蓮ノ空スクールアイドル録   作:松兄

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第144話:大賀美沙知③

放課後、1年生が卒業式の準備に駆り出されている頃、スクールアイドルクラブの2年生は部室にいた。

 

梢「うーん……」

 

綴理「もう1曲作るなら、やろう」

 

淳平「そうだな……。それはもちろんなんだけど………」

 

梢と綴理と淳平が話していると、部室の扉が開いた。

 

慈「やっほー。あれ、……………一年ズは?」

 

淳平「この時期の一年生は卒業式の予行で、会場設営の仕事があるんだよ。 去年俺たちもやっただろ?」

 

綴理「この前4人だったときも、それだった」

 

慈「あー、そんなこともあったっけ。二年で良かった一」

 

梢・綴理・慈・淳平「「「「……………」」」」

 

めぐはそう言うが、から元気なのか、それが分かっているからなのか、全員が黙る。

 

慈「…………………昼間、沙知先輩来たじゃん?」

 

梢「そうね。この部室を見納め……だったわね」

 

慈「やっぱり、いつも明るい沙知先輩でも卒業前はしんみりするのかな」

 

梢「それは、そうでしょう。3年間を過ごした学び舎を離れることになるのだもの。 私だって、その時になったらどう思うか分からないわ。……ただ」

 

綴理「…………それだけじゃない気が、した?」

 

慈・梢・淳平「「「!!」」」

 

淳平「……………綴理もそう思ったのか?」

 

綴理「分かんない。こずの言う通りかもしれないし。ただ………留年したくは、なさそうだった」

 

梢「ふふっ。留年したくはないでしょう。でも、そうね。この学校に対する未練というより、私は沙知先輩のあの目に……なんというか、後悔のようなものを感じた気がするの」

 

綴理「後悔……さちが………」

 

慈「ま、さんにんもそんな風に思ったんだったら、話が早いや」

 

淳平「めぐ?」

 

慈「理由はわかんないけど、シンプルにさ。残り短い学校生活、沙知先輩にあんな顔で過ごさせるの、なんか腹立つなーと思ったの。私はね。せっかく沙知先輩のためにーってこっちがやってる時だからかな、余計に」

 

綴理「そうだね。ボクもそう思う。じゃあ、行く?」

 

淳平「だな。行こうか」

 

俺と綴理は席から立ち上がる。

 

慈「話が早いじゃん!ふたりとも」

 

めぐも席から立つ。

 

梢「そうね。行きましょうか。最後くらい、良い後輩でいたいものね」

 

そして、沙知先輩を生徒会室に呼び出して、4人で生徒会室に向かった。

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

〜 生徒会室 〜

 

沙知「突然こんなとこ呼び出すからびっくりしたよ。もうあたしは生徒会長じゃあないんだからね? 鍵は借りられたけども」

 

淳平「すみません。ここが1番、落ち着いて話せるかと思ったので……」

 

沙知「ふむ?……なんというか、この5人というのも、久しぶりな感じがするねい」

 

沙知「綴理の好きなお菓子も……まだあったかなぁ」

 

沙知先輩はそう言うと戸棚の前に歩いていく。

 

綴理「ありがと」

 

梢「少しは遠慮というものをね………」

 

沙知「まあまあ、良いじゃないか。えっと、この戸棚の奥にしまってあったから………」

 

沙知先輩は背伸びして手を伸ばすが、まったく届いていない。

 

慈「あー私が取る私が取る、無理しないでください。ちっちゃいんだから」

 

沙知「ちっちゃいゆーな!」

 

すると、その様子を見ていた綴理が、

 

綴理「昔、こずがさ」

 

梢「?」

 

綴理「ああやって高いところに手を伸ばしてたさちの両脇をさ。後ろからがばっと持ち上げてさ」

 

淳平「あー………」

 

綴理「さち、あの日は何も言わずに、日が沈むまで窓の外を眺めていたね」

 

梢「良かれと思ってやったのよ、私は…………!」

 

戸棚の上に手を伸ばす沙知先輩に、めぐが話しかける。

 

慈「……………あのさ、沙知先輩」

 

沙知「ん、しょ、くんのっ……………。ん?」

 

慈「なんか、卒業以外でセンチになってることないですか? わりとそんな感じがして、私たちみんなで来たんですよ。けっこう、頼りになる後輩でしょ、私たち」

 

すると、沙知先輩は「ハァ……」とため息を吐き、

 

沙知「そうだね。ふー……いやぁ、自分が情けないね、あたしは相変わらず。そんなに分かりやすかったか」

 

綴理「こずもさちも、分かりにくいけど、付き合いも長いので」

 

綴理がエヘンと胸を張る。

 

梢「私のことは今はいいのよ……沙知先輩、何かあるなら話してもらえませんか。私たちはただ、卒業までの時間を、沙知先輩にそんな顔で過ごしてほしくないだけなんです」

 

すると、沙知先輩は観念したのか話し始める。

 

沙知「…………そう、だねい。キミたちにとって、後輩はどんな子たちだい?」

 

梢「…………どんな、ですか。一言で言い表すのは、とても難しいのですが……」

 

綴理「スクールアイドル、とか……?」

 

慈「なんか……全部。みたいな」

 

沙知「今はそれで十分さ。改めて、大切な出会いだったみたいだね。あたしも、自分のことのように誇らしい」

 

沙知「キミたちが、一年生との出会いを嬉しく思っているように……あたしにとっても、キミたち新入生は……救い、だったんだ」

 

慈「あの問題児どもが?」

 

淳平「自分で言うのか……」

 

綴理「ね」

 

すると、沙知先輩はクスッと笑い、

 

沙知「あはは、そうとも。三年生の先輩たちが卒業して……あたしはひとり、この部活に残された。新入生が誰も入って来なければ、ここの部員はあたしだけ。………つまり、廃部が間近に迫っていたんだ」

 

梢「っ…………」

 

沙知「三年生の先輩たちは、あたしにとっては恩人でね。理事長の孫娘として、言われた通りのことしかしてこなかったあたしを……このスクールアイドルの道に引き込んでくれた大切な人たちだ」

 

沙知「だから、本当に怖かったんだ。もしも誰も入って来なかったら、誰もスクールアイドルクラブに興味を持ってくれなかったら――。これまで先輩たちが積み上げてきた、重ねてきた歴史を。あたしが潰すことになるって」

 

綴理「そうならなくて良かった」

 

沙知「そうだね。最高の後輩に恵まれたおかげだ」

 

沙知先輩は言葉を続ける。

 

沙知「あたしは、先輩に恵まれた。後輩にも、本当に恵まれた。でも、だからかな。その間を繋いでいたあたしは、先輩に恵まれた分を、後輩に返せた自信がない。こうして、キミたちにこんなことを言ってしまってるんだから、なおさらね」

 

慈「…………………」

 

沙知「思えば、多くつまずいてしまった。キミたちを傷つけてばかりだったし……助けてもらってばかりだった。だから、だからあたしはせめて――」

 

すると、綴理が沙知先輩の言葉を切って俺達に、

 

綴理「こず。めぐ。ジュン」

 

沙知「っ?」

 

綴理「わがまま言ってもいいかな」

 

慈「いいよ」

 

淳平「オッケーだ」

 

梢「ものによる。と言いたいところだけれど。きっと、考えていることは同じだから、構わないわ」

 

沙知「キミたち、何を」

 

綴理「聞いて、さち。さちにしか届かない、150点」

 

俺達は、ここで沙知先輩に秘密で作った沙知先輩に贈る歌を歌うことにした。

 

綴理・淳平「「〜♪」」

 

歌っている方も…聞いている方も、お互いとの思い出が脳裏に蘇ってくる。

 

慈・淳平「「〜♪」」

 

沙知先輩から受けた恩、言葉を、支えられて来たこと、全ての感謝を歌に込めて歌う。

 

梢・淳平「「〜♪」」

 

自分たちは、沙知先輩が大好きだと、誰がなんと言おうと、最高の先輩だったんだと……そう、伝えた。

 

沙知「っ………」

 

綴理「ごめんね。さちに貰ったものは、後輩に返せばいいって言われてたけど……………どうしても、さちにも返したかった」

 

梢「これが、私たちの気持ちです」

 

慈「――ねえ、沙知先輩。私たちがここに居るのは、あなたが居たからだよ」

 

淳平「俺達が、どれだけ沙知先輩に救われてきたか……スクールアイドルクラブを辞めてからも、俺達のために必死になってくれた沙知先輩がそんな情けないわけ無いんですよ。だから!……自分のことをそんなふうに、言わないで下さい……」

 

沙知「うっ…………くっ、あ…」

 

沙知先輩の両の目から、涙がボロボロとこぼれる。こぼれ落ちる大きな水滴が、沙知先輩の手に落ちる。

 

梢・綴理・慈・淳平「「「「以上、第102期蓮ノ空学院スクールアイドルクラブでした!」」」」

 

 

ー つづく ー




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