングに向かう2人。花帆は梢のお母さんと緊張しながら、だが、団々と打ち解けてきて普通に会話しながら食事をいただいた。
梢母「それで花帆さんは好きな人とかいるのかしら?」
花帆「ブゥっ!」
驚いて花帆は食べ物を吹きかけてしまう。
梢「ちょっと、お母様失礼でしょう!?」
梢母「いやね、娘が友だちをお泊りに連れてきたらこういう会話してみたかったのよ!」
梢のお母さんは目をキラキラさせている。
花帆「い、います。それと梢センパイにもいますよ?」
梢母「えっ!?」
梢「花帆さん!?」
梢がギョッとして花帆を見る。
花帆「あれ?! 言ったら不味かったですか!?」
すると、梢のお母さんは梢に向き直り、
梢母「そんなこと一度も言わなかったじゃない。どういう人なの?」
梢「うぅ……クラスは違うけど、同じ学年の男の子よ……///」
梢母「もっと詳しく!」
花帆「あはは……あたしたちの部活のマネージャーやってる人であたしの従兄弟です」
梢母「花帆さんの従兄弟!?」
梢「そうよ!! お母様にも文句は言わせないわ!!」プルプル
梢は顔を真っ赤にして睨みつける。
すると、
梢母「ねえ、花帆さん。その人の写真とかある?」
花帆「ありますよ〜?」
花帆は淳平の写真を見せる。
梢母「この人が……あれ? この子……ねえ、ひょっとしてこの子の名前、日野下淳平くんじゃない?」
梢「えっ!?」
梢が驚いた顔をする。
梢「お母様、なんで知ってるの?」
梢母「いやね、梢が小4の時に能登の方でバレエの発表会あったでしょ?」
梢「ああ、あの会場が分かりにくい所の時?」
梢母「ええ。その時に困ってた私に声をかけて道案内してくれたのが淳平くんなのよ。いや~、今どきめずらしい親切な男の子だと思ったわねぇ……。名前を聞いてたんだけど、すっかり好青年になっちゃって……」
初めて聞く話に梢もびっくりする。
梢母「梢? この子だったらお母さんは応援するわよ? 頑張って射止めなさい!」
梢「!! ……反対されるのを覚悟してたのに。言われなくとも!!」
すると、
花帆「むぅ~! 淳兄ぃは渡しませんよ!」
梢母「あら? ひょっとして……」
梢「花帆さんどころか、部の6人全員淳平のこと好きよ……」
梢母「あらあら」
そして、食事が終わってお風呂に入ったあと、梢の部屋。
梢「これが、小学四年生の時。さっきお母様が言ってたバレエの発表会ね」
花帆「わあ〜〜!! 梢センパイかわいい〜〜! 写真に撮ってもいいですか!?」
梢「……他の人に見せそうだから、だめよ」
花帆「ええ〜〜! うう、わかりました。それじゃあ今ここで目に焼きつけて……」
梢「まったくもう。それにしても驚いたわね、まさか淳とお母様に接点があったなんて……」
花帆「それもですけど楽しかったですよ! センパイの昔話! 最初はとても緊張しましたけど……でも、すっごく優しくて。さすが梢センパイのお母さんですね!」
梢「どうかしらね。きっと、花帆に会えて、上機嫌になっていただけよ。あの人、花帆の配信だって追いかけているんだから」
花帆「そうなんですか!?」
すると、梢は写真に視線を戻し、
梢「でも、本当に…………。この頃は、笑っている写真が少ないわね」
花帆「確かに。なんだかキリッって感じですね!」
梢「蓮ノ空に入るまでの私はね、どこか、心に壁を作っていた気がするわ」
花帆「そう、なんですか?」
梢「ええ。生真面目で、頑固。あの頃は、一対一で向き合わなければ、本当の音楽にたどり着くことはできないと思っていた」
梢は去年を懐かしむ洋に目を細める。
梢「他人に興味がなかったというよりは、そうね。きっと、余裕がなかったの。自分が理想に手を伸ばすために精一杯で。周りがどんな気持ちでいるのかなんて、二の次だった。淳のスクールアイドルクラブへの入部も、当初は私も反対してたわね。結局、すぐに間違ってたと気づいたけれど……」
花帆「でも、今のセンパイはぜんぜん違いますよね!いっつもあたしたちの気持ちに寄り添ってくれて」
梢「そうね。それを教えてくれたのもやっぱり、 スクールアイドルクラブであり……沙知先輩だったわ。沙知先輩とユニットを組んで、お互いの意見を交換しながら、曲を作る。その過程で新しいものが生まれ、私の想像を超えた、素敵なステージが形作られてゆく」
梢の脳裏に、沙知先輩との日々が駆け巡る。
梢「その初めての体験はとても鮮烈で、刺激的だった。私ひとりの世界に、次々と色が生まれて……。楽しかったのよ。夢を追いかけることだって、ぜんぶ。これがスクールアイドルなんだって、ようやくわかったの」
梢「だからね。自分ひとりの限界を知っても、今はもう絶望しないわ。心と心を繋げていけば、世界はどこまでも広がってゆくんだって、知っているから」
花帆「はい!」
梢「花帆がついてきてくれて、よかったわ。沙知先輩には、返しても返し切れない、恩がある。だからせめて、素敵な曲を作りたかったの」
花帆「えへへ……。沙知センパイへのお礼の曲……ぜったい、いいものにしましょうね!」
梢「! ええ、もちろん。そうと決まったら、明日のために今日はもう寝ましょうか」
梢がそう言うと花帆は遠慮がちに、
花帆「あの、それなんですけど、梢センパイ〜……」
梢「なぁに?」
花帆「シンとした廊下を通って客間に戻るの、なんだかすごく寂しくて……。きょうはせっかくなので! 梢センパイと一緒に寝てもいいですか!?」
梢「ふふふふ。だめよ。ベッドが狭くなるもの」
花帆「がーん!!」
梢「……と、蓮ノ空に入る前の私なら、言っていたでしょうね。もちろんいいわよ。かわいい後輩の頼みだもの」
すると花帆は満面の笑みを浮かべて、
花帆「うわーん! 梢センパイを優しくしてくれて、ありがとうございます! 沙知センパイ〜〜〜!」
梢「ふふふ」
そうして、ふたりは一緒に眠りについた。
ー つづく ー