沙知先輩に贈る曲の振り付けを考えていた綴理とさやかちゃんは、金沢の街に出ていた。
二人が雨の降っている場所を探してやって来たのは、近江町市場だった。
綴理「ねえ、さや」
さやか「はい」
綴理「DOLLCHESTRAというユニットは、劇場の名にふさわしく、舞台の上で人々に想いを伝える"居場所"そのもの……さちは、そう言ってた」
さやか「………そうですね。DOLLCHESTRAは、わたしの居場所です。ちょうど、ここがそれを教えてくれたようにも、思います。スクールアイドルを応援してくれる人たちがいて、教えてくれた。ここが、わたしたちの舞台なんだって」
綴理「ボクは……居るだけで良いって、言われたんだ」
さやか「……それを言ったのは、沙知先輩だったんですね」
綴理「うん。何も返せないまま、いなくなって。全部さちが正しいから、言われた通りにしてて……ボクに後輩ができたときに、頑張ればいいって言われてて」
綴理はさやかと話しながら空を見上げる。
綴理「去年さちが教えてくれたこの場所で、今年のボクは、ボクで居て良いんだって思えたんだ。来年素敵な出会いがあればボクもスクールアイドルになれる……そう言われた場所で、ボクはスクールアイドルになれたから。だからここは、ボクにとっても、きらめきを教えてもらった場所。そのきらめきは、さちに何かを返せるって、そう言ってる」
さやか「はい」
綴理「でも、ボクはまだ、ちゃんと分かっていない気がするんだ。居るだけで良いって言われた理由、DOLLCHESTRAをやろうって言われた理由…………。そのどれも、ボクが勝手に分かった気になっているだけで。さちがくれたものを、ひなどりみたいに受け取っているだけで……」
さやか「わたしには、そうは見えませんけど……。それを分かるために、雨上がりを探していたんですか?」
綴理「雨が上がるときはいつも。ボクはボクで居て良いんだって思えた気がした。だから、今日それを感じて、意識して……………。今度こそ、言葉にしたいんだ」
二人がそんな事を話していると、市場の人達が二人に気づいて声をかけてきた。もう何度もお手伝いしているので、すっかり市場の人たちも二人のことは身内感覚だ。
さやか「あ、皆さんこんにちは。いえ、雨宿りというわけでもないんですが」
綴理「やほ。みんな。あ、ほんと? 雨が上がるまで居て良い? ………………ずっと居て良い? そっか。ありがと」
そうやって2人に声を掛けると、お店の人達は仕事に戻っていった。
綴理「みんな、怒らないね」
さやか「ずっと居て良いって、言ってくれましたからね」
綴理「ん、みんないつも、居て良いって言ってくれる……」
すると、雨の音が弱まり、そして音が止まった。
さやか「雨が…………」
綴理「ああ……そっか」
さやか「先輩?」
綴理「さや。ボク、ようやく分かった気がする」
綴理「……雨上がりの時に、ボクがボクで居て良いんだと思えたのは、その瞬間が大事なんじゃないんだね。それまでに積み重ねた、みんなとの関係……気持ち。ボクをボクで許してくれる、みんなの顔。この胸の内の温かさ」
綴理「この市場みたいに、みんなが居る場所が……ボクの居場所なんだって今は分かる。今のボクの周りには、みんなが居る。だってボクは、スクールアイドルだから」
さやか「………………沙知先輩への気持ちをまとめるためのリボン、見つかりましたか?」
綴理「うん。さちが、居るだけで良いって言った理由、DOLLCHESTRAを選んだ理由。それは、ボクに"スクールアイドル"を教えるためだったんだね。いつかボクがボク自身を、スクールアイドルだと思えるように。……リボンは、すごく簡単だった」
綴理「ボクにスクールアイドルを教えてくれて、ありがとう」
そして、曲の振り付けで伝えたい軸が決まった。
ー つづく ー
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