敦賀ライブフェスタの話がされた日の夜、女子寮のロビーでは2年生3人が話していた。
現在、花帆は不安で頭を抱えていた………。
花帆「うー、激しく不安だー! 梢センパイや淳兄ぃたちがいないなんてー!」
瑠璃乃「いや、まあ、しょーじき気持ちは分からんでもないケド……」
さやか「花帆さん。そんな風に言っては、一年生の皆さんがもっと不安がりますよ?」
さやかちゃんが優しく花帆を嗜める。本当にしっかり者だ。
するとそこへ、吟子ちゃんと姫芽ちゃんがやって来た。
花帆「あっ。や 、やっほーふたりとも! だいじょーぶ! あたしたち二年生が居ればめちゃくちゃ安心のイベントになるからね!」
瑠璃乃「すげー。こっから持ち直そうとしてる……………。えーと、姫芽ちゃん、吟子ちゃん。どしたの? 遊びにきたの? カードゲームでもやる?」
ルリちゃんは空気を和らげようと提案する。
姫芽「あ、いえ、実は…」
吟子「敦賀ライブフェスタには、北陸代表として呼ばれてるんですよね? なのに三年生がいなくて、まだスクールアイドルを始めたばかりの私たちを連れて……で、本当に大丈夫なんでしょうか」
さやか「なるほど……心配させてしまっていたんですね」
姫芽「心配というか、えっと。まあ心配、ですね〜、あはは。主にアタシたちが………」
少し暗くなる吟子ちゃんと姫芽ちゃん。自分たちが足を引っ張るんじゃないかと思ってしまっているらしい。
瑠璃乃「大丈夫だよ! もう姫芽ちゃんたちのことも知ってる人だってたくさんいるし、きっと楽しいイベントになるって!ね、吟子ちゃんも!」
吟子「瑠璃乃先輩に、そう言ってもらえるのは嬉しいですけど………」
ルリちゃんがそう言うが、やはり不安は消えない。すると花帆が、
花帆「ほんとに大丈夫だよー。ふたりとも、始めたての頃のあたしよりずっと練習も頑張れてるもん! むしろあたしの先輩としての威厳が……」
さやか「うーん………。今回は敦賀まで、一年生と二年生の6人で新幹線で向かうことになります。ですから、そうですね。考え方を変えて、旅行という風に考えてみませんか?」
吟子「えっ?」
花帆「あ、そうだよね! 旅行だよ旅行!みんなで! 言われて見たら、新幹線の駅に気になるとこ色々あったんだ!」
そして花帆はスマホで北陸新幹線の、金沢から敦賀までの停車駅の情報を見る。
瑠璃乃「お、小松駅。飛行機でカリフォルニアから帰ってきたのがもはや懐かしいなあ」
姫芽「福井駅……そっか、敦賀って福井県か〜」
さやか「加賀温泉は、〈ゆのくに天祥〉さんがあるところですね」
花帆「うわー懐かし〜!」
吟子「芦原温泉……温泉がついた駅がふたつもあるんですね」
こうして見方を変えてみると、次々と良い情報が目に止まり楽しみになってくる2年生と1年生。
花帆「うん、やっぱり楽しまなきゃ! 敦賀に行くまでのところでも、寄り道とか考えてみようよ!」
さやか「はい。ずっと緊張していても仕方がありませんから。みんなで楽しみましょう。ね?」
瑠璃乃「うおー、さやかちゃん頼りになるー!」
花帆「梢センパイに託されただけあるね、うん!」
さやか「なんですかその流れ、やめてくださいよ!」
少し照れるさやか。だが、1年生も丁度いい具合に緊張が解れたようだ。
吟子「……ありがとうございます、先輩方」
姫芽「おかげで、楽しめばいいんだ〜、という気持ちになれました〜。やっぱり、話しに来てよかったね〜」
吟子「うん。姫芽さんも……一緒に来てくれて、ありがとう」
吟子ちゃんがおずおずとお礼をいうと、姫芽ちゃんは笑って……、
姫芽「そりゃあアタシたち、チーム違っても、仲間だしね〜」
花帆「吟子ちゃん…………。いい友達ができて、よかったね……………」
吟子「花帆先輩、なに目線なのそれ……」
花帆の謎の目線に、ジト目を向ける吟子ちゃん。
花帆「よーし、じゃあ行きたい場所をリストアップしていこー!」
花帆・さやか・瑠璃乃・吟子・姫芽『おーー!』
するとここでさやかちゃんが気になっていたことを聞く。
さやか「…そういえば、小鈴さんは一緒ではないのですか?」
吟子「あ、小鈴さんでしたら――」
その頃、寮の外では………
淳平「うん。さやかちゃんなら大丈夫。言ってみたら、きっと徒町さんの欲しいものが手に入るよ」
綴理「うん」
小鈴「そう、でしょうか。分かりました。勇気を出します!」
すると、さやかちゃんが寮の外に出てきた。
さやか「三人とも、こんな時間にお外で何を?」
小鈴「さやか先輩!」
綴理「さや。いいところに」
淳平「グッドタイミング!」
さやか「いいところでしたら、なによりです。で、どうしたんですか? 小鈴さん」
すると、小鈴ちゃんは気持ちを落ち着けるために呼吸する。が、
小鈴「すーはーすーはー」
綴理「浅呼吸だ」
さやか「深呼吸にしては確かにペースが速いですね……」
小鈴「さ、さやか先輩!」
さやか「はい、さやか先輩です」
小鈴「徒町を…………徒町を、特訓してください!!」
綴理「特訓してください」
淳平「お願いします」
すると、慌てるさやかちゃん。
さやか「まってまってまってまって」
小鈴「そんな!綴理先輩!」
綴理「ばかな………さやに断られるなんて」
淳平「いや、「待ってくれ」って言っただけで断ってはいないけどな?」
さやか「そうですよ!! えっと、どうしてそうなったんですか? 特訓なんて、けっこうものものしいものだと思いますが……」
綴理「ものものもの……」
淳平「ものものしい、な?」
小鈴「あ、えっと、実は――」
小鈴ちゃんは、さやかちゃんに事情を説明する。
◇◆◇◆◇◆
さやか「なるほど。小鈴さんのご実家は敦賀にあるんですね」
小鈴「はい! それで家族みんなで見に来てくれるって言ってて。それ自体はもちろん嫌なんかじゃ全然ないんですけど! それで、その……」
小鈴ちゃんは今回の目標ノートを開く。
さやか「『家族に立派な姿を見せる』…………これは、今回の小鈴さんのミッションなんですね」
小鈴「はい! 家族みんな、小鈴がスクールアイドルをやってるって言っても、無理してない?とか、周りの人に迷惑かけてない?とか、小学校の時からなんにも変わってない子供扱いで! だから今回のスクールアイドルフェスタで、ちゃんとステージで頑張ってるってことを見せたいんです!」
淳平「……と、言うことなんだよ。さやかちゃん、頼めないかな?」
俺がそう言うと、さやかちゃんは考えこむ。
さやか「そうですね。……………それで、特訓ってことになったんですね」
小鈴「はい。しょせん徒町なので、ステージで完璧に成功できるとはぜんぜんまったくみじんのかけらも思っていないんですけども。それでも、やれることをやりたいんです!」
綴理「でも、さやに特訓をお願いしてもいいのかな?って。今回のまとめ役もやってるから、迷惑かな?って、すずは言ってた」
さやか「ああ、それで……わたしの負担については、気にしないでください。自分のキャパシティについては、この1年でよく勉強させていただいているつもりですから。……ただ」
小鈴「ただ?」
さやか「わたしでいいんですか? 競技者としてはそれなりに積み重ねてきたものはあるつもりですが、誰かを指導したことはありません。指導というのは、失敗できないものだと思います。小鈴さんの良さを、わたしには引き出せないかもしれませんよ?」
さやかちゃんがそう言うと、徒町さんはさやかちゃんを強い意思の籠もった目で見る。
小鈴「それでも、さやか先輩がいいんです。さやか先輩のかっこいいところとか、パフォーマンス中も余裕があるのに力強いところとか……!そういうのを勉強したくて、だからお願いします!」
さやか「そう、ですか………。少し…………いえ、一晩。一晩ください。小鈴さんのお気持ちは分かりましたから、本当にわたしでいいのか……しっかり考えます。生半可な気持ちで、引き受けるものではありませんから」
小鈴「さやか先輩………。わかりました! じゃあ、明日を心から待ってます!」
そして、小鈴ちゃんは寮に走っていった。
さやか「誰かの指導をするだなんて、考えたこともありませんでした。本当にわたしで良いんでしょうか」
淳平「徒町さんは、どうしてもさやかちゃんが良いってさ」
さやか「ですが……わたしに、小鈴さんの魅力を引き出すことができるのか、やっぱり自信がありません……」
綴理「大丈夫。さやなら、できるよ」
さやか「先輩……」
綴理「ボクとジュンも、さやのことでなにかできることがあるなら力になりたい。だから、そうだな…………考えていたことがあるんだ。次の曲に、すずの色を入れたいなって」
さやか「小鈴さんの、色…………ですか?」
綴理「そう。新しいDOLLCHESTRAの、きらめき。さや。今回の"特訓"で、すずのことをよく見てあげて? そして……さやが、作詞をするんだ。すずの色を入れた、新しいDOLLCHESTRAが始まる曲の」
さやか「!」
淳平「徒町さんが"特訓"を頑張るなら、そのきらめきが目に映るはず。俺や綴理がそこに居られないのは残念だけど……さやかちゃんがそれを知ってあげればきっと、いい歌詞になるからさ」
さやか「…………わたしが、新しいDOLLCHESTRAの作詞を。小鈴さんのきらめきも、言葉に……」
綴理「大丈夫。さやはもう、すずのきらめきを分かってる。だって、一緒の舞台に引き入れたんだから」
さやかちゃんの気持ちは固まったようだ。
さやか「……はい。そうですね。小鈴さんとならと――そう思えた気持ちを、言葉に。わかりました。ありがとうございます、綴理先輩、淳平先輩。 先輩の助言を踏まえて特訓の指導役を引き受けます」
綴理「ん」
淳平「頑張って!」
さやか「…………」
ー つづく ー
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