昨晩、綴理や淳平、そして小鈴ちゃん本人から特訓を頼まれ、先輩2人と話して引き受けることにしたさやかちゃん。
翌日の早朝、さやかちゃんは寮の外に出て自分は指導してくれる人からどんな指導を受けていたかを参考までに思い返していた。
さやか「特訓…………特訓か。わたしにパフォーマンスを教えてくれた人たちは、"特訓"って言ったらどうしてくれたかな……」
さやかちゃんが記憶を辿ると、
つかさ『こんっくらい強く蹴り出したら、足がこうなるでしょう? だからそんままくるくるーっと、いえい!ね? なるでしょ?』
綴理『えだまめ。そらまめ。ナットゥ。 ……………食べ物ばっかりじゃない?』
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さやか「ということで、誰も参考になりませんでした」
淳平「そりゃあ綴理も、聞いた話じゃつかささんも感覚派っぽいしなぁ……」
俺はさやかちゃんに監督を頼まれ、朝早くから二人の練習に顔を出していた。
小鈴「あぅ……だと、やっぱり」
昨日、さやかちゃんが決める前に寮に戻った小鈴ちゃんは、断られると思う。
が、
さやか「でも……その代わり、ふたつのことを思い出したんです」
小鈴ちゃんが顔をバッと上げてさやかちゃんを見る。
さやか「ひとつは、その参考にならない指導のおかげで、わたしはここまで導いてもらえたこと。わたしは指導者には恵まれていたんです」
小鈴「……………」
小鈴ちゃんは黙って聞いている。
さやか「そしてもうひとつは――先輩にしてもらったことは、後輩に返していくものだと言われたんですよね。わたしが、わたし自身のきらめきとはなにかを、教えてもらった時に」
小鈴「あ……それじゃあ!」
小鈴ちゃんの瞳が、期待に輝く。
さやか「はい。なので、わたしなりにで良ければ頑張りたいと思ったんです。行き届かないこともあるかもしれませんが、それでも、小鈴さんの気持ちに応えたい」
小鈴「わあ……はい!やったー!」
さやかちゃんの答えを聞いた小鈴ちゃんは、すごく喜んでいる。
淳平「良かったね。徒町さん」
小鈴「はいっ!」
さやか「あははっ、そう言って貰えると気が休まります。わたしも綴理先輩からひとつ託されました。小鈴さんの色を乗せた、新しいDOLLCHESTRAの曲……その作詞。この"特訓"を経て、小鈴さんのきらめきを皆さんに届けましょう」
小鈴「徒町の……が、がんばります!」
淳平「俺もしっかりとサポートするから」
小鈴「はいっ!よろしくお願いします!淳平先輩!さやか先輩!」
小鈴ちゃんはやる気充分。「頑張るぞ!」と、意気込む。
さやか「では……まず、問題点を洗い出しましょう。小鈴さんに足りないものは何なのか。それを見て行きたいと思います。なのでまずはこのメニューをこなしていきましょう」
そして、さやかちゃんはメニューを渡す。それを見た俺は……
淳平「!? コレ、ホントにやるの……?」
さやか「? ええ」
知らねぇぞ………。
小鈴「どんなのでも来いです! ちぇすとーーー!!!」
そして数時間後……
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花帆「お、鬼!そんなメニュー組んだの……!?」
現在部室にみんなが集まっており、さやかの組んだ鬼メニューに花帆は軽く引いている。
さやか「え、どこかおかしいところがありましたか…?」
花帆「やっぱり鬼だ!第2号だぁ…!!」
恐れ慄く花帆。しかし梢は……
梢「"特訓"と言っていたのよね? ならまあ、このくらいでいいのではないかしら」
お淑やかな外見似合わず、中身はゴリゴリの脳筋の梢はまったく意に返してない。
花帆「あたしもう二度と、"特訓"って言葉使わないようにしよう………!」
淳平「徒町、さん……? だいじょうぶ……?」
しーん………
小鈴ちゃんに話しかけても、応答が無い。
ただの屍のようだ……。
吟子「あ、あの…………これ、寝てるだけ、ですよね?」
すると、その様子を見たさやかちゃんは……
さやか「まあ、わたしもフィギュアの合宿では、休み時間はずっと寝てましたから」
花帆「あ、自分がやったことだから全然おかしいと思ってないんだな、さては」
ふむ………。
淳平「でも、もしも徒町さんが『つらい』とか、『やめたい』とか、そういうことを言ったら止めるべきなのかもしれないけど……そう言うことは言ってないんだよなあ……」
さやか「はい、泣き言ひとつ言わずに頑張っていました。それこそ、きっとフィギュアの合宿の時のわたしよりも。そもそも、特訓がしたいと言い出したのも小鈴さんですし……本当に頑張り屋さんなんです」
小鈴「ぐぅ……あと20往復…………!? ばかな、もう六文銭はすっからかん……………」
徒町さんが意識を失った状態で呻いて発した言葉にさやかちゃんと梢意外は少し引く。
吟子「三途の川で練習してる……」
すると、さやかちゃんがノートを取り出して何かを書き留める。
花帆「さやかちゃん、それは?」
さやか「小鈴さんの足りないところ――今回の"特訓"で鍛えるべきところを決めたんです。ご家族に立派な姿をみせるために必要な、目標ですね」
梢「さやかさんの目から見て、小鈴さんの足りないところというのは?」
さやか「技術面でいえば、たくさんありますね。でも、そういうことじゃないと思うんです。今の小鈴さんは一生懸命で、頑張っていて、凄く魅力的ですから。だから、小鈴さんに必要なのは……"余裕"かな?と……」
花帆「余裕って……ライブで疲れないとか?」
吟子「こうならないとか?」
吟子ちゃんが手で今の地べたに寝っ転がってグロッキーの徒町さんを指す。
さやか「いえ……正確には応援してくれる皆さんを見る余裕、です。小鈴さんは頑張ってるんですけど、自分がパフォーマンスを完遂することに手一杯なんです。意識を皆さんの方に向けられていないというか」
淳平「なるほどな。確かに大事なことだ。頑張るあまり、見えなくなっているものがある……その課題は、徒町さんにはもう伝えてるの?」
さやか「はい。応援してくれる皆さんの方を見る……皆さんに想いを伝える。それが、スクールアイドルの本当に素敵なところだと、わたしは思っています。だから、小鈴さんにもそれができるようになってほしい。とくに……今回は小鈴さんのご家族が相手ですから、なおのこと」
吟子「小鈴さんの伝えたいことって、何なんでしょう?」
さやか「深くは聞いてません。それはステージで出すものだと思いますから。でも、小鈴さんはその話をした時に言ってました」
小鈴『応援してくれる皆さんに伝えたいこと……はい! あります!』
徒町さんは、あのときたしかにそう答えていた。
さやか「伝えたいことがあるからには、それを届けさせてあげたい。わたしができることは、そのための礎を作ることだと思います」
花帆「それで、余裕を作るための」
さやか「はい、基礎からみっちり、体力作りです!」
そしてその日の朝練は終わり、昼間授業を受けて放課後の部活の時間、徒町さんとさやかちゃんは誰よりも早く練習を開始していた。
そして、部活も終わった時間なのだが……
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吟子「小鈴さん、大丈夫かな」
姫芽「けっこう待っても帰ってこなかったもんね〜。探してみる?」
吟子「さやか先輩も淳平先輩も戻ってないみたいだから、一緒にいるとは思うけど………………」
小鈴「ちぇすとーー…!!」
すると、二人の前をランニング中の徒町さんが横切った。
姫芽「あの謎の気合は……」
吟子「小鈴さん!」
小鈴「お、おおお……?吟子ちゃん、姫芽ちゃん……はあ、はあ……」
息を切らしてゼェハァ…と、肩で息をする小鈴ちゃん。
姫芽「はろはろ〜。おつかれさま〜」
吟子「放課後も誰よりも早く練習行ったのに、まだ終わってないの? その……特訓?」
小鈴「いやあ、しょせん徒町なのでぇ……はぁはぁ……」
小鈴「はぁはぁ……さやか先輩も待ってくれてますし、頑張らない、と!」
すると、吟子ちゃんが……、
吟子「ねえ。大丈夫? つらくないの?」
小鈴「へ?」
姫芽「……………吟子ちゃんは、小鈴ちゃんを心配してるみたいだよ〜?」
吟子「つ……………姫芽さんも、もう少し心配していいと思うんだけど」
姫芽「"特訓"なんでしょ〜? そりゃあ、頑張れるだけ頑張るでしょ〜。暇潰しのトレモと、目的持ったトレモじゃ意識も違うしね〜」
吟子「そうだった、姫芽さんはそっち側だった……」
小鈴「……あはは。ありがと。でも徒町はだいじょぶです。もちろん、お願いしたのが徒町からっていうのもあるけど、徒町に足りないものをどうにかしてくれようとしてるからここで全力出さなきゃどーするんだって、思ってて」
吟子「今度の敦賀のため、だよね?」
小鈴「うん。地元だから、家族が来るんだ。ちゃんとスクールアイドルやってるんだって、見せたくて」
姫芽「そっか〜。そりゃあ失敗できないね〜」
小鈴「いや、それはどうですかね」
姫芽「へ?」
小鈴ちゃんの返答に戸惑う姫芽ちゃん。
小鈴「所詮徒町なので、派手に失敗するかも」
姫芽「勝つために練習してるんじゃないの!?」
吟子「勝つって何に……でも姫芽さんの言う通り、最初から失敗するつもりじゃなくていいんじゃないの?」
小鈴「あ、ううん。もちろん、失敗するつもりでとかじゃないよ。でも、まずは全力を出すことが一番っていうか………結果はそんなに大事じゃないっていうか」
小鈴「徒町ここまで頑張ってきたよ、って示したいんだ。鞄に付くバッジは、"大失敗"でもいい。バッジが付くことが、大事。みたいな。えへへ」
吟子「………。はあ。姫芽さん、ごめん、先に帰ってて」
姫芽「ん〜?」
小鈴「吟子ちゃん?」
吟子「付き合うから、さすがに。見てないところで倒れられても、困るし……」
姫芽「吟子ちゃんは、優しいね〜」
吟子「そういうんじゃないから!」
姫芽「むふ〜。あ、もちろんアタシも行くよ〜。一年生チームで、実績解除しにいこ〜」
小鈴「わあ……ありがと! がんばるぞぉ、ちぇすと〜!!」
姫芽「ちぇすと〜」
吟子「…………ちぇ、ちぇすとお」
そして、一年生3人で、さやかと淳平の待つゴールへと駆け出した。
ー つづく ー
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