部室で2年生たちが話している頃、さやかは花帆に練習を手伝ってもらいながら1人で練習していた。
花帆「わん、つー、すりー、ふぉー!はい終わり!」
さやか「ふう……」
花帆「はいさやかちゃん!タオル!」
さやか「ありがとうございます、花帆さん」
花帆「それにしても、やっぱりさやかちゃんはすごいなあ……ダンスのキレも、あたしとはぜんぜん違う!」
さやか「ありがとうございます…でも、それには語弊があって……。私は、もともとやってたスケートの技術を応用しているだけで、スクールアイドルとしては、何も成長してないんです……」
花帆「そんなこと……さやかちゃん頑張ってるじゃん!」
さやか「それは頑張ってますよ。けど、成長しているかと言われると……」
さやかが暗い顔をする。しかし花帆は、
花帆「っ!さやかちゃんや他の人達がなんと言おうと、さやかちゃんは凄いスクールアイドルアイドルだもん!!あたしも負けずに練習だー!うおおおー!」
そして花帆は走っていってしまった。
さやか「あっ、花帆さん……。やっぱり、花帆さんは優しいですね……。でも、花帆さん、私は、夕霧先輩から、凄いスクールアイドルになれると言われたんですよ?なのに、この有り様では……不甲斐ないんです」
さやかちゃんは少し休んだ後、また練習をはじめようとすると、
綴理「さや!」
さやか「夕霧先輩……」
綴理「いま、少し話……いい?伝えたいことが…あるんだ」
さやか「話……どうぞ?」
綴理「え、えっと……」
綴理は話そうとするが言葉に詰まる。すると、
さやか「では、私の方からいいですか?夕霧先輩に、謝らなければならないことがあります」
綴理「さやが?」
さやか「せっかく目をかけてもらえたのに、何も成長できずに、不甲斐なくてすみません」
綴理「さや?きみは、何を言ってるんだ……?」
さやか「わたしが、夕霧先輩の足を引っ張ってしまって。あなたの望む理想に、私が追いつけないから。だから、あんなに、花帆さんと乙宗先輩の演技を……」
綴理「う、あ……」
さやか「私が夕霧先輩に伝えたいこと…いえ、判断してほしいことは1つです。もしも、私が相応しくないと判断したのなら、いつでも私のことを……、見限ってください!」
綴理「さ、さや……?ちょっと待って…溺れそうだ……」
さやか「ッ!夕霧先輩!お水を!」
さやかはすぐに綴理に飲み物を渡す。すると、綴理はさやかにすがりつく。
綴理「行かないで…さや。ボクは、そんな事思ってない…!」
さやか「っ……じゃあ、どうして……」
綴理「……さや。怒らないで、聞いて欲しい」
さやか「え……」
綴理「ボクは言葉が下手だ。伝えるのがうまくない。もっとボクがちゃんとしてれば、さやをこんなに悩ませたりしない」
さやか「……………」
綴理「でも、頑張るから。頑張るから、聞いて欲しい」
さやか「先、輩?」
綴理「――ボクはスクールアイドルになれない」
さやか「え?」
綴理「ボクは、スクールアイドルが好きだ。初めて見たとき、本当に感動したんだ。ずっと1人でステージに立ってたボクとは違う。ボク自身も、よく分かってないところで褒められて、すごいって言われてただけのボクとは違う。スクールアイドルは、1人じゃない。完璧じゃないかもしれないけど、みんなでがんばって。ステージに立ってるみんなでやると、地球上のどんなものより、きれいに見えるんだ。ボクの、一番好きで……一番届かない芸術」
さやか「…………」
綴理「あなたは夕霧綴理であって、スクールアイドルではない。……そう言われた。ボクはあれからどんなに踊ってみてもスクールアイドルになれてない。でも、かほも、……こずも、いつの間にか。だからごめん。ボクだ。ボクが、たりない。ボクが、よくない。さやは、きれいだよ。すごいスクールアイドルに、キミはなれる」
さやか「………………」
綴理「……えと、伝わった……かな」
すると、さやかちゃんはプルプルと震えだした。
さやか「……ません」
綴理「え……」
さやか「伝わりません。さっきから何を言ってるんですか。あなたこそしっかり聞いて下さい。わたしにとっては、あなたこそがスクールアイドルです!」
綴理「……え?」
さやか「初めてあなたのステージを見た時に、言葉なんてなんにも出なかった。こんなすごい演技があるなんて知らなかった。こんなすごい演技をする人が、スクールアイドルクラブの夕霧綴理先輩だって知った!誰が、あなた自身がなんと言おうと!わたしにとっては、あなたこそがスクールアイドルです!」
綴理「なんで……」
さやか「なんで?そんなの簡単ですよ。わたしはそもそもスクールアイドルを全然知りません!ずっとなにも成長できなくて、それこそ溺れそうで。どうすればいいのかも、なにを目指せばいいのかもわからなくて。蓮ノ空にならなにかヒントがあるかもって、ほんとに最後の希望みたいに縋りついてきたこの場所で。どうしょうもなく迷ってた時に、それを全部晴らした希望だったんです。まだ頑張れるかもって思えたのは、先輩の演技が見られたおかげです!」
そしてさやかは、真剣な表情で綴理の目を見る。
さやか「見る人に希望を与えるのがスクールアイドルなのだとしたら、わたしがこの学校に来て良かったと心から思えた理由、その人が。スクールアイドルじゃなくてなんだって言うんですか!!」
綴理「ボク、が。でも、ボクはその時も1人で」
さやか「1人じゃダメとか知りませんよそんなもの。わたしの憧れに、あんまりひどいこと言わないでください」
綴理「………」
さやか「っ……。すみません、やっぱり今のなしで」
綴理「……さや」
さやか「……なんですか?」
綴理「スクールアイドルに、なりたい。ボクは、ずっと。スクールアイドルに、なりたいんだ。キミは、ボクをスクールアイドルにしてくれるの?」
さやか「何度でも言います。あなたは、わたしにとっては最初から、一番のスクールアイドルです。でも、そうですね。どうしても1人じゃダメだって言うなら、わたしが隣に立ってますから。」
綴理「あ―――。そうだね。さやとなら―――。踊ろう、さや。今ならすごいことができそうだから!」
さやか「学校見学のライブ、受けるんですね?」
綴理「うん!」
そして数日後、蓮ノ空の学校見学の日、見学に来た中学生たちの前で、さやかちゃんと綴理は、今までのすれ違いが嘘のような息の合ったパフォーマンスで会場を湧かせた。
そしてその日の放課後、
綴理「さや。もっとこう……お麩みたいに」
さやか「えっと、もっと丸くってことですか?こうですかね?」
綴理「うーん……硬い赤巻みたいだ」
さやか「はぁ……こうですか?」
綴理「……貝?」
さやか「わかりません!!!!!」
綴理「まって、考える」
さやか「あ、いえ。わたしもいろいろ、試してみますので……」
淳平「まったく……急に出るとか言い出したと思ったら……」
花帆「でも、ライブ大成功でほんとによかったですね!」
淳平「……そうだな」
花帆「淳兄ぃ?」
淳平「今度こそ……頑張れるといいな」
花帆「……?」
梢「花帆さん、私達も頑張らないとね?」
花帆「そうですね!さやかちゃん、昨日からすっごく元気ですし!でも、お麩だから丸いってどういうこと?」
淳平「ああ、このへんだとお麩は丸いから」
さやか「こう……?」
綴理「あっ、いまお麩。」
さやか「やった!」
さやかちゃんが同じ様に回ると、
綴理「貝になった……」
さやか「判定が狭すぎる〜っ!」
綴理「でも……良い感じだ。少し、休もうか」
さやか「はい!」
綴理「ボクも少し考えを纏めよう。お麩っていうのはこう、柔らかくて丸くて、ふにゃっとしそうでしないみたいな……」
さやか「ん?あれ?お麩と貝と赤巻?」
綴理「?」
さやか「おでんが食べたいだけじゃないですか!?」
綴理「そ、そんなことは」
さやか「……ふふっ」
綴理「さや?」
さやか「いえ、ちゃんと材料は買っておきましたから。明日のお弁当はおでんにしましょう」
綴理「!ありがとう、さや!ボクも、さやに応えないと……!」
さやか「おでんでそんなにやる気がでるんですか?……上達した訳じゃないけど。でも、また頑張れそうな気がする……。あ、そうだ。その間にお水とってきますね!」
綴理「ああ…お願い。さや!」
さやか「はい?」
綴理「ボク、頑張るから。だから、なろう。一緒に……スクールアイドルに」
さやか「……はいっ!」
ー つづくー